CookieyukiさんのEtat libre D'orange / Putain des Palaces (ファムファタールの儀式)へのクチコミ |
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- Cookieyukiさん
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- 51歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿142件
2020/7/25 02:43:26
「ファムファタールの儀式」とは華やかさの中にも秘密と影がある陰の美人に似合いそうな副題。このブランドの香りはいつも何か物語を連れてくる。それは黒いレースに縁取られた耽美的な出来事かもしれない。
梅酒?バイオレットフィズ?プラムリキュール?バーでひとり、流し目で人間観察をしながらゆったりと飲んでるようなトップ。酒好きを公言して憚らない私だが、実はあまり飲めない。「あなたのほろ酔い、私の致死量」でもこれなら飲んだ気分になれる。ラッキーとばかりに身体のあちこちにふきかけまくってたら5プッシュもしてしまった。
普通の香水をそこまで吹き付けると自爆するところだが、なんとも円やかな香りで酔わない。プラムも梅も入っていないはずなのに、どうしてフルーツリキュール感たっぷりなのか不思議。しかもアルコールの臭いもしないのに、これは果実酒だと私の脳が言い張る。
洋酒感が気に入って暫く嗅いでいたら、カラメルかプラリネの香りのような気もしてきた。プッ◯ンプリンの容器の下の方に入っているカラメルソースの、食べてしまいたくなる可愛いグルマンではなく、甘苦い焦した砂糖に洋酒を垂らして大人の味にしたような雰囲気がある。それに新生姜の搾り汁というよりも、スパイスとしてパウダーにしたような乾いたジンジャーの香りが加わる。
そのあと10分くらいで革とアンバーの香りがうっすら。使い込んで手に馴染んだ高級な鞣革の手袋と、中東の樹脂香を思わせるまったりとしたアンバーだ。どういう訳か昔ながらの方法で制作した手編みの黒い高級レースのデリケートな風合いも同時に感じさせる。そんな黒いレースのカーテンで何かを隠したような雰囲気で、この辺から魔性の女的な色合いがぐっと強くなる。
トップのコクのある甘苦さが和らいだからだろう。下地にあったアニマリックさを感じさせる組み合わせに関心が向いた。少しオイリーなフルーティさはオレンジの皮らしい。オレンジはすぐに感知できなくなるが、このアニマリックさは強弱の差こそあれトップからラストまでずっと存在し続ける。
そして30分経過した頃からパウダリーノートが表に出てくる。現在のコスメティクブランドというより、ずっとレトロでクラシックな雰囲気の高級白粉ではなかろうか。ヨーロッパの貴族文化にはコーティザンという日本語にどう翻訳したらいいかよくわからない職業があるが、そうした女性達のお化粧を思わせる香り。Putain des Palacesの直訳が宮殿の娼婦なので納得できる。ライスパウダーと公式にある通り、言われてみれば確かに米粉のはんなりとした匂い。昔は米粉などの穀物の粉で白粉を作っていたのかもしれない。
コーティザンは高級娼婦と和訳されることが多いけれど、プロフェッショナル愛人というほうが近いかも。彼女達は本を沢山読んで知識を蓄え、芸術にふれ、エチケットもファッションも洗練されている。日本だったらトップレベルのクラブのママとして著名な政治家のお相手ができる実力があると思う。
政略結婚だらけの世界で、身分の高い貴族の男性は誰でも好きな人と結婚できるわけではなかったらしい。そうしたある意味満たされない男性が彼女らのパトロンとなる。ただし職業としての二号さんなのでパトロンが何人もいる場合もある。中には天性のファムファタールという女性もいて、何人もの実力のある貴族と関係を持ち、裏で政治を操る人も。
やがてバイオレット、ローズ、鈴蘭のフローラルノートがパウダリーノートに混ざる。それは白粉や香水と混ざった女性の生肌そのものの色っぽい匂い。香水に温度はないはずなのに肉感的な体温さえ感じる。柔肌をイメージさせる香りの中でも、俗な表現だが、トップクラスにエロい。
もし私が男性だったとして目の前にこんな香りを肌から発するファムファタールが現れたら、抱き寄せてその肌を汗ばませたいという衝動的な妄想に苦しみそう。そして一夜の恋に堕ちてしまうにちがいない。
最後はドライなバニラのニュアンスがあるムスク。それはロマンチックな夜の香り。朝が来ても終わらない夢の余韻を楽しみながら、しばらくシーツと毛布の温もりに包まれていたい。
だけど
ファムファタールはもういない。抱き寄せようとしてもするりとその腕から上手にすり抜ける子猫のように、自分を残してどこかに消えてしまった。少し気怠い官能的な香りを乱れたままのシーツの波間に残して。
シングルノート: ライスパウダー、バイオレット、ローズ、ジンジャー、レザー、アンバー、ムスク、オレンジ
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