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doggyhonzawaさん
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セルジュ・ルタンス / シェルギイ(Chergui)

セルジュ・ルタンス

シェルギイ(Chergui)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・14,300円 / 100ml・22,000円発売日:-

6購入品

2016/2/20 23:46:52

東から来たその男は、どこか風を連れているように感じられた。女の心に鳴り続けるアラート。「キケンダ。コノ男ニハ、チカヅクナ。」けれど、その音が高くなるほど、男に惹かれていく自分にあらがえないという思いも増した。激しい警告音は、女の心臓の鼓動そのものだった。

男は粗野で、猥雑で、傍若無人だった。長い髪を無造作にかきあげ、褐色の肌に無精ひげをたくわえ、いつも怒っているような顔をしているくせに、時折見せる笑顔は、子どものように無邪気だった。タバコの匂いがしみついた長いコートを着て、長身の体を前のめりにして、ゆらりと歩いた。女がそのコートの腕に抱かれるのに、時間はかからなかった。頑強な毛深い体からは、酒と汗と油の匂いがした。

男は貪るように女を求めた。暗闇の中、唇を合わせた刹那、女はそっと目を開けて、男の瞳の奥を盗み見た。そこには、黒い太陽と、遠い異国の砂漠を思わせるサンドストームがあった。きつくまぶたを閉じ、男の首筋にしがみついた。煙たい動物の脂の匂いがした。男の目は何も見ていない、女は知った。野獣の唸りのような、激しい息遣いをどこか遠くに聴きながら、ほおに一筋の涙が流れるのを感じた。それは、砂漠の夜を駆ける流れ星のように、静かで孤独な一瞬だった。

・・・・・・・・

シェルギーは、2005年、クリストファー・シェルドレイクの調香によって生まれたオリエンタル・スパイシーノートの香りだ。セルジュ・ルタンスの公式サイトでは、「モロッコの砂漠の熱風」と紹介されている。モロッコの砂漠と言えば、南部に広がる広大なサハラ砂漠が思い浮かぶ。その全てを焼き尽くし、砂塵に帰すかのような強烈なかの地の気温は、ハイシーズンには日中、摂氏40〜50度になるという。そんなサハラからモロッコに向かって吹き付ける乾いた熱風を「シェルギ」と呼んでいるそうだ。

シェルギーのトップは、濃厚なハーバル&バルサミックだ。コーラをホットにして酸味と甘みを際立たせつつ、薬草や樹脂を混ぜたような複雑なオープニング。一瞬、ゲランのシャリマーを思わせる雰囲気がある。ベースの樹脂っぽさに、似た系統を感じる。だが、シャリマーよりもずっと暗く、そして、人を寄せ付けないようなじっとりとした野性的な清涼感が強いように思う。

トップからミドルへの境界はあいまいだ。すぐに、タバコリーフの茶色いスモーキーな味わいと、乾燥した香ばしい干し草様ハーブの香りに移ろってゆく。このあたりは洋酒っぽくもあり、レザーっぽくも感じられるところかも知れない。間違っても火をつけたタバコの香りではない。紅茶なみに深くローストされたタバコリーフの香りは、ダークに心をくすぐる。

このミドルのスパイシーな甘苦さは、杏仁豆腐の香りを煮詰めたようにも感じられ、好きな人にはたまらない香りだ。苦く辛く、熟成されたタバコの葉の香りと、ローズと干し草のミックスが心地よい。それらがアイリスの暗さに抑制され、むわりと拡散力することなく、かなりストイックに香り立つ印象。強く、濃く、スイートでスパイシー、けれど低いところですっきりと暗い香りが流れ続けているような雰囲気。

液体色のこげ茶色とも紫とも言い切れない複雑な色合いもいい。ダークブラウンをタバコと樹脂と干し草と見るなら、そこにアイリスのパープルを混ぜたようにも思える。ルタンスの香りには濃い色が付けられている物が多いが、そこにも香りのアイデンティティーが感じられる。衣服等への着色には注意が必要だとしても。

そしてラスト。シェルギーの香りの変化はトップからずっと好ましいが、このラストはことのほか好きだ。暗く湿ったミドルが、干し草とサンダルウッドの乾いた香ばしさにスライドしていきつつ、次第に甘い蜜の香りが絡んできて、ゆったりとした極上のリラグゼーションを感じさせてくれる。それは、熱く痛みさえ伴う風をやり過ごし、静かに訪れた宵闇の中、ステップの大地の向こうに、星がまたたき始めたかのような静寂とあたたかさのよう。一日の喧騒の終焉を告げるトワイライト。空を斜めによぎって、すっと消えた流星に感じた切なさ。

・・・・・・・・

ある日、そうなることが当たり前だったかのように、男は忽然と姿を消した。女は、その深く暗く、よどんだ香りの行方を虚空に探した。風は凪いでいた。男はまた、砂埃の中を歩いているのだろう。コートのすそをはためかせ、長身の体をゆらりと前のめりにしながら。誰も知らぬ遠くの町で。

あの日、男の目には何も映っていなかった。そこに誰も住んではいなかった。ただ、吹きすさび、荒れ狂い、砂塵を巻き上げ、どこまでも荒涼としていた。

男は、瞳の中に一陣の風だけを連れていた。

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ディオール / オー ソバージュ オードゥ トワレ

ディオールディオールからのお知らせがあります

オー ソバージュ オードゥ トワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,650円 / 100ml・17,490円発売日:-

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5購入品

2018/5/5 22:50:39

ディオールのオーソバージュは、真夏のギラつく太陽をそのままボトルにとじこめたようなオード・トワレだ。肌に吹き付けると、唾液が出そうなレモンシャワーとともに、熱を帯びたリーフグリーンの香りと、灼けた肌のアーシーな香りが同時に漂う。さながら、若き日のアラン・ドロンの出世作「太陽がいっぱい」そのもの。

オーソバージュは、1966年、名調香師エドモン・ルドニツカによってリリースされたディオール初のメンズフレグランス。それは最初にして最大のヒット作となり、今日まで名香としてゆるぎない地位を築いてきた。60年代の欧米でのブレイク以降、今なお老若男女問わず多くの方に愛用され、ベストセラーを続けている。では、オーソバージュとはいったいどんな香りなのか?

トップ。つけたては一瞬、ベースとなっているモス系の湿った苦み、ベチバーの土っぽさがふわっと鼻をくすぐり、メンズ香水独特の匂いをふりまく。いわゆるトニックっぽい香り、男っぽい香りと揶揄されるようなオープニングだ。その後すぐにはじけるようなレモンの香りが広がってくる。ベルガモットとのミックスのようだが、黄色いレモンの酸味がより強く感じられる。そして、そのサワーな感じがその後も続いていく。

3分後、ミドル。レモンのジューシーな香りに、バジルの透明感、ローズマリーのグリーンさ、ラベンダーの清涼感が混じって広がってくる。シトラス&アロマティック。鶏肉のハーブ&レモン焼きの匂いにも似て、温かみが感じられておいしそうな香りになる。このトワレに初めて使われたヘディオンという香料は、単体ではジャスミンっぽいフローラルのようだが、他の香料と合わせることで、きらめきやレモン様シトラスの香りを持続させる効果があるという。確かに、グリーンでサワー感のある香りがトップからずっと続き、大体3〜5時間、つけたところで穏やかに香り続ける。

ラストはかなり低音になり、メンズな雰囲気になる。モス系の湿った苦み、ベチバーの土っぽいウッディにしっかり変化し、シプレのベースが感じられるエンディング。このへんは日本人の女性は苦手だと感じる方も多いかもしれない。もともと体臭が強い欧米の方々のマスキング・フレグランスとして用いられてきたトワレなので、ベースは強いウッディだ。欧米では重厚感があって好まれるラストだが、体臭があまりしない日本人は強い香りを使ってきた歴史もないので、感じ方や好き嫌いは人それぞれだろう。モスやベチバーのラストはクラシカルな印象も強め。ぜひ付けてみてラストまでの変化をきちんと確かめてみてほしいと思う。付けてから6時間前後で自然にフェードアウトしてゆく。トワレにしてはかなり残香性がある方だ。

欧米ではいまだにベストセラーなオーソバージュだけれど、日本では特に女性の評価で賛否両論あるようだ。苦手な方いわく「トニック臭、オヤジ臭」。いやな言葉だなと思う。それでもあえて出したのは、昭和の頃にリリースされた日本のメンズコスメのほとんどの香りが、実はこのオーソバージュに影響を受けて作られていたからだ。男性のヘアトニック、ヘアリキッド、オーデコロン、シェーブローション。それらの多くがこのオーソバージュの香りの模倣、アレンジだったと言っても過言ではない。畢竟、それらを使う男たちの、どれも似たような香りが日本中にあふれた。そして「トニック臭」などという言葉が生まれ、本家のこの香りさえそう呼ばれてしまっているという。そんな皮肉な状況に苦笑せざるを得ない。

皮肉といえば、アラン・ドロンもそうだ。甘いマスクとクールな表情で日本では女性に大人気だった彼だが、本国フランスの女性は「嫌い」と答える方が今も多いそうだ。理由はいろいろあれど、こちらも「ところ変われば好みも変わる」という典型だろう。そんなアラン・ドロンが2009年からデビュー当時の姿で、フランス女性が好きなオーソバージュのイメージキャラを務めているのだから皮肉なものだ。

彼が若き日に主演した「太陽がいっぱい」は、本当に心に残るいい映画だった。原題の“Plein soleil”には、実は2つの意味があると言われている。plein de soleilsであれば「太陽がたくさんある」だが、en plein soleilだとすれば、「太陽がギラギラ照りつける下で」の意味になる。おそらく、双方の意を汲んだ詩的なタイトルを、ということで「太陽がいっぱい」にしたのだろう。

そんな「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンは、哀しいくらいに美しく、本物の愛に飢えた表情が印象的だった。だから、今でもこのトワレを時折つけるたび、彼の切ない瞳を思い出す。

オーソバージュ。それは、ギラつく夏の太陽の下、金と権力と愛をいっぱいに求め続けた孤独な青年の野望を秘めた水。

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ダビドフ / クールウォーター オードトワレ

ダビドフ

クールウォーター オードトワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:40ml・5,940円 / 75ml・8,250円 / 125ml・11,770円発売日:- (2011/7/1追加発売)

5購入品

2015/1/25 13:27:33

1つの香水を作るとき、その香水は香りが先なのか?それとも、名前が先なのか?時折、そんなことを考える。それは概して、香りのイメージとネーミングとの間にギャップを感じてしまうときだ。

ダビドフのクール・ウォーターは、俺の中では全然「クール」じゃない。初めてこの香りを体験した10年に以上前から、この香りに対する印象は今も変わっておらず、その印象に名前をつけるとしたら、「モワット・ウォーター」だ。

つけた瞬間から、ラベンダーの香りとローズマリー系のハーバルな香りと、ほんのりスパイシーなコリアンダー系の香りと、合成シトラスのトニック臭と(ジヒドロミルセノール)、そしてメロンっぽい潮風&海藻な風味が渾然一体となって広がってくる。何というか、スーッとクールにこない。逆に、もわりと空気を丸く膨張させるかのような押し出し感をもって広がってくる。絵的に言うと、陽に灼けたサーファーの、盛り上がった肩の筋肉のようなマスキュリンだ。無精ひげ&細マッチョ。

ただ、これはどうもかなり個人差のある香り立ちのようで、体温が高めの自分につけた場合の印象。フゼアのタイプは、ラベンダーとクマリンの中間に位置するというが、そのバランスの取り方によって、すっきりしたラベンダー寄りになるか、甘くパウダリックなクマリン調になるか、いくらでも変えられるし、条件によっても変わるようだ。

だから、体温が低めの方やムエットなどの場合は、かなり印象が違う。やや低いラベンダーとほんのりとしたミントがすっきりと香って心地よく感じやすい。そこにローズマリーやゼラニウムの香りがふくよかさを添えているといった印象。特にハンカチなどの布に吹き付けた場合などは、とてもしっとりとした柔らかいハーバルな清涼感があり、ああ、これならクール・ウォーターという名も頷けるなあと思う。

ならば、調香師は、体温低めの方がつけることを想定して作ったのかなと考える。そして、いや、そんなはずはない。それじゃ、イメージやテーマとそぐわないんだよなあとまた考える。

ダビドフはもともと葉巻会社だ。シガーの分野では、本当に世界最高の葉巻を製造する有名な会社。それが香水分野に進出するにあたって、調香師に求めたテーマは何だったろう?クール・ウォーターに求めたテーマ、それは、「海・波・光・男」。このへんではなかったかと推測している。名前が最初からあったかはわからないけれど。

そうなると当然思い浮かべるシーンは、夏の暑さが感じられるものだ。まばゆい太陽。きらめく波光。砂を巻き上げる潮風。次々と沖から押し寄せてくるビッグ・ウェイブ。パドリングをしながらタイミングを図る老獪なサーファー。ふと風がないだときに感じる、海と汗のやけた香り。

でも、そんなシチュエーションでつけることを想定すると、やっぱりムワット・ウォーターになるんじゃないかな…。ん…?あ――!そうか、湿度だ。湿度が違う。

日本の夏は高温と多湿が同時に来るのが普通だ。だが、概してヨーロッパ諸国やアメリカの西海岸などは、夏は高温でも乾燥していることが多い。つまり、日差しはまばゆく熱いが、空気はさらっとしているということだ。ならば、これぐらい押し出し感のある膨張系の香りも、うっとうしくは感じられないのではないか?むしろ、包容力やセクシーさといったマスキュリンを演出する意味で、重宝なアイテムになるということだろうか?

詳しくは知らない(笑)。それでも、唯一言えることは、夏のデイタイムをイメージした香りであることは間違いないのに、なぜこんなにもムワムワとうっとうしく感じることが多かったのか?という答えが見つかったということ。

つまり、「体温高めで汗をかきやすい人」「高温多湿な日本の夏の日中の使用」。これらは、この香りをあまり楽しめないかもしれないということだ。そうか、そうだったのか。←勝手に納得してるな

1つの香水を作るとき、その香水は香りが先なのか?それとも、名前が先なのか?時折、そんなことを考える。ずっとこの香りと名前の間で揺れていた。「なんでこんなにモワッとしてる香りなのに、クール・ウォーターなんだ?」

やっとわかったよ。体温高めで新陳代謝もよい、つまり汗かきな俺が、真夏のデイタイムに使ってきたからなんだな?そういうことなんだな? ←ダブルパンチでアウトだな

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ディオール / ファーレンハイト オードゥ トワレ

ディオールディオールからのお知らせがあります

ファーレンハイト オードゥ トワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,650円 / 100ml・17,490円発売日:- (2008/11/1追加発売)

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2016/1/4 17:08:45

青い夜明け、吐息の白い朝、ガレージのシャッターを開けて、バイクのイグニッションにキーを差しこむ。チョークレバーを少し引き、FUELコックをONにする。「かかってくれよ」そう願いながら、セルを回す。

キュキュキュ、ドルン! ドゥルドゥル、ドゥルドゥル、ドゥルドゥル・・・

かかった。鉄の馬に命が宿る。冬のバイクはエンジンがかかりにくい。冷たいガスタンクに手をあてながら、シートをまたいで腰を下ろす。その重みでゆったり沈みこむボディー。チャプン!とガソリンの揺れる音。その瞬間、俺の心も揺れる。

ディオールのファーレンハイトをつけるたび、バイクでどこか遠くへ行きたくなる。だが、それは明確な場所ではない。例えるなら、地平線へ向かう一本道の彼方、オレンジの夕焼けと黒い山々のシルエットの境界、ピリオドの向こう(←それはやめろ)

ファーレンハイトは、1988年、ジャン・ルイ・シュザック、モーリス・ロジェらによって作られたウッディ系のメンズ・フレグランスだ。現在流通しているのは、EUの香料規制問題に対応すべく、フランソワ・ドゥマシーによってリファインされた物で、オリジナルと比べると、重厚さとアクの強さは薄れたが、唯一無二とも言える香りの骨格じたいは継承しているように思う。

ファーレンハイトのトップは、複雑で驚きに満ちている。それは、暗く青いガスの香りがする。あるいは、揮発するガソリンやオイルの匂い、ウィスキーをこぼした革ジャンのような匂い。そこに青臭いグリーンな香りと、けぶった木の香りが入り混じり、クラクラしそうなほど強く主張する。

やがてミドルになると、バイオレットリーフの冷たく青いガスの香りが消え、温かみのあるスモーキーなウッディが強くなってくる。アルコールが染みわたったオーク樽のように、人を酔わせるような芳醇なウッディ。青かった炎がオレンジになったような雰囲気。高いところで、なめした革のようなくすんだ香りもしてくる。

そして、長いミドルから、あまり変化のないラストへ。ほんのり甘いアンバーやムスクが感じられつつも、バイオレットリーフの暗い清涼感、スモーキーなバーチタール様の香り、レザーの埃っぽさを残しながらドライダウン。ミドルの雰囲気そのままにフェードアウトしていく印象。

付けてから8時間以上も香り、持続性は長め。トップの香り立ちが強烈かつ複雑なので、付けたてで「あ!無理!」と言う人も少なくないと聞く。同じシュザック調香のデューン同様、トップで好きか嫌いかはっきり分かれることが多い香りだと思う。

全体で見ると、トップの冷たい青臭いグリーン香が、どんどん温かくスモーキーなウッディ&レザーに変化していくが、終始ベースのベチバーやパチョリの香りが感じられるので、アーシーさを保ったまま温度が高くなっていくイメージだ。まさに、氷点から沸点へ。青から赤へと燃えさかる心の炎のよう。

ファーレンハイトの名の由来は、温度単位の「華氏」であることは有名だ。華氏(ファーレンハイト度)は、摂氏(セルシウス度)と異なり、人間の通常の体温を約100度ととらえ、そこから身の回りの温度を規定する考え方だ。こうすることで、摂氏のようにマイナス表示はなくなり、どんなに低い体感温度でも、必ず0度以上のプラス表示になるというメリットがある。

つまり、「自分中心に世界の温度を規定する」という考え方だ。

そんな「自分中心の温度感覚でいい」という孤高な意識が、この香りにも込められているように思う。ディオールによると、この香りは、庭に放置されていた香水樽が発酵し、漂い始めた芳香を再現すべく生まれたという。いわば、ウィスキーなどの熟成香の一種だろう。その類まれな揮発ガスの危険な香り、それは、本物のよさを知る者たちにだけ理解してもらえればそれでいい、そうした作り手の自分感覚の潔さが感じられる作品だ。

強さと激しさ、大人の懐の広さを感じさせると同時に、どこか寂しさや暗さ、怜悧さをも感じさせる、かなりメンズ寄りの香りだ。この香りをつけこなしていて似合う男は、日本にはなかなかいないかもしれない。なぜなら、香りがつける者を選ぶタイプの気難しい荒馬だから。

朝焼けの赤光。機嫌よく吹け上がった鉄馬のいななき。メットの中の孤独な息遣い。革ジャンの胸元から立ちのぼる、すみれ色のファーレンハイトの香り。さあ、行こうか。

「ガソリンの香りがしてる その中に落ちていた人形が マッチ売りの少女に見える
 淋しさだとか優しさだとか ぬくもりだとか言うけれど そんな言葉に興味はないぜ 
 ただ鉄の塊にまたがって 揺らしてるだけ 自分の命揺らしてるだけ」
 (THE BLANKEY JET CITY「ガソリンの揺れかた」)

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ゲラン / ゲラン オム オーデトワレ

ゲラン

ゲラン オム オーデトワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:50ml・9,900円 (生産終了)発売日:2008/9/5

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4購入品

2018/3/31 10:13:31

夏。蒸し暑い夜、広口のタンブラーにクラッシュアイスを注ぎ、ミントの葉を10枚以上入れてペストルでガシガシ押しつぶすと、野性味あふれるスッとした青い香りが強烈に鼻に突き刺さる。そこに砂糖とライムを入れ、ラムを注いでステア―。ソーダで軽く割れば、熱帯夜をスッキリ過ごせるカクテル、モヒートのできあがりだ。

ここに、そんなモヒートの香りからイメージして作られた香りがある。「香水界の帝王」として長年君臨し続けてきたゲラン。そのゲランの5代目調香師となったティエリー・ワッサーが、就任して間もない2008年にリリースしたメンズのオード・トワレ、ゲラン・オムだ。

ゲラン・オムのリリースは華々しかった。膨大な広告費を用いて、本物の動物たちが森の泉に集う宣伝用トレーラーを制作し、ボトルデザインはイタリアの高名なデザイナ―、ピニンファリーナに委ねられた。LVMH傘下に入って、新生ゲランとしての旅立ちであったことから、業界内外を問わず、この作品には期待と注目が注がれていた。

それがゲラン・オムの出自。では、肝心の香りはどうかというと。

プラスティックの透明キャップを外してスプレーする。つけたて、爽やかな柑橘の酸味。すぐに下からわずかな甘み、涼しげなハーブの香り。そして透明感があるけれど、かすかに苦みやエグみを感じる香りが同時に広がっていることに気付く。これはホワイトラムを模したのだろうか。ベルガモットやライムの香りはわずかで、このスッキリしたアクのあるハーブの香りが強いオープニングだ。

5分後、香りに大きな変化がない。かすかな清涼感あるアニス調の感じが続いている。わずかなグリーンシトラスの割合が2だとすると、残り8割はスッキリとしてややクリーミーなアルコールっぽい香りという印象。ホワイトラムの酔わせるような、ほんのり甘い香りが一番再現されている気がする。そんな香りがずっと続く。付けてから4〜5時間は穏やかに香り続ける。

ラストも大きな変化はなく、穏やかなグリーンハーブにうっすらとウッディが重なったような香りで消失していく。このウッディはシダーやベチバーというクレジットがあるものの、香料の特徴が分かるほど強くはない。ミドルがゆるやかに減衰していくので、ラストまでクリーミーなハーブ系の香りが続く。

このトワレは一度に全ての香料が香り、そのまま続くというタイプの香り方だとされている。確かに大きな変化がないように思う。それなら柔軟剤と同じではないか?とも思うが、当たらずとも遠からず。ティエリー・ワッサーは、ファインフレグランスの未来について、そうしたトイレタリー製品(シャンプー、洗剤、ボディーソープ等の香り製品群)の充実が不可欠だと考えている一人でもある。狙うのは、柔軟剤の香り以上、香水の複雑な香り以下。そのへんのニッチではなかったろうか。香りがキツイとか、香りがどんどん変わるのがイヤ、と言って香水を敬遠する方は存外多い。自分もかつてはそうだった。だが、シンプルで美しい香りを身に付けることに対しては、敷居は低いはず。ティエリー・ワッサーはこのゲランオムで、「誰もが気軽にカジュアルに楽しめる香り」を提案したようにも思える。

「香りは時代と共に変遷する。現代は、さまざまな趣向の香りを日々楽しむ時代だ。」ティエリー・ワッサーはそうインタビューで答えている。彼は変化する時代の波にゲランを合わせる方向へ舵をきったのだろう。もっと気軽に。もっと軽やかに。ゲラン・オムにはそんなメッセージが託されているように思う。男女を問わず、春から夏にかけて気分を上げていきたいとき、オンオフどちらでも穏やかでグリーンな香りを試したいときに使っていけるフレグランスだと思う。

現在、このトワレは廃盤となっており、オード・パルファムが従来の縦長スクウェアボトルでラインナップされている。アビルージュが好きだった彼らしいボトルの揃え方だ。ロムイデアル系がメンズの中心ラインナップになった感があるが、よりくせのない汎用性を求めるならこちらを試してみるといいだろう。ネットではまだまだ普通に入手可能だ。

暮れゆく亜熱帯の強烈なオレンジの日差し。ラテンの人々の熱気と興奮は、夜になってからも冷めることを知らない。町の至るところからサルサの陽気なリズムが聞こえる。キューバの人々はそこかしこで思い思いに踊り、酒を酌み交わし、夜更けまで語り合い、ゆっくりと人生の時間を楽しむ。グラスが揺れるたび、強烈なミントの青い清涼感と唾液があふれるフレッシュなライムの香りがしている。

ゲラン・オムは、そんなモヒートからイメージした穏やかなマスキュリン。現代をクールに、颯爽と生き抜く者たちに捧げられた、アロマティックな香りのカクテル。

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ドギマギの夏さん
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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
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  • 髪量・・・少ない
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • 食べ歩き
  • 音楽鑑賞
  • 料理
  • ファッション
  • お酒

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【警告】 *プロフィール(自己紹介文)又は 挨拶を割愛してのフォロワー 登録は、ご遠慮ください。 *猥雑なニックネームの方も同様に ご遠慮く… 続きをみる

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