- Cookieyukiさん
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2021/12/27 13:02:54
昔はとても悪い子だった。
両親がいないのを見計らって開けてはいけないと言われていた引き出しをこっそりと開けていた。そこにはあるのだ。アレが。
今日もまた両親がいない。うふふふふ。
スーッと引き出しを開けると綺麗な化粧箱。ずっしりとした重みを感じながら引き出しから持ち上げるようにして取り出す。厚みのある蓋を持ち上げると綺麗に並んだアレが顔を見せる。思わず笑みがこぼれる。
アレとはお歳暮で頂いたらしい外国製の石鹸セットだ。小学校低学年児には当然読めない英語で何やら書いてある。スーハースーハー匂いを嗅いで悦に浸る。それがカランドルそっくり。(というか多分石鹸メーカーの方がカランドルの香りを真似してる。)
カランドルのトップは典型的なアルデハイド。それにグリーンが加わるが、殆どの場合私の肌の上では匂いキツめの外国の高級石鹸そのものだ。たまたま天候や私の体調などの条件が重なると、芽吹いたばかりの柔らかくて黄色に近い緑の若葉みたいな匂いがして嬉しい。ガルバナムのようなイガイガしたグリーンさではなくて、初々しい爽やかな香り。カランドルとはヒバリの意味らしいが、巣立ったばかりのヒバリの若鳥が飛んでいそうな草原が思い浮かぶ。残念ながらそんな爽やかさが出てくることは5回に一回で普段はザ・レトロ石鹸。
石鹸の手作りキットを見て気づいた。石鹸そのものには心地よいザ・石鹸な香りはついていなくて、後から香り付けしていることに。普段何も考えずに石鹸の香りと呼んでいるものは色々な香料を混ぜて作られている。石鹸そのものは油と灰なので香料を混ぜていない石鹸の匂いはどこか油っぽい。アルデハイドの香りには油っぽさがあるので、他の香料とともに香水に加えると自然に石鹸のように感じられるのだろう。
多分遠い昔は今よりもっとバリエーション豊かな精油で石鹸に香り付けしていたけど、時間が経つにつれ淘汰され、人気のあるものだけが残ったのでは?カランドル発売は1969年でとても人気があったらしいから石鹸の香りとしてコピーされ続けたのも納得できる。
ミドルに花の香りの香料が並んでいるが、花そのものが持つ植物としての生命感あふれる匂いというより、花の香り付き石鹸の匂いとして認識される。よっぽど初めの石鹸の香りのイメージが強いのだろう。
ミドルの終わり頃にウッディなベチバーの香りが加わる。ベチバーという香りは面白くて木の幹のような時と草の根っこのような時がある。この辺りから深みのある樹木調の香りになるがやはり石鹸っぽい。
ラストはムスクが永遠にと言いたいほど長く香ってる。このムスクが昭和の昔ながらの洗濯用洗剤にありそうな匂いでノスタルジックでいいのだ。その頃の洗濯用洗剤に使われていたムスクはニトロムスクといって自然界で分解されないヤバい物だったらしい。環境に悪いということで他のムスクが開発されたが、香水通に言わせればニトロムスクでなければ出せない魅力があるのだとか。私が取り寄せたのはビンテージものなのでガッツリとニトロムスクを使っていると思う。
要するに最初から最後まで石鹸のイメージが他の香料と組み合わさっている。グリーン石鹸、花石鹸、ベチバー石鹸、ムスク石鹸といった具合に。それって梅味、桃味、バナナ味などのポテチがあって、食べるとそれなりの味がするんだけどやっぱりポテチはポテチだよねーというのと同じ。
日本では石鹸の香りの香水が人気らしい。カランドルは古臭い香水と思われて敬遠されるかもしれないが、付け方によっては爽やかな清潔感のある匂いになると思う。おすすめはお腹くらいの位置。立ち昇ってきた香りがどこか女性性を感じさせて優しい。それより上だとアルデハイドのキツさが悪目立ちする。
今年のホリデーシーズンもやはり贈り物をいろいろ頂いた。石鹸セットはそれに含まれていなかった。うーん、残念。自分で買いに行こうっと。それで匂いを嗅ぎくらべて楽しむんだ。カランドルの匂いと。
大人になってもスーハーするのはとても楽しい。
トップノート: アルデハイド、グリーンノート、ベルガモット
ミドルノート: 薔薇、ジャスミン、鈴蘭、ゼラニウム、 オリスルート、ヒヤシンス
ラストノート: ムスク、ベチバー、サンダルウッド、オークモス、アンバー
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2021/12/11 09:24:53
「極楽じゃあ」
某植物園の温室でそんな声が聞こえてきて思わず吹く。その時高校生だった私はトロピカルフラワーが咲き乱れる部屋で心地良い甘く円やかな香りを楽しんでいた。気分だけは少女漫画の綺麗なヒロインになってラブロマンスに生きる気満々だったのに、その一言で二頭身キャラに変身してギャグ漫画のワンシーンにトリップした。
声の主を探す。多分90才くらいじゃないかと思われるおばあさんが沢山の花に囲まれて幸せそうな満面の笑みで立っていた。興奮してピンクに色付いたほっぺにお目目キラキラ状態で我を忘れてぼーっとしている。
ビヨンドパラダイスをつけた途端にそんな昔の光景が浮かんだ。
私はフローラルな香水を好んでつけることはないのだがこれは特別だと思う。何の花かはっきり認識できるのは初めくらい。もしかしたら地球上に存在しない架空の花の香りかもしれない。
トップはどこか青くて同時に林檎か洋梨を思わせるフルーティさの入り混じったヒヤシンスの香り。小学校理科の時間でヒヤシンスの球根の水栽培をしたっけ。なんとか無事に咲いてくれた薄紫の可愛らしい花。あの時は匂いなんて気にしなかったが、大人になってヒヤシンスの香りは自分好みであることを知った。実際にはヒヤシンスの精油は採れないので、いろいろな香料を上手く合成しているとは思うが。
それに加えて僅かに苦さのある柑橘系の甘酸っぱい香り。ベルガモットよりも苦さが感じられるのはグレープフルーツが入っているから。料理の世界では苦味も味のうちというが、香水の世界でも苦味が加わることによって香りに奥行きが出たり甘さが際立ったりするようだ。
ミドルではあまりの香りの素晴らしさに妄想炸裂。私は南国にポッカリ浮かぶ島のハンモックで寝そべっている。野原を渡る穏やかな風が見たこともない綺麗な花の香りを運ぶ。そして目の前にはエキゾチックなフルーツの盛り合わせ。何のフルーツかさっぱりわからないけど滴り落ちる果汁と芳しい香りに心が躍る。
ラストはアンバー。つけたところに鼻を近づけると何かの果物を発酵させてお酒を作っている過程で漂ってきそうな香り。アンバーの香りは至近距離で嗅ぐとスパイシーさの混ざったフルーツの発酵臭に感じることがある。ねっとりとした果肉感は棗か杏子っぽい。梅酒の梅っぽい感じもすると思ったのはプラムウッドのせいなのかもしれない。
どうしてかと言われてもよくわからないが高い気温と湿度を感じる。熱帯らしくスコールの水煙で一瞬何も見えなくなる。そして霧がさーっと晴れる時に水蒸気でできた霞に乗って漂ってくる花とフルーツの混ざった香り。
確かにこの香りは極楽だ。極楽って英語に直すとHeaven? それともParadise? 極楽鳥ってBird of Paradiseだったかな?
そんなどうでもいいことを考えているうちに今は亡き祖母のことを思い出した。テレビを見ている時に知ったのだろうか、何かの拍子にパラダイスって何?って真顔で聞いてきたっけ。
とにかく英語を理解しない人だった。説明しても忘れて無理矢理日本語をあてはめるのが笑える。マクドナルドのコマーシャルを見て、ハンバーガーとフライドポテトのことを肉ばさみパンと芋揚げと呼んでいた。ある日洗濯物を畳んでくれたとき「乳バンド、ここに置いておくよ」なんて言うから、何のことだろうと見に行くとブラジャーのことだった。でもその呼び方、私の胸に膨らみがないという事実を強調してないか?よく考えればバンドも英語だがこれは何故か理解していたらしい。そんな彼女にビヨンドパラダイスを強引に訳させたら間違いなく極楽の向こうって言うだろう。
ビヨンドパラダイスが発売される以前に祖母は亡くなった。多分今頃天国で楽しく過ごしていると思う。私が将来天国に行くことがあって、ひとつだけ地上から品物をお土産として持っていくことを神様が許してくれたらビヨンドパラダイスを持って行きたい。それを2人で一緒に嗅いでしみじみ言うんだ。
「極楽じゃあ」って。
トップノート: ヒヤシンス、オレンジフラワー、ベルガモット、レモン、グレープフルーツ
ミドルノート: ジャスミン、ガーデニア、ハニーサックル、蘭
ラストノート: ハイビスカス、アンバー、プラムウッド、アンブレット
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2021/11/29 03:37:51
私は美人だ。
後ろ姿だけが。
よく後ろから早足で追いつこうとしてくる男性がいる。タッタッタッと追い越してチラッと私の顔を見てチッと舌打ちをして逃げていく。「なんだよ、野郎か」と言われたことも。私、女です。顔は絵巻物に描かれた下膨れの平安美人の目を大きく眉毛を立派にした感じ。平安時代にドラッグクイーンがいたら私みたいな顔なのでは。普段着もTシャツにジーンズより十二単衣が相応しいと思う。
それで昔は傷ついていたけど開き直ることにした。後ろ姿がとびっきりいい女なんだよって。
シャリマーをつけていると追いかけられることが増える。住んでいるところがアメリカなので西洋人にとってだけエキゾチックな私の魅力とやらが香りで底上げされるのだろう。
ここまで読んでいてきっとスタイルは抜群なんだろうと思ったでしょ。違うんだ、これが。中学校二年男子生徒とほぼ同じ体型。要するによく言えば少年体型、悪くいえば肩幅が立派になりかけた、寸胴で女性としてはちょっと…..でも蹴られたら痛いだろうなという筋肉質の身体をほこる。胸は無い。筋肉埴輪という表現が正しい。
じゃ、私の魅力ってなんなのよ?
シャリマー以外で考えられるとしたら髪。実は白人はボリュームのない細い髪が多く黒人は縮れた髪なので、日本髪を結ったときバッチリキマるボリュームのある黒髪に憧れる。彼らにはストレートな剛毛が羨ましいらしい。
ふっくらした女性らしいバストとヒップを育てるための栄養は全部髪の毛にいってしまった。頭蓋骨の中で止まってくれれば東大にだって入れそうな脳みそになったであろう莫大な量の栄養が髪の毛だけに注入された。肌はひからびてるのに腰まである髪の毛だけが漆黒でフサフサで艶々。何故か白毛も皆無。眉毛も立派で朝起きたら寝癖のついた眉毛を小さな櫛でとく。パンストを破ってはみ出すすね毛が哀しい。
そんな毛根一点豪華主義の五十過ぎの枯れかけた奴でさえシャリマーはいい女だと錯覚させるスゴイ香水。
トップでベルガモットが香り立つ。オリエンタルなので濃厚と思いきや、レモンと組み合わさって爽やかな柑橘系のスタートだ。私の場合ラストノートのレザーがなぜか初めから軽く香る。レザーの香りが強く出る体質のためだが高級感のある柔らかくて薄い革の匂いだ。
暫く経つとアイリスのパウダリーさが加わり典型的ゲルリナーデのメロディを奏でる。高級感と風格を感じさせるクラシックな香り。バニラも薄らと香り出す。エチルバニリンって食べ物に入れる合成バニラエッセンスの素のはずなのに、私がつけると食べ物感は余り出ない。他の人の口コミでよく触れられる芳しく香るはずのジャスミン、バラもバニラとアイリスに押されて大人しくしている。
他の人とは異なる香りに変化しているとは思うが、それでも匂いだけ嗅いだらいい女感が半端ない。華やかでありながら物腰が柔らかく優しそう、セクシーでありながらも母性も強く感じさせる。このタイプの女性は上流階級にかなりの割合で存在する。洗練されたレディの香りだ。
ミドルノートは余り変化しないまま延々と軽く半日続く。低体温、肉体労働に特化した超スローな脈拍、汗を殆どかかない体質の私が乾燥した気候でつけた場合。バニラに完全に溶け込んだ花の香りが素晴らしい。いい匂いの香水つけている人ではなくいい匂いの人になれる。
ラストはサンダルウッドとバニラの優しさにオポポナックスの甘いスパイシーさが組み合わさった身も心も溶けそうな香り。朝つけると夜寝る頃に上手い具合にこんな香りに変化している。これが好きでシャリマーをつけた手首だけお風呂に入っても水が触れないようにしているくらい。その手首の匂いを嗅ぎながら眠りに落ちるのは幸せそのもの。
年間を通して一番頻繁につけるシャリマー。こんなに大好きでも前から見た私には似合わない。シャリマーをつけた私の後ろ姿は西洋人にとっては東洋の神秘らしいのに、どうにかならないものか?
そっか、追い越されなければいいんだよ。
そして決して振り向いてはいけない。私は後ろ姿美人であって見返り美人ではないのだから。後ろ姿の美しさを殿方の心深くに刻み込んでやる。
かくして私は誰よりも早く歩くことにした。
ニューヨークでシャリマーの香りを振り撒きながら、うおおおおーと物凄い勢いで走るよりも早く歩いている腰まである艶々の黒髪の女がいたら、それは多分私。
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2021/11/13 22:10:28
カーナルはセクシーの類義語らしい。
カーナルフラワーはチュベローズの香水のはずなのに私がつけると延々とグリーンな香りだけが続く。一体花はどこよ?咲かずして枯れたのか?素晴らしい香りだけど色気は何処に?
平静時の心拍数1分で54、運動をしても汗をほとんどかかない特殊体質の私。香水もかなりの確率で別物に化ける。例えばお香のようなと評されるゲランのサムサラが私の肌の上ではラテン系カクテル、ピニャコラーダに。要するにパイナップル、ココナッツ、ラムが混ざった香り。クリニークのハッピーはオレンジの匂い付き消しゴムに変化してムエットでは気に入ってもつけられない。
私がつけるとカーナルフラワーのトップはグリーンな超絶イケメン臭に。性格が良くて仕事ができるハイスペックな男性がつけていそうな香り。カッコいいビジネススーツにピッタリの溢れんばかりの清潔感がある。男前だが間違っても女性的なセクシーさはない。
ここで気づいてしまった。でも言っていいんだろうか?こんなこと。フレデリック・マルと超絶技巧アーティスト調香師ドミニク・ロピオンですよ、あなた。でも勇気出して言う。
サ◯ンパスの匂い混ざってない?
草原を吹き抜けるようなグリーンな風の爽やかさの奥に湿布の微かなスースーした匂い。好き。でも何これ?
フレデリック・マルの英語版ホームページによればサリチレートとある。サリチル酸メチルともいうらしい。それって湿布に入ってる奴じゃん!マジですか?まあいいか。好きな匂いではあるし。
それがだんだんと粘土のようなモッタリした香りに。ちょっとオイリーなのは多分ココナッツでゴム感はオレンジフラワー。強めのオレンジフラワーは私の肌の上でゴム臭に化けるが、こんな油粘土感があるものは初めて。小学校の図画工作の時間が私の肌の上で進行している。
この時点で2時間経過。だんだんいじけたくなってきた。カーナルフラワーって生まれつきの色気を強調するもので、もともと色気のない人の色気は出てこないんじゃないかって。一の十倍は十だがゼロは何倍してもゼロだと言う事実に打ちのめされた。学校ではそう習ったが数学は美にも適用されるなんて今まで思わなかった。憧れのフレデリック・マル様なのに。色々な口コミ読んでもセクシーなチュベローズという評価なのに。
マル様なんかじゃない。もう、お丸と呼んでやる!
寝る!
ふわーん。うつらうつら昼寝していると突然バターのようなクリーミーさのある花の匂いが。私のベッドの上に敷き詰められた小さな白い花びら。
チュベローズだ!
待っていたんだよ、君を。遂に出てきてくれてありがとう。なんて麗しい愛しの君よ。自分でも言っていて笑えるくらいクサい台詞を吐きながら思いっきり深呼吸して喜びに浸る。湿布がチュベローズに化けた。ミケランジェロ作の筋骨隆々のダビデ像がボッティチェリ作のヴィーナスの油絵に化けたかのような衝撃が走る。
肉厚の花びらのしっとりとした手触りさえ感じさせる豊満なチュベローズの香りだ。ジャスミンと並んでチュベローズにもインドールが奥に潜んでいる。それが体臭を思い起こさせて官能的だ。そういった知識はあったが他のチュベローズ系の香水からそれをこんなにしみじみ感じたことはない。
お丸がマル様に戻った瞬間だった。
昔住んでいたアパートの近所にチュベローズで垣根を作っている家があったのを思い出した。夏にその前を通るとふわりとした甘い香りが漂ってきたっけ。チュベローズはどうしたわけか暖かい水蒸気のような高温多湿さを感じさせる。少し豊満な女性のむっちりときめ細かい色白の肌が汗ばんでいるのを想像させる。
ここまで来るとかなり肉感的でまさにカーナルフラワー。肌馴染みのいいチュベローズで自分の肌が元々こんな匂いだったような気になる。他人を魅了するというより自分のためにつけたい香りだ。
ラストノートはイランイラン、チュベローズ 、 ジャスミン、ムスクが絶妙な配合で混ざったふんわりした柔らかい香り。穏やかな日差しのトロピカルフラワーの花畑を渡ってきた風はこういう匂いがするのかもしれない。どことなくミルキーさもある。南国スパでチュベローズ ミルク風呂なんてものに入っている気分に。
超長持ちするチュベローズの香りに包まれていると自分がちょっと色っぽくなったように錯覚する。これでセクシー度バロメーターはゼロではなく0.1にはなったな。ゼロは何倍してもゼロだけど0.1は千倍すると100になる。その辺りの効果はカーナルフラワーにお任せ。
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2021/11/8 00:35:43
規則は破るためにある。
フラカを作った調香師、ジェルメーヌ・セリエはきっとそう思っている。
20世紀初頭から中頃のファッション界は圧倒的男性優位だったのにも関わらず、セリエ氏はかなり型破りなことをして成功。彼女はソフィア・グロスマンよりもずっと前に活躍した女性調香師の草分けで、フラカ以外にもロベールピゲからガルバナムを過剰にくわえるという思いきった香調のバンディ、ピエールバルマンからヴァン・ヴェールも発表し一世風靡した。
彼女は自分の信念のためには衝突も辞さない性格だったようだ。タブーで知られる当時のカリスマ調香師ジャン・カールは香水を完璧な香料間のバランスのもとに調合することで知られていた。一方セリエ氏はその完璧なバランスをひとつの香料をオーバードーズすることで個性と魅力を出したいと思っていた。どちらも売れっ子ということで同じ会社で共作させられそうになったからもう大変。「混ぜるな、危険!」を地でいく戦いになったらしい。かくしてセリエ氏のオフィスは彼から遠く離れたところに隔離される。
前置きはここまでにして遂に取り寄せたフラカのオリジナルをプシュッ!
ああっ、脳天直撃。
ピンク色でふわふわの綿菓子みたいな靄にノックアウトされた。絶対腕力弱いだろと舐めてかかっていたベビーピンクの半透明の羽根の生えた可愛い妖精さんからモハメド・アリさながらのクロスカウンターパンチを食らったような衝撃。
久しぶりにこんなに強烈なのを嗅いだ。匂いが強いとか臭いとかではなくインパクトありすぎ。あーびっくりした。で、また嗅ぐ。
また脳天直撃。
でもまた嗅ぐ。
それを暫く繰り返しているうちにパンチがありながら意外に繊細なのに気付く。ゲランのミツコから切り取ったような食べられそうもないけど魅力的なふわふわの桃の香りにベルガモットとマンダリンオレンジのフルーティさが輪郭を与えている。ヒヤシンスとオレンジブラッサムの花でありながら草っぽく少しフルーティな香りがグリーンリーフとピーチの間を上手く取り持っている。
ミドルは煌びやかなチュベローズ。ひたすらチュベローズかと思いきやそれを押しのけて他の花の香りが時々ポロっと飛び出してくる。天候と体調によるけどよく出てくるのが金木犀、ガーデニア、ジャスミン。常夏のリゾートで繰り広げられる女性が参加者の99%を占める賑やかなパーティが脳裏に浮かぶ。擬態語で表すとキャッキャッウフフだ。(何のパーティだ?)
そんな中で異色を放つのがコリアンダー。ウェイター以外は女性ばかりで騒いでいるところに男性がたった1人でビシッと決めたタキシード姿で入ってきたイメージだ。そして周りの女性たちが騒めく。チラ見して結構イケメンねえとか言いながらライバル意識を燃やす。それと同じでコリアンダーが入ることで花々の艶やかさがいっそう誇張される。
フラカのラストノートは記憶にない。正確に言うとミドルノートが延々と続きすぎて、ラストまでにつけてることをすっかり忘れているから。朝つけると翌日の昼頃まで香ってることもあるくらい長持ち。花の匂いのバターがあってそれが皮膚に薄くついたまま香り続けている感じ。翌日つけたところにふっと息を吹きかけるとジャスミンの香りが蘇ってくるところが気に入ってる。
フラカは普通の香水と比べ超アンバランスだがとても魅力的だ。ここまで華やかさと賑やかさを追求する姿勢が潔い。セリエ氏が凄いと思うのは規則を完璧に理解した後あえて壊していること。それでいて何故か気品は保ったまま。無茶に見えても元々優秀な科学者として石鹸などの香りを作っていた彼女にはちゃんとした計算があり、何でもかんでもオーバードーズすれば個性が出るというものではないと分かって調香していたのだ。
そんなことを考えているとフラカをあえて一般には相応しくないと言われるシチュエーションでつけたくなる。普通ならパーティとかでシンプルでセクシーなドレスに合わせるだろう。香水とそれに似合うファッションの一般法則みたいなものを研究してみたい。そしてそれをあえて崩すのも楽しそう。
規則を知ろう。それを効果的に壊すために。
規則は破るためにある
素敵に
トップノート: ピーチ、ベルガモット、グリーンリーフ、オレンジブラッサム、ヒヤシンス、マンダリンオレンジ
ミドルノート: チュベローズ 、ジャスミン、ガーデニア、金木犀、西洋水仙、鈴蘭、カーネーション、ホワイトアイリス、バイオレットルート、コリアンダー、ローズジェラニウム
ラストノート: ムスク、サンダルウッド、 アンバー、、オークモス、 ベチバー、シダー
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