- doggyhonzawaさん 認証済
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:50ml・37,180円発売日:2012/10/24
2017/5/5 00:39:15
いつも笑顔を絶やさない人には軽く警戒することにしている。そういう方は張り付けたような笑顔の下で、同じくらいの熱量の黒い闇を抱えていることがあるからだ。人の心には輝く光の面と暗く淀んだ闇の面が同時に存在する。どちらかに大きく傾いた姿しか周囲に見せていない方は、心のシーソーが常に傾いたままでどこかいびつだ。それを何とかしようと抑圧したりもがいたりして、逆に誰にも心を開けず孤独に苦しんでいることがよくある。
トム・フォードの心にも深い闇がある。それは輝かしい彼の活躍に比例して、より深まった孤独な闇だ。だから、彼が自身の心のバランスを整えるために提案するフレグランスにはノワール(黒)が多い。
ノワール・デ・ノワールは、黒をイメージさせる香料を意識的に用いたダークオリエンタル系のオードパルファムだ。トム・フォード自身が偏愛するパチュリやヴァニラをふんだんに使った香りで、2007年に発売された最初の12本のうちの1本。調香は大御所、ハリー・フレモントとジャック・キャバリエ。プライヴェートコレクションなので、基本的にはレイヤリングして楽しむための「素材」の一つであり、香水としては完成していない。ただ、単品としての使用も想定して多少バランスはとっているようだ。
では、実際の香りはどうかというと。
ノワール・デ・ノワールのトップは、強烈な苦みをもつ暗い香りが鼻を刺激してくる。あー、パチュリだと感じる複雑なオープニング。墨汁のようで、湿った土臭くて、わずかにゴムの匂いのような酸味やスモーキーさも感じられる香り。モス系の苦みやブラックトリュフのキノコっぽいコクも効いているように思う。だが、とかく苦みと暗さが際立っているので、明確な判別はできない。いずれにしても、ヨーロッパでは愛好者が多いものの日本人ウケしづらい系統の香りだと感じる。それでも、どこか透明感があってスッキリひんやりしているトップ。
3分もしないうちに、下からスパイシーな香りが出てくる。じわりとした痺れるような香りと清涼感。ほんのわずか正露丸のような生薬っぽい匂いが感じられる。このへんはサフランやクロッカスのシャープな香りだろうか。それを起点に、一本調子の香り立ちが多いこのコレクションにしては珍しく、低く沈鬱な薔薇の香りに変化しはじめる。ほの暗くてしっとりした薔薇だ。ブラックローズというクレジットを見るが、種類まではよく分からない。清涼感あるローズ香にパチュリの苦い墨汁をかけたようなイメージだ。ミドルはこの暗いローズとパチュリの黒い香りが、どこか危うい均衡を保ったまま展開していく。曖昧で複雑。退廃的でミステリアス。
そんな排他的でストイックなミドルが約30分〜1時間続く。短い。気が付くと飛んでいる。これがミドルなら、EDPとしてはとても物足りないと感じるだろう。だが、実際にはこのあとが長い。黒い香りが薄れると、いつの間にか淡いヴァニラの香りに変わっている。穏やかで主張が弱いヴァニラだが、これが2〜3時間ほどゆっくり続いていく。ラストは黒ではなく、はかなげなヴァニラが陽だまりのような白い光を感じさせる。さながら頑なになった心のひだが、そこだけピンスポで照らされたように。
ビターなカカオのような苦みがきいたパチュリやモスの香り、そこにダークなローズやシャープなフローラルが重なって展開する前半の黒い香りが約1時間ほど。その後、マイルドでクリーミーなヴァニラが静かにたゆたう白い香りが約2〜3時間続く展開。悪くないけれど、単品で使うならEDPとしては主張が弱く、物足りなく感じられるかもしれない。また、レイヤリングするにも、ウード・ウッドほどベース香っぽくないので、何を重ねたらよいか迷う中途半端な素材ではある。重ねるならネロリ・ポルトフィーノやマンダリーノ・ディ・アマルフィあたりの海系がおすすめだ。他にジョー・マローンのフルーティー系、アトリエ・コロンの爽やか長もちシトラスあたりも、明暗溶け合ってまろやかな雰囲気になっていい。
人を拒むかのような鬱蒼とした森。心に深い闇を抱えたまま、漆黒の森の奥へ歩みを進めると、不意に少し開けた秘密の場所を見い出す。それはわずかに日が差す、濃いモスグリーンの水をたたえた暗い沼。水面から突き出た恐竜の骨のような朽ち木の倒木。沼のほとりには、湿地特有の背丈の高い草や花の香りが移ろう。遠く鳥の声が幻聴のようにこだまし、見上げると、網目のように重なりあった黒い枝々が空を覆っている。そこは、常に霧が立ちこめる心の闇の弔い場。誰が手向けたのだろう、赤黒い薔薇の残骸が一輪、水面に揺れている。ひとすじの光がそこだけをはかなげに照らしている。
どこからか聞こえる哀歌の旋律。疲れた魂を安息に導く黒のレクイエム。
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2016/2/20 23:46:52
東から来たその男は、どこか風を連れているように感じられた。女の心に鳴り続けるアラート。「キケンダ。コノ男ニハ、チカヅクナ。」けれど、その音が高くなるほど、男に惹かれていく自分にあらがえないという思いも増した。激しい警告音は、女の心臓の鼓動そのものだった。
男は粗野で、猥雑で、傍若無人だった。長い髪を無造作にかきあげ、褐色の肌に無精ひげをたくわえ、いつも怒っているような顔をしているくせに、時折見せる笑顔は、子どものように無邪気だった。タバコの匂いがしみついた長いコートを着て、長身の体を前のめりにして、ゆらりと歩いた。女がそのコートの腕に抱かれるのに、時間はかからなかった。頑強な毛深い体からは、酒と汗と油の匂いがした。
男は貪るように女を求めた。暗闇の中、唇を合わせた刹那、女はそっと目を開けて、男の瞳の奥を盗み見た。そこには、黒い太陽と、遠い異国の砂漠を思わせるサンドストームがあった。きつくまぶたを閉じ、男の首筋にしがみついた。煙たい動物の脂の匂いがした。男の目は何も見ていない、女は知った。野獣の唸りのような、激しい息遣いをどこか遠くに聴きながら、ほおに一筋の涙が流れるのを感じた。それは、砂漠の夜を駆ける流れ星のように、静かで孤独な一瞬だった。
・・・・・・・・
シェルギーは、2005年、クリストファー・シェルドレイクの調香によって生まれたオリエンタル・スパイシーノートの香りだ。セルジュ・ルタンスの公式サイトでは、「モロッコの砂漠の熱風」と紹介されている。モロッコの砂漠と言えば、南部に広がる広大なサハラ砂漠が思い浮かぶ。その全てを焼き尽くし、砂塵に帰すかのような強烈なかの地の気温は、ハイシーズンには日中、摂氏40〜50度になるという。そんなサハラからモロッコに向かって吹き付ける乾いた熱風を「シェルギ」と呼んでいるそうだ。
シェルギーのトップは、濃厚なハーバル&バルサミックだ。コーラをホットにして酸味と甘みを際立たせつつ、薬草や樹脂を混ぜたような複雑なオープニング。一瞬、ゲランのシャリマーを思わせる雰囲気がある。ベースの樹脂っぽさに、似た系統を感じる。だが、シャリマーよりもずっと暗く、そして、人を寄せ付けないようなじっとりとした野性的な清涼感が強いように思う。
トップからミドルへの境界はあいまいだ。すぐに、タバコリーフの茶色いスモーキーな味わいと、乾燥した香ばしい干し草様ハーブの香りに移ろってゆく。このあたりは洋酒っぽくもあり、レザーっぽくも感じられるところかも知れない。間違っても火をつけたタバコの香りではない。紅茶なみに深くローストされたタバコリーフの香りは、ダークに心をくすぐる。
このミドルのスパイシーな甘苦さは、杏仁豆腐の香りを煮詰めたようにも感じられ、好きな人にはたまらない香りだ。苦く辛く、熟成されたタバコの葉の香りと、ローズと干し草のミックスが心地よい。それらがアイリスの暗さに抑制され、むわりと拡散力することなく、かなりストイックに香り立つ印象。強く、濃く、スイートでスパイシー、けれど低いところですっきりと暗い香りが流れ続けているような雰囲気。
液体色のこげ茶色とも紫とも言い切れない複雑な色合いもいい。ダークブラウンをタバコと樹脂と干し草と見るなら、そこにアイリスのパープルを混ぜたようにも思える。ルタンスの香りには濃い色が付けられている物が多いが、そこにも香りのアイデンティティーが感じられる。衣服等への着色には注意が必要だとしても。
そしてラスト。シェルギーの香りの変化はトップからずっと好ましいが、このラストはことのほか好きだ。暗く湿ったミドルが、干し草とサンダルウッドの乾いた香ばしさにスライドしていきつつ、次第に甘い蜜の香りが絡んできて、ゆったりとした極上のリラグゼーションを感じさせてくれる。それは、熱く痛みさえ伴う風をやり過ごし、静かに訪れた宵闇の中、ステップの大地の向こうに、星がまたたき始めたかのような静寂とあたたかさのよう。一日の喧騒の終焉を告げるトワイライト。空を斜めによぎって、すっと消えた流星に感じた切なさ。
・・・・・・・・
ある日、そうなることが当たり前だったかのように、男は忽然と姿を消した。女は、その深く暗く、よどんだ香りの行方を虚空に探した。風は凪いでいた。男はまた、砂埃の中を歩いているのだろう。コートのすそをはためかせ、長身の体をゆらりと前のめりにしながら。誰も知らぬ遠くの町で。
あの日、男の目には何も映っていなかった。そこに誰も住んではいなかった。ただ、吹きすさび、荒れ狂い、砂塵を巻き上げ、どこまでも荒涼としていた。
男は、瞳の中に一陣の風だけを連れていた。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:30ml・23,100円 / 50ml・37,180円発売日:2012/10/24 (2021/6/9追加発売)
2011/9/21 17:24:11
水タバコをイメージした香りだそうです。
水タバコというと、ルタンスのフュムリテュルクを思い出しますが、
こちらはまた違った香りです。
私には、ラルチザンのティーフォートゥーのクセ(スパイス?)を少なくして
甘くしたような、どちらかといえばおいしそうな香りに思えました。
実際にこの二つの香りを両手につけて嗅ぎ比べてみましたところ、
ティーフォートゥーの存在感が一瞬揺らぐほど、タバコバニラの甘さは圧倒的です。
ティーフォートゥーが爽やかな香りと思ってしまうほど。
でも、タバコバニラだって、胸焼けする甘さではないのですよね。
ティーフォートゥーもそうですが、私の好きなチャイに似ていると思います。
こちらは甘いチャイティーラテ。
バニラが効いているので、よりミルクっぽさを醸し出しているのだと思います。
メンズのカテゴリーですが、ユニセックスかな。
この手の香りは女性でもお好きな方が多いと思います。
ただシチュエーションに困るかも。
あと、寒い季節のほうがきっと映えます。
冬のチャイラテ、好きな方多いでしょう?(笑)
渋めの男性がつけていたら、タバコの香りも認識してもらえるのでしょうか。
自分でもつけたいけれど、男性から香ってきたらさぞかしセクシーな香りになるのでしょうね。
<追記>
涼しい天気の中で使用すると「ラテ」っぽさよりも、フルーツやスパイスが際立ち、甘さレベルは変わりませんが若干の鋭さがありました。基本は変わらないのですが、つける毎に(気温、体温による?)ちょっとずつ印象が変わります。不思議です。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:30ml・23,100円 / 50ml・37,180円発売日:2012/10/24 (2021/6/9追加発売)
2014/1/14 14:29:58
ムエット試香のため、評価はなしで。
好きか嫌いかで言えばこりゃもう好きです。
トップのスパイシーさ加減から
甘く様変わりする余韻がとてもセクシーですね。
和服姿の小唄や三味線のお師匠さんが、
背筋を伸ばしてキセルなどふかしながら、
ほんのりこの香りがしたらステキだなあ…と想像してしまうのです。
いつか堂々と纏えるような女、
いや、
もはや男女を超えた次元で纏えるようになりたいものです。
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