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ディオール / ディオリッシモ(パルファム)

ディオールディオールからのお知らせがあります

ディオリッシモ(パルファム)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

5購入品

2021/5/1 13:18:46

あたたかい風が森の空気をはらみ、青空へ高くのぼって雲を吹き流す頃、いっときだけ必ずつける香水がある。ディオリッシモのパルファムだ。

ディオリッシモ。イタリア後の”issimo"を冠した香水。それは「特別最上級」を意味する言葉。故クリスチャン・ディオールの「幸運のお守り」となった香水。

ディオリッシモは、1956年に発売されたミュゲ香水の歴史的名香。ミュゲはフランス語でスズランのこと。フランスという国にとって、この花はなくてはならない花だ。毎年5月1日は「ミュゲの日」とされ、フランスの街角のいたるところに森から摘んできたスズランの小さな花束を売る売り子があふれるという。人々はスズランを買い求め、お世話になった人や愛する人へ贈り合う。スズランを贈られた人には、必ず幸福が訪れると伝えられてきたからだ。

スズランの幸福。それを誰よりも強く信じていた一人が、世界的ファッションデザイナー、クリスチャン・ディオール氏だった。彼は祖母から学んだ占星術やカード占いの影響もあり、「幸運の印やお守り」にとてもこだわる人物だったという。

ディオリッシモは、そんなディオールが「幸運のお守り」として生涯大切にした花、ミュゲの香りをとことん追求した香水だ。手持ちは名調香師エドモン・ルドニツカが徹底的にこだわって仕上げたパルファム。1970年代頃の物だ。2009年にフランソワ・ドゥマシーがリファインした現在販売中のパルファム・エキストレに比べ、香りが濃厚で強いと言われるヴィンテージ・パルファム版。では、いったいどんな香りか?

ボトルから指にちょんと一滴とって、手首の内側など、体温の高い場所に点付けする。その瞬間、強いジャスミンインドールの香りと清涼感あるグリーンな香りが鼻を強襲する。このトップは、接着剤や殺虫剤のようなツンとした匂いに感じる方もいるだろう。シベット系のアニマリックな気配も感じられるフェノリック(薬品・樹脂系)なイントロだ。現代風のライトでフルーティーなトップに慣れている方はここで「う!」と呻いてKOされるかもしれない。それでも諦めないで欲しい。ディオリッシモはここからが真骨頂だ。

トップの強烈なフェノリックは2分もしないうちに消え、香りは深い緑色になってくる。スパイシーな土と動物の匂いと、葉がこすれたときに香る青臭い感じが渾然一体となって広がってくる。これは森の香りだ。そしてそこから爽やかグリーン&ソーピーな白いフローラルが広がってくるのを感じるようになる。

つけて5分。遂にスズランのグリーンで清楚なフローラルがふんわり出て明確になる。この香りがとても自然ですばらしい。ほんのり甘くて酸味があって軽やかだ。どこかグリーンアップルやペアーを思わせるフルーティーさも感じられる。深い森に足を踏み入れると、木陰になった湿地のあたりにスズランの群生を見つけたような雰囲気。これがディオリッシモのミドルだ。

ミドル後半では、柔らかく濃厚なジャスミンの香り、イランイランのバナナリキュールっぽい香り、そして蜜の甘さのような感じも出てきて、自分があたり一面スズランに囲まれていることを知るようになる。シングルフローラルと言うけれど、天然香料がふわふわとさまざまな香料の側面をかいま見せるイメージ。森の奥の開けた場所、風の向きによって、スズランの妙なる香りがさまざまな森の色を運んでくる。そんな心地よさで心が満たされていく。

可憐で清楚で幸運を呼ぶ花、スズラン。このグリーンでソーピーなフローラルのミドルは、その後は変化せず6〜8時間柔らかく香って消えてゆく。2時間ほどで消失するトワレと比べると、さすがパルファムといった感じだ。

ミュゲの香水を創る。そのためにディオール自身は、スズランだけを1年中育てる専用の庭園を作るなど、自身もその香りについて深く研究したという。ルドニツカもまた、ディオールのこだわりを見て、最高のミュゲ香水を創る意欲をかき立てられたようだ。

ルドニツカは、天然香料がないミュゲの香りを完璧に再現するため、当時出たばかりのスズランの合成香料ヒドロキシシトロネラールを使いつつ、その強さを緩和してシンプルなミュゲの花の香に近づけるよう、天然香料とのバランスに苦心したとされている。ロジャ・ダブの著書によると、それは「シンプルと思わせる複雑さの追求」であった。かくして、当時珍しいミュゲのシングルフローラル香水は世界にその姿を現した。

あたたかい風の中、名も知れぬ森を思う。動物と木々と花々を思う。ディオールにとって花はいつもブランドの主役だった。その中でも最も大事にされた花を思う。

ディオリッシモ。それは貴方に贈るディオールからの小さな花束。スズランの香りのラッキーチャームだ。

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ゲラン / ラ プティット ローブ ノワール ブラック パーフェクト

ゲランゲランからのお知らせがあります

ラ プティット ローブ ノワール ブラック パーフェクト

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:2017/10/1

5購入品

2021/7/31 00:08:12

この香水を夜につけるのはちょっと危険だ。特に夏の夜は。この香りに包まれていると、ミドルあたりで急に切なくなってしまうことがある。とても人恋しくなったり、突然自暴自棄になったり、誰かに甘えたくなったりするかもしれない。そんな闇に引きこむような香り、それがラプティットローブノワール・ブラックパーフェクトだ。

逆さハートの漆黒ボトル。これまでの可愛らしい黒ドレスのイラストが描かれたラプティシリーズとは明らかに異なるシック&ミステリアスな外観。ゲランは、シャネルのチャンスやココマド人気に対抗しようとアクアアレゴリアやラプティシリーズをリリースしてきた経緯がある。つまりこれは明らかに「対ココノワール作品」という位置づけなのだろう。←それな

そんな分かりやすさが定評の5代目調香師、ティエリー・ワッサーによって2017年にリリースされたブラックパーフェクトとはどんな香りなのか?

漆黒の逆さハートキャップを取ってスプレーする。スプレーした瞬間、ふんわりあたりに広がるのは、透明感あふれる軽やかなレザーの香りだ。スモーキーさはほぼ感じられない。上質の馬革レザーのように光沢のある革香が感じられる。

すぐにその下から、チェリーのフルーティーさ、キュンと鼻にくる甘さと苦さが出てきて、ラプティシリーズであることを感じさせる。ピンクのラプティに比べるといくぶん控えめなチェリーで、親和性の高いアーモンドの透明感ある強い苦みと共に、やや接着剤っぽいツンとくる感じがしてくる。ここまで1分。

さらにその下からアニスのスッと抜ける清涼感、リコリスの甘さ、ブラックティーのロースティーな茶葉のコクが一気に出てくる。これはすごいブレンド。アニス以外、全部黒い。まさにオールモストブラックなトップ。ここまで5分。

5分後、リコリスの咳止めシロップみたいな黒い甘苦さがまろやかになるあたりで、かなりロリータレンピカEDPに似ている時間帯がある。だがアニス&リコリスがかなり強く残るロリータに比べて、ブラックパーフェクトは比較的早くリコリスは消失する。むしろずっと残っているのはギリギリとしたビターなアーモンドの香りだ。ほんとワッサー、アーモンドの苦味好きだなと思う。このリコリスが消えるあたりから、酸味と清涼感を伴ったローズ香が次第に顔を出し始めるとミドル。

このミドルはチェリーの酸味とアーモンドの苦味、そこにいくつかのローズオイルの芳香が絶妙に主張しあって、サワーローズとも言うべき香りになってくる。それはブラックローズに近い赤薔薇の香り、そしてパチュリのミックスに変化していく。美しくミステリアス。レザーとビターが香るトップからは一変し、暗闇に咲く大輪の薔薇のごとく、華やかに妖しく芳香をまき散らす。そうか。この赤薔薇を引き立たせるために全ての背景を「黒」にしたのか。そう思うほど、チェリー&ローズの香りが他の黒い香料によって引き立てられている。さながら颯爽とバイクでパーティー会場に現れた女性が、ジッパーを下ろして黒革のジャンプスーツを脱ぎ去ると、その下から真紅のイブニングドレスが現れたかのようなイメージ。黒闇に赤。そのコントラストの美しさ。

このミドルは3時間ほど続いて、やがてフェイドアウト。暗めのムスクとアーシーなパチュリの苦味を伴って、黒い背景のまま消えてゆく。全体で5〜6時間。夜遊びはここまで。その残り香につられて、あまたの男たちが暗がりの中を探すけれど、もうヒロインの姿はどこにも見当たらないラストシーン。

価格は今どきうれしい30mlで7600円。この値段で一流調香師の手による「夜遊び香水」が買えるのだから、是非一度このチェリー&ローズ香、試してみるといい。

ブラックパーフェクトは、確かに夜に似合う香りだ。ただ、この黒い香りを夜に感じていると、不意に遠くの街の灯りの向こうへ行きたいと思うことがある。まさにYOASOBIの「夜に駆ける」のように。16のカッティングが軽快なこの曲は、メロディアスかつポップに心を「夜の彷徨」へといざなう。

それでも

この曲には、原作となった小説「タナトスの誘惑」の情景、死のタナトスに心奪われた2人の最後の旅を思わせる暗い儚さが影を潜めている。だから甘美な既死念慮に落ちてはいけない。むしろ自分は、スピッツの「夜を駆ける」に描かれた無常観のようなものが心にシンクロしてくる。ブラックパーフェクトの香りは、真夜中に無人の市街地で落ちあう2人の、寂莫とした夜遊びの情景が重なってきて切なくなる。

「研がない強がり 嘘で塗り固めた部屋 抜け出して見上げた夜空
よじれた金網を いつものように飛び越えて 硬い歩道を駆けてゆく」

ブラックパーフェクト 漆黒の夜を駆けて 君のもとへ

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セルジュ・ルタンス / フルールドゥシトロニエ

セルジュ・ルタンス

フルールドゥシトロニエ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:9,900円 (生産終了)発売日:-

4購入品

2021/8/7 12:48:30

自分は100%正しい。間違っているのは相手だ。だから攻撃していい。どこまでも論破してやる。奴は駆逐されて当然だ。

こういう考え方の人が苦手だ。振りかざした正義は、悪と同等かそれ以上に手が悪い。だが残念ながらこの世界には、そんな正義厨がごまんとあふれている。自粛警察どころじゃない。自粛軍隊なみに。

セルジュ・ルタンスの香水をつけていると、ついそんなことを考えてしまう。複雑な香りの向こうで、ルタンスが何を考えてこの香りを創ったのか、どんな皮肉を込めて闇の中で笑っているのかと、裏ばかり読もうとしてしまう。だから光と透明感あふれるコレクション・ポリテスが出た時は本当に驚いた。

え?ルタンスが透明ボトル?爽やかな香り!?なにそれ!絶対何か裏メッセージがあるに違いない!彼がそんな普通なことをするはずがないんだ!うわー!!!!←シンジ君!

中でもいったん闇に葬られた明るく爽やかな香り、フルールドシトロニエ様が、ここぞとばかりに光の下へご帰還あそばされたことについては、本当に面食らった。「レモンの木の花」。この香水はその名のごとく、明るく爽やかでフレッシュな香りがする。ルタンスの異世界ダークロマネスクのイメージとはほぼ真逆といっていいくらいに。

透明で波模様が美しいボトルからフルールドシトロニエをプッシュする。つけた瞬間、レモンとネロリの香りが同時に広がる。ほんのり甘くてさっぱりしたレモンフローラル香といった感じ。酸味があまりなく豊かに広がるレモンの香りに、ふんわり甘いオレンジフラワーの香りが寄り添っている。思わず口中に唾液があふれそうになる。知らずにつけたら絶対にルタンスの香水とは思わないほど、シャイニーかつフレッシュネス。

つけて3分すると、その下からスッキリグリーンな香りがほんのり出てくる。オレンジの葉の香り、プチグレンのよう。甘酸っぱいレモンパイの隣にアイスミントグリーンティーを添えたよう。ミントの清涼感はないけれど、次第に葉のグリーンとうす茶色いウッディが感じられるようになる。

このミックスのまま香りは落ち着いてミドルとなる。ソプラノは黄色いレモン、アルトが白いネロリ、テノールはシャープなグリーン、バリトンはうす茶色のウッディ。それぞれの音域を生かした美しいカルテットを聞く。

後半は、ホワイトムスクのアイロンを熱したようなソーピーなタッチが出てくるようになり、付けて3〜4時間ほどでドライダウン。全体的にルタンスの香水にしてはスパイスのスの字もなく、明るくライトなオーデコロン系の香りと言っていいように思う。はいはい、いつもダークでデンジャラスな香りばかりじゃないんですよ、やろうと思えばこんな普通のクリーンな香りだって創れるんですよと言いたげなほど。

あ。そういうことか。

コレクション・ポリテス。この「ポリテス」という仏語は、直訳すると「礼儀」「礼儀正しさ」という意味で、「礼儀のコレクション?なんだそれ」とずっと思っていたけど、何となく察した。この言葉にはやはり裏の意味がある。それは

「行儀よく。同じことをする。お返しをする。」という皮肉めいたニュアンスだ。

「ルタンス暗い香りばかりだって?はいはい。お行儀のいい明るい香水だって作れますよ。他と同じようなフツーのやつね。はいどーぞつまんないけど(冷笑)」という彼なりの仕返しだ。

そう呟いて真っ暗な部屋でニヤニヤ笑っている闇の信奉者の青白い顔が思い浮かんで仕方ない。そうだ。そうに決まってる!うわー!!!!。←シンジ!!

彼が纏う心の闇は、これまでのノワールコレクションや他のコレクションで、もう十分に表現されている。だが世界は光と闇の両方で成り立っている。明と暗、美しさと醜さ、正義と悪。ルタンスはあえて光輝くフレグランスを創ることで、自身の闇をもう一段階引き立たせようとしたのではないか。

世界はまばゆい光にあふれてる。わずかな闇(悪)があるから光(正義)が一層ひき立つという言葉もある。ただルタンスの哲学はきっと真逆だ。

世界はもともと闇だ。わずかな光こそが闇を一層引き立たたせるのだと。そんなアンチテーゼを感じる。

確かにまぶし過ぎて影のない場所は辛いな。逃げ場がない。世間はいつもサーチライトを照らして「仮想敵」を探し続けてる。シトロニエのレモン香を感じながら思う。

「光」の対義語は確かに「闇」だろう。ただ「正義」の反対語は「悪」じゃない。「正義」の反対にあるのは「別の人の正義」だ。だから世界中、戦争と争いがなくならないんだろう。

レモンの木を見上げる。緑の葉と果実の黄色が、青空の前で揺れている。

「きれいだね」「いい香りだね」

世界中の人がそう笑いあえたらいい。

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アムアージュ(Amouage) / JUBILATION XXV

アムアージュ(Amouage)

JUBILATION XXV

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/9/11 09:30:58

本当にすごい香りなのに、つけると周りから煙たがられるタイプの香水がある。特に日本では。そのタイプの香水をつけていると、周囲から「お香の匂いがする」「お寺の匂いかな?」「こげくさい」などと言われるシリーズ。もっとひどいときには「くさっ!何燃やした?」とか、「う」と言って鼻をつまんで走ってロングディスタンスを取られたり。←いろんな経験してますね

全く失礼だな。

そんなとき本当は追いかけていって

あのね!君は「くさっ!」って言って逃げたけどね、これ世界最高の香水、アムアージュのジュビレイションXXVなんですよ!!いいですか?今からこの香水がどれだけすごいかその頭にたたきこんであげるから耳かっぽじってよく聞きなさい!

と激しく語ってあげたいところだが、死ぬほどウザがられるだろうから毎回地団駄を踏みつつ自重している。←正しい

ということで「本当はすごい香水なのに付けると結構な確率で周囲からディスられて地団駄踏んでしまう香水コンテスト」で確実に上位に入ると思われるジュビレイションXXV。これがどんな香水かと言うと。←結局語りたいんだな

まず

「世界で最も高価な香水」と言われたオマーンの香水ブランド、アムアージュの作品であること。これはオマーン王直々の命令で、かつて金と同価値とされた特産品の乳香(オリバナム)のすばらしさをアピールすべく作られた国家プロジェクト的香水群。今でこそ中身はたいしたことないのに価格だけ異常に高い香水はあふれているが(←言ってしまったね)アムアージュの香水に関しては「金に糸目はつけん!世界最高の素材をガンガン使って本当に最高の香水を創るんだ!ただし乳香は絶対使え!!」と言ったかどうかは知らないがそんな感じ。だからとにかく使われている香料がものすごい高価で稀少な物ばかり。これがすごい。

そして

そんなアラビアンナイトな豪華香水群にあって、この作品は周年記念作であるということ。2008年、アムアージュ25周年を記念して作られた特別な作品、それがジュビレイション。「歓喜」という名のこの作品はメンズ用に「XXV」、レディース用に「25」の2つが用意された。ここで紹介しているのはメンズ作品のXXV。調香に携わったのはアヴァンギャルド・ロッカー、ベルトラン・ドゥショフール。まさに「ブランド25周年の喜び」にふさわしい人選。

では、その香りとは?

金の王冠キャップを外してジュビレイションXXVをスプレーする。瞬間、まず鼻に抜ける透明でスパイシーな香りがある。コリアンダーだ。その10秒後、ムワッと温かみのあるくぐもったアニマリックな気配、同時にそれを中和しようとするかのようなスッキリした樹脂の酸味が広がる。思いきりアラビアン。頭にターバン、長いあごひげ、湯水のようにお金を使う中東の大富豪の姿が脳裏をよぎる。乳香(オリバナム)とミルラの爽やかな酸味とグリーン、ラブダナムのスモーキー&アニマリック。よくも悪くもこのトップだ。この樹脂&バルサムてんこもりMIXが好きか嫌いか、それがこの香水のあなた評価になる。

3分後、煙たいロースティーな香りがじわじわと下からせりあがってくると香りはミドルになる。ものすごい香料の重層。超ミルフィーユ状態。複雑で多層的な香料のせめぎあいを感じる。それでも主旋律は、爽やかな酸味と香ばしさが特徴の乳香の香り、アムアージュの代名詞ともいうべき「オマーンの乳香」だ。そこにわずかなローズ、大量のインセンスの煙と重厚なウッディがベース音を奏でて共鳴し、荘厳なシンフォニーのように感じられてくるミドル。なんというバランスのよさ。超ドライ、そしてスモーキー。

…ああ、お母さん。砂漠の蜃気楼が見えるよ。のどが乾いたな。何か木が焦げているよ…

は! いかんいかん。思わず香りで変なトリップをするところだった。気を取り直して。

ミドルは本当に複雑で、時間がたつにつれてインセンスの乾いたスパイシーな香りが強くなってくる。その下からミルラの酸味、ウードの黒いウッディ、パチュリの苦味、ベチバーの干し草感などが、これでもかこれでもかとフワフワ片鱗を見せながらドライダウン。つけて3〜5時間程度。海外では「こんなにすごい香りなのにサイレージが短い」という意見も多いようだ。ただ香料は本当多い。どんだけ天然香料を入れたんだと思う展開。確かにこれはそのへんの庶民がカジュアルにつけこなせる香りではない。温かく、包容力があって、複雑なのにシャープでスッキリ。まさにこれは「王の香り」だ。

ジュビレイションXXVをつける。複雑で、パワフルで、スモーキーな薫香に酔う。ぜひ機会があったら肌にのせてみてほしい。これは本当にすごい香りだ。ほら。


なんで逃げる!!

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サノマ / 4-10

サノマ

4-10

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/2/20 10:03:36

恋心。罪びとのときめき。涙のインクでしたためた狂おしい思い。彼女はその手紙に封蝋をして、トランクの棺桶にそっと入れる。何通も書いては、それを白百合の花にはさんで。それは決して届かない愛の手紙。片恋の葬送のように。

サノマの4-10は、ブランドを興した渡辺裕太氏がガルシア=マルケスの小説「百年の孤独」の1シーンから着想を得て創った香水だ。同じ男性を好きになった姉妹。男性は養女である姉のレベーカに手紙を送り、2人は相思相愛となる。両親はレベーカとの縁談を進めるが、日に日に妹アマランタの体調が悪くなる。訝しんだ母が彼女のトランクをこじ開けると、男に宛てた出せない手紙の束が、白百合の花と一緒にピンクのリボンで結ばれて涙に濡れていたというエピソードだ。

サノマは、2020年秋にローンチされた新進気鋭の香水ブランド。「日本人の感性とフランスの調香技術」を融合し、日本人のための香水を創るべく生まれた。創始者の渡辺裕太氏は、フランスに渡って語学と香水業界での勉強を経て、自身の夢を叶えた有言実行の人。彼の真摯な人となりや香水にかける熱い情熱は、日々「Yuta Watanabe note」に綴られており、その飾らない人間性と真面目さにはとても清々しい印象を受ける。

そんな渡辺氏が作ったサノマの香水も、透明感があふれ、清々しい香りを放つモダンな香りが揃った。4種類発売された作品は、1-24、2-23、3-17、4-10と数字で作品名を表し、どこかシャネルの初期作品をも彷彿させる。同時に「源氏香の図」を香りイメージに近い物にあてる和の要素も忘れていない。4-10には「乙女」の香の図をあて、恋の高揚感と悲しみにうち震える少女のイメ―ジと重ねている。

渡辺氏は、この4-10を創るにあたり、「バランスを大切にした」と語っている。「箱の中」に詰められた空想の幸せと「箱の外」の現実の残酷さや冷たさ。そのバランス。恋の喜びと悲しみの狭間。常に混沌として揺れ動く心。そういったものが投影された4-10。では、どんな香りなのか?

なで型の美しいボトルからスプレーする。トップ。一瞬のアルコールの拡散。オードトワレなのでその揮発が過ぎてから香りが見えてくる。すぐにナッティーなコクのある香りと草の匂いがしてくる。あえてグリーンと言わない。シャープで青みのある草の匂いだ。そこに塩みのあるまろやかな香りが寄り添っている。しっとりウォータリーな雰囲気だ。草のある場所。そこから水を感じさせるトップ。少女が一人、庭で花を摘んでいる姿が思い浮かぶ。その瞳には、思い人に恋焦がれる恍惚の光と、同じくらいの悲しみの光が宿っている。大きな瞳がうるむ。草の匂い。花の香り。なぜか止まらない涙。

やがて野の草の匂いが遠のいていくと、4-10 はミドルに変わる。ここからがこの香りの真骨頂。ふくよかなタヒチアンティアレの香りと少し陰影をつけたイランイランのデュエットが、エキゾティックな南国風の白い香りを開いてくる。厚く柔らかい花弁の奥に秘めた、ふんわり甘い蜜の香りだ。それは少女が一人、心の扉を開いて愛の言葉を手紙にしたためるようにロマンティックに流れ始める。それでも、愛しい気持ちを綴れば綴るほど、同じ熱量で悲しみにも襲われて涙が滴り落ちる。ソルティ&アクアティックな香りが花の香に寄り添い、どこか真新しい悲しみを表しているかのようにも思える。それでも涙を流すだけ流したあとは、恍惚とした瞬間が訪れる。全てを包み隠すクリーミーなヴェールが下りて、白い花と水色の涙にグラデーションがかかる。摘んできた百合の花が匂いたつ部屋。涙でしたためた手紙の匂い。柱時計の音。セピア色の陶酔。

エキゾティックな南国の花の香に清冽な水の香り。そこにほんのりパチュリっぽい土のスパイシーが穏やかに混じってくるとラスト。緑の草→青い水→白い花→茶色い土と変化してゆく展開。シングルノートが多い昨今、これだけドラマティックな展開をする香水を創るとは、さすが名調香師ジャン・ミッシェル・デュリエ。そう思う。持続時間は長め。つけてから6〜8時間ほど柔らかくたゆたう。甘さと塩み、湿度と乾燥、幸福と悲哀、ここにはあるべき対比が、静かに拮抗しながら同時に存在して、恋に揺れ動く心を表しているかのよう。

だからこの香りは「百年の孤独」の物語そのものだ。虚構と現実、欲望と節制、生者と死者が混在する一族の連環の幻想的神話とも言うべきマジックリアリズムな香り。同じ名を継ぐ男たちは全て欲望におぼれ、女たちは嫉妬の涙を流す。そして何代にも渡って孤独を積み重ねてゆく。百年分の濃い心。

それは、しじゅう(4-10)あなたを思う香り。百年分の恋心。

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AoTukiさん
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プロフィール
  • 年齢・・・41歳
  • 肌質・・・敏感肌
  • 髪質・・・硬い
  • 髪量・・・多い
  • 星座・・・乙女座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • インターネット
  • 食べ歩き
  • 映画鑑賞
  • お酒
  • ダイエット

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自己紹介

DIORのカウンターに行った事をきっかけにノーメイクの日が多いですがメイク熱が上がってきて、眠っていた香水熱が上がってニッチフレグランスにどハマりして… 続きをみる

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