2022/2/25 19:47:43
ペンハリガンのポートレートコレクション。その中心にいる人物はこのジョージ卿に他ならない。コレクションの登場人物の相関図を見るとジョージ卿を中心に、その周囲の人々の人間模様が描かれている。
2016年に第1弾として発売されたのは「ジョージ卿」、その妻「ブランシュ夫人」、夫妻の娘「ローズ公爵夫人」とその夫「ネルソン公爵」であり、そこからどんどん広がっていった。
ザ トラジェディ オブ ロード ジョージは、伝統を重んじるイギリス紳士ジョージ卿を描いた香り。キャラクターは鹿で、威厳という意味を持たせている。
トップはスパイシー。
スプレーすると、クローブを思わせるアーシーなスパイス感が鼻を刺す。奥から渋めのソープ調ウッディがフワッと香り、なるほど確かにクラシカルなシェービングソープのような佇まいだと思う。
ミドルはウッディ・ソーピー。
そんなスパイシーを立たせたクリーミーソープと、埃っぽいセダーのウッディの香り。そこに仄かにブランデーのアロマティックや甘さを添えることで少し華が出るものの、紳士然としたダンディーな香りが続く。
ベースはウッディ・フゼア。
クリーミーなソープウッディの余韻に、ブランデーの甘さや、樽を思わせるセダーの籠ったウッディ感や、ドライアンバーの硬さが男らしい深みを与えていく。
と同時にトンカビーンの甘さやオークモスが、マイルドなフゼアウッディとして整えながら、そのままドライダウンしていく。
ムエットでかぐと、華やかさを抑えた静かなウッディフゼアの香り。ところが肌にのせると、シェービングソープ調ウッディを2時間くらい上品に香らせながら、ベースのどフゼアは4〜5時間持続する。
色彩を抑えた、液色のような渋いウッディとフゼアの香りで、秋冬に似合うと思う。
そんなフワッと香るクリーミーなソープと、古めかしいフゼアの組み合わせ。前半部分をクラシカルなラベンダーではなく、シェービングソープにした点がユニークだと思う。そこにジョージ卿の「幸せな結婚生活に重要なのは、自分の考えを悟らせない振る舞いだ」という哲学を感じ取れる。
つまり自分がどういう香りを楽しみたいかではなく、相手がどういう印象を持つかに重きを置いた香り。ベースは安心感溢れるクラシカルなフゼアウッディ、でも相手に与える印象は若々しいシトラスや、ギラッとしたアロマティックではなく、身だしなみを整えたような清潔なシェービングクリーム。
「どうぞお入りください、以前に会ったことがありますよね」と、あたたかく迎え入れてくれるかのように友好的で、信頼のおける豊かさや力強さを感じさせます。また、有能で落ち着きがあり、周囲に安心感を与えながらもユーモアを忘れない富裕な紳士のイメージ。困った時に頼りになり、名声を残すような男性のためのフレグランス(公式HPより)」
個人的にはこの香りがもっとも似合うのは40〜50代ではなく、30代半ばのオンタイム時ではと思う。
40〜50代が使うと小綺麗ではあるが、その落ち着いた雰囲気がピタリとはまりすぎてしまい、地味一辺倒になるのでは。
逆に30代半ばの男性が使うと、外見以上に落ち着いた雰囲気、安っぽくない清潔感、浮わついていない安心感、相手に対しての配慮、それらが合わさった有能感が備わるような気がするけれど、どうだろうか。
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2022/2/21 19:36:34
リップスティックローズは調香師のラルフ・シュヴィーガーが、母のキスにインスパイアされて創作した香り。
子供の頃の、母とのキスの感触と匂いは、退行的でありつつも現代的で、ハリウッドの華やかさを感じさせるような、女性の全てが凝縮された記憶なのかもしれない。そう感じされる香り。
トップはシトラス・パウダリー。
スプレーすると爽やかなグレープフルーツと、バイオレットの硬いパウダリー感。そのパウダリーの隙間から香り出す甘酸っぱいラズベリーが、一気に香調をピンク色に染め上げていく。キャンディーのように美味しそうなラズベリーが、なるほどピンク色のリップスティックのようにみずみずしく感じる。
ミドルはフローラル・パウダリー。
そこから勢いよくローズが花を開かせていく。華やかなローズがどんどん強くなっていくと同時に、バイオレットも香り立つため、バイオレットにコーティングされたようなローズのイメージ。ややバイオレットを効かせすぎのためか、少しねっとりした生臭さが鼻に付く。
そんなバイオレットローズを、アイリスの柔らかなパウダリー感が丸くまとめていく。
ベースはムスキー・アンバー。
バイオレットに包まれたローズの香りは、次第にパウダリーなムスクに包まれる。うっすらとローズの甘さを香らせながら、バニラの淡い甘さ、やわらかなアンバーを加え、ドライダウンしていく。
スプレーした瞬間は、ジューシーなラズベリーのリップスティックを思わせる香り。そこからファンデーションを思わせるパウダリーにローズを含ませた香りが5〜6時間持続する。
終始パウダリーを効かせた香りで、秋から冬に似合う香り。トップは明るく爽やか、でも時間が経ちにつれて華やかなローズがパウダリーに押されるため、春だと少し暗く感じるのではないだろうか。
リップスティックローズは、フレデリック・マルがブランドを創設するにあたり、若い調香師のために開催したコンテストから選んだ香り。結果、リップスティックローズはエディションドゥパルファムに加わることになった。
改めて香りをかいでみると、一度触れると忘れられないような印象を残す香り。
一方でバイオレットの苦みやベリーの甘さが鼻に残るなど、香りの粗さも感じ取れる。何よりもリップスティックの香りはトップのみで、その後は化粧品が並べられた鏡台のイメージに近いと思う。
おそらくマルは香りの完成度以上に、ラルフ・シュヴィーガーが提示してきた、母のキスにインスパイアされた香りというコンセプトに惹かれたのではないだろうか。
母のキスの甘さ、うっすらと香るファンデーションの香り、優雅で魅力的な女性の姿、そしていつでも包み込んでくれるような温もりと優しさ。女性の全てを体現した香り。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:35ml・27,170円 / 70ml・43,890円発売日:2016/9/1
2022/2/19 16:22:20
バカラルージュ540は、クリスタルの「メゾン バカラ」のブランド生誕250周年を記念してクリエーションされた香り。
バカラグラスの、透明なクリスタルに24金の金粉を混ぜ合わせ、540度の高温で少しずつ溶解することによって生み出される、独特の深みのあるスカーレットレッド。バカラルージュの名はそこから採られたとのこと。
そしてバカラグラスの人工的な輝きと同じく、バカラルージュもクリスタルがルージュのような赤みを帯びていく姿を、甘いアンバーで表現した、人工的な美しさが際立つ香りとなっている。
トップはスパイシー・フローラル。
スプレーした瞬間、爽やかなスイートオレンジがフワッと香るものの、華やかなサフランの鋭いスパイシーと、官能的なジャスミンの甘さ。奥からは焦げたカラメルのような重厚な甘さも立ち上る。
ミドルはアンバー・ウッディ。
鼻先では、ジャスミンの酸味をまとったサフランを香らせつつ、焦げたカラメルの甘さに包まれたアンバーの厚みが増していく。このアンバーを焦がした甘さが、いわゆるグルマン系とは異なる、独特なキャラクターを創り出している。底からは、アンバーグリスの酸味や塩味、針葉樹のような硬さもじんわりと漂うため、アンバーの甘さが抜け、甘いけれども甘さに沈んでいかない。
ベースはウッディ・アンバー。
カラメルアンバーの甘さをしっかり残しながら、少しずつジャスミンのコクや酸味、アンバーグリスや柔らかな酸味、さらには鉄のような硬い酸味が香る。この様々な酸味がカラメルアンバーの甘さより前に出ている点がユニークだと思う。そして、カラメルの甘さを残した力強いアンバーと、ドライなセダーウッドが重なりながらドライダウンしていく。
甘いアンバーを中心にしたシングルノートに近い香り。華やかなサフランやジャスミンに包まれたアンバーが2時間程度、そこからウッディの深みを加えながら、酸味に包まれたアンバーは8時間くらい持続する。
グルマンではなく、アンバーを焦がしたような甘さが甘ったるくなく、真夏以外は使えると思う。とはいえ冬を中心に、春や秋でも無性にこのバカラルージュの香ばしいアンバーに包まれたくなる。
数多く存在する甘さの強い香り。以前は、甘さの強い香りが得意ではなかった。このバカラルージュを初めてかいだ時も、その濃厚なカラメル甘さに、これは無理!と感じてしまった。やがて嗜好の幅が広がり、いわゆるグルマン系が好きになったある日、バカラルージュを使ってみると、これはグルマンの香りではなかったことにようやく気づいた。
バカラルージュは、アンバーやウッディを焦がすことで、カラメル色の輝きと、香ばしい甘さを帯びた香り。グルマンの深い甘みではなく、また適度の酸味を効かせることで、琥珀色の深みある甘さが、硬さを伴ってフワッと広がっていく。肌に乗せると、金粉が体温で溶解されたような甘さと輝きを放ち、その人工的な美しさに酔いしれる。一度でもその輝きを味わうと、新世界のアンバーの魅力に取り憑かれてしまうような、中毒性の高い香り。
フランシス・クルジャン自身もアンバーの魅力の虜になってしまったのか、バカラルージュ以降、アンバーを効かせ過ぎた香りが多いのではと感じている。
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2022/2/18 19:34:27
ローリングインラブは、スキンフレグランスという装いの、嗅覚と想像力を刺激する香り。他のキリアンの香りが華やかなドレスや鮮やかなリップ、スタイリッシュなスーツだとすれば、このローリングインラブはまるで下着のようで、明らかに異色な存在。そんな異色な世界観を真っ赤なボトルに託しているのではと感じている。
ローリングインラブは、ムスク・ド・ポー(肌のムスク)で肌に潜りこんでいく香りとしている。それは踏み入れたら抜け出せない二人だけのコクーンであり、魅了される愛に昂揚する感覚を捉えた香り。ダイレクトでシンプルに、ただひとつの感情にフォーカスしたモノクロマティック(単色使い)な世界。単色でありながらも単調ではない、官能的で甘く、奥行きのある香りを描き出したとしている。
では官能的な肌のムスクとはどんな香りなのだろうか。
トップはフルーティ・アンブレット。
スプレーすると甘酸っぱいチェリーに包まれた、アーモンドの香ばしい硬さを、アンブレッドが霧のように真っ白い靄(もや)をかけていくようなオープニング。フレッシュな甘さ、ミルキーな白さ、それでいて軽く、コクのない、すっきりしたアーモンドミルクの香り。ムスクでは出せないだろう、この白っぽさにハッとしてしまう。
ミドルはアーモンド・パウダリー。
そんなフレッシュなアーモンドミルクのフレッシュ部分には、フリージアの硬いフローラルが絡まっていく。このフリージアの青くささを絡めたアーモンドはまるで蕾のようで、息を飲むようないやらしさがあり、どこか背徳的だ。
逆にミルク部分は、アイリスのキメの細かいパウダリーが上品に包んでいくようで、どこまでもなめらかに仕立てていく。
そこにバニラの甘さがうっすらと漂うことで、ミルク感が増していき、気持ちも落ち着きを取り戻していく。
ベースはムスキー・バニラ。
ところがミルクの奥から、チュベローズの強い酸味と艶やかな甘さがツーンと立ってくる。さらにチュベローズのスパイシーやウッディな一面も嗅覚を刺激してくるものだから、急に落ち着かなくなる。きっと、真っ白いミルクに溶け込んだ中から、官能的なフローラルの艶っぽい香りだけが見え隠れするから、焦るのだと思う。
そして、気が付くとチュベローズの誘惑は消えて、バニラやトンカのビーンズ感のある甘さやクリーミーなムスクがまるで何事もなかったように、そのまま肌に溶け込んでいく。
可愛らしいフレッシュなアーモンドミルクが30分、そこからミルクのなかに潜むフローラルな香りが2時間くらい、そこからミルクのようなバニラムスクが5〜6時間持続する。
あまり季節を問わない香り。というのも実際に肌に乗せていると、香り立つのは最初の30分くらいで、あとは肌に纏わるように静かに香っていく。その時々でムスクが立ったり、フローラルの酸味が立ったり、甘さが立ったりと、香りが掴みづらいと思う。
ローリングインラブは香りだけみれば、キリアンの他の作品と異なものとして映るけれど、その本質は実にキリアンらしい世界観に溢れている。
ローリングインラブは肌のムスク、つまりはスキンフレグランスのため、まるで体臭のように肌に馴染む香りだと考えてしまう。
違うのだ。キリアンがイメージしたスキンフレグランスとは、肌に溶け込むように香るだけでなく、それだけ肌に密接した相手がどのように感じるかを意識した香り。お互いの肌が密着し、それぞれの肌の匂いを感じる。それこそ、踏み入れたら抜け出せない二人だけの世界。行為は単色でも、お互いの感情は単調ではなく、ぐるぐる転がる。そんな感情があらわになるように肌の匂いも変化していく。ローリングインラブは下着のような香り。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:- (生産終了)発売日:2017/9/14
2022/2/16 19:21:27
ロジェ・ガレはその名のとおり、義理の兄弟という関係だったアルマン・ロジェとシャルル・ガレが1862年に誕生させたパフューマリー。ここ数年は日本でも人気があり、特にテファンタジーは男女問わない嗜好の高い香りだと思う。
テファンダジーは、スモーキーな紅茶を飲みながら、次第に異国情緒あふれる物語へと引き込まれ夢中になる、時を忘れさせるファンタジーなフレグランスとしている。
幻想的にたゆたうスモーキーなティーとはどんな香りだろうか。
トップはシトラス・グリーン。
スプレーすると、フレッシュなレモンと、明るいオレンジやマンダリンのシトラスミックスを、針葉樹のキリッとしたグリーンが硬くしていく。そんな爽やかなシトラスグリーンのなかから、ティーの香ばしい甘さがフワッと漂う。
ミドルはスパイシー・グリーン。
ティーそのものの強さは変わらずに、グリーンやスパイシーはどんどん強くなっていく。
カルダモンの青っぽくもスモーキーな香りがティーに深みを与え、ナツメグがティーのグリーン部分をメタリックに拡散していく。そんな青さを、ピンクペッパーがキラキラと乱反射させているような香り。
奥からはアロマティックなゼラニウムやセージが、みずみずしい印象を付与している。
香りの大部分がグリーンやスパイシーであるのも関わらず、甘い部分がティーのみのため、逆にティーの存在感が際立つような香り。
ベースはウッディ・アンバー。
キーンと鳴り響くスパイシーグリーン部分が剥がれてくると、ベースの鋭いサンダルウッドやドライアンバーがはっきりしてくる。そこにアロマティックなベチバーやベンゾインの甘さを、さらにはコパイバの硬い甘さや、シピオルの土っぽさを添えることで、最後までティーの雰囲気を残していく。最後は淡いムスクを加えながらドライダウンしていく。
爽やかなシトラスとグリーンに包まれたスモーキーなティーの香りで、春や夏に似合う香り。
シトラスやグリーンを効かせたフレッシュティーが1時間くらいで、そこからグリーンの余韻を残した、ティーとウッディの香りが3〜4時間持続する。
一言でいうとアンバーティーの香り。そこにテカシミアのようなメタリックなグリーンを置いたグリーンティーに、ケミカルサンダルウッドで焦がしていくことで、ブラックティーのように仕立てている。全体像はとてもシンプル。
それでもシトラスやスパイシー、ベンゾインなどで仕上げ、さらにムスクは最小限に抑えることでナチュラルな香りとしてまとめている。アルベルト・モリヤスの熟練の技が光っていると感じる。
ティー以外の甘さを最小限に抑え、爽やかなシトラスをグリーンで装い、スパイシーでナチュラルさを添え、あえて香水ぽくしていない。特にカルダモンやナツメグがどこか美味しそうに感じられる点が、人気の秘密だと思う。
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