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ゲラン / シャリマー 香水

ゲランゲランからのお知らせがあります

シャリマー 香水

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:30ml・48,400円発売日:2002/1/2

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2016/7/2 01:18:34

シャリマー、それは女性用香水の至高の逸品。あらゆる年代の女性の魅力を底上げする香り。
女性の美しさ、高貴さ、甘美さをひきだす琥珀色のヴェール。男性の本能を無意識下で揺さぶり続け、心に刻みつける香り。恍惚の媚薬。

この世には、本当に出会った瞬間、衝撃でのけぞるような香りがある。自分にとって、シャリマーはその1つだった。本当にときどきしかないが、初対面で心を奪われる人がいるように、香りにも心をわしづかみにされる物がある。「何を大げさな」と感じる方は、まだ出会っていないだけかも知れない。かけがえのない人にも、心震わせる香りにも。

だが「彼」は出会った。その人生において、何者にも代えられない運命の女性と。

ムガール帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーン。彼と彼の愛妃、ムムターズ・マハルの物語。シャーはハーレムにいた他の女性には目もくれず、ただひたすらにタージ(ムムターズの愛称)だけを愛し、その間に13人の子をもうけたという。14人目を身ごもったタージが亡くなったとき、シャーの悲しみは天空を裂き、全ての権力と財を注いで、総大理石造りの彼女の霊廟、タージ・マハルを何十年もかけて建設させた。この愛の逸話はつとに有名だ。

もしもこの逸話に感銘を受けたジャック・ゲランが、「タージ・マハル」という名の香水を作っていたなら、それはおそらく、彼の叔父であるエメ・ゲランが作ったジッキーのように、愛する者との別離や深い喪失の色を呈した、もの哀しげなフレグランスになったことだろう。だが、彼はちがった。

ジャック・ゲランは、一途にタージを求め続けたシャーの偏愛とも言うべき姿を、2人が愛を睦み合った庭園の名である「シャリマー(愛の殿堂)」というイメージに凝集した。それは、愛する者を失った悲しみ以上に、深く強く心に刻まれていたであろう2人の歓喜の日々。そんな美しく官能的な日々を彷彿させるあたたかい香りだ。センシュアルではあれど、エロティックにはあらず。

そんなシャリマーのトップは、強烈なハーブと樹脂の辛みとベルガモットが、噴水のように空気中に霧散して開く。まるで、チェリーコークに花々やハーブを入れて煮詰めたような雰囲気だ。そして、確かにジッキーのオープニングを思わせる。シャリマーは、ジッキーのノートにさらに香料を加え、重層的にリファインしていく中で作られたようなので、なるほどと思う。心をわしづかみにする強烈なベルガモットの拡散と、その下から同じ熱量で鼻を刺激してくる薬草や樟脳っぽいスパイシーなオープニング。好き嫌いはあるにしても、ひとかぎで他の香水と全く違う繊細な複雑さ、高級さが感じ取れると思う。けれど、高慢ではない。絶え間なく鼻と脳を刺激し続け、あっという間にとりこにされる。まるで、シャーとタージの衝撃的な出会いのように。

そしてすぐにミドル。炭酸のように拡散していたベルガモットが落ち着いてくると、シャリマーのミドルは、驚くべきことに温度が上昇する。ここがジッキーとの大きな違いだ。もっと甘くかぐわしく昇りつめていく。暗くパウダリーなアイリスと樹脂の甘み、パチュリの苦みが入り混じり、重奏を奏でる。低い太鼓が鳴り、シタールの調べが聞こえる中、松明のオレンジ色の灯りに照らされて、2人の体温がどんどん上昇してゆくイメージ。それは、燃えさかる愛の調べ。誰にも邪魔されない2人の時間。

やがて気がつくと、穏やかなヴァニラとトンカビーンの香りに変わっていることに驚きを覚える。そんなクリーミーな甘さが感じられたらラスト。パルファムなので拡散力は弱めだが、点でつけたときのかぐわしさ、自分の体温や気温、湿度に応じて、さながらオーロラのようにさまざまに変化する香りの揺らぎは、トワレやオード・パルファムの比ではない。そのわずかな変化を楽しむだけで深い安息を得ることができる。それは、オポポナクスの甘い樹脂香と、白っぽくパウダリーに落ち着いたアイリスと、柔らかなヴァニラ。至福のラスト。恋人たちの体温であたたかみを増したシルクを思わせる香り。このラストに包まれて眠りにいざなわれたなら、どんなにか安らぎ、よい夢が見られるだろう、そう思えるようなドライダウン。シャリマーを特別な夜の寝香水にしている方が多いという話も頷ける。それは、2人の穏やかな寝息。白亜のパレスの蒼い夜。

シャリマー、それはゆるぎない愛と官能の泉。こんこんと湧き出る琥珀色の陶酔。一途な愛を現世にとどめつつ、時空を超え、天上での再会を誓って焚きしめられた聖なるバルサムの香り。思い出の庭園の上に広がるインディゴ・ブルーの夜空。星々のまたたきに吸いこまれ、消えていく白い燻煙のドレープ。とろけるような天使のヴァニリック・ゲルリナーデ。

その香り、別格。

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ゲラン / シャリマー フィルトル ドゥ パルファン

ゲランゲランからのお知らせがあります

シャリマー フィルトル ドゥ パルファン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:50ml・13,860円 (生産終了)発売日:2020/12/1

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2021/1/30 13:36:53

参りました。素直に。これはすばらしい香り。誰もが是非一度は肌にのせてみてほしい香水。超お薦め。

ゲランのシャリマー・フィルトル・ドゥ・パルファン。この見事なバランス感覚に脱帽。ゲラン5代目調香師ティエリー・ワッサーと彼の調香チームの真の実力を見た。もうワサ夫とか言わない。(←最初から言わないように)

世界初のオリエンタル香水として今なお燦然と輝くゲランのシャリマー。フィルトルはその亜種で、星の数ほども出されてきたフランカーの1本。2020年12月発売の数量限定品。50mlで税込13800円。初めてだ。1本使い切らないうちにもう1本キープかなと思った香水は。

シャリマーは、香りも含めてコーラと共通点が多い。オリジナルのコーラは百年以上前に発明され、今なお世界中で愛飲されている。シャリマーも同様だ。そしてどちらもシトラス、スパイス、ヴァニラなど、多くの共通香料が使われていて香り的にも近い。さらに、チェリーやレモンやシナモンなど、構成フレーバーの一部をあえて過剰投与した限定品を次々に出している点もだ。シャリマーはいわば、薬草と樹脂と花の香りを添えたコーラのような香水だ。

ただし、シャリマーは香水の名作だけあって、亜種作品に対する愛香家の気持ちと鼻は、コーラの味以上に手厳しい。「また亜種か」という冷笑と一瞥が必ずあり、新作の度に「これはシャリマーじゃない」「オリジナルよりピンとこない」など、猛烈な批判に晒される。そして「ワサ夫、何でもオレンジフラワーとホワイトムスク入れてごまかすなよ?」などと言われる始末。(←それは貴方の意見では?)

ともあれシャリマーフィルトル、この作品はどこか超えた。少なくとも自分はそう感じた。では一体、どんな香りなのか?

フィルトルをスプレーする。その瞬間、わきあがる金色の雲。爽やかなレモンの香りに包まれる。同時にほんのりハーバルな清涼感も寄り添っている。フローラル調のラベンダーの香りだ。レモン&ラベンダーは香料的にとても相性がいい。まばゆい春の陽射し。レモン色の雲。吹き抜ける青い風。それらが世界に色彩を与えてゆく季節、春を思わせる明るいイントロ。

5分後、レモンの高い酸味の下からベルガモットのシトラスが広がってくる。ベルガモットは豊かな酸味と苦みを加えつつレモンの黄色い香りを引き継いでいる。さらに、ラベンダーとカルダモンのスッキリ感、甘辛いクローブのほのかにスパイシーな風をはらみながら、春の庭園の様相を呈してくる。光。春の光。植物のシャープな葉の香り、風に揺れる野の花の香り、そして傷ついた樹木が出すツンと甘い樹脂の香り。そんな広大な野に出でて、少女が一人、若菜を摘んでいるようなイメージ。

このトップ〜ミドルは、シャリマーシリーズでいうとパルファム(P)の雰囲気に近い。ベルガモットを過剰投与したPに対して、フィルトルはコーラで言うなら、グラスコーラにレモンを丸ごと一個しぼって入れた超生絞りレモンコークな香りだ。フィルトルは、かなりPのイントロのシトラスの爽やかさにこだわって創っている。そしてこのシトラスが想像以上に長く続いてとても驚く。ミドルは、レモン&ベルガモットが5、ラベンダー1、スパイス1、フローラル1、トルーバルサム1、パチュリ1、的な構成で展開する。この比率が凄まじくいい。PとEDPは、次第にアニマリックとアンバー&ウッディが強く出てきて温度を下げ、艶っぽい夜の密会的雰囲気になるけれど、実際そこが濃厚で苦手という方も多かった。フィルトルは、P前半の爽やかさとスッキリ感をずっと保ち続けている印象。光に満ちた庭園の香り。これはデイタイムシャリマーだ。

やがて30分ほどすると、香りはさらに変化する。このままシングルノートで終焉かと思いきや、まさかのヴァニラアイス大量投入。さらにアイリスの甘いベビーパウダー香添え。レモン色の爽やかさを落とすことなく、白いヴァニラのわた雲な香りが広がってくる。そこにほんのり香るシナモン様トルーバルサムが超絶アクセント。これは悶絶級のクリーミー&パウダリー。そのまま、まろやかクリーミーな香りでドライダウン。付けてから5〜6時間。香り立ちは柔らかく使いやすい。これはPのシトラスとヴァニラを強調して重さを除いた、いいとこ取りの香水だ。

灰色の空の切れ間。突然現れた太陽の光が、雲のエッジを金色に染めてゆく。庭園の緑が鮮やかに色を取り戻す。あたりは瞬く間に光が満ち満ちてゆく。鳥が歌い、花々が揺れ、流れる水音が聞こえる。レモンとハーブと甘いバルサムの香りがしている。少女の白い服がホリゾントの光にまばゆく浮かび上がる。そして移ろうヴァニラホワイトの夢。

それは、太陽も恋する香水。光の庭園の媚薬、シャリマーフィルトル。

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シャネル / シャネル N°5パルファム

シャネル

シャネル N°5パルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:7.5ml・17,380円 / 7.5ml・18,150円 / 15ml・31,350円 / 30ml・44,000円発売日:-

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2016/6/25 12:26:16

世界で最も有名なひとしずくの秘宝。そして、世界一せつない香り。

シャネルのNo.5パルファムは、妙なる花々の香りと野卑な動物臭をブレンドし、アルデハイドでそれら何百種という香料を輝かせる巨大な幻想庭園。他の模倣を許さない、高価な香料を用いた配合とその奇跡のバランス。まさに琥珀色の宝石。その一滴は極上のシャルトリューズのごとく、時代を越えて人を酔わせ続けるエリクサー。

1921年、調香師エルネスト・ボーが提示した10本の香りの中から、ガブリエル・シャネルがその類まれな審美眼と洞察力で選び取ったこの作品は、あらゆる意味で世界を変え、そして今なお変え続けている。その秘密を5つの”L”で探る。

1つめはレジェンド(Legend)。No.5は幾多の「伝説」を生んだ。なぜ10本の香りからこれが選ばれたのか?アルデハイドを過剰投与した本当の理由は?パルファム・シャネルの経営をめぐる闘争の裏側は?などなど、いまだ謎に包まれた部分が多い。後付けされた推測が語り伝えられ、いつしか本人たちの手を離れ、作品であるNo.5にミステリアスな魅力を加えていった。時間と人々の語りが、あの小さな一瓶に歴史と評判という年輪を積み重ねたのだ。

2つめはレディ(Lady)。シャネルがLBDをデザインし、窮屈だった女性たちのコルセットを外させ、魂と身体を解放したことは有名だが、この香りもまた「新しい時代の女性」に進化する役割を担っていたことだ。当時、良家の淑女は単一花香、特にバラの香をまとい、高級娼婦らはジャスミンなどを付けるのが一般的とされ、女性たちは香りによっても縛られ、住み分けされていた。だが、No.5はそれらをミックスして「女性の香り」のシンボルとし、彼女たちを古き時代から解き放った。これが女性の価値観やあり方を大きく変えた。

3つめはラスティング(Lasting)。いつまでも心に残り、「永続」する香りだということ。
好きか嫌いかに関わらず、この香りは女性の人生のときどきに何度か現れ、そのたびに最大限の熱量で語りかけてくる。トップのアルデハイドのきらめきは、ミックスフルーツにかけたリキュールのように個々の香りの本質を引き出し、さらにそれらを1つにまとめて拡散させ、人を酔わせる。多量のインドールを含んだグラース産ジャスミン、希少なローズ・ドゥ・メをはじめ、80種をこえる天然香料の饗宴。それらの中には、シベットやムスクなど、獣の匂いも相当量ミックスされている。だから香りが持続する。香料の良さのみならず、心に強烈な獣の爪痕(つめあと)を残すからだ。

4つめはリリカル(Lyrical)。No.5は、あまたの感情を揺さぶる「叙情的」な香りだということ。そこに人は、女性自身の美しさとともに、光と影のように一対となっている女性の醜さをも見る。清らかさとダーティーさ、高慢さと謙虚さ。純真さとずるさ。天真爛漫さと計算高さ。可愛らしさと憎らしさ。そんな矛盾を内包する人の心にストレートに響く香りだ。なぜならNo.5は、「美しい花」と「ダーティーな獣の匂い」が協奏曲を奏で、そこにアルデハイドがコーラスとリバーヴを与え、爆音でブラストし続けるからだ。そのときどきの心の在り様が、同じ音や響きに共振してしまうのだ。

そして5つ目は、ラヴ(Love)。この香りは意外にも、傷ついた心、不安に震える魂を全身全霊で包みこむような優しさと「愛情」に満ち溢れた香りだ。No.5の功罪を1つ挙げるなら、やはりマリリン・モンローの存在だろう。彼女のおかげでアメリカで爆発的に売れた半面、彼女のセリフが元で、No.5は「男を誘惑する香り」といったイメージを人々の心に刻んでしまった。だがもう一度よく考えてみたい。なぜモンローはNo.5を愛したのか?なぜ「ベッドで身につけるのはNo.5を数滴だけ」と答えたのか?

それは、モンローが幼い頃から孤児院や親せきの家で育ち、母の愛に恵まれない不遇な少女時代を過ごしたことを知れば、自明の理だ。彼女は生きるために、男性の肉欲の対象となっても、女性からのバッシングにあっても、人前では笑顔をくずせなかった。そんなモンローの孤独、悲しみを包んでくれたのがNo.5だとしたら?それは、求めても得られなかった母の添い寝の代わりではなかったろうか。赤子のように体を丸め、No.5の香りに包まれ、母を想いながら彼女が眠っていたとしたら。そう思うと、No.5の琥珀色は違った色に見えてくる。

強く厳しく、けれど子の心の内を全て見透かしてなお微笑み、優しくたたずむ人。No.5はそんな母の姿を思わせる香り。愛し、憧れ、たとえ憎んでも、永遠に心から切り離せない、自分を生んでくれた人を思う香り。

だから切なくなる。世界で一番せつない香りになる。

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シャネル / シャネル N°5 ロー オードゥ トワレット (ヴァポリザター)

シャネル

シャネル N°5 ロー オードゥ トワレット (ヴァポリザター)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:35ml・9,900円 / 35ml・11,550円 / 50ml・13,200円 / 100ml・18,700円 / -・11,550円 / -・16,500円 / -・23,100円発売日:2016/9/23 (2023/12/1追加発売)

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2018/8/10 00:07:13

「あ、すごい。透明感があって甘いのにしっかりN°5の香りがする。」初めてシャネルのN°5ローをつけたとき、そう思った。今もはっきり覚えている。

2013年にシャネルの4代目調香師に就任したオリヴィエ・ポルジュが3年という歳月をかけてじっくりと作りこんだN°5の新しい形、それが水のような透明感をもつ新たな5番、N°5ロー・オードトワレだ。

試す前は少々冷ややかな姿勢でプレスリリースを追っていた感が否めない。映画にしても小説にしても、大ヒットした作品の続編またはサイドストーリーが作られる際には概してそうしたシニカルな視線がつきものだ。

それが見事にくつがえされた。シャネルN°5ローはすごい。1年使ってそう思う。その理由は次の3つだ。

1つめ。シャネルの「新時代のフェミニティ」を体現する透明感あるみずみずしいフローラルノートを提案していること。

5番と言えば希少価値の高いローズ・ドゥメとジャスミン、イランイランの濃厚なフローラルブレンドが有名だが、N°5ローでは最も入手しにくく高価なローズ香料がひかえめに感じられる。これはそうした天然ローズ香料がこの先供給の先細りすることも視野に入れて考えられた新時代のフローラルブーケなのだろう。このジャスミンとイランイランの配合には、どこか甘い蜜の香りも混じり、とてもバランスがよく美しい。インドールが効いたややアニマリックなシャネル独特のジャスミン、その下でわずかな暗いシェイドをつけるイランイランの低音との共演は見事だ。1秒ごとにふわりふわりと香り立ちが変わるトップ〜ミドルのフローラルブレンドに酔いしれてほしい。

2つめ。現代に安心して使える香料を駆使してN°5のレシピを徹底的に見直し、クリアーでウェッティーな香り立ちを両立させたこと。

これまでロー(水)という刻印をもつフレグランスの多くは、概してアクアノート、オゾンノートと呼ばれるような人工香料によるファセットが多く見られてきたが、N°5ローには瓜系の感じも潮の香りの感じも見られない。それでも十分に清らかでみずみずしさが随所に感じられる。これは賦香率をあえてオードトワレにしたことも関係していると思うが、トップのアルデハイドの拡散のあとに、わずかにペア―やライチを思わせるフルーティーさが垣間見られることがポイントだ。クレジットにはないものの、ピンクのチャンスで用いたマルメロの香りのように、こっくりとした甘さがジューシーさを伴ってフローラルに引き継がれている。これによってアルデハイド〜フルーティ〜フローラルへと香りがグラデーションしていく中で、果汁や蜜がしたたるような効果を上げているように思う。

3つめ。パウダリーとソーピーの絶妙なバランスで消え入るラストの美しさ。

本家5番のラストといえば、あたたかく包み込むようなサンダルウッド、ヴァニラ、ブルボンベチバーというウッディなエンディングが印象的だが、N°5ローではあえてサンダルウッドやベチバーを控え、ホワイトムスクとシダーのブレンドに置き換えた感がある。通常、ホワイトムスクというと、わずかにスチームしたような金属的なトーンがあって冷やかに感じられることが多いが、N°5ローのベースには温かく包み込むまろやかさがある。ミドルから続いているほのかな甘さがパウダリーに傾くか、ソーピーに傾くか、ムスク&シダーでうまくバランスをとっている印象。合成っぽさが感じられない穏やかさが秀逸。

トワレとは言いながら5〜8時間穏やかに香り続ける。付けてからの香料変化は次のような展開だ。

トップ。柔らかに拡散するアルデハイドの脂の匂い、イランイランの影のあるニュアンス。次々に揮発するシトラス分子のスプラッシュ。

ミドル。アルデハイドのきらめきの陰、ゆらゆら揺れるグリーンなローズと少し強めのジャスミン。甘くジューシーな水蜜と花の香り。

ラスト。とろけるようなハニー、クリーミーなヴァニラ、スーッと流れるようなパウダリー&ソーピーなホワイトムスク。わずかに温かみを添えるシダー。女性の肌にしっとりとした柔らかさ、優しさ、おだやかさを与える狂おしいベビーパウダーの匂い。

「水とかけてN°5ローと解く。その心は?」と問われたら、たぶんオリヴィエはニッコリ笑って答えるだろう。

それはどちらも貴女の日々の生活に絶対欠かせない物だと。

名香を1年に何度かドレッサーの奥から引っ張り出して秘密の暗号のように付ける時代は終焉したらしい。これからは毎日、好きな時に好きな場所に付けるべきだ。彼はこの作品でそう告げているようにも思える。

N°5ローはそんなオリヴィエ・ポルジュの自信が感じられる、女性なら誰しも1本持っていて損はない新時代の5番だ。

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イヴ・サンローラン / オピウム オーデトワレ

イヴ・サンローラン

オピウム オーデトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・13,750円発売日:- (2010/9/23追加発売)

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2019/9/15 00:01:54

香水の歴史上、最も危険な作品といえばイヴサンローランのオピウムがまず挙げられるだろう。「阿片(アヘン)」というネーミングに絶対的にこだわったサンローラン。しかしその名前ゆえに各地でパニックや暴動に近い事件が多発したのも事実。それでも全世界で爆発的ヒットを記録し、1977年の発売以来、50年近くたってもいまだに売れ続けている伝説の名香オピウム。その官能的かつ退廃的なオリエンタルスパイシーな香りの中毒となった人は発売以来数知れない。

オピウムは、印籠型とされる特徴的な丸窓ボトルのパルファムと、縦長のシンプルなボトルのオードトワレが1977年に同時リリースされた。現在パルファムは作られておらず、オードトワレのみとなっている。このレビューもオードトワレの方だ。調香師は、後にディオールのプワゾンなどもブレイクさせた凄腕調香師ジャン・ルイ・シュザック。彼は、サンローランに中国王朝時代のオートクチュールコレクションに見合った皇后の香りの創造を託され、その危険で中毒性を感じさせるネーミングに負けない、強くて蠱惑的なオリエンタル系の香りを創り上げることに心血を注いだという。

では、この香水に一体どんな魔力が秘められているのだろうか?

オピウムを身に纏う。軽くスプレーしたとたん、レモン増し増しのコーラのようなスパイシーでフルーティーな香りがガツンと広がる。オピウムのトップは本当にコーラのようだ。慣れ親しんでいる香りだからだろうか。薬草っぽい樹脂の感じも、ベルガモットやマンダリンのシトラスに包まれて爽やかにはじける炭酸のようでとても心地よい。印象としてはかなりクラシカルで濃厚な部類。ゲランのシャリマーやエスティローダーのユースデューに近い系統。

5分後、さまざまなスパイスとフローラルのミックスが鼻を麻痺させるかのように広がってくる。まず感じられるのはカーネーションの香り、甘辛いクローブの匂いだ。そしてたおやかなローズ、誘うような白いジャスミンのふくよかさ。中でもスパイシーなカーネーションの香りがフローラルの中心となって広がってくる。なんという馥郁たるミドル。カーネーションとローズとジャスミンは、ベースにある樹液のくぐもった香りのようなバルサミックなノートの上に開いている。このバランスがとてもすばらしい。似たタイプで言うと名香シャリマーが挙げられるが、あちらはもっとべルガモットやヴァニラ、アンバーが強く、しっとりとしているけれど、オピウムはギリギリと乾いている。スッキリシャープなキレのあるオリエンタル、そんなイメージだ。

このバランスはすごい。昨今のシングルノートだのシンクロノートだの「あまり変化のない香料少なめ値段高めのニッチ香水」に慣れた方は顔をしかめるほどの出力の強さだが、この作品のミドルだけは何度もつけてじっくりと味わってもらいたい。オピウムの香料バランスは本当にすごい。薬草のようなくぐもった樹脂のノート、コーラのような甘辛い香り、キッチン香辛料のドライなノート、そして美しい花々とのコントラスト。人を酔わせ、快楽に誘い、そして、心地よい眠りへと誘う魔法の香り、そう、これは確かに麻薬の類だ。一度味わったらここから抜け出せないかもしれない。これぞ香水オブ香水。何年もかけて本物の調香師が何度も何度もバランスを調整して仕上げた最高水準の香りの十二単。音楽でいえば何だろう。弾き語り?バンド?いや、オーケストラフルボリュームの香りだ。

持続時間はなんと10時間をゆうにこえる。たったひとしずく、その手首の内側につけるだけでも、スパイシードライなコーラのようなフローラルが思いのほか優しくたゆたい続ける。もちろん香りじたいに好き嫌いはあるだろう。けれど、シャリマーやこの香りを知らずしてオリエンタル系香水は語るべきではない。そう思う。

ラストは美しい煙のような樹液のこんもりした香りとアンバーの甘さの引き波を引いて静かに消えてゆく。衝撃的な名前よりなお、あらがいきれぬ愛の経験のアフタープレイのように、静かに狂おしく心に爪痕を残す香り。

忘れたいことも、悲しすぎる記憶も、ただいっときの夢に身を任せて、波間をただよう一輪の花のように、ゆらゆらと揺れてたゆたう時間があっていい。生きてる時間は何かと辛いことが多いもの。せめて一人、煙のような美しい香りに身をまかせて、泣きたいだけ泣ける夜があっていい。二胡の調べ。胡蝶の舞。

サンローランがその人生を賭してなお「この名前でなければノーネームでいい」とさえ言い切ったほど惚れ込んで、どうしても出したかった香水。知らないなら覚えておいた方がいい。

それはイヴサンローランの魂。オピウム。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
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  • 血液型・・・O型
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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