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doggyhonzawaさん
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ゲラン / ナエマオーデパルファン

ゲランゲランからのお知らせがあります

ナエマオーデパルファン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

7購入品

2017/3/5 23:05:23

もしも誰かに「薔薇の香りでおすすめはありますか?」と尋ねられたら、全力で「ゲランのナエマのパルファム」と即答したい。気に入ろうが、気に入らなかろうが、関係ない。それを基準にしてほしいという願いのようなものだ。けれどもう、その至高のローズを入手できる確率はかなり低い。惜しまれながらも2016年にこの世を去ったからだ。だから実際は、「ナエマのオードパルファム(EDP)」と答えるだろう。それは香水には及ばないにしても、これまで出会ったバラをモチーフにした香りの中で、最高の逸品だと思うからだ。

ナエマEDPは、ゲランの数ある名香の中でも、特に秀でて素晴らしい香りの一つだと思う。にも関わらず、知名度は圧倒的に低い。ジッキー、ルールブルー、ミツコ、シャリマー、ボルドニュイ(夜間飛行)。これら歴史的な名香のネームバリューに比べれば、本当に知る人ぞ知る香りだ。それでも、これらに比して全くひけをとらない、ゴージャスで洗練された美しい香り。個人的には、4代目調香師ジャン・ポールの最高傑作だと思っている。

映画「めざめ」(1968)でカトリーヌ・ドヌーヴに惚れこんだジャン・ポール・ゲランが、彼女のイメージをもとに架空の美しい姫の姿を作品に投影し、彼女に捧げた香り。それがナエマの出自だ。リリースは1979年。ただ、当時香水需要が高まっていたアメリカ向けに巨額の広告宣伝費を投じたにも関わらず、商業的には振るわなかったといういわくつきだ。

さらに、「千夜一夜物語」ふうの双子の姉妹のストーリーもよく語られるが、かの膨大な伝承の中にはそのような物語は見当たらないようだ。「千夜一夜物語」じたい、何がオリジナルかも不明なほど、各地でさまざま物語が作られ、付け足されていった経緯があるので、実際は口頭伝承のみで筆記されなかった逸話かも知れないし、ゲランによるオリジナルイメージストーリーなのかも知れない。

そんなナエマEDP の香りはというと。

オープニングは、名香シャネルN°5を彷彿させるアルデハイドのキラキラしたワックス香から始まる。ややクラシカルな出だしだ。そしてすぐにグリーンノートが広がる。シャープで青い薔薇の茎やとげ、細かいギザのついた葉を思わせるようなトップ。

3分もせずに下から、甘い蜜の存在を花弁の奥に感じさせるスッキリした薔薇の香りが広がってくる。ライトなピンクの薔薇を思わせるようなフルーティーな香りは、パッションフルーツの酸味、ピーチアルデヒドによる桃のふくよかさに彩られている。ところが。

驚くべきことに、次第に薔薇の香りが濃厚になってくる。ヒヤシンスのグリーンの消失と共に、一枚、また一枚と花弁が増えていくようなイメージ。それは、爆弾の弾頭を思わせる薔薇のつぼみが開くにつれ、こんなにも多層の花弁がどこに隠されていたのだろうと驚く瞬間にも似ている。コクのあるジャスミンの花弁、妖しく誘うイランイランの花弁、可憐なスズランの花弁。そして、わずかにバルサミックな香りの花弁。それらは遂に、フルボディの極上のワインとなって、複雑かつ多層的に香り出す。これぞダマセノンを用いた秘伝のローズ香料の成せる業。至福は6〜8時間程度。

ラストは、柔らかく穏やかに薔薇の余韻を残しつつ、ヴァニラのクリーミーさとピーチのほの甘さを絡ませながら消えていく。ときにサンダルウッドの温かみをも伴いながら。不思議なことに、香りを鼻から早く吸い込むと、グリーンでシャープなローズの主張が感じられるし、ゆっくり深く吸い込むと、イランイラン様のダーク&甘い口紅のような残り香が感じられる。ナエマは最後まで本当にたくさんの香料がせめぎあっている。

拡散力はあるものの、かなりプライヴェートな距離に近づいた時に感じられるタイプ。いわば、香りのA.T.フィールドのようなイメージ。多層な花弁の奥に隠された秘密は、誰もがおいそれとのぞき見ていいものではない。ナエマには薔薇のもつ密やかなたたずまいさえ表現されているように思う。

自分には高貴すぎるとか、早すぎるとか、窮屈な型にはめてしまうのはもったいない。好きな時に好きなだけ、好きなようにつけるのがナエマには似合うだろう。

一人の天才調香師が、それでも4年もの歳月をかけて500回以上の試行錯誤を経て創り出した香り、それがナエマだ。「千夜一夜物語」ふうになぞらえたのは、ジャン・ポール自身が、シェヘラザードの語り紡ぐ伽話に夢中になったスルタンのように、千の夜を越えてやっとこの香りに出会えたからに相違ない。

短い人生でこの香りに出会えてよかった。そう思う。ナエマを越える薔薇を探すなら、覚悟した方がいい。それは幾千幾百もの夜を越え、幻の薔薇のナマエを探す壮大な旅になるかも知れないのだから。

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アールフレグランス / ティーブレイク

アールフレグランス

ティーブレイク

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:2017/3/1

6購入品

2020/7/25 08:30:17

「あー、紅茶の香りがする!」アールフレグランスのティーブレイク、この香水をつけた瞬間、そんな感想をもらす方が後を絶たない。

お茶の香りをモチーフにした香水は実はとても多い。緑茶、白茶、マテ茶、烏龍茶エトセトラ。そして紅茶をキーノートにしたフレグランスもたくさんある。だが、ティーブレイクの香りはその中でも群を抜いて「紅茶」だと思う。なぜならティーブレイクは、日本人に昔からなじみ深いあの黄色と赤のパッケージのティーバッグ紅茶の香りがするからだ。

テレビがまだブラウン管でお茶の間の主役だった昭和の頃、どこの家庭にもあった黄色と赤の直方体のパッケージ。中には黄色い袋の紅茶のティーバッグが行儀よく並んでいた。カップにティーバッグを入れて、熱いお湯を注いだ時にふんわり立ち上るコクのある香りと美しい紅色は、大人のみならず子どもたちの心もとりこにした。砂糖をたっぷりと入れて、ときどきレモンスライスを浮かべて楽しんだ家庭的な紅茶の味。ティーブレイクは家族の憩いの原風景のような、懐かしくて切ない香りがする。

アールフレグランスは、2017年に村井千尋さんが立ち上げた日本の香水ブランド。長年企業で調香に携わっていた方による日本香水のブランディングということで、伊勢丹サロンドパルファンで紹介された時も大きな話題となった。

縦長スクゥエアなボトルは全作品共通。全体に黒と金を基調にしたデザインはストイックかつオリエンタルな感じで深みがある。特に作品ごとに表現された幾何学模様は、その作品を最も象徴した図柄になっていて、想像をかき立てられる。ティーブレイクの模様は、縦に配置された波模様だ。いったいこれは何を表現したのだろう?

ティーブレイクをスプレーする。その瞬間、パッと広がるのはまごうことなきレモンティーの香りだ。それもお砂糖たっぷりの甘いやつ。子どもの頃、好んで飲んだ粉末状のレモンティー缶を思い出す人もいるはず。「わ、あっまーい!」と言いながら笑顔ですすったあの懐かしいジャパンレモンティーの風味そのもの。

ティーブレイクはやがてトップの酸味あるベルガモットが消失して、ひたすら甘い紅茶の香りが1〜2時間ほど漂い、わりとあっさり消えてゆく展開。だからこそ、トップ〜ミドルの「どこまでも淹れたてのレモンティーの香り」にこだわったような作りが、かえって潔く感じられる。よく「お茶の香り」と称しながら後半はムスクやサンダルウッドが出て「ごめん。香水だから変化するよー」とばかりに全くお茶らしからぬ香りに収束する作品はある。いや、むしろそちらの方が多いくらい。だからこそ、最初から最後まで自分たちが知っているレモンティーの香りで終わるティーブレイクは「ザ・紅茶の香り」に思えてならない。

それでもよくよく嗅ぐと、このレモンティーアコードはとても丁寧に作りこまれていることに気付く。ブランドの表記によるとダージリンやアールグレイと書いているが、まずこれらのティーノートの作り方が上手い。コクがあるのにスッキリしていて、余計なスモーキーがない。さらにほんのひとさじのフローラルを加えて、紅茶のもつ深みある香りに華やかさと清涼感を出す「かくし味」も利かせている。村井さんの前職は分からないけれど、もしかしたら食品関係の香り付けの調香をされていたのでは?と思うほどバランスのいいなめらかな調香だ。それとも単に腕のよさか?これは香水ではない。肌につけるレモンティーだ。

ティーブレイクの香りに包まれている時間は、ずっと紅茶の香りに癒され続ける至福のときだ。紅茶文化は英国経由で日本に紹介され、アフタヌーンティーの様式は明治の社交界を支えたという。やがて昭和の頃に茶葉の輸入が自由化され、一般の人々が気軽に楽しめる飲み物としてブレイクした。当時まだ高かった白砂糖をたっぷり入れた紅茶の味は、家庭の安らぎの香りとして広くあまねく浸透していった。

カップに入れたティーバッグ。そこに熱いお湯を入れる。コポコポと音を立てるお湯の流れ方は、ティーブレイクのボトルに描かれた波型模様そのものだ。そして立ちのぼるコクのある紅茶の香り。その湯気もまた波型のシンボリック。このゆらゆら描かれた模様にはダブルミーニングが感じられる。

一日の疲れも、一杯のおいしいお茶があれば、それだけですーっと抜けていくことがある。お茶は有史以前から不老長寿の霊薬として珍重されてきた飲み物。今日も一日がんばったな。そんなひと仕事のあとに、自分だけの大切な時間をおいしいお茶とともに過ごしたい。

ふー。爽やかなレモンの香り。芳醇でどこまでも晴れやかなコクのある風味。そして疲れをいやす甘さ。はー。思わず息がもれる。

さあ、おいしい紅茶を飲もう。心がほっとするティーブレイクで。

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メゾン フランシス クルジャン / Le Beau Parfum

メゾン フランシス クルジャン

Le Beau Parfum

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

7購入品

2022/5/28 08:53:57

400本めの香水レビュー。ここまでちょうど9年間、書き続けてきた。週一度1本ペースだから、レビュー数じたいは多くはない。それでもその1本を書くために、香料分析、背景リサーチ、比較検討、推敲編集やらで、1本につき平均6時間はかかってるから、9年で400×6=2400時間は香水の勉強をしてきたことになる。←そのわりにわかってないけどな

珍しい機会なので、その400本の中から心に残っている香水をほんの少しまとめてみる。

◎最もリスペクトしたクラシック香水3本
・シャリマー(ゲラン) ・ルールブルーEDP(ゲラン) ・N°9(シャネル)

◎最も心に突き刺さった香水2本
・ラペルトワ(ラルチザンパフューム) ・フェミニテ・ドゥ・ボワ(セルジュ・ルタンス)

◎最も偏愛して日常使用してきた香水
・エンジェルEDP&EDT(ミュグレー) ・コローニュロワイヤル(ディオール)

◎出す作品どれも恐ろしくできがいいと思う香水ブランド
・ピュアディスタンス ・フラッサイ

◎400書いた中で心に焼きついているレビュー3つ
・ラペルトワ(ラルチザン・パフュ―ム) ・エンジェル(ミュグレー) ・ロストチェリー(トム・フォード)

世界中で年間何万本も新作が生まれる香水業界。その中にあって、これまで出会えた香水はまさに「ご縁」。そんな中、紹介する400番目の香水は、初めからちょっと「ごめんなさい」しておきたい作品。なぜなら日本未発売かつ限定品という超入手難しい系。たぶん自分も、この先もう1本ストックを入手することはできない。そういう意味では本来紹介するつもりはなかった香水。ただあまりにも香水としてできがよく、個人的にもラペルトワに匹敵するほど美しく、自分の性癖にぐっさり刺さった香りなので、このまま誰にも知られず消えていくのは悲しいと思ったから、そっとここに置いていく。

それは、フランシス・クルジャンが2015年にパリの百貨店プランタンの150周年記念のためだけに製作したル・ボー・パルファム。この香水は自分の中で特別すばらしい作品、極上品。星をつけるなら☆7満点のところ、☆70はつけたい香水。ただそれはもちろん自分にとっての超どストライクであって、貴方にとって好きな香り、またはベストマッチとは限らない。香水に「万人に好かれる香り」なんて存在しないからだ。

ルボーの香料イメージはシンプルだ。クレジットによると以下のとおり。

インドのチュベローズ&ジャスミン、チュニジアのオレンジブロッサム、マダガスカルのイランイラン。いわゆる濃厚なホワイトフローラルブーケ系統の香り。

ただ使用している花の香料はどれも高品質ですばらしく、同時にそれらを際立たせるための「つなぎ香料」が超絶いい。しかもナイスバランス。はっきり申し上げる。さすが天下のプランタン。これを作らせるために、クルジャンにどんだけ対価を支払ったのだろうというくらい、スペシャリティ香料をふんだんに使用しているように思う。つまり「売っても赤字」なくらいゴージャス&センシュアルな出来。だから周年記念の限定香水なのだろう。

ルボーを肌にのせる。その瞬間、あまりに甘くかぐわしい花の蜜の香に脳がよろめく。体がふらつく。矢吹ジョー渾身のクロスカウンター一発もらった気分。腰からくだけ落ちる。花園に倒れこむようにマットに沈む。お花畑で好きな女の子を追いかけるスローな白日夢を見る→人間終了。な開幕。それほど左脳崩壊で言葉にならない美しいフローラル爆弾なトップ。

それでも、カウント9でギリギリ立ち上がって香りを分析するなら

ルボーは偏愛するラルチザンのラペルトワにインスパイアされて創ったのでは?と思うくらい雰囲気が酷似している。クリーミーガーデニア&山椒という「花の優しさ&スパイスの棘」の取り合わせで、内面の感情を激しく揺さぶるラペルトワ。その山椒部分をごく微量のキャラメルノート&シナモンが代替するような形で、白い花束に甘いグルマンを補完している。これがたまらない。クルジャン、あなたさてはラペルトワのベースをヒントに、同ラルチザンのアムールノクターンを組み込みましたね?と言いたくなるくらい。わからない方はわからなくていい。これはほぼ自分にあてた周年記念レビューだ。

サイレージは5時間程度。ジャスミンの残香強めでルボーは消えてゆく。ルボーは「プランタンおめでとう!」で作られたけれど、その甘くてノーブルで、どこかノスタルジックなクリーミーな花束は、プランタンとクルジャンがあなたに贈る感謝の花束の香りだ。

いつもありがとう
あなたのおかげで 今があります
あなたの一日が 美しい香りに包まれますように

おめでとう あなたへ

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ゲラン / ドゥーブル ヴァニーユ

ゲランゲランからのお知らせがあります

ドゥーブル ヴァニーユ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:100ml・49,500円 / 200ml・70,290円発売日:- (2021/9/1追加発売)

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6購入品

2021/12/4 13:49:43

女性におすすめしたいヴァニラ香水は?と聞かれたらこう答える。まずはゲランのスピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ(以下SDV)を試してみては?と。ただし賛否両論の多い香水ではある。好きな方は「最高のヴァニラ」と評するが、そうでない方はこんな風に言う。「木の香りしかしない」「ヴァニラが薄い」「値段が高い」(←それな)。

ドゥーブル・ヴァニーユ。「2倍のヴァニラ」という名の香り。ゲラン最高峰シリーズの香水で、価格も高いが人気もダントツの香り。ではなぜ評価が分かれるのか?

実は、SDVをつけた瞬間に立ちのぼる香りは2パターンある。ダークラムの洋酒っぽい香りが強く出るときと、鉛筆を削ったときの香りのようなシダーのウッディが主張してくるときだ。その混合比も日によって変わる。これは天然香料がふんだんに使われている証拠。だが、ここでウッディを感じる方には割と評価が低いようだ。

温かく酔わせるようなダークラムの香りと、冷たく内省的なシダーウッドの香りは、対比関係にある。それでもこの2つは、ほぼ同じ高さで香る印象だ。互いに拮抗しながら、絡み合うよう交互に現れる。さながらダブル香料トップといった感じ。

この2つの茶色い香料のせめぎあいは、静かながら顕著だ。日によってどちらが優位に出るかが異なる。その日の気温、体温、湿度、肌の状態等で、シダー優位orラム優位にふわふわ変わる。

まずここで「ヴァニラは?ヴァニラはいつくるの?」と思っている方は、肩すかしをくうだろう。実はこの香水、揮発の遅い天然ヴァニラを使用しているため、つけてしばらくしないと出ないからだ。

30分ほどすると、わずかにローズの片鱗が感じられるようになる。そこからはラムとシダーにとって変わるように、やっとヴァニラ香が立ちのぼってくる。

そしてこのヴァニラの香りは、確かにただものではない。

つけてしばらくして現れるヴァニラ。それはほんのりカラメル香が効いていて、クリーミーで、ラムのコクをまとった最上級のヴァニラだ。ただし、香り立ちは弱め。ふとしたときに鼻をくすぐる程度のまろやかさだ。合成ヴァニラの強さが好きな人は、ここでまたがっかりするかもしれない。だが、柔らかいベンゾインの甘さも伴ったヴァニラは、この作品でしか味わえないのでは?というくらい繊細できれいだ。そしてつける人の肌で香り立ちが変わる。だから、肌にのせたとき初めてその人のヴァニラ香になる。

ラストはラムとシダーの残香を残しながら優しくフェミニンなヴァニラで終息。時間は人にもよるが、6〜8時間ほどでドライダウン。

まとめると

SDVは、ラムとシダーのスパイラルトップから始まり、ゆっくりゆっくりヴァニラ香に変わってゆく熟成された香水だ。そのヴァニラは高級なれど、強くはない。バニリンを加えたとしても、とても2倍に増やした感じではない。一体どういうことなのか?そのヒントはこの作品名に隠されているように思う。

この香水の正式名称は「スピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ」だ。これを英訳すると次のようになる。

「Double Vanilla Spirit(ダブル・ヴァニラ・スピリット)」

英語の「スピリット」には、「アルコール(酒)」という意味と「魂・精神」といった複数の意味がある。だとするとこれは、一般的な「ヴァニラ2倍」という意味だけでなく、「ヴァニラの酒」という意味と「ヴァニラの精神」という意味、「2つ」をもたせた掛け言葉、ともとれる。

そうした視点から、ジャン=ポール・ゲラン、最後の作品となったSDVに込めた思いを想像してみる。

1つ。極上の天然ヴァニラには、ラム酒(スピリット)に似たファセットがある。それは合成香料のバニリン等で自然に出せるものではない。ゲランが独自に仕入れた最高級の天然ヴァニラにしか出せないものだというプライド。

1つ。ゲランにとってのヴァニラは、ゲルリナーデの根幹を成す重要な素材。その精神(スピリット)を忘れるな、という後進へのメッセージ。

この2つの「ヴァニラのスピリット」を込めた作品、という意味ではないだろうか。

別にそれが事実でなくてもいい。自分はそう受け取めた。4代にわたって香水帝国を築いてきたゲラン家の最後の調香師ジャン=ポール。彼がブランドの経営から退く際、言葉には言い表せぬ思いが多々あったことは推測に難くない。それらの思いが、この最後の作品の1つに注がれていたことは間違いないだろう。

スピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ。それは

あなたの肌にのせたとき、初めて完成する美しいヴァニラのお酒。いつまでもあなたの感性を刺激し続ける、ゲランのヴァニラの魂。

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ゲラン / 夜間飛行 香水

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夜間飛行 香水

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:30ml・49,720円発売日:-

5購入品

2017/12/9 02:15:05

夜間飛行。それは厳格で苦みばしった冷たい香り。その一見ロマンティックに思える美しいネーミングとは裏腹に、危険で、ギリギリと奥歯をかむような緊張感を纏う者に強いる香り。ゲランの名香の中でも特に複雑でとらえにくく、混沌としてつかみどころのないフレグランス。それゆえ、1933年の発売以来、その秘密を完全に解き明かされることなく、今なおミステリアスに語り継がれる伝説の迷香。

仏名ヴォル・デ・ニュイ。サン=テグジュペリが発表した同名小説にインスパイアされ、彼の親友であったジャック・ゲランが創ったとされる。香りの特徴は、オリエンタルアコードとシプレアコードを拮抗させるという試みと、ガルバナムの過剰投与というアプローチが見られる点。正直言って、女性がうっとりするような要素はあまり見当たらない。自他に厳しい人や、孤独な魂の彷徨を感じさせるような気難しい香りだ。ここでのレビューは、ビーボトルに変わったオードトワレ(EDT)のもの。

夜間飛行を1プッシュする。すぐに広がってくるのはちょっとアルコールっぽさが強いアルデヒドの匂い。ツヤというかテリのような物が湿った土っぽいウッディにかぶさり、それを強く拡散させてくる。ギターのエフェクターで言えば、音色を響かせるコーラスといったところ。かなりクラシカルな印象のオープニング。

さらに下から、とれたてのインゲンマメのような青臭いガルバナムの匂いと、苦みばしったオークモス系の香りのミックスが立ちのぼってくる。パチュリの湿った土っぽさも絡んで、のっけからシプレのビターな香りがガンガン攻めてくる。やや金属的な清涼感も感じられ、夜間飛行の小説に登場するプロペラ機の冷たい鋼鉄の機体をも思わせる。

やがて5分ほどするとミドル。甘くかぐわしいウッディアンバーと、ややイランイランに似た低音のフローラルが攻めてくる。イランイランよりツンとしているこのフローラルはナルシス(黄水仙)のようだ。そこにオークモス系の苦み、さらにアニマリックなカストリウムのレザーっぽい匂いが混じりあって、かなりカオスなミドル。スッとすばやくかぐと、グリーン&アーシーな苦み、ゆっくりかぐと黄色いツンとした花粉の香り&動物的な匂いがよく感じられる複雑さだ。さながら郵便配達のパタゴニア機が突入していった黒雲の中。暴風雨を思わせる香料の嵐が吹きすさぶイメージ。

そんなミドルが1時間ほどすると、EDTは不意に美しく穏やかな白い世界に変わる。この劇的な変化がとてもきれいだ。わずかなヴァニラを伴ったアイリスルートのパウダリーな香りが静かに広がってくる。ほんのりサンダルウッドも混じって。ラストがオリエンタル系の余韻を残して終わり、色で例えるなら白の世界。残りわずかな燃料で、漆黒の暴風域から雲の上へ突き抜けたファビアンの飛行機が見た天上の世界を表現したかのよう。

このラストを味わう時、銀河の星々のまたたき、月明かりに照らされ、静寂の白い雲海をすべるように進む機体が思い浮かぶ。時折眼下の雲間に光る銀色の稲光。彼が乗った機体は、上司が待つブエノスアイレスの空港に着くことも、暁の金の光を見ることも叶わず、やがて夜の闇の底へと消えた。それはそれは美しくはかないラスト。

けれど、小説「夜間飛行」は、夜間の過酷な飛行に挑んだ操縦士のセンチメンタルな物語ではない。真の主人公は、彼らやスタッフを雇い、前人未到の夜間の飛行機運輸に確かな道をつけようとした支配人リヴィエールだ。一つのミスでも部下を解雇することを厭わない冷徹なまでの彼の姿勢。彼は、暴風帯に突入して連絡がとれなくなった操縦士ファビアンの帰還の可能性を最後の最後まで探る。が、それが叶わないことを知るや、「この失敗によって次の失敗はなくなる」と顔を上げ、次の便を出発させる指示を出す。哀しみを密かに夜の底に捨てて、ゆるぎない前進のための手を止めず。

ジャック・ゲランは、そんなリヴィエールの孤独な魂を思ってこの香りを創ったのではないかと自分は思う。パイロットとして何度も命懸けの任務についた親友サン=テグジュペリ。彼はまた、そんな任務を遂行させる立場の人間の、強く過酷な態度をも慮っていた。暗い地下室で常に孤独と向き合い、ただひたすらに己の理想とする香りを創造すべく孤軍奮闘していた調香師だったからこそ、ジャックは心が震えるほど彼に共感したのではないだろうか。

夜間飛行は特別な香りだ。年齢も性別も超えて、どこまでも自分の弱さと向き合い、己の心臓に常に刃を向け続ける者のために創られた孤高の香水。暗闇を切り裂く命のプロペラのごとく、常に前進し続けようと自らを鼓舞するフレグランス。太陽のごとき理想に向かい、夜明け前の漆黒の暗夜行路を、ひとり往く者のための香り。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
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  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • 映画鑑賞
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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