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2022/4/30 02:05:45
「カルメン!いつになったら振り向いてくれるんだい?」
「さあね、分からないわ。でも、今日でないことは確かね。」
世界中で愛されているオペラ「カルメン」の第一幕、大勢の男たちに言い寄られるジプシー娘、カルメン。彼女は鼻をツンとあげて次々と男たちを傷つける。棘だらけの野バラのように。
この歌劇「カルメン」をアートボードに据えた香水がある。ゲランの「最高素材による香水」シリーズ、ラールエラマティエールの最初の3作品として2005年に出たローズバルバルだ。ラールエラは2021年ボトル変更と共に、1つ1つの香水にアートイメージを添えて新生した。公式サイトでは『野生で反逆的な赤いローズ』と紹介されているローズバルバル、それはどんな香りなのか?
洋酒ライクな新型角ボトルからローズバルバルをスプレーする。つけた瞬間に広がるのは、爽やかに抜けていくハーブ様の透明な香り。これがフェヌグリークだろうか。ほんのりセロリ様の感はある。すぐさま追いかけてくるのはワクシーな薔薇の香り。薔薇の口紅によくある感じ。これはアルデハイドC-11の艶めいた香りだ。ピンク色のローズ・ド・メイを表しているのだろう。芳醇でボリューム感があり、ふんわりと漂う八重の薔薇の香り。けれど気を付けないとその棘で痛い目に合う。さながら官能的な見た目で男たちを魅了するカルメンの登場のような華やかなトップ。
5分後、わずかに蜜の香りが奥から感じられてきて、バラの香りがフルーティーに変わってくる。それはライチのようにみずみずしくピーチのようにふくよかな2つめの薔薇香だ。先ほどのワクシーローズよりも軽く、甘くかぐわしい。色に例えるならこちらの方がピンクだけれど、これが真っ赤なローズダマッセナの香り。公式サイトに「ダーマシーナローズ」と書かれているダマスクローズの香りだ。このフルーティーさは本当にすごい。もともとダマッセナが持っているフルーティーさに、ピーチ香がするアルデハイドC-11を合わせて増幅しているように思う。ミツコに使われた手法だ。
このミドルのフルーティーローズがこの香水の全て。これはバルバル(野蛮)ではない。男心をメロメロにする完熟果実ローズボムボムだ。
どんな男も、ひと目でカルメンに恋してしまう。それでもただ一人、群衆の中で彼女を見もしない男がいた。カルメンはその兵士に心を惹かれる。なぜ彼はあたしを見ないの?つかつかと歩み寄って、胸の谷間に入れていた花を男に向かって投げつける。それは弾丸のように男の心を撃ち抜いた。有名なアリア、カルメンの歌う「ハバネラ」が、兵士ホセを恋に引きずり落としてゆく。
”愛してくれない男を好きになる でも私に惚れられたらその時はご用心”
絡み合う視線。火傷しそうな心の熱量。カルメンの棘はホセの身体を貫き、真っ赤な血潮をたぎらせる。その噴き出す血を浴びた喜びのように彼女は歌い踊り、赤いドレスをひるがえす。
2人は激しく燃え上がり、そして互いに傷付け合い、やがて破局を迎える。
野蛮な薔薇。
つけて30分、ローズバルバルはこの上なく柔らかくセンシュアルなライチ&ピーチの薔薇になって続いていく。どこまでもカルメンを愛そうとするホセの心のように。ラストは、ほんのりパチュリのアーシーが効いたまっすぐなフルーティーローズの香りが引き波を作ってゆく。時間にして8〜9時間。どこまでも緩やかに優しく。
カルメンはすで新しい男、闘牛士に恋をしていた。すがるホセを冷たく突き放すカルメン。それでもホセは彼女の匂いから離れられない。復縁を迫り続ける。
彼女のローズ口紅の香りが忘れられない。ライチのような薔薇肌の匂いが狂おしく心をかき乱す。彼女が愛した2つの薔薇の匂いが憎しみを増大させる。その妖艶なのに清純な薔薇&薔薇への嫉妬にあらがえず、ホセは遂に短剣を握りしめる。彼女の匂い全てがあの闘牛士の元へ行くなら、いっそこの手で…。
闘技場の中でひときわ大きな歓声が上がる。カルメンの新しい情夫となる闘牛士が、赤いムレータで牛を誘いこみ、鋭い剣で牛の肩を突き刺したのだ。カルメンはホセの腕を逃れて闘技場の中へ入ろうとする。
そのとき
ホセの短剣がカルメンの赤いドレスに突き刺さった。地面にぽたぽたと薔薇の花びらが広がってゆく。
闘技場の中で、赤い布に包まれて牛が倒れる。
闘技場の外で、赤いドレスのカルメンが手折れる。
一人の男が歓声を上げる。男の一人が天を仰いで慟哭する。
2人は 出会った頃の女の歌を思い出している。あの日 真っ赤な薔薇は自分に微笑えんでいた。
”あたし好みの男はそうは居ない 週末だというのに 私を愛する人はいないかしら?”
いいところにいたわ
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2022/10/29 06:04:58
バリ島にはろくな思い出がない。
クタの街の両替屋は、1万円を渡したのに平気で千円分のルピーをよこしてきたし、ホテルのプールで休んでいたら、ニタニタ顔のボーイに話しかけられ、しつこく「夜のカード博打」に誘われた。そんなん行ったら身ぐるみはがされるわ。極めつけはアロマスパ。南国花の香りがするアロマオイルを塗ってマッサージしてもらうやつ。「南海の楽園バリで最高のリラグゼーション!」と思いきや。
ただオイル塗るだけ。で、なでるだけ。しまいには隣の施術師とペチャクチャしゃべってる始末。しかも多分日本人の文句。でゲラゲラ笑ってる。超バッド。
バリ島ラブ!な方には申し訳ないが、ほんとバリ島にいる間中、ずっとムッとしてた気がする。
ラボラトリオ・オルファティーボのバリフローラの香りをつけたら、そんなシケた記憶がよみがえって、気付いたら口がスネ夫みたいにとんがっていた。
イタリア発「嗅覚の実験室」ことラボラトリオ・オルファティーボ。バリフローラは、最高の調香師に自由に香水を創造してもらう「マスターズコレクション」の中の1本だ。作品名は「バリ島の花々(植物群)」。調香師はかつてエルメス専属として名をはせ、サロパで来日もしたジャン=クロード・エレナ。彼がフリーになってから2019年にリリースしたオードパルファムだ。30mlボトルで16500円。ノーズショップ等で購入可能。
そんなバリフローラの香りを一言で表現すると「バリ島のプールに堕ちたフランジパニ」といった印象。では実際につけてみた詳細はどうなのか?
バリフローラを肌にのせる。その瞬間、まず感じられるのは、フルーティーで南国花な香り。フランジパニ(プルメリア)のクリーミーガーデニア系の香りに、ほんのりグリーンな苦みが効いている。軽やかでふんわりしたエキゾティックフローラル。南太平洋の島々へ高跳び!なトップ。
3分後、フランジパニの甘美な誘惑の下から涼やかなフローラルが感じられてくるとミドル。ローズの香りをしっとりさせたような低音のゼラニウムに、青々とした水面を思わせるロータス(スイレン)の香りが重なり、ウォータリーな雰囲気がぐっと増してくる。
そういえば
バリの高級リゾートホテルには、中庭にプールを配置し、周囲を巨大な南国の植物群で囲った「バリの庭」風のロケーションが多い。日中、プールに落ちた赤いフランジパニの花をボーイがすくっていた風景を思いだす。ミドルが進むにつれ、ジャスミンが濃厚に香りだし、フランジパニの甘さとクリーミー、ロータスのグリーン&ウォータリーが渾然一体となって「バリの花々」の香りになってくる。
あーそうだ。そして夜。あの夜はヤバかった。バリの夜は闇が濃い。
バリの庭。鬱蒼とした木々の合間に無数のたいまつがともり始める。地を揺らすケチャのけたたましいリズムが鳴り響く。あちこちで人目もはばからず抱擁し合うヨーロッパ系のカップルたち。どの部屋も巨大な中庭に向かってオープンエアーになっている。ラナイから見下ろす漆黒のプールにたいまつの炎がゆらめく。オレンジの光の波がヌメヌメとして油の沼のようだ。そして声のガムランが中庭じゅうに響きわたる。体中の血が沸騰しそうな声。部屋に置かれたフルーツ籠から甘くとろけそうな香りがしている。ほてった肌から、アロマスパで塗りこんだ花の香りがたちのぼる。狂おしいほど濃厚な南国花の香りに、男たちの呪術的な声が重なる。
あれはとてもナルコティックな夜だった。まるで木々をなぎ倒してキングコングでも出てきそうな夜だった。
ふと我に返る。バリフローラをつけて2時間たっている。香りは記憶を喚起する。香りは記憶を再構築する。バリ島にろくな思い出はない。だが、あの夜の濃度はすごかった。全世界の悪の誘惑が全て降臨し、あらがいがたい思いにとらわれた密度の濃い夜。バリフローラはそんな夜の触媒。危険な欲望の発火剤。フランジパニとジャスミンとロータスの柔らかくクリーミーな香りは、漆黒の闇を駆逐する神のように静かに香り続けている。
気がつくと南国フローラルミックスは静かに消えてゆく。ほんのり甘いムスクの香りと一緒に。心のどこかでフェードアウトするケチャの激しいリズムとともに。
バリフローラの香りに包まれていたら「もう二度といくかヴォケ!」と思っていたバリ島のことを思い出した。しぶしぶ本当の金額を出してきた両替屋の少年の白い歯。ボーイの人なつっこい笑顔。細かいことは気にしない施術師の朗らかな笑い声。あのろくでもない思い出ばかりの最高の島を。
巨大なプールにフランジパニの花が落ちている。いつかまたあのプールサイドに行ってみたい。今度は「水と花の庭」、バリフローラの香りとともに。
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Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:100ml・19,030円発売日:2022/7/8
2022/9/10 00:45:43
ムーンリットカモミールコロン(月明かりのカモミール)。この詩的でミステリアスな月光を連想させるオーデコロンは、2022年7月にリリースされるやいなや、各地で売り切れが続出した。ジョー・マローン会心の一撃。価格は100mlボトルで税込19030円。
◎どんなときにおすすめ?使いたくなる?
・夜。月の光が煌々とあたりを青白く照らす夜。
・一人静かに月明かりに酔いたい夜、ここではないどこかへ行きたくなる夜、同じ月を見ている誰かに会いたくなる夜。
◎この香水のよさを3つあげるとしたら?
・なんといっても銀の満月を思わせる玉キャップを冠したナイトブルーの美しいボトル。個人的には今年度のベスト香水ボトルデザイン賞を授与したい。「月」に魅せられし者のルナティックな性癖を激しく刺激してやまないデザイン。
・わりに珍しいカモミールを主役にした香り。しかもグッチのメモワール・デュヌ・オドゥールのようにカモミールの花の香りをフィーチャーした作品でなく、イングリッシュカモミールのかなりスパイシーな葉の香りをメインにすえたグリーン感の強い点。これはかなり「好き」「苦手」が分かれると思う。そこをあえて出してきた点にブランドの「あくなき挑戦」を感じる。
・夕方から夜にかけて咲く花、ヨルガオ。別名ムーンフラワー。そのほんのり粉っぽい瓜系の甘い香りをカモミールの葉の苦味と取り合わせ、涼やかでしかも冴えた香りを引き出している点。それがなぜか夜空で冷たく銀色に光る月の光の風情と絶妙にマッチしているように感じられる。特に秋のフルムーンには似合うように思う。
▲逆に自分的に「ここはちょっと」と感じる点
・強いて言えば「価格」と量と賦効率のバランス。JMなのでオーデコロン展開はわかるけれど、やはり2時間程度でさらりと消えてしまう淡さはここでも変わらず。そのため100mlボトルでリリースしているけれど、あちらもこちらも値上げ続きの昨今、うーん2万円かー、シャリマーの新型亜種はEDPだし、そちらにしようかなと少し躊躇したりしなかったり。そして何気に100mlバシャバシャ使いたい香りか?という点もややある。
○背景 (ブランド シリーズ)
JMのコロンといえば、一世を風靡したコンバイニング(コロンの重ね付け)の発祥。そのため、1つ1つのコロンは香料の数も抑えてシンプルに仕上げれらている。これまでは「でか玉キャップ&シリンダーボトル」は限定品扱いで使用されていたが、今回は同時発売のラベンダー&ムーンフラワーと合わせた「ナイトコレクション」として通常販売。ラベンダーの方はコロンがなく、サラウンドディフューザーとキャンドルで展開し、使用シーンの住み分けを図っている。どちらもヨルガオの甘い香りが共通しており、ピローミストは2つとも香りがそろっている。ナイトブルーで統一されたこれらのシリーズは全てそろえて全部同時に香らせたくなって危険。
○展開
ムーンリットカモミールを肌にのせると、はじめに感じられるのは、ひんやりした夜の空気を思わせるアロマティックなカモミールの葉の香りだ。ミントのような清涼感はキクの葉の香りにも似て、涼やかでかぐわしい。同時に、ヨルガオの甘くやや粉っぽい香りも感じられる。フローラルというより、小麦粉っぽい自然な甘さ。もともとヨルガオはサツマイモ科のつる植物なので、やや青臭い瓜系やでんぷん系の甘さなのだろう。さらにカモミールの葉の清涼感の奥には、マリン系っぽいベースも感じられる。このカモミールのクールなグリーン、ムーンフラワーの粉感、マリン系ベースのミックス香が、少し肌寒い秋の夜の気配を表しているようで面白い。
このミックスが大きく変化せず2時間くらい続いて消える。香り立ちはコロンそのもので淡く穏やか。ときにキクの葉やヨモギの葉っぽさが強く出るように感じることもあるが、全体的に静謐でクールなグリーン香になっている。ラストのムスク系はややウッディに傾いてドライダウン。どこからか虫の声が重奏で聞こえてきそうな月明かりの夜を思わせるナルコティック&メランコリックな香りだ。
雲の間から月が顔をのぞかせると、薄墨を流したような雲の稜線が巨大な銀色のクジラのように光りはじめた。やがて月が丸い顔を全てあらわにすると、家々の屋根もビルの壁も、ぼうっと青白く浮かび上がった。庭でかすかに夜風に揺れていたムーンフラワーが、その白い花弁を月明かりで青く染めた。世界は、月光が届いた深海のようにブルーのベールに包まれた。
ムーンリット。今夜は月明かり。
あたりには月の匂いが満ちあふれた。それはさやかに、ひそやかに、心の海も青い蒼いネオン色に染めた。
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2022/11/19 13:04:13
ある初冬の晴れた日、京都駅からバスに乗った。おめあては金閣寺。人生初。ついにあの黄金のモニュメントが見られる。そう思ってはやる心をおさえながら。
バスを降りて参道をのぼった。太陽が金色に輝いていた。受付を経て参拝門をくぐり、竹垣の小道を歩む。ドキドキしていた。あの足利義満が見せつけた権力の象徴。三島由紀夫の超絶言語で書かれた小説「金閣寺」の数々のシーンを思い出す。ついに松の木々の間から鏡湖池が顔をのぞかせた。もうすぐだ。もうすぐ金閣に会える。そしてついに…。
ピュアディスタンスのゴールド。この類まれな金色の香りを嗅ぐたびに、あの日のことを思い出す。もう10年ほど前だ。紅葉を終えた平日の京都は、どこかのんびりとして、冬の太陽に町全体が輝いていた。金の日差しが目にまばゆかった。
「香料は何を使ってもいい。最高の金色の香りを創ってほしい」。ピュアディスタンス(以下PD)のゴールドは、社長フォス氏の採算度外視、本物の作品重視の願いを調香師アントワーヌ・リーに託すことで2019年に誕生した。2年もの試行錯誤があったというが、その分できた香りは凄まじい。驚異の賦香率36%をほこるパルファム・エクストレ。軽く10時間は豊かに香る。17.5mlボトルで28,100円。日本ではPDジャパンよりオンライン購入可能。
このPDゴールドは「香水で作った金閣寺」だ。自分はそう思う。ではなぜ金閣寺なのか?
結論から言うと、PDゴールドの香りの3階建てピラミッド構造が、金閣寺の階層構造とシンクロしているからだ。
金閣寺こと鹿苑寺は3階建て。しかもそのつくりが階層ごとに異なっている。これを図に表すと次のとおり。
3F 仏殿造(義満の住まい)→日本の最高位「国王(上皇)」△
2F 書院造(武士の住まい)→武士の最高位「征夷大将軍」達成〇
1F 寝殿造(貴族の住まい)→貴族の最高位「太政大臣」達成〇
この特異なつくりは、絶大な権力アピールと同時に「貴族よりも武士が上」、さらに義満が自身を「国王」と名乗ることで天皇家よりも上であろうとしたという意図がうかがえる。
この階層をPDゴールドの香りにあてはめてみると面白い。
ゴールドをスプレーする。その瞬間、高濃度天然香料のふくよかな香りが一気に花開く。まるで狩野永徳が金色の雲で埋め尽くすかのように描いた「洛中洛外図屏風」。その中心には義満が建てた「花の御所」が描かれている、
ゴールドのトップは、この屏風絵のように金色の雲がうずまいている。まず感じられるのはベルガモットの豊かな酸味とコク、そこに寄り添うピンクペッパーの酸味。同時に多くの香料がもくもくと吹き上がってくる。シナモンやクローブのスパイシー。爽快なグリーンのラブダナム。これらが強く感じられる。まさにメタリックスパイシーなトップ全開。それは金閣寺の3階、全て金色に輝く唐様仏殿の香り。朝な夕なに日の光を浴びて、あらゆる方向に金色の乱反射を見せる最上階の威容。
3分ほどして、光の金粉のごとき酸味が和らぐと、花の香が感じられてくる。スパイシーを伴ったインドールジャスミンだ。花香は金閣の2階、書院造の床の間に飾られる生け花の趣と重なる。質素でありながら実用的な武士の館。その違い棚には当時、四季折々の花が生けられたという。酸味とスパイスとジャスミンの濃厚な香り、これらが黄金バランスで絶妙に香るミドル。この美しいミドルが3時間ほど続く。
やがて酸味もスパイスも雲散霧消し、ゴールドはめくるめく豊かなラストを迎える。この余韻が超絶いい。ほんのり甘くスパイシーな木の樹脂の香りが、柔らかな風の中にゆらぐ。この風は唯一金箔が張られていない金閣寺の一階部分。半蔀(はじとみ)を上げたオープンエアーの階。それは衣にお香をたきしめていた公家の屋敷の香り。ここには池を見つめる義満像と釈迦如来像が鎮座する。ミルラ、ベンゾイン、アンバー、ヴァニラが甘く香るウッディの饗宴。さらにほんのりアニマリックなカストリウムも混じり、義満の衣の匂いと上皇への欲望を思わせる。まさに地の香り。このオリエンタルなラストが7時間ほど続いて昇天。甘く切なく、鏡湖池に吹く風のようにたゆたう。
本当にPDゴールドは「香りの金閣寺」だ。そう思う。ついあの日のことがよみがえる。
松の林を抜けた。足早になる。鏡のような池が眼前に広がった。そしてついに金閣が…!
……なかった。その瞬間、体中が固まった。両目がただの穴になった。あんぐり開いた口がただの空洞だった。そこには「改装工事中」という看板と、全体をブルーシートに覆われた「何か」があった。
それは完璧な「ブルー閣」だった。そして限りなく絶望に近いブルーだった。
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2022/5/21 18:03:13
ゲランのフレンチーラヴァンドは、クラシカルなラベンダーコロンを上質に仕上げた風合いの香水だ。発売は2021年、価格は100mlニューボトルで46200円。
◎どんな人、どんなときにおすすめ?
・まず何と言っても、この香りのターゲットである男性。自分の身丈に合ったスーツをパリッと着こなした30代〜50代の男性におすすめ。爽やかで知的、同時に周囲へのさりげない気遣いができる男性に。
・メンズ寄りではあるものの、キリッとしたシトラス&ハーブの香りと同時に、優しさと可憐さのあるネロリも感じられる香水なので、シンプルで上質なパンツスーツ、白シャツやタイトスカートをさらりと着こなす女性にもおすすめ。
・オンオフで言えば、オン向きにも使える香り。しっかり背筋を正していたいときに。
・フランス産のラベンダーが一斉に開花する6月〜7月に合わせた旬の香りとして。また、気温が上がる時期にクール&シャープなアイコンを印象付けたいときにも。
◎この香水のよさを具体的に3つあげるとしたら?
・世界最高とされるラベンダー、フランスのプロヴァンス地方の真性ラベンダーを使用していると思われる点。真性ラベンダーは冷涼な高地で咲き、他のラベンダーがもつシャープさや青臭い雑味がなく、フローラル感あるリナノール、フルーティーな酢酸リナリルがしっかり感じられる特徴をもつ。このラベンダー香はいい。
・ジュース色がとても心惹かれるブルー。ラールエラシリーズの中にあっても、この香水の色は特別に目を引く淡いブルーで、新ボトルの洋酒ライクな造型と相まって、涼しげで美しい。
・ゲランのメンズ香では珍しいアロマティック系の香水であること。現在ゲランメンズ香の主流になっているロムイデアルシリーズよりも、ライトで包容力のあるアロマティックフゼア系の香りになっている。これなら人と香りがかぶることもあまりないだろう。
▲逆に「ここはどうかな」と感じる点
・よいラベンダーを使っているが、ミドル以降、香りがメンズ寄りになっていく点。最初はシトラスの力で爽やかに開幕するので女性にもつけられそうな期待感が増すけれど、この香水は次第にメンズ香水独特の重たさ、よく言われる通称「トニックっぽさ」が出てくる。いわゆる「いい男」が付ければかなり惹きつけられるヤバめな香りになるが、つける人によっては、男女問わず「おっさんキター」のパラメータを上げてしまう可能性も。そういう意味で、香りが付ける人を選ぶようなタイプではあると思う。
○香りの展開
フレンチーラヴァンドをつけると、まず感じられるのは、「あぁ」と声が漏れるほど美しいレモンとバーベナのシトラスミックスだ。クリーミーで明るいバーベナがかぐわしく、レモンの酸味と相まってとても心地よく感じられる黄色いトップ。このトップはとてもフレッシュで、風と太陽の光を感じるようなナチュラルな香り。
ほどなく、シャープな葉の香りをもつプチグレンと、セージの涼しげなハーブ香が顔をのぞかせてくるとミドル。同時にほんのり甘さのあるフローラルなハーブも出てくる、これがキー素材のラベンダー香だ。このラベンダーの何とまろやかなこと。天然香料をふんだんに使っており、シトラスもハーブもラベンダーも、柔らかいのに奥深い香りがする。
ただ、このミドルは徐々に重さを増していく。クリーミーなシトラスが消失すると、代わりにネロリの甘くふんわりした香りが感じられるようになる。このネロリはわりにゴムっぽいファセットが強い。もしかしたらジャスミンのインドールかもしれない。そこにベチバーの土感、草感も出てきて、後半はメンズ寄りウッディになってくる。
ラストは青空や海の青を感じさせるわずかなアンブロクスとベチバーのミックスでドライダウン。つけてから4〜5時間。シトラス以降の香り立ちは比較的穏やか、ラベンダーも樟脳っぽさが少ないフローラル系統で、紫と言うよりも淡いブルーな香りに仕上がっている。
フレンチーラヴァンドの香りに、遠いプロヴァンスのラベンダー畑を思う。
フランス、プロヴァンス地方は、世界最高のラベンダー畑があることで有名だ。どこまでも続く紫色の絨毯は、冷涼な気候と乾いた土壌がもたらす極上のヒーリングゾーン。人は昔から、心が疲れると身の回りに青や紫色を置きたくなるという。ラベンダーは、その癒し効果抜群の香りだけでなく、色によっても心に寄り添っているのだろう。
すずやかな風が吹いている。見渡す限りの紫の畑、1本1本のラベンダーが空に伸びている。それはまるで、紫の小さなエッフェル塔の群れだ。
プロヴァンスの広大な大地、何千億もの小さなエッフェル塔が、青空に向かってまっすぐ立っている。
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