2022/12/9 08:44:31
今年7月に発売された「メゾンクリスチャンディオール トリロジーコフレ」にて再び日本でも発売された「オー ノワール」。元々クルジャンの作品であるため、本人によるセルフカバーということになる。以前のものはあまりの個性に「人類には早すぎる香り」と感じたが、作者本人による渾身のリフォーミュラ版はどんな香りなのだろうか?
初代やフランソワ・ドゥマシーによるアレンジ版は暗緑色に着色されていたが、これは薄い黄色でなんだかとても普通(?)っぽい。裏の成分表示を見てみると、無着色になったようだ。これから発売されるであろうメゾンクリスチャンディオールのシリーズも着色料フリーになるのだろうか、そんなことを考えながらスプレーしてみる。涼やかなラベンダーだ。シャープなメンズっぽさよりも、柔らかなフローラル感が強い。3種類のラベンダーアブソリュートが使われているらしい。付けてからだいたい2、3分くらいはこの嫌味のないラベンダーが心地よく香る。このままアロマティックな展開か、ウッディにまとまってくれれば普通の香水。
ここからが問題だ。待ってました!と言わんばかりにスパイシーな香りがガンガン主張してくる。ペッパー、サフラン、コリアンダー、ジンジャー等なら香水としてはよくある香りだが、実際の所はカレーの香りである。いや、カレー煎餅?ちょっとラベンダーの余韻がするカレー煎餅。相変わらずのキャラクターで安心したような残念なような、臭いとかキツいとかいう問題ではなく、なんとも評価に困る。カレーが嫌いなわけではないが、自分の身体から香らせるのはちょっと…。
香りを持て余していると、ふっと香りがガラリと変わる瞬間があった。さっきまでのスパイシーな香りはどこへやら、なんとも美しい、チョコレートのようなコクと、蜂蜜のようなファセットのあるスイートアンバーに豹変していた。そこにリコリスの冷たい甘さも加わりながら滑らかにドライダウンしていく。トップからミドルまでで約1時間、ドライダウンは3、4時間ほど続く。
どうしてもスパイシーなカレー香ばかりに目がいきがちだが、柔らかなラベンダーのフローラル感と、ドライダウンのアンバーの甘さは非常によくできていてクルジャンの本気度が伺えた。リフォーミュラというとどうしても「薄めた」「安い材料に切り替えた」とマイナス意見を言われがちだが、トリロジーコフレ3種に関してはむしろグレードアップしたのではないかと思う。
トリロジーコフレが発売されてから約5ヶ月、メゾンクリスチャンディオール関連には新しいフレグランスの情報はまだない。新作を望む気持ちもあるが、今までが若干ペースが早過ぎた感もあるため、少々間があいたとしてもクルジャンには自分が納得のいく作品をリリースしてほしい。
トップ:ホワイトタイム、クラリセージ
ミドル:ラベンダー、バージニアンシダー
ベース:バニラ、グリーンステム、リコリス
調香師は、フランシス・クルジャン。
(parfumoより)
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2022/11/18 12:59:07
ウード系フレグランスは雨後の筍の如く巷に溢れ返っている。ニッチもファッションブランドもウード、ウード、ウード!もちろんジバンシイも例外ではなく、ウード主体のシリーズ「ド ジバンシイ インテンス」をローンチした。ユベール・ド・ジバンシイ本人がかつて過ごしたサロンや邸宅からインスパイアされたシリーズということになっていて、今のところ三種類から構成されていて、この「ノクタンブル」は、煌びやかな仲間たちが集う真夜中のパーティのイメージだそうだ。
ボトルは黒透明のグラデーションになっていて、少し中の香水自体の色が透けて見える。薄いワイン色はボトルのグラデと相まってとてもカッコいい。磁石でパチっとしまる蓋をとって付けてみると、チリチリと人肌を思わせるスパイシーな香りからスタートする。この感じはクミンだ。スパイスに凝っていたときに調べて知ったのだが、クミンは人の体臭に近い香りがする。その下から、まだ咲ききってないグリーンのニュアンスがあるローズの存在も感じる。
クミンが馴染んで消えると、ローズの香りがグンと強くなる。ノクタンブルのローズは蜜のように甘く香り豊かでとてもフェミニン。奥からはドライなウッディと暗いウードが香ることで、よりローズの香りが際立っている。ここのローズ主体の香りが2、3時間続く。
ローズの甘さはじわじわとトーンダウンし、奥に隠れていた乾いたウッディが強くなってくる。レザーのニュアンスも出てきたようだ。ローズはほんの少しだけその余韻を残しながら、どんどん暗さを増すウッディレザーの香りに包まれてドライダウンしていく。ベースの香りは5時間ほど香り、持続は全体で7,8時間ほど。
ローズとウードという組み合わせは様々なブランドが出している大変ポピュラーな香調だが、色に喩えると黒を思わせるダークなウッディを背景に甘く香るローズはとてもクールでセクシー、真夜中のパーティのイメージにはよく合うだろう。ウード感やスパイシーなニュアンスが強いとニッチ寄りの香りになるが、ノクタンブルはローズを強調することでファッションフレグランスとしての華やかさを残していてよい塩梅だと思う。価格はよい塩梅ではないけど。
トップ:グラースローズ、クミン、ピンクペッパー
ミドル:パピルス
ベース:アガーウッド
調香師は、アネ・アヨ。
(fragranticaより)
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2022/11/11 18:12:32
モンパリと並んですっかりイヴサンローランのアイコンフレグランスとなったリブレシリーズ。一度流行り出すとアレコレ派生作品が発売されるのはファッションフレグランスあるあるで、リブレシリーズも例外ではない。オリジナルのEDPに続き、EDPアンタンス、EDT、そして今年四作目の「リブレ ル パルファム」。シリーズ史上最も濃厚で深く香りが続き、新時代の色気を象徴する、というキャッチコピーだ。
濃厚だというくらいだから、確かに香水自体の色は濃い。当然のように着色だけど。さっそくスプレーしてみる。トップから甘いな。リブレシリーズ共通のフルーツキャンディみたいなポップな甘さ。「ルパルファムは他のリブレと違ってトップにジンジャーとサフランが入っていて温かみがある香りなんですよー」なんて説明を受けたが、んー、正直サフランもジンジャーも存在感がなくてよくわからない。多少スパイシーなニュアンスがあるかな、という程度。
やや水っぽいオレンジも加わり、リブレの代名詞といえるラベンダーとオレンジブロッサムが展開してくる。リブレシリーズのラベンダーは清涼感はあるもののけっこうフローラル感が強いフェミニンなタイプのものが使われていて、もちろんこのルパルファムもそう。合わせられているオレンジフラワーは甘さ強め、ちょっとジャスミンっぽいニュアンスもある。ラベンダーは割と早めにフェードアウトし、オレンジフラワーとジャスミンの二重奏がだいたい二、三時間ほど続く。
最後はバニラとトンカビーン、ライトウッディがホワイトフラワーを緩やかに支えながらドライダウンしていく。香り持ちは全体で五、六時間ほど。「リブレ史上最も濃厚」というキャッチコピーではあるが、アンタンスや通常EDPとそう変わらないかな、という印象だ。香りの構成だけ見ているとニッチやメゾンフレグランスにありそうな香りだが、よくも悪くもファッションフレグランスのメインストリームといったところ。
日本語ではカッコがきでパルファンと書いてあるが、アルファベット表記シールはEDPだ。EDTやEDPといった賦香率別の名称に法的拘束力はない。賦香率1%のものをPと言ってもいいし、賦香率30%のものをEDCと言ってもいい。もう少し香り自体に他バージョンと一線を画すような濃厚さや深みがあればあえてそういう表記にしたのかなと思えるが、なんだか狡い印象で微妙にケチが付いてしまったのは残念だ。
トップ:ジンジャー、サフラン、マンダリンオレンジ、ベルガモット
ミドル:ラベンダー、オレンジブロッサム
ベース:ブルボンバニラ、ハニー、トンカビーン、ベチバー
調香師は、アン・フリッポとカルロス・ベナイム。
(fragranticaより)
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2022/10/27 14:00:50
昨今のウードブームに乗ってゲランのラールエラマティエールからもウードメインのフレグランスが3種、本格展開を開始した。その内のひとつが、この「ウードヌード」。着想元は、20世紀を代表する彫刻家であるコンスタンティン・ブランクーシの彫刻だそうだ。
ウード系だから香水の色は濃いめかな、と思っていたが意外と淡い。この色がヌード感を表しているのか?とどうでもいいことを考えながら付けてみる。はっきりと存在を感じるのはツンとビターでアロマティックなアーモンドの香りだ。同時に、ジリジリと人間の体臭を思わせるようなスパイシーさも感じる。これはクミンだな。以前、スパイスカレーに凝って香辛料をあれこれ使っていたときに知ったのだが、クミンは体臭、もっと具体的な言い方をするとワキガのような香りがする。もちろん香水なので、ウードヌードのクミンの香りは不快感を覚えるほどではない。
人肌系スパイシーな香りが馴染んでくるとバニラのとろっとした甘さが出てくる。ウードヌードには昨年の限定シャリマー「シャリマーミレジムヴァニラプラニフォリア」や今年発売の「アクアアレゴリアフォルテ マンダリンバジリック」にも使用されているバニラチンキが入っているらしい。このバニラチンキは、単なるバニラの甘さだけでなく、ウッディでスモーキーな味わいもある非常に素晴らしい香りがする。ワッサーもジェルクもこのバニラにすっかりハマってしまったんだな。バニラの奥からはローズの蜜っぽい甘さもあってとても華やか。ときおりトップのアーモンドの余韻がベリーのようなニュアンスに感じられる場合もあってそれもまたいい。
ドライダウンになると、バニラチンキのどっしりした甘さを中心にシダーウッドの軽やかで明るいウッディ、そしてウードの重暗い香りがようやく出てくる。これに使われているアッサム産ウードは、確かにダークな印象はあるものの比較的軽め、いわゆる獣臭さはかなり抑えられていて上品な雰囲気。そして、最後に残るのはうっとりするようなバニラの芳醇な香り。持続は10時間以上。
ウード自体が軽やかな分、ウード好きには物足りないだろうが、その分日本でも使いやすく仕上がっている印象だ。なにより、ラストの甘美なバニラの香りには抗い難い。ドゥーブルヴァニーユやアンジェリークノワールがお好きな方には特にオススメだ。
ノート:ウード、ブルボンバニラ、アーモンド、アトラスシダー、サンダルウッド、ローズ、ラズベリー
調香師は、デルフィーヌ・ジェルク。
(parfumoより)
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2022/10/14 13:54:42
「これはあんまり好きじゃないから買うことはないな」と思っていても、ディスコンと聞くとなんだか欲しくなってしまうもの。私の中でその筆頭が「ダービー」で、ホントに私に必要なんかいな、と迷いつつも2021年の高級ラインの再編成時に入手した。結果的には手元に置いてよかったと思っている。
ダービーの初出は1985年、初代はハーバルなグリーンシプレー調だったらしいが、十年持たずにいったん廃番になり、その後リフォーミュラされビーボトルで復刻。そしてボトル全体を木枠で囲まれたメンズエクスクルーシヴ(レ パリジャン)のシリーズの中のひとつとして2021年夏まで売られていた。
ゴツく持ちにくい、けれどカッコいい黒い木枠のボトルをスプレーすると、ゲランらしいベルガモットの香り。ジリジリとしたクローヴらしきスパイシーな香りもする。旧メンズエクスクルーシヴ仲間の「シャマードプールオム」や「アルセーヌルパンルヴォワイユ(現エピスヴォレ)」もシトラス×スパイシーから始まるが、ダービーのトップはなんだか地味というか落ち着いていて、エネルギッシュな若い男性というよりもっと年齢が上のジェントルマンをイメージさせる。
クローヴが演出するスパイシー感の下から、埃っぽく乾いたローズの香りが広がってくる。蜜っぽいフェミニンな甘さがほとんどなく、辛口でドライフラワーのようだ。スパイスを引き連れて香るローズは、キリリとしていてとてもクール、メンズフレグランスらしいバラだ。ここまでで2、3時間ほど。
ドライダウンになると、レザリーな苦味、ベチバーやバーチのウッディさ、オークモスのシプレ感がローズを薄茶色に染める。そして最後にはレザー×モスのビターなシプレだけが残る。ドライダウンだけでも5、6時間は香るためEDTではあるがかなりのロングラスティング。
クラシカルなスパイシーシトラス、クールなローズ、レザリーシプレに複雑に変化していく流れは今流行りの香調ではないが、非常に作り込まれていて香水好きの人ほど高評価を下すだろう。季節的には秋の涼しくなってきた頃が一番良さがわかる香りだと思う。
しかし、ダービーは旧メンズエクスクルーシヴの中ではダントツにメンズ感が強い&クラシカルな香調のため、昨今の流行の波に乗れずディスコンになってしまったのだろうか。
それにしてもゲランは本当に廃番が多い。
このままでは廃番品ばかり集める亡霊になってしまいそうだ。
トップ:ベルガモット、オレンジ
ミドル:カーネーション、スパイス、エキゾチックウッド
ベース:レザー、バーチ、ウッディノート
(fragranticaより)
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