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doggyhonzawaさん
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ディオール / MILLY LA FORET

ディオールディオールからのお知らせがあります

MILLY LA FORET

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2021/10/16 11:46:00

外は一面の曇り空。何となく重たい気分だったところに、パルファン・クリスチャン・ディオールの専属調香師フランソワ・ドゥマシーの引退ニュースが飛び込んできた。一瞬、目の前が白くなった。(←曇天だしね)

フランソワ・ドゥマシー。シャネルの香水を大きく格上げした名調香師、ジャック・ポルジュの右腕として30年近く彼をサポートし続けた男。そして2006年にディオール初の専属調香師となって一躍脚光を浴び、ディオールのフレグランス部門を一気に高みに押し上げた世界最高の調香師。

その彼が現役を退くという。思わず目の前が暗くなった。(←目をつぶったらしい)

彼の功績はあまりに大きくて枚挙にいとまがない。それでも何か一つ挙げるとしたら、シャネルの高級香水ライン、レ・ゼクスクルジフに対抗して、ラ・コレクシオン・プリヴェという高級ライン香水を出したことだ。これが一番記憶に残っている。

ムッシュ・ディオールの過去と栄光を表現した香水、それがラ・コレクシオン・プリヴェだった。花の香り、ウードの香り、シトラスの香り、パウダリーな香り、一気に12本が並んだ。2014年表参道のディオールブティックの開店もあって、これまで香水を手に取ることが少なかった方も、次々に香りを試しては楽しげに感想を語り合う姿が日本で見られるようになった。その1本にミリー・ラ・フォレがあった。

ミリー・ラ・フォレ。正直、当時は一番印象に残らない香りだった。それ以外の作品がとてもキャラ立ちしていたせいもある。ミリー・ラ・フォレの香りはそのとき以来、自分の中で忘れ去られていた。

ところが

フランソワ・ドゥマシー引退。このニュースを聞いたとき、一番最初に思ったのは「あ。ミリー・ラ・フォレ、どんな香りだっけ?」ということだった。

ミリー・ラ・フォレは、華やかなファッションショーを終えたムッシュ・ディオールが、いっときの安らぎを求めて訪れていたパリ校外の村の名前だ。彼は別荘で自然と共に過ごし、親しい友人たちと語り合うことを心から大事にしていたという。彼にとってミリー・ラ・フォレは、幼小時に過ごしたグランヴィルと共に大切な心のオアシスだったようだ。

だから

リタイア宣言したドゥマシーが、当時どんな心境でミリー・ラ・フォレを作ったのか、とても気になった。

久々にボトルを出した。淡いピンクグレーのジュースカラー、マグネットキャップを外してスプレーする。

すぐにわかるのは香りの淡さ。とても透明な香り立ち。最初はベースのサンダルウッドがかすかに広がって、次にシトラスのふんわりした優しい香りがする。次第にオレンジフラワーの柔らかい香りも鼻をかすめる。トップからさまざまな香料が、とてもうっすらと香ってくる。

3分後、ローズマリーをほんの一滴垂らしたような薄いハーブが寄り添ってくる。花の香りはオレンジフラワーにわずかなジャスミン、そしてローズといった感じ。メインはまろやかなホワイトフローラル様だ。だが、とにかく薄い。思わずつけて5分で追い足ししてしまう。これなら上半身に10プッシュしても周囲も気付かないのではというほど。

それでも各香料のバランスはよい。シトラスの酸味は静かで、フローラルは真綿のように柔らかい。次第に浮かび上がってくるサンダルウッドは、ほんのり香ばしく、ナチュラルに森や庭園の香りが漂ってくるよう。まるでアロマウォーターを肌にのせたかのような風合い。そんなミドル。

ミリー・ラ・フォレはラストも儚い。つけて30分で香りがほぼしない。とてもナチュラルでバランスもいいのだけれど、これで当時125mlボトルが3万円以上したのだから、廃番になったのも分かる気がする。

そう。この作品は、シリーズ中最も短命で廃番となり、安価なメゾン・クリスチャン・ディオールに商品が再編されてからも、もうその姿を見ることがなくなった香りだ。

それでも。

何も主張しない。何も邪魔しない。そんなナチュラルでひっそりした香りが欲しいときもある。ちょっと疲れたときなどは特に。上げたくても心が上がらないとき、人は無臭を求める。けれど、心がどんよりと曇って息をしていることすら自分で気付かないときは、気付け薬代わりにこんなナチュラルなアロマで自分を取り戻したい。そう思うことがある。

そんな優しさがこの香りを創ったのだろう。売れる売れないは別として。


ミリー・ラ・フォレ。それはディオールの心が帰る場所。

親愛なるフランソワ・ドゥマシー様。貴方のミリー・ラ・フォレはいずこに。

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Puredistance / No.12

Puredistance

No.12

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

7購入品

2021/10/9 11:55:41

ナンバー・トゥエルヴ。ピュアディスタンス12番目の使徒。この香水をつけると、体温でなめらかに溶け出し、ソフトでリッチな香りが肌とひとつになり、甘美なオーガズムをもたらす。この香水には、たとえ拒もうとしてもどこかあらがえない不思議な力がある。No.12。これはあなたの肌とSEXする香水だ。

No.12を肌にのせる。その瞬間広がるのは、シアーでスパイシーな風。カルダモンの透明な清涼感、コリアンダーの温かみある香り。それらが荒波のようにはじける。紺碧の海からスパイスミックスの波しぶきが押し寄せる。冷たく温かい背反したスプラッシュ。彼方には斜陽の黄色い光がぼうっとかすんでいる。それはベルガモットの酸味。ヘスペリディックの風が波をうねらせ、押し上げているトップ。

やがて香りの気配が真夜中の庭園のように思えてくる。深く青い闇が、秘密のささやきに満ちた森を黒く染めている。まばゆい月の光が、木々の葉や庭園の花々をぼうっと青く浮かび上がらせている。

青白い薔薇がかすかに揺れている。エレガントでクールな、孤高の薔薇の香りがしている。あたりにはセンシュアルなジャスミン、フルーティーなイランイラン、クールなゼラニウムの香りも漂っている。その月明かりの庭園を歩く。スパイスの風を胸に、青いフローラルミックスの花園の香りに心を酔わせながら。

時間がたつにつれ、森の気配が強くなる。黒い森の上方に、金色にライトアップされた聖堂のファサードが浮かび上がる。その金の威容と、暗闇の庭園に咲き乱れる花々の青が、美しいコントラストを醸し出す。歩を進めるたびに、あたりにはパチュリの湿った土のスパイシーと、モスのビターインクの香りが濃くなってゆく。次第にメランコリックな気配が強くなる。

自分の肌からスパイスとモッシーとホワイトフローラルと薔薇の香りがしている。そのミドルに酔いしれる。そしてそこには、秘めやかな快楽に堕ちてしまう懺悔のブルーの色が添えられている。

時計台が真夜中の12時を静かに告げる。12番目の使徒は白い香りに包まれる。自身の快楽への堕落も、心からの懺悔も包み込むように、ほんのり甘くふんわりとしたアイリスのパウダリーな香りに抱かれていることを知る。見上げると月が主のように自分を照らし出している。甘いヴァニラの光を投げかけ、いよいよ白くなって青い闇夜の中に浮かんでいる。時は止まり、スパイシーフローラルの残香が、白い月のパウダリーと青いムスクの空に静かに流れ、夜はふけてゆく。

つけてから8時間。夢のように香りはたゆたい、サファイヤブルーの背景に彩られた風景を次々に見せてくれる。きっとNo.12は最高の寝香水になるだろう。この香りはスパイシー&フローラルを基調としながら、ラストは白くパウダリーに終息してゆく。リッチではあるが派手でなく、センシュアルであるが扇情的ではない。肌にのせるたびに、毎回違った快楽がおとずれ、どの香料も突出せず、見事シームレスに溶け合っている。

シアーで、アンニュイで、ほんの少しセンチメンタルで。クールでフェミニンで、エレガントでシャープ。クラシカルなのにモダン、タイムレスかつシック。そして何よりビューティフル。そんな12の形容がふさわしい、とてもとらえどころの難しい香水。

ただ 美しいブルーだ。

オランダ初の香水ブランド、ピュアディスタンス。このたび、正式にピュアディスタンスジャパンが正規代理店として認証を受け、商品はe-storeの注文を受けて日本から発送される流れとなり、よりホスピタリティがグレードアップした。日本ではまだ実店舗に商品を置いているところはないが、ぜひ実現して、誰もが気軽にこの作品群を試せる時代になってほしいと心から思う。

なぜなら一度でもサンプルセットでも購入してみれば、理由はすぐ分かるはず。その対応の迅速さ、パッケージングや封入物の豪華さと丁寧さ、そして何よりフォス社長のセルフポートレートのドヤ顔(←それは毎回苦笑)。彼らは家族単位ほどの気心の知れたメンバーで、じっくり時間とお金をかけて本当にすばらしい香水を作り、世界中の一人一人のお客様に対して心を込めて商品を届けている。はっきり言って、そのへんの香水屋さんで買うときの何倍も大切に接客をしてもらってる感がある。そこだけはぜひ言っておきたい。

だから「すばらしいな」と心から思う。

この作品でこれまでのシリーズは一応の完結を見た。といった所だろうか。ただ12番目の使徒の役目は「裏切り者」ではない。それは、新たな伝説へ進むためのメッセージを託した「場面転換役」だと自分は思う。


No.12。Beauty in Blue。汝のなすべきことをなせ。この青き美しさに、御身を重ねたまへ。

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ELLA K / カオソックの朝霧

ELLA K

カオソックの朝霧

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2021/10/2 12:51:53

部屋がゆっくり揺れている。湖に浮かぶフローティングコテージだから?確かにそうだけど、こんなに揺れるとは思ってなかった。もう明け方だ。一晩中、気になってよく眠れなかった。

夫は隣のベッドで寝息を立てている。その姿を見やり、女は小さくため息をつく。もう日が昇った。今朝はこのラチャプラパ湖をカヤックでクルーズする予定なのに。こんな調子じゃどうなることか…。

昨夜、夢うつつの中、以前付き合っていた彼の夢を見た。ジャングルの奥、ギャーギャーと鳥が騒ぐツリーハウスのベッドで、彼の息づかいを耳元で聞いていた。その身体の重みと獣のような腕の力に身をよじり、はっと我に帰ったら、涙がひとすじ頬に流れていた。それから眠れなくなった。コテージは静かに揺れていた。心みたいに。

ベッドから身を起こして木の引き戸を開け、湖に浮かぶテラスに出た。まばゆい日射しが鏡の水面に反射して目がくらくらした。足下近くで魚が水面で跳ねて波紋を立てた。両眼に手をかざしながら、そのとき女ははっきりと見た。湖の向こう、垂直に切り立った巨岩が水面に並び立ち、メレンゲをとかしたような白い霧に包まれている姿を。その瞬間、心のさざ波は凪いだ。

夫を起こさぬようにベッド脇に戻ると、バッグから香水を取り出した。エラ・ケイの「カオソックの朝霧」。この日のために持ってきた香水だ。タイのカオソック国立公園。世界最古とされる熱帯雨林のジャングルと、広大なラチャプラパ湖にそそりたつ巨岩や奇岩の絶景が見渡せる地。ここに来てこの香りに包まれることが、この旅の小さな目的の1つだった。

女はカオソックの朝霧をうなじとデコルテと腕とウェストにプッシュした。ぱっと洋酒のような透明な香りが広がり、包まれた。

すぐに香ばしいサンダルウッドが浮かび上がる。それは手つかずのジャングルを思わせる木々の香り。巨大な葉を広げる熱帯植物。ゴムの木から採取する生のラテックスの匂い。スッキリと、けれど柔らかく、朝もやのようにうっすらと香り始める透明なウッディトップ。

やがて5分ほどすると、木の香りが乾いてスパイシーな風情を醸し出してくる。そこからエキゾティックな南国系ホワイトフローラルの香りが浮かび上がってくる。

この花の香はスパイダーリリー。白く長い6本の花弁が蜘蛛の足を思わせる熱帯の植物。別名ヒメノカリス。スパイダーリリーの香りは、ユリのようにちょっとツンとくるスパイシーさをもつスッキリホワイトフローラルのようだ。ガーデニアとのミックスで、クリーミーな気配もふんわり漂っている。

カオソックの朝霧は、このサンダルウッド&クリーミーフローラルがとても柔らかく香るシングルノートの香水だ。濃度はEDPだが香り立ちはとても淡い。深い密林と青い湖面の境界にたゆたう朝霧のように、静謐に4〜5時間ほど香る。

私もこんなふうに穏やかに過ごしたい。この香水と出会ったときそう思った。たくさんの美しい香水が並ぶお店で、自己主張の強い香りを試し続けて疲れたとき、不意に手に取ったカオソックの朝霧。そのライトグリーンの色と静かな香り立ちが心に掛かり、一番気に入ったことを思い出す。

「早いね。あーよく寝た!」

夫はフローティングコテージの揺れなどなかったかのように、少し乾いた声で起きてきた。笑顔で返す。朝霧を遠くに見つめながら、改めていい人と結婚したと思う。穏やかでやさしくてまじめで…

カオソックの朝霧の香りがゆっくりと落ち着いてくる。少しずつ香ばしいサンダルウッドが温かみを増してくる。この香りはソニア・コンスタンが調香した他の作品と比べても、特別香り立ちがひかえめだと思う。彼女はどんな思いでこの朝霧を見つめたのだろう。

「さ。朝食運んでもらうね。そしたらいよいよこの湖をカヤックでクルーズだ!」

シャツの袖に腕を通し、夫がコーヒーを淹れながら言う。ありがとう。マグカップを受け取る。2人でしばしテラスから遠くの島々を見つめる。見つめながら、夫が自分の肌に触れなくなってからもう何年たっただろう、とふと思う。

夫は優しくて温かい。けれどなぜ時折、こんなにさみしいんだろう。

不意に香水をつけた胸のあたりから、アニマリックな気配を感じて身を固くする。夢に見た彼の息づかいを思い出す。心が止まる。日が高く上る。霧がうすくなり始めている。


私の心にも 霧がかかってる  この霧も いつか晴れるんだろうか



やがて船が迎えにきた。夫は笑いながら乗りこんだ。眠い目をこすって後に続いた。船は静かに湖面をすべり始めた。



船がゆっくり揺れている。どこからか木と花の香りがしている。

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Memoize London / Humilitas

Memoize London

Humilitas

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/9/25 11:20:44

秋の夕暮れ。ペールピンクのグラデーションの彼方にきれぎれの雲を見送っていたら、狂おしいほど切ない曲を聴きたくなった。プレイリストから選んだのは

クレナズムの「ヘルシンキの夢」。

ビートの効いたベースの上にロマンティックなギターリフが重なるシューゲイザーロック。ポップで透明感のあるヴォーカルが無機質っぽく、けれど孤独を切り裂くナイフのように胸に迫ってくる。

暮れなずむトワイライトタイム、曲とともに心が夕空の果てにもっていかれそうになる。美しい風景にシンクロするシューゲイザー。このコンピレーションには、心をときめかせる香水も不可欠だ。そう思ってどんな香水が似合うか考えた。

フルーティーやフローラルは、似合いすぎて気持ちが弱くなる。
グリーンは風を感じるけれど、夕景の色にそぐわない。
ならば、秋の夕暮れを思わせる琥珀色のウッディアンバーだ。

セレクトしたのは、メモワゼロンドンのヒュミリタス。

Memoize Londonは、英国キャサリン妃のご成婚フレグランスに選ばれたホワイトガーデニア・ペタルズで一躍話題になったイルミナムから独立したブランド。香りの特徴は、どこか中東風味のウードやローズがそこかしこに見え隠れするフローラルやオリエンタル風の作品が多いことだ。現在、日本での販売店はないようで、公式サイトからネット購入することができる。

白ボトルのヒュミリタス(Humilitas)は、同じ白ボトルにヒューマニタス(Humanitas)というスペルのよく似た作品があって混同しやすい。香調はもちろん異なる。

刻々と変化する夕空のグラデーションが消えないうちに、そう思いながらヒュミリタスを肌にのせた。

プッシュした瞬間、赤い薔薇が開いた。追いかけるように、透明感のあるレザーの香りが重なってくる。プッシュした手首のところがツヤツヤと光っている。高濃度のオイルを使っていることがわかるトップ。

次第にレザーが主張してくる。公式サイトの構成を見る。レザーはない。でもこれはソフトレザー、あるいはウード系の香りだと思う。香料イメージは次のとおり。

トップノート:マンダリン、レモン、ベルガモット
ミドルノート:ジャスミン、リリー、ローズ、サフラン、ナツメグ、ダバナ、パウダー
ベースノート:サンダルウッド、アンバー、ラブダナム、バニラ、バルサミコ、ムスク、パチュリ

この中ではトップのシトラスはほぼ感じられない。最初にふっとローズが香ったと思った瞬間に、ほんのり焦げた洋酒ライクなウードが香ってくる。

夕日が空を焦がしている。「ヘルシンキの夢」の澄んだヴォーカルが柔らかく空気を切り裂いてゆく。

「小さな最果てを見た だれかの描いた絵を見た 震えながらつぶやいた 愛想笑いを覚えた」

ウードの暗い香り。それは頭上から静かにすべりおりてくる夕闇の匂いだ。ヒュミリタスのミドルは、次第にサフランの酸味が穏やかに広がってきて、ウードのベールの陰に隠れていたローズやリリーのくぐもったフローラルをかいま見せる。ウード&ローズ。夕闇に咲いた夕日。

ブルーグレイのシルエットに染まる街。ブラッディオレンジの空。縁を金色に輝かせているきれぎれの雲。確かにこの風景は「小さな最果てだ」そう思った。

やがて空が翳りゆくとともに、ヒュミリタスの香りは次第に温かみを増して肌になじんでゆく。暗くレザリーだった香りが、芳しいサンダルウッドに変わってゆく。つけて30分、黒いビロードをまとっていた薔薇は、クリーミーな茶色い香木の香りになって、空のオレンジブラウンとシンクロしてゆく。

「明日 戻れないの 頭の中見せてほしい 命がけで説明してほしい」

「ヘルシンキの夢」のサビのファルセットが残照の中に吸い込まれてゆく。ヴァニラクリームをまとった香ばしいサンダルウッドが、風景とメロディとともに記憶の中に折りたたまれてゆく。

そう言えばクレナズムの「ヘルシンキの夢」が収録されたアルバムタイトルが「In your fragrance」だったことを思い出す。君の香りに抱かれて、そんな意味合いだろうか。クレナズム最果ての空。心を浸食するかのように香りが肌にとけてゆく。

残映の空。濃いオレンジの光。紫の陰影。その彼方にヒュミリタスは静かに香っている。アンバーの甘さとサンダルウッドの温かみをいつまでも残して。そして今日というなにげない一日が優しく死んでゆく。

ヒュミリタス。つつましくあること。

何の記念日でもない今日という一日。その終わりに出会えた美しい夕映えの空に、今日、命があることの感謝をこめて、美しい歌とたおやかな香りをそっと捧げた。

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フラッサイ / ティアンディ

フラッサイ

ティアンディ

[香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

7購入品

2021/9/18 11:57:58

かつて「桃とシプレの名香」と言えば、長らくゲランのミツコだった。ただ、正直現代の女性に往年の名作ミツコは渋いと思う。リスペクトも含めてあえてそう言う。凛としたたたずまいが女性にも求められた時代は遠くなり、今は柔らかく華やかなスタイルの女性が多い時代。そして、そうした女性に似つかわしい最新型の「桃とシプレの名香」を見つけた。それがフラッサイのティアンディだ。

フラッサイは、NYのフレグランス業界でのキャリアを経て、母国アルゼンチンに帰ったナタリア・オウテダ女史が、2013年から展開しているニッチな香水ハウスだ。彼女は自分でも作品を調香できる技術と経験をもちつつも、かつて親交のあった信頼できる調香師に調香を任せ、珠玉の香水のみをリリースし続けている。

そんなナタリア女史が、自身の趣味である太極拳と道教の「不死の桃伝説」からインスピレーションを得て創った香りがティアンディだ。これは中国語で和訳すると「天と地」の意。天と地、とくれば中国の陰陽説が思い浮かぶ。そこに3000年に一度実を付けると言われる「不死の桃」の香り。いったいティアンディはどんな香りなのか?

ティアンディをスプレーすると、まず最初に広がるのはダークな洋酒ライクなプラムの香り、そこにシダーっぽい冷たいウッディが絡んで、セルジュ・ルタンスの名香フェミニテ・ドゥ・ボワの紫色のトップにとてもよく似た開幕。

ところが

そこからふわふわと香料が入れ替わって霧のようにただよい、あたりは深山の幽域といった具合になってくる。

まず温かくスパイシーなジンジャーの香りが広がってくる。かと思うと、冷たくひきこむようなアニスが主張してくる。この温と冷、これこそ陰陽説だ。天と地、善と悪。陰陽説はこれら正反対の事象が、互いになくてはならない関係のままこの世界を構成しているという考え方だ。さらに、ジンジャーは「外に拡散」する香り方をし、アニスは「内に引きこむ」ような香り方をする。この点でも対照的だ。よく考えている。

5分後、香りはさらに複雑に変化する。深山の霧の中に煙の臭いが立ちこめてくる。スモーキーなインセンスの匂いだ。それは炒った茶の香りのようでもあり、焦がしたコーヒーの香りのようでもある。焙煎茶のように香ばしく、どこかほろ苦い煙の香り。これは人がそこにいる気配を感じさせる展開。伝説に登場する崑崙山(こんろんさん)の頂上、美しき仙女、西王母の住まう地にたどり着いたようなイメージ。そんなふうに人が物を燃やす香りが展開してきて、もはや最初のフェミニテライクな気配がなくなったことに気付く。

そこは清涼感ある薬草の匂い、焙煎した茶の香り、そして香木を焚く煙たゆたう天上の園。生と死を司る双性の神、東王父と西王母の住まう地。

温かいジンジャーと冷たいアニス。白いアイリスのパウダリーと茶色いサンダルウッドのウッディ。そのコントラストの妙。なんという二律背反かつ対照的なミドル。これは生と死、陽と陰になぞらえた、天地の香りの四重奏だ。

そして

驚くべきことに、このミドル前半から香りはらさらに変化していく。それはつけて10分ほどして唐突に現われて本当に驚く。

3000年に一度咲く伝説の桃。その木に実る桃の香り。それがこのミドル後半から突如、出現する。

通常、桃の香りはトップで感じられるフルーティーだ。ラクトンの一種である通称ピーチアルデヒドは、女性特有の甘い匂いの成分とも言われるが、なぜこんなスモーキーで複雑な煙の香りの後で突然出てくるのか?全くもって信じられない。調香師はトム・フォードのPBシリーズ人気を一気に押し上げたタバコヴァニラの作者、オリヴィエ・ギロティン。まさかあんな武骨な香りを創る方がこんな繊細な作品を作るとは…。本気でお見それした。

ラストはこの桃の香りにスモーキーなインセンスが絡み合いながら終息するというとても不思議なエンディングを迎える。つけて4〜6時間、ふんわり桃の香が残る平穏なラストだ。

永遠の命、不死の象徴、邪気や災厄を祓う神の食べ物とされてきた、桃。中国原産の原種に近い桃は大福のようにつぶれた形をしていて「幡桃(ばんとう)」と呼ばれ、今なお珍重されている。神の園で西王母がふるまう伝説の桃はこれに近い物であったらしい。食べたことはないが、その形からは想像もできない甘さをもち、味は格別だという。

神の山の入口を示すプラム酒の香り。ジンジャーの温かい吐息。アニスの冷たい大気。桃のまろやかさ、それは生。お香のスパイシー、それは死。

森羅万象の世界を生々流転せし者、神の桃源郷へとたどりつき、遂に不死の桃を食らう。

ティアンディ。天と地の間で。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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