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Thierry Mugler(海外) / エンジェル オードパルファム

Thierry Mugler(海外)

エンジェル オードパルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品リピート

2018/7/28 07:59:00

漆黒の宇宙を切り裂いて、一条の流星が地球に向かっている。天使だ。次第に加速し、青い氷の結晶の尾を引きながら、神が遣わした人間界へと突き進んでゆく。天使の眼下に、ぐんぐん街がせまってくる。突然、激しく暗い匂いがその鼻をつく。魔窟の匂いだ。天使は危険を察知し、銀の剣に手をかける。

エンジェル・オードパルファム。1992年発売。調香師はオリヴィエ・クレスプ。「モードよりも永く生き続ける香水がほしい」アヴァンギャルドなモードを80年代に成功させたミュグレーのそんな願いは、それまでの香水の常識を大きく覆すパンキッシュな作品として結実し、世界を揺るがした。オリエンタルグルマン調という新たな分野の先駆けとなり、以降、多数の名香に影響を与え続けている。世界香水ガイドを編纂したルカ・トゥリンらの偏愛する香水としても、つとに有名だ。

そのトップは、ギリギリと苦く、どこまでも暗い。香りの奥に、得体の知れない闇を思わせる。それは、黒いパチュリとカンファーの匂い。人はそれをお香とも言うだろう。墨とも言うだろう。濡れた土の匂いと言うかも知れない。そこからなぜ、じわじわと甘さが忍び寄ってくるのだろう。煮詰めたカラメルの苦々しい甘さ。綿菓子のべとつくようなエチルマルトールの匂いが、鼻につく苦みの下から出てくる。そこに、わずかに陰鬱なひとひらの花弁の香りも添えて。

5分後。不意にギラリと光る香りが現れる。キンと音がしそうなほど高いところで響いている銀色の香り。それは流星の一瞬のきらめき。はっとするメタリックな色彩が、闇夜に一本、冷たく青い尾を引く。やがてそれは夜陰の黒と共に地平に落ち、溶けたダークチョコの香ばしさと蜜やフルーツの香りに包まれ、どろりと摩天楼の町に降りかかる。これが驚愕のミドル。黒々としたパチュリーの苦い香りに、スイートでグルマンな香料の数々が、妖しいきらめきを添える。

強く残るその残香は、時間にして6〜8時間。ラストは、パチュリの苦みと暗さに、わずかにキンと光るメタリックなムスキー、そしてほんのり甘くなったヴァニラとコクのあるカカオのグルマン・コンピレーション。その香り、最後まで常識と期待を鮮やかに裏切り続ける。

エンジェル。

天使は最も高い塔の上で、中空に浮かんだまま、下界を見おろした。乱立するビル群の光は、くだけ散った星々のかけら。さながら地の底に住む者どもの巣だ。地上を見渡し、どこに舞い降りるか見定める。チョコレートブラウンのシルエットと化した建造物がひしめく街からは、さまざまな危険な香りがしている。

地上の星々の瞬きの中、天使がその目に初めて認めた色は血のような赤だ。まばゆいライトに照らされたショーウィンドー、その中で真っ赤なベリーソースをかけたケーキがぬらぬらと濡れて輝いている。と、不意に、どこからか苦い香りがして、あたりを見回す。白い服に全身を包んだ男が、銀色に光り輝く半球の中に茶色いどろどろと溶けた液体を流しこんでいる。そのコクのあるカカオと、とろけるようなハニーの香りに、天使は平静を失う。

気付けば、他にも強烈な匂いがあたり一面に立ち込めている。さらに心がぐらつく。リキュールの酔わせる匂い。人間が吐き出す煙。人肌が醸し出す肉や魚の臭み。街中にあふれる花々の蜜の香り。雨上がりの黒い道のすえた匂い。それら混沌とした匂いにかき乱され、黒インクのような染みが心に広がり始める。知りたい、もっと近くでかいでみたい。そんな麻薬的な思いを断ち切るために、銀の剣の刃を顔に当て、自制を試みる。冷たく冴えた匂いがしている。それは、絶え間なくこの地上に降り注ぐシューティングスター、見えないスターダストパウダーの香り。だが、その瞬間、天使の心が乖離する。

自分はなぜここにいるのか?何をするべきなのか?本当は何をしたいのか?

エンジェル。世界を自堕落に造り変えし人間に、新たな秩序と創造を与うるべく遣わされし者。あるいは、翼と剣を捨てて地に堕ち、人間界の肉と欲に睦み、神に背きし者。

人間の笑いさざめく声が聞こえる。「降りて来い、答えはここにある」泥から生まれし者どもの誘う声が、激しく心を引き裂いてゆく。そのとき、雷鳴がとどろき、天使の体がぐらりと傾く。そして、回転しながら真っ逆さまに暗い下界へ。

気が付くと、黒い蛇革のような濡れた路上に倒れていた。冷たい氷の雨が、絶え間なくほおに当たっている。真っ黒に汚れた手から、泥の匂いがしている。その苦く鈍い匂いが、いまだ天使の心に問い続けている。

お前は天使か、それとも堕天使か

……………………………………………………………

その者、人間世界にて上級天使にLv.up。(6点)
H30.7.28追記

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アトリエ・コロン / セドラエニブロン

アトリエ・コロン

セドラエニブロン

[香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2016/7/23 23:27:51

セドラ・エニブロンは、すっきりしたレモンの酸味と苦みが8時間以上も続く驚異のフレグランスだ。しかも、気温30度をこえる蒸し暑い日本の夏にあって。それは、これまでの香水の常識ではありえなかったことだ。というのも

一般に香水は何百種類もの香料をブレンドしてできているが、それら香料は揮発のしやすさがそれぞれ異なっている。肌にのせると、沸点が低く分子量が小さい香料から順に香りが立ちのぼっていく。そこにトップノート、ミドルノート、ラストノートという、香りが変化しながらつながっていくおもしろさが生まれる。

レモンやベルガモット、ライムなどのシトラス系の香料は、通常その中で最も早く香り、すぐに消え失せるトップノートの香料とされている。だから、それらの揮発を遅らせ、シトラス系の香りだけを長持ちさせることは、化学的に考えてとても難しいこととされていた。

さらに真夏は人の肌の表面温度が高くなりがちである。だが、セドラ・エニブロンは、そんな真夏のデイタイムであっても、手首に1プッシュで、爽やかなレモンの香りを半日も漂わせ続けるのだ。つまり、ただでさえ揮発しやすいシトラスの香りが、蒸し暑い季節に、いつまでも自分の肌から香り続ける。これはもう感嘆するほかない、というわけだ。

その秘密は、コロンのように軽やかでさっぱりしたシンプルな香りでありながら、オードパルファンなみの15%程度の賦香率をほこるという「コロン・アブソリュ」という技術にある。これまでにも、天然の香りに近づけるためのヘッドスペース法やネイチャー・プリンティングなどの技術はあったが、シトラスなどの軽くて沸点の低い香りを長持ちさせる方法で、ここまでの物はなかったように思う。

セドラ・エニブロンは、最初からレモンの酸味とジュニパーベリーの透明なビター感が漂い、そして、ほとんど変わらずに続いていく。

夏の高温時に、レモンの香りとキリッとした苦みが気分をスッキリさせてくれると、とても気分がいい。昨年1シーズン使用したが、汗をかいても香りが薄れる感じもあまりなかった。高温多湿の日本の夏は、甘い香りも、アンバーやムスクも、重く感じられて不快になることがある。花々の香りでさえ、夏の日中には少し息苦しく感じるほどだ。そんな夏のデイタイムには、こんな清涼感あるシトラスのシャワーが、心を洗ってさっぱりさせてくれる。

それはまるで、レモンの果皮にナイフを入れて半分に切り、絞り器に果肉をおしつけ、ぐりぐりと回して果汁をしぼったかのような香り。飛び散る果汁の飛沫に思わず生唾が出る。ほとばしる酸味とビターな香りが、ツンと鼻の奥に突き刺さる。気持ちをどこまでも高く上げていき、「今日もいける」という気持ちを高めてくれるような香りだ。

さらに、この香りは、手持ちの香水の上からレイヤーすることで、特別にシトラスの残香が長くなるオリジナルの夏向け香水を作れることも大きなメリットだ。重ね付けと言えばジョーマローンが有名だが、自分はこのセドラ・エニブロンを入手後特にライムバジル&マンダリンの使い道がほとんどなくなってしまった。それほどに、他の香りにのせてもおもしろい、汎用性の高いシトラス香だと感じている。

だが、よい点ばかりでもなさそうだ。というのは

布などのファブリックやムエットなどにスプレーすると、いつまでもエタノールの匂いが消えず、なかなかきれいにシトラス香が出てこないことがわかっている。これは言い換えると、体温の低い方や体温が低めの季節につけたとき、心地よいシトラスが出にくいということを表している。試しにハンカチにスプレーして香りの変化を見たが、ベチバーっぽい香りとエーテル臭が30分ほど続き、重かった。付け方や季節によっては、香り立ちがかなり異なり、ウッディでマニッシュな雰囲気になりやすいと思う。やはり夏向けだろう。

夏の早朝、鏡の中のまだ目覚めてきっていない顔をバシャバシャ洗い、てんで好きな方向にはねあがった髪に冷たいシャワーを浴びせて、ほわほわとタオルドライして覚醒していくひととき。少し汗ばんだ肌に吹き付ける無香料デオドラントスプレー。歯磨きをしながら、洗いざらしのシャツに袖を通す刹那、ウエストにセドラ・エニブロンを2プッシュする。立ちのぼるスパークリング・シトラス。唾液が出そうなレモンの香り、じわりと苦い、青みがかった果実の香気が、鼻腔の奥いっぱいに広がる。 窓の外にはまばゆい夏の日差し。今日も暑くなりそうだ。

それでも心が少しだけ軽いのは、セドラの香りが気分を上げてくれたせい。今日の夕暮れを見るまで、この香りがきっとそばにあると思えるから。

それは陶酔の柑橘、夏限定アッパー系シトラス・シャワー、セドラ・エニブロン。

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ラルチザン パフューム / エクスプロージョン オブ エモーション アムール ノクターン オードパルファン

ラルチザン パフューム

エクスプロージョン オブ エモーション アムール ノクターン オードパルファン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:125ml・33,000円発売日:-

6購入品

2017/12/24 00:44:28

アムールノクターン。なんて美しい名前の香水だろう。直訳すると「夜の愛」。ただ、それならアムール・デ・ニュイでもいいはず。それを「夜想曲」といった意味合いをもつノクターンにしているのだから、「夜に思う愛」といったような、あふれる感情を前面に出したネーミングにあえてしたのだろう。

あふれる感情、といえば、確かにそれはこの香りのコンセプトそのものだ。アムールノクターンは、2013年に調香師ベルトラン・ドゥショフールが、シーンごとに深まりゆく愛の感情をベースに、人の奥底に眠る本能を目覚めさせる香りとして、ラルチザン・パフュームから発表した特別ラインの香りの一つ。現在、ラルチザンはリニューアルして黒ボトルで統一されたが、その際、多くの作品が廃盤になった。この特別ラインも6作品あったうち、特に人気が高かったラペルトワとこのアムールノクターンだけが通常ボトルとして残ったようだ。

そんな人気の高いアムールノクターン。エクスプロージョン・オブ・エモーションズのシリーズの中では、あふれる優しさと安らぎの気持ち、夜に深まる2人の愛情を表現したといわれる香り。それはいったいどんな香りなのか?

アムールノクターンをスプレーすると、すぐに感じられるのは、深みのあるお香の匂い。そして、スッキリした鉛筆の匂いのようなシダーだ。夜の森。またたく星々。冷たく冴えた冬の空気をイメージさせる瞑想的なオープニング。

やがて5分もせずに出てくるのは、なんと火薬の香り。金属的で粉っぽくて危険な雰囲気満載のガンパウダーの香り。ミドルの中心は意外にもこの乾いた火薬の匂いが強く展開する。瞬時に思い出す。幼き日に爆竹の箱をあけた時のドキドキ感、ロケット花火の束を握りしめた時のワクワク、そして、ハワイで実弾射撃をした後に感じた硝煙の匂い。インセンス&シダーの瞑想を誘うような香りが、心臓をたかぶらせるような匂いに変わったことを知る。暖かな室内。ログハウスのような場所で、暖炉にくべた薪が焼ける音、オレンジ色に揺らぐ炎。そこから立ちのぼるスモーキーな香り。そんな火薬と焚き木の香りのミドルがしばらく続く。

やがてそのドライな火薬の匂いの中に、甘さが感じられるようになってくる。フィグミルクの生っぽい青さ、そしてカラメルの少し焦げた甘さ。火薬とスモーキーなカラメルの匂いのミックスになってくる。それは唐突に、過ぎ去った夏の思い出をフラッシュバックさせる。夏祭りの揺れる提灯。カラメル焼きの香ばしい香り、べっこう飴の焦げた砂糖の匂い、夜空を彩る花火の煙の匂い。そうしたノスタルジックな色を運んでくる甘さだ。

割合で言うと、火薬とお香とカラメルが、5:3:2くらいの比。ただ、ムエットだとわりにインセンスの深い香りが強く長く出るように思う。体温が低めの方は火薬の匂いよりお香のスモーキーが強めに出ることが多いかもしれない。

そして、付けてから6時間ほどでラストの香りに変化する。カラメルの甘さとクリーミーな雰囲気でまろやかに減衰するグルマン系のラストだ。ときにシダーの清涼感を感じることもある。そして、わずかにソーピーなムスクが高いところでずっと香っている。それはとても穏やかなエンディングだ。さながら、ひとしきり愛を確かめ合ったのち、夜更けにソファーでくつろぐひととき。熱いコーヒーに砂糖と生クリームとウィスキーを注ぎ、アイリッシュコーヒーを入れる。二人でマグカップを抱えてゆったりと語り合う時間。低く響くショパンの夜想曲の調べ。そんな静かで優しいラスト。大体付けてから8時間程度でフェードアウト。

全体的に、トップのお香とミドルの火薬が長く続く香り。前半は冷たくてメタリックで乾いていてスモーキー。だが後半は、カラメルの甘さ、フィグのミルキーさ、わずかなフローラルが感じられ、温かく柔らかく甘い香りに変化してくる印象。二人で過ごす夜。その興奮と喜びが、次第に鎮静して安心とくつろぎを迎えたような二極対比を感じさせる香り。冷たい夜の森とあたたかな部屋。薪が燃えるスモーキーな匂いとカラメルの甘く焦げた匂い。恋の導火線を思わせる火薬の匂いと、愛情の深まりを感じさせる蘭の香りの対比。

暖炉の炎がゆらめいている。時折パチパチと木のはぜる音がする。キャラメリゼしたポップコーンの甘さとバターの香りがしている。アイリッシュコーヒーの湯気の向こう、窓の外には鬱蒼とした針葉樹の森の黒いシルエット。夜の底は雪が降りつみ、ほの白く浮かびあがっている。木々の上には満点の星空。

そんな夜に、2人たゆたうための香り。オレンジ色の火に照らされて、夜のしじまに流れていくアムール・ノクターンの調べ。

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セルジュ・ルタンス / シェルギイ(Chergui)

セルジュ・ルタンス

シェルギイ(Chergui)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・14,300円 / 100ml・22,000円発売日:-

6購入品

2016/2/20 23:46:52

東から来たその男は、どこか風を連れているように感じられた。女の心に鳴り続けるアラート。「キケンダ。コノ男ニハ、チカヅクナ。」けれど、その音が高くなるほど、男に惹かれていく自分にあらがえないという思いも増した。激しい警告音は、女の心臓の鼓動そのものだった。

男は粗野で、猥雑で、傍若無人だった。長い髪を無造作にかきあげ、褐色の肌に無精ひげをたくわえ、いつも怒っているような顔をしているくせに、時折見せる笑顔は、子どものように無邪気だった。タバコの匂いがしみついた長いコートを着て、長身の体を前のめりにして、ゆらりと歩いた。女がそのコートの腕に抱かれるのに、時間はかからなかった。頑強な毛深い体からは、酒と汗と油の匂いがした。

男は貪るように女を求めた。暗闇の中、唇を合わせた刹那、女はそっと目を開けて、男の瞳の奥を盗み見た。そこには、黒い太陽と、遠い異国の砂漠を思わせるサンドストームがあった。きつくまぶたを閉じ、男の首筋にしがみついた。煙たい動物の脂の匂いがした。男の目は何も見ていない、女は知った。野獣の唸りのような、激しい息遣いをどこか遠くに聴きながら、ほおに一筋の涙が流れるのを感じた。それは、砂漠の夜を駆ける流れ星のように、静かで孤独な一瞬だった。

・・・・・・・・

シェルギーは、2005年、クリストファー・シェルドレイクの調香によって生まれたオリエンタル・スパイシーノートの香りだ。セルジュ・ルタンスの公式サイトでは、「モロッコの砂漠の熱風」と紹介されている。モロッコの砂漠と言えば、南部に広がる広大なサハラ砂漠が思い浮かぶ。その全てを焼き尽くし、砂塵に帰すかのような強烈なかの地の気温は、ハイシーズンには日中、摂氏40〜50度になるという。そんなサハラからモロッコに向かって吹き付ける乾いた熱風を「シェルギ」と呼んでいるそうだ。

シェルギーのトップは、濃厚なハーバル&バルサミックだ。コーラをホットにして酸味と甘みを際立たせつつ、薬草や樹脂を混ぜたような複雑なオープニング。一瞬、ゲランのシャリマーを思わせる雰囲気がある。ベースの樹脂っぽさに、似た系統を感じる。だが、シャリマーよりもずっと暗く、そして、人を寄せ付けないようなじっとりとした野性的な清涼感が強いように思う。

トップからミドルへの境界はあいまいだ。すぐに、タバコリーフの茶色いスモーキーな味わいと、乾燥した香ばしい干し草様ハーブの香りに移ろってゆく。このあたりは洋酒っぽくもあり、レザーっぽくも感じられるところかも知れない。間違っても火をつけたタバコの香りではない。紅茶なみに深くローストされたタバコリーフの香りは、ダークに心をくすぐる。

このミドルのスパイシーな甘苦さは、杏仁豆腐の香りを煮詰めたようにも感じられ、好きな人にはたまらない香りだ。苦く辛く、熟成されたタバコの葉の香りと、ローズと干し草のミックスが心地よい。それらがアイリスの暗さに抑制され、むわりと拡散力することなく、かなりストイックに香り立つ印象。強く、濃く、スイートでスパイシー、けれど低いところですっきりと暗い香りが流れ続けているような雰囲気。

液体色のこげ茶色とも紫とも言い切れない複雑な色合いもいい。ダークブラウンをタバコと樹脂と干し草と見るなら、そこにアイリスのパープルを混ぜたようにも思える。ルタンスの香りには濃い色が付けられている物が多いが、そこにも香りのアイデンティティーが感じられる。衣服等への着色には注意が必要だとしても。

そしてラスト。シェルギーの香りの変化はトップからずっと好ましいが、このラストはことのほか好きだ。暗く湿ったミドルが、干し草とサンダルウッドの乾いた香ばしさにスライドしていきつつ、次第に甘い蜜の香りが絡んできて、ゆったりとした極上のリラグゼーションを感じさせてくれる。それは、熱く痛みさえ伴う風をやり過ごし、静かに訪れた宵闇の中、ステップの大地の向こうに、星がまたたき始めたかのような静寂とあたたかさのよう。一日の喧騒の終焉を告げるトワイライト。空を斜めによぎって、すっと消えた流星に感じた切なさ。

・・・・・・・・

ある日、そうなることが当たり前だったかのように、男は忽然と姿を消した。女は、その深く暗く、よどんだ香りの行方を虚空に探した。風は凪いでいた。男はまた、砂埃の中を歩いているのだろう。コートのすそをはためかせ、長身の体をゆらりと前のめりにしながら。誰も知らぬ遠くの町で。

あの日、男の目には何も映っていなかった。そこに誰も住んではいなかった。ただ、吹きすさび、荒れ狂い、砂塵を巻き上げ、どこまでも荒涼としていた。

男は、瞳の中に一陣の風だけを連れていた。

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ラルチザン パフューム / セヴィーヤ ローブ(セヴィリアの夜明け) オードパルファン

ラルチザン パフューム

セヴィーヤ ローブ(セヴィリアの夜明け) オードパルファン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

容量・税込価格:100ml・25,300円発売日:-

6購入品

2016/9/11 00:43:16

夕暮れのセヴィリア市街を見渡せる小高い丘で、女は男に背中から抱きしめられたまま、黄昏の光を見つめた。

オレンジフラワーの白い花が頭上で咲き乱れている。眼下をセマナ・サンタの聖行列のパソ(山車)が行く。

あさ黒い腕にそっと力をこめて、男が女の耳元で囁く。タバコとワインと動物の匂いが女の鼻をかすめる。遠くで楽隊の荘厳な音楽が鳴り響いている。女は敬虔な祈りを心に抱きながら、同時にセンシュアルな高揚感に包まれる。首筋に男の端正な鼻が触れたのを感じて、目を閉じる。一陣の風が過ぎ、オレンジの木の葉をざわざわと揺らす。オレンジフラワーの蜜の香りが漂っている。女の心がさわさわと揺れる。淡いオレンジの光が二人を照らしている。

セヴィリアの夕暮れ。

ラルチザンのセヴィーヤローブ(セヴィリアの夜明け)は、濃厚で甘く、心をとろけさせるような香りだ。オレンジフラワーにインセンスを取り合わせたこの美しい橙色の液体は、鬼才ベルトラン・ドゥショフールが、友人である女流作家デニス・ボーリューのめくるめく恋物語を聞きながらインスピレーションをふくらませて作ったという。彼女の著書“The Perfume Lover”には、彼女がセヴィリアを訪れたときに出会った若いスペイン人の男との情熱的な恋の様子や、それをモチーフにベルトランが香水を制作していった過程が描かれている。その中に、次のようなニュアンスの文章がある。

『その香りは私に彼を思い出させ、「祈りましょう」と言いたくなると同時に「下着を脱がせて」と言いたくなるような気分にさせる』

恋物語と言えば聞こえはいいが、かなりセクシャルな表現も散見されるから、旅先でのラブアフェアーともとれる。それにしても、彼女をしてそう言わしめたセヴィーヤローブとはどんな香りかと言うと。

トップは、オレンジフラワーのふくよかな香りに、少しスモーキーなインセンスの香りが、濃厚な甘さとともに広がる。一瞬、ルタンスのフルール・ド・ランジェにも似た雰囲気。世界に誇る巨大なカテドラル(大聖堂)で焚くお香、そして町全体に植えられたオレンジの木々を思わせる、セヴィリアの歴史と文化を表したかのようなオープニング。

3分後、スッキリした青い香りと白いフローラルの饗宴となる。青っぽい香りは清涼感を伴うラベンダー、あるいはプチグレンのように感じられる。スペイン人が好んで使うラベンダーコロンをあしらったという解説もあるから、オレンジフラワーが咲きほこるセヴィリアの街で、スペイン人の男と出会ったドラマティックなシーンを描いたような印象。

やがて香りが落ち着きミドルになると、オレンジフラワーのしっとりした香りが、ジャスミンやマグノリアといった他の白い花とのミックスで妖艶なフローラルになっていること、インドールの苦みがそれを影で支えていること、そして、ツヤのあるワックス様の匂いが、全体にまろやかなベールをかけていることが分かってくる。このワックス様の匂いは蜜蝋を表すアルデハイドの一種だろう。厳かな太鼓やトランペットの響き、それに合わせて街中を進む聖行列のパソ。金の台座上のマリア像やキリスト像の周りには、おびただしい数の長いキャンドルに火が灯っている。その匂い。

1時間もするとラストの香りになる。それは、フローラルが去った後の、ややスモーキーでこってり甘いベンゾインのノート。ヴァニラを焦がしたように温かく、気だるく、狂おしいラストだ。それが3〜4時間ほど続く。つける場所によっては、白い花のブーケの残香にインドールの苦みとベンゾインが絡み合ったまま、心地よいフェードアウトとなる。さながら祭りの後の寂しさを優しく包みこむかのように。

全体に香りが濃厚なだけに、付け方やTPOには注意が必要な類だと思う。夏以外のシーズンがきれいに香るだろう。ドラマティックな香りの変化に浸りたい、ロマンティックな気分で過ごしたいときに、よい夢を見せてくれる香りだと思う。

夕日が沈み、祭りが佳境に入る頃、女はベッドの上で自身の内と外に感応し、その対比にはからずも官能する。白い肌に重なるあさ黒い肌。窓外で続く厳粛な聖祭、二人が求め合うセンシュアルな儀式。遠く聞こえる楽隊の音楽、耳元で聴く男の吐息。明け方まで続く町の喧騒、やがて一人迎える夜の静寂。

女は薄いまどろみから目覚め、安らかな寝息をたてる男の腕をすり抜け、体を起こす。そして知る。カテドラルに全てのパソが入り、祭りが佳境をこえたことを。街の灯りが消え、あたりが深い闇に包まれていることを。

やがて女は見る。窓の外、天蓋の群青を侵食するかのように地平から赤く染まり始めた空を。女は男に裸の背中を向けたまま、一人、あかつきの光を見つめた。

セヴィリアの夜明け。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
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  • 血液型・・・O型
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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