Cookieyukiさんのイヴ・サンローラン / リブゴーシュ オーデトワレ ナチュラルスプレーへのクチコミ |
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- Cookieyukiさん
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- 51歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿142件
2021/1/10 13:34:49
「夢は夜見るものだ」
それが父の口癖だった。私が将来の夢を熱く語る度にそれを繰り返していた。そんな超現実主義の父が母に贈った香水。結構ロマンチックじゃん。でも超実用主義の母はそれをつけなかった。
そんなわけで引き出しの中にリブゴーシュを始め、父が母にプレゼントしたらしき香水の瓶が幾つも眠っていた。どういう訳だか幼稚園児だった私がそれを見つけて、匂いを嗅いで楽しみだした。その液体をどう使うのか全く知らず、いい匂いの水と呼んでいた。
トップはガツンとくるアルデハイド。少女戦士が出てくる漫画かアニメで、いきなり必殺技を喰らったかのような衝撃が走る。悪役が悪いことする前に先制攻撃しちゃいました、お仕置きよ、うふっ、みたいな。確かに攻撃は最大の防衛とも言うしね。シャネルN5のアルデハイドと同レベルの強烈さ。ここでかなりの人が苦手と思うこと間違いなし。
アルデハイドの中からグリーン、フルーティ、フローラルの要素が入り混じった華やかで若々しい香りが広がる。グリーンは何が入っているかわからないが意外と癖が無く爽やか。フルーティさはピーチのはず。でもそれらしくない。レモンとベルガモットはやや控えめ。フローラルは私の肌の上だと入っていないはずのフリージアが一番強く出る。本当はハニーサックルらしい。
そういった色々なノートが集まって、私の中で何故かペアーとして脳内再生される。日本の梨じゃなくて西洋梨、ペアーね。販売されている洋梨味のお菓子や飲み物は大体香料でそれらしく誇張されているが、飾り気のない生のペアーだ。ちょっぴり青さのある表皮の匂い、滑らかでクリーミーな果実、日本の梨の石細胞ほどではないが、ざらっとした種の近くの質感が蘇る。
ミドルでは花の香りが強くなる。一番強く感じるのはローズ。これが色々な表情を見せてくれて面白い。ローズのハンドクリームかと思いきや、ドライフラワーの薔薇の香りになったり、いきなりローズのベビーパウダーのようになったり。時によっては金属質に感じられたり。たまに生花っぽくなってびっくりすることも。
ラストはかなり複雑で近くで嗅ぎたくなる香り。いわゆるスキンセントと呼んでもいいほど肌にしっとりと馴染む。何が入っているか説明を見るまでさっぱりわからないがとても魅力的。「KGBの女スパイが007を誘惑するのにつける香り」という評があるのが納得できる。007が抱き寄せて嗅いでみたくなってもおかしくはない。
リブゴーシュは70年代を代表する香りとして大ヒットした。イヴ・サンローランが60年代に発表したパンタロン、タキシードなど男女の垣根を取り去ったセンセーショナルなファッションは70年代には一般に受け入れられていた。そうした服装によく似合う香り。CMやポスターを見ていると活発、知的、都会的で健康的な女性が多用されている。みんな気が強そう。下手に肩に手を回したら速攻でビンタが飛んできそうなスリルがたまらない。映画の中で女スパイが鏡の前で化粧をするシーンの小道具として使われていたことも。
実際リブゴーシュは自由奔放で自立した女性をイメージして作られた。リブゴーシュという名前自体はパリを流れるセーヌ川の左岸のことを指している。保守的なブルジョワが多い右岸と比べて、革新的で芸術家、作家、ボヘミアン、学生、LGBTが左岸に好んで住んでいたらしい。それを踏まえるとリブゴーシュはいかにもイヴ・サンローランが作りそうな香りと言える。
何故父はこの香りを母のために選んだのか不思議に思う。父は右岸を代表するような保守的な人物だったし、母も然り。もしかしてリブゴーシュの意味を全く知らなくて、青と黒が好きだったからパッケージの色に惹かれて選んだのかもしれない。
私が将来の夢を語るたびにそれは昼に見る夢物語で実現なんて不可能だと言い続けた父。母もそれに同意し続け、それが原因でよく私と喧嘩した。
大人になるにつれて私は昼に見る夢の遠さを知った。それでも自己責任で自分の歩みたい道を行くことにした。今、私は昼に見た夢を仕事にしている。
リブゴーシュは仕事の時に纏う。それは陽気で自由奔放で少し切なくなる香り。
トップノート: アルデハイド、グリーンノート、ハニーサックル、ベルガモット、レモンピーチ
ミドルノート: ローズ、アイリス、ゼラニウム、イランイラン、鈴蘭、ジャスミン、マグノリア、ガーデニア
ラストノート: オークモス、ベチバー、ムスク、サンダルウッド、アンバー、トンカビーン
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