表示
一覧
個別

絞り込み:

426件中 36〜40件表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 56歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
Maison Margiela Fragrances(メゾン マルジェラ フレグランス) / レプリカ オードトワレ バイ ザ ファイヤープレイス

Maison Margiela Fragrances(メゾン マルジェラ フレグランス)

レプリカ オードトワレ バイ ザ ファイヤープレイス

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:10ml・4,840円 / 30ml・9,900円 / 100ml・19,800円発売日:2015年 (2020/11/18追加発売)

ショッピングサイトへ

4購入品

2022/1/29 09:10:04

「親父?奴はいねえ。とっくの昔に死んだよ。」

そのひげづらの男は吐き捨てるように言った。山奥の粗末な小屋。暗い室内には、赤々と燃える暖炉のオレンジの光だけが揺れている。男は椅子に座ってこちらに背を向けている。

「奴の借金だか何だか知らねえが、俺には何も関係ねえ。」

男はそう言うなり、サイドテーブルにあったガラスボトルをつかむと、不意に空気中に何かを噴霧した。とたん、あたりに木を燃やしたような香りが広がった。

「何ですか、それ?」思わずたずねた。
「あぁ?香水だよ。ふん、いやな気分のときは、こいつを空気中にふりまくのさ。」

ははあ。「お前は煙たいやつ」ってことか。そう思いつつスマホを取り出し、香水の名前を調べる。バイ・ザ・ファイヤープレイス。なるほど。暖炉で木を燃やした時の香り…か。でも、目の前に本物の暖炉が燃えてるのに、なぜわざわざそんな香りを持ってる?

「親父が残した物は、家の借金とこの香水、それだけだ。俺には返す金なんかねえ!」
「でも、死亡届は出されていませんよね。」
「知るか、んなもん。奴はいつものようにここを出て鹿撃ちに行った。で、それきり帰ってこねえ。何度も言ってるだろ!」

男の表情を探りながらスマホにメモする。借金回収の件はともかく、香水の話は初耳だ。親父さんの香水?何かありそうだ。

暖炉では時折、パチッ、パチッと薪がはぜている。先ほど男が空中にスプレーした香水が、スパイシーな香りに変わり始めている。スマホで調べる。これはクローブか。香辛料だ。ハンバーグに使うナツメグの香りもしている。燃えた木の香りにスパイスのトップノート。こげ茶色の強い香りが、男と自分の間に壁を作っている。くん、くん。

「お前、さっきから鼻を鳴らしてるな。そんなに香りが気になるか?」
「ええ、まあ。今、調べてみました。これは暖炉で木が燃える香りなんですね?」
「だったらどうした?」
「ええ。不思議だなと思いまして。目の前の暖炉で火が燃えてるのに、わざわざ似たような香りをスプレーするって、どういうことなのかなと。」
「そりゃ、おめえが煙てえからだよ。」
「やっぱり?(笑)」
「は!おめえ、自分が疎まれてるのを知ってて食い下がってるわけだ。」
「ええまあ。これも仕事なんで。」

男の態度が少し和らいだ。同時に、先ほどまでギリギリと焦げていた香水の匂いに、ほんのり甘い栗のような香りが混じった気がした。スマホで確認する。チェストナット、なるほどこれか。少し時間がたって、さっきより空気が甘くなってきている。暖炉の火と時間に溶かされて、栗のほくほくした甘さが出てきたようだ。どこか洋酒っぽい香りもする。あー、これはお菓子のモンブランの香りだ。しかも、ブランデーと砂糖で煮詰めたマロングラッセを乗せた本格的なやつ。スマホでさらに香水のラベル詳細をチェックする。

来歴&時期「シャモニ― 1971」 …ん?

「俺はな、親父が大嫌いだった。こんな山奥で暮らし始めて、おふくろが出てってからは、俺を学校にも行かせなかった。それからはずっと奴の鹿狩りの手伝いさ。夏には木を切って薪を割り、冬はその薪を焚いて雪に埋もれて過ごす。それだけの人生だ。奴は俺をこの山に閉じこめたんだ。」
「お父様は…、なぜこの香水を大事にしてたんでしょうね?」
「は?知らねえよ。街に下りたとき、どっかの飲み屋の女にでももらったんじゃねえのか?香水なんてガラでもねえくせによ。」
「もしかしてあなたは、1971年生まれ…ですか?」
「え?なんだ急に。…なぜわかった?」
「え?じゃ、もしかして生まれも海外とか?例えばモンブランの見える街…。」
「おい!どこで調べた!なぜ知ってる?確かにそうだ。うちの親父は若い頃、モンブランでシェルパをしてたんだ。登山客の案内でな。で、そこでおふくろと出会って俺が生まれた。」
「…なるほど。1971年、シャモニー=モン=ブラン。ラベルに書いてますもんね。」
「えっ?」

ボトルを男に手渡して言った。

「シャモニー1971。場所と時間ですよ。この香水は名峰モンブランの麓にあるシャモニーで過ごした思い出から作られた物です。だからきっと…お父様は大切になさってたんですよ。あなたの生まれた場所と年が、たまたまこの香水に書いてるから。」

「!…」

ボトルを握りしめた男の手が少し震えた。

「…よければ、もっとお父様のお話を聞かせてもらえませんか?」

赤々と燃える薪がパチリと音を立てた。男がうなだれるように頷く。2人の間に、グラッセしたヴァニラの柔らかいラストノートが香っていた。

バイ・ザ・ファイヤープレイス、赤々と燃える暖炉のそばで。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 56歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
Sylvaine Delacourte(シルヴェーヌ・ドゥラクルト) / Dovana

Sylvaine Delacourte(シルヴェーヌ・ドゥラクルト)

Dovana

[香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2022/1/21 22:18:45

「香水沼をのぞいてみたら『寝香水』という概念が当たり前のように飛び交っていて驚いた」

少し前、SNSでそんなつぶやきを目にした。あー、そう言えばそうかもなと思う。ちょっと香水関連をのぞくと

「今夜はドゥーブルヴァニーユを寝香水に」とか「寝る前にミルクムスクをつけてオフトゥンへ」みたいなつぶやきが確かにある。どれくらい浸透しているかは定かではないが、確かに香水好きな方には当たり前に通じる気がする。

「寝香水」と聞くといくつか思い浮かぶ作品がある。特におすすめは?と聞かれたら、まずはシルヴェーヌ・ドゥラクルトのドヴァナを挙げる。

「ドヴァナ」とは、バルト海沿岸の国々で「プレゼント」を意味する言葉、と公式サイトにあった。シルヴェーヌ女史は動画でこう紹介している。

「ドヴァナは、夜ベッドに入る前にスプレーする香水。そうすれば絹の繭のようなコクーンムスクが、あなたをパシュミナのように柔らかく包みます。」

思いきり「寝香水推薦」している!

かつて香水帝国ゲランのクリエイティブ・ディレクターを務め、数々の試みで屋台骨を支えてきたシルヴェーヌ・ドゥラクルト。ドヴァナは、独立後に自身のブランドからリリースした「ムスクコレクション」の中の1本。ではいったいどんな香りなのか?

コロンとしたなで型の可愛らしいボトルからスプレーする。するとまず最初に感じられるのは、思いきりパウダリーでほんのり甘いアンブレットシードの香り。ちょっとクールなフローラルの風合いもあって、とてもスッキリしたイントロ。真っ白なベビーパウダーにほんのり花の蜜をくぐらせたかのよう。むせかえるほどのパウダリー。そして甘い。力が抜ける甘さ。

つけて5分ほどすると、甘さと白いパウダリーは、これでもかとふくらんでくる。まるでふわふわの水鳥のダウンに包まれているかのよう。軽くて、ほんのりくすんだ紫色のヘリオトロープの花の香りと、スミレの暗さを感じさせるアイリスの粉感が、どこまでもコナコナ攻めてくる。そこにほんの少しクマリンやココナッツも入っている。紫の花のわずかな影と真っ白な粉の匂いがオーバードーズしてくるミドル。思いっきりタルカム。悶絶級パウダリー。

これはもうなんというか、大きな愛情で全てを包み込むようなママの香りといってもいいくらいの包容力。柔らかな女性の肌に超絶合う香りだと思う。こんな香りの女性がそばにいたら、一流企業の社長でさえ「ばぶばぶ〜♪」と赤ちゃんプレイして甘えていってしまうのでは?(←やめなさい)

そして同時に、布団や毛布、シーツや枕などからこの香りがしても、全く問題ないのではと感じる清潔感あふれるソーピーパウダリーでもある。心が優しく、とても穏やかになる系統の香りだ。聞くところによると、新型なんちゃらが始まってメンタルがかんちゃらしてしまったシルヴェーヌ女史が、マスク生活の中で一番つけていた香りがこのドヴァナだったという。

狂おしいほどのふんわりパウダリー、それが6〜8時間ほど続くと、ラストはカシミアムスクの甘くソーピーな感じで終息する。このへんはムスクコレクションの他の香りとも共通しているように思う。思えばシルヴェーヌがゲラン在籍時にリリースしたランスタンやランスタンマジーも濃厚パウダリーだったから、彼女は本当にこうした系統が好きなんだろう。自分の中ではシルヴェーヌ・ドゥラクルトは「最強パウダリー党党首」に君臨している。

人は心に不安が続くと、穏やかで優しいものを無意識に求めようとする。香りにも、そんなふうに自分を包み込んでくれるものを求めるのかもしれない。ドヴァナを購入した際についてきた小さなブックレットの方には「ドヴァナとは、リトアニア語で『贈り物』を意味する」と明確に書いていた。リトアニア?そうか。ネットの方ではいろいろ配慮して「バルト海沿岸の国々」とぼかしたんだなと気付く。

リトアニアはナチスドイツやソ連の侵攻を受け、そこから独立して立ち上がった共和政の国だ。そして、杉原千畝の偉業が残る地。ドイツ軍侵攻が迫る中、彼はユダヤ人を助けるため、自身の判断で寝る間も惜しんで日本経由のビザを発給し続けた。そして6000人ものユダヤ人の命を救ったという。

リトアニアの「贈り物」。そう聞けば、真っ先に思い浮かぶのは、杉原千畝の「命のビザ」だ。だが、誰もが彼みたいに多くの人を救えるわけではない。それでも、少なくとも自分の機嫌くらいは自分で救ってやりたいものだ。

ドヴァナはそんな人への贈り物だ。羽のように軽く、赤ちゃんの匂いのように甘く、そして女性本来の肌の匂いのようにどこまでもミルキー。

今宵シルクの繭のパウダリーに包まれて 
天使のように心安らかに いい夢が見られますように

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 56歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
MONTALE(モンタル) / チョコレート・グリーディー

MONTALE(モンタル)

チョコレート・グリーディー

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,100円発売日:-

5購入品

2022/1/14 23:46:54

なぜ冬になると、こんなにもチョコレートの香りが恋しくなるんだろう。

冬さびた公園で、白銀のゲレンデで、そして暖炉のオレンジの炎の前で。気が付くと、さまざまな場面でチョコレートを手にしては、つい口に放りこんでしまう。

板チョコは音がいい。包み紙をはずして、銀紙をシャラシャラめくり、ダークブラウンの美しい台形の山を手で割る。パキッ。

かけらを口にほおばる。噛むたびに音がする。パキッ。パキリ。ファキ。ファリ。そしてなめらかに舌の上で溶けてゆく。

また、高級な一粒チョコのアソートは選ぶ楽しみがある。特に好きなのはゴディバのグランプラス。あのヌバック調の宝石箱みたいなダークブラウンの箱に入ってるチョコ。上蓋を開けると、モールドされたひとくちチョコがずらりと並んでいて、どれから食べようかと楽しく悩む。下の引き出しにも正方形のチョコレートが3種類、キレイに収まっていてあれもおいしい。グランプラスは30個入りでも8000円ほどするから、そうおいそれと口にできないけれど、美しい化粧箱は香水のサンプル収納にも使えて何げに便利だ。

そんな冬の煩悩とも言うべき、チョコレートの香りを忠実に再現した香水がある。モンタルのチョコレートグリーディーだ。

モンタルはフランスの香水ブランドだが、創業者のピエール・モンタルは長年サウジアラビアで暮らしていた方なので、彼が創る香りはかなり中東系に傾いているように思う。どの香水もベースに激しく黒く焦げたウード香を持つ作品が多いものの、このチョコレートグリーディーだけは、本当に珍しくモンタルウードベースの香りがしない。そして特に日本の女性に大人気の香りとなっている。おそらくモンタルの60以上ある香水の中でも、日本では断トツの売れ行きだろう。

では、大人気のチョコレートグリーディー、それはどんな香りなのか?

チョコレートグリーディー、和訳すると「欲張りなチョコレート」。モンタルの香水はどれも光対策のためアルミ缶ボトルに入っている。しかも小さいため、実際に手に取ると軽くてやや安っぽく感じる方もいるかと思う。それでも、チャームが揺れるスプレーストッパーや巾着袋がついているので、携帯性は高いし、落として割れることもない。この意匠は好みが分かれるところだろう。

ネックのストッパーを外してプッシュする。すると一番最初に感じられるのは、実はチョコレートの香りではない。とても塩みのきいたナッツ系の香りだ。やや焦げた香りと共に現れるナッティーな雰囲気、ああ、これはよく高級トリュフチョコの中に入ってる茶色いヘーゼルナッツクリーム、あのプラリネの香りだ。そう感じるトップ。

このコクのあるナッツ香は、結構好き嫌いがあると思う。ほとんどの方は「チョコレートの香り」をイメージしてこの香水のトップを嗅ぐので「なんかチョコレートっぽくない」と思われる方も多いようだ。だが、香水をトップノートのひと嗅ぎだけで判断するのはちょっと待ってほしい。チョコレートグリーディーは、時間がたつにつれて少しずつ変化していく香水だ。その点、最初から最後までビターなカカオの香りが変わらない、フエギアのムスカラカカオのようなシングルノートとは少し異なる。

チョコレートグリーディーは、つけて30分くらいからチョコレート香になる。ヘーゼルナッツやアーモンドを焦がして砂糖と一緒にペースト状にしたフィリングの香りから、それを包むダークチョコレートの香りに変化してゆく。これはまさにゴディバのトリュフの風合いだ。そしてここからずっと、チョコレートの香りがまろやかに続いていく。なんとつけてから10時間以上も穏やかに、ふんわりと。やがて、ヴァニラ香も感じられてきて、ビターチョコレートからミルクチョコレートの香りに変わってゆく。

とはいえ、出力は強い方ではない。ビターカカオの風味、ミルキーなヴァニラの風合い、ほんのりとしたドライフルーツ様の甘さがとけあって、柔らかく香り続ける感じだ。つけて5〜10時間頃のラストノートが、本当にミルクチョコレートの香りに近い。それも、手首やデコルテなど、つけたところから不意にチョコレートの香りが鼻をかすめる感じ。そんな香り方をするから、逆にちょっとたまらない。

なんでこんなにミルクチョコレートの香りは 心をときめかせるんだろう?

香ばしい黒いカカオの香りは、人の心をゆったりリラックスさせるという。白いミルクの香りは、気持ちを安心させる効果がある。だから2つを合わせたチョコレートの香りは、この肌寒く人恋しい時期、甘い麻薬みたいに心をとろけさせるのだろう。

チョコレートグリーディー。それはナッツプラリネを包んだ甘いトリュフチョコの香り。黒と白、禁断のおいしいマリアージュ。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 55歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
イヴ・サンローラン / M7 ウードアブソリュ

イヴ・サンローラン

M7 ウードアブソリュ

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2022/1/8 03:11:14

「ウード」と呼ばれる香りがある。どんな香りが思い浮かぶだろうか?最近では柔軟剤にまでウードという言葉が見られるようになったので、何となく木の香りかなと思う方もいるだろう。ただおそらく、誰も本当のウードの香りは知らない。なぜなら、ウードは産地や木の種類、熟成の仕方によって、ありとあらゆる香りがあるからだ。

最も高価なウード、つまり沈香は「伽羅(きゃら)」と呼ばれていて有名だ。高品質な伽羅は、100gほどでも何十万円もするという。ウードは、沈香属の木が貴腐菌に感染し、自ら黒い油状の樹脂を出して菌と反応し、50〜300年かけて木全体が樹脂化することで作られる。その木片を焚くと、類い希な芳香が立ちのぼるというわけだ。

このウードの香りは、中世以降の日本や中東で大切に用いられてきた。特にアラブ諸国では、各家ごとにウードを焚きしめ、男性はウードの香油を身体中に「これでもか」と塗りたくっているという。このウードをヨーロッパ向けの香水として初めてフィーチャーしたのが、YSLから2002年にリリースされた「M7」というメンズ香水だった。当時のディレクターはトム・フォード。胸毛をアピールした男性の裸体を広告に使うなど、スキャンダラスな話題を集めたが、残念ながら斬新すぎるM7の売り上げは振るわなかったという。

やがてトム・フォードが辞任し、YSLは彼の遺産をどうしたものかと検討をしたようだ。そこで2011年に生まれたのがM7ウードアブソリュだ。

M7ウードアブソリュ。名前だけ見ると、M7よりもずっとウードが強いように思えるこのオードトワレ。ではいったいどんな香りなのか?

M7ウードアブソリュをスプレーする。肌にのせた瞬間、立ちのぼるのはほんのり甘くジューシーなマンダリンの香りだ。だがそれを全て消し去るほど強く、焦げた木の香りがかぶさってくる。色に例えるなら茶色だ。スモーキーで香ばしく、かん高い木の香り。サンダルウッドやローズウッドのミックスのような。

つけて3分ほどすると、レザーの香りが混じってくる。ウードの香りを「これ」と定義することは前述のように難しいのだが、よく言われるのは五味(辛・甘・酸・苦・鹹)をもった深い木の香りということ。最後の鹹(かん)は塩からさ。その中で言うと、酸味と苦味と辛みが出ている香ばしい木の香り。これがこのトップの香りイメージだ。

次第に香りは乾いてくる。パチュリの暗く湿った土のようなスパイシーもわずかに出て、木の香りが強くなってくる。同時に独特の焦げたスモーキーさと、強い酸味、やや動物の毛の匂いのようなアニマリックが寄り添っているように感じられる。そこにほんのりとハニーの甘さも感じられてくるミドル。

ウードといえば、本場中東で香水を作っているモンタルというブランドがある。モンタルの香水は全てではないものの、かなり高い確率でベースに真っ黒く焦げたウードの香りがあって、試しにダークパープルと付け比べしたところ、M7ウードアブソリュの香りは、ハーバルな葉の香りもしてとても柔らかく感じた。こちらはマイルドウードといったイメージ。

つけて1時間ほどすると焦げ感が徐々に少なくなり、意外にも清潔感あるソーピーなムスクやスモーキーなヴァニラのまろやかさが出てきて減衰する。このラストは比較的多くの方に好まれやすいかもしれない。初代M7の、どこまでいっても暗くアニマリックでスパイシーで焦げた香りとは全く別物のようにスマートなラストだ。

まとめると。

M7ウードアブソリュは、名前だけ見るととても濃いウードを想像してしまうものの、持続時間が3〜4時間と短く、ウードも比較的柔らかく使いやすくなっているオードトワレだ。昨今ではウード以上にレザー香が強い香水も多いけれど、乾いて温かみのあるウッディノートの香水を探している方は試してみるといいだろう。トムほどではないにしても、こうした香水はひげの男性、胸毛や毛の濃い男性に似つかわしいように思う。

M7を作ったものの、当時はウードの良さをなかなか認めてもらえなかったトム。だが彼はYSLを出てすぐ自身のブランドを立ち上げ、ウードウッドという香水を作り、アラブ諸国を中心に世界的に大ヒットを記録した。以後、どこのブランドからも「ウード」と名の付いた香水が出るわ出るわ。

YSLも複雑だったろうな。トムが作ったウードのM7が売れなかったのに、トムが出て行って作ったウードウッドが爆売れして。だからこの名で出したんだろう。ウードアブソリュ。実はM7こそウード香水なんですよ!って。

ウードの香りってどんな香り?それは一概に言えない。でもたぶんこんな感じ。

無精ひげをはやした男性の、分厚い胸元から立ちのぼるワイルドな木の香り。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 55歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
トム フォード ビューティ / タバコ・バニラ オード パルファム スプレィ

トム フォード ビューティ

タバコ・バニラ オード パルファム スプレィ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:30ml・23,100円 / 50ml・37,180円発売日:2012/10/24 (2021/6/9追加発売)

ショッピングサイトへ

6購入品

2021/12/31 15:57:45

女がシガー(葉巻)をくわえている。無造作に髪をかきあげ、赤い唇からゆっくりと煙を吐き出す。ロンドンのシガーバー、常連の紳士たちが時折彼女に思わせぶりな視線を送るが、女はただ静かにウィスキーのグラスを傾け、最高の酒とプレミアムシガーの香りに酔いしれている。テーブルランプの灯りに包まれ、紫煙と極上の酒の匂いが立ちこめている。男たちの胸に小さな火が灯りはじめている。

タバコ・ヴァニラの香りも、人の心に火をつけるのだろう。

2007年、トム・フォードがリリースしたプライヴェート・ブレンド・シリーズ初期の名作。50mlボトルで現在31900円。当時は「こんな価格は高すぎる!」と大騒ぎしていたが、いつの間にか持ってしまっている。げにおそろしや香水沼。ただ、今もこのシリーズの価格はおしなべて高いとは思っている。物によっては4万円を越える作品もあるし。

さて、そんなタバコヴァニラ。今年伊勢丹サロンドパルファンで、老舗キャロンが新しくリリースしたタバック・エクスキが異常なほど大人気だったことから、巷にタバコノートの大ブームか?と思い「そういやタバコヴァニラ全然使ってなかったな」と引っ張りだしてきて使ったら、前述の古い映画の1シーンを思い出した。いい女に極上のシガーバーは似合いすぎる。

タバコヴァニラをスプレーする。その瞬間、芳醇な洋酒を一口すすったような、強烈で複雑な香りに包まれる。のっけからKOパンチ並の出力、改めて恐れ入る。

鼻の奥に突き刺さる甘く辛い香り。まず感じられるのはシナモンだ。すぐさま下の方から、じんわり湿った苦味の強い香りが一気に広がる。あー、これタバコの箱を開けたときのくぐもった匂いだ。続けて、スパイスがこれでもかと次々にやってくる。スッと冷たいカルダモン、甘く痺れる苦味のクローブ、ナツメグのホットなドライスパイシー感も出てくる。もうトップからエンジン全開な感じ。強烈スパイシームーブなトップ。そしてこの香りが8〜10時間ほど続く。超ロングラスティング。ヴァニラ?そんなものは見あたらない。騙されてはいけない。これはタバコヴァニラではない。スパイシータバコと名前を変えた方がいい香水。

とはいえ、前述のスパイスと暗いタバコノートだけでこんなに漆黒な香りができるはずはない。何か決定的な香料がこの作品をやたらと真っ黒にしている。もともとこげ茶なタバコノートだけじゃない何か。おそらくそれはビターチョコの風合いをもったカカオ系の香料だろう。

チョコというと甘いイメージがつきまとうが、ここで使われているのは真っ黒なカカオの苦味ばしった香り。ミルキーさはない。ただ若干のクリーミーさはある。それも茶色いこげたクリーミー。これがこの香水のヴァニラの正体だ。タバコヴァニラに使われているヴァニラは、同シリーズのヴァニラファタールにも使われているような、焦げたスモーキーヴァニラのようだ。それがラストあたりでほんのり感じられる。ほんのりだ。

それでも

この超絶ワイルドなスパイス&暗いタバコな香水には、切なくマイルドなハニーの甘さがずっと続いていて、心にやきつく。なぜならその蜜の香りが、クラフトコーラやスパイスチャイを思わせるからだ。そこに秘めやかなシガーの煙が濃厚に漂っている。甘く、辛く、苦く。心をシビれさせていく。

出力が高く、ひときわ強いスパイシーさとタバコノートを持った香水、それがタバコヴァニラだ。ヴァニラを感じることは少ないが、それでも人の心に炎と爪痕を残すには十分な香り。かなり男性向けの黒さ&暗さではあるが、女性でこの香りが好きな方も多いようだ。使いどころとしては寝香水にしているという声をよく聞く。こういう強い香りは、男性ならウェスト、女性なら内腿あたりにつけると、香りが揮発して上るうちにマイルドになっていい。そうすれば茶色いヴァニラが柔らかく効いて、かなり扇情的になるだろう。むろん誰かさんの言った「香水はkissしてほしい場所に付けるのよ」といった意味合いも含めて。

シガーバーの男性客たちが、いよいよ色めきたっている。女が脚を組み変えるたび、紫煙がゆるやかに男たちの元へ流れてゆく。それは甘いハチミツのようで、ダークチョコのようで、男たちの心をときめかせる。けれど誰一人、席を立って彼女を口説きに行くことができない。その隙のない身のこなしと、あまりに男性的でスパイシーな女の香水が男たちを躊躇させている。きっと立派な連れが遅れて来るのだろう。どんな男があんな美女をベッドに連れて行けるのかと、暗い炎に身をこがしながら。

女の唇に微笑が浮かぶ。フロアに女の香りが立ちこめる。

それはタバコヴァニラ。漆黒のワイルド&マイルド。

今宵この黒い煙に 心震わせて眠れ

使用した商品
  • 現品
  • 購入品

426件中 36〜40件表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済

doggyhonzawa さんのMyブログへ

プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • ブログ
  • 音楽鑑賞
  • Twitter
  • 読書
  • 映画鑑賞

もっとみる

自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

  • メンバーメールを送る