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[香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)・ボディローション・ミルク]
容量・税込価格:60g・625円発売日:- (2012/3/12追加発売)
2015/10/18 16:09:02
高校の長い廊下。奥の消失点に向かって、吸い込まれていくような壁や床の遠近。その緩やかなパースに従い、整然と並んでいる窓。斜めに切りこむ黄金色の日差し。濡れたようなリノリウムの床。意味もないさざめき。突然の笑い声。中空に吐き出される小さな吐息と毒。
アックス・ボディスプレーのエッセンスの香りにふれるたび、そんな高校時代のステレオタイプな情景がいくつかフラッシュバックする。若くて青くて、まだ何者でもなかった時代。そのくせ精一杯背伸びして強がって、大人たちに内面で反発しながらも、世界に向けて少しずつ作り笑いやポーズも身に付け、妥協することも必要だと気付き始めた頃。このエッセンスという香りは、そんな人たちに似合う香りだと思う。荒々しくて、けれどそれ以上に繊細な世代に。
アックスのボディスプレーは、2007年に、”The AXE Effect(アックスエフェクト)=AXEを使った男性に女性が惹きつけられる”という大胆なメッセージと共に、日本ユニリーバから発売された。缶ボトルからLPガスで噴射するタイプで、60gの物が500円程度と安価なこと、また、全国どこのスーパーやコンビニでも買えるマーケティングの広さなどから、ライトユーザー層や幅広い年齢層に人気がある。フランスでは、1983年から若い世代をターゲットに発売されており、海外展開も100ケ国を数えるというが、ヨーロッパ圏では20代以上にはあまり「香水」とは認知されていないようだ。
実際の香りはというと、合成香料をいくつか組み合わせたとてもシンプルなものだが、そのバランスは日本のライトフレグランスにはそれまでなかった発想で、興味深い。
トップ。ピーチっぽいラクトン様の香りが鼻をかすめたかと思うと、ややウォータリーなテイストを感じさせる甘いフルーツ香が広がる。どこかでかいだ香りだが、酸味がないしっとりした甘さだけが特徴なので、思い当たるフルーツが見当たらない。もちろん合成香料なので、ピーチとアップルのミックスかなとずっと思っていたが、つい最近やっと思い当たった。このフルーツ香は、アメリカなどでよくバブルガムの味付けに使われるようなウォーターメロンの香りに似ている。それは日本のスイカよりも甘ったるく、けれど、ウォータリーな透明感とほんのりとした苦みを感じさせる瓜系の香り。アックス・ボディスプレーのエッセンスは、この香りをメインにしている。
やがて、5分とせずに、ピーチっぽいふくよかさは消えて、ウォーターメロンの香りに、ややおとなしめのフローラルが混じってくる。それはローズの香りを淡く表現したフローラルノートのよう。同時に、上の方で強くスパイス香がしてくる。それはペッパー系の香りでありながら、よく香水で使われる天然のペッパーとは雰囲気が異なって、かなり鼻がムズムズするような感じだ。
正直、この鼻がムズムズするようなテイストが好きかどうかという分かれ目はあるだろうと思う。スパイスの香りはとても複雑な香気のミックスで、それゆえ鼻腔の奥に深い印象を残すものが多い。だが、このエッセンスで使われているスパイシーノートは、すぐ鼻の粘膜にツンとくるタイプの香料だからだ。安い人工香料だからと言われればそれまでだが、要は値段ではない。音楽で言えば、出力の問題だ。なかなかいいフルーティー・フローラルのメロディーを左右のスピーカーで広範囲に拡散しておきながら、どちらのスピーカーも音割れしてビビリ音を出していて騒がしい。そんな印象。
そこにのっぺりとしたクリーミーなベールがかかる。パウダリーなムスクと言うほど明確なムスクではない。ただミルキーな感じの香料がペッパーやウォーターメロンの香りの境界をあいまいにしたまま、変化もなく減衰していく。
全体に、「コショウがけウォーターメロン、クリームのせ」といった様相。どこがパウダリーフローラルかよくわからない。セクシーと言われればセクシーなのかな。もっとセクシーな香水は山ほどあるとは思う。
それでも、数あるライト・フレグランスや柔軟剤系ファブリック・ミストの中で見ると、このエッセンスの香りは好きな部類だ。値段が安くてもおもしろい香りはまだまだ作れる、というよいお手本の1つだと思う。
放課後を告げるくぐもったチャイムの音。急にはしゃいだ声が響いたかと思うと、しんとする長い廊下。斜めに長い西日の中、部活の準備が始まる音。たてつけの悪い部室のドア。湿った汗と土の匂いと、少し獣っぽい匂いが鼻をつく。ドサリとリュックを下ろすと、その中でアックスの缶が硬い金属音を鳴らした。誰かがバタンとスチールロッカーを閉める音。そして、シューズのひもを締め、もう一度夕暮れの中に出ていく。
若く、青く、ちょっと息苦しい仲間たちのいる場所へ。
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2015/9/22 22:05:47
空が高くなり、きれぎれの雲が澄んだ空気を運んでくると、ああ、秋だなあと心が涼やかになる。そして同時に思うのだ。やっぱり夏は終わってしまったんだな。あの、激しくて狂おしい季節は、もうどこか遠くへ行ってしまったんだな。
テ・プー・アン・エテ(ひと夏の紅茶)は、そんな夏の終わりの、ちっぽけな感傷をそっと慰めてくれるような柔らかな香りだ。
この香りの最もすばらしい点は、郷愁をそそるネーミングにあると思っている。「ひと夏の紅茶」という和訳もすばらしい。秘密めいたひと夏の思い出と、その美しさや悲哀、切なさが感じられるいい名前だと思う。ただ、そのネーミングに十分惹かれていながら、あえてこの香りは「紅茶ではない」と言いたい。このフレグランスのメインとなっている香料は、どう考えても緑茶だ。だから、本来は、「ひと夏のお茶(緑茶)」が適当だろう。けれど、けれど、それでは、新発売のペットボトル飲料の名前になってしまう。だから、やむを得ず「紅茶」としたのだろうが、実際の香りは紅茶のスモーキーなテイストとはほど遠い。そうした点もふまえると、本当の名前は「ひと夏のアイスティー」といったところだろう。(←もういいから)
そんないわくありげな(←どこが)テ・プー・アン・エテの香りの印象はというと。
つけたて。やや丸みのあるレモンの香り。背後にグリーンティー風のちょい渋い味が出ていてハーバル。すぐにベルガモットのコクのある酸味も来る。全体にスッキリとした出だし。その後、グリーンティーが渋味を増してきたかと思うと、鼻にすっと抜ける感じがしてややミンティなテイストになる。香りをつけた手首もこころもちヒンヤリ。レモン・ティーと、アール・グレイと、ミンティなグリーン・ティーの3つの雰囲気をふわりふわりとちらつかせる印象。ここまで10分。
ミドル。徐々に、優しげなジャスミンの香りが広がってくる。それをグリーン・ティーの渋味とミントのスッキリ感が下支えしている印象。ここでジャスミン・ティーに変わったか、と一瞬思うけれど、何となく違う。どちらかというと、アイス・グリーンティーを飲んでいるテラスの横で、ジャスミンの小さな花々が風にそよいでいるようなイメージ。ただ、白いジャスミンの花の香りに、もう一つ、色が混じってくる。それは、オスマンサス(金木犀)のオレンジ色。ミドルは、ジャスミン&オスマンサスが出てきて、次第にオスマンサス独特の、甘くフルーティーなテイストが少しずつ強く主張してくるような。
ラストはやや渋め。グリーンティーのスッキリした渋味がベースかと思っていたら、下から、「実はムスクでした」みたいな意外なエンディング。さっきまで、いろんなお茶とフローラルだったのに、急に石鹸テイストが混じってきて、「飲み物だと思っていたのに違ったんだね」と思わざるを得ないような。ここが気になる人は気になるかも。オスマンサスとムスクが入り交じっていくミドルからラストは、さらに「紅茶」というイメージからはかけ離れていく感じがする。
「そう言えば、今年の夏もいろいろあったね」いろんなお茶の風味が感じられる構成は、まるでそんな短い夏の思い出のシーンの一つ一つを表しているようにも感じられる。日中楽しんで汗をかいた体は、やがてたっぷりのシャボンと熱いシャワーで洗い流してのクロージングタイム。だから最後はソーピーなムスクなのかな。そんなふうに感じるのも、もう夏がここにいないせいかも知れない。
清潔感のあるコットンや麻の白いシャツ。何となくだけれど、そんなイメージの香り。ミドル以降は、とりたてて特徴がないとも言えるかも。お茶の香りがメインというわけでもない。似た香りもいくつか思いつく。けれど、女性らしい柔らかさや、ゆったりとした感じ、ひかえめだけど落ち着いた印象を与えるという意味では、オフィスでもOKな香りとして、貴重な1本かと思う。
持続時間はけっこう短めで、自分で1〜3時間。上半身やうなじ、袖口あたりに少しずつプッシュが効果的だと思う。電車や人ごみでも、つけて30分ほどしてからなら、迷惑はかけないかと思う淡さ。
ひと夏の紅茶。それは、短い夏の思い出のシーンを象徴した香り。アイス・レモンティー。アイス・アールグレイ。アイス・グリーンティー。そしてアイス・ジャスミンティー。いろんなことがあったね。そのときどきを彩ったおいしいお茶。
太陽と青空と入道雲に目を細めた、あのむせかえるような蝉の声の季節。そんな夏の残像を探すかのように、緑の庭園を見渡す初秋の午後のティータイム。まどろみに身をまかせて、天高くから降り注ぐ日差しに目を閉じる。運ばれてくるティーポットのカチャリとした音。
さあ、お茶にしよう。今日はどんな味でいただこうか。
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2015/9/4 05:24:38
32(ショコラアップル)使用です。
赤みの強いブラウンがほしくて探していたら、ちょうどキャンメイクで見つけました。
ブラウンはお店のテスターで試した時の印象よりもずっと発色が良くて、喫驚。
ブラウンはアイホールの全体にぼかし、ビビッドな赤は目尻と下まぶたにほんの少しチョン、と重ねる程度にしています。
ピンクは、淡くて優しいベビーピンクという感じのかわいらしい色なのですが、ラメやパールがほとんど入っていないマットな質感もあって、肌に馴染みすぎてしまいます。
塗ったんだか塗らないんだかわからない状態になってしまうので、単にまぶたの肌色を明るくみせたい場合にはいいかもしれませんが、私には使いこなせなさそうです。
全体的にマットなので、私の場合は目元が寂しく見えてしまう気がして…
他のラメ入りシャドウを黒目の上に乗せて華やかさを出すと、ちょうど良くなります。
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2015/8/20 13:06:48
「本や香水って、生きていくのには必要ないけど、生きているって実感するためには必要でしょ」(山田詠美「放課後の音符」より)
男女の営みへの興味、そしてそれに伴うしがらみ。思春期の男の子の頭の中なんて、99%がそのことで占められている。おっと、卑怯な言い方だった。自分の思春期はそうだった。
そんな性的な事柄だけが、世界の唯一絶対の事実だと感じていた思春期まっただ中の頃、山田詠美さんの作品群に出会えたことは本当に幸運だった。むさぼるように読んだ永遠の夏のような日々を、今も昨日のことのように思い出す。冒頭の名セリフは、今も心に焼き付いている言葉の一つだ。
オンド・ソンシュエル(欲望・官能の波)の香りを初めて身に付けた時、これまでにない衝撃を受けた。絶対にどこかでかいだことのある香りなのに、どうにも特定できない。ほぼ1ケ月、毎日つけていた。けれどやはり思い出せない。分からない。ただ一つ感じたのは、これはとても危ういバランスの上に立った、何か危険な香りだということ。まるで、心に欲望の爆発を起こすための導火線や火薬のような。
トップ。シトラスとスパイスの爆発から開口する。シトラスといっても、グレープフルーツ様の苦みが強く出ているだけで、スパイスミックスの香りが9割といった印象。まずペッパー、ジンジャーの鼻孔の奥を刺激する辛みを感じる。この2つは精油になると、キッチン用スパイスの風味とはかなり異なる香りだ。そしてシナモンやクローブの痺れるような風味も出ている。いわゆるホットスパイスのミックス香全開だ。もし若干でもグレープフルーツ様のフルーティーな苦みがなければ、これは香水として感じられないギリギリの線。
やがて5分ほどでミドル。ホットスパイスの熱がすっとひいていく不思議。ただ、まだ温かみが残る全体の雰囲気に、すっとしたウッディ系の清涼感、森の針葉樹から感じるような香りが少ししてくる。これがジュニパーベリーとカルダモンの主張だろうか?ややクールだ。そしてホットスパイスとアイシーな香りの危うい拮抗となる。情熱と冷静のあいだ。外へ広がろうとする赤と、内へ鎮静しようとする青が混じった雰囲気。そう、紫色の香り。
そうか。だから、「エクスプロージョン・オブ・エモーション」第二弾の3つのオー・デ・パルファンは、ヴィヴィッドなパープルの化粧箱に包まれているのかも知れない、ふとそんなことを思う。
苦くスパイシーなミドルは、刻々とさまざまな香りの表情をうかがわせる。ときにゾンカのように漢方薬づけのセロリのような風味を呈したかと思えば、ときに森の中で針葉樹の葉を手でもぎとったような清涼感を得る。また、うっすらとクリーミーなフローラルを感じたかと思えば、酸味と香ばしさと伴ったウードの深みを感じるときもある。全ての香料が等しく主張しあい、自分の心や体のありようによって、さまざまな感情の波のように、ふわりふわりとそれぞれの香りが顔をのぞかせて揺らめくといった様子。とても不安定。
やがてラスト。けれどこれはもっと明瞭な色を失う。知らず知らず夏の暑さにやられた自分の肌の匂いや汗の匂いのようにも感じられ、消え入りが早い。何か自分の匂いと同化してしまったような錯覚を得るラストだ。ベースには、ムスク、ウード、アンバーがクレジットされているようだが、これらの配合のミックスが、少し合成ビニールっぽいようなフェードアウト。まるで、セロリ料理の後に残った塩コショウのようなラストだ。とても不思議な感じ。
全般的に、オンド・ソンシュエルの香りは、料理に使うミックススパイスの袋を開けたようなシャッキリする辛みと苦み、熱を感じさせる。甘味はない。中華料理に使用するミックススパイスに「五香粉」というのがあるが、そのシナモンを弱くした感じ、あるいは、龍角散や仁丹のもつ辛くて甘苦みをもった漢方系素材の味。そんな雰囲気が強いので、香水として使うには、かなりこれ系統の香りが好きな方でないと難しいかもしれない。
ここまで書いてはたと気づく。そうか、この香りはやはり、肉料理に使うスパイス以外の何物でもない。とすれば、人間という生身の肉にふりかけるスパイスだ。まるで、宮沢賢治が「注文の多い料理店」で、猟師たちの体中にクリームや、香水と偽って酢をすりこませたように、誰かにおいしくいただいてもらうための。
俺も香りに感化されたのだろう。肉欲と料理の狭間の危険なゾーンに話がいきそうになる。
オンド・ソンシュエルはそんな、人の根源的な欲望を揺らす波。食欲や性欲への情熱と、それを鎮静化させようとする冷静さの間で揺らめく感情の揺らぎ。赤と青の間でたゆたう心に、「ほら、あなたは生きている」とささやく、紫色のスパイシーな誘惑。
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2015/8/13 00:06:23
アクア・アレゴリアとは、「水の寓話」の意。寓話とは、擬人化された動物などが活躍する教訓を目的とした短い物語。イソップ物語やラ・フォンテーヌの作品が有名だ。
「水の寓話」と聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、そんなイソップ物語の1つ「カラスと水差し」。のどがカラカラに乾いたカラスが、少しだけ水が入った水差しを見つける。その中の水を飲もうとするが、カラスの短いくちばしは細長い水差しの下まで届かない。カラスはあれこれと試行錯誤を試みるが・・・といった話。
ネロリア・ビアンカは、これまでたくさん出ているアクア・アレゴリアの1本。2013年に、ゲランの5代目調香師ティエリー・ワッサーによって作られた。彼はこの香りの造詣に「ビターオレンジの木陰でゆったり休むひととき」というシーンをスケッチし、ビターオレンジの木の全ての部分を再構築しようとしたという。白い花、果実や小枝、葉の香り、それら全てを用いたオレンジ色のアコードを。
トップ。ツンと主張するレモン様のシトラスの酸味が一瞬。その後ろからオレンジ果実のような甘み。そしてぐいぐい広がってくる苦み、それはオレンジの葉、プチグレンが放つウッディで青臭い感じ。その多層な重なりが楽しめる。ところがところが。その背後からすごい勢いで重たいフローラルがやってくる。あ、ネロリっぽい香り。そう思った瞬間、それは、すっと別のフローラルにとって変わる。それは、ネロリのようでネロリではない。おそらくイラン・イランと合成ムスクのミックス香。
5分後、一瞬ネロリっぽいと感じた香りはすでに跡形もなく、ただひたすら、穏やか、かつまろやかに調整されたようなイラン・イランの低く妖しいフローラルと冷たい石けんぽさを伴ったホワイトムスク系のミックス香が全体を支配してくる。
これはとても強い「匂い」で、ほぼ1〜2時間全く同じテイストで定着し続ける。合成香料の強さがひたすら出ている感じだ。なるほど。ルーム・フレグランスやファブリックに使用できるというのは、こういう点を言うのかも知れないと思う。人工的でのっぺりとした直線的な香りがずっと続く。
そして1〜2時間後にラスト。と言っても、ミドルとほとんど変わらない香り。だから、トップのシトラスがはじけた後の、イラン・イラン&ムスク系のやや重たげな香りが好きなら、この香水は「買い」ということになる。
全体的に、「白のネロリ」というよりは、「イラン・イラン風ムスク、オレンジ添え」といった印象。ネロリ本来のもつ深くふくよかな花の香りには、ちょっと遠いかなという感じ。アクア・アレゴリアには、以前にもネロリをフィーチャーした「フローラ・ネロリア」(2000)があったが、こちらは、ジャン・ポールがネロリ&ジャスミンというスケッチで創造した香り。と考えれば今回は、ティエリー・ワッサーが、ネロリ&イラン・イランに挑戦した作品だったかなと思う。
イラン・イランはとても強く重たいフローラルだから、ミドル以降は、印象が暗く妖しく感じられるかも知れない。出だしの香りはシトラスでさわやかだけれど、だんだん重く変化する展開なので、夏向きのように見えて、割にデイタイムにはそぐわない気がする。
むしろ、オレンジの木々が作る「木陰」の印象。オレンジの芳香が漂う庭園にあって、木陰にチェアーを置いて、湿った土の香りや木の香りをかいでいるような感じだ。そういう意味では、夏の夕方〜夜までのしっとりした時間帯に使うと、落ち着いた雰囲気になっていいかもしれない。もちろん好みの問題だけれど。
2015年、アクア・アレゴリア・シリーズは、お茶の香りをイメージした新製品「テアズーラ」を発売した。これにより、これまでのならいとして、また1本シリーズから香りが姿を消すことになった。それが、このネロリア・ビアンカだ。
好きな香りが廃盤になることはとても悲しいことだ。けれど、これからもゲランは、「水の寓話」を通して、さまざまな試行錯誤を繰り返して教訓を得ていくのだろう。イソップの「カラスと水差し」のカラスのように。
カラスは一生懸命考えた。そして、遂に深い水差しの底にある水を飲む方法を思いついたのだ。その短いくちばしで小石を運んできては水差しに入れ続けた。やがて水面は上がり、カラスの短いくちばしでも水を飲める高さになったのだった。
「必要は発明の母」。カラスと水の寓話はそんなことを教えているのかも知れない。ネロリア・ビアンカは、今後少しずつ市場からは消えてゆくだろうけれど、その香りのアイディアと記憶は、「ビターオレンジの木陰でゆったり休むひととき」のイメージとともに、いつまでも忘れずにいたいと思う。
さよなら、ネロリア・ビアンカ。
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