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Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:30ml・11,000円 / 100ml・21,560円発売日:-
2017/5/13 06:19:17
ジョー・マローンの香りを少しだけ敬遠していたのは、ハマると怖いのが分かっていたからだ。
ジョー・マローンの1本1本の香りは、とてもナチュラルで明るく、気分をスッキリさせてくれる優れた品が多い。ただ高いとは思う。コロンというカテゴリで100mlボトルが1本17000円以上。これは庶民にはなかなか手を出しづらい価格帯だ。たとえ30mlが8000円ちょっとで買えるとはいえ、これはもう立派なオードトワレやオードパルファンが買える値段。
何しろネックは、1本持ってるだけではジョー・マローンの香りの良さを知っているとは言えないことだ。これらのコロンはボトル1本1本が「素材」であり、まだ未完成品。ジョー・マローンの香りの本当の楽しさは、それらを自由に組み合わせて付けるフレグランス・コンバイニング(重ね付け)の妙にある。つまり、何本か好きな香りを集めてみて、それらをTPOに合わせて好きなようにコンバイニングした時、初めてジョー・マローンの創った香りの奥深さや本質がわかるということ。
このアイディアは本当に恐ろしい。実践すべく実際にボトルを集め出したら福沢諭吉先生がどんどんお財布から去っていかれるのが目に見えている。ジョー・マローンの「コンバイニングのすすめ」は「学問のすすめ」より強いのだ。何しろ1冊ではなく、全巻そろえたくなるのだから。
そんなコロンの中で、ネクタリンブロッサム&ハニーは、特に女性に人気が高い香りだ。トップにカシス、ハートにアカシアの蜂蜜、ベースにピーチというシンプルな構成ながら、それらのミックスが驚くほど自然なフルーティーさを感じさせる。
ピーチ系のフレグランスは、ともすると合成っぽさが強く感じられたり、わずかに合わせた苦みや酸味で「本物の桃の香りじゃない!」と受け取られたりして、なかなか難しいテーマの一つだと聞く。香水はもともと自然の花やフルーツそのものの香りではないけれど、人はフルーツ系の香りに対しては、本物っぽいかどうかこだわりやすい傾向があるようだ。それは、食べ物として「味覚」とリンクさせてしまうせいかも知れない。それでもこのコロンはかなり自然な香りを再現している部類だと思う。
ネクタリンブロッサム&ハニーは、付けてすぐ、ふわりとした上品な甘さとジューシーな桃の香がみずみずしく漂ってくる。スッキリした甘味、わずかな酸味とグリーンな風味、そして桃やネクタリンの果実がもつ果汁独特の芳醇な香り、これらが絶妙なバランスで心地よく鼻を刺激してくる。これはなかなかすごい調香だと思う。
ピーチの香りと言えば、ウンデカラクトンが有名だけれど、これは桃の表皮にそっと鼻を近づけた時の、柔らかでしっとりした香りを再現している香料だ。これにわずかなカシスの香料を合わせることで、よりフルーティーさをひきだしているのだろう。そしてそれらを支えているのが自然な甘さのハニー系の香料だ。天然のアカシア蜜のような花の香りやコクは抑えられ、すっきりしたいい感じの甘さを出している。何よりよく桃系のフレグランスにありがちなビニルっぽさや苦み、エグみのようなものがわずかなグリーン系香料で打ち消されている点が秀逸。だから、甘いのにスッキリ、桃系なのに爽やかでライトという背反を上手にバランス取りしている。
展開は単純だ。付けた時のふんわりとしたまろやかな、それでもわずかに酸味のあるネクタリン系の桃の香りがずっと同じように長く続く。他のジョー・マローンのコロンに比べて持続時間は長めで、7〜8時間ほども続く。それは合成香料がメインだからだろう。それでもとても雰囲気が穏やかで、女性向けの優しくて可愛らしい香り立ちのコロンだと思う。
コンバイニングにお薦めなのは、ナツメグ & ジンジャー、ポメグラネート・ノアール、オレンジ・ブロッサムあたりのようだ。フローラル系やスパイシー系を重ねることで、フルーティー・フローラルにしたり、スパイシーな香りに甘さを足したりするコンバイニングが面白い。ただこの香りに関しては、単品使いで十分楽しめる。高級柔軟剤を遥かに凌駕して使える単品使いがお薦め。
初夏の午後、切り込んでくる強い日差し。風にそよぐ濃い緑の葉。キラキラと明滅する厚い葉陰からそっと顔をのぞかせるネクタリンの果実。その黄色い頬に赤みが差してくる頃、あたりにはえも言われぬ香りが漂い始める。白桃とは異なるつるんとした表面には日の光が輝いている。やがて夏の太陽をいっぱいに浴びて真っ赤に熟した頃、桃園にはネクタリンの甘酸っぱい香りが、南風に乗ってどこまでも漂うことだろう。
ネクタリンブロッサム&ハニー。それは初夏を告げる香り。青空の下、赤桃色の果実からしたたる爽やかなピーチシロップ。
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2016/12/30 17:21:28
ディプティックの香りはいつもどこか哲学的だ。そう思う。2016年に発売されたこのオーデサンスの紹介文を見た時にもそれを強く感じた。
「オーデサンス。これまでにない新しい香りに対するアプロ―チ」
この文章は秀逸だ。とても人の心を惹きつける。ただこれは、「これまでにない新しい香り」ではなく、「これまでにない新しいアプロ―チ」という意味なので、やや誤解しやすい表現だ。では、これまでにはない新しいアプローチとは一体どんなものなのか?
オーデサンスを調香したオリヴィエ・ペシューは次のように語っている。
「これまでのディプティックのオードトワレは、つねに原材料からインスピレーションを得て創られてきた。だが、この新しいトワレでは、『五感のすべてを刺激する』というアイディアが最初に生まれ、それを形にするための原材料としてビターオレンジが選ばれた。つまり、真逆で対称的な経緯で生まれた作品だ。」
五感(センス)の共振、そして、それをエッセンスどうしの共鳴で表現すること。このデュアル感覚のテーマが先にあったということこそ、新しいアプローチであり、プロダクツとしての原点回帰であるとしている。
それでは、一体どんな香りかというと。
オーデサンスのトップは、ややシャープな青みがかったオレンジの果皮の香りから始まる。レモンやベルガモットが入っていないぶん、感じ取りにくい低音で香るビターオレンジの果皮は、一瞬キッチン用クリーナーのような苦みを呈して現れる。そしてすぐにプチグレンの青苦いグリーン系の香り。ごつごつとしたビターオレンジの果実の周りで、風に揺れる緑の葉を思わせる雰囲気。ここまで3分。
やがてプチグレンの青苦さが消失すると、ほんのり冷たい雰囲気のスッキリした香りが、ネロリのこんもりした香りと共に現れる。ジンの香りづけに使われるジュニパーベリーだ。まるみがあって柔らかなネロリの香りのエッジを明確にして、フレッシュでクールな印象をかもし出すことに成功している。このジュニパーベリーとネロリのミックスが、次第に、オレンジの果肉を思わせるやや甘いジューシーなオレンジフラワーの香りに収束していく。
はじめに、果皮の苦みと葉のグリーンな匂いを呈し、そこからオレンジの花の香りが広がっていくというイメージ。その輪郭を支えているのがジュニパーベリーといった印象。ほんのりとした甘さはアンジェリカのようだが、よくは分からない。このミドルが大体1〜3時間ほど続く。
ラストは早い。体温高めの自分の肌では、淡くあっさりと1時間〜1時間半ほどで消えていく。ラストは、ミドルのオレンジフラワーがほんのりアーシーな土っぽさを伴いながらフェードアウト。ベースにパチュリがクレジットされているが、わずかに添えられているイメージ。
全体的に見ると、「新しいアプローチ」と銘打ったわりには、香りのイメージはクラシックなよくあるオーデコロンタイプだ。「今になってなぜ?」と思わざるを得ないような、あっさりとした香り。天然香料は多く使用しているように思う。だが、香水はそれだけでは地味な印象になりがちだ。この香りでオレンジの樹全体をイメージする感じは少ないし、五官を全て刺激され、それらが共振するような感じはしないなあというのが本音。穏やかでスッキリした香りだとは思う。ただ、特に目新しさがないように感じるのは自分だけだろうか。
オーデサンスのラベルをボトルの後ろから見ると、60年代に流行した錯視的感覚の放射線が何本も入ったオレンジの樹が描かれていることに気付く。これはオプアートといって、受け止める人の感覚を揺らすアート。この香りのもう一つの側面である「感覚を惑わせる、震わせる」を表現していて興味深い。こういう細かな点にも深い思惑を見せるところが、ディプティック・フィロソフィーの面白さだろう。
太陽の恵みを真空パックしたようなオレンジ。そのまるい果実をたわわに実らせた一本の樹が目の前に立っている。でこぼこした果皮にそっと触れると、ひんやりとして心地よい。果実を鼻に近づけると、苦みと酸味があるジューシーな香り。見上げると、緑の葉が風を受けてさらさらと鳴り、太陽のかけらをその間から散らしている。ふと、春先に咲いていた甘く濃厚な白い花々の香りを思い出す。オレンジの花の奥にあった、かぐわしい蜜の味を心に描く。
オーデサンスは、センス(感覚)とエッセンス(香料)をともに揺らす香り。オレンジの樹全体から放射される豊かな刺激に、五官の全てを預けて感じたい香り。オプアートの錯視的な線描のように、じっとしていてもどこまでも広がっていくように感じられる、自分の感覚を研ぎ澄ます太陽の香り。
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マンダリーノ ディ アマルフィ オード パルファム スプレィ
容量・税込価格:50ml・37,180円発売日:2014/8/1
2017/8/5 01:10:42
イタリアが世界に誇る美しい海岸線の町、アマルフィ。切り立った崖に沿ってアップダウンを繰り返す細長い道を行けば、眼前に美しい地中海のコバルトブルーと南イタリアの太陽を浴びた白い町並がパノラミックに広がる。マンダリーノ・ディ・アマルフィは、そんな美しい南イタリアの風景にインスパイアされたトム・フォードが、2014年に調香師カリス・ベッカーに作らせたオード・パルファムだ。
「アマルフィのマンダリン」、そう名付けられたこの作品は、世界的にヒットしたトム・フォードのプライベート・ブレンド・シリーズの中でも、特に人気の高いネロリ・ポルトフィーノから派生した。同時に発売されたコスタ・アジューラはやや海藻の風味が強いスパイシーな海風だったのに対し、こちらはマンダリンオレンジのしっとり穏やかな香りを思わせる優しい陸風が吹いている。
美しいスケルトンライトブルーのキャップを外して金色のスプレーボタンをプッシュする。するとまず最初にパーンと鼻腔に心地よく広がるのは、わずかなミントの風と穏やかなシトラスミックス。クレジットにはレモンやグレープフルーツとあるが、陽に灼けたマンダリンオレンジの美しい橙色の果皮を思わせる。それほどに酸味がなく、しっとりしたシトラスだ。わずかに効いたハーブは3分後、次第に主張してくるようになる。
3分後、薄かったミントはすぐに消失し、シトラスが丸みを帯びてくると、バジルとシソの葉の香りがよく感じられるようになる。もしかしてプチグレンも入ってるかなと思うほどハーバル。そしてその奥から柔らかな花の香りも漂ってくる。ジャスミンの中でも軽めのフルーティーな調子をもった香料だろう。そしてややゴムっぽい低音をもったネロリのような香り。これらのフローラルとバジルやシソのアロマティックがミックスされて、とても清々しい透明感のあるオレンジ系の香を構成しているような雰囲気だ。そんなミドルが約1時間ほど続く。
ラストはよくわからないまま消失する。特に香りが変化したような気はしない。オレンジの花系の香りにハーブが効いたまま、急速に減衰してゆく。1〜2時間もてばいい方。賦香率ではオード・パルファンだが、トップ系の揮発しやすい香料が多いせいか、アルコールや水の割合の問題か。いずれにせよ、50mlで3万円近い高価なフレグランスだから、費用対効果はいかがなものかと考えてしまう。いつものことながら、トム・フォード・フレグランス評価の難点はそこに集約される。
全体的に、スプレーしたときのトップの印象は比較的よい香りだと思う。わずかに添えられたミントが、美しいクリアボトルの水色と相まって清涼感を醸し出し、そこにブレンドされたハーブとフローラルは、みずみずしいマンダリンの果皮や果汁を思わせる雰囲気をよく表現している。さすがジャドールを作ったベッカーといった印象。30分ほどすると、低音部にゴムっぽい香りやアニマリックな気配を漂わせるものの、とても淡く、消え入りそうに静かで使いやすいタイプだと思う。
この香りも含めて、プライベートブレンドシリーズはその名のとおり、重ね付けを基本として考えられた「素材」な香り。それでもこのマンダリンは、シングルで使用する機会が多い。なぜかははっきりしている。ライトで夏でも使いやすいからだ。ややバス〇リン系なネロリ・ポルトフィーノや海藻&スパイシーなコスタ・アジューラより汎用性が広く、男女ともに扱いやすい香りだと思う。特に夏の高音多湿に付けても邪魔になりにくい。これはかなり大事なファクターだと思う。
アマルフィ海岸は年間何万人もの観光客が訪れる世界遺産だ。その北側にラベッロという高台の町がある。そこはかつて地中海交易で富を得た貴族が屋敷を構えた崖上の町。よく手入れされた美しい庭園や大聖堂、そして遥か眼下に地中海とアマルフィ海岸を見渡せる絶景で注目されているエリアだ。
山上に至る細長い道をバスでゆくと、崖に植えられたレモンやマンダリンがことのほか日に映えて美しい色彩と芳香を放っている。アマルフィと言えばアマルフィレモンとレモン料理が有名だが、レモンと同じくらいよく食され、大切にされているのがマンダリンだという。
ラヴェッロの街の東、高級ホテルの並ぶ通り沿いには、「ピエモンテ王女の展望台」と名付けられた美しい庭園と展望台がある。そこは、季節の花々とともに海岸線のパノラマを楽しめる空に近い場所。展望台には地元でとれた新鮮な柑橘を並べて売っている車も。広大な景色を眺めながらほおばる太陽の色をしたマンダリンの味。
口中にほとばしるオレンジの果汁。地中海のまばゆい日差しの下、その太陽の果物の香りと碧い潮風を深々と吸い込みたい。眼下に絶景を望む天空のテラスで。
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2017/10/15 02:57:44
シャネルのココ・オードトワレは、運命を自分の力で切り開こうとする女性に纏ってほしいフレグランスだ。ココは調香師の強い思いが込められた香りなので、纏える人をかなり選ぶ。そういう香りは、付ける人の心がそれ相応に強い状態でなければ、寄り添って魅力を発揮してはくれない。香りに人が負けてしまうからだ。
ココは、シャネル3代目調香師であったジャック・ポルジュが、シャネル専属になって初めて手がけた香りだと言われている。1971年に亡くなったココ・シャネル。彼女の偉業をフレグランスに表現するという重責を担ったジャックは、彼女が所有していたカンボン通りのアパルトマンを訪れ、そこから強いインスピレーションを得たという。ジャックは後にヴォーグ誌のインタビューでこう語っている。
「ココは、私がマドモアゼルのアパルトマンに足を踏み入れた当時のインスピレーションそのままなんです。ヴェネチアの鏡やオブジェがあってバロックな感じ。あれは『豊満な官能性』を意識した香りです。」
キーワードは、官能性とバロック。ココ・シャネルがもっていた一途さと奔放さ、そして、シンプルで調和のとれた美しさを愛した反面、それを打ち壊すかのような、複雑で過剰なバロック的美しさをも愛したという二面性の表現。
ココのオードトワレをプッシュすると、まず最初に鼻を刺激するのは、ガルバナムのグリーンな苦みだ。それを包むかのようにさまざまなフローラルがふわりふわりと漂い始める。この時点で敬遠する方はいるだろう。トップはクラシカルで、格調と敷居が高いマダム的な香りだ。香り立ちも濃厚。
やがて3分もすると、中音でジャスミンのふくよかさ、低音で誘うようなイランイラン。その前面にスパイシーなクローブの香りが主張してくるようになる。そして同時に、やや青みのあるローズの香りが、それらの合間を自由に漂い始める。このミドルの美しいこと。
このローズ香は、作品が発売された1984年当時、調香師たちが好んで使い始めたダマセノンというローズ系香料だという。ダマセノンは、リンゴ、ブラックカラント、ラズベリー、メントール様の香りをもった強いバラ系の香りだ。このフルーティーで清涼感あるバラの香りをメインとしたフローラルブーケが、大体3時間ほど美しくたゆたう。フェミニンでゴージャス。このうえなく強い主張のフローラルだ。さながら、歌手になるために夜な夜なキャバレーでずっと歌い続けたココの強い気概のように。
やがてトワレは3時間ほどでサンダルウッド系の香りに収束していく。華やかなフローラルミックスは静かに消え、香ったかと思うと消えるような、温かみのあるウッディと樹脂系の香りに変わる。このへんもクラシカルな3段階変化をきちんと踏んでいる。かなり香料を多用しているようで、オリエンタル系のドライなインセンス&ウッディが多層的なラスト。時折ゲランのサムサラを思わせる香りがするので、サンダルウッド系の香料は強いように思う。1時間ほどで静かに消えていく。
全体に、クラシカルなシャネル香をリスペクトしつつ、ダマセノンでそれまでにないローズの側面を打ち出したこと、オークモスやシベット、ラブダナムなどでシプレ系の苦みを作り、サンダルウッドやアンバーで温かみのあるオリエンタルノートを作って、当時ベストセラーだったオピウムに対抗したこと、このあたりがジャックのアピールどころだったのではないかと感じる。どこかドライフルーツの香りがするバラの香気と、オリエンタル系+シプレ系の骨格を合わせたことで、それまでにない重層的で、複雑なフロリエンタルに仕上げたというイメージ。
ただ現代では、かなり強くて濃厚な部類なので、付け方を間違えると絶対周囲に香害を与えるタイプの香りではあると思う。だがこの香りを上手に纏えたとき、女性のもつ強さ、華やかさ、優しさ、官能性は格段にアップして、周囲の男性の心に爪痕を残すのは必至だろう。ココは付ける女性の強さも選ぶ代わりに、付けたときには男性の弱い部分を落とす強力なウェポンにもなりうる香りだ。
ココ・シャネルは、伝統的な様式の中に東西の文化が入りまじったインテリアをアパルトマンの部屋に自由気ままに配置し、その複雑さや多様性の中に身を置くことを好んだ。彼女が所有していた部屋は現在もそのまま保管されている。ヨーロピアンな長椅子に身を横たえ、もの憂い顔で東洋風の屏風を眺め、彼女は今も問いかけているようだ。
「香水をつけようとしない女に、いったいどんな未来があるというの?」
ココという香りは、その問いに対するジャック・ポルジュなりの返答であっただろう。
この香りを纏う女性にこそ、さまざまな未来への扉が全て開かれているのだと。
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ガブリエル シャネル オードゥ パルファム (ヴァポリザター)
容量・税込価格:35ml・11,550円 / 50ml・16,500円 / 100ml・23,100円発売日:2017/9/1 (2018/4/20追加発売)
2017/10/21 14:30:58
起きなさい、ガブリエル。もう起床時刻よ。
12歳のときに母を亡くし、父にも捨てられ、多感な時期を孤児院で過ごしたガブリエル・シャネル。彼女は毎朝、修道院の窓の外から差しこむ日差しで目覚めるとき、何を思ったろうか。
シャネルのガブリエル・オードパルファムは、4代目調香師となったオリヴィエ・ポルジュが、満を持して発表したシグネイチャー・フレグランスだ。14年ぶりとなるこの新しい香りの名前は、ココ・シャネルの本名、ガブリエル・ボヌール・シャネルからきている。極薄の美しいスクゥエアボトルに収まった金色の液体、それは一体どんな香りなのか?
半マットのゴールドメタルキャップを外してスプレーする。スプレーチューブは、昨今流行の極細タイプ。液体の中にあってもほとんど見えないという優れものの半面、ゆっくりスプレーボタンを押すと、液体が細い水流状に出てしまうので、押し方には注意が必要だ。
トップの香りは、酸味と苦みが印象的なグレープフルーツの風。その下からはかなげなジャスミンが柔らかく香ってくる。朝の光を感じさせるような、さっぱりした明るいオープニングだ。体温高めの自分の肌では、酸味と苦みはすぐに消えて、こんもりクリーミーなジャスミンと綿あめのような甘さが広がってくる。この甘さはブラックカラントのようだ。
やがて香りは、高音のシトラスから、このフレグランスの真骨頂であるホワイトフローラルブーケに移り変わってくる。このトップからミドルへの変化が、香りのグラデーションになっていてとても美しい。酸味と苦みから甘味へ。スッキリした爽やかさからふくよかな女性らしさへ。さながら少女から女性へと成長していく過程を表現しているかのよう。
ガブリエル・オードパルファムは、シャネルが大切にしてきた「花」を深く追求した作品だという。オリヴィエ・ポルジュはインタビューの中で、「ホワイトフローラルブーケが作りたかった。まばゆいルミナス、太陽のようなフレグランスを。」と語っている。選ばれた4つのキー素材は、チュニジアのオレンジフラワー、エジプトのジャスミン、コモロのイランイラン (シャネル独自の抽出)、そして、グラースで栽培されたチュベローズ。
ミドルで特に感じられるのは、この4つのうち、ジャスミンとチュベローズだ。ただ日によって異なる。これまでのシャネル作品のような濃厚さではないものの、イランイランぽい低いエキゾティックな香りがしてドキリとすることもある。これらの花々のエキスはおそらく本当にシャネルが自信をもっている特別な香料なのだろう。特にチュベローズ。チュベローズはもともと動物の尿のような強いサブファセットも持ち併せているけれど、ここで初めて使用されたというグラース産のチュベローズは、ベルベットのように艶やかでなめらかだ。
ラストは、ややソーピーなツンとしたホワイトムスクが出てきてフェイドアウト。シングルフローラルとも言われるが、付けてから3時間ほどするとかなりホワイトムスク系の渋みは感じられ、変化してくる。ちょっとメンズっぽく感じるラストだ。全体で3〜5時間で消えていく。
ガブリエルは、シャネルならではの贅沢な花のエキスを調合して作られたホワイト・フローラル・ブーケだ。オリヴィエはジャスミンを基調としつつ、そこに新しいチュベローズを配合することで、これまでの世界にはない新しい花の香りを創造しようとした。ただ、そこにガブリエル自身のドラマはなかったように思う。
3代目調香師であり、父でもあるジャック・ポルジュは、いつも丹念にココ・シャネルの言葉、作品、暮らし方をなぞり、そこからインスピレーションを得て香りを創作した。だが、オリヴィエは異なる。彼は言う。「次はホワイト・フローラル・ブーケが作りたかった。ガブリエルというのは創作インスピレーションの源ではない。後から自然におりてきた」と。
自分はそこが残念だった。香料はすばらしい。ただこの香りにはこれまでシャネルのどの作品にもあった「顔」と強さがない。それは、ガブリエルという女性からイメージした作品でなく、まず香りありきで作られたせいかも知れない。もしどこにでもありがちなフローラルと感じたなら、これはもうシャネルじゃない。
母が生きていたら…。孤児院の貧乏生活から這い出る日を待ちわびていたガブリエルは、きっとそう思ったことだろう。痛くて、辛くて、憎しみに囚われていたガブリエル。それが彼女自身の生きていく強さにつながっていったであろうことは想像に難くないけれど。
だから、何度も思ったはずだ。朝の光を受けて目覚めるとき、母が幼い頃の自分にかけたであろう太陽のようなまなざしと優しい声を。
さあ起きて、ガブリエル。私の可愛い子。
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