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doggyhonzawaさん
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MDCI Parfums(海外 フランス) / Cio Cio San

MDCI Parfums(海外 フランス)

Cio Cio San

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2021/11/20 12:44:06

Cio Cio San。「しおしおさん」ではない。チョウチョウサンと読む。町長さんではない。「蝶々さん」だ。蝶々さんと言えば超有名オペラ「蝶々夫人」の主役、海外では最も知られている日本人ヒロイン「マダム・バタフライ」のことだ。

MDCIパルファムから2015年にリリースされたこの香水には、この悲劇のヒロインの名が冠されている。

浅学にして「蝶々夫人」の名は聞いたことがあっても詳細を知らなかったので、この有名なオペラ作品について調べまくったところ、とても驚き、最後には思わず涙までしてしまった。

ときは明治の長崎。士族の娘として生まれた蝶々さんは、親族や身請け人の死が相次ぎ、若干15才で芸者となっていた。そこでアメリカ海軍兵のピンカートンと出会い、見初められ、結婚の運びとなる。ピンカートンは日本にいる間の現地妻として「一時の愛」とうそぶくが、全身全霊で思いを寄せてくる蝶々さんの真剣な愛に気付きはじめる。

おりしも任期を終えたピンカートンは「コマドリが巣を作る頃には帰ってくる」と言い残して単身アメリカに帰る。周囲は「騙されたのだ」といぶかしむが、蝶々さんは「あの人は必ず帰ってくる」と信じて疑わない。やがて月日が流れ、港にアメリカ軍艦寄港の祝砲が鳴り響く。待ちに待った何年ぶりかの再会。蝶々さんの心は今にも張り裂けんばかりの喜びに包まれる。だが、ピンカートンはアメリカ人の妻を連れて訪れたのだった…。

よくある「あたし待つわ」的悲劇もの。なのかもしれない。けれど、何年も夫の帰りを信じて待ち続け、ときに心配して他の縁談を進める者たちへ怒りさえ向ける蝶々さんの一途さには次第に胸が熱くなる。これがイタリアのオペラ作家、ジャコモ・プッチーニが書き上げた舞台のあらすじだ。劇中第二幕、蝶々さんがピンカートンとの別れの際、「あの人は必ず帰ってくるわ」と歌うアリア「ある晴れた日に」は、心を揺さぶる切ない叙情歌。名曲中の名曲と言われ、あの伝説のオペラ歌手、マリア・カラスの18番にもなったという。

知らぬというのは本当にこわいことだ。そう思いながらMDCIのチョウチョウサンの香りを改めて嗅ぐ。

チョウチョウサンをスプレーすると、はじめに感じられるのはみずみずしいライチの香りだ。まだ幼いながら武士の末裔として凛とした姿勢を崩さぬ蝶々さんの着物姿。その異文化の魅力に心奪われ、たちまち惹かれていくピンカートン。2人のあふれんばかりの思いが、ジューシーなライチの香りで表現されている。

5分ほどすると、ほんのり煮詰めたような甘さと苦味が出てくる。これは柑橘の苦味だ。クレジットによるとユズのようだが、鼻でわかるほど明確ではない。そしてサクラ香水でよく使われる苦味。クマリンをスッとビタースイートにしたような。これらがべっこう飴のようなロースティーな茶の香りとともに出てくる。それでも、トップから感じたライトでフルーティーな気配は変わらない。ユズとサクラとほうじ茶ライクな香りのミックス。蝶々さんとピンカートンが日本で過ごした、短くも幸せな結婚生活がスイートに描かれているようなミドル。そしてチョウチョウサンのミドルはそのまま減衰してゆく。

濃厚な作品が多いMDCIパルファムにあって、このチョウチョウサンは、比較的香り立ちが柔らかく、スイートでフルーティーフローラルな香りが8時間ほど続く作品。次第にジンジャーの温かみが加わって、サクラの香りにロースティーな茶、クール&スパイシーなウッディを取り合わせたような和風イメージの香りでドライダウン。購入は本国MDCIのサイトより可能。

オペラ「蝶々夫人」第3幕。ピンカートンの乗った軍艦が祝砲を上げて長崎に寄港する。ひと晩中、寝ずに夫の帰りを待っていた蝶々さん。しかし夫は蝶々さんが一人で子どもを産んでいたことを知り、激しく自責の念にかられ、彼女の前に姿を見せることができない。仕方なくアメリカ人妻が蝶々さんの元を訪れ、その子を引き取りたいと申し出る。

そのとき、蝶々さんは全てを悟った。これまでたたんでいた心の羽根はずたずたに切り裂かれた。そして自身の愛を全うするために、傍らの幼子に目隠しをし、父親から受け継いだ武士の短刀を自身の喉元に当てた。

チョウチョウサンの柔らかく甘い香りは、夫の帰りを信じて待ち続けていたあどけない少女の横顔に重なる。ピンカートンが出港する際、蝶々さんが「私は蝶になってあの人の軍艦を追いかけたい」と歌うくだりがあるという。

チョウチョウさんの香りが、柔らかなサクラと木の香りになって消えてゆく。2人で見た桜を思いながら、長崎の海を見渡せる丘で、思い人を待つ一人の女がたたずんでいる。


ある晴れた日に。

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セルジュ・ルタンス / ロー ダルモアーズ

セルジュ・ルタンス

ロー ダルモアーズ

[洗顔フォーム香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2021/11/13 13:48:44

香水界の闇の帝王、セルジュ・ルタンス。彼の耽美かつゴシックな美学に彩られた香水作品群に、2019年、新たな作品が加わった。

ローダルモアーズ。ヨモギの水。

は?ヨモギ?そのへんに生えてるあのヨモギ?

思わず緑色のまんまるな「よもぎ餅」の色と味を思い浮かべる。甘くてほんのり草の味がするおいしいよもぎ餅。

ま、まさか!あの魔窟の錬金術師が「そのへんの草の香り」だなんて、そんな「50円くらいで買えそうな香水」を出すはずがない!嘘だ。嘘に決まってる!そう思ってにわかに信じられず、気がつくと試香もせずに買っていた。(←あなたのそのへんが…)

コレクションポリテス。これは、「悪魔の寝床」などという地獄の魔薬みたいな闇の香りばかり作り続けてきたルタンスが、何をどうとっ散らかしたのか、突然リリースした「キラキラ透明感あふれる光の香水」シリーズだ。ローダルモアーズは、その1本として登場した。とはいえヨモギ水。なぜだ?何を考えているルタンス?絶対何かウラがあるに違いない!

その秘密にせまる。

透明感あふれるボトルからヨモギ水をプッシュする。つけた瞬間立ちのぼるのは、苦味の強いハーブとミントが混在したリフレッシュな香り。ん。何かに似ている。あ、これ、薬草を練り込んだ緑色の歯磨きペーストみたいな感じだ。そう思うトップ。

2分もせずに、シャープなラベンダーの香りが鼻をよぎる。同じポリテスシリーズのグリクレールで使われたモロッコの灰色のラベンダー香に似ている。ほんのりコーラテイストもよぎる。カルダモン、アニスあたりがスッと清涼感と共に抜けていく。コーラっぽく感じたのはわずかなシナモン、クローブだろう。トップからハーブとスパイスが心地よく流れる。とはいえ、これまでのルタンスのノワール香水ほどの強さではない。淡く軽やかな出力。抽象的に言えば、スーツなどから香っても問題ないような透明感。

5分後、ミントが抜けてハーブの苦味が増してくる。グリーンというよりも、苦味がバシバシ効いたハーバルだ。そして同時に温かみあるクミンっぽい香りが増してくる。ん?これ、何だかカレー粉の香りに似てる。なるほどイモーテルか。

キク科の花から抽出されるイモーテル(ヘリクリサム)の精油は、別名「カレーの木」とも呼ばれるように、ホットスパイシーな香りが特徴だ。ミドルでは、このイモーテルのカレー粉っぽい香りがじわじわしみ出してきて、ギリギリ苦味の効いたハーブ香とデュエットを始め、モロッコのスーク、スパイスマーケットの風情を醸し出す。ビターなハーブ、ホットなスパイス、そこにほんのり甘みが加わった香りに落ち着く。

えー、でもヨモギってこんな香りがしたっけ??

気になったので、そのへんに出たついでにヨモギを見つけて指で葉をこすってかいでみた。んー、全然違うんだけどな。ヨモギってもっと落ち着くグリーンな香りがするんだが、一体どういうわけだ?

実はそれもそのはず。ルタンスがこの香水でモチーフにした植物は、ヨモギはヨモギでもモロッコ周辺の乾燥した大地に育つニガヨモギという種だ。実はこれ、日本のヨモギとは全く違う植物で、ギリギリとした苦味の強い香りは日本のヨモギの香りとは似ても似つかない。しかも幻覚作用をもつツヨンという毒性を含むという。

ほらきた!「毒」だよ。ルタンスがただの草の香りを創る訳ない!さすがタナトスの申し子、神への冒涜を恐れぬダークトライアド、ルタンス卿だ!(←厨二とまらんな)

ニガヨモギと言えば、まず思い浮かべるのが「緑の魔酒」と言われたアブサンだ。アルコール度数70°という強さに加えて、ニガヨモギやアニスで風味付けしたことで、美しい緑色と強い苦味が楽しめるリキュールだ。かつてゴッホや多くの芸術家が愛飲し、ツヨンの毒性によって幻覚を見たり感性を高めたりしたとされる禁断の酒アブサン。現在は原料が規制されているので前述の症状は出ないが、かつては合法ハーブ酒としてもてはやされたという。

なるほど。このグリーンな苦味とほんのりカレー粉を思わせるフローラルの香り、これらはモロッコに自生し、月の女神アルテミスに献上されたとされるアルテミシア、ニガヨモギの香りをイメージしたわけか。

ビターハーブ&ホットスパイスのミドルは、そのままうっすらと減衰する。時間は短い。2〜3時間ほど。モロッコではミントティーをはじめとしてハーブティーが本当によく飲まれていて、健胃などの薬効が高いこのニガヨモギも淹れて飲むことがあるという。

毒にも薬にもなるニガヨモギの水、それは緑の魔酒アブサンの香り。ローダルモアーズ。

さすがルタンス。闇だわ。これは50円じゃ買えない。

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キャロン / ル トロワジエーム オム

キャロン

ル トロワジエーム オム

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/11/6 00:36:11

今年のサロパは、老舗キャロンの新シリーズが大きな話題になった。そんな感じがする。

香水の祭典「サロンドパルファン2021」。各香水ブランドが打ち出してくる限定品や新作の荒波の中、100年以上の歴史をもつキャロンの香水が、懐中時計型の円いボトルで人気を博し、新たな客層をつかんだ。「このボトル可愛い!」「これはもうボトル買い」そんな声がSNSでも飛び交っていたし、実際ものすごい人だかりだった。

このリニューアル人気がきっかけで、久々に取り出した香りがある。メンズ香水のトロワシエム・オムだ。これは、名作プールアンオムやヤタガンとともに「世界香水ガイド2」で最高評価を与えられていたキャロンのメンズ香水。選者のタニア・サンチェスはこの作品をして「使わないとしても、この香水はぜひ買ってみるべきだ」と辛口の彼女にしては珍しい推しコメをしていた。

2021年、キャロンの香水が新しい世代に広がろうとしている。そんな嬉しい予兆を感じながら、トロワシエム・オムの香りを久々につけた。1985年リリース。現在は日本で発売していないレアもの。調香はディプティックのオイエドなどを手がけた日本人調香師、亀井明子。

トロワシエム・オムをスプレーする。その瞬間、まず広がるのはパッと咲いたようなレモン。すぐさまコーラのような香り。シナモンとともにスパイシーなクローブが香るちょっとクラシカルなイントロ。昔よくあったカーネーションノート。その下から甘くアロマティックな紫のラベンダーノートが広がってくる。とてもなめらかなオープニング。

3分後、スイートなラベンダーが丸みを帯びて揮発してくると、ドライなスパイス香が下からせりあがってくる。スッと冷たく抜けるアニス、ホットでピリッと乾いたコリアンダー、ニッキ飴なシナモンあたりが茶色いミックスで広がってくる。ここまではかなりアロマティック・スパイシーな展開だ。

10分後、甘いラベンダーが消え、ギリギリとした苦味と乾いたスパイスが強くなってきて、ミドル前半となる。かつて酷評したヤタガンのゴリゴリウッディな香りを思い出す。あー久しぶりだ。これはオークモスのコクと強い苦味だと感じる。かつてメンズ香水には必ず使われていた苦味の強いウッディベース。そのモスのギリギリしたビターとドライスパイスが渾然一体となって、コーラよりも強烈なスパイスチャイ風の香りになってくる。

ところが、このスパイシーウッディなミドル強い香りは30分もせずにあっけなく減衰してゆく。甘くて辛いクローブ特有の香りを残して。つけて40分ほどすると、先ほどまでの苦味も辛みも、くしゃみの出そうなスパイシーも柔らかくなり、次第にミドル後半に変わってゆく。

このミドル後半は、やや女性的だ。ここまでの香料が強いせいで鼻が麻痺しがちだが、よく嗅ぐとヴァニラの甘さ、ジャスミンのふくよかさ、そしてトンカビーンの粉っぽさに支えられていることがわかる。何?突然女性的になった?さっきまでゴリゴリ、ゴン攻めしてたメンズはどこに行ったの?的なくらいに。

そして香りは、つけて2時間ほどであっという間に消えてゆく。何事もなかったかのように。してみると、コーラ&ラベンダーを思わせるトップはどちらかというと中世的、ドライスパイス&カーネーションなミドル前半はかなり男性的、ジャスミンやクマリン&ヴァニラが感じられてくるミドル後半からラストはとても女性的、と、くるくるジェンダーチェンジしてくるような不思議な展開の香水。

そうか。だから「第三の男」なのか。

トロワシエム・オム。これは映画「第三の男」を元に名付けられたという。前述のタニア・サンチェスはこの香水に最高点をつけているが、彼女によるとこの香りは「女の子のように可愛らしく、何より美しい少年」を彷彿させるらしい。だが、自分的には逆だなと感じる。

これは少年のように自由奔放な少女の香りだ。または男装の麗人、あるいは心から男性でありたいと思っている女性のための。ステレオタイプの「男性らしさ」「女性らしさ」といったジェンダーの枠に押し込まれることをよしとしない方々。これは、そういった方々が自由に楽しめる「3番目の性の香り」ではないかと思う。

考えてみれば、性は遠い昔から本質的には自由だった。誰がどんな髪型をし、服を着て、誰を好きになろうと自由。そういう意味では、この香水の「オム」も、この時代、リニューアルして削除してよいワードかもしれない。

「可愛いらしさ」で再び注目を集めている新生キャロン。ただその香りは歴史と伝統に裏打ちされていて、なかなか一筋縄ではいかない物も多い。一過性の人気に終わらぬようにと願う。

トロワシエム、男と女と”X”の香りの余韻を楽しみながら。

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Histoires de Parfums / Ambre 114

Histoires de Parfums

Ambre 114

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2021/10/29 22:30:41

「アンバーって香水の香料に結構使われてるけど、どんな香りだか全然分からない。」香水にハマり始めの頃、一番疑問に思ったのはこれだった。ムスクと同じくらい保留剤として多くの香水にクレジットされているアンバー。それはどんな香料なのか?

結論から言うと、アンバーと名のつく香りは無限にある。なぜなら、ヴァニラの人工香料バニリンが発明されたときに、天然香料ラブダナムとのミックスから生まれた甘くてスモーキーな香りをアンバーと呼び始めたことに起因するからだ。だからここで言うアンバーは、マッコウクジラが吐いた腸結石から得られる天然のアンバーグリス(龍涎香)とは全く違う香りだ。いわば調香師が思い描いた幻想の数だけアンバー香料は存在する。アンバーは独創的で抽象的な幻の香りなのだ。

とはいえ、全く共通項がないわけではない。アンバーの始まりがバニリン+ラブダナム(樹脂の香り)であったことから、一般に「アンバーは甘くてスモーキー、官能的な香りがする」とされている。そこに、スパイス、ハーブ、フローラル、ウッディ香料を巧みにブレンドすることによって、さまざまなアンバー香料が作られてきた。

そんなアンバー系香水の中で、2001年のリリース以来、ずっと支持を得ている香水がある。それはイストワール・ドゥ・パルファンのアンバー114だ。

香りを通して物語を紡ぐ「香りの本」とも言うべき作品を創る香水ブランド、イストワール・ドゥ。パルファン。その創業時から売れ続けているというアンバー114、その香りを分析してみる。

アンバー114をプッシュする。そう言えば「世界香水ガイド2」ではアンバー411と間違って表記されてたなと思い出す。114はどうやら「114の元素から成るアンバー」とのこと。香料の数でなくなぜ元素の数を持ってきたのかは謎。他に意味でもあるのだろうか?

アンバー114はつけた瞬間からとても分かりやすい。まず最初に薬っぽく甘いベンゾインの香りが広がる。そしてラブダナムなどの樹脂系のスモーキーな香り。そこにスパイスの柔らかな香り、同時にヴァニラが広がってくる。トップからマイルドオリエンタルムード炸裂。ああ、確かにこれはアンバー系だなと思わせるイントロ。シャリマーをかなり薄くしたような、おトムのヴァニラファタールにハーブを足したような。

つけて2分でわずかにヴァニラの香りが浮き立つ。その下にスパイス。カルダモン、シナモン、ナツメグ。それを上回る強さでクリーミーヴァニラが香る。出力は弱めだが、トップからヴァニラの輪郭がはっきり分かる面白さ。ここはスパイシーヴァニラ。

5分もせず、乾いたウッディが下から主張してくる、干し草様のベチバーの香り。乾いてくる。同時に相反するようなパチュリの湿った土の香りもしてくる。ヴァニラはまだ香っている。薬っぽさとスパイスとウッディのコンボに、甘いベンゾインの香りが効いている。これはきれいめアンバーだなと感じる。アンバーグリスのような潮風っぽさやアニマリックな深みは全くない。ミドルのメインを張っているのはクリーミーなウッディヴァニラだ。

さらに、香りは穏やかに変化し続ける。静かにせり上がってくるシダーウッドの鉛筆の香り、わずかに薔薇や低音のゼラニウムの輪郭も見え隠れする。さらにトンカビーンの粉っぽい香りに包まれてくる。ウッディヴァニラからパウダリーヴァニラへ。そしてわずかにツンとした清潔さを見せるムスクと混じり合い、ラストはソーピーヴァニラへ。めまぐるしい変化。香料は似たような重さの物を結構多めに使っているのかも知れない。短時間で一気にベースのヴァニラとウッディが香るように構成されている。

秀逸なのは、ヴァニラが始めから最後までずっと香っていること。アンバー香水というよりは、ヴァニラ香水といった方がよいのでは?と思うくらいバニリンの主張が目立つ。確かにマイルドでクリーミーで、つけていて穏やかな気持ちになれる優しい香りだ。同じアンバーでも、やる気満々、鼻息の荒いゴリゴリ官能系なルタンスのアンブルスルタンあたりとは正反対に位置する香水。言うなれば女性向けのクリーミーマイルドアンバーといった感じ。

気圧が下がってきて肌寒さが増してくると、こういうあたたかくて官能的なヴァニラの香りが恋しくなる。アンバー114は、ヴァニラを主軸に、スパイス、フローラル、ウッディを上手く取り合わせた甘くてクリーミーなトロ蜜の香りだ。

例えばハチミツにヴァニラとシナモンを軽く入れる。ハーブを混ぜる。そしたらきっと、むかーしなめた浅田飴水飴のような、とろーり甘くてちょっと辛みがきいたおいしい蜜ができあがる。

アンバー114はそんな香りだ。

そうか。読めた。「アンバーいいよ」の114か。

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シャネル / レ ゼクスクルジフ 31 リュ カンボン オードゥ トワレット(ヴァポリザター)

シャネル

レ ゼクスクルジフ 31 リュ カンボン オードゥ トワレット(ヴァポリザター)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:200ml・36,300円発売日:2009/5/1

6購入品

2021/10/23 06:32:21

シャネルの香水は女性の戦闘服だ。そう思っている。「男は外に出れば7人の敵がいる」という言葉があるが、おそらく女性は鼻で笑うだろう。女性の場合、外にいても家にいても、100の理不尽と戦っている。髪の先からつま先まで常に見られ、有象無象のくだらない批評や差別に晒されている。だからたった1つの大切な自我を守り抜くために、女性は髪を整え、メイクを決め、服と靴でガードを固めて、この生きにくい世界に対峙するのだろう。そしてそこにシャネルの香水があれば鬼に金棒、ドラクエにぱふぱふ娘だ。(←は?)

シャネルの香水は他とは一線を画す。他の香水がファッションの仕上げであったり、リラグゼーションアロマであったりしても、シャネルは見向きもしない。シャネルは孤高の道を往く。シャネルの香水はあらゆる攻撃から身を守ると同時に、自身のパワーを底上げする。ドラクエで言うなら、守備力アップのスクルトと攻撃力アップのバイキルトを同時発動するような伝説の鎧だ。

特に、三代目調香師ジャック・ポルジュが、心血を注いで創り上げた最上級の香水シリーズ、レ・ゼクスクルジフ・ドゥ・シャネルの作品の戦闘力は高い。最高の素材を用いた本物の香水だけがずらりと並ぶ。31リュ・カンボンはその中の1本。2016年リリース。

31リュ・カンボン。言わずと知れたシャネル本店の住所。パリ、カンボン通り31番地。同21番地に開店した帽子専門店での成功をきっかけに、ココ・シャネルがスケールアップを目指して建物ごと買い取り、シャネルブティック第一号店となったはじまりの地。

そんな歴史的な場所を冠にしたシプレ調の31リュ・カンボン・オードトワレ。それはいったいどんな香りなのか?

75mlのスクゥエアボトルからスプレーする。他のゼクスは200mlサイズもあるが、31に関してはこのワンサイズ、価格は27500円だ。リリーズ当時はめちゃくちゃ高いと思ったものだが、今では50mlで4万円近い他社香水もあるからそう高いとも言えないのかもしれない。単に自分の金銭感覚が麻痺している感はあるが。(←香水好きによくある)

スプレーして最初に広がるのは、シャネル独特のツンとしたアルデヒド系の香りだ。ベルガモットの高揚感にガルバナムの苦味、イランイランぽいフローラルが絡んで、N°5とN°19とクリスタルを足して3で割ったようなイントロ。つまり、フローラルアルデヒドで、心地よい苦みがあって、そしてグリーンだ。

3分ほどすると、次第にペッパーの乾いた辛みが出てくる。そしてその下から赤いローズのゴージャス感、ジャスミンのセンシュアルな雰囲気が漂ってくる。ペッパー&フローラルのキリッとした印象。これは確かにシプレの骨格を思わせる雰囲気。だが、オークモスのギリギリした苦みはない。どこか軽やかで、けれどしっかりシャネルの凛としたたたずまいを感じさせるミドル。

このミドルは時間につれてさらに変化してゆく。次第にアイリスのふんわりパウダリーな感じが強く出てくるようになる。ペッパーのドライ&スパイシーな香りが1階、ローズ、イランイラン、ジャスミンを主軸としたアルデハイディック・フローラルが2階、そして3階にコナコナアイリスの白い香り、といった具合に階層に分かれて感じられる。なるほど、まさにシャネル本店の建物構造のよう。

ココ・シャネルが31番地にブティックを開いた時、1階は人の注意を惹く帽子や洋服のブティック、2階は華やかなコレクションやクチュールのためのホール、そして3階は彼女自身が住む、心安らぐアパルトマンだったという。明確に感じられるスパイシー、フローラル、パウダリーの3つのノートは、この本店の構造にも似てとても対比的だ。それでいてしっかり1つ1つが綺麗に主張してくる。それらはどれもシャネルの別々の顔を表しているのだろう。

つけて30分以降はアイリスが増してきて、柔らかくまろやか、ほんのり甘いパウダリーに変化してゆく。つけたときのキリッとしたN°5っぽさは何だったのかと思うほど優しく、心安らぐおしろいの香りに終息してゆく。つけて6〜7時間、母のように優しいパウダリーになってドライダウン。トワレだが出力は強く、周囲への押し出し感も高めだ。そういう意味では確かに戦闘服、けれど最後はしっかり「安らぎのローブ」になる。

「カンボン通りは私の領域」と言い、後に23〜31番地まで全て所有するに至ったココ・シャネル。彼女にとって31番地は、自身のレゾンデートルでもあった大切な場所。この香りは、人生の酸いも甘いも知った、成熟した女性にこそふさわしい。

ギリリと強く、突き抜けて華やか、けれど柔らかくあたたかい。

31リュ・カンボン。ココ・シャネルは今もここに生きている。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
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  • 星座・・・山羊座
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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