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doggyhonzawaさん
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セルジュ・ルタンス / フルールドランジェ(Fleurs d'oranger)

セルジュ・ルタンス

フルールドランジェ(Fleurs d'oranger)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・11,000円 / 100ml・22,000円発売日:-

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2015/11/8 00:53:45

南スペイン、アンダルシアの州都セビリア。そこは、闘牛とフラメンコの町。春には、町中に並んだオレンジの木に、白い花々が一斉に咲き乱れ、太陽がその芳醇でまろやかな蜜の香りをまき散らす。この香りが町のあちらこちらにあふれ出すと、セルビアの人々は色めきたつという。それは、一年で最も重要なイベントの一つ、復活祭を祝うためのセマナ・サンタ(聖週間)の到来を告げる風。

それがセビリア・オレンジの白い花々の香り。ルタンスのフルール・ド・ランジェ。2003年、クリストファー・シェルドレイク調香。スクウェア・ボトルに、オレンジの液体色が映えて美しい。

トップは、スッキリした苦みのある柑橘の香りが一瞬。そしてすぐ、甘くふくよかなオレンジフラワーとジャスミン系のフローラル・ミックスが広がる。通常のネロリの精油に比べて、苦みやスパイシーさが強いオープニング。クレジットにあるセビリア・オレンジは、実が苦く、マーマレード以外、生食はほとんどしないビター・オレンジだという。そのへんのキリッとしたドライな皮の雰囲気と、花の香りの共演とも感じられる。

5分後、白い花のブーケ香にスライドする。高音でオレンジフラワー、中音域でコクのあるジャスミン、さらに低音の方でチュベローズの和音。ややジャスミンが強めかという感じ。キンモクセイっぽいテイストでもある。そして、特筆すべきは、ホワイトフラワーブーケの奥に、ややアクの強いスパイス香が感じられる点だ。

軽くかいだだけでは分からないが、少し強めに香りをかぐと、そこには鼻腔の奥を刺激するスパイス類の存在を確かに感じる。クレジットにあるように、カレーの香りっぽいクミンやスッキリしたキャラウェイ、ややじんわりとしたナツメグっぽさが、時折明確に顔を出す。

さらに、ミドルあたりからは、日焼けした肌の匂いのようなスモーキーさと酸味がほんのり感じられる。シベットが少し使われているらしいことと、ジャスミン香を放つインドールの加減、さらにベースのムスクとの調合で、そうした体臭っぽいややダーティーな香りが時折するのは事実だ。それはアンニュイで、ちょっとドキリとさせられる部分。

やがて、ラストは、ジャスミンとチュベローズの中低音と、前述のややアニマリックな混合のうちに消えてゆく。ミドルからラストへの変化はあまり感じない。ここまで2時間〜4時間。白いフローラルミックスの香りは濃厚で、ラストのムスクっぽい淡い香りの上でも、最後まで香っている様子。

全体に、ねっとり甘く、ホワイトフラワーブーケの蜜の香りを呈するが、その背後にスパイスやアニマリックが思ったよりも強く出ていて、相反する光と影の両面が感じられる構成。それはまるで、南スペインの春の日差しの下、咲き乱れるオレンジの花々の枝や葉の隙間から、暗く黒い影の息遣いが感じられるかのよう。

ボディが強めで、濃厚。だから、日本では夏以外の季節の使用が比較的よいと思う。付けるときは、背後から絶えず主張してくるスパイシー&アニマリックな暗いベースの強さも考えて、ウェストから下がよいかと思う。上半身、あるいは、直接肌が露出する場所に付けると、周囲に「ムワッと感」「ファッティ感」をアピールしてしまう場合もあるかと。それほど付け方に配慮が必要な押し出しの強さ。

それでもこの香りの一番のよさは、ネロリ系のもつ「不安やストレスを取り除いて気持ちをゆったりとさせてくれる」雰囲気が強く味わえる点だと思う。女性ならバッグに香り付けしたハンカチや紙を入れておくのもいいかも知れない。特に、仕事中、ふっと気持ちを抜きたいときに嗅ぐと、リラグゼーションにもなると思う。ルタンスの中では、スパイスの香りやウッディ系の香りがまだ柔らかめな方なので、使いやすい部類だと思う。

スペインのセマナ・サンタ(聖週間)は、文字通り、キリストの復活祭を祝うための重要な7日間。この時期、街中には、キリストの受難や聖母マリアの悲しみを表現した豪華絢爛な彫像を乗せたパソと呼ばれる山車が出て、昼夜を問わず巡行するという。特に、セビリアのセマナ・サンタは、派手でにぎやかなことで有名だそうだ。

厳かな楽団の演奏の中、三角の頭巾とマントを身に付けた男たちが先導し、悠然と進むパソ。そこには、連れ去られていくキリストの憂いの横顔も見える。そんな巨大な山車の周りに人々はごった返す。7つの昼と夜の間、人々は熱狂に包まれる。

やがて最後の夜が訪れ、闇が太陽にとって代わる頃、酒の匂いと、復活祭を迎える人々の熱気やムンとした体臭がまじりあい、オレンジの花の香りを一層濃厚に、狂おしく彩る。

それは、セマナ・サンタ・フェスタの夜の匂い。闇に咲き乱れるその五つの花弁の花は、人々に福音をもたらす地上の白い星々。

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ゲラン / アクア アレゴリア ネロリア ビアンカ

ゲラン

アクア アレゴリア ネロリア ビアンカ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:75mL・9,790円 (生産終了)発売日:2013/6/1

4購入品

2015/8/13 00:06:23

アクア・アレゴリアとは、「水の寓話」の意。寓話とは、擬人化された動物などが活躍する教訓を目的とした短い物語。イソップ物語やラ・フォンテーヌの作品が有名だ。

「水の寓話」と聞いたとき、真っ先に思い浮かんだのは、そんなイソップ物語の1つ「カラスと水差し」。のどがカラカラに乾いたカラスが、少しだけ水が入った水差しを見つける。その中の水を飲もうとするが、カラスの短いくちばしは細長い水差しの下まで届かない。カラスはあれこれと試行錯誤を試みるが・・・といった話。

ネロリア・ビアンカは、これまでたくさん出ているアクア・アレゴリアの1本。2013年に、ゲランの5代目調香師ティエリー・ワッサーによって作られた。彼はこの香りの造詣に「ビターオレンジの木陰でゆったり休むひととき」というシーンをスケッチし、ビターオレンジの木の全ての部分を再構築しようとしたという。白い花、果実や小枝、葉の香り、それら全てを用いたオレンジ色のアコードを。

トップ。ツンと主張するレモン様のシトラスの酸味が一瞬。その後ろからオレンジ果実のような甘み。そしてぐいぐい広がってくる苦み、それはオレンジの葉、プチグレンが放つウッディで青臭い感じ。その多層な重なりが楽しめる。ところがところが。その背後からすごい勢いで重たいフローラルがやってくる。あ、ネロリっぽい香り。そう思った瞬間、それは、すっと別のフローラルにとって変わる。それは、ネロリのようでネロリではない。おそらくイラン・イランと合成ムスクのミックス香。

5分後、一瞬ネロリっぽいと感じた香りはすでに跡形もなく、ただひたすら、穏やか、かつまろやかに調整されたようなイラン・イランの低く妖しいフローラルと冷たい石けんぽさを伴ったホワイトムスク系のミックス香が全体を支配してくる。

これはとても強い「匂い」で、ほぼ1〜2時間全く同じテイストで定着し続ける。合成香料の強さがひたすら出ている感じだ。なるほど。ルーム・フレグランスやファブリックに使用できるというのは、こういう点を言うのかも知れないと思う。人工的でのっぺりとした直線的な香りがずっと続く。

そして1〜2時間後にラスト。と言っても、ミドルとほとんど変わらない香り。だから、トップのシトラスがはじけた後の、イラン・イラン&ムスク系のやや重たげな香りが好きなら、この香水は「買い」ということになる。

全体的に、「白のネロリ」というよりは、「イラン・イラン風ムスク、オレンジ添え」といった印象。ネロリ本来のもつ深くふくよかな花の香りには、ちょっと遠いかなという感じ。アクア・アレゴリアには、以前にもネロリをフィーチャーした「フローラ・ネロリア」(2000)があったが、こちらは、ジャン・ポールがネロリ&ジャスミンというスケッチで創造した香り。と考えれば今回は、ティエリー・ワッサーが、ネロリ&イラン・イランに挑戦した作品だったかなと思う。

イラン・イランはとても強く重たいフローラルだから、ミドル以降は、印象が暗く妖しく感じられるかも知れない。出だしの香りはシトラスでさわやかだけれど、だんだん重く変化する展開なので、夏向きのように見えて、割にデイタイムにはそぐわない気がする。

むしろ、オレンジの木々が作る「木陰」の印象。オレンジの芳香が漂う庭園にあって、木陰にチェアーを置いて、湿った土の香りや木の香りをかいでいるような感じだ。そういう意味では、夏の夕方〜夜までのしっとりした時間帯に使うと、落ち着いた雰囲気になっていいかもしれない。もちろん好みの問題だけれど。

2015年、アクア・アレゴリア・シリーズは、お茶の香りをイメージした新製品「テアズーラ」を発売した。これにより、これまでのならいとして、また1本シリーズから香りが姿を消すことになった。それが、このネロリア・ビアンカだ。

好きな香りが廃盤になることはとても悲しいことだ。けれど、これからもゲランは、「水の寓話」を通して、さまざまな試行錯誤を繰り返して教訓を得ていくのだろう。イソップの「カラスと水差し」のカラスのように。

カラスは一生懸命考えた。そして、遂に深い水差しの底にある水を飲む方法を思いついたのだ。その短いくちばしで小石を運んできては水差しに入れ続けた。やがて水面は上がり、カラスの短いくちばしでも水を飲める高さになったのだった。

「必要は発明の母」。カラスと水の寓話はそんなことを教えているのかも知れない。ネロリア・ビアンカは、今後少しずつ市場からは消えてゆくだろうけれど、その香りのアイディアと記憶は、「ビターオレンジの木陰でゆったり休むひととき」のイメージとともに、いつまでも忘れずにいたいと思う。

さよなら、ネロリア・ビアンカ。

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アトリエ・コロン / Vanille Insensee

アトリエ・コロン

Vanille Insensee

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2016/1/11 16:48:10

ヴァニラ・アンサンセ。それは、ミステリアスなヴァニラ。自分がどこから来たのか、どこへ向かっているのか、そして、何のために生かされているのか。そんな灰色の霧の中をさまよっているかのような気分にさせるヴァニラ。

ヴァニラ・アンサンセのトップは、スッと柑橘の苦みが通り抜けて始まる。クレジットにはライムとあるようだが、つけていて「あ、ライムだな」とは感じない。鼻を一瞬通り抜ける苦みだけだ。

3分もせずミドル。キリッとした別の苦みが前面に出てきて、透明感のある香りになってくる。さらに、奥からほの暗い陰影が染み出してくる。この影の部分は、おそらくクレジットにあるベチバーのウッディっぽさ、土っぽさだろう。ただし、主張は柔らかい。ほんのり漂う木や土の香りといった風情。抑制のきいた、甘苦いような香りが静かに漂う。

トップからミドルに変わっても、主張は絶えず穏やかで、ときどき「本当に香っているのかな?」と鼻を疑うこともあるほど。そしてなぜか心がそわそわする。もちろん個人的な感覚だが、何となくヴァニラのイメージとは遠くかけ離れた、不安な気持ちにさせられるミドルだ。下から出ているわずかな甘さが、グルマン系のキャラメリゼされたようなそれではなく、漢方薬の成分が発するようなじわりとした甘さで、そこにくっきりとした苦みが寄り添っているせいかもしれない。そんなミドルが1時間ほど続く。

やがて、そのほの暗いストイックな香りが、落ち着いた、品のいい甘さをもったヴァニラの香りに変化してくることに気付く。そんなラスト。それは、ちょっと人見知りな感じの、ひかえめなヴァニラ。甘くなく、クリーミーすぎず、けれど、芯はふくよかで温かみを感じさせる大人ヴァニラ。

全体的に見ると、トップに得られたライムの苦みとスッキリ感が、そのままミドルでモス系の苦さにつながり、ベチバーの湿った暗さと相まって展開しながら、そのまま揮発してラストにまろやかなヴァニラに変わった感じ。ミドルにはジャスミンのクレジットもあるが、自分にはあまり感じ取れない。そして終始「なぜこんなに抑圧的なんだろう」「なぜ、何かが足りないような気になるんだろう」といった思いが心によぎる香りだ。

控えめでクールな香り立ちを考えれば、付けるシーンはあまり選ばない汎用性の高い香りと言えるかも知れない。特にラストのヴァニラがきれいめで、主張し過ぎないことから、ヴァニラが苦手な人でも、試してみるとよいと思う。人の多い場所でも周囲にわずらわしさを与えず、ほんのりと漂い続ける点は、日本人にとってもつけやすい部類の香りだろう。コロン・アブソリュの底力で、2日くらいヴァニラがほのかに残るから、服などについた残り香を楽しむことも一興だ。

ありそうでないこの香りを何かに例えるなら、さながら「小麦粉を散らかしてしまったキッチンの香り」、あるいは、図書館の片隅で、しばらく誰にも手に取ってもらえなかった本を開いたときに漂う、ほこりっぽい紙の香り、といった雰囲気。ほんのりとしたヴァニリンの甘さから、そんなイメージが思い浮かぶ。

うす曇りの冬の図書館。通る人を威圧するかのように、行儀よく向かい合って並んだ書架の黒いシルエット。その向こう、大きく切り取られた窓から、低く斜めに切りこんでいる冷たい冬の光。窓外に広がる枯れた芝生の稜線。彼方に小さく見える森の木立。灰色にくすんだ空。

ヴァニラ・アンサンセは、何かとても大事なものを失いそうな冬の午後に似つかわしい香りだ。淡くて冷たくて、どこか内省的に思える雪のひとひらのようなヴァニラ。何かが自分に欠けているようで、そしていつもそれを追い求めているかのような切なさも感じられる。ジョー・マローンでもないのに、なぜか他の香りとレイヤーしたくなるのも、そんな印象のせいかもしれない。

曇天の空の下、どこまでも枯れ野を歩いて、そぞろ歩きをしてみたい。そんな気分になる不思議な香り。たとえ何一つ大事な答えなど出ないにしても。

ヴァニラ・アンサンセの香りと思い出を抱えて、風に舞い始めた小雪の中を。

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Kat Von D / Saint

Kat Von D

Saint

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2019/1/26 12:53:22

「タトゥーを隠せるほどのカバー力」で有名なリキッドファンデーションがある。アメリカで人気の「Kat Von D(キャット・ヴォン・ディー)」というコスメブランドの商品だ。セフォラ系なので残念ながら日本では未発売だが、メイクアップアーティスト必携とも言われる彼女のコスメも、ネットでは簡単に入手できる。本当にいい時代になったものだ。

キャットヴォンディーはアメリカの女性刺青師で、その多才さゆえに、モデル、ミュージシャン、TVパーソナリティとしても名を馳せ、2008年から自身の名を冠したコスメブランド、「キャットヴォンディー・ビューティー」を展開している人物だ。自身も身体中にタトゥーをほどこし、HR/HM系バンドとも交流が深く、コスメにもゴシックやロック系のテイストが漂っている。とはいえ、単なるキワモノではない。特に前述のリキッドファンデーション、シェード&ライト コントゥアパレット、そして食べても飲んでも落ちないといういわくつきのリキッドリップなどは、海外セレブからの賞賛の声も高いようだ。

そんなキャットヴォンディーが2本の香水をリリースしている。もちろんこちらも日本未発売だ。初めてボトルを見たとき、グッときた。古典的な百合の紋章、フルール・ド・リスを思わせる波形模様を幾重にも絡み合わせたゴシックなボトルデザイン。白いボトルのセイント(聖人)、黒いボトルのシナー(罪人)、その宗教的対比。すぐさま頭に浮かんだのは堕天使サタンと悪魔人間デビルマン(←昭和だな)。これは絶対に入手しなければならないと心がはやり、試香もせずにポチッとネット買い。(←多いよな)

というわけでボトル&ネーム買いした2017年発売のセイント・オードパルファム。その香りとは?

トップ。つけた瞬間にベリーのような激甘フルーティーな香りが漂う。あ、よくチープな香水にある香りだと残念に思うイントロ。すぐさまその下から苦い香りが広がってくる。プラスティックのようなやや硬質で苦みのある香り。構成を見ると激甘フルーティーさはミラベルのようだ。かつて香水調香を体験した際に嗅いだ、酸味がなく甘い香料の一つだと思い出す。下から広がる苦みはカラメルっぽいロースティーな香りだ。

つけて3分もすると、甘さが次第にまろやかになってきて、柔らかいジャスミンの香りが感じられるようになってくる。主張は弱い。同時に、強烈に甘いカラメルの茶色い香りも強くなってくるのを感じる。甘い、甘すぎる。いまどきこんなに甘い香りはプラダのキャンディが好きな人でもつけないだろうというほど甘い。うーん、よくあるセレブ香水の失敗作かな、とあきらめかけるが。実はセイント、ここからがなかなかいい。

30分ほどたつと、ミラベルとカラメルのダブルパンチな甘さは次第に薄れてきて、全体をクリーミーなヴァニラと透明感あるムスクが支配するようになる。まるで最初からずっとそこにいたみたいに。さながら、どんなに悪魔が甘い言葉で誘惑しても、穏やかに微笑して屈しなかったイエスのよう。支配されていたのは最初から悪魔の方だった。

ほどよい甘さが残ったヴァニラはまろやかで天使の羽根のように軽い。ジャスミンは時折ふっと顔をのぞかせる楽園の花の香りのごとく。そしてムスクは、天上の風のように優しく透明感があって心地よくたなびく。つけてから30分したセイントはとても安らかな香りに満ちている。聖人は最初からここにいたのだ。

ラストはカラメルの甘さが消え、ピーチ様のコクのあるフルーティーな甘さにスライドしてくる。ピーチがラストに出るのは珍しい感じだ。このピーチがヴァニラのクリーミーさ、スッキリしたムスクの風を連れてドライダウン。持続時間はとても長い。9〜10時間以上も香りが続く。まるで神の国の存在が永遠であることを暗示するかのように。

正直トップの苦い甘さは強烈で、そこで「無理」と思う人は多いかもしれない。特に春〜夏やビジネスシーンにはきついだろう。だが秋〜冬の乾いた空気の中では、このグルマンな甘さは需要がある。付けるなら圧倒的に下半身推薦。ウェスト、腿の内側、ひざ裏あたりから上へとのぼらせるべき香り。決して肌の露出してるところにスプレーしないでほしいタイプ。甘さが強いので、人の鼻から遠くに置くべき香り。

人はだれしも心に2つの側面をもっている。聖なる魂、罪深き魂。その両方を抱えて生きている。どこまでも聖なる美しさを求めつつ、人の身体にタトゥーを彫り続ける罪深さも背負い、キャットヴォンディーはこれからどこへ向かっていくのだろう。

聖なる者の香りを感じながら、ふとそんなことを考えた。

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ラルチザン パフューム / オンドソンシュエル

ラルチザン パフューム

オンドソンシュエル

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2015/8/20 13:06:48

「本や香水って、生きていくのには必要ないけど、生きているって実感するためには必要でしょ」(山田詠美「放課後の音符」より)

男女の営みへの興味、そしてそれに伴うしがらみ。思春期の男の子の頭の中なんて、99%がそのことで占められている。おっと、卑怯な言い方だった。自分の思春期はそうだった。

そんな性的な事柄だけが、世界の唯一絶対の事実だと感じていた思春期まっただ中の頃、山田詠美さんの作品群に出会えたことは本当に幸運だった。むさぼるように読んだ永遠の夏のような日々を、今も昨日のことのように思い出す。冒頭の名セリフは、今も心に焼き付いている言葉の一つだ。

オンド・ソンシュエル(欲望・官能の波)の香りを初めて身に付けた時、これまでにない衝撃を受けた。絶対にどこかでかいだことのある香りなのに、どうにも特定できない。ほぼ1ケ月、毎日つけていた。けれどやはり思い出せない。分からない。ただ一つ感じたのは、これはとても危ういバランスの上に立った、何か危険な香りだということ。まるで、心に欲望の爆発を起こすための導火線や火薬のような。

トップ。シトラスとスパイスの爆発から開口する。シトラスといっても、グレープフルーツ様の苦みが強く出ているだけで、スパイスミックスの香りが9割といった印象。まずペッパー、ジンジャーの鼻孔の奥を刺激する辛みを感じる。この2つは精油になると、キッチン用スパイスの風味とはかなり異なる香りだ。そしてシナモンやクローブの痺れるような風味も出ている。いわゆるホットスパイスのミックス香全開だ。もし若干でもグレープフルーツ様のフルーティーな苦みがなければ、これは香水として感じられないギリギリの線。

やがて5分ほどでミドル。ホットスパイスの熱がすっとひいていく不思議。ただ、まだ温かみが残る全体の雰囲気に、すっとしたウッディ系の清涼感、森の針葉樹から感じるような香りが少ししてくる。これがジュニパーベリーとカルダモンの主張だろうか?ややクールだ。そしてホットスパイスとアイシーな香りの危うい拮抗となる。情熱と冷静のあいだ。外へ広がろうとする赤と、内へ鎮静しようとする青が混じった雰囲気。そう、紫色の香り。

そうか。だから、「エクスプロージョン・オブ・エモーション」第二弾の3つのオー・デ・パルファンは、ヴィヴィッドなパープルの化粧箱に包まれているのかも知れない、ふとそんなことを思う。

苦くスパイシーなミドルは、刻々とさまざまな香りの表情をうかがわせる。ときにゾンカのように漢方薬づけのセロリのような風味を呈したかと思えば、ときに森の中で針葉樹の葉を手でもぎとったような清涼感を得る。また、うっすらとクリーミーなフローラルを感じたかと思えば、酸味と香ばしさと伴ったウードの深みを感じるときもある。全ての香料が等しく主張しあい、自分の心や体のありようによって、さまざまな感情の波のように、ふわりふわりとそれぞれの香りが顔をのぞかせて揺らめくといった様子。とても不安定。

やがてラスト。けれどこれはもっと明瞭な色を失う。知らず知らず夏の暑さにやられた自分の肌の匂いや汗の匂いのようにも感じられ、消え入りが早い。何か自分の匂いと同化してしまったような錯覚を得るラストだ。ベースには、ムスク、ウード、アンバーがクレジットされているようだが、これらの配合のミックスが、少し合成ビニールっぽいようなフェードアウト。まるで、セロリ料理の後に残った塩コショウのようなラストだ。とても不思議な感じ。

全般的に、オンド・ソンシュエルの香りは、料理に使うミックススパイスの袋を開けたようなシャッキリする辛みと苦み、熱を感じさせる。甘味はない。中華料理に使用するミックススパイスに「五香粉」というのがあるが、そのシナモンを弱くした感じ、あるいは、龍角散や仁丹のもつ辛くて甘苦みをもった漢方系素材の味。そんな雰囲気が強いので、香水として使うには、かなりこれ系統の香りが好きな方でないと難しいかもしれない。

ここまで書いてはたと気づく。そうか、この香りはやはり、肉料理に使うスパイス以外の何物でもない。とすれば、人間という生身の肉にふりかけるスパイスだ。まるで、宮沢賢治が「注文の多い料理店」で、猟師たちの体中にクリームや、香水と偽って酢をすりこませたように、誰かにおいしくいただいてもらうための。

俺も香りに感化されたのだろう。肉欲と料理の狭間の危険なゾーンに話がいきそうになる。

オンド・ソンシュエルはそんな、人の根源的な欲望を揺らす波。食欲や性欲への情熱と、それを鎮静化させようとする冷静さの間で揺らめく感情の揺らぎ。赤と青の間でたゆたう心に、「ほら、あなたは生きている」とささやく、紫色のスパイシーな誘惑。

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ドギマギの夏さん
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プロフィール
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