- Cookieyukiさん
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2020/2/23 04:35:08
ヴィンテージのファムを手に入れた。1944年に発表されたフルーティシプレーでエドモン ルドニツカ作。日本でも海外でもファムの口コミにはリフォーミュレーション前と後の両方が入り混じっている。今回口コミするオリジナルには、調べたところクミンは全く入っていないようだ。残念ながら年代はわからないが、アルコールが完全に飛んでいて色もメープルシロップ並みに濃くかなり古いと思う。
1989年のリフォーミュレーションを依頼されたのはオリビエ クレスプ。その当時病床にあったルドニツカが処方を渡すのを拒み、仕方なく自分の鼻を頼りに作ったとか。オリジナルに入っていた香料も使用禁止になって香りが変わってしまった。
トップはゲランのミツコと同じくオークモスとベルガモットの典型的シプレー。ミツコのトップは傷つけないように丁寧に採った新鮮な白桃。ファムは木の上で完熟して枝がその果汁の重さをやっと支えているプラムとイエローピーチ。取りきれなかったものは落下して発酵を始める。ブランデーになりかけた甘い香りが木や下草の香りと混ざって果樹園に立ち込める。少し酸味とグリーンさのあるウッディさはローズウッド。同じシプレーでもミツコは内向的で、ファムは外向的かつ退廃的。
実は柑橘類以外の果物の精油は存在しない。柑橘類は皮をギュッと指で摘んで潰した時に出てくるオイルとも水分ともつかないものが精油の元になる。今ではお馴染みのピーチ、マンゴ、アプリコット、苺、ラズベリーなどの香りは全て科学的に合成されたもの。ウンデカガラクトンを使って白桃の香りを出したミツコは1919年に発売されていて、ファムは最初のフルーツの香りの香水ではないが、このブランデーのように香り立つ豊潤な甘いフルーティさは当時とても斬新だった。
プラムやピーチを砂糖でコトコト煮て、芳しいブランデーと温かみのあるシナモンとグローブを仕上げに加える。それがファムの香り。第二次世界大戦真っ只中、砂糖もスパイスも不足して貴重品だった時代の贅沢。ヨーロッパでは収穫した果物をコンポートやジャムにした後、瓶詰めにして保存して、秋冬の新鮮な果物が手に入らない時期に食べる習慣がある。甘く煮たフルーツはパイ、クリーム添え、肉料理の詰め物、ソースなどにして楽しむ。
今でこそグルマン扱いではないが、ファムが発売された第二次世界大戦のころはグルマンそのもの。物資が不足しているからこそ余計に、庶民が憧れるほど美味しそうな香りだったのではなかろうか。パリ中の地下鉄が豊かさを感じさせるこの香りで充満するほど大人気になったのが理解できる。
ミドルノートではカーネーション、アイリス、ジャスミン、イランイラン、ローズの花束が香る。カーネーションのスパイシーさが一番目立つ。アイリスのせいか、天候によっては白粉っぽく感じることも。息を吹きかけたり汗をかく寸前まで動いて体温が上がると、トップノートよりもさらに洋酒感のある果物の香りが蘇る。
何てロマンチックな香りだろう。花束を持ってきてくれた恋人と食事をした後、フルーツのコンポートを使ったとっておきのデザートを食べながら、時を忘れて語り合う様子が目に浮かぶ。甘いリキュールも嗜みながら。今こうして一緒に笑顔でいられても、自分の大切な人がいつ軍隊に取られて、帰ってこれるかどうかわからないという切ない思いが心の隅にある。二人の大事な時間はファムの香りともにあっという間に過ぎていく。
ラストノートではレザー、ムスク、アンバー、バニラ、オークモスが境界線なく混ざり合い狂おしいほど芳しい香りに。パウダリーでコクがあってしかも上品な色気がある。そして何故かトップノートの一部であるはずのローズウッドがふとした時に香る。魔女が秘密裏にコトコト煮込んだ濃厚な媚薬のようなミステリーさ。これを秋冬の寒い日に暖炉の前でくつろぎながら纏ったらさぞ素敵だろう。
レトロという言葉が相応しく、現代ではどんな場面で付けていいかわからない。だから洋酒好きな私の相手になってもらうことにした。残念ながら弱いので、他人のほろ酔いが自分の致死量なんてことがよくある。ファムをつけてフルーツブランデーに酔った気分になってまどろみながら、1940年代のフランスに想いを馳せるのも悪くない。
トップノート: アプリコット、プラム、ピーチ、シナモン、ベルガモット、レモン、ローズウッド
ミドルノート: ローズマリー、カーネーション、アイリス、ジャスミン、クローブ、イランイラン、ローズ
ラストノート: レザー、アンバー、パチュリ、ムスク、ベンゾイン、バニラ、オークモス
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2020/3/18 10:16:01
「過ぎ去りし美の呪い」が副題。何それ?小さい頃可愛かった男の子が大人になって野獣のようなルックスになったとか?それって醜いアヒルの子の逆バージョン?
昔誰かが言っていた。大人になって芋虫が蝶になるのが女の子、茹で卵がゲジゲジになるのが男の子。確かに同窓会に行くと必ず1人はいる。「一体何が起こったの?」と女子全員がツッコミたくなるような男性。
ファットって太ってるってことだよね、なんか汗臭そう。あれこれ想像してしまい、正直なところ匂いを嗅ぐのが怖い。でも今日はオフだし、誰とも会う約束してないし、と自分に言い聞かせて勇気を出して試す。意味ないじゃんと思いながらも、息を止めて一気にプシュ!
ん?甘い。しかも美味しそう。
天津甘栗のお店の前を通った時のようなトップ。栗の鬼皮が火で炒られる時の香ばしい香り。それがいつの間にか芳しいブランデーかラムの効いたマロングラッセの香りに変化。しかも最高級。プレゼントされたら特別な時に食べるために、絶対こっそり戸棚に隠しておく。さらに濃厚なクリームが加わる。バタークリームを手作りし、最後にホイップクリームを混ぜ合わせると頬っぺたが落ちそうなほど美味しい。そんなしっかりとした味のクリームとマロングラッセでモンブランを作ったよう。
あえて言えばメゾンマルジェラのBy the Fireplaceと同じ系統の香りだが、それよりもっと深みがあって男性的だ。どちらも木と栗を強く感じさせる始まりだが、後でFat Electricianはベチバーが強く香りだす。精神を落ち着ける作用があり静寂の精油と別名をとるベチバー。この香りは木かな?ベチバーかな?と探っているうちに完全にベチバーモード優勢になる。
やがてミルラとオポポナックスの樹脂系のスパイシーさが混ざった重く甘い香りとバニラの中にベチバーが溶けていく。時々思い出したように香る洋酒に浸かった栗のほっこりした甘さと、乳脂肪たっぷりの贅沢クリームの円やかさがたまらなくいい。
電気ワイヤーを香りで表現したかったようで、オリーブの葉のキンとした苦味ばしったグリーンが時々メタルっぽく感じられる。木の香ばしさも電気系統がショートして周りが少し焦げた匂いに感じられなくもない。
それにしてもどうしてこの名前を選んだのか。とてもヨーロピアンなユーモアセンス。お洒落な名前をつけたらもっと売れそうなのに。さすが大衆受けをねらわないのを売りにしてるだけある。
Fatは好みじゃないけれど、Electricianは格好良くて好き。私はDIYが得意で結構色々できるのだが、感電しそうで怖くて電気系統は全くいじれない。そんな時電気屋さんが直しに来てくれると、スーパーマンが助けに来てくれたように思えて仕方がない。
アイドルのような綺麗な顔をした男性がつけるには違和感ありすぎ。お世辞にも可愛いという言葉が似合わないほど、渋く落ち着いた男性に似合う。つけているだけで仕事出来そうに錯覚にすら陥る。特に筋肉質でガタイのいい人にバッチリ似合いそう。あるいは頭がカタいという意味ではなく、筋の通った硬派な雰囲気の人。何か一つを追求する研究者タイプにもいい。
Fat Electricianで香り付けしたいタイプのゴツい男友達がいる。見かけによらず子供が好きで、子供と遊ぼうと思って近寄っていくが、ほぼ確実に爆泣きされ、親が怖い顔ですっ飛んでくるらしい。本人曰く、「自分の四角くて大きくて彫りの深い顔」が怖いに違いないとのこと。悪いけど納得。185cm以上あって厳ついルックスの彼は子供にとっては恐竜だ。
そんな彼が自分の子供の頃の写真を見せてくれた。同じ人と思えないほど可愛い。成長途中で遺伝子が突然変異を起こしたに違いない。友人達と一緒にワイワイ見ているところに「あんまり変わってないでしょ」と真顔で聞いてくる彼。これこそ過ぎ去りし美の呪いだ。「嘘も方便」はこんな時のための言葉だと身に染みた。
時の流れは残酷。柔らかな髪の毛と林檎のようなほっぺをした、女の子と間違えそうなほど可愛らしい男の子はもう何処にもいない。
けれど...
節くれだった手、日焼けした肌、肉体労働で自然と長年鍛えられてガッチリした体、引っ掻き傷が無数にあるたくましい腕、無精髭。酸いも甘いも噛み締め、自分の力で色んな場面を生き抜いて来た、頼り甲斐がありそうな男性が私の前に立っていた。
包み込むような優しい微笑みを浮かべて。
シングルノート: ベチバー、オポポナックス、ミルラ、バニラ、マロングラッセ、ホイップクリーム、オリーブリーフ
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2020/3/1 05:53:34
自分は世間から時々ずれている。
そう感じた時につける。バンディは纏っていると世間に迎合しなくてもいいと思えてくる、ヒットを全く狙わず我が道を行く香水。
トップは苦味の強いハーブ、ベルガモット、木の下草、苔などの激渋な香り。その正体はオークモス、ガルバナム、ニガヨモギ、アルデハイド。ガーデニア、ネロリ、イランイランが全くと言っていいほど香らない。普通なら花がメインの食材で、その隠し味兼調味料がオークモス、ガルバナム、アルデハイドなどのはずだが、立場が逆転。隠し味兼調味料が主役で食材が味付け風味付けに使われている。
言ってみれば彼女を呼んで家飲みしようとしたところツマミがない。外は暴風雨。冷蔵庫には味噌、醤油、マヨネーズ、ケチャップなどの調味料とスズメの涙ほどの食材。棚には胡椒を始めとするスパイスとハーブ類。しかし彼女が料理の天才で調味料、スパイス、ハーブが95%をしめる衝撃的な一品を作り、しかもそれが美味しかったといったところか。
その後すぐに強烈なアルデハイド。どうしてこんなに入れたんだろうと思うが、その訳がすぐ分かった。
ミドルでアルデハイドの奥から何とも上品な柔らかなフローラルノートが魔法の泉のように湧き出て来て目から鱗が落ちた。カーネーション、バイオレット、ジャスミン、チュベローズ、ローズだ。目立つものはなく、花束としてまとまった香り。まるで革のジャケットの後ろに隠しているかのように、スモーキーなレザーの香りが混ざる。
ラストノートはお香のような煙ったさの中でシベットとムスクが主張する。私が持っているリフォーミュレーション前のビンテージのシベットは本物の可能性大。ムスクは生態系に危険を与えるため現在禁止されたニトロムスク。オークモス、ベチバー、パチュリ、アンバー、ミルラは境目がないほど円やかに溶け合い、エキゾチックな媚薬の様なニュアンスを醸し出す。体温が上がったり、水分に触れたりするとミドルのクラシカルな白粉のような花の香りがまた立ち昇る。
爆発性のあるニトロムスクを筆頭に、香水の世界には原液のままでは触るな危険、混ぜるな危険なものが多々ある。バンディの調香師本人も含めて。彼女の名前はジャルメーヌ セリエ。英語読みではジャーメイン。
ソフィアグロスマンよりもずっと昔、1940年代から60年代にかけてヒット作を生み出した科学者あがりの調香師。男性優位の伝統的な調香の世界で活躍した。気性が激しく同僚を容赦なく批判し、自分の意見は絶対曲げず、権力者にも媚びないどころか、平気で立ち向かった。
その当時同じ会社の大先輩、権威、売れっ子調香師でもあったジャン カルロスの香水作りのバイブル的な処方メソッドを完全無視して、自分流にバンディを制作。香水は大ヒットしたが、それ以来二人は犬猿の仲となる。会社側がカルロスと絶対顔を合わさない何キロも離れた場所に彼女のオフィスを移して製作を続けてもらうことに。
ジャルメーヌはロベールピゲのフラカとバンディ、ニナリッチのクールジョア、ピエール バルマンのヴァンヴェールを製作しどれも大ヒットした。手こずって遠隔地に隔離しながらも彼女をクビにしなかった会社は偉い。
触るな危険、混ぜるな危険を地で行った調香師ジャルメーヌセリエ、依頼して販売したロベール ピゲ、愛好したマレーネ ディートリッヒ。この三人によりバンディは有名になった。三人ともバンディ (無法者、無頼漢)の名にふさわしい。
カルロス「調香が処方のバイブルからずれまくっている。作り直しなさい。」セリエ「うるさい!そこがいいのよ!」→バンディ 、フラカ共に大ヒット
ドイツ占領下のパリ、ナチス軍「ベルリンに店を移しなさい」ピゲ「るっせー!お前が移れ!」→ブティック継続
ナチス軍「ドイツ人のクセしてメリケンに尻尾振りやがって!出てけ!売国奴!非国民!」ディートリッヒ「お黙り!」→ 慰安先のアメリカ兵と共に反戦歌を歌いまくる
...,といった調子だったのだろうか。三人とも少数派の人々だった。むやみやたら反抗したかったのではなく、心の声に従っただけ。世間の大多数が反対しても自分を貫かずにいられなかったのだ。自分が正しいと信じていたから。
バンディを纏いこっそり呟く。
世間は自分から時々ずれている。
トップノート: アルデハイド、オレンジ、ニガヨモギ、ガーデニア、ガルバナム、ネロリ、イランイラン、ベルガモット
ミドルノート: カーネーション、バイオレット、ジャスミン、ローズ、チュベローズ
ラストノート: レザー、アンバー、パチュリ、マスク、ココナッツ、シベット 、オークモス、ベチバー、ミルラ
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:-発売日:-
2019/10/30 12:40:17
オリエンタル.タバコ.スパイシー.グルマンと勝手にジャンルを作りたくなる。火をつける前のタバコと中東のスパイスと激甘アラブ菓子の匂いの全部が好きな人限定で超おすすめ。
タバコの煙は苦手。吸ったこともないし吸う気もしない。でも火をつける前の匂いは好き。特に高級葉巻。もともとタバコは香料で香りがつけられて、葉そのものの個性と相まって添加される香料によってもキャラクターが設定される。香水を集め始めた頃はタバコと聞いてびっくりしたけれど、そう考えると妙に納得。レッドタバコは色々な香りが出入りしても終始一貫して高級葉巻の香りがする。
まずシナモン、ナツメグやサフランなどの甘さとコクのある彩り鮮やかなエキゾチックなスパイスが広がる。そこに明らかに日本のお香ともインドのスティック香とも違うキャラクターの中東の樹脂系のインセンスが漂う。少し砂糖を加えて軽く煮たような青林檎、ペアーも絡む。でも果物の爽やか感はゼロ。蜂蜜とバターをたっぷり使って焼いた後に甘い砂糖のシロップをさらに染み込ませたバクロワのようなアラブのお菓子を思い起こさせる。上の方で賑やかに宴会をしてるかのごとく華やぐ香りを支えるのは冷静なアガーウッド。
2時間ほどするとスパイス、インセンス、中東菓子ミックスのパーティーがようやく一段落し、柔らかい土のようなパチュリと抑え気味のジャスミンが顔を見せる。少し焦がしてカラメルにしたような砂糖の香りも加わる。たっぷりのスパイスとホイップクリームでトッピングした砂糖の量3割増のキャラメルマキアートみたい。これは完璧にグルマンの範疇。それともキャラメルフレーバーのシーシャタバコかな?このミドルノートもまた長い。余裕で6時間くらいは香ってる。普通のオーデパルファンならこれくらいの時間で消えてなくなってる。
8時間ほどしてタバコの葉そのものの持つ円熟した柔らかい渋み、艶っぽいムスク、乾いたガイヤックウッド、しっとりしたサンダルウッド、甘いバニラが織りなす、中東の手織りの豪奢な絨毯を思い起こさせるような濃厚な香りに変化する。そして12時間ほどでやっと終わりが見えたかなと錯覚する。
それでもまだまだ終わらない。朝つけて夜眠るまで延々と表情の変化が楽しめる。日本のラッシュアワーの電車に乗る人は避けた方が賢明。これを日中職場でつけて違和感がないのは個室があるような貫禄のある重役か、激渋な雰囲気の40代以上の男性だけ。夜だったら似合うのは酸いも甘いも噛み分けた大人で落ち着いた雰囲気の人。男女共に可愛い系、清純派、チャラ男、お笑い系は完全にアウト。黒髪または白髪まじりに限る。自分はどうかな?と思ったら試しに葉巻を口にくわえて黒っぽい服を着て鏡を見たらいい。それがしっくりくるならこの香水に選ばれた人。ユニセックスとあるけれど男性の方が似合うと思う。
つけるだけで中東音楽の生演奏とシーシャタバコがあるようなアラブ系のレストランの雰囲気にどっぷり浸れそう。老舗のジャズクラブで洋酒を燻らせながら会話を楽しむのにもよし。とにかくアダルトで上品な、くつろいだシーンによく似合う。
日が落ちる頃の熟した柿のような真っ赤な夕焼け空。これからは大人の時間。レッドタバコを纏って出かけようか。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
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2022/10/22 03:49:45
普通。
そう、とても普通。
褒め言葉で言ってる。しかもメチャクチャ褒めてる。「普通」という言葉はよく使われるが、実は凄いということでもある。
結婚相談所の人が言っていた。どんなお相手がお好みですか?という問いに対して「普通の人でいいんです」と答える人は一番相手を見つけづらいと。「普通」、要するに高望みはしないけど全てにおいて合格点の人がいいってことか。
全てに合格点をスコアで100%中の50%とするとどうなるか。例えば項目がイケメン度、優しさと思いやり、収入、仕事への情熱、育児への参加、家事の分担、清潔度、学歴なんて具合に八項目あったとする。50%を0.5にして掛け算すると0.5の8条だから四捨五入して0.004。パーセンテージに直すとたったの0.4%。全男性のたったの0.4%しかいない普通の人ってむしろ超いい男なのでは?常識的に考えてそんな希少品が結婚相談所の顧客リストに売れ残ってる訳がない。
ナイルの庭にもそんなところがある。好感度の高い普段使いできる洗練された香り。夏の間はずっとこればかりつけていた。私は特殊な仕事をしていて多数の様々な年齢、性別の人と「お前は彼女かっ?」というレベルの至近距離に接近する。しかも不快感を抱かせると次の契約に繋がらないので殆どの人に好かれる香りを纏うことが要求される。それを基準に香水探しても見つけるのが難しい。
トップは爽やかなグレープフルーツ。リアルだがツンとした酸味はなくフルーティでまろやかだ。お歳暮か何かのギフトとして貰ったら嬉しいレベルの大粒のグレープフルーツの美味しそうな香り。
汗をほとんどかかない、普段の心拍数50台、かなり激しい運動しても100以下の特殊体質の私がつけると、グレープフルーツ味のハイチュウを大人向けにお上品にした甘さと酸っぱさの混ざった香りに変化する。一粒千円くらいの価値はありそうな。
同時に薄らとトロピカルフルーツの香りも。木の上で糖分を蓄えて甘くなっている最中といった感じ。これがグリーンマンゴーか。これが完熟マンゴーだったらもっとお子様向きの香りになっているだろう。それに加わる微かなグリーン。家庭菜園で育てたかのようなトマトとキャロットの優しくて新鮮な香り。グリーン感を出す時によく使われるガルバナムなんかだったらもっと棘のあるお高くとまった香りになる。グレープフルーツとグリーンマンゴーと相まって風に乗って漂ってくるような透明感がよく出ている。流石、ジャン・クロード・エレナ氏。上手い。
ミドルでは瑞々しい花々の香り。これもお花屋さんで売っているのではなくて、よく手入れされた庭に育つ花のホッとできる香り。ロータス、ヒヤシンス、ピオニーだ。ヒヤシンスとピオニーの香りはすぐ想像できるけど、ロータスってどんな香りだったか思い浮かばない。まあロータスって普通の人の庭にはあまり生えてないので当たり前か。
小学校理科の時間で水栽培したことのあるヒヤシンスは大人になって嗅いでからとてもいい香りであることにようやく気づいた。ヒヤシンスはどこか洋梨やりんごのようなフルーティさと初夏の草のようなグリーンさを併せ持つ。これがトップのフルーツとミドルの花を全く切れ目を感じさせずに繋げている。そこにビターオレンジの皮のピリッとした僅かにスパイシーな辛さが加わり完全に大人向けの仕上がりにしている。
ミドルノートの中核を占めるのがシカモアウッドだ。カントリー調の家具やフローリングに使われる高級感のあるクリーム色から薄い狐色の木材で、香料としてはあまり使われないが、わずかに甘さのあるウッディな香り。音楽好きなら知っているであろうバイオリンの名器ストラビバリウスもシカモアウッド製だ。
ラストはもう香水として認識してない。私の身体ってなんていい匂いなんでしょと完璧に錯覚している。敢えて言えば透明感のあるムスクとアイリスと柔らかいウッディノート。エレナ氏の香水はよく水彩画に例えられるがこれも然り。タイトルどおり池か川のある大きな庭を寛ぎながら散歩している気分になれる。
少し残念なのは寒い季節にはあまり合わないこと。最近少し寒くなってきたのでナイルの庭の出番も減ってきた。来年また使うことを楽しみにしている。
とびっきり素敵な普通の香りを。
トップノート: グレープフルーツ、グリーンマンゴー、トマト、キャロット
ミドルノート: ロータス、バーラッシュ、オレンジ、ヒヤシンス、ピオニー、シカモアウッド
ラストノート: ムスク、アイリス、インセンス、ラブダナム、シナモン
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