


















2021/7/31 00:08:12
この香水を夜につけるのはちょっと危険だ。特に夏の夜は。この香りに包まれていると、ミドルあたりで急に切なくなってしまうことがある。とても人恋しくなったり、突然自暴自棄になったり、誰かに甘えたくなったりするかもしれない。そんな闇に引きこむような香り、それがラプティットローブノワール・ブラックパーフェクトだ。
逆さハートの漆黒ボトル。これまでの可愛らしい黒ドレスのイラストが描かれたラプティシリーズとは明らかに異なるシック&ミステリアスな外観。ゲランは、シャネルのチャンスやココマド人気に対抗しようとアクアアレゴリアやラプティシリーズをリリースしてきた経緯がある。つまりこれは明らかに「対ココノワール作品」という位置づけなのだろう。←それな
そんな分かりやすさが定評の5代目調香師、ティエリー・ワッサーによって2017年にリリースされたブラックパーフェクトとはどんな香りなのか?
漆黒の逆さハートキャップを取ってスプレーする。スプレーした瞬間、ふんわりあたりに広がるのは、透明感あふれる軽やかなレザーの香りだ。スモーキーさはほぼ感じられない。上質の馬革レザーのように光沢のある革香が感じられる。
すぐにその下から、チェリーのフルーティーさ、キュンと鼻にくる甘さと苦さが出てきて、ラプティシリーズであることを感じさせる。ピンクのラプティに比べるといくぶん控えめなチェリーで、親和性の高いアーモンドの透明感ある強い苦みと共に、やや接着剤っぽいツンとくる感じがしてくる。ここまで1分。
さらにその下からアニスのスッと抜ける清涼感、リコリスの甘さ、ブラックティーのロースティーな茶葉のコクが一気に出てくる。これはすごいブレンド。アニス以外、全部黒い。まさにオールモストブラックなトップ。ここまで5分。
5分後、リコリスの咳止めシロップみたいな黒い甘苦さがまろやかになるあたりで、かなりロリータレンピカEDPに似ている時間帯がある。だがアニス&リコリスがかなり強く残るロリータに比べて、ブラックパーフェクトは比較的早くリコリスは消失する。むしろずっと残っているのはギリギリとしたビターなアーモンドの香りだ。ほんとワッサー、アーモンドの苦味好きだなと思う。このリコリスが消えるあたりから、酸味と清涼感を伴ったローズ香が次第に顔を出し始めるとミドル。
このミドルはチェリーの酸味とアーモンドの苦味、そこにいくつかのローズオイルの芳香が絶妙に主張しあって、サワーローズとも言うべき香りになってくる。それはブラックローズに近い赤薔薇の香り、そしてパチュリのミックスに変化していく。美しくミステリアス。レザーとビターが香るトップからは一変し、暗闇に咲く大輪の薔薇のごとく、華やかに妖しく芳香をまき散らす。そうか。この赤薔薇を引き立たせるために全ての背景を「黒」にしたのか。そう思うほど、チェリー&ローズの香りが他の黒い香料によって引き立てられている。さながら颯爽とバイクでパーティー会場に現れた女性が、ジッパーを下ろして黒革のジャンプスーツを脱ぎ去ると、その下から真紅のイブニングドレスが現れたかのようなイメージ。黒闇に赤。そのコントラストの美しさ。
このミドルは3時間ほど続いて、やがてフェイドアウト。暗めのムスクとアーシーなパチュリの苦味を伴って、黒い背景のまま消えてゆく。全体で5〜6時間。夜遊びはここまで。その残り香につられて、あまたの男たちが暗がりの中を探すけれど、もうヒロインの姿はどこにも見当たらないラストシーン。
価格は今どきうれしい30mlで7600円。この値段で一流調香師の手による「夜遊び香水」が買えるのだから、是非一度このチェリー&ローズ香、試してみるといい。
ブラックパーフェクトは、確かに夜に似合う香りだ。ただ、この黒い香りを夜に感じていると、不意に遠くの街の灯りの向こうへ行きたいと思うことがある。まさにYOASOBIの「夜に駆ける」のように。16のカッティングが軽快なこの曲は、メロディアスかつポップに心を「夜の彷徨」へといざなう。
それでも
この曲には、原作となった小説「タナトスの誘惑」の情景、死のタナトスに心奪われた2人の最後の旅を思わせる暗い儚さが影を潜めている。だから甘美な既死念慮に落ちてはいけない。むしろ自分は、スピッツの「夜を駆ける」に描かれた無常観のようなものが心にシンクロしてくる。ブラックパーフェクトの香りは、真夜中に無人の市街地で落ちあう2人の、寂莫とした夜遊びの情景が重なってきて切なくなる。
「研がない強がり 嘘で塗り固めた部屋 抜け出して見上げた夜空
よじれた金網を いつものように飛び越えて 硬い歩道を駆けてゆく」
ブラックパーフェクト 漆黒の夜を駆けて 君のもとへ
2021/8/7 12:48:30
自分は100%正しい。間違っているのは相手だ。だから攻撃していい。どこまでも論破してやる。奴は駆逐されて当然だ。
こういう考え方の人が苦手だ。振りかざした正義は、悪と同等かそれ以上に手が悪い。だが残念ながらこの世界には、そんな正義厨がごまんとあふれている。自粛警察どころじゃない。自粛軍隊なみに。
セルジュ・ルタンスの香水をつけていると、ついそんなことを考えてしまう。複雑な香りの向こうで、ルタンスが何を考えてこの香りを創ったのか、どんな皮肉を込めて闇の中で笑っているのかと、裏ばかり読もうとしてしまう。だから光と透明感あふれるコレクション・ポリテスが出た時は本当に驚いた。
え?ルタンスが透明ボトル?爽やかな香り!?なにそれ!絶対何か裏メッセージがあるに違いない!彼がそんな普通なことをするはずがないんだ!うわー!!!!←シンジ君!
中でもいったん闇に葬られた明るく爽やかな香り、フルールドシトロニエ様が、ここぞとばかりに光の下へご帰還あそばされたことについては、本当に面食らった。「レモンの木の花」。この香水はその名のごとく、明るく爽やかでフレッシュな香りがする。ルタンスの異世界ダークロマネスクのイメージとはほぼ真逆といっていいくらいに。
透明で波模様が美しいボトルからフルールドシトロニエをプッシュする。つけた瞬間、レモンとネロリの香りが同時に広がる。ほんのり甘くてさっぱりしたレモンフローラル香といった感じ。酸味があまりなく豊かに広がるレモンの香りに、ふんわり甘いオレンジフラワーの香りが寄り添っている。思わず口中に唾液があふれそうになる。知らずにつけたら絶対にルタンスの香水とは思わないほど、シャイニーかつフレッシュネス。
つけて3分すると、その下からスッキリグリーンな香りがほんのり出てくる。オレンジの葉の香り、プチグレンのよう。甘酸っぱいレモンパイの隣にアイスミントグリーンティーを添えたよう。ミントの清涼感はないけれど、次第に葉のグリーンとうす茶色いウッディが感じられるようになる。
このミックスのまま香りは落ち着いてミドルとなる。ソプラノは黄色いレモン、アルトが白いネロリ、テノールはシャープなグリーン、バリトンはうす茶色のウッディ。それぞれの音域を生かした美しいカルテットを聞く。
後半は、ホワイトムスクのアイロンを熱したようなソーピーなタッチが出てくるようになり、付けて3〜4時間ほどでドライダウン。全体的にルタンスの香水にしてはスパイスのスの字もなく、明るくライトなオーデコロン系の香りと言っていいように思う。はいはい、いつもダークでデンジャラスな香りばかりじゃないんですよ、やろうと思えばこんな普通のクリーンな香りだって創れるんですよと言いたげなほど。
あ。そういうことか。
コレクション・ポリテス。この「ポリテス」という仏語は、直訳すると「礼儀」「礼儀正しさ」という意味で、「礼儀のコレクション?なんだそれ」とずっと思っていたけど、何となく察した。この言葉にはやはり裏の意味がある。それは
「行儀よく。同じことをする。お返しをする。」という皮肉めいたニュアンスだ。
「ルタンス暗い香りばかりだって?はいはい。お行儀のいい明るい香水だって作れますよ。他と同じようなフツーのやつね。はいどーぞつまんないけど(冷笑)」という彼なりの仕返しだ。
そう呟いて真っ暗な部屋でニヤニヤ笑っている闇の信奉者の青白い顔が思い浮かんで仕方ない。そうだ。そうに決まってる!うわー!!!!。←シンジ!!
彼が纏う心の闇は、これまでのノワールコレクションや他のコレクションで、もう十分に表現されている。だが世界は光と闇の両方で成り立っている。明と暗、美しさと醜さ、正義と悪。ルタンスはあえて光輝くフレグランスを創ることで、自身の闇をもう一段階引き立たせようとしたのではないか。
世界はまばゆい光にあふれてる。わずかな闇(悪)があるから光(正義)が一層ひき立つという言葉もある。ただルタンスの哲学はきっと真逆だ。
世界はもともと闇だ。わずかな光こそが闇を一層引き立たたせるのだと。そんなアンチテーゼを感じる。
確かにまぶし過ぎて影のない場所は辛いな。逃げ場がない。世間はいつもサーチライトを照らして「仮想敵」を探し続けてる。シトロニエのレモン香を感じながら思う。
「光」の対義語は確かに「闇」だろう。ただ「正義」の反対語は「悪」じゃない。「正義」の反対にあるのは「別の人の正義」だ。だから世界中、戦争と争いがなくならないんだろう。
レモンの木を見上げる。緑の葉と果実の黄色が、青空の前で揺れている。
「きれいだね」「いい香りだね」
世界中の人がそう笑いあえたらいい。
2021/8/15 07:19:19
「〇〇中毒」という言葉を聞くと、真っ先に何を思い浮かべるだろう?食中毒、アルコール中毒、ニコチン中毒。さまざまある。毒物の摂取のみならず、広範囲に捉えるなら「〇〇依存症」という意味もあり、ネット依存や恋愛依存といったことも含まれてくるだろう。キリアンのイントキシケイテッドという香水は、そうしたニュアンスをもつ「中毒性」と名付けられた作品だ。
イントキシケイテッドと言えば、香水中毒の方々には、「コーヒーノートの香り」として認識されていることが多いと思う。ブランドのイメージ説明にも「コーヒーの香りは五官を魅了する」「コーヒーは覚醒効果と中毒性を持ちながら、眠りへと誘う」など、コーヒーノートを主語にした表記が目立つ。ここで語られている魅惑的なコーヒーとは、トルココーヒーのことだ。
トルココーヒーは最も古いコーヒーの淹れ方の1つで、ユネスコの世界無形文化遺産にも登録されているほど有名だ。深擦りにしたコーヒーの微細粉末を水や砂糖と一緒に小さなひしゃく型の手鍋に入れて煮出し、泡と上澄みだけを飲む。こうすることで、コーヒー本来の旨みが泡に凝縮され、豊かな味わいが感じられるという。
イントキシケイテッドは、このトルココーヒーから着想を得て創られた香水だ。では、どんな香りなのか?
キリアンの黒ボトルからプッシュすると、まず鼻を通り抜けるのは、スッキリしたレモン様のスパイシーな香りだ。一発でカルダモンと分かる。その5秒後、かぐわしいコーヒーのロースティーな香りが追いかけてくる。ぐいぐい出てきて黒く焦げた香りが広がってくる。これはカルダモン増し増しのカルダモンコーヒーの香りだ。
カルダモンの香りは、スッキリしていて鼻に抜けていく清涼感ある辛みが特徴で、ここではややグリーンな爽快感がある。同時にハンバーグを作る際に入れるナツメグの独特な香味もミックスされている。これがコーヒーの焦がし風味を上から抑えるほど強く出ていて、とても清冽なスパイシーさを奏でている。割合で言うなら、カルダモン&ナツメグ:コーヒー=7:3くらい。イントキシケイテッドのトップ5分は、カルダモンなどのスパイシーノートがとても強めだ。
やがてカルダモンが和らいでくると香りはミドルになる。クールなスパイス感に、ふんわりカラメリゼした砂糖の甘さが出てくるようになる。その下でじんわりとブラックコーヒーの低音が響いているといった風合い。このミドル以降は、ときに柔らかいフローラル、ビターチョコ風のカカオノート、鼻にキュンとくるドライなシナモンの香りなども感じられることがある。これはさながらスパイスチャイの香りだ。ミルクティーの代わりにコーヒーとカラメルを使ったような。
ミドルはかなりしっかり作りこまれたアコードとなっていて、これ以降はずっと香りが変わらない。クールなスパイス&カラメルな香りが続き、低音でコーヒーベース。そのまま減衰していく。ラストにほんのわずかヴァニラっぽいクリーミーマイルドを残しつつドライダウン。全体で7〜9時間ほど続く。人によってはそれ以上ほんのり香り続ける。
全体の印象としては「清涼感のあるスパイシーな黒い香り」という感じで、コーヒーノートを期待し過ぎると、やや肩透かしを食うところもあるかもしれない。クラフトコーラにコーヒーを混ぜたような香り、というのも近いように思う。同じキリアンのブラックファントムやストレイトトゥヘヴンあたりがお好きな方、トムフォードの暗めの香りが好きな方は試してみるといいと思う。調香師はすでに大御所となったカリス・ベッカー女史。彼女独特の「怜悧なロマンティシズム」とも言うべき感性が、冷たいスパイシーアコードと温かいコーヒーノートの対比に現れているようだ。50mlで37950円。←香水中毒者には普通?
現代の人は、心のどこかに「依存」を抱えている人が増えているという。何かに熱中するヲタ気質もまた「〇〇中毒」や依存の裾野なのかも知れない。自分もかつてはニコチン中毒だったし、カフェイン中毒だった。気温が下がってくる季節には、今も美味しいコーヒーや紅茶が無性に恋しくなる。
トルココーヒーの淹れ方を動画で楽しむ。便利な時代になった。毎日YouTube漬けになってる方が多いのも分かる。銅のひしゃくにコーヒーの粉末と同量の砂糖を入れて、熱した砂の中にいれると、あっという間に泡を吹いて沸騰してくる。その瞬間にひしゃくを砂から取り出してデミタスカップに泡をすくいとる。それを何度か繰り返してたっぷりのコーヒー泡を作り、粉ごとコーヒーを注ぐ。粉を飲まないよう、ゆっくりじっくり泡と上澄みを味わう。それがトルココーヒーの楽しみ方だ。
う。トルココーヒー飲みたい。←中毒
2021/8/21 09:38:52
ムワリと暑い夜、どうにも眠れない乾きがあって、キレのあるクールな飲み物が欲しくなった。作ったのはモヒート。グラスに氷を入れ、バカルディモヒートを注ぎ、ソーダで割ったイージースタイル。すりつぶすミントの葉もライムもなかったので、モヒート用フレーバーシロップで香りを増し増しして一口すすった。
あー、うまい。
スーッと鼻から抜けていくミントの爽快感。ライムの爽やかな苦み。そしてホワイトラムの冷たい甘さが身体の奥まで沁みわたった。
モヒートといえば、ゲランオムだな。そう思って引っ張り出してきて、左腕にゲランオムをつけた。2008年、ゲラン5代目調香師ティエリー・ワッサーが、メゾン専属となって初めてクリエイトしたメンズ香水。当時、モヒートの香りをフィーチャーしたことが話題となって世界中で売れた香り。
ただ
爽快感あるクールなモヒートの味に比べると、腕につけたゲランオムはどこかうわついて感じられた。そうだった。ゲランオムは、ミントのクールさがあまり感じられず、どちらかというとホワイトラムの穀物感とホワイトムスクの熱が強い香りだったと思い出した。
もっとクールな感じがないとモヒートに合わないな。そう思ってチョイスしたのは、ロムイデアルクール。ゲランいわく「理想のチャーミングな男性」をイメージした香り。(←は?)2019年にリリースされたロムイデアルシリーズ6番目の香水。このシリーズは毎回「理想の〇〇な男性」という冠をつけて押してくるのが注目ポイントで、シリーズを通して感じられるのは、ハートノートにアーモンドのビターな香りをもってくる点だ。
ではどんな香りかというと。
ロムイデアルクールをプッシュする。いつ見てもミンティグリーンのジュース色がいい。ただ水色ジュースの香水は香り評価が今ひとつなので色でカバーしている作品が多いことは心の中に留めておく。(←言ってる)
吹きつけた瞬間、広がるのはシトラスとハーブのアロマティックな香り。ベルガモットの爽やかさ、オレンジの甘さ。そこにほんのりミント香とグリーンティーライクなハーブが混じっているトップ。
シトラスは配合量が少なく、つけて1分ほどで消失。次第に下からギリリと苦みばしったアーモンドノートが出てきたら香りはミドル。
ミドルになると、スーッと鼻の奥に抜けていく透明感あるアニスの香りが強く感じられるようになる。ミントよりアニスのクールさだ。そしてビターアーモンドの引きこまれるような強い苦み。オリジナルのロムイデアルEDTのアーモンド香は本当に強くて、どこか病院で使われる薬品の匂いっぽく感じるところもあるが、オリジナルに比べるとアーモンドノートは抑えめ。代わりにティーっぽいスッキリしたウォータリーな香りが出ている。このウォータリーな香りとアーモンドノートに、ほのかなオレンジフラワーのふくよかさが混じるミドル。
ミドルが30分ほど続くと、下からパチュリの黒い土っぽさ、ベチバーの干し草な香りが静かに出てくる。全体的なバランスは、アニス&アーモンドの清涼感と苦みが強め、次にティー系ウォータリーのみずみずしさとウッディ系のスパイシー感が同じくらいで出ている感じ。このバランスのまま5〜6時間ほど続いてドライダウン。
全体的に見ると、モヒートを思わせるゲランオムよりもクールで、アーモンドノートの苦味が楽しめるキレのある香り。シリーズで見るとこの6作目の特徴は、ミントとアニスの清涼感をトップに配置しつつ、ミドルでアーモンドノートにウォータリーをプラスした点が挙げられる。オリジナルEDTに清涼感と清冽さをもたせてデイタイムに使いやすくした作品といった風合いに仕上がっている。
モヒートを飲みながらロムイデアルクールの香りを楽しんでいると、2杯目はアマレットを使ったカクテルを飲みたくなった。アマレットは杏仁を使った甘くて苦いリキュール。ロムイデアルじたいがアマレットを思わせるトンカビーンのクマリンを強く持っているせいだろう。一番口当たりがよくて美味しいのは、アマレットをオレンジジュースで割ったイタリアンスクリュードライバーだが、ロムイデアルクールの香りに寄せたくて、アマレットベースでミントジュレップを作ってみた。
グラスにクラッシュアイス。ミントの葉の代わりに少量のミントリキュール。杏仁味のアマレットを注いでソーダで割る。あっという間にアマレットミントジュレップの完成。ひとくちすする。
あー、うま!
心と体が乾いて眠れない夜。クールなミントのカクテル。冷たいアーモンドの香り。お。少しフラつく。いい気分だ。
酔いどれ野良犬、一丁あがり。理想のチャーミングな男性には、どうやら1万光年ほど遠いらしい。
2021/8/28 12:06:14
「これ何の香りか知ってる?」
「ん?どれ?」
娘が左腕を出す。綿あめライクな甘さ。鼻に抜けていく清涼感。ホワイトフローラルだな。そこにパチュリの苦み。そこまではわかった。フェミニンだけどどこかマニッシュ。んー、わからん。どこかで嗅いだ系ではあるものの、全然わからん。
そこで推理した。
大学生の娘が香水をつけて喜んでいる。彼女の交友範囲、行動範囲を考えれば、2万も3万もするニッチ系ではないだろう。となるとおそらくデパコス。しかもカウンターに商品を出している比較的新しめの作品なはず。だとすれば…。
「わかった。ジバンシィのランテルディの新しいやつだろ?」
「ぶっぶー。正解はこれでした!」
そう言って水戸黄門の印籠のようにドヤ顔で俺の眼前に突きつけたのは、
「あー、サンローランのリブレかー。確かそれトップにラベンダー使ってたな。ゲランのモンゲランに対抗して。」
「さあ、それはわかんないけどラベンダーは入ってる。でもこれリブレの新しいやつ。最近出たオードトワレだよ。ほら。」
よく見ると確かにジュース色がオードパルファム(EDP)版と比べてピンク系統だ。おー、YSLもリブレのシリーズ展開はじめたか。
「このEDTはね、ミドルでホワイトティーの香り使ってるんだって。だからEDPとは香りが少し違うんだよ。」
ほうほう。言うようになったな。ついこの間まで500円のボディファンタジーつけて遊んでたJKだったのに。そんな感慨に浸ったのは約1秒、気が付くと娘から奪い、左腕にリブレの新作EDTをプッシュして鼻を近づけていた。同時に基本情報をスマホで洗い出す。自分がふだんあまり使わないタイプの香水だけに興味津々。
リブレEDT。2021年7月リリース。調香師はアン・フリポとカルロス・べナイム。香料イメージ構成は次のとおり。
トップ:ラベンダー タンジェリン ベルガモット
ミドル:オレンジブロッサム ジャスミンアブソリュ ホワイトティ
べース:ムスク ヴァニラ アンバーグリス
なるほど。確かに「ラベンダー&ヴァニラ」コンボのモンゲランに対抗した感はある。もう一度腕にプッシュして香りの変化を確認する。
トップ。つけた瞬間、フルーティーでみずみずしい香りが一瞬だけ流れる。これは洋ナシだ。クレジットにはないけれど、アン・フリポの大ヒット作、ランコムのラヴィエベル、ジバンシィのランテルディのトップで使われているお得意のスイートな開幕。
10秒後、水っぽいミカン香タンジェリンと清涼感のあるクールなアロマティックがスーッと鼻を刺激してくる。あー確かにこれラベンダーだと感じる瞬間。ラベンダー香料は多いが、ここで使用されているのはフレンチラベンダー系のフローラルタイプのよう。とがったところなく、スッキリ鼻の奥に抜けていく柔らかなラベンダーだ。このトップのラベンダーを用いたアコードがとてもいい。
つけて5分ほどするとラベンダーとシトラスは落ち着き、香りはミドルになる。ミドルはやや甘さの強いオレンジフラワーとほんのりジャスミンといった風合い。そこに下からグイグイとドライで透明感ある苦みが出てくる。これがホワイトティの香りだろう。ジュニパーベリーのようにも感じられるスッキリドライな香りが各香料の揮発を押し上げてくるイメージ。このティー&白い花のミドルがゆっくり続く。甘くフェミニン、それでもスッキリ乾いた香りが3〜4時間ほど続く。
ラストはわずかにクリーミーな香りを呈したホワイトムスクと、影となって寄り添うパチュリのスパイシーな苦みが感じられたままドライダウン。人によるが全体で5〜7時間ほど持続する。そうか。こういう香りが好きなんだ…。チラリと娘の横顔を見る。
リブレEDTの香りを漂わせながら、娘は鼻歌交じりでネイルを作り始めている。いつの間にかそんな歳になったんだなと今度は2秒ほど感慨に浸る。でもよかった。今度は娘からもどんどん香水を調達できそうだ。←お前は
考えてみれば
成人式も中止になった。友達ともなかなか会えない。そんな中、家で香水を楽しみ、ド派手なネイルを作って遊んでいる娘。そんな姿を見ていたら、何となく顔がほころんだ。
そうだ。人生はできる範囲で楽しむべきだ。リブレ。自由に。リブレのボトルに施された横向きのYSLが、まるで金色の水引のように見えて、全ての女性の未来を祝福しているかのように思えた。
なかなかいいセレクトじゃないか。そう声をかけようとしたとき、娘がネイルをしながら言った。
「JO1っていう若いイケメングループがあってね、リブレの宣伝してるんだよ!」
は?
それか!!!!
お運びいただきましてありがとうございます。いつまでも女性でいたい!外見も内面も...お若い方から先輩の皆様、もちろん、同世代の方々のクチコミ、ご意見を… 続きをみる