2020/7/31 19:48:59
「アンジェリークスーラプリュイ(雨上がりのアンジェリカ)」はジャン=クロード・エレナが2000年のフレデリックマルのブランドローンチ時に創作したフレグランス。エレナが友人でありラルチザンパヒュームの創設者のジャン・ラポルトの自宅を訪れた際に、雨の後の庭に咲いていたアンジェリカをこっそり摘み取ったときの香りからインスパイアされたらしい。
付けると、一瞬でスッと体感温度が下がるような不思議な感覚に陥る。まさに雨上がり、少しひんやりして土から独特の匂いが立ち上ってくる(ペトリコールというらしい)あの感覚だ。どうやらコールドスパイスとジュニパーベリーのよう。
ジュニパーベリーはもちろん、有名なジントニックの香り付けに使われる、独特の甘さと苦さを併せ持った植物。というか、この香水のトップはまんまジントニックだ。だがキリアンのようなアルコール飲料を思わせるような香りには感じない。このジントニック臭が、雨の後の空気の冷たさ、濡れた草花から発せられるハーブのような香りの印象を作り出している。
ジュニパーベリーが落ち着くと、今度は別のハーブ調の甘苦さのアンジェリカが香る。かなり土っぽさが感じられる。ラポルトの家の、まだ湿度がある庭の土の香気をまとったアンジェリカ。ここの香りに削った木のような風味と柔らかいムスクが合わさって香りの展開は終了。いかにもエレナ作品らしくクレジット通りにきっちり香る。持続はだいたい三時間くらいで、雨上がりにすぐ太陽が差して湿気を吹き飛ばすように、後残りせずきれいさっぱり消え去る。さしづめジャン=クロード・エレナ版「アプレロンデ」といったところか。
エレナは色が付いた香水が大嫌いで、使う香料は徹底して色を抜かせているらしい。アンジェリークスーラプリュイも例に漏れず、ほぼ無色透明。その水色のとおり雨上がりの澄んだ透明感を感じるエレナらしい香りだ。
でも、いくら友達だとしても、ひとん家の庭の草を勝手に摘むのはよくないのでは?と思ったが、ラルチザンで「ロードゥナビガトゥール」を共同制作したくらいだから、ラポルトとエレナは気のおけない間柄ということか。
キーノート:コリアンダー、ピンクペッパー、シダー、アンジェリカ、ジュニパーベリー、ムスク
調香師はジャン=クロード・エレナ。
(フレグランティカより)
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:40ml・14,850円 / 125ml・31,680円 / 250ml・45,100円発売日:-
2020/6/11 12:28:07
メゾンクリスチャンディオールにはローズの名を冠した香水がふたつある。ひとつはローズカブキ、もうひとつはこのローズジプシーだ。フレグランスの他に、同じ香りのボディクリームもある。公式によると、“収穫前の夜明に、みずみずしい朝露で輝くメイローズの花畑の記憶から着想を得て誕生した香り”らしい。
つけるとまず、ローズ主体の柔らかいフローラルミックス。少し甘みがあって、ピオニーのような可愛らしさもある。色で例えると赤というより、優しいピンク色のバラの香りだ。
さらに茎を思わせるシャープなグリーン、朝露を表現したと思われるウォータリーなアコード、わずかにピリピリした風味が感じられる。
香りの展開は以上だ。ほぼ公式の香りの説明の通り、アクアティックなグリーンをまとった柔らかいローズドゥメの香りがこのまま減衰していく。持続は3〜4時間ほど。
同ラインの「ラッキー」のスズランをそのままローズに置き換えたような、ミニマルでクリーンな香り。
いくら路線を変えたとはいえ、一応高級ラインであるから素材はそこそこ上質だと思われる。しかし、私がこの香りにあまりピンとこないのは、私が付けると朝露のみずみずしさを現したウォータリーノートがグリーンのえぐみを嫌な風に助長する香り方になってしまうのと、名前と香りから受ける印象がちぐはぐなことだ。
「ジプシー」という名前から連想されるのは可愛いらしいピンク色のバラの香りではなく、赤くエキゾチックでミステリアスなバラの香りなのではないだろうか。
だが、ディオールのそういった香りにはすでに「ウードイスパハン」という名がついてしまっている。
ディオールでローズドゥメが咲く場所と言えば、ラコルノワール城だ。しかし、この名前も使われてしまっている。
名前にふさわしい香りには既に別の名があり、香りにふさわしい名は使われてしまっている。この香りは、名付けをジプシーしてしまったのかも知れない。
キーノート:ローズドゥメ、グリーンノート、デュードロップ、スパイシーノート、フローラルノート
調香師はフランソワ・ドゥマシー。
(フレグランティカより)
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- モニター・プレゼント (提供元:未記入)
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:40ml・14,850円 / 125ml・31,680円 / 250ml・45,100円発売日:-
2020/5/30 17:51:59
ドゥマシーが日本通であるせいだからかはわからないが、メゾンクリスチャンディオールには日本からインスピレーションを受けた香りがふたつある。ひとつはローズカブキ、もうひとつはサクラだ。薄いピンク色のジュース、透明感のあるシンプルなボトルに「サクラ」なんて名が付いていたら、日本的なわびさびも感じられて思わず手に取ってしまうのではないだろうか。
“日本に滞在していたある春の日、私ははっと息をのむような桜と出会いました。その桜の木は小さく華奢でありながら、何千本もの桜が咲く絶景を想起させるような驚くほど存在感のある香りを放っていました。繊細で心惹かれる香りはどこまでも私のあとを追いかけてきました。サクラは、その長く漂うやさしい調べにローズのニュアンスを添え、あの時の桜へオマージュを捧げたいと思い創った香りです。”(公式サイトより)
一瞬春の訪れを感じさせるグリーンが香るものの、すぐにパウダリーなフローラルブーケの香りとバトンタッチする。私の中で桜をイメージした香りというと、クマリン系(桜餅っぽい)かサクランボ系(フルーティフローラル)に別れるのだが、こちらは前者だ。クマリンの甘さを中心に、ローズやジャスミンがその脇を固める。ときおりウォータリーな感じもするのはミモザだろう。ひらひらと散った桜の花びらが流れていく春の小川といったところか。
ドライダウンになると、クマリンに粉っぽいムスクのベールがかかって締め。MCDのライトフローラル系は本当に淡い香りが多いのだが、これはその中でも特に淡い。持って2〜3時間ほど。桜の花と儚く散ることはセットだからこれは致し方無いと言えよう。香りとしては、付けたすぐ後の香りがあまり変わらずそのまま減衰していくような展開だ。
「サクラ」が桜っぽい香りかといわれると、クマリンが中心の香りのため「まあそうですね」くらいの返事はできるが、どうもしっくりこない。どっちかというと桜風味の二〇ア的な香り。
香水好きな人はご存じだと思うが、基本的に桜からは精油も香料も採取することが難しいため、調香師はそれぞれのイメージを香水に投影する。日本人が桜と聞いて真っ先にイメージする品種はソメイヨシノだが、ソメイヨシノには際立った香りはないし、桜の中では大型化する部類。ドゥマシーの言うような“小さく華奢でありながら驚くほど存在感のある香りを放つ”という特徴には当てはまらないのだ。彼はいったいどこでどんな桜を見たのだろう?
ひらひらと風に舞う桜の花びらを掴んでみようと思ってもなかなかうまくいかない。サクラはそんなとらえどころのない淡く儚いフローラルだった。
トップ:グリーンノート
ミドル:ジャスミン、ローズ、サクラ、ヘディオン
ベース:ミモザ、バイオレット、ホワイトムスク
調香師はフランソワ・ドゥマシー。
(フレグランティカより)
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2020/4/18 20:01:21
エドゥアール・フレシェ調香の「ユヌローズ」はローズとなんとも珍しいトリュフアコードを組み合わせた香り。“庭に咲く薔薇を根ごと抜き出したような、アーシーなアロマが肌から香り立つパルファム(高島屋オンラインより)”とあり、中々期待させる。しかもフレシェはマルに香水・香料のいろはを教えた人物だとか。トリュフといえばトリュフチョコレートしかわらかない私に果たして理解できるのだろうか?
付けるとまず感じるのはワインのような酸味や苦味があるお酒の香り。同時に香るハーバルなゼラニウムがバラの葉や茎といったローズのグリーンな部分だけでなく、まるでワインの「澱」のような印象を加えている。
ミドルはローズ。
だんだんと蜜っぽい甘さのターキッシュローズが存在感を増してくる。豪華なギラギラしたバラではなく、名前の通り一輪のバラを思わせるような静かで落ち着いた真っ赤なバラの香り。
香り全体としては蜜っぽいバラ+えぐみのあるグリーンが支配的なのだが、香りの底の方に、土っぽいような、ウッディのような、ちょっとカビ臭いような独特な暗い香りが立ち込めている。これが多分「トリュフアコード」と呼ばれるものなのだろう(庭の土にもカビくらいいると思う、多分)。
このアコードは、フレシェが料理雑誌“La Truffe”からの依頼でペリゴールトリュフ(フランス産の黒トリュフ)の香りを再現することになり、ここで作った香りをフレシェがマルに新しい香水のベースノートに使えないかと持ちかけたのが始まりだ。
土っぽいウッディ調のトリュフアコードは最初はメンズフレグランスに使われる予定であったが、それでは少しひねりに欠ける。どうしようか?
なら、正反対のフェミニンなバラに合わせよう!というわけでマン社新開発の分子蒸留されたターキッシュローズと組み合わされることになった。この試みにより、庭に咲くバラは秘めていた「ガーデン」な側面に目覚め、この「ユヌローズ」が誕生した、というわけだ。
持続はかなり長く8時間は香っている。賦香率は25%らしく、なるほど納得の持続力。
生っぽいバラの花の香りや、葉や茎がついたままのバラを思わせる香り、トイレタリー用品や柔軟剤的なローズアコードは巷に溢れているだろう。
このバラは肌という土に根をはり、真っ赤に咲いてみせる。花だけでなく葉、茎、根、土も全部含んだバラだ。
まさに「ユヌローズ」。
一輪にして至高の薔薇。
トップ:ローズ
ベース:トリュフ(ベチバー、パチュリ、カストリウム)
調香師はエドゥアール・フレシェ。
(公式サイトより)
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2020/2/27 20:19:29
ドミニク・ロピオン調香の「カーナルフラワー」は数あるチュベローズ香水の中でも名香の名高いフレグランス。「処方を考えるのに一年以上かかった」「チュベローズアブソリュートを現存するどのチュベローズフレグランスより高濃度で配合」「賦香率25%」「天然サリチレート入り」等、ホントかいなと思うような逸話もりもり。香水好きの心をブンブン揺さぶる厨二設定全部乗せで買う前からテンションが高くなってしまう。
トップはカンファー。ユーカリのスースーするカンファー臭全開の出だし。カンファー通り越して湿布に近い。少し花粉を思わせるような粉っぽいニュアンスや、ベルガモットの酸味も感じられます。
ミドルはホワイトフローラル。この香水のメイン、真打ちチュベローズのお出まし。イランイランやジャスミンは脇役。「ザ・ホワイトフローラル」なクリーミーで濃厚なチュベローズ香。本当に目の前に肉厚なホワイトフラワーがあるかのよう。
ドライダウンになると、ミドルのチュベローズがココナッツやムスクを纏ってもっとこってり甘く陶酔するようなホワイトフローラルに。ここの香りがとても長く続きます。10時間くらいは余裕。賦香率25%というのもウソじゃなさそうだ。スプレーすると付けたところが長いことテカテカしているので本当に賦香率は高いのでしょう。
トップのカンファー臭が落ち着くと、あとはひたすらにチュベローズ主体の濃厚なホワイトフローラル。山盛りのチュベローズの花に顔をうずめているよう。寒い季節よりも、やや暖かい季節の方が甘いチュベローズの香りを存分に楽しめます。ただ、食事にはぶつかってしまう香りだと思いますのでご注意を。
トップ:ベルガモット、メロン、ユーカリ
ミドル:イランイラン、ジャスミン、チュベローズ、天然サリチレート
ベース:チュベローズアブソリュート、オレンジブロッサムアブソリュート、ココナッツ、ムスク
(フレグランティカより)
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