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doggyhonzawaさん
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ディオール / ドルチェ・ヴィータ

ディオールディオールからのお知らせがあります

ドルチェ・ヴィータ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

6購入品

2015/10/24 17:02:29

ドルチェ・ヴィータは、甘え上手な確信犯。たとえ初対面であっても、男が喜びそうな甘い言葉をささやきながらひざを寄せ、すっとその懐に入りこんでいく。まるで「あなたに興味があるのよ」と言わんばかりに。

残念ながら世の男の大半は、女性からのその手のアプローチにかなり弱い。女性からの賛美の言葉と積極的なスキンシップ。けれど、そうしたふるまいのできる女性ほど、得てして本質はクールで孤独なものだ。そしてそれを笑顔の下に上手にしまいこんでいる。きっと誰も本当の素顔の私をわかってくれない、愛してくれることはない、そんな諦観を抱えて、今宵も一人の部屋に小さな灯りをともす。

ドルチェ・ヴィータは、そんな、ちょっと一筋縄ではいかない香りだ。そう思う。

大小の球体をあしらったボトルは、ゲランのアンソレンスやケンゾーのボトルデザインでも有名な彫刻家セルジュ・マンソーの作。可愛いくて、金のリングがきれいで、女性でなくても、手に取ってボトルを手にのせてみたい衝動に駆られる。では、肝心の香りはというと。

トップから、しっとりと甘いフルーツ&フローラルが空気を攪拌する。花はユリ、マグノリア、ローズなどのようだが、それぞれの強さや特徴を抑え、白い花の上品な香りといった程度にし、そこにホット系スパイスを少量ふりかけたドライフルーツが芳醇な香りを漂わせている、そんな印象。フルーツは、ピーチとアプリコットを中心にすえることで、プラムやバイオレットなどを配したルタンスの「フェミニテ・ドゥ・ボワ」と差別化を図っているようだ。同系統だが、フェミニテよりも快活な印象が増していると思う。

やがてミドルになると、フルーティー・フローラルの下からじんわりとシダーの鉛筆を削った香りが香ってくる。だが、フェミニテほど強くはない。むしろ、サンダルウッドの香ばしい温かい木の香りがシダーを抑えている感じ。終始シダーの怜悧な香りがしている冷たい印象のフェミニテに比べ、こちらはサンダルウッドを強めていることで、木とフルーツのミックスに、明るさを与えたように感じられる。このバランスがいい。アプリコットやピーチの甘く豊かな風味。そこへかん高い木の香りが漂う穏やかなノートがしばし続く。

そして、1時間もすると、ラストは可愛らしいヴァニラが顔をのぞかせてくる。「ごめんごめん、木皿のフルーツ盛にヴァニラクリームをホイップするの忘れてた」みたいに最後に味わうヴァニラの淡く甘い香り。まさに確信犯以外の何物でもない。最初から最後まで甘くとろけそうな、それでいて温かさを忘れない美しい香りの展開。この香りが好きな男性が多いというのもわかる。

だが、こういう香りほど気をつけなければならない。誰もが夢見る「甘い生活」が、誰にも「永遠」を約束してはくれないように。

ドルチェ・ヴィータは、元気で、明るくて、センシュアルで、そして、温かい美しさをもった香りだと思う。だから、香りは好きだ。けれど、自分では付けづらい。それは自分が男だからではなく、何だか自分が、この香りに負けているような気がするからだ。自分の心の奥にある、ふだん人には見せない暗さやずるさ、汚れみたいなものが、この香りにあぶり出されるようで、何だか遠慮してしまうのだ。この香りに自分は似つかわしくないと。

だから、ドルチェ・ヴィータは一筋縄ではいかない香りだと思うのだ。この香りは、使いどころも、合わせる服の選び方なども難しい部類かと思う。デイタイムには甘く重い気がするし、夜に使うと、付け方次第では周囲に媚びを売っているように受け取られることもあるかもしれない。もちろん、そう思われたい方にはおすすめするが。

一番似合うと思うのは、ドレスアップしたパーティーなどの華やかなシーンかな。明るくて気取らない、少し騒々しい感じのフランクなパーティー。そんな機会が多い方にはおすすめだと思う。

服をベッドに脱ぎ散らかして、スツールに腰掛け、足を投げ出す。ドレッサーの前で髪を上げて、ため息を一つ吐き出す。客の下卑た笑いと、無遠慮な振る舞いと、それに愛想笑いしていた自分を洗い流すかのように化粧を落とす。鏡の中にスッピンの自分が浮かび上がる。その顔が好きじゃなくて、スタンドライトをひねって一番きれいに見える角度にする。琥珀色の光を投げかける電球は、なんだか逆さにしたドルチェ・ヴィータのボトルみたいだ。「甘い生活」か。いつかそんなふうになるのかな。オイルでテカテカの顔を見ながら、ふと考える。

電車の通過がアパートの窓枠を震わせる。もういいや、寝て忘れよ。目の周りを念入りにマッサージしながら、鼻歌を歌う。「ケセラ・セラ…♪」 ドルチェ・ヴィータのラスト、甘いヴァニラの香りが、ずれたキャミソールの下からかすかに漂っている。

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ラルチザン パフューム / テ プー アン エテ オードトワレ

ラルチザン パフューム

テ プー アン エテ オードトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:100mL・18,700円発売日:-

4購入品

2015/9/22 22:05:47

空が高くなり、きれぎれの雲が澄んだ空気を運んでくると、ああ、秋だなあと心が涼やかになる。そして同時に思うのだ。やっぱり夏は終わってしまったんだな。あの、激しくて狂おしい季節は、もうどこか遠くへ行ってしまったんだな。

テ・プー・アン・エテ(ひと夏の紅茶)は、そんな夏の終わりの、ちっぽけな感傷をそっと慰めてくれるような柔らかな香りだ。

この香りの最もすばらしい点は、郷愁をそそるネーミングにあると思っている。「ひと夏の紅茶」という和訳もすばらしい。秘密めいたひと夏の思い出と、その美しさや悲哀、切なさが感じられるいい名前だと思う。ただ、そのネーミングに十分惹かれていながら、あえてこの香りは「紅茶ではない」と言いたい。このフレグランスのメインとなっている香料は、どう考えても緑茶だ。だから、本来は、「ひと夏のお茶(緑茶)」が適当だろう。けれど、けれど、それでは、新発売のペットボトル飲料の名前になってしまう。だから、やむを得ず「紅茶」としたのだろうが、実際の香りは紅茶のスモーキーなテイストとはほど遠い。そうした点もふまえると、本当の名前は「ひと夏のアイスティー」といったところだろう。(←もういいから)

そんないわくありげな(←どこが)テ・プー・アン・エテの香りの印象はというと。

つけたて。やや丸みのあるレモンの香り。背後にグリーンティー風のちょい渋い味が出ていてハーバル。すぐにベルガモットのコクのある酸味も来る。全体にスッキリとした出だし。その後、グリーンティーが渋味を増してきたかと思うと、鼻にすっと抜ける感じがしてややミンティなテイストになる。香りをつけた手首もこころもちヒンヤリ。レモン・ティーと、アール・グレイと、ミンティなグリーン・ティーの3つの雰囲気をふわりふわりとちらつかせる印象。ここまで10分。

ミドル。徐々に、優しげなジャスミンの香りが広がってくる。それをグリーン・ティーの渋味とミントのスッキリ感が下支えしている印象。ここでジャスミン・ティーに変わったか、と一瞬思うけれど、何となく違う。どちらかというと、アイス・グリーンティーを飲んでいるテラスの横で、ジャスミンの小さな花々が風にそよいでいるようなイメージ。ただ、白いジャスミンの花の香りに、もう一つ、色が混じってくる。それは、オスマンサス(金木犀)のオレンジ色。ミドルは、ジャスミン&オスマンサスが出てきて、次第にオスマンサス独特の、甘くフルーティーなテイストが少しずつ強く主張してくるような。

ラストはやや渋め。グリーンティーのスッキリした渋味がベースかと思っていたら、下から、「実はムスクでした」みたいな意外なエンディング。さっきまで、いろんなお茶とフローラルだったのに、急に石鹸テイストが混じってきて、「飲み物だと思っていたのに違ったんだね」と思わざるを得ないような。ここが気になる人は気になるかも。オスマンサスとムスクが入り交じっていくミドルからラストは、さらに「紅茶」というイメージからはかけ離れていく感じがする。

「そう言えば、今年の夏もいろいろあったね」いろんなお茶の風味が感じられる構成は、まるでそんな短い夏の思い出のシーンの一つ一つを表しているようにも感じられる。日中楽しんで汗をかいた体は、やがてたっぷりのシャボンと熱いシャワーで洗い流してのクロージングタイム。だから最後はソーピーなムスクなのかな。そんなふうに感じるのも、もう夏がここにいないせいかも知れない。

清潔感のあるコットンや麻の白いシャツ。何となくだけれど、そんなイメージの香り。ミドル以降は、とりたてて特徴がないとも言えるかも。お茶の香りがメインというわけでもない。似た香りもいくつか思いつく。けれど、女性らしい柔らかさや、ゆったりとした感じ、ひかえめだけど落ち着いた印象を与えるという意味では、オフィスでもOKな香りとして、貴重な1本かと思う。

持続時間はけっこう短めで、自分で1〜3時間。上半身やうなじ、袖口あたりに少しずつプッシュが効果的だと思う。電車や人ごみでも、つけて30分ほどしてからなら、迷惑はかけないかと思う淡さ。

ひと夏の紅茶。それは、短い夏の思い出のシーンを象徴した香り。アイス・レモンティー。アイス・アールグレイ。アイス・グリーンティー。そしてアイス・ジャスミンティー。いろんなことがあったね。そのときどきを彩ったおいしいお茶。

太陽と青空と入道雲に目を細めた、あのむせかえるような蝉の声の季節。そんな夏の残像を探すかのように、緑の庭園を見渡す初秋の午後のティータイム。まどろみに身をまかせて、天高くから降り注ぐ日差しに目を閉じる。運ばれてくるティーポットのカチャリとした音。

さあ、お茶にしよう。今日はどんな味でいただこうか。

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ゲラン / シャマードオーデトワレ

ゲラン

シャマードオーデトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2015/4/25 11:43:32

春におすすめの女性用香水は?と聞かれたら、まず「ゲランのシャマードがいいな」と答える。シャマードのイメージは、「ヒヤシンスのブルー・パープルの色」、「グリーンぽい冷たいフローラル&パウダリーな香り」といった感じ。そして、パルファンよりもトワレの方が好きだ。

パルファンは豪華で、フローラルも濃くて多層的だ。香りとしてもすばらしいと思う。ただ、ラストのウッディも強いので、もともとクラシカルな印象が強いものをさらにマダムマダムにしてしまう。つけ方が上手な人ならいいけれど、一歩つけ方を間違えると、往年の名香にありがちな「おばあちゃんの箪笥のおしろいの香り」とも取られかねない。俺みたいな香水素人の男や、香水に思い入れのない一般ピーポーには、トワレで十分香水らしさが感じられると思う。

シャマード・トワレをすすめる理由は3つある。1つめは、個人的にシャマードのラストが好きなので、それが早く訪れること。2つめは、十分香水らしさを楽しめて、かつ使用できるシーンに幅があること。そして、ラストが淡く長めで、3〜4時間は続くこと。←で、あえてトワレの方に初投稿

トワレのトップは、一瞬アルデヒドっぽい拡散と独特のグリーンな苦みから開口する。ガルバナムのクレジットがあるので、そのビターなグリーンと、ヒヤシンスの香りのグリーンのミックスっぽい感じ。やがて5分とたたずに、多層のフローラルが顔をのぞかせてくる。ヒヤシンスの冷たく低いフローラルが春らしくていい。そしてその周りをジャスミンとイラン・イランが包んで華やかさと強さを出している印象。

そしてミドル。冷たいヒヤシンスと、ツヤのあるジャスミンと、重いイランイランの和音を、やや甘酸っぱい感じが包み込む。これが、このシャマードで初めて使われたというブラック・カラント(カシス)なのかな。でも実際のところ、このミドルをかいでも、「あ、ブラック・カラントだ!」なんて絶対に思わないし、思えない。よくわからん(笑)。カシスじたいは、葡萄のように濃厚で甘酸っぱくて、少し暗さを感じる紫色の香りだ。そういうイメージはこのシャマードではあまり感じない。グリーンとフローラルのミックスにほんのり色を添えたぐらいの使い方をしているように思える。

そしてラスト。ジッキーのラストもいいけれど、ああ、このシャマードのラストは好きだな。共通しているのは上品なヴァニラだ。華やかで女性的で、ふくよかな多層フローラル。その下からゆったりと広がってくるパウダリーなヴァニラ。ここ大事。クリーミーなヴァニラではなく、パウダリーなヴァニラ。トワレなので白粉っぽさも少ない。サンダルウッドの香ばしさよりは、ベチバーの温かさの上に乗っかってる感じ。ほんのり残るフローラルの余韻に、きれいめヴァニラが五分と五分の「朋輩(ほうばい)」状態で出てくる。(ex.ドラマ「流星ワゴン」)ただ、ヴァニラは苦手という方もいるので、要試香。

全体に、女性らしさ全開だけれど、とても美しく、ツンとした気取りがなく、麗しい印象の香り。カチッとした女性のスーツにも華やかさを添え、ジーンズ等のカジュアルなスタイルにも、すっきり感が出て似合うと思う。

出だしがややグリーンで酸味のある印象なのに、やがて美しいフローラルが広がり、温かいパウダリーな香りで消えていく。言いかえると、これといってきわだった特徴を感じないクラシカルな印象とも言えるけれど、そこにはヒヤシンス、ブラックカラント、ヘディオンの投与など、当時にしては画期的な実験的要素をはらんでいて興味深い。1969年、ゲランの4代目調香師となったジャン=ポール・ゲランが7年の歳月をかけて作った、初めての女性用香水。それだけに、自分の才能を見いだしてくれた偉大なる祖父、ジャック・ゲランの作ったさまざまな名香に対する挑戦であり、彼への恩返しでもあった記念碑的な作品と言ってもいいだろう。

シーツのきぬずれの音。男の腕に頭をのせていた女が、ふと男の上に体を重ねる。
『私のこと、本当はどう思ってる?』
そうたずねる代わりに、人差し指で男ののどぼとけにふれながら言う。
「ねえ、何を考えてるの?」
男の胸の上にあごをのせて、下から表情をうかがいながら。
男はその上目づかいの瞳を見つめ、女の髪を優しくかきあげて言う。
「そのまま胸に耳をあてて聞いてごらん。」
女の、貝の形のような耳が、男の厚い胸にそっと押しつけられる。

そして女は聞いた。海鳴りのように強く、速い、勇壮な太鼓のような鼓動を。

『ぼくはもう、とっくに君に参ってるよ』

確かにそう聞こえた。女は微笑んで、男の胸に顔をうずめる。
それはシャマード。相手に「降伏」を告げる太鼓の音。男が女に告げる、幸福な降伏の音。

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ディオール / メゾン クリスチャン ディオール グリ ディオール

ディオールディオールからのお知らせがあります

メゾン クリスチャン ディオール グリ ディオール

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:40ml・14,850円 / 125ml・31,680円 / 250ml・45,100円発売日:-

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6購入品

2015/12/11 00:10:24

朝の森はグレイだ。こんもりとした黒いシルエットの木々。あたりに立ちこめる白い朝もや。その墨絵のようなコントラストは、思わず息をのむような美しいグレイだ。

グリ・モンテーニュは、ディオール調香師フランソワ・ドゥマシーが、2010年から発売しているディオール・フレグランスの特別ライン「ラ・コレクシオン・プリヴェ」の中の1本。高価な香料を惜しげもなく使い、1本1本のオー・デ・パルファンを並べた時の液体カラーのグラデーションにまでこだわった最高級のシリーズ。このうち、グリ・モンテーニュは、その名の通り、透明に近い淡いグレイの色合いを呈している。

「グレーを香水で表現するとしたら?

モンテーニュ通り30番地...ディオール メゾンの伝説的なアドレスが香りになりました。この洗練されたシプレー フレグランスは、ディオール グレーを野心的に解釈した香り。1947年以来コレクションに繰り返し登場するクチュール グレー、グランヴィルのディオール家に使われたグレー、モンテーニュ通り本店の外壁に使われているパール グレー。」

ディオール公式サイトにはこう紹介されている。このグリ・モンテーニュに込められた思いは、ディオールの輝かしい歴史そのものだ。さらに、美しきモダン・シプレーの傑作、ミス・ディオールへのオマージュも添えて。

グリ・モンテーニュは、そんなディオールカラーとも言えるグレイを冠した、朝の森のような清々しい香りを散りばめたシプレー・フローラルだ。

グリ・モンテーニュのトップは、一瞬のシトラスで開口する。爽やかで突き抜ける青い果実、ベルガモットの酸味。すぐに、墨やインクの匂いを思わせる湿った低い香りに包まれる。そして強烈な苦み。手首など体温高めのところにのせると、この辺の香りは短いのだが、ファブリック等に付けたときは、確かにシプレーの類だなあと実感できる。ゲランのミツコほどではないものの、苦みばしったモス系の雰囲気、パチュリの土臭さ&スパイシーさ。そこに、ほんのりアールグレイ的なコクが漂う。

やがて、手首で1〜2分、ファブリック等で10分ほどしてミドル。苦みや渋みが落ち着く頃、独特の透明感とともに、奥から甘ずっぱいフローラルが顔をのぞかせてくる。まるでグレイのしっとりとした霧の中で、つややかな香りを漂わせる一輪の花を見つけたような印象だ。それは、優雅で柔らかく、心を落ち着かせるかぐわしい花。そして周りには苔むした木々が、清涼感あふれる香りを漂わせている、そんな雰囲気になってくる。

このフローラルの正体はローズとジャスミンのようだが、ラズベリーのようなフルーティーさも感じられて心地よい。そして、じわりとしたモスの渋み、パチュリのアーシーな香りが、その輪郭をキリリと引き立てているよう。まさに貴婦人を思わせる香りだと思う。けれど、決してクラシックではない。うっとりするようなバランスで、それぞれの香料が拮抗し合っている。このミドルが好きだ。

やがて、手首では30分、ファブリック等では、1時間ほどするとラスト。フローラルが静かに消え入り、アンバーの甘さやパチュリのややレザー風な風味が増してくる。それは、よくあるムスク調のラストではなく、青い草のような、それでいてどこかスパイシーな苦みをもったラスト。苦手な人もいるだろうけれど、パチュリ系が好きな人は、このへんがくせになる感じかなと思う。数種類のモス系の香料をブレンドしているようだが、ミツコほど強すぎず、しぶ過ぎない点が、現代的なシプレーかなと感じる所以だ。

そして、最後の最後、意外にも、香ばしいサンダルウッドのような香りがふわりと現れて驚く。薄墨の森に金色の光が斜めから差しこんできて、現れたのは温かみのある茶色の木々の香り。そういった風情だ。

全体にキリッとしたモス系の苦みや渋みが、終始香りのボディを引き締めていて、フローラルにしては、とてもストイックな印象。背筋を伸ばして、スーツ姿で雑踏の街を闊歩するキャリアな女性のイメージが重なる。そういう意味では、シャネルのNo19やクリスタルなどのように、女性がビジネスシーンでも使いやすい香りの1つかも知れない。もちろんオフやカジュアルでもいける、汎用性の高いスッキリとした香りだと思う。気持ちを引き締めたいときにも似合うだろう。

朝の森。吸い込む空気は冷たく、木々のフィトンチッドの香りが胸に清々しい。葉と土の香りを包みこんでいたグレイのミストが静かに消えゆく頃、人知れず咲いていた花の花弁に、露の玉が静かに揺れる。新しい世界の光をそこに宿して。

Hello, New World! それは、シプレーのディオール型ニュールック。グリ・モンテーニュ。

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トム フォード ビューティ / ノワール オードトワレ

トム フォード ビューティ

ノワール オードトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2016/2/13 16:13:47

バイオレットシロップを使ったそのドリンクを初めて飲んだのは、14歳のときだ。フランスから帰国していた叔父が、ごく親しい者だけで開いたホームパーティーでのこと。そのとき、叔母がふるまったうす紫色のドリンク。思わず、目が釘付けになった。な、なにこれ?

「パルフェ・タムールが来た。さあ、飲もう。」病気を患って以来、アルコールをやめていた叔父が、紫色のドリンクに鼻を近づけ、うまそうに一口すすった姿を今も覚えている。パルフェ・タムールと呼ばれたそのドリンクを口元に運ぶと、それは甘いような苦いような、暗くて湿った花の香りがした。一口飲むと、かつて経験したことのないかぐわしい花の味に、「フランスの人っていつもこんな飲物を飲んでいるのか」と感慨深く感じた。

それがバイオレット・フィズのノンアルコール版だったことを知ったのは、もう少し後のことだ。ソルティ・ドッグやスクリュー・ドライバー、マイタイやチチなどのライトなカクテルが人気の「カフェ・バー」ブームがあった頃。街にはブランド服をまとったソバージュやロングカーリーの女の子たちがあふれていた。

トム・フォードのノワール・オードトワレは、そんな頃をふと思わせるバイオレット・フィズの香りがする。オープニングに使われているほんのりとしたレモンの香りも、このカクテルのレシピになくてはならない物だ。ウッディ&ムスクのベースは柔らかく平凡だけれど、ニオイスミレの暗くひっそりした香りが効果的に使われたフレグランスだと思う。

ノワール・オードトワレ(透明ボトル)は、トム・フォードが2012年に発表したノワール・オーデパルファン(黒ボトル)のコンポジションを受け継ぎながら、2013年に発売された。オーデパルファンよりも軽く、スッキリした雰囲気に仕上がっているのは、スペアミントの清涼感やシトラスとハーブオイルのアクセントを用いているからだろう。そのおかげで、パウダリーなアイリスが感じられるオーデパルファンよりも、ライトで使いやすい雰囲気になっているように思う。

とは言え、あのブラックオーキッドやグレイベチバーなどの初期の作品に比べれば、トム・フォードの作品は、おしなべて軽く、シンプルな構成に変わってきているように思う。それはプライヴェート・コレクション発表の頃から彼が言っている「香りが薄くなったらどんどんレイヤーしていき、1日の終わりには何種類かのブレンドが自身の体から立ち上っているのが好きだ」という言葉からも伺える。つまり、最近の立ち位置は、ジョー・マローンのフレグランス・コンバイニングに近いと言えるだろう。

この作品においてもそれは感じられ、トップに淡いレモンやシトラス&ハーブの雰囲気を感じたかと思うと、3分もしないうちからバイオレットの密やかな香りが主体となる。ニオイスミレをフィーチャーしたものと言えば、ペンハリガンのヴィオレッタがまず思い浮かぶが、あれほどスミレスミレしているわけではない。ほのかに暗く、ややアイリスの白粉っぽさに支えられて上品なイメージだ。とても穏やかで、スッキリしていて心地よいスミレの香り。注意深く背後の香りを感じようとすれば、バラの清涼感も感じられるけれど、全体にうっすらと香る印象。持続時間もオーデコロン並に短く、1〜2時間という感じ。最初から淡く、あっという間に消えていくフィーリング。ラストにはややヴァニラの雰囲気も。

中世フランスにおいて、ニオイスミレはバラとともに高貴な女性から漂う香りの象徴であったという。対して高級娼婦は、ジャスミンやチュベローズなど、蠱惑的でセンシュアルな香りを身に付けることが多く、香りだけでその女性の出自がある程度判断できたそうだ。

ノワール・オードトワレは、淡くて持続時間も短いが、その分、手首やうなじ、デコルテなど、肌が露出している部分に直接スプレーしても周りに大きな影響を与えないほど穏やかだ。

スミレやアイリスの香りは、とがった心を鎮静させ、落ち着かせてくれる意味で、アロマ的な効果も高いと思う。このトワレは、憂鬱とは言わないまでも、何か心に心配事や憂いを抱えているとき、一人になりたいけれど何だかそれも淋しいようなとき、そっと心に寄り添ってくれるような香りだ。特に、男性用にプレゼントを考えている人には、抜群のセンスを感じさせる逸品になるだろう。

パルフェ・タムール。バイオレット・リキュールの仏名の意味は「完璧な愛」。ニオイスミレの香りがするノワール・オードトワレは、静かに、けれど一途に人を愛し続ける人に似つかわしいフレグランスだ。

今はもう、天国の住人となってしまった叔父。彼の豪放な笑い声が好きだった。ノワール・オードトワレの香りに、彼が教えてくれたパルフェ・タムールの味が、今も重なる。

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ドギマギの夏さん
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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・混合肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・少ない
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • 食べ歩き
  • お酒
  • インターネット
  • 映画鑑賞
  • ファッション

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