2021/2/1 22:53:42
繰り返しになってしまうけれど、ルイ ヴィトンのフレグランスは、やはり初期7作品のレベルが桁違いに高い。
2016年にジャック・キャヴァリエが最初に提示した7作品は、どの作品も香りのレベル、マテリアルの確かさ、唯一無二のキャラクター、ストーリーの全てが揃っていて、触れるたびにその素晴らしさに圧倒される。
コントロ モワ(2016年)は、旅をテーマにした「レ パルファン ルイ ヴィトン」の5番目の作品。コントロ モワ(もっと近くに来て)は、マダガスカル産バニラ抽出液、マダガスカル産バニラエッセンス、タヒチ産バニラを3つのバニラを使った、ドゥーブル ヴァニーユならぬトリプルバニラの香り。
トップはフルーティ・シトラス。
スプレーすると、お菓子をような甘いベリーとオレンジから、飛び出すようなフレッシュなレモン。若々しく、キュートなオープニングだと感じる。
ミドルはフローラル・バニラ。
トップの香りはパッと消え去り、ハーバルグリーンに近いペアの硬さを合わせたようなマグノリアのみずみずしい香りが花開く。
さらにフローラル感が増して、オレンジフラワーの輪郭がはっきりしてくる。このオレンジフラワーには第1のバニラ(バニラ抽出液)が重ねられていて、フルーティな酸味と甘みのあるとてもフレッシュなオレンジフラワーに仕上げられている。こんなフルーティなオレンジフラワー、もしくはこんなフレッシュなバニラの香りには出会ったことがない。
奥からは乾いたウッディのようなビーンズ感の強い第2のバニラ(バニラエッセンス)がうっすら感じられる。
ベースはバニラ・ムスキー。
フレッシュなバニラが落ち着いてくると、フローラル部分が可愛らしいローズとムスクのキラキラした香りに変化していたことに気づく。そのムスクと、第3のバニラ(よく知っているバニラ)を合わせた白バニラから、最後は少しずつココアのビター感が増していく。
かつてないフレッシュなバニラの香りなので、しっかりバニラが主張するにも関わらず、真夏以外は違和感なく使うことができる稀有のフレグランスだ。
そして、コントロ モワには罠が仕掛けられた香りだ感じている。
香りがまったく異なる3種類のバニラを使いながら、表層はフローラルやフルーティを装っている。でも奥の方から官能的な甘さも漂っていて、気になって近づくと、とろけるような甘いバニラに酔わされる。でも、そのままとろけてしまうと思いきや、そのバニラの甘さもココアの苦みで隠されている。予期できない香りだと思う。
確かなマテリアルだけで充分戦えるのに、調香師のこだわりや技が冴えわたっていて、他のバニラフレグランスとは一線を画すキャラクターがある。
コントロ モワは最初はノーマークだったけれど、ヴィトンの店頭で触れるたびに、マテリアルの良さ以上に調香の妙に魅せられ、発売から3年後に入手し、今ではすっかり虜になった。
そして先月店頭にて、もっとノーマークだったミルフーを試したところ、キュートなフルーティの奥にある深みやクラシカルな心地よさを感じ、これも素晴らしい香りではないかと新しい発見があった。
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2021/1/17 23:50:43
抗しがたい魅力のある香り。
ルーヴル ノワール コレクション(愛が描く甘い誘惑の世界)のLOVE don't be shy(2007年)は、数多あるグルマン系の香りのなかでも珠玉1本だと感じている。
マシュマロにインスパイアされた極甘の香りでありながら、フローラルの抜け感があるため、甘さに溺れていかない。とてもセンシュアルな香りだと思う。
トップはシトラス・フローラル。
キャンディーのように甘いスイートオレンジと、みずみずしいベルガモットやマンダリンの香り。奥から軽やかなネロリのフローラル感が全体を爽快にしている。
ミドルはフローラル・グルマン。
そのネロリが、キャンディーのような甘さよりも上に香り立ってくる。とても透明感のある美しいのネロリの高音だ。中音はマルトールのザラッとした甘さと、オレンジフラワーのアーシーな深みや酸味を合わせたような香り。
キャンディーのような甘さが減退してくると、低温のみずみずしいハニーサックルやローズの甘い香りがようやく見えてくる。
ベースはグルマン・ムスキー。
ネロリを中心としたフローラルやマルトールを残しながら、バニラの白っぽい甘さがはっきりしてくる。それらをムスク、さらにはオリスが生成り色に柔らかくまとめられている。パチョリなどのウッディで甘さを助長させるのではなく、このミルクのような白色のなめらかさがとても心地よい。
フローラルをはっきりわかるミドルまでが3〜4時間、ベースのなめらかな甘さは8時間以上持続する。
どの部分を切り取ってもフェミニン全開の香りにも関わらず、このフレグランスを無性に使いたくなる。
特にウエストよりも下に使った時の、甘美なネロリの香りにやられてしまう。
正直、いい歳した男が使う香りではないのは分かっている。
でも、どこかシャネルNo.5のような、外観は女性を体現した香りでありながら、内面は母性というか、ほっと安心して気持ちも委ねたくなるような心地よさがある。
使うことに恥じらう自分と、「恥ずかしがらないで」と後押しする、もう一人の自分。
そして夜、密かにこの香りを重ねることに、この上ない喜びを感じてしまう。
使う度に、得も言われぬ背徳感に苛まれる香り。
恐るべきことにキリアンの口紅にはこの香りが賦香されている。
もちろん、口紅での香り立ちは試していないが、どういう香り方なのだろうか。
ジューシーな甘さに吸い寄せられ、甘美なフローラルに身も心も蕩け、やわらかな甘さに陶酔する。
果たして、目の前にこの香りの唇があったとき、その誘惑に抗うことができる男性はいるのだろうか。
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2021/1/8 21:49:05
昨年11月のサロンドパルファムで、ラール エ ラ マティエールの新作 イリス トレフィエ(2020年)を初めてかいだとき、その香りに浸るよりも先に、ルール ブルー(1912年)をかぎたい衝動に駆られた。
そして、ラール エ ラ マティエールをもってしても、やはりルール ブルーを超えるアイリスの香りは成しえなかったと感じた。
(ラール エ ラ マティエールでは、アイリス パリダの精油という最も高価で稀少な香料を使用しているとのこと)
ルール ブルーは太陽が地平線の向こうに沈み、空にベルベットの夕闇が舞い降り、星が瞬く直前のシーンを見事に切り取った、優美なフレグランス。
天才ジャック・ゲランが創り出した、ゲランのなかでもっとも芸術性の高い香りだと思う。
トップはスパイシー・アロマティック。
アニスの薬を思わせるようなツーンとした硬さと、アロマティックなベルガモットの静かな甘さ。秋の夕暮れ、肌を刺すような空気の冷たさに、ピンと背筋を伸ばしてしまうようなイメージ。
ミドルはフローラル・パウダリー。
アニスに引きずられるように、フレッシュで硬質なカーネーションが花開く。カーネーションとベルガモットと組み合わせがとてもクラシカルで、ゲランらしい香りだと思う。
少しずつネロリやチュベローズ、さらにはローズの輪郭がはっきりしてくるが、これらフローラルは、奥から存在感を増していく、このフレグランスの主役アイリスをエスコートしているような役割にも映る。このフローラル主体のアイリスが特に素晴らしいと感じる。
ベースはパウダリー・バルサミック。
カーネーションやネロリ、ローズなどのフローラルの明るさを上層にしっかり残しながら、アイリスのふくよかなパウダリー感が強くなっていく。さらにはバイオレットが硬さを、ベンゾインが深みを加えていくことで、レザーのようなアイリスに香りに。
そこから上層のフローラルが淡くなっていくものの、バニラやトンカビーンの仄かな甘さが、アイリスやイオノンを明るく柔らかく仕上げていくことで、香り全体のイメージを大きく損なうことなく、次第にドライダウンしていく。
夕日と夕闇の狭間にアイリスを置くことで、ジャック・ゲランが見た、夜、星の瞬きを目にする前の束の間のシーンを見事にとらえていると思う。
太陽(ここではカーネーションやネロリの明るさ)にアイリスを溶け込ますことで夕日に仕立て、さらにバイオレットで引き締めながら、最後はバニラで淡い白さを滲ませることで、夕闇の一歩手前、星が瞬く直前で止めている。
まるで絵画を見ているような香りであり、個人的にはアイリスの存在感が際立った作品だと思う。
新作イリス トレフィエのトップのアイリス精油ならではの複雑な香り立ちも素晴らしかったが、ミドル以降は香り方がやや単調になるため、全体的な完成度で比較してしまうと、残念ながらルール ブルーには遠く及ばない。
日本の店頭では、パルファム(香水)とこのオードトワレのみが販売されている。
パルファムのフローラルの華やかさも素晴らしいが、個人的にはミドルからベースにかけてのアイリスの香りが大好きなので、その香りが早く訪れるオードトワレの方で満足している。
冬の仕事の帰り道、東京の夜空を見上げると、藍色の空に淡い雲がはっきりと見える。そういう夜空を眺めると、決まってルール ブルーを思い出す。
ルール ブルー、まさに青の時間だ。
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レ ゼクスクルジフ ドゥ シャネル シコモア オードゥ パルファム(ヴァポリザター)
容量・税込価格:75ml・27,500円 / 75ml・33,000円 / 200ml・50,600円 / 200ml・57,200円発売日:2016/10/14
2020/12/15 20:23:56
シャネルのレ クルジフ コレクションのシコモア(EDT 2008年、EDP 2016年)に対して、ずっと地味なイメージを持っていたけれど、このコロナ禍でようやくその素晴らしさが分かってきた。
先行きが見えない不安や、いつ感染するか分からない緊張感のなか、今日は家から一歩も出たくない、でも一日家にいると気が滅入るからリフレッシュしたい、公園や山に行って自然に囲まれたい、でも人が多い場所は避けたい、、、。
シコモアは、そんなささくれだった心をリセットしてくれるような、まさに自分だけの香り。
シコモアとはエジプトイチジクのことで、旧約聖書にも登場し、古代エジプトでは、生命の木として扱われていたらしい。
シャネルが創り出したシコモアは、堂々とした一本の樹をイメージした、樹木が色づく秋や、大地に根を張り、空まで届きそうな枝を思い起こさせる、ピュアで雄大なフレグランスとある。
トップはウッディ・アロマティック。
硬質なサイプレスのアロマティック感と、鋭いピンクペッパーの刺激。そこにジュニパーベリーがみずみずしいを加える。透明な空気と、木々の硬さや湿気を連想させるようなオープニング。
ミドルはウッディ。
鼻先はピンクペッパーやカルダモンのような爽やかな風、中ほどはメタリックなバイオレットを効かせたサイプレスの木枝感を、奥からはスモーキーなタバコとチンキのようなベチバーが全体を包み込む。とてもスモーキーなウッディノートだ。
そこから鬱蒼とした森の香りに沈んでいくと思いきや、鼻先にアルデヒドが現れることで、枝葉の隙間をぬって陽光が差し込むような明るさを添えてくれる。
実際に肌に合わせてみると、ジュニパーベリーのみずみずしさがさらに増して、まるで森の中にいるような心地よさを感じる。
ベースはウッディ・ムスキー。
チンキのようなスモーキーなベチバーと、嗅ぎなれたドライなベチバーの二重奏を、クリーミーなサンダルウッドが柔らかく包み込んでいく。サンダルウッドに隠れたムスクが、ウッディ感やクリーミーなコクを目立たせることなく、まろやかにまとめていることに気づく。
このベースの香りはウッディの温もりと柔らかさのバランスが良いため、肌に合わせると得も言われぬ安心感を与えてくれる。
持続時間はみずみずしいウッディが3時間程度、柔らかいウッディとムスクの香りは8時間くらい続く。
個人的にはシコモアはもっともシャネルらしくない香りだと感じている。
ココシャネルのようなアイデンティティや、華やかさ、着飾った感、さらには高級ラインらしいラグジュアリー感もない。癒される香りというレベルではなく、心に直接働きかけてくるような、とても内観的な香り。
ではアロマ的かというとそうではなく、紙ではなく肌に合わせることで香りが完成するため、間違いなくフレグランスだと思う。
そして、クリストファー・シェルドレイクの影響がもっとも色濃く出ている。明らかに他のジャック・ポルジュの作品と作風が異なっている。
私の鼻では、2種類のベチバーを感じ取ることができる。チンキのようなベチバーにジュニパーを合わせることで生き生きとしたベチバーに仕立て、力強いベチバーにサンダルウッドを合わせることで柔らかな深みを与えている。さらにそのサンダルウッドをムスクで薄めることで、サンダルウッドが出すぎることを防いでいる。素晴らしい調香だと感じる。
シコモアは自分の心をリセットしてくれる、自分のためだけの、真のラグジュアリーな香り。
こういう香りまでラインアップできるのは、シャネルとレ クルジフ コレクションしかないのではと思う。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:10ml・4,510円 / 30ml・12,100円 / 50ml・17,600円 / 50mL・18,370円発売日:2019/11/1 (2023/11/8追加発売)
2020/12/1 23:11:41
近年、10年前では考えられなかったくらい、高額のフレグランスが溢れかえっている。
我が道を行くニッチブランドに引きずられてか、ファッションフレグランスでも高級ラインへの注力が顕著になっているように見える。フレグランスのイベントにおいても、なかなか手を出せないような価格のフレグランスが多いなあと感じている。
素晴らしい香りのフレグランスが増えていくことはとても嬉しいけれど、このような状況をみて、疑問がわく。
発表される高級ラインが、価格に見合った素晴らしい香りというよりも、比較される通常ラインのパフォーマンスが落ちているのではないかと。
というのも通常ラインの新作は派生品が多く、どこかで嗅いだような、キャラの立っていない、もっと言ってしまえばオリジナルを少しアレンジした、置きにような香りが多いのではと感じてしまう。
イヴ・サンローランのリブレ(2019年)は、そんな通常ラインの停滞に対して一石を投じる、オリジナリティ溢れる、とても野心的な作品だと思う。
カサンドラのロゴが横向きに鋲打ちされたボトルをスプレーすると、
トップはハーバル・シトラス。
タンジェリンの苦みの強いシトラスと、刺すような鋭いラベンダー、そしてほんのりとカシスのようなみずみずしさ。この特徴的なラベンダーが非常に男性的なため、もしかすると多くの女性はNGと感じてしまうくらいのオープニング。
ミドルはホワイトフローラル。上の方はカチッとしたラベンダーを残しながら、そこからタンジェリンの甘さやネロリの明るさが前に出てくると同時に、華やかなオレンジフラワーと、妖艶なジャスミンの蜜のようなコクが一気に香ってくる。奥からうっすら香るバニラが、ホワイトフローラルの生々しさを引き立たせている。本来、ここまで官能的なジャスミンは、下品に映ってしまうかもしれない。でも、ラベンダーの潔癖なくらいの硬さ、さらにタンジェリンの果皮感が、この官能的なバニラとジャスミンを白いベールで包み、さらにネロリが明るさを添えている。まるでタイトな白いドレスの奥の方から、真っ赤な下着が透けてみえるようなイメージ。
ベースはフローラル・スイート。
オレンジフラワーのフローラルな甘さと酸味を、バニラやライトウッディが目立たないように柔らかく仕上げていく。
最初、ラベンダーの素晴らしい香りに魅せられ、これなら男性でも使えるのでは!と感じたが、実際に肌に合わせてみるととんでもない、これは100%女性のための香りだと痛感する。
マスキュリンなラベンダーと、フェミニンなオレンジブロッサムの2つの衝突。
表層をラベンダーで着飾ることで、内なる女性らしさを解放させたような、セクシーでクールなフローラルラベンダーの香り。ラベンダーは引き立て役に過ぎない。
ところが、やはりこのリブレからもアンタンスという派生品が出てきた。まだ嗅いでないけれど、どうなんだろうか。
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