






























ビーボトル クリスマス エディション〈イマジン ゲラン オーデパルファン〉
税込価格:125ml+20ml・99,000円 (生産終了)発売日:2022/12/1
2022/12/23 12:39:48
ゆらゆら揺れるキラキラゴールドの飾り、ゲランのシンボルの蜂を模した装飾もゴールド、そしてクリスタルが埋め込まれている。このフレグランスの名は「イマジン ゲラン」。今年のクリスマスシーズン限定品として発売された。ボトルもスペシャルだが、値段ももちろんスペシャルだ。
香りを確かめる前にひとつだけ注意。ゲランには元々「イマジン」という名前の香水があるが、「イマジン ゲラン」とは全くの別物。2019年発売の「イマジン」は「ヴォワイヤージュコレクション ロンドン」の復刻で、この「イマジン ゲラン」は、2018年にブランド創業190周年を記念して作られた「190アニヴェルセル オーデパルファン」の復刻。なんだかややこしいが、これしきの言葉遊びで怯んでいてはゲランの香水なんか買ってられない。
キラキラゴージャスな装飾がされたボトルにはミュゲやチェリーブロッサムと同じように20mLのドロップ(パーススプレー)が付属する中々嬉しい仕様だ。さっそくプッシュ。果汁感溢れるオレンジが弾ける。酸味よりも甘さが勝っている濃縮還元200%のような濃いオレンジの香りでマンゴーのような南国系フルーツにも感じられる。
トップのオレンジのフルーティな甘さをキープしつつ、オレンジフラワーのホワイトフローラルとイランイランの甘重さが展開していく。少しローズの華やかさも効いているようだ。オレンジフラワーというとここのフローラル部分はモダンで軽やかというより肉厚でクラシカル。同じEDPのラールエラマティエールのフローラル系統よりも骨太な印象だ。奥からはしっかりしたサンダルウッドとレジンノートがフローラルを支えていることがわかる。
フローラルブーケの下から滑らかなベンゾインと暗いサンダルウッドが全面に出てくればドライダウン。バニラの甘さやパチュリやベチバーの土っぽさを加えつつフィニッシュ。持続は8、9時間程度。ドライダウンはウッディ要素がかなり立つのでメンズ寄りに感じる方も多いと思う。
香りの構成だけ見ると今のゲランによくありそうなものの組み合わせに思えるが、香り方が思いの外クラシカルで濃厚。復刻というとなにかと「薄められた」「安い原料に置き換えられたのに値上げ」と言われがちだが、香りは薄くはないし、ボトルの装飾の凝り具合やパーススプレーが付属することを考慮に入れれば(190アニヴェルセルEDPにはドロップは付属しなかった。付属したのはP版)法外な値付けではないだろう。それでも高いけど。
現専属調香師ティエリー・ワッサーがゲラン五代目に就任したのは2008年だが真に五代目と認められたのは2018年で、190アニヴェルセルはまさにワッサーにとって節目となる香り。本当の意味でバトンを受け継いだのだ。イマジンゲラン=ゲランを想う、五代目としてゲランを担っていくワッサーの決意と祝福の香り。
ノート:オレンジ、オレンジブロッサム、アーモンド、ベンゾイン、サンダルウッド、イランイラン
調香師は、ティエリー・ワッサー。
(parfumoより、構成は190アニヴェルセルEDPのもの)
2022/10/14 13:54:42
「これはあんまり好きじゃないから買うことはないな」と思っていても、ディスコンと聞くとなんだか欲しくなってしまうもの。私の中でその筆頭が「ダービー」で、ホントに私に必要なんかいな、と迷いつつも2021年の高級ラインの再編成時に入手した。結果的には手元に置いてよかったと思っている。
ダービーの初出は1985年、初代はハーバルなグリーンシプレー調だったらしいが、十年持たずにいったん廃番になり、その後リフォーミュラされビーボトルで復刻。そしてボトル全体を木枠で囲まれたメンズエクスクルーシヴ(レ パリジャン)のシリーズの中のひとつとして2021年夏まで売られていた。
ゴツく持ちにくい、けれどカッコいい黒い木枠のボトルをスプレーすると、ゲランらしいベルガモットの香り。ジリジリとしたクローヴらしきスパイシーな香りもする。旧メンズエクスクルーシヴ仲間の「シャマードプールオム」や「アルセーヌルパンルヴォワイユ(現エピスヴォレ)」もシトラス×スパイシーから始まるが、ダービーのトップはなんだか地味というか落ち着いていて、エネルギッシュな若い男性というよりもっと年齢が上のジェントルマンをイメージさせる。
クローヴが演出するスパイシー感の下から、埃っぽく乾いたローズの香りが広がってくる。蜜っぽいフェミニンな甘さがほとんどなく、辛口でドライフラワーのようだ。スパイスを引き連れて香るローズは、キリリとしていてとてもクール、メンズフレグランスらしいバラだ。ここまでで2、3時間ほど。
ドライダウンになると、レザリーな苦味、ベチバーやバーチのウッディさ、オークモスのシプレ感がローズを薄茶色に染める。そして最後にはレザー×モスのビターなシプレだけが残る。ドライダウンだけでも5、6時間は香るためEDTではあるがかなりのロングラスティング。
クラシカルなスパイシーシトラス、クールなローズ、レザリーシプレに複雑に変化していく流れは今流行りの香調ではないが、非常に作り込まれていて香水好きの人ほど高評価を下すだろう。季節的には秋の涼しくなってきた頃が一番良さがわかる香りだと思う。
しかし、ダービーは旧メンズエクスクルーシヴの中ではダントツにメンズ感が強い&クラシカルな香調のため、昨今の流行の波に乗れずディスコンになってしまったのだろうか。
それにしてもゲランは本当に廃番が多い。
このままでは廃番品ばかり集める亡霊になってしまいそうだ。
トップ:ベルガモット、オレンジ
ミドル:カーネーション、スパイス、エキゾチックウッド
ベース:レザー、バーチ、ウッディノート
(fragranticaより)
2022/12/10 13:41:09
あなたをたった5秒で強く颯爽とした女性に変える。それは簡単なことだ。シャネルN°19のパルファムを1滴指にとり、耳たぶの裏につける。それだけでいい。
「また何言ってるんだ、大げさな」そう思うなら試してみるといい。香りが好きかどうかは別。N°19パルファムは、強き女性の代名詞として君臨し続けるココ・シャネルが「世界一売れたN°5を超える香りを!」と「自分のためだけに」作らせた最強のシグネイチャー香水だ。
ただしEDPやEDTでは効果は薄い。N°19の破壊力を実感するためにはパルファム一択だ。15mlで31350円。高い?そうだろうか。「なんでこんな香料でこんなに高いの?」と首を傾げるようなそのへんのニッチ香水に比べたら、100倍良心的な価格だと思う。まず歴史とブランド信用力と品質が別格だ。さらに、スプレーでなく指で1滴ずつつけるフラコンなので、本当に減らない。そして超至近距離でだけ高濃度香料がなめらかにずっと香る。実は香害に一番なりにくいのがこのパルファム濃度だ。これぞ本物の香水。香水に詳しくない方なら、なおさら「本物の凄み」というやつをまず体験すべきだろう。
ココ・シャネルはこのN°19を創るために、調香師アンリ・ロベールに何度も試作品を用意させ、香りを纏ってパリの街を歩いたという。そして人々が香りについてどんなふうに声を掛けてくるか確かめた。全く声を掛けられなかったときは、怒号と共に調香師を責めたという話もある。当時ココは86才。ある日、長年住んでいたリッツホテルから出てきた際、若いアメリカ人男性2人に引き留められ「その香水の名前をぜひ教えてください!」と迫られたことが決定打となってこの香りは生まれたという。
ではそんなN°19パルファム、いったいどんな香りなのか?世界的に「グリーンフレグランスの最高峰」と言われる香りの展開を追ってみる。
N°19パルファムを肌にのせる。するとまずはじめに立ち上るのは、ギリリと青臭いグリーンノート、そして粉っぽいアイリスの白い香りだ。そこにまろやかなネロリの甘さが加わり、キレのいいスッキリとした緑と白の香りが広がるトップ。
3分後、ジャスミンのふくよかさとグリーン香が相まって、スズラン様のフローラルが広がってくる。同時に下の方から冷たく青いヒヤシンスの香りも感じられる。ガルバナムのシャープなキレのある香りを軸としながら、ソリッドで青緑なフローラルが感じられてくるミドルになる。
このミドルは知的でスタイリッシュ。キリっとして本当にかっこいい。全くフェミニンじゃない。若々しく、怜悧で、背筋がスッと立っているイメージ。全てに妥協を許さず、自分のめざすベクトルを見定め、どこまでも一直線で闊歩してゆくような、潔さと強さを感じさせる草原と大地の香りだ。
リラックスというなら、それは大自然の中に放り出されたような心地よさがこの香りにはある。けれどそこには同時に、厳しい自然界の現実に対峙する強さもまた要求される。そんな苛酷さを感じさせる香りでもある。ミドルは、大草原に吹く風がオークモスのビター、ベチバーの土の匂いを運びながら3〜4時間続いていく。
ラストはとてつもなく優しい。土深く眠り続け、長年かけて香りを熟成させたアイリスパリダのパウダリーが優しく心と体を包みこむ。ほのかに甘いムスクとともに、小麦粉のようにきめ細かな白い香りを呈してドライダウン。ここまで5〜6時間。たった1滴で。
N°19はココ・シャネルの誕生日である8月19日から命名されたナンバーフレグランスだ。人は一人で生まれ、空と大地の狭間で必死に生きて、その短い生を全うする。「香水をつけない女に未来はない」と言い切ったココが、人生の最後に自分のためだけに徹底的にブラッシュアップして作り上げた香り、N°19。そこに込められたのは、世界中の女性が男性の下に屈することなく、自分自身を強く美しく保ち続け、欲しいものを欲しいと言い、自分の力で未来を貪欲につかみとれ、というメッセージのように思える。
一面の大地。草原が風に揺れている。湿ったベチバーの土っぽい香りがしている。濡れた苔類のビターな匂いが森から運ばれてくる。自然はどこまでも広く、容赦なく、そして気高い香りに満ちている。服が風をはらむ。草原と森の匂いが髪を洗う。
青いガルバナム。苦みばしったオークモス、乾草のベチバー、白いアイリスパリダ。それらが織りなす、今にも発火しそうな残虐なグリーンノート。クールで、スタイリッシュで、挑戦的。常に現代で戦い続けるハンサムウーマンの香り、実装完了。
最終戦闘に備えよ。
大地を疾走するパルファム「ナンバーナインティーン」発動。
5秒だ。5秒で未来にカタをつけろ。
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:-発売日:2021/11/3
2022/12/3 12:21:16
「一期無常(イチゴムジョウ)」は「いちごの香り」がする珍しい香水だ。世にストロベリーフレーバーはあまたあれど、実は「香水」で「いちご風味」というのはほとんどない。そのニッチをうまくついたのが、日本の香水ブランド「アールフレグランス」を興した調香師、村井千尋さん。
村井さんと言えば、個人的にフレーバリストとしての才能が豊かな調香師、というイメージがある。「フレーバリスト」とは、食品をよりおいしくするための香りを作る職人。あらゆる香料に通じ、それらの綿密な組み合わせによってクライアントが望む「美味しそうな本物っぽい香り」を再現するプロだ。ご存じの方も多いだろうが、村井さんが手がけた「ティーブレイク」は、本物の甘いレモンティーのような香りがするし、他の香水の花の香りも再現力が高い。
その村井さんが「いちごの香り」を手がけたということで、この「一期無常」は、2021年の発売以来、話題を振りまいている。ではいったいどんな香りなのか?
一期無常をスプレーする。肌に乗せてまず感じられるのは、甘酸っぱいイチゴの風味、そしてスパイシーな土の香りがするパチュリだ。「おお、本当にイチゴの香りがする」と思わず納得してしまう再現力。ちなみにイチゴの香料やエッセンスは、生の果実から抽出していない。主成分となるカラメル様の甘いフラネオールに、リンゴやパイナップルの香料成分等を100種類ほど混合して再現されている。一期無常のトップは、ハニーの甘さも伴って限りなくスイートなイチゴ香。そしてほんのりクリーミー。
だが一期無常はその名のごとく、少しずつ香りが変化してゆく。
10分ほどするとイチゴの香りが落ち着き、その下からスッキリしたローズが感じられてくる。フルーティーなピンクバラの香りだ。同時に下の方からは土っぽいパチュリに上質な革の香りが混じってくる。とてもなめらかなレザー香だ。これらが混然一体となってフルーティーパチュリ、いわゆるフルーチュリな雰囲気になってくる。イチゴだけでなく、他の香料も主張してくるミドル。
ただ興味深いのは、トップのイチゴ風味がミドル以降もしっかり続いていることだ。
つけて2時間ほどたってもイチゴの香りはメインで感じられる。それをハニー、パチュリ、スエード革の香りが支えているイメージ。トップのイチゴは甘酸っぱいベリー系の香りだが、次第に少し大人びたダークロマンティックな影が差してくる展開。
ラストはかなり黒い香りになってドライダウン。墨の匂いがするパチュリ、そのスパイシーさを和らげるような上質レザーのヴェール。最初が「赤いイチゴ」で始まりラストは「黒いレザー&パチュリ」で終焉。色も対比している。持続時間は自分の肌で約6〜7時間。ときにパチュリのアーシーな香り、ときにレザーのアニマリックな風合いが余韻を見せつつ、消えてゆく。ラストは、甘くて暗い大人の香りでフェードアウト。
確かにこの一期無常は全体的に、あまあま少女ロマンティックな「いちごみるく」の香りではない。サンリオの「いちご新聞」の雰囲気じゃない。むしろスタンダールの「赤と黒」だ。
ブランド紹介文には、赤いイチゴの香りが表す「生」と黒いレザーパチュリ香が表す「死」の対比が記されていて、かなりシニカルだ。また、ボトルに描かれた幾何学模様は「時間」を刻む砂時計を象徴しているという。そこには人としての業(カルマ)も描かれているようだ。「一期」それは死ではなく「人生」。「無常」それは常に変化し続けること。いうなれば「一期無常」に掛けられたダブルミーニングは、
「フレッシュなイチゴの香りは常ならず、それは刻々と変わり続ける」と
「人生とは、常ならぬもの。苦楽あり、幸不幸あり。そして人は日々老い続ける」の2つか。
そこまで考えて2つの「赤と黒」を思い出した。
1つは赤。いちごを表す漢字「苺」。なぜ「くさかんむりに母」なのか。その由来には「乳首のような実のなる草」という解釈がある。もともと「母」という漢字じたい「乳房」を象形しているので、いちごは古来、母の乳首をイメージさせた物であったとみることができる。
もう1つは黒。太宰治の小説「人間失格」のラストのセリフ。読む者の背中からそっと冷たい手を入れて、魂をわしづかみにするようなこの暗黒小説の最後は、こんな言葉でしめくくられている。「自分には幸も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。」
母の乳房は世界への最初の信頼。人生の始まりは赤ちゃん。土の香りは時過ぎて還る場所。人生の終わりは黒。そう考えると一期無常の意味は深いな。
母より生まれその乳を吸いし者、死に向かってただ生きゆくのみ。か。
まさに
祇園精舎の鐘楼に 一期無常の香りあり
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2022/11/26 20:06:56
あなたにとってヒーローやヒロインは誰だろう?もしもいないなら大至急探すといい。自分の中に英雄をもつ者は強い。たとえどんな逆境にあっても、その存在が進むべき道を照らしてくれるからだ。オランダの香水ブランド、ピュアディスタンス(以後PD)の社長、ヤン・エワウト・フォス氏にとってのヒーローは、英国秘密情報部MI6のエージェント、007だったようだ。
「ボトルに入ったジェームズ・ボンド」。PD3作目の香水「M」は、そんな通り名で人気を博した。しかし近年、欧州の香料規制によって一部の香料が使えなくなり、惜しくも廃番になったようだ。そこで「M」の穴を埋めるべくフォス氏が提案したのは「Mの流れを継承しつつ、より優雅でパワフルなバージョン2(V2)の製作」だ。その困難な特別任務についた調香師は、PD香水を何度も手掛けたアントワーヌ・リー。彼の存在は、まさに007のために数々の秘密機器を作るエージェント「Q」その人だろう。かくしてMのV2は、Qの名前も織り込んで2022年に誕生した。その名も「M V2Q」。17.5mlボトルで28,100円。日本正規代理店「PDジャパンEサイト」より購入可能だ。
M V2Qはダニエル・クレイグ版007を彷彿させる、スタイリッシュでハードボイルドなウッディレザー系フレグランスだ。
M V2Qを肌にスプレーする。まず感じられるのはビターなスパイス。ひりつくシナモン。ラベンダーのシャープなアロマティック。これらが同時に香る切れ味の鋭いトップ。この疾走感あるトップは、例えるならダニエル・クレイブ版007の映画の冒頭。群衆の中、ターゲットを追跡するボンド。その奇想天外なパルクールアクション。壮絶なカーチェイスの末、毎回見事に大破するシルバーグレイのアストンマーチン。徹底的に標的を追い詰めるシベリアオオカミのような瞳の007のイメージ。
5分もするとM V2Qはミドルになる。火を噴くワルサー。流れる黒い煙。その硝煙の匂いが立ち込める。ラベンダーのクールな紫の風が、スモーキーなパインウッドの焦げた匂いをはらむ。テロ組織の重要人物を毎回平気で殺めてしまうダニエル版ボンド。MI6の女性上司「M」が「できる限り殺さないでほしいんだけど」と一刺しするも「努力はします」と返し、全く意に介さない007。仕方ない。
00(ダブルオー)は殺しのライセンスだ。
そしてM V2Qはこのミドルからどんどん危険で魅惑的な香りになっていく。まるでひと仕事を終えたボンドが次のターゲットを見つけたかのように。それは、きまって陰のある美しい女性だ。
紫と黒の煙が沈静するにつれ、ほのかなワインアコードと上質なスエード革の香りが感じられてくる。ワインというよりブドウの香りに近い。このブドウ&レザーのフルーティーなミドルは、暗くメランコリックで狂おしい。それは出会ったばかりのミステリアスな女性とグラスを傾けながら、互いの手の内を探り、相手のプライヴェートゾーンへの距離、いわばピュアディスタンスを縮めていく「瀟洒な時間」の香りだ。賦香率28%という驚異の高濃度パルファム・エクストレは、超至近距離でのみ香る一撃必殺のガジェット。ワイルド&センシュアルなこのミドルの香りに気付いたときには、すでに女の心と唇はボンドに奪われている。
ただ、この美しいフルーティーレザーの背後には、いまだスモーキーなウッディの暗雲が立ちこめている。孤独、不安、怒り、そして抑制を表すようなネガティヴな黒い煙。全ては任務のために自身の過去とともに封印してきたもの、あるいは傷。それらが黒いインセンス香となって背中に張りついている。M V2Qのミドルはそんな黒い硝煙と血の匂いを常にちらつかせながら、10 時間ほど続いていく。
ラストはオリエンタルなムードを醸し出してドライダウン。スモーキーなサンダルウッドのベースに、ほの甘いジャスミン、ヴァニラのクリーミー、レザーのドライな香りをにじませ、灰色の霧の中へ消えてゆく。それは去り去るアストンマーチンD5の排気煙。ダブルオーのためにQがあつらえた秘密装備満載のボンドカーの後ろ姿のように。
それでもM V2Qは「ジェームス・ボンドの香り」ではない。この香水は、自分にとっての強いヒーロー&ヒロインを思い出させる香りだ。時代のストレスにさらされ、孤独と不安にさいなまれながらも、自分のなすべき任務を絶対に遂行すべく、傷つき、もがきながら孤軍奮闘する者を力強く支える香りだ。
あなたにとってのヒーローやヒロインは誰だろう?もしいないなら、あなた自身が自分のヒーロー、ヒロインになれ。そんなMの極秘指令が届くはずだ。
”常に心に銃を持て。狙った獲物は必ず仕留めろ。 コードネーム「M V2Q」へ。”
キャプテン ドラです。 いつもクチコミやブログを見ていただき、ありがとうございます。 この度、フレグランス専用「フレグランス アッセンブル… 続きをみる