64件中 6〜10件表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 52歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
Thierry Mugler(海外) / エンジェル オードパルファム

Thierry Mugler(海外)

エンジェル オードパルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品リピート

2018/7/28 07:59:00

漆黒の宇宙を切り裂いて、一条の流星が地球に向かっている。天使だ。次第に加速し、青い氷の結晶の尾を引きながら、神が遣わした人間界へと突き進んでゆく。天使の眼下に、ぐんぐん街がせまってくる。突然、激しく暗い匂いがその鼻をつく。魔窟の匂いだ。天使は危険を察知し、銀の剣に手をかける。

エンジェル・オードパルファム。1992年発売。調香師はオリヴィエ・クレスプ。「モードよりも永く生き続ける香水がほしい」アヴァンギャルドなモードを80年代に成功させたミュグレーのそんな願いは、それまでの香水の常識を大きく覆すパンキッシュな作品として結実し、世界を揺るがした。オリエンタルグルマン調という新たな分野の先駆けとなり、以降、多数の名香に影響を与え続けている。世界香水ガイドを編纂したルカ・トゥリンらの偏愛する香水としても、つとに有名だ。

そのトップは、ギリギリと苦く、どこまでも暗い。香りの奥に、得体の知れない闇を思わせる。それは、黒いパチュリとカンファーの匂い。人はそれをお香とも言うだろう。墨とも言うだろう。濡れた土の匂いと言うかも知れない。そこからなぜ、じわじわと甘さが忍び寄ってくるのだろう。煮詰めたカラメルの苦々しい甘さ。綿菓子のべとつくようなエチルマルトールの匂いが、鼻につく苦みの下から出てくる。そこに、わずかに陰鬱なひとひらの花弁の香りも添えて。

5分後。不意にギラリと光る香りが現れる。キンと音がしそうなほど高いところで響いている銀色の香り。それは流星の一瞬のきらめき。はっとするメタリックな色彩が、闇夜に一本、冷たく青い尾を引く。やがてそれは夜陰の黒と共に地平に落ち、溶けたダークチョコの香ばしさと蜜やフルーツの香りに包まれ、どろりと摩天楼の町に降りかかる。これが驚愕のミドル。黒々としたパチュリーの苦い香りに、スイートでグルマンな香料の数々が、妖しいきらめきを添える。

強く残るその残香は、時間にして6〜8時間。ラストは、パチュリの苦みと暗さに、わずかにキンと光るメタリックなムスキー、そしてほんのり甘くなったヴァニラとコクのあるカカオのグルマン・コンピレーション。その香り、最後まで常識と期待を鮮やかに裏切り続ける。

エンジェル。

天使は最も高い塔の上で、中空に浮かんだまま、下界を見おろした。乱立するビル群の光は、くだけ散った星々のかけら。さながら地の底に住む者どもの巣だ。地上を見渡し、どこに舞い降りるか見定める。チョコレートブラウンのシルエットと化した建造物がひしめく街からは、さまざまな危険な香りがしている。

地上の星々の瞬きの中、天使がその目に初めて認めた色は血のような赤だ。まばゆいライトに照らされたショーウィンドー、その中で真っ赤なベリーソースをかけたケーキがぬらぬらと濡れて輝いている。と、不意に、どこからか苦い香りがして、あたりを見回す。白い服に全身を包んだ男が、銀色に光り輝く半球の中に茶色いどろどろと溶けた液体を流しこんでいる。そのコクのあるカカオと、とろけるようなハニーの香りに、天使は平静を失う。

気付けば、他にも強烈な匂いがあたり一面に立ち込めている。さらに心がぐらつく。リキュールの酔わせる匂い。人間が吐き出す煙。人肌が醸し出す肉や魚の臭み。街中にあふれる花々の蜜の香り。雨上がりの黒い道のすえた匂い。それら混沌とした匂いにかき乱され、黒インクのような染みが心に広がり始める。知りたい、もっと近くでかいでみたい。そんな麻薬的な思いを断ち切るために、銀の剣の刃を顔に当て、自制を試みる。冷たく冴えた匂いがしている。それは、絶え間なくこの地上に降り注ぐシューティングスター、見えないスターダストパウダーの香り。だが、その瞬間、天使の心が乖離する。

自分はなぜここにいるのか?何をするべきなのか?本当は何をしたいのか?

エンジェル。世界を自堕落に造り変えし人間に、新たな秩序と創造を与うるべく遣わされし者。あるいは、翼と剣を捨てて地に堕ち、人間界の肉と欲に睦み、神に背きし者。

人間の笑いさざめく声が聞こえる。「降りて来い、答えはここにある」泥から生まれし者どもの誘う声が、激しく心を引き裂いてゆく。そのとき、雷鳴がとどろき、天使の体がぐらりと傾く。そして、回転しながら真っ逆さまに暗い下界へ。

気が付くと、黒い蛇革のような濡れた路上に倒れていた。冷たい氷の雨が、絶え間なくほおに当たっている。真っ黒に汚れた手から、泥の匂いがしている。その苦く鈍い匂いが、いまだ天使の心に問い続けている。

お前は天使か、それとも堕天使か

……………………………………………………………

その者、人間世界にて上級天使にLv.up。(6点)
H30.7.28追記

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 50歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
トム フォード ビューティ / ウード・ウッド オード パルファム スプレィ

トム フォード ビューティ

ウード・ウッド オード パルファム スプレィ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:10ml・12,100円 / 30ml・25,850円 / 50ml・38,500円発売日:2012/10/24 (2023/6/2追加発売)

ショッピングサイトへ

4購入品

2017/1/7 22:38:38

ウードウッドは、ずるい香りだ。トップから薬漬けのセロリみたいな香りがするのに、2007年の登場以来、世界中で売れ続けている。かなりマスキュリンでウッディな香りなのに、男女問わずセレブがこぞって買っている。さらに、50mlボトルが28080円(税込)もするのに、セレブじゃない方々も買っていく。一体なぜこの香りはこんなに売れているのか?

ウードウッドは、トム・フォードが2007年にリリースした「香りの実験室」ともいうべきプライベートブレンドシリーズ最初の12本のうちの一つ。それまでのシグネーチャーラインから一線を画したこれらの作品群は、香水愛好家のみならず、世界中のセレブも巻き込んで大きな話題となった。「チャン・グンソク氏のセカンドバッグの中身拝見!」という意図不明な雑誌の企画で、バッグの中にネロリ・ポルトフィーノ様がやけにドヤ顔で鎮座されていたのもこの頃だ。(←誰の仕込み?)(←やめろ)

このシリーズが世界的にヒットした背景にはさまざまな理由があると思うが、最も大きな理由は「よりプライベートに、よりラグジュアリーに」と、香水の付加価値を高めたことに依るものだろう。具体的には、フレグランス・コンバイニング(重ね付け)で一世を風靡していたジョー・マローンのアイディアを、より高級感あふれる濃厚なオードパルファンで提案したことではないだろうか。

ジョー・マローンのコロンの香りやボトルは、みずみずしさや透明感が特徴だ。これに対し、プライベートブレンドは、香りも濃厚、ボトルも薬瓶を思わせるダークでスクウェアなデザインにし、ゴールドラベルなどを配する対極的な位置づけでヒットした。後年、ジョー・マローンがブラックボトルのコロン・インテンス・シリーズを発売したが、そこにはプライベートブレンドの逆影響が少なからずあっただろう。そしてそのインセンスブームの火付け役となった香りこそ、このウード・ウッドだった。

ウードウッドは、トム・フォードが実際に訪れたブータン王国で出会った香りをモチーフにして作られた。ブータンはチベット仏教の地で、断崖絶壁の上に建つタクツァン僧院などが有名だ。この香りは、発売されるやいなや、日常的にウードを用いる中東で人気を博し、ドバイなどではセレブの御用達となり、世界的ウードブームをけん引することとなった。

では、そんなウードウッドはどんな香りかというと。

ウードウッドのトップは、スパイシーなセロリのような香りで始まる。苦みのきいた漢方薬セロリ風味。ラルチザンのゾンカもまた、クリーミーなタッチのセロリ風のトップをもっているが、ゾンカに比べるとウードウッドは、最初から低くウッディなベース香が広がってくる。さながら茶色の薬湯の匂いを思わせる雰囲気だ。それでも奥からスッキリとした清涼感のような酸味が流れていて、確かに複雑な五味を感じさせるトップ。

やがて3分もすると、薬草っぽい苦みや酸味はうすらいできて、じわじわと暗くて低いウッディな雰囲気になってくる。トップがガツンときて好き嫌いが分かれそうだが、ミドルは、ソフトレザーのようなアニマリックな香りも出てきて、木の香ばしさが増してくる。キンとしたセロリ風の香りが高いところで鳴っていて、ローズウッドなどのウッディと同時に香っている印象。濃厚で温かみのある木々の香りが、刻々とさまざまな表情を見せて心地よい。この思いきり焦げ茶色なウッディの香りが、大体5時間ほど静かに続く。

ラストは、ほんのりスパイシーに変化する。ペッパーの辛みが出てドライな香りになり、その後にほんのり甘いクリーミーなヴァニラノートが残る。このお香とミックスされた淡いヴァニラがフェードアウトするまで、約8時間ほども続く。

プライベートブレンドの一本一本は、あらかじめレイヤリングを考慮して、シングルノート風に作られている。このウードウッドは、通常の香水でベースノートに使用される分子の重たい香料ばかりが配合されている。だから、ライトな柑橘やフルーツ香、フェミニンなフローラルなどを上からレイヤリングすると、香り全体に深みとエッジが効いておもしろいと思う。ちなみに上からネロリ・ポルトフィーノを重ねたら、柑橘やネロリ、ジャスミンがより強調されて、とてもしっとりとしたいい感じになった。

欠点を挙げるとすれば、やはり値段の高さだ。正直、この香りでこの値段は高すぎる。ただこのボトルはコレクション欲を刺激してやまない。で、ジレンマに苦しむ。(←で、買う)

柔らかくスモーキーな樹脂の匂いとウッディの香ばしさ。それらが、ときに苦く、ときに辛みや酸味を帯びて、少しずつ表情を変えながら立ち上る香り。それは偶然の積み重ねにより奇跡のようにこの世に生まれた、貴重なウードの煙る香り。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 51歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
シャネル / レ ゼクスクルジフ ジャージー オードゥ トワレット(ヴァポリザター)

シャネル

レ ゼクスクルジフ ジャージー オードゥ トワレット(ヴァポリザター)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:200ml・36,300円発売日:2011/10/7

5購入品

2017/2/24 05:01:21

シトラスは苦手。フローラルは飽きた。オリエンタルはスパイシーでNG。ウッディは最初からない。そんな方は、ちょっと毛並みの変わったこのジャージーのような香りを一度試してみるといい。

ジャージーは、クリーミーでほんのり甘い、けれどどこかシャープなアロマティックを感じさせる不思議な香りだ。それはまるで、柔らかく上質なファブリックの服をふわりとまとったときの匂いのような。

シャネルの香りのエクスクルーシヴラインである、レ・ゼクスクルジフ・ド・シャネル。その中にあって、ジャージー・オードトワレは、2011年に発売された比較的近年の作品だ。調香師は、シャネル専属調香師3代目ジャック・ポルジュ。彼にとっては晩年の作品。

ジャージーを初めてつけたときの印象は今も忘れない。柔らかい革製品のようになめらかで温かみがあり、何の香料が使われているのかほとんど分からなかった。唯一感じられたのは、クマリン&ヴァニラのクリーミーなコンボ。中心となって拡散している、やや暗くシャープな香りの正体は、見当すらつかなかった。

やがてそれが、こだわり抜いて選ばれた特別なラベンダーの香りだと知って、とても驚いた。基調がラベンダー&ヴァニラ&ホワイトムスクだという。ゲランの名香ジッキーの向こうを張った作品だろうか?でも、全然ラベンダーの香りがしない。少なくとも、自分が知っているラベンダーの香りではない。このスモーキーな香りのどこがラベンダーなんだ?そう感じて、戸惑いさえ覚えた。

ラベンダーは、昔から男性用の香水によく用いられる代表的な香料だ。女性がよく揶揄するところの「男性のトニックの匂い」は、たいていの場合、シャープなラベンダーと湿った土っぽいオークモス、甘苦いクマリンらをミックスしたフゼア調の香りのことを指す。フゼアは女性用香水にはないタイプだ。つまり、ジャージーは、きわめて男性的な香料であるラベンダーの魅力をあえて女性向けにアレンジした作品ということだろう。

それはまさに、ココ・シャネルが、かつて男性用の衣服にしか用いられていなかったジャージー素材をフィーチャーし、女性用の新たなエレガンスドレスを生み出した大胆なアイディアそのものだ。

ジャージーをプッシュすると、クリーミーなヴェールがふわりと広がる。同時に、ややカンファーっぽい透明な清涼感。そしてすぐに、クマリン独特のミルキーな甘苦さも感じられる。それらが混然一体となって展開する。シトラスでも、フルーツでも花でもスパイスでもウッディでもない。どこか上昇し続けていく体温のような温かさ、わずかに酸味のあるメタリックなムスクも含んで、角のとれた、しなやかでまろやかな香りが広がる。それがジャージーだ。

トップ、ミドル、ラストの時系列で変化が少なく、最初から全ての香料が一斉に感じられるタイプ。そして、ほぼそのまま減衰していく。言ってみれば、昨今のシャンプーや柔軟剤のようなパーソナルケア製品的な香り方だ。持続時間は、トワレとはいえ8〜10時間程度と長い。面でつけるよりも、香水やオードパルファンのように、比較的体温が高い場所に点で付けた方がよいタイプだと思う。ラベンダーのモワット感やシャープさは、時折メンズっぽい陰影を見せて出てくることがあるから、そこがこのトワレを選ぶかどうかの分かれ目だろう。あとは、値段と扱っている店舗の少なさだ。

イメージ的には、上質で柔らかな生地の服を思わせるラグジュアリー感満載な香りだ。ジャージー素材は、伸縮性がある柔らかな編みのファブリックを指し、現代ではポリエステルで作られるトレーニングウェア系の印象が強いかも知れない。けれど、19世紀にシャネルがこの素材で作ったドレスの功績は、当時の女性にとってはどんなにか大きかったことだろう。

肩や胸をはだけ、バストを強調するデザイン。ギリギリとウェストを締め上げるコルセット。足が絡まるような長いスカートを大きくふくらませるためのパニエ。19世紀の女性服のエレガンスは、ただただ窮屈で、がんじがらめに縛られた画一性の上に成り立っていた。男たちが戦争に出かけ、女性がなりふり構わず髪を振り乱して男の仕事場で働かなければならなかった時代。そこには新しいエレガンスが必要だった。動きやすく、シンプルで軽い服。そんな誰もが求めていた物を既成概念を打ち破って作ったのがココ・シャネルだった。彼女は言う。「私は女の肉体に自由を取り戻させた」と。

ジャージーはそのモニュメントだ。ときに男性のように荒々しく生きても、女性らしい優しさと温かさと柔らかさをいつまでも失わないように。女性がどこまでものびやかに暮らせるように。女性の心と体を永遠の自由へといざなう香り。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 51歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
ルイ・ヴィトン / マティエール ノワール

ルイ・ヴィトン

マティエール ノワール

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2017/4/15 17:28:43

旅に出よう。ルイ・ヴィトンの7つの香りをカバンに詰めて。まだ見ぬ遠くの町へ。そこには見たこともない風景が広がっている。新しい風と光が満ちあふれている。

長らく香水を出していなかった最後の大ブランド、ルイ・ヴィトン。70年ぶりのフレグランス「レ・パルファン・ルイ・ヴィトン」は、2016年9月、満を持して発売された。1946年のオード・ヴォヤージュ以来となる香りのテーマは「旅」。それは旅行用カバンを創り続けてきた同ブランドにとって、永遠のテーマでもある。

話題となったのはそればかりではない。ゲランやシャネル、ディオールの最高級ラインにもひけをとらない贅沢なオードパルファンを一気に7本リリース。このニュースは各種女性用雑誌にも広く紹介され、ふだん香水を使わない方々の注目も集めた。

2013年にヴィトンの専属調香師となったジャック・キャバリエは、「肌の上にも旅を」のテーマのもと、7本同時リリースを決めたのが自分であると語っている。そこには、潤沢な開発資金と香料を背景に、4年もの歳月を調香に費やした彼の自信がうかがえる。目指したのは、女性が選ぶ最高の香り。

マティエール・ノワールは、その6番目の香りの旅。それは、最もミステリアスな黒のマティエール(素材)を用いた香り。

マティエール・ノワールのトップは、上品な革のような、なめらかなスエード調の香りで始まる。色で例えるならベージュ。複雑な香気が絡み合っている印象。やや青いローズとパチュリ、そして、ウッディな香ばしさにわずかな酸味があるウードの香り、この3つが混じりあって、柔らかで上質なレザーのような雰囲気に感じられる。まるで、ヴィトンのキーポルあたりのカバンに旅行用の荷物をパッキングしているかのようだ。旅の始まりを予感させる心躍る香り。

このオープニングには驚いた。なぜなら、ローズやパチュリ、ウードは、通常どれもミドル〜ラストに出てくる香料というイメージが強いからだ。このやや暗くウッディなトップで、「あ、無理」と感じた方も多いかも知れない。だが、ここでNGと見切るのはちょっと早い。せめて20分待ってほしい。なぜなら、

マティエール・ノワールは、付けてから20分もすると、香りが劇的に変化するからだ。そして、そこから現れるのは、ブラック・カラントの甘酸っぱいフルーティーな香り。

ブラック・カラントは、和名クロスグリ。フランス語で「カシス」と言った方が香りや味を容易に想像できる方は多いだろう。マティエール・ノワールのミドルは、このブラック・カラントの甘くて暗いジューシーな香りが強く主張してくるのだ。

ミドルは、カシスのリキュール、クレーム・ド・カシスを思わせる香りがみずみずしく広がる。ベリー種独特の果実風味は強めで、スッキリめのローズも背後には見え隠れするものの、他の香料が判別できないほど感じられる。トップのウッディ香から一転、通常トップで感じられるようなフルーティーな香りがミドルから出てくるというのは、ちょっと不思議な調香だ。それも含めて、ヴィトン広報では、「神秘的な香り」と謳っているのだろうか。ジャック・キャバリエ、一体どんなマジックを使ったのだろう。

そんな馥郁たるカシス&フローラルのミドルが、5〜6時間ほど続く。香り立ちじたいはまろやかだ。付けた場所付近で穏やかに香り続けるオーデパルファンらしい拡散の仕方をする。さすがによい香料を使っているようで、ラストはパチュリの湿った土っぽさが出たり、ウードの苦みや香ばしさにハニーのようなこっくりした蜜の風味が重なったりと、そのときどきで香料の出方が異なる。ときにわずかにヴァニラのようなクリーミーさが漂うときもあるが、最後はお香のスモーキーさを呈して消えていく。ラストの乾いたお香っぽさが全て消えるまでは、付けてから8〜10時間くらいだろう。ロングラスティングの部類だ。

全体的に、これまでの香水のような3段階の変化ではなく、前半20〜30分が革の匂いのようなウッディ、その後ずっとカシスと白いフローラルとウッディの香りが続くといった印象。ウードやカシスの香りがお好きな方にはおすすめの取り合わせだ。使える時期は、夏以外ならどの季節でもいいだろう。どこか透明感があって、スッキリとしていて、ウードを用いた香りとしては使いやすい部類だと思う。時間帯は、午後から夕暮れ、そして夜がいい。旅立ちと共に纏えば、一日の旅を終える頃には、心癒すスイートな香りになっていることだろう。

マティエール・ノワールは、黒を基調とした独特の質感。夕闇が迫る頃、たどりついた旅先の町で、深紫の雲に描く今日一日の甘美な思い出。それは、油絵の具を直接絵筆で塗り重ねたような雲のマティエール(絵肌)。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 51歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
資生堂 / 資生堂オードパルファム2011 水の香「滝」

資生堂

資生堂オードパルファム2011 水の香「滝」

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

3

2017/4/22 12:56:01

天然のブナ林が陽に輝いている。その新緑から幾筋もの木漏れ日が滝壺に降り注いでいる。雪解けの水はごうごうと音を立て、水煙を上げながら流れ落ちている。春の滝は勢いがあって壮観だ。空中に飛散した水の飛沫が光の中で踊り、虹色のスペクトルを輝かせている。

資生堂オードパルファム2011は非売品だ。店頭ではどこにも見当たらない。なぜならそれは資生堂の株主優待品として、2011年に株主へ贈られたオリジナル香水だからだ。コードネームは『水の香「滝」』。

資生堂は、あらゆる生命の根源である「水の恵み」をコンセプトとしたオードパルファムを2010〜2012までの3年間シリーズ化して開発し、株主優待品とした。1年目は透明ボトルの「湧水(ゆうすい)」、2年目がブルーボトルの「滝」、そして3年目は、透明とブラウンのグラデボトルの「大地の水」と名付けられている。2作目の水の香「滝」は、その名のとおり、勇壮な滝とその付近の山々の緑や花から香りのイメージを広げている。

では、その香りはどうかというと。

「滝の香りかあ…どんなんだろう?」と期待をこめてスプレーすると、ちょっと香水に詳しい方なら絶対苦笑いするだろう。なぜなら。

まんまエルメスの「ナイルの庭」の香りがするから。

トップからナイルの庭。透明感あふれるみずみずしいスイレンのアコードの上に、スッキリしたシトラスシャワーが感じられる3分ほどのトップ。やがて、ナイルに用いられているグリーンマンゴーのような甘くフルーティーな香りが漂うミドル。ただナイルに比べると、2段階ほどトーンは低めで、わずかにミンティな清涼感がある。ナイルの庭には、強烈に照り付けるまばゆい太陽を浴びたような、突き抜けた明るいグリーンのトーンがあるけれど、こちらは少し穏やかなブルーの水といった印象。

資生堂によると、オーストラリアのフェアトレード香料のサンダルウッドを使用し、繊細な甘さを秘めた山母子(やまははこ)の花の香りにちなんだシェアフレグランスだとのこと。山母子とは、北海道や本州北部に生育する小さな白色の花だ。ドライフラワーにすると、清楚な甘い香りを放つという。近種のカワラハハコは、滝壺周りの河原などに見られる礫の間に咲いて人目をひく。

サンダルウッド?ヤマハハコ?うーん、どうなんだろうという印象。説明によると、シトラス・ウッディだけれど、どう考えても人工的なスイレンのウォータリ―なアコードに甘い香料を添えてムスクで仕上げたようなフルーティー・フローラルのように思う。それより何より、「なんで滝の香りがナイルの庭??」という疑問と突っ込みが止まらない。

株主優待品だから?非売品だから?ふだん香水を使わないお客様にも気に入っていただける香りにしたかったから?それとも調香師がナイルの庭の香りが大好きすぎたから?

考えられる理由がありすぎる。それでもどこか悲しい気持ちでいっぱいだ。かつて、ノンブルノワールやインウイ、ZENやSASOを作ってきたすごい資生堂がなぜ?資生堂のフレグランスにときめいて、リスペクトしてきた自分としては、とても複雑な気分だ。

香りの持続時間は8〜10時間と長い。ただ、ナイルの庭とトップ〜ミドル〜ラストの変化もおもしろいくらい似ている。これは、リスペクトアーティストの作品を「カバー」したのとは訳が違う。複写すぎる。ガスクロマトグラフィーの解析技術を披露したかったわけでもないだろうに。

それでも自分は、水の香「滝」が好きだ。何かと比べることをしなければ、付けて心地よく、みずみずしい透明感あふれる香りだなあと思う。それにボトルデザインがとても気に入っている。濃いインディゴブルーのガラスの側面には、水流のような幾何学模様が面の凹凸で表現されていてすばらしい。ボトル上部の丸いキャップも可愛く、ノスタルジックな薬瓶のようで心そそられる。このボトルは、2013年に日本パッケージデザイン大賞の金賞を受賞しており、非売品であるにも関わらず公的な賞をとっている点は刮目に値する。正直、ボトルだけでも芸術品だ。これは、ぜひ今後の資生堂フレグランス作りにフィードバックしてほしい点。

初夏の鬱蒼とした新緑の森を分け入るとき、ブナの木が柔らかく積もらせたモコモコの腐葉土と倒木の合間に、美しいブナ林の水たまりを見つけることがある。そのたびに、天然の緑のダムだなあと実感する。どこからか滝の水音が響いている。

水の香「滝」は、そんな美しい森を歩いていて、まばゆい光に照らされた滝を見つけた時の香りだ。河原の石の間に咲き始めた小さな花々。もうもうと飛び散る水の飛沫、そして、滝の上に広がる、吸い込まれそうに青い夏空。

使用した商品
  • 現品
  • モニター・プレゼント  (提供元:資生堂)

64件中 6〜10件表示

tofuchikuwaさん
tofuchikuwaさん 10人以上のメンバーにフォローされています 認証済

tofuchikuwa さんのMyブログへ

プロフィール
  • 年齢・・・54歳
  • 肌質・・・普通肌
  • 髪質・・・普通
  • 髪量・・・普通
  • 星座・・・蠍座
  • 血液型・・・B型
趣味
  • 料理
  • ファッション

もっとみる

自己紹介

香りの良いものが好きですが、柔軟剤のような人工的なのは苦手です。 特に好きなのは薔薇、そして針葉樹の香り。 my favorite parfumは… 続きをみる

  • メンバーメールを送る