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PARFUM SATORI / Hyouge/ヒョウゲ

PARFUM SATORI

Hyouge/ヒョウゲ

[香水・フレグランス(その他)]

容量・税込価格:50ml・13,200円発売日:2008年

6購入品

2021/12/25 14:13:37

「織部よ、人と違うことをせよ。」

師匠が点てた茶をいただいた後、手にした黒楽茶碗を拝見していたときだった。千利休はゆっくりとそう言った。二畳の数寄屋。わび数寄の精神を配した簡素な茶室の中には、これまで感じたことのない緊張感が漂っている。それでも師匠の利休は口元に静かな微笑を浮かべ、弟子の織部を見つめていた。一輪の花と茶の香りが静かに流れている。古田織部は心中こみ上げるものを飲み込むように、師に深々と頭を下げた。

1591年、天下人、豊臣秀吉の相談相手であり、影のフィクサーでもあった茶人、千利休は、茶に華やかさを求める秀吉と次第に対立するようになり、遂に堺への謹慎を命じられた。だが利休も弟子の織部も知っていた。秀吉は一度にらみつけた男に対して絶対に容赦しない男だ。近いうち切腹の沙汰があるだろうことを。織部は茶室で頭を下げたまま、どうにかして太閤に直談判せねば、と硬く唇を結んだ。最後の茶を頂いた質素な漆黒の楽椀を見つめながら…。

日本人調香師、大沢さとりさんが作られているパルファン・サトリの香水の中に、かつてこの古田織部の名を冠した香水があった。名はそのまま「織部」。安土桃山時代の茶人、千利休の弟子として可愛がられ、後継の茶人として秀吉、家康、秀忠に仕えた男、それが古田織部だ。その名をとった香水「織部」が「世界香水ガイド3」で香水の帝王ルカ・トゥリンに高評価を得たあたりから名前が「ひょうげ」に変わったことは記憶に新しい。

そして確かに、そのひょうげの香りがすばらしい。

ひょうげをスプレーする。開幕、うっかりユリの茎を手折ったときのような生っぽく青臭い香りが鼻をかすめる。同時に、その青さを包むかのように涼やかな白い花の香りがしている。シャープでみずみずしい茎や葉の香りと、ほんのり甘く冷たい花の香りが、ふわふわと拮抗し合いながら、見事なバランスで香り立つ。ルカ・トゥリンはこのフローラルを「ヒヤシンスとユリ」と表現したけれど、わからなくもない。とても低くて冷たくて、わずかに毒気すら感じる花の香りだ。それが緑の茎と葉の香りの上に咲いているようなトップ。

しばらくすると、冷たくふくよかな花の香りがより明確になってくる。ひょうげの感想を見ると、多くの方が「抹茶の香り」と言っているが、自分の肌の上では抹茶の香りにはならない。これは純然たる「花」の香りだ。花と葉と茎、それぞれが主張しながら調和した1つの花の香りになる。ただ、常に奥に「日本の煎茶」の香りがスッと流れている。

トップからミドルは、それほど変化する感じではない。香料イメージとしてジャスミンやヴァイオレットとあるので、おそらくヘディオンとβイオノンをミックスしてお茶の香りを再現しているのだろう。これはジャン=クロード・エレナが多用するグリーンティーノートの作り方だ。ただ、海外のグリーンティー香水と違って、ひょうげの緑茶ノートは、本当に日本のお茶らしく爽やかであっさりスッキリしていてとてもいい。花の香りに美しい透明な緑色の影を垂らしているようなイメージだ。まるで織部焼きに施された緑色の釉薬のように。

織部焼きは、古田織部が作った前衛的な陶器で、今なお人々に親しまれている。当時の茶碗の名品は「名物」と呼ばれたが、形もいびつで愛嬌のある彼の作品は「へうげ(ひょうげ)もの」と呼ばれた。

ひょうげを付けて1時間ほどすると、お茶の花を模したようなシトラス&ジャスミンっぽい花の香が次第に消失し、ベースにあったお茶の香りが穏やかに広がってくる。ラストはベースのお茶+パウダリーがゆっくりたゆたう。抹茶の香りと評されるのは、こうしたラストのあたりかも知れない。イオノンとアイリスのパウダリーが柔らかく感じられ、和服の装いや白粉の匂いにも感じられてくる優しいラストだ。パルファンサトリの香水は、どれも出力はそれほど強くないが、しっかり一点で香り続ける。持続時間は6〜8時間ほど。近くに寄ってプライベートゾーンに入れる者だけが、このお茶と花と和の装いの香りを聞くことができるだろう。

ひょうげには、西洋香水の「これでもか」とばかりに濃厚な花の香りを組み合わせるのではなく、最小限の厳選された香料を用いて注意深くバランスをとって組み合わせた繊細さが感じられる。まさに、ムダと虚飾を一切廃し、千利休が大切にした侘数寄(わびすき)の心を大切にして作った引き算の香水、彼の茶室そのものの香りだ。

千利休が大阪を去る日が来た。弟子達はみな秀吉の怒りに触れることをおそれ、淀の船着き場には織部と細川忠興の2人しかいなかった。船が出る。織部は見つめた。師の凛とした後ろ姿を。誰に対しても厳しく、そしてどこまでも優しかった師匠を

へうげものが いつまでも 見送っている

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ゲラン / マドモワゼルゲラン

ゲランゲランからのお知らせがあります

マドモワゼルゲラン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/12/18 12:54:49

「ボンジュール、マドモアゼル!」かつてフランス映画でよく耳にした言葉。カフェのギャルソンあたりがニッコリ笑顔とともに若い女性に声を掛けるシーン。ところがこの言葉、最近ではあまり聞くことが少ないという。それはなぜか?

「マドモアゼル」の意味は「お嬢さん」。フランスでは独身女性に対して使う言葉として知られるが、今や誰が未婚か既婚か言い切れない時代。そこで、若そうだからと前述の挨拶をするとフランス女性は憤慨することが多いそう。それは「半人前」扱いで侮蔑されているといった捉え方からくるようだ。そうした経緯もあってフランスでは、2012年に「マドモアゼル表記は性差別にあたる」として行政文書に書くことを禁止した。つまり、性別欄の記入は「マダム」で統一されたということだ。

そんな中、2014年にあえて「マドモアゼル」をネーミングに用いたのが、マドモアゼル・ゲランという香水。もちろん日常的には使ってよい言葉だが、これは「対ココマド戦」も表明した、ある意味強気なネーミングだ。実際は、ゲラン5代目調香師ティエリー・ワッサーが作ったラプティットローブノワール2(以下LPRN2、2012年)と香りがほぼ同じようで、ボトルと名前を変えて復刻したという位置づけの作品。125mlで3万7千円ほど。流石に店舗限定名香シリーズ、価格はお嬢さんならぬ「お冗談?」というくらいまあ高額。

では「ゲランのお嬢さん」、香りの方はいったいどんな感じなのか?

マドモアゼルゲランをスプレーすると、まず飛んでくるのは、レモンの酸味と青くて苦いグリーンな草の香り、ガルバナムだ。ここはシャネル19番の向こうを張ったようだ。グリーンでビターな香りは、どんどん強くなる。ヴァイオレットリーフの土っぽいシャープさも絡んでいるようだ。つけて5分はこの2つ、爽やかさと辛辣な苦味が強く主張する。さながら上目遣いで大人達に一瞥をくれるハイティーンの女の子のように批判的な開幕。それは初対面の者に対する容赦ない警戒。

少しすると、そのシトラス&ガルバナムの影に、甘く暗いチェリーやレッドベリーの香りがうずうずしている気配が感じられてくる。相手の出方と隙をうかがう混沌とした雰囲気。牽制のジャブを放つような鋭さがある。けれど、ジャブを出せば出すほど、自身の警戒がほどけてゆく。次第に少女らしい優しさや可愛らしさが時折そっと顔をのぞかせる。それはマシュマロのような甘さ、ふわふわとした柔らかいパウダリーな香り。それらが硬く閉ざしたガードの奥から静かに香り出してくる。

そして肌にのせて30分後、鋭いグリーンと苦味は風と共に去り、そこにはうつむいたシャイな少女が出現する。真っ赤なストロベリーキャンディとピンクマシュマロの香り。毒々しい色をつけた甘い甘い砂糖菓子の匂いが立ちこめる。それはフリルのついたスカートと赤い靴をはいた、わがままいっぱいのリトルガールの香り。

この甘くキャンディチックなミドルが割と長く続く。

付けて1時間ほどすると、いちごキャンディ&マシュマロな香りに、クリームシフォン様の香りが重なってくる。ほんのりヴァニラクリームの香りが、全体の甘さをまろやかに包み込んでくる。そこに粉雪のようなパウダーシュガーが、これでもかとたっぷりのせられている。まるで身体をすりつけて甘えてくる猫の柔らかな毛並のように、なめらかで温かい香りになる。このあたりのラストは目を見張るスイートパウダリーだ。

最後はふくよかで美しいパウダリー香のまま、甘く狂おしく、付けてから6〜8時間で終息する。

まとめると。

マドモアゼルゲランは、トップの爽やかさと強烈なグリーンの苦味で思春期の鋭さや辛辣さを表し、ミドルのベリー&マシュマロのグルマンタッチで、揺れ動きながらも笑顔と女性らしい甘さを獲得したかのようなイメージ展開をする。そこからラストに向けてアイリスのパウダリーとマシュマロの甘さが広がり、完成された女性の美しさや柔らかさを見せる。

この香水は名前とは裏腹に、とても変化に富んだ中上級者向けのフレグランスだと思う。特にトップの多層的な複雑さは、香水初心者の方やマドモアゼル世代が苦手と感じる部類な気がする。これは、口をとがらせた少女から目力の強い女性へ、そして微笑の似合う優しい淑女へと美しく変身し続けてきたマダムにこそ似合う香りだ。

かつてLPRN2と呼ばれた香りは、時を経て真にふさわしい名を携えて帰ってきた。ゲランマドモアゼル。それはきっとマドモアゼルに向けた香りではない。実際は言えなくても、つい「ボンジュール・マドモアゼル!」と声を掛けたくなるような

颯爽として美しく、いつまでも可愛らしい、大人マダムのための香りだ。

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シャネル / ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット (ヴァポリザター)

シャネル

ブルー ドゥ シャネル オードゥ トワレット (ヴァポリザター)

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,650円 / 100ml・16,940円発売日:2010/9/3

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4購入品

2021/12/11 12:17:57

「あの子のーことがー好きなのはー」ブランキー・ジェット・シティの「赤いタンバリン」を爆音でイヤフォンから流しながら、息子の部屋に侵入した。なんかいいジャケットないかなー。彼は昔アパレルでバイトしてたので、服だけはいい物を山ほど持っている。部屋に入った瞬間、若い男特有のムンとした匂いがした。化粧品と体臭が入りまじったような匂い。

若いな。オスの匂いだ。

苦笑しながら新作のダウンをかっさらって出ようとしたとき、不意にチェストの上に並べた香水群が目に入った。見るからに20代男子がつけそうなやつが並んでる。そのラインナップを見て思わず目頭をおさえた。

お前はジェレミーか…。(←香水you tuberな)

気を取り直して、その中から1本取りだしてキャップを外す。ブルードゥシャネルEDT。この部屋に忍び込む度に、こいつのキャップをとってはつけて遊ぶのがルーティーンだ。なぜって?マグネットキャップがカチンカチン音を出して面白いから。しかもブルーのは必ずシャネルマークが正面にくるようになってる。こういう「変なところに力を入れるシャネル」は、自分の「欠落した感性に響くぜ」。

で、いつものようにカチンカチン!取ってつけて遊んでたら、珍しく肌にのせてみたくなった。で、のせてみた。その瞬間、あーやっぱりクールウォーターの亜流だな。そう思った。

シャネルのブルーをつけると、まず最初に感じられるのは、柔らかなアクアティック。海を思わせる波や潮、わずかに海藻の出汁すら感じられる海系ベース香料アンブロキシドの香りだ。そこにすぐクリーミーなクマリンのヴェールがかかってくる。上の方ではピンクペッパーとシトラスのキンとした酸味が鳴り響いている。それはまるで夏の太陽だ。太陽と広大な大海原を思わせるトップ。ラベンダーやミントの清涼感もわずかに添えている。

5分ほどすると、温かみあるジンジャーとベチバーの乾いた草感が感じられてくる。ベチバーは良い物を使っているようだ。スパイスも若干出てくる。キンキンの合成シトラスは次第に消失し、つけて10分ほどで海の香り+桜餅クリーミー+スパイス+ウッディのアコードでミドル香が固定する。

以後、ゆっくり減衰していく展開。つけてから3〜5時間。ラストは乾いたウッディ、イソEスーパーだけがずっと残る感じ。シトラスが消失する以外あまり全体像は変わらず、付けたときと同じような香りのままドライダウン。50mlで10450円。

まとめると

シャネルのブルーは、第一印象がとてもフレッシュでアクアティック、そしてスパイシーに香るメンズフレグランスだ。展開はリニア気味で、ほぼ付けたときの印象のまま移ろってゆく。「万人に好かれる香り」なんて物は絶対にないが、「多くの人が好みやすい香り」というのは確かにあって、例えるならこういうタイプだろう。この手のメンズのアロマティック香水はピエール・ブルドンが作ったダビドフのクールウォーター(1988)が最初で、それ以来、何千何万と模倣レシピ作品が作られ続けているが、トップから香料どうしがきれいにまとまって1つの香りを保っているバランスの良さは、流石の一言に尽きる。技術点と完成度で言うなら、かなりの高得点。

ただし

香りとレシピに目新しさはない。誤解を恐れずに言えば、2000円程度で同様の香りはいくらでも入手可能だ。従って芸術点をつけるならかなり低い。2010年にこのブルーが出たときも「え?ジャック・ポルジュまでこんなん出すの?」と衝撃を受けたほどだ。何しろそれまでの彼は、アンテウスやエゴイストといった、誰にも創れないメンズ香水を創ってきた巨匠だったから。正直この手の香りなら、彼はガスクロや質量分析計を用いてレシピ解析せずとも、3日もあればサクッと作れてしまうだろう。自分が香水に求めているのはそうした物と少し違う。

すべからく凄みのある作品には、誰も歩いたことがないイバラの道を往く「徹底した狂気」が必要だ。自分はそれを求めている。

そういやブランキーも、本来出すつもりがなかった「赤いタンバリン」を事務所から「出してくれ」と頼みこまれてアルバムに入れたんだよな。そしたら爆売れした。多分ベンジーがちょちょいと作ったデモテープだろうに。ジャック・ポルジュも引退寸前だったから、売り上げ貢献にシフトしたのかな。そんなことを思いながら、黒っぽいブルーのボトルを鳴らした。カチン、カチン。その音にベンジーの声が重なる。

「夕暮れどきって悲しいな オレンジジュースとミルクまぜながらつぶやいた」

作りたい物と売れる物って ノットイコールなことが多いよね

そう思って部屋を出た。いつの間にか深いブルーの夕闇が下りた部屋を。

カチン。

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ゲラン / ドゥーブル ヴァニーユ

ゲランゲランからのお知らせがあります

ドゥーブル ヴァニーユ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:100ml・49,500円 / 200ml・70,290円発売日:- (2021/9/1追加発売)

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6購入品

2021/12/4 13:49:43

女性におすすめしたいヴァニラ香水は?と聞かれたらこう答える。まずはゲランのスピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ(以下SDV)を試してみては?と。ただし賛否両論の多い香水ではある。好きな方は「最高のヴァニラ」と評するが、そうでない方はこんな風に言う。「木の香りしかしない」「ヴァニラが薄い」「値段が高い」(←それな)。

ドゥーブル・ヴァニーユ。「2倍のヴァニラ」という名の香り。ゲラン最高峰シリーズの香水で、価格も高いが人気もダントツの香り。ではなぜ評価が分かれるのか?

実は、SDVをつけた瞬間に立ちのぼる香りは2パターンある。ダークラムの洋酒っぽい香りが強く出るときと、鉛筆を削ったときの香りのようなシダーのウッディが主張してくるときだ。その混合比も日によって変わる。これは天然香料がふんだんに使われている証拠。だが、ここでウッディを感じる方には割と評価が低いようだ。

温かく酔わせるようなダークラムの香りと、冷たく内省的なシダーウッドの香りは、対比関係にある。それでもこの2つは、ほぼ同じ高さで香る印象だ。互いに拮抗しながら、絡み合うよう交互に現れる。さながらダブル香料トップといった感じ。

この2つの茶色い香料のせめぎあいは、静かながら顕著だ。日によってどちらが優位に出るかが異なる。その日の気温、体温、湿度、肌の状態等で、シダー優位orラム優位にふわふわ変わる。

まずここで「ヴァニラは?ヴァニラはいつくるの?」と思っている方は、肩すかしをくうだろう。実はこの香水、揮発の遅い天然ヴァニラを使用しているため、つけてしばらくしないと出ないからだ。

30分ほどすると、わずかにローズの片鱗が感じられるようになる。そこからはラムとシダーにとって変わるように、やっとヴァニラ香が立ちのぼってくる。

そしてこのヴァニラの香りは、確かにただものではない。

つけてしばらくして現れるヴァニラ。それはほんのりカラメル香が効いていて、クリーミーで、ラムのコクをまとった最上級のヴァニラだ。ただし、香り立ちは弱め。ふとしたときに鼻をくすぐる程度のまろやかさだ。合成ヴァニラの強さが好きな人は、ここでまたがっかりするかもしれない。だが、柔らかいベンゾインの甘さも伴ったヴァニラは、この作品でしか味わえないのでは?というくらい繊細できれいだ。そしてつける人の肌で香り立ちが変わる。だから、肌にのせたとき初めてその人のヴァニラ香になる。

ラストはラムとシダーの残香を残しながら優しくフェミニンなヴァニラで終息。時間は人にもよるが、6〜8時間ほどでドライダウン。

まとめると

SDVは、ラムとシダーのスパイラルトップから始まり、ゆっくりゆっくりヴァニラ香に変わってゆく熟成された香水だ。そのヴァニラは高級なれど、強くはない。バニリンを加えたとしても、とても2倍に増やした感じではない。一体どういうことなのか?そのヒントはこの作品名に隠されているように思う。

この香水の正式名称は「スピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ」だ。これを英訳すると次のようになる。

「Double Vanilla Spirit(ダブル・ヴァニラ・スピリット)」

英語の「スピリット」には、「アルコール(酒)」という意味と「魂・精神」といった複数の意味がある。だとするとこれは、一般的な「ヴァニラ2倍」という意味だけでなく、「ヴァニラの酒」という意味と「ヴァニラの精神」という意味、「2つ」をもたせた掛け言葉、ともとれる。

そうした視点から、ジャン=ポール・ゲラン、最後の作品となったSDVに込めた思いを想像してみる。

1つ。極上の天然ヴァニラには、ラム酒(スピリット)に似たファセットがある。それは合成香料のバニリン等で自然に出せるものではない。ゲランが独自に仕入れた最高級の天然ヴァニラにしか出せないものだというプライド。

1つ。ゲランにとってのヴァニラは、ゲルリナーデの根幹を成す重要な素材。その精神(スピリット)を忘れるな、という後進へのメッセージ。

この2つの「ヴァニラのスピリット」を込めた作品、という意味ではないだろうか。

別にそれが事実でなくてもいい。自分はそう受け取めた。4代にわたって香水帝国を築いてきたゲラン家の最後の調香師ジャン=ポール。彼がブランドの経営から退く際、言葉には言い表せぬ思いが多々あったことは推測に難くない。それらの思いが、この最後の作品の1つに注がれていたことは間違いないだろう。

スピリチューズ・ドゥーブル・ヴァニーユ。それは

あなたの肌にのせたとき、初めて完成する美しいヴァニラのお酒。いつまでもあなたの感性を刺激し続ける、ゲランのヴァニラの魂。

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セルジュ・ルタンス / デクループールユンヌプリュール(DES CLOUS POUR UNE PELURE)

セルジュ・ルタンス

デクループールユンヌプリュール(DES CLOUS POUR UNE PELURE)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:2021/2/21

5購入品

2021/11/27 15:21:35

「なんてキレイなエメラルドグリーンの香水!!」

ニッチ香水界の影の支配者(←最近好きなだけ言ってるな)ことセルジュ・ルタンス。彼が2021年2月にリリースしたコレクション・ポリテスの最新作香水を見たとき、その色に心奪われた方が多かった。かつてCD購入の際に「ジャケ買い」というワードがあったが、これぞ試香もせずに買ってしまう「ボトル買い」系香水と騒がれた。

そしてその香水名と紹介文を見て、いつもどおりどん底に落とされるのだった。(泣)

デ・クルー・プール・ユンヌ・プリュール(釘の果実)

「かぐわしいクローブが、目の醒めるようなオレンジの果皮に突き刺さると、まっすぐなエメラルドグリーンが現れる」

さすがルタンス。呪文みたいな長い名前。説明文もいつもよりは分かりやすい感じがするけど、クローブをオレンジに突き刺したらまっすぐなエメラルドグリーンが現れる、って何だ?
ルタンスお得意の謎かけ言葉遊び。その真意を自分なりに探ってみる。

まず「オレンジにクローブを刺す」というのは、フルーツポマンダーのことだろう。これは中世以降、ヨーロッパで病気予防&悪臭改善のために作られてきたもの。昨今は魔除けのオーナメントとして、クリスマスの時期に作られることが多いという。

オレンジポマンダーは「釘」の形をしたクローブの実をオレンジの果皮に刺すことで作られる。クローブを刺すことで内部の水分を外に出し、同時にその抗菌作用によって果肉を腐らせることなく乾燥させていく。いわばオレンジのミイラだ。中世にはこのポマンダーが、多くの死者を出したペスト予防に効果があるとされ、大切に用いられたそうだ。

ウイルス予防に効果ありと作られてきたポマンダー。改めてその画像を見ると、あることに気が付く。クローブの刺し方はさまざまあるが、全方位に釘をまんべんなく刺すと、かの新型ウイルスの形そっくりに見える。実際、THE GINZAにルタンスがあった頃に展示されていたオレンジポマンダーのオブジェは「そのもの」といった風だった。これはとても皮肉なことだ。

新型ウイルスに形がそっくりなポマンダー。このポマンダーの香りでウイルスに対する防御を。これがルタンスのヒドゥンメッセージの1つ目ではないか。

では、ポマンダーを作ると現れる「まっすぐなエメラルドグリーン」とは何か?特に「まっすぐな」のところが気になる。これは一体どういう意味なのか?香りと共に考えてみたい。

デクルー(中略)をプッシュすると、初めて付けた時はたいてい驚く。付けたところがかなり青くなるからだ。まるでうすいインクをこぼしたよう。これは要注意。うっかり白いシャツなんかに垂れたらかなり色が残る感じ。思った以上に着色が濃い。

ところが色の印象とは裏腹に、つけた瞬間の香りは爽やかな酸味があふれるシトラスだ。さっぱりした酸味のレモン、そして苦みの効いたオレンジ果皮の香りだ。それらがかけ上がるにつれ、茶色の辛いスパイスの風味がじわじわ立ち上ってくる。クローブだ。ビターシトラス&クローブのスパイシーな香りが、空気を切り裂くように立ち上がるプレリュード。

5分ほどすると、酸味が抜けてジューシーなオレンジの風合いが増してくる。同時にクローブの支配が強くなってくる。下からシナモンの辛みも感じられる。オレンジの香りとこげ茶色のスパイスの比は3:7といった具合。まさにオレンジ果実にクローブの釘を刺したポマンダーのよう。しっとりジューシー&ドライスパイシー、橙色と茶色のデュエット。

付けて1時間ほどすると、オレンジは甘さが感じられるようになり、それ以上にクローブ独特の痺れるような香りが強くなってくる。同時に、鉄っぽい酸味も感じられるようになる。このメタリックな酸味&クローブのドライなシビレ感のまま減衰。人にもよるが、3〜4時間ほどで消えてゆく。最後はクローブの釘が、硬い鉄くぎのような香りになっていくようにも思う。

ポマンダー作りは、ヨーロッパではクリスマスの到来を告げる大切な準備だ。爽やかなオレンジの香りとスパイスの匂いは、人々の気分を高揚させるという。そしてその隣には、色とりどりのオーナメントを飾ったツリー。

そうか。「まっすぐなエメラルドグリーン」は、すっと立つモミの木の色だ。オレンジにクローブの釘を刺したときに現れるのはたぶん、深い青緑色をしたクリスマスツリーだ。

今年は、オレンジにクローブの釘を刺して魔除けのポマンダーを作ってみよう。その爽やかでスパイシーな香りが温かい部屋の中に広がるとき、青々としたクリスマスツリーは、人々の願いを叶えるかのように、ひときわ明るく光り出すだろう。


全ての人々が 健康で 幸福でありますように。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
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  • 髪量・・・普通
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  • 血液型・・・O型
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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