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2019/3/23 13:43:33
春には美しいフローラルが必要だ。時代にあった花の香り。季節を越え、衣を替え、心を解き放つためのかぐわしい花の蜜の香は、貴方自身をさらに磨き上げるだろう。
グッチのブルームは、2017年8月に発売されたグッチ渾身のオードパルファムだ。トム・フォード去りし後、再び低迷を続けたグッチ・グループの根幹を成すブランドにおいて、トム・フォード自身が才能を見い出して育てた忘れ形見、彼こそが2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任したアレッサンドロ・ミケーレだ。ベースボールキャップをかぶり、顔中キリストのような口ひげをたくわえたラフな印象の彼だが、その卓越したデザインセンスはすでにエルトン・ジョンなどのセレブをも夢中にし、今まさに新たなグッチ伝説を創り上げようとしている。
ブルームは、そんなアレッサンドロ・ミケーレ初のフレグランスということもあり、かなりの力の入れようがうかがえる作品だ。このブルームをリリースして1年も待たずにシリーズ2作目アクアディフィォーリ(2018年5月)、その後すぐに3作目ネッターレディフィオーリ(2018年8月)を投入し、一気にクラシカルピンク帝国を築く勢い。ピンクといえば、ディオールも最近JOYやそれ以前のミスディオール姉妹と合わせてクリアピンク路線を打ち出しているけれど、ボトルやカラーのデザイン的にはグッチの方が断然かっこいいと思う。さながらワイキキのロイヤルハワイアンみたいなフラミンゴピンクだ。キャップも同色のピンクにし、ブラックのラインもとても映えて全体の統一感がいい。香水界、久々のナイスデザイン。
では中身の香りの方はどうかというと。
ブルームをスプレーする。その瞬間、狂おしいほど妖艶な白い花の香りに包まれ、一瞬クラクラしそうになる。だがすぐに「今のは冗談よ」とばかりに、その誘うような蜜の香りはさらりと影をひそめる。次第に明確になってくるのはグリーンな雰囲気のジャスミンの香り。クリーミーな低音を響かせるチュベローズ。そしてどこか洋ナシのようなみずみずしいフルーティーさをもった別の花の香り、これがおそらくシクンシという植物だ。
シクンシ(別名ラングーンクリーパー)は、熱帯アジア原産の常緑つる性低木。小さな花が咲くにつれ、だんだん白からピンク、紅と花色が変化していく美しい熱帯花木で「使君子」とも書く。花弁からはほんのり甘い桃のような香気をもったクチナシ様の芳香が漂う、エキゾティックな南国系の花だ。夕暮れにかけて香りが強くなる点はチュベローズと似ている。
このグリーンなジャスミンに、妖艶なチュベローズ、そしてクリーミーガーデニアなシクンシがどれも同じくらいの出力で濃厚に香り続ける。時間にして5〜6時間程度。スモーキーピンクのクラシカルな色合いのボトルからはちょっと想像できないゴージャスなホワイトフローラルブーケだ。
タイプでいえば、1作目のブルームが濃厚でエキゾティックなホワイトフローラルブーケ、2作目のアクアディフィオーリは、よりライトでグリーン&ウォータリーな雰囲気、3作目のネッターレディフィオーリは、ブルームより低音でややグルマンな甘さをもつシプレフローラルといった展開。これもブルームの香りを基点によく考えられている。
ボトルデザインが目を引くブルームではあるが、肝心のフローラルブーケはそれほど目新しくない感じはある。あえてトップやベースの香料を少なくし、通常ミドルで強く出るフローラル香料を3種類多めに使うことで「いきなり花畑、最後まで花畑」といった感じの雰囲気を出そうとしたというところだろう。そういう意味では「超高級柔軟剤スプリングフローラルガーデンの香り」といったニッチな部分に位置しそうなEDP。あとボトルカラーのスモーキーピンクはとてもシックでいいけれど、残量が分かりにくいという点はおさえておきたい。
ボトルが可愛らしくアピール抜群だけれど、香りはかなり濃厚なので付け方に注意は必要。オフタイムや夕方以降に魅力を引き出してくれそうなタイプ。アレッサンドロはことさらにフェミニンさを求めず、男性も使えるとしているが、中性的なイケメン以外は遠慮した方がよさげ。←もちろんお前もな。
春の庭、時折強く吹く風。そのたびに緑の草原がざわつく。朝方の雨のあと、土の匂いに緑の青臭さが混じる。雲間からのぞきはじめた陽光に、庭園の影がみるみるうちにめくられてゆく。草木の芽、花のつぼみ。やがて爛漫と花開く小さな爆弾たちがそこかしこに頭を揺らしている。今か今かと時期を待つつぼみたちの小さなささやきが聞こえる。
ブルーム。咲きほこれ、自分色に世界を染めて。
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2016/12/17 05:32:27
エンジェル・オードトワレ(EDT)。この香りに出会うことを長年待ち望んでいた方も多かったことだろう。2011年に発売されたこのEDTは、92年に発表されたエンジェル・オードパルファム(EDP)から19年を経て作られた新作だ。そして、単に賦香率(濃度)を変えただけでなく、香りじたいがかなりオリジナルと異なっている。調香師も、新進気鋭のアマンディヌ・マリーに変わっている。
ちなみに、この「エンジェル・オードトワレ」というタイトルの下に投稿されているクチコミは、よく読むとほとんどが星型ボトルのEDPについて書かれたものだ。2011年以降、EDTについて書かれている方も散見されるが、数は少ないので注意が必要だろう。
エンジェルはもともと、EDPの頃からボトルがとても魅惑的だ。有名なスター・ボトルは、ティエリー・ミュグレー自身のデザインと言われており、デザイナーであると同時にカメラマンでもあった彼の美意識をあますところなく体現していて人気が高い。
それに対し、EDTのボトルは、通称「エンジェル・コメット」(写真)と区別され、より複雑で独創的なデザインとなっている。正面から見ると、銀色の星キャップに、彗星の尾が弧を描いて水色のダイヤモンドボトルを囲んでいる意匠で、ほうき星が宇宙から飛び出してきたようなアニメ的な造形。補足すると、ネットで検索するときも、「エンジェル・オードトワレ」というキーワードでは情報が少ないが、「エンジェル・コメット」と入力すると、トワレについて多くの検索結果が得られやすい。
そんなエンジェルEDTの香りはというと。
付けたては、しっとりして柔らかいパウダリーな香りに、ほんのりダークな甘さが感じられ、その上でベルガモットがスッキリ香るといった印象。比で言うと、パウダリー5:甘さ4:ベルガモット1くらいの割合。
やがてベルガモットは3分ほどで消失し、本格的に下から顔をのぞかせてくるのは、ベリー系の甘さ。クレジットにはレッドベリーとある。甘酸っぱさと軽さがあって心地よい。そのへんのお子様ガーリーなベリーとは一線を画している。そこに、EDPにもあったハニーやエチルマルトール系(綿あめ風)のカラメルっぽい甘さもぐんぐん出てくる。さらに、下からビターなカカオの香りとナッツっぽいコクも漂ってきて、プラリネの香りが演出されていることがわかる。
EDPの方は、最初からダークなパチュリの苦みと鋭いカンファーの香りがぐいぐい攻めてくるので、トップ〜ミドルがメンズっぽくて強烈だが、このEDTでは、パチュリが抑えられていてとてもフェミニンだ。その分、シダーのスッキリ感とアイリスっぽいパウダリーな香りが強調されていて、ほの暗さはあるものの、控えめで清楚なたたずまいを見せる。使えそうなシーンが比較的多く、好印象を与えやすい穏やかなミドルだと思う。このミドルが、大体4〜5時間ほど柔らかく続く。
ラストは大きな変化がなく、ふんわりとしたパウダリーな香りがさらに強調され、そこにベリーやカラメルの甘さではない、わずかなヴァニラの甘さがそっと寄り添ってフェードアウトする印象。彗星が尾を引くことで有名なら、エンジェルEDTは、そんな柔らかく白い香りが尾を引いている。清潔感があり、優しく、そしてはかない甘さ。ラストまでパチュリとカカオのウッディ&苦みで黒々と終焉するEDPとは対照的といってもいい雰囲気。
総じて、「鋭さ」「意外性」「暗い夜空」をイメージさせるようなEDPに対して、EDTの印象は、「柔らかさ」「素直さ」「明るい星々」というくらい、両者から受ける感じは異なっている。とはいえ、全く別物というわけではない。初めてかいだ人はやはり、「ああ、エンジェルだ」共通性を感じてそう思うだろう。それは、パチュリとビターチョコ、ベリー、ヴァニラなどをかけ合わせた画期的なEDPのレガシー(笑)。その配合の妙を抽出し、バランスよく再構成しているからに相違ない。位置的には、EDPとロリ―タ・レンピカの中間くらい。
夜空を横切る流星群。その希代の天体ショーは、いつの時代も人々の心を惹きつけてやまない。今回見ることができなければ、次に彗星が近づくのはもう数百年後…。そして人は時の無限を知る。自分の時間の有限を知る。無下にして、幽玄なるもの。
一瞬で流星は視界から消える。光る尾を夜空にスッと引いて。声を上げる間もなく。願い事を唱える暇も与えず。それでも流星群を眺めたあとの清々しい気持ちといったらどうだろう。まるで何か美しいものが天から降り注いだように感じて、心が宇宙へ広がっていくのはなぜだろう。
それはきっと、神の使いが舞い降りたように思うからだ。この地上に。あまたの福音をたずさえて。
エンジェル
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2015/11/8 00:53:45
南スペイン、アンダルシアの州都セビリア。そこは、闘牛とフラメンコの町。春には、町中に並んだオレンジの木に、白い花々が一斉に咲き乱れ、太陽がその芳醇でまろやかな蜜の香りをまき散らす。この香りが町のあちらこちらにあふれ出すと、セルビアの人々は色めきたつという。それは、一年で最も重要なイベントの一つ、復活祭を祝うためのセマナ・サンタ(聖週間)の到来を告げる風。
それがセビリア・オレンジの白い花々の香り。ルタンスのフルール・ド・ランジェ。2003年、クリストファー・シェルドレイク調香。スクウェア・ボトルに、オレンジの液体色が映えて美しい。
トップは、スッキリした苦みのある柑橘の香りが一瞬。そしてすぐ、甘くふくよかなオレンジフラワーとジャスミン系のフローラル・ミックスが広がる。通常のネロリの精油に比べて、苦みやスパイシーさが強いオープニング。クレジットにあるセビリア・オレンジは、実が苦く、マーマレード以外、生食はほとんどしないビター・オレンジだという。そのへんのキリッとしたドライな皮の雰囲気と、花の香りの共演とも感じられる。
5分後、白い花のブーケ香にスライドする。高音でオレンジフラワー、中音域でコクのあるジャスミン、さらに低音の方でチュベローズの和音。ややジャスミンが強めかという感じ。キンモクセイっぽいテイストでもある。そして、特筆すべきは、ホワイトフラワーブーケの奥に、ややアクの強いスパイス香が感じられる点だ。
軽くかいだだけでは分からないが、少し強めに香りをかぐと、そこには鼻腔の奥を刺激するスパイス類の存在を確かに感じる。クレジットにあるように、カレーの香りっぽいクミンやスッキリしたキャラウェイ、ややじんわりとしたナツメグっぽさが、時折明確に顔を出す。
さらに、ミドルあたりからは、日焼けした肌の匂いのようなスモーキーさと酸味がほんのり感じられる。シベットが少し使われているらしいことと、ジャスミン香を放つインドールの加減、さらにベースのムスクとの調合で、そうした体臭っぽいややダーティーな香りが時折するのは事実だ。それはアンニュイで、ちょっとドキリとさせられる部分。
やがて、ラストは、ジャスミンとチュベローズの中低音と、前述のややアニマリックな混合のうちに消えてゆく。ミドルからラストへの変化はあまり感じない。ここまで2時間〜4時間。白いフローラルミックスの香りは濃厚で、ラストのムスクっぽい淡い香りの上でも、最後まで香っている様子。
全体に、ねっとり甘く、ホワイトフラワーブーケの蜜の香りを呈するが、その背後にスパイスやアニマリックが思ったよりも強く出ていて、相反する光と影の両面が感じられる構成。それはまるで、南スペインの春の日差しの下、咲き乱れるオレンジの花々の枝や葉の隙間から、暗く黒い影の息遣いが感じられるかのよう。
ボディが強めで、濃厚。だから、日本では夏以外の季節の使用が比較的よいと思う。付けるときは、背後から絶えず主張してくるスパイシー&アニマリックな暗いベースの強さも考えて、ウェストから下がよいかと思う。上半身、あるいは、直接肌が露出する場所に付けると、周囲に「ムワッと感」「ファッティ感」をアピールしてしまう場合もあるかと。それほど付け方に配慮が必要な押し出しの強さ。
それでもこの香りの一番のよさは、ネロリ系のもつ「不安やストレスを取り除いて気持ちをゆったりとさせてくれる」雰囲気が強く味わえる点だと思う。女性ならバッグに香り付けしたハンカチや紙を入れておくのもいいかも知れない。特に、仕事中、ふっと気持ちを抜きたいときに嗅ぐと、リラグゼーションにもなると思う。ルタンスの中では、スパイスの香りやウッディ系の香りがまだ柔らかめな方なので、使いやすい部類だと思う。
スペインのセマナ・サンタ(聖週間)は、文字通り、キリストの復活祭を祝うための重要な7日間。この時期、街中には、キリストの受難や聖母マリアの悲しみを表現した豪華絢爛な彫像を乗せたパソと呼ばれる山車が出て、昼夜を問わず巡行するという。特に、セビリアのセマナ・サンタは、派手でにぎやかなことで有名だそうだ。
厳かな楽団の演奏の中、三角の頭巾とマントを身に付けた男たちが先導し、悠然と進むパソ。そこには、連れ去られていくキリストの憂いの横顔も見える。そんな巨大な山車の周りに人々はごった返す。7つの昼と夜の間、人々は熱狂に包まれる。
やがて最後の夜が訪れ、闇が太陽にとって代わる頃、酒の匂いと、復活祭を迎える人々の熱気やムンとした体臭がまじりあい、オレンジの花の香りを一層濃厚に、狂おしく彩る。
それは、セマナ・サンタ・フェスタの夜の匂い。闇に咲き乱れるその五つの花弁の花は、人々に福音をもたらす地上の白い星々。
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2021/6/5 12:36:14
”ライラックってどんな花 時々耳にするけど どんな花か知らない。
花なんて昔からどうでもよかったのに でもライラックってどんな花だろう
たぶん赤くて 5cmくらいの冬に咲く花 そんなに人気はない花だと思うけど”
ブランキー・ジェット・シティの「ライラック」という歌の歌詞。パルルモア・ドゥ・パルファムのトータリーホワイトという香水をつけていると、この歌詞が自然に思い浮かぶ。
真冬。コートを着込んで襟を立てて、ポケットに手を突っ込んで、ベンジーは友達と歩いていろんな話をしてる。でも多分、話をしてるのは友達の方。それも一方的に。切れ目なく独り言のように。楽しそうに。だからこの”ライラックってどんな花”のところもその友達がつぶやいた言葉。真っ白な息と一緒に。ベンジーはそれを笑って聞いてる。だってその友達はちょっと変わってるけど「きれいな心」を持ってるから。
ライラックは冬の花じゃなくて春の花。紫やピンク、白などの花色はあるけど赤はない。そんなことは歌詞を書いてもリリースする前に調べればわかること。なのにその歌詞であえて発表したのは、少年のもつ独特の感覚や感性をリアルに伝えたかったからだろう。
世界のことをよく知らなくて、いつかどこかで銃を撃ってみたいとか思ってて、なのに訳知り顔の大人達の後頭部に、指で作った鉄砲で”Bang!!"とやるくらいしかできなくて。そんな青くさくて残酷で、だけどピュアな少年の気持ち。彼の歌詞にはそれが綴られている。
ベンジャミン・アルメラックが、名調香師である父ミシェル・アルメラックと共に作ったトータリーホワイトも、どこかそんな矛盾に満ちている。トータリーホワイトは、うす紫色の冷たいライラックの香りがするのに、トータリーホワイト(完全な白)と名付けられている香水。2016年発売。50mlで15400円。
トータリーホワイトをプッシュする。付けた瞬間、ツンとしたミュゲのグリーンな感じと、シャープで清涼感ある紫のラベンダーの感じが冷たく広がってくる。そこにキンモクセイ風のプラスティカルな感じと、ミモザのパウダリックもひとさじ加わって、不思議なうす紫色の香りに感じられてくる。
5分ほどすると、ラベンダー様の紫の清涼感は若干うすらいでくる。そして沈丁花のような甘くしっとり低い香りが広がってくる。とても落ち着いた低い甘さだ。ヒヤシンスの青く低い香りに甘さを足した、といった感じがしなくもない。そのせいか、全体に紫系の印象がとても強い。それは香りじたいがとても涼しげに感じられるせいかもしれない。
トータリーホワイトは、この涼しげで甘さのあるライラックノートを基調としたまま減衰していく。ラストはホワイトムスクのソーピーな温かみも感じるものの、それがオーバードーズされたランヴァンのエクラほどではない。人工的な香りが強いエクラよりもずっとライラックの花だ。ふんわり自然なうす紫のライラックの香りを呈しつつ、6〜8時間ほどでドライダウン。
ラベンダーの清涼感(紫)とライラック(うす紫)の甘さ。そこにヒヤシンス(青や紫)のグリーンを感じる香り。これではトータリーホワイトならぬ、トータリーパープルでは?と思うほどに。
そう言えば。紫やピンク系の花色が多いライラックには白いライラックの言い伝えがある。昔、貴族と恋に落ちた娘が、身分差を悲観して亡くなり、そこに手向けられた紫のライラックが一夜にして白く変わったという伝説。そこからライラックは「恋の花」と呼ばれ、フランスでは愛する者へ贈る花束として一般的だという。白いライラックは特に人気があるようだ。
この香水は、調香師ミシェル・アルメラックの婦人が、故郷ノルマンディーの庭に咲いていたライラックを懐かしみ、その香りを再現してほしいという願いから創られたという。同時に、ブランド創業者でもある息子ベンジャミンの大切な思い出の場所、パリのモンソー公園に花々があふれる6月のイメージも重ねている。ジャスミンやミュゲ、ユリなど、白い花の香料を多用して126回も試作・調整を重ねてできた渾身の香り。それがトータリーホワイトという香水だ。
”近くで見ると 赤がオレンジに見えるところがあって 小さく揺れてる
おもいっきり息を吸い込んでみなよ 乾いた唇を閉じたまま
冷たい風と一緒に 花の匂いが体中に広がってゆくのがわかるだろう”
「ライラック」の歌。ベンジーの声が高音の金管楽器のように流れてゆく。ねえ、鼻いっぱいに嗅いでごらん。ライラックの香りを。そいつは心の中まで浸食してから、白い息になって出るんだ。
”明るい光の中で 吐く息は真っ白”
トータリーホワイト。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2020/9/19 06:46:11
そういえばお茶系の香水をひとつも持っていない。お茶の香りが人気と知ると避けたくなる天邪鬼な性格が手伝って今まで試さなかった。
早速取り寄せたウーロンアンフィニをひと吹き。ベルガモット、ネロリ、ジャスミンがふんわり広がる。ゲランなどに代表される古典的で自己主張が強いものとは違い、柔らかさのある気取らない香りだ。ネロリの微かな酸味のあるフローラルノートも優しい。ジャスミンも穏やかでインドール臭が弱く万人受けしそう。
万人受けを嫌う私の心の中で葛藤が。本心は大好きだと言っているのに、ひねくれた自我がこれを嫌いと言えとささやく。どうしようと思っているところにお茶のいい香り。甘味、苦味、渋味、酸味のバランスが取れていて美味しそう。
あーいい香り。思わず深呼吸。
でも烏龍茶って香りあったっけ?
その瞬間ふっと90年代初めのある場所の記憶が蘇った。この匂いは確かにそこで嗅いだ。アメリカに来て間もない頃だった。
ニューヨーク、チャイナタウン。なんとしても生き抜いてやるという情熱が渦巻くパワフルな場所。
警察官の友人から聞いた、中華街とんでもエピソード。ある事件捜査のため上官命令でアパートの一室に踏み込んだら、十畳ほどの部屋に三段ベッドがぎっしりあって、20人ほどがそこで寝泊まりしていた。彼らはひとりっ子政策で戸籍さえ持たない貧しい人達。生存を懸けて10万ドルで悪徳業者に身売り。アメリカに貨物に紛れて密航し、治外法権な中華街で無賃金で朝から晩まで労働。彼らの賃金は代わりに悪徳業者に支払われ、それが10万ドルになったら晴れて自由の身という契約らしい。
言葉も習慣も違う場所に来て、八方塞がりに思えて落ち込んでも、チャイナタウンに行くと勇気が出た。そんなふうに命からがら異国に来て、朝から晩まで必死に働く彼らより、ずっと恵まれている私は甘えていると思った。
ひしめき合う人混みの中をぶつからないように歩く。小綺麗な横浜の中華街とは異なりゴミがたくさん散らばっていて、怪しい偽造品を売る店の呼子の声がうるさい。下手に横道に足を踏み入れると生きて出られそうもなく、昼間でも薄暗く感じる。しばらく歩いていると何処からかお茶のいい香りが漂ってきた。日本のお茶屋さんとはまた違った、お茶を炒るような香りが道路まで広がっている。そこだけ透明な空気に包まれたかのように。
今思えば高級なジャスミン茶や烏龍茶の混ざった匂いがウーロンアンフィニのミドルにそっくり。ふらふらと吸い込まれるように店内に入る。量り売りのお茶の入ったガラス瓶がずらりと並んでおりその前にサンプルのお茶葉が置かれている。中国系の他のお客さんの真似をして私も片っ端から嗅ぎまくった。100gあたり数万円するお茶のサンプルも出ていて容赦なく匂いだけ味わった。
値段もピンキリで高いものは茶葉の段階からフルーツのような僅かな発酵臭を伴った不思議な清涼感がある。ウーロンアンフィニからはお茶だけではなくて古びた、でもよく手入れをされたカウンターのような木の香りも感じられる。ガイアックウッドらしい。ベチバーが渋味と苦味のある調味料的に僅かに使われていて、ガイアックウッドとお茶をうまく結びつけている。レモンに似た柑橘系の香りがドライダウンで蘇ることも多々あり。
大人気を博した漫画「美味し◯ぼ」にあった「いいかい学生さん、トンカツをいつでも食えるくらいの身分になりなよ」という名言と自分がかぶる。その時私はお茶屋さんで高級茶をいつでもサラッと買えるくらいの身分になりたいと思った。
今チャイナタウンはどうなっているんだろう?
早速行ってみるとシャッター街と化し全く元気がない。前述のお茶屋さんは閉まっていたが、ポツポツと営業している店もある。そこそこの品質のお茶を売っている店を見つけて、昔飲んだことのある凍頂烏龍茶を少し買った。
家に帰ってお茶葉にお湯を注ぐ。手揉みで丸めた濃い緑に焦げ茶色が混ざった葉がゆっくり開いていく。マスカットやジャスミンに似た芳香が立ち昇る。途端に透明な空気がサッと広がる。
緑色がかった薄黄色の透き通ったお茶をすする。ほんのりした甘味の奥底にある心地よい苦味。ウーロンアンフィニは高級烏龍茶の芳香、味、透明感を香水として見事に再現したようだ。
お茶を味わいながらウーロンアンフィニをつける。私を奮い立たせてくれたチャイナタウンが立ち直ることを願いながら。
トップノート: ベルガモット、ネロリ
ミドルノート: 烏龍茶、レザー、ジャスミン
ラストノート: ガイアックウッド、ベチバー、タバコフラワー
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