


















2022/7/9 00:09:11
夕暮れの海に連れていってほしい。あなたと2人、波打ち際を歩きたい。少しふざけて波に足を濡らして。子どもみたいにきゃっきゃはしゃいで。あなたのシャツのすそをつかみたい。あなたのその手でふれてほしい。
夕暮れの浜であなたとたわむれたい。2人で流木を引きずって、砂にへんてこな絵を描いて笑いたい。あなたの手の平をくすぐって、『手をつないで』って合図して。潮風に髪を遊ばせたら、あなたの腕に抱いてほしい。そっと髪をなでてほしい。あなたの胸にほおを寄せたい。
“わたしのことなんか 何とも思ってないあなたに
わたしだけしか 見えなくなる魔法をかけたい“
スペルオンユー。あなたに魔法をかける。それは恋のまじない。特定の相手を自分に夢中にさせる禁断の詠唱。ルイ・ヴィトン香水13番目のピンクの刺客。2021年発売。100mlボトル税込38500円。
スペルオンユーをスプレーする。その瞬間、立ちのぼるのは可愛げなピンクの雲ではない。ちょっとくすんだ紫色の煙だ。スペルオンユーのトップは、少し切ないスパイシーなスミレの紫香が静かに広がる。その紫の香りの背後から小麦粉のような白い粉末の香りが追いかけてくる。質のいいアイリスにしかない冷たいヴィシソワーズのでんぷん香のようだ。うつむいた顔、冷めたスープ、頭から離れないあの人のこと。なぜこんなにも好きなんだろう。そしてあの人は、どうして同じくらいの熱量でわたしを思ってくれないんだろう。そんな悲しみに満ちたヴァイオレットな心模様。
3分後、紫の煙の奥から次々に花が咲き乱れてくる。まるで魔法のように。それはピンクの薔薇と白いジャスミンのブーケ。フルーティーなライチやピーチ様のファセットをもったセンティフォリア・ローズの軽やかな香りが、インドールの重さをもったグリーンなジャスミンの上に広がってくる。明るいピンクのリップ、白いドレス、きらめく光の中で輝きを増した自分の姿に驚くイメージ。華は肌の上に咲き、葉のグリーンはみずみずしい恋の予兆を感じさせる。意中の相手を惹きつけてやまないピンクと白のフローラルブーケなミドル。
そして同時に。紫の煙から白いヴェールへと変わったアイリスの香りが心を加速させてゆく。誰にも言わず一人募らせた思いは、日ごと暗い土の中のような心の奥でふくらんで、白い球根となる。それを何年も大切に寝かせて熟成させた極上のタルカムパウダーが、綿毛のような優しさで肌をなめらかになでてゆく。フルーティーローズ&インドールジャスミン。それを天使の羽根のようにふわふわと包み込む極上のベビーパウダー。すでに詠唱は終えた。気がつけば、自分を見つめる上気したまなざしが眼前にある。それはチャームの魔法に魅入られし虜の視線。
スペルオンユーの持続時間は5〜6時間ほど。紫の内省的なスパイシースミレ香から始まり、華やかなピンクの薔薇とグリーンなジャスミンのミドルに変身する。そのトップからミドルへの変化が美しい香水だ。さらに、トップで紫色だったアイリスが白いパウダリーに変化して、この高級な香料のもつ不思議な二面性をいかんなく発揮すると、ラストは安息に満ちたパウダリーなエンディングに向かう。肌と肌のふれあい。体温の共有。そして重なりあう吐息。抱擁。最初から最後まで、めくるめく夢のような変化に、心がどこまでも惹かれてゆく。
アイリスとローズ、そしてジャスミン。これらが作るアコードは決して目新しい物ではない。むしろ同じLV先発のローズデヴァンと似た構成で、二番煎じ的とも言える。ローズデヴァンがフルーティーローズの割合を高めた構成なら、スペルオンユーは、アイリス5、ローズ3、ジャスミン2といった割合で再構成したフランカーのようにも感じる。そういう意味では特別明確な顔をもった香りではない。けれど、この作品はアイリスを軸としながらローズとジャスミンの香りの宝石をキラキラと散りばめたような香水だ。このトリプルアタックな香りのそばにいたら、ちょっと抗うのは難しいだろう。あなたの意中のお相手が魔法にかかるかどうかは、実際試してみないとわからないけれど。
夕暮れの砂浜を君と歩きたい。犬のように君の回りを駆け回って バチャバチャ波に足を濡らして。やめてよ!と笑う君の手を引いて 引き波に向かって走っていったり逃げてみたり。スカートのすそを持ち上げた君は可愛くて、ぼくは君の髪にふれるだろう。その柔らかな前髪にキスしたい。
夕暮れの浜で君を抱きしめたい。君がぼくの首に腕を回して、ちょっとだけ背伸びして、ずっとそのままでいたい。 涙が出るくらい君が好きだから。
“ぼくのことなんか ちっとも好きじゃない君に
ぼくのことだけ大好きになる魔法をかけたい“
スペルオンユー。
2022/6/30 06:34:49
6/30
濃い色がメインの画像と図式レシピ追加しました
(もっとわかりやすくレシピをシェアできないかな
と試行錯誤中なのですがモノクロはちょっと目が
虫な気もするのでまたあれこれ試してみます♪)
→7/3 マジェスティックローズの濃いめレシピを
手描きのテンプレートでやってみました:)
5/29 940 ロイヤル ジャングルupしました。
☆940 Royal Jungle
綺麗なビターオレンジ×ブラウンのパレットかと
思っていたのですが上段AとBは広げるとピンク
のアンダートーンがでてきます。オレンジメイン
+ジャングル感でグリーンのアイライナーにして
みましたが、Cを上まぶたに仕込んでAを際から
アイホールBを指で ペッと中央だけ明るくしても
ピンクブラウンがこなれた感じでよかったです♪
@まず先に上まぶたに少し陰影をつけたいので、
Cを丸筆にとり、目尻側に"くの字"というよりは
"のけぞった数字の7"な感じでぼかし込む。残り
を筆先をつまんで細くしてから下まぶた際1/3。
ADを平筆にとり上まぶた中央から目尻に際から
広げて残りを下まぶた全体に。
BBを筆の反対の面で上まぶたの目頭から中央と
残りを下まぶたの中央から左右に馴染ませる。
CAを目尻側の窪みから際に、先がまぶたの1/3
(黒眼の外側に収まるくらい)に斜めにいれたら、
内から外にアイラインを跳ね上げる感じでスッ。
D最後にBを指にとり上まぶた中央の際に重ねる
アイライナー: Nars
ロングウェア 8200 ディープグリーン
5/28 530 マジェスティック ローズupしました。
☆530 Majestic Rose
画像では4色使いましたがA/B/Dどれでもメイン
でオレンジ、ピンク、ピーチ(A+D)、プラムまで
重ね次第で何通りも楽しめて色の主張はありつつ
肌に溶け込む粉質なので見た目よりも使いやすい
Cもラメというより明るい艶になります。
@Aを丸筆にとり手の甲でトンと濃さチェックを
してからOKなら目尻側の窪みからくるくると際
に下ろして、もう一度戻って目頭側の窪みまで。
ADを平筆にとり際からワイパーでアイホールに
広げて残りを下まぶた全体に。
BBを筆先に少しとり、目尻側の窪みのいちばん
外側に点でおいて際の方へトントンと馴染ませて
残りを軽く目尻から目頭まで。細い筆かチップで
Bを目尻の際に1/3くらい。
CCを筆の反対の面少しとりまぶた中央から目頭
で残りを眉下にハイライト。またCを指にとって
上まぶたの中央に重ね残りを下まぶたの中央から
左右に馴染ませたら完成です♪
☆530 Majestic Rose / 940 Royal Jungle
新宿伊勢丹とmeecoで先行発売されていた
(7/12公式オンライン先行、7/15全国発売予定)の
2022秋のコレクション、オンブル ジェ(全6種)
自然界の神秘的な色、月光やジャングル、
蝶や孔雀、蘭やバラにインスパイアされた色展開
ウィンターローズオイル配合の新フォーミュラで
質感は、マット/サテン/メタリック/多色ラメ。
新作のアイシャドウは6年ぶりだそうです。
530 マジェスティック ローズ : ピンク系
左下が多色ラメで他の3色は同じくらいの艶感
940 ロイヤル ジャングル(…?): ブラウン系
左下はしっとりした薄づきのマットで右上が多色
ラメ他2色はサテン…右下がちょっとメタリック
トムフォードのTFのエンボスが入ったwet/dry
フォーミュラのハネムーンに近い気がして似てる
2色をスウォッチで比べてみました。
R→940の右下 M→530の左上と右上
T→ハネムーン:左から3つめが右上、右端が左下
どちらもたぶんベイクド製法なので肌に吸い付く
ようなフィット感とブレンドしやすいのは同じで
トムフォードのほうが輝度が高くて、こちらは
サテン/メタリックも輝きは控えめな印象ですが
その代わりに、上手く写せなかった多色ラメには
どちらにもピンクとゴールド等のラメが詰まって
キラキラです。定番色のパレット2種でも個性を
感じる色合い+エレガントな質感。
*ケースは鏡面ゴールド、触れた途端に指紋柄に
なるタイプ。手前の底まで蓋です。
*使用期限マーク: 6ヶ月
2022/6/25 03:51:36
英国の香水ブランド、ミラーハリスのティートニックは、同ブランド内でもトップセールスを上げているお茶系香水だ。50mlボトルで17050円(税込)。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・慌ただしい日常に、さりげない優しさや癒しを求めている人
・人や自然との付き合い方に、穏やかさを大事にしている方。
・季節を問わず、ふっと力を抜いてリラックスして過ごしたいときに。
◎この香水のよさを3つあげると?
・天然香料をふんだんに使った、透明感ある優しい香り立ちであること
・複数のティーノートの組み合わせでトニックを作っているので、常に異なるお茶の香りが楽しめること。
・大女優ジェーン・バーキンから実力を見こまれ、シグネイチャー香水を依頼されたイギリス人女性調香師リン・ハリスの作品であること。
●逆に「ここはどうかな?」と感じる点は?
・しいて言えば持続性。3〜4時間ほどでドライダウンするので短めだ。淡いというほどではないが、天然香料多めの構成なので、それぞれの香料揮発が早く、香りは常に変化し続ける。日によって香り立ちも異なり、あきることがないが、最初から最後まで同じ香りでなければ、という昨今多いワンノート愛好家には不向きかも。
〇香りの展開
天然香料多めなので、つけた瞬間のトップの香りの感じ方はいくつかある。
・レモンの酸味が感じられ、明るいレモンティーの香りがするとき
・ベルガモットの爽やかな苦みが感じられ、ノーブルなアールグレイの香りがするとき
・ネロリのふんわりしたフローラルが感じられ、ハーブティーの香りがするとき。
天気、湿度、肌の乾燥具合、体温等によってもかなり異なるので、毎回香り立ちが異なって面白いトップ。
このトップのシトラスミックスは、かなり控えめなので3分もせずに消失する。その後はミドル。ミドルは自分の場合、意外にも毎回ミルクティーのような風合いになる。これは人によって異なるかもしれない。
フエギアのキロンボなどのような「甘い練乳」ではないが、ミドルでは明らかにミルクノートが感じられる。クリーミーではない。ミルクのヴェ―ル。そこに少しだけくぐもったスッキリしたティーの香りが寄り添っている雰囲気。
これがなんともいえず切なくて優しい。
とはいえ、ときにネロリのファセットかな?と思うようなゴムっぽい香りも感じられるので、まんまミルクティーではない。そこかしこに、スッキリ香ばしいマテ茶の風合いやら、甘い紅茶のコクやら、ほんのりチャイ風のスパイスやらが漂っていて、とらえどころがないイメージ。場合によっては、ジャスミンティーが出ることもある。試しに左右の手首につけてみるといい。おそらく香り立ちが左右で異なるはずだ。それくらい繊細で複雑な香気が幾重にも感じられる調香。この作品は、その時その時でいろいろなティーがふわふわと見え隠れするようになっている。
それでもミドルの香り全体の印象は、まろやかで穏やかなティーノートといった感じで、しっかりまとまっている。クリーミーなヴェールがかかった古今東西の銘茶のミックス。ちなみにちょっと湿度が高いときには、わりとスモーキー&スパイシーなティーが出やすいように思う。
ラストは早い。柔らかなヴァニラリィとスッキリした渋みを感じるティーと甘いムスクで終焉。つけて2〜3時間ほどでドライダウン。
ティートニックは、個人的にちょっと思い出のある香りだ。2019年夏、GINZA SIXの限定ポップアップストアで、店員さんといろんな香水についてお話させてもらった。ミラーハリスは前年のフエギアポップのように大混雑はしていなかったので、1つ1つ試していく自分に丁寧に応対してくださって、ゆっくり気持ちよく過ごすことができた。あのときは蒸し暑い夏だったので冷たいフローラルのカードジャルダンを購入したけれど、なぜかずっと心に残っていたのがこのティートニックだった。はい、ちゃんと買いました。
だから、ティートニックをつけるたび、BAさんのすずしげな笑顔をふと思い出す。柄にもなくブースにあった「サウンドドーム」なる謎の半透明の球体に頭を入れてはしゃいだのも、BAさんのホスピタリティの成せる業だったろう。
トニックという言葉には「明るく」や「元気にする」という意味もある。調香師リン・ハリスが育ったイングランド北部、グラスバレーが続く広大な土地を思う。吹き抜ける涼風。歴史を感じさせる瀟洒な街並。そんな中、仕事の手を休めて、ちょっとひと息入れるくつろぎのティータイム。今日は摘んだばかりのハーブを淹れて。
3時です。お茶にしましょう。
ティートニック。この香りは、またあなたを笑顔にしてくれる。
2022/5/21 18:03:13
ゲランのフレンチーラヴァンドは、クラシカルなラベンダーコロンを上質に仕上げた風合いの香水だ。発売は2021年、価格は100mlニューボトルで46200円。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・まず何と言っても、この香りのターゲットである男性。自分の身丈に合ったスーツをパリッと着こなした30代〜50代の男性におすすめ。爽やかで知的、同時に周囲へのさりげない気遣いができる男性に。
・メンズ寄りではあるものの、キリッとしたシトラス&ハーブの香りと同時に、優しさと可憐さのあるネロリも感じられる香水なので、シンプルで上質なパンツスーツ、白シャツやタイトスカートをさらりと着こなす女性にもおすすめ。
・オンオフで言えば、オン向きにも使える香り。しっかり背筋を正していたいときに。
・フランス産のラベンダーが一斉に開花する6月〜7月に合わせた旬の香りとして。また、気温が上がる時期にクール&シャープなアイコンを印象付けたいときにも。
◎この香水のよさを具体的に3つあげるとしたら?
・世界最高とされるラベンダー、フランスのプロヴァンス地方の真性ラベンダーを使用していると思われる点。真性ラベンダーは冷涼な高地で咲き、他のラベンダーがもつシャープさや青臭い雑味がなく、フローラル感あるリナノール、フルーティーな酢酸リナリルがしっかり感じられる特徴をもつ。このラベンダー香はいい。
・ジュース色がとても心惹かれるブルー。ラールエラシリーズの中にあっても、この香水の色は特別に目を引く淡いブルーで、新ボトルの洋酒ライクな造型と相まって、涼しげで美しい。
・ゲランのメンズ香では珍しいアロマティック系の香水であること。現在ゲランメンズ香の主流になっているロムイデアルシリーズよりも、ライトで包容力のあるアロマティックフゼア系の香りになっている。これなら人と香りがかぶることもあまりないだろう。
▲逆に「ここはどうかな」と感じる点
・よいラベンダーを使っているが、ミドル以降、香りがメンズ寄りになっていく点。最初はシトラスの力で爽やかに開幕するので女性にもつけられそうな期待感が増すけれど、この香水は次第にメンズ香水独特の重たさ、よく言われる通称「トニックっぽさ」が出てくる。いわゆる「いい男」が付ければかなり惹きつけられるヤバめな香りになるが、つける人によっては、男女問わず「おっさんキター」のパラメータを上げてしまう可能性も。そういう意味で、香りが付ける人を選ぶようなタイプではあると思う。
○香りの展開
フレンチーラヴァンドをつけると、まず感じられるのは、「あぁ」と声が漏れるほど美しいレモンとバーベナのシトラスミックスだ。クリーミーで明るいバーベナがかぐわしく、レモンの酸味と相まってとても心地よく感じられる黄色いトップ。このトップはとてもフレッシュで、風と太陽の光を感じるようなナチュラルな香り。
ほどなく、シャープな葉の香りをもつプチグレンと、セージの涼しげなハーブ香が顔をのぞかせてくるとミドル。同時にほんのり甘さのあるフローラルなハーブも出てくる、これがキー素材のラベンダー香だ。このラベンダーの何とまろやかなこと。天然香料をふんだんに使っており、シトラスもハーブもラベンダーも、柔らかいのに奥深い香りがする。
ただ、このミドルは徐々に重さを増していく。クリーミーなシトラスが消失すると、代わりにネロリの甘くふんわりした香りが感じられるようになる。このネロリはわりにゴムっぽいファセットが強い。もしかしたらジャスミンのインドールかもしれない。そこにベチバーの土感、草感も出てきて、後半はメンズ寄りウッディになってくる。
ラストは青空や海の青を感じさせるわずかなアンブロクスとベチバーのミックスでドライダウン。つけてから4〜5時間。シトラス以降の香り立ちは比較的穏やか、ラベンダーも樟脳っぽさが少ないフローラル系統で、紫と言うよりも淡いブルーな香りに仕上がっている。
フレンチーラヴァンドの香りに、遠いプロヴァンスのラベンダー畑を思う。
フランス、プロヴァンス地方は、世界最高のラベンダー畑があることで有名だ。どこまでも続く紫色の絨毯は、冷涼な気候と乾いた土壌がもたらす極上のヒーリングゾーン。人は昔から、心が疲れると身の回りに青や紫色を置きたくなるという。ラベンダーは、その癒し効果抜群の香りだけでなく、色によっても心に寄り添っているのだろう。
すずやかな風が吹いている。見渡す限りの紫の畑、1本1本のラベンダーが空に伸びている。それはまるで、紫の小さなエッフェル塔の群れだ。
プロヴァンスの広大な大地、何千億もの小さなエッフェル塔が、青空に向かってまっすぐ立っている。
2022/5/14 06:11:43
「フィジーっていう香水をつけるとモテるんだって。」
今も忘れない。今から40年前。俺は16才だった。何にも増して「モテ」という言葉に敏感な青いガキだった。ちまたでは「青い珊瑚礁」で大ブレイクした松田聖子さんのクルクル巻髪をした女性たちがそこら中にあふれかえり「このブリッ子が!」と野次られながらも、その実したたかに生きていた。
おう、昭和だよ。そらもう、めっちゃ濃い昭和だったよ。
髪を赤くして、ツンツンおっ立てて、野良犬パンクスのくせにちょっとチェッカーズのフミヤ君の前髪意識して垂らして、バンドやってライブハウスに出入りして、喫茶店で仲間と落ち合って悪いことばっかやって。そらもう全部「モテ」たかったからだろうよ。認めるよ。
そんなとき、女子高生の会話を聞いたんだ。「フィジーって香水つけるとモテる」って。そら気になるさ。モテたかったもん。失恋して1年グダグダ荒れてたもん。気になるさ。あの娘を振り向かせられる?そんなこと毎日考えて、勉強もしねえで窓の外ばかり見てたもん。
フィジー。名前もグッときたよ。南太平洋の諸島。青い空、どこまでも続くエメラルドグリーンの海、白い砂浜。揺れるパームツリーの木陰で、優雅に過ごすひととき…。そんなステレオタイプな「南海の楽園」ムードにみんな憧れてたから、どストライクな名前だった。ちょうど大滝詠一さんの「君は天然色」とか「カナリア諸島にて」とかが大ヒットしてて、どこか遠くの南太平洋の島とか高跳びしてさ、優雅に過ごす。そういうバカンスってのがブームだったんだよ。ハワイとかグアムとかめっちゃ人気で、日本人が海外に出かけ始めてた。そんな時期だったから。
で。フィジー買ったよ。買うさ。青くさい飢えた野良犬だから。車も金も地位も、何一つ男の武器をもっちゃいない青くさいガキなんか、そんな万能薬みたいな魔法のアイテムがあると聞いたらイチコロなんだよ。イチコロ。
初めてつけたフィジーの香り。今もはっきり覚えてる。
トップ。パーンと広がる青い草の香り、でもそこにしっとりした低い花の香りが寄り添ってた。今嗅ぐとはっきり分かる。ヒヤシンスノート。強くてしっかりしたブルーな開幕。それがシャネルN°5っぽい透明なアルデヒドで思いきり拡散される。なんていうか、アルデヒドって油絵の絵の具を溶かす「溶き油」みたいな感じ。香料どうしを上手くミックスさせて香りを拡散するような。そんな脂っぽい香りのアルデヒドの下から、ヒヤシンスともう少しグリーンなガルバナムが出てくる。アルデハイディックで、グリーンで、冷たく青いローラル。
だけど
すぐさま、香りの奥からパワフルなムスクの香りが押してくるんだな。パウダリーが7、ソーピーが3くらいの割合で。アルデハイドの効果でムスクも浮き上がってくる。なんか女性の色香を感じる複雑なトップ。派生としてはN°5系統とすぐわかる。
5分もするとアルデハイドは消えて、わずかなグリーンの影から花々が咲き乱れてくる。ヒヤシンス、イランイラン、ジャスミン、そしてほんのりローズ。ジャスミンとイランイランの妖艶さが強く出てくる印象。下からはパウダリーでほんのり蜜の香りも漂ってきて、もう昭和用語で言ったらこの一言に尽きる。
色気ムンムン! ←死語な
このグリーンフローラル&エキゾティックなミドルが3時間ほど続く。意外にスッキリ消えていくのはクラシカルなオードトワレの特徴。トップからガツンとフローラルをアピールするけど、ラストは意外に清潔感あるパウダリー&クリーミーなムスクで終息。
久しぶり。ほんと久しぶりにフィジーをつけたら、40年前の自分が蘇ってしまって、やたら堕ちた。あの頃の空気感、日本という国がどんどん経済成長して、日々ビルが建ち並び、人と街が流行を追いかけて活気づいていた頃を思い出した。そして
結論。フィジーをつけても自分はモテなかったな。がっかりだよ。(←女性用香水だぞ)
コンテンツの少ない時代に生まれた。テレビで情報が伝わると、一夜にして大流行し、みんなが真似する昭和に育った。みんな同じ歌を口ずさみ、髪型も同じ、そして「この香水が人気!」と聞けば、みんながそれに飛びついた。フィジーはそんな昭和に爆発的に売れた香水。誕生は1966年。奇しくも自分と同い年だ。そして今なお世界中で愛されている香り。50mlで3500円ほど。安いよね。でも昔はこれが当たり前だった。クラシカルだけど、とてもバランスがよくて、気分をあげてくれる香り。これをつけて、いつか南海の楽園とやらに行ってみたいと、憧れを募らせた思い出の香り。
「フィジーをつけるとモテるんだって。」
あの声、今も覚えてる。そりゃもう、見事に昭和だったよ。
お運びいただきましてありがとうございます。いつまでも女性でいたい!外見も内面も...お若い方から先輩の皆様、もちろん、同世代の方々のクチコミ、ご意見を… 続きをみる