





















[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:50ml・37,400円発売日:-
2020/11/15 16:49:25
年々、甘さの強い香りが好きになってきている。
もちろん、嗜好の幅が広がってきたこともあるが、それ以上に、男性でも使いたくなるような素晴らしいグルマンフレグランスが増えてきたことの方が大きいのではと思う。
そして、キリアンのカルぺ ノクテム(今を生き、今日を楽しむ、夜の世界)コレクションのブラック ファントム メメント モリ(2017年)は、男性に向けたグルマンウッディの傑作だと感じている。
トップはウッディ・グルマン。
スプレーすると、ビターなチョコレート、そしてコーヒーの苦みによる黒い刺激と、アーモンドミルクの白っぽい甘さ。その黒と白から飛び出すようにラムのお酒っぽい香りが弾ける。セクシーで男らしいオープニング。
ミドルはグルマン・ウッディ。
トップから大きな香りの変化はなく、チョコレートとコーヒーの苦さは深みが増し、アーモンドの甘さはキャラメルの焦げ感が加わっていくことで、苦味よりも甘さが前に出てくるようなイメージ。奥からはアーシーなパチョリが、キャラメルの甘さをさらにローストしたナッツのように仕上げていく。この甘味と苦味をラムがまろやかにまとめているような香り。
ベースはウッディ・グルマン。
キャラメルの焦げ感が抜け、ミルクのコクが加わることで、砂糖のような白っぽい甘さに変わる。チョコやコーヒーの苦味は、力強いベチバーに包まれることで、白い甘さと黒い苦味のコントラストがより明確になっていく。
最後は鋭いサンダルウッドが、全体をより黒色に染めていく。
持続時間は、甘さが前に出るミドルまで3時間くらい、そこからビターなウッディが主体となる香りは8時間程度続く。
ビター&スイート。ブラック&ホワイト。それぞれがはっきり主張して、合わさってグレーになることを拒否したような香り。
結果、クールな表情と、とろけるような甘さを併せ持った、男のためのグルマンウッディの香りだと感じている。
私のなかでは、名香タバコバニラと重なる。ブラックファントムはキリアン版のタバコバニラだと思う。それくらい大好きな香りだ。
タバコバニラの方が甘さが強く、そしてウッディも柔らかく、最後はバニラがタバコの葉の色の染まっていくような包容感がある。大人の香りだと思う。
ブラックファントムは、アロマティックなコーヒーの苦味が、まるでタバコのようなベチバーに包まれることで柔らかくなると思いきや、暗いサンダルウッドがダークな印象に戻すことで、砂糖やバニラの白さが引き立つような香り。スカルが装飾された漆黒のボトルボックスに、白い光が当たったようなイメージだと思う。
ブラックファントムは、クールやスタイリッシュというよりも、もっとストレートに男を感じさせるようなグルマンウッディの香り。
そう「人を酔わせ、夜のように黒く、地獄のように熱く、愛のように甘い」フレグランス。
ニュイドゥセロファン(Nuit de cellophane)
容量・税込価格:50ml・14,300円 / 100ml・22,000円発売日:-
2020/11/1 23:52:18
金木犀の香りが好きで、定期的に手に入れてしまう。
ニュイ ド セロファン(2009年)も、金木犀がしっかり香る一品で、個性派揃いのセルジュ・ルタンスのなかでも特に嗜好性が高く、とても使いやすい1本だと思う。
トップはフルーティ・グリーン。マンダリンオレンジの清々しいジューシーな甘さと、バイオレットのメタリックなグリーンノート。奥からはピーチやアプリコットなど、みずみずしいオスマンサスの面影が透けてみえる。
ミドルはフローラル・フルーティ。オレンジやピーチやアプリコットにフローラル感が増していくことでオスマンサスの姿がはっきりしてくる。華奢で透明感のあるオスマンサスの香り。この繊細なオスマンサスを、少し酸味のあるジャスミンや、ツンとしたユリがフローラル感を支えている。さらにバイオレットの硬さが、このフローラルフルーティの香りをキュッと引き締めているようだ。そこから酸味が増すことで、フレッシュな印象が続いていく。
ベースはフローラル・ウッディ。少し酸味が立ったすっきりめなフローラルフルーティの残香に、オイゲノールとセダーウッドを合わせた硬めのフローラルウッディが重ねっていく。最後はムスクが柔らかさを与えていく。
トップからミドルの香りの比重が高く、ベースの香りは薄めなため、持続時間は3時間程度。
セロファンの夜という名前ではあるが、フレッシュ感の強いフローラルフルーティの香りなため、春先から秋口まで、夜よりもむしろ午前中に使いたくなる。
このフレグランスのコンセプトはとてもロマンチックで、
空気が乾燥した肌寒い秋の夜、星のまたたきと地面の間は甘く透明なかぐわしさで満ちている。この空気全てを包み込んで、あなたに届けたい、、、そんな香りだ。
そして、星の瞬きや、地熱の余韻が感じられるくらい澄んだ空気をつめ込んだような香りだからこそ、陽射しが暖かい春や、ムンムンと熱気がこもった夏や、日中は汗ばむくらいの暖かさを感じる秋口に、このニュイ ド セロファンの透明感ある香りを楽しみたくなるのではないだろうか。
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:15ml・11,770円 / 50ml・26,950円 / 100ml・41,250円発売日:2010年
2020/10/10 13:24:34
ルラボのアナザー13は、とても不思議な香りの香水だ。うすいミント水のようだなと思えば、冷たい金属の香りがするときもある。付けてしばらくすると乾いた木の香りもしてくるし、ときに酸味があるフルーティーなタッチが感じられることもある。とらえどころがなくて透明感がある香り、それがアナザー13だ。
アナザー13は作られた経緯も異色だ。2010年、英国のファッション・アート・カルチャー雑誌“AnOther magazine(アナザーマガジン)”から依頼を受けて生まれたコラボ作品。販売はパリの伝説のセレクトショップ「コレット」のみというこだわりようで大きな話題となったが、2017年にコレットが閉店し、その際に製造元のルラボに戻して通常ラインに加えられた経緯を持つ。
一般的にルラボの香水といえば、ローズ31やアンブレット9など、メイン香料名の後にブレンドした香料の数が記載されているが、アナザー13の場合は雑誌名がそのまま残されている点で他と異なる。この経緯は定かではないが、限定品で出したにも関わらずとても人気の高い作品だったことも一因かもしれない。
では、ルラボのアナザー13とは一体どんな香りなのか?
アナザー13をスプレーする。最初に感じられるのは、本当にうっすらとしたミント水のような香りだ。アナザー13はスプレーしてもすぐには香らないタイプで、これは揮発しやすい香料が少ない、もしくは入っていないことを意味する。ルラボにはこういうタイプの香水が割とあって、人気のガイアック10もトップはほぼ香らない点で似ている。
3分後。付けたところで香水が人肌で温められてくると、重たい香料が揮発して少しずつ顔をのぞかせてくる。まず感じられるのはヘディオンのやさしい甘さ。ほんのりジャスミンの香りがする人工香料で、量はごくわずかだろう。とてもとても穏やかで、かなり広範囲にスプレーしても、まるで肌じたいが柔らかく甘く香っているようなスキンセント系の香り方をする。
さらに下から出てくるのは、透明感のある塩水のような香り。トップの薄いミント系ノートと相まって液体系やオゾンノートのような雰囲気になる。これはアンブロックスだろう。これも濃度はとても薄い。アンブロックスをガツンと高濃度で嗅ぎたいならヴィトンのアフタヌーンスイムのミドルで確認するといい。かなり潮風風味な香料だ。アナザー13はこのあたりから、次第に「流れる水の匂い」な面が感じられてくる。
やがて、つけたことすら忘れた頃になって、不意に乾いた木の香りがしてきて驚く。自分の肌では30分ほどだろうか。付けたところに鼻を近づけるとやっと分かるような薄さで、ほんのり木の香りがする。流れる水の香に、香ばしく温かい木の香りがグラデしてくるイメージ。
そしてそこにキンとした酸味も感じられてくるとアナザー13の香りの香料が全て出た感じになる。水系ノートを形成しているミントやアンブロックス。乾いた木の香りを呈するイソEスーパーと少量のウッディ香料、そしてスッキリ系ムスクとほのかなジャスミン香ヘディオン。アナザー13はこれらが集まって絶妙なバランスで香るオードパルファムだ。トップが水のように透明感があって、次第に木の香りが深まってくる不思議な香り。
全体的に見ると、うすいミントやジャスミン香、そこに香ばしい木の香が混じるアナザー13は、確かに日本で人気あるのが頷ける香りだ。香り立ちが低めで、多めにプッシュしても香害になりにくい落ち着いた香り。淡い木の香が7〜8時間ほど続くので、さりげなく周囲にアピールもする。ネックは価格だ。ルラボの香水は日本で買うととても高い。15mlボトルで1万円という価格をどう見るか。そこは個人の価値観次第だろう。
水の雰囲気と木の香り。そこから思いつくのは、本だ。本は水と木から作られた紙でできている。インクのリキッド感。そして木や紙のドライな温かみのミックス。これはアナザーマガジンそのものの匂いをイメージした香りなのかもしれない。
洗練された写真が散りばめられた高価な雑誌の匂いをそっと嗅ぐ。漂白された上質な紙の乾いた匂いがする。ツヤツヤしたインクのほんのり暗い匂いもする。美しい写真に彩られたページをめくるたび、たくさんの夢と、まっさらで穏やかな本の匂いが広がっていく。
その香り、別物。アナザー13。
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:- (生産終了)発売日:2019/9/6
2020/10/1 22:18:39
フレグランスを選ぶ面白さ、そして難しさは、実際に自分の肌に合わてみないと香り方が分からない点にあるのではと思う。
紙で試した時と、肌に乗せた時の香りが違う。
友人と一緒に同じ香りを合わせてみたのに、香り方が全然違う。
そして、紙で嗅いだ時よりも、他人が付けるよりも、自分の肌に乗せた方が良い香りになるフレグランスこそがお気に入りの1本になっていく。
メゾンクリスチャンディオールのスパイスブレンド(2019年)は、自分の肌に合わせた香りよりも、紙で嗅いだ時の香りの方が数段良かった。残念ながら、自分の肌には合わなかったフレグランスだった。
トップはスパイシー。スプレーすると刺すようなピンクペッパーと、非常に土臭いフレッシュなジンジャーの香り。少し遅れてラムのまろやかな甘さがじっくりと漂う。
ミドルはスパイシー。ラムにシナモンのクセを添えた甘さを軸にして、上の方からクローブ、コリアンダー、ベイリーフなどのホットスパイシーが、そして中ほどからはピンクペッパーやブラックペッパー、ジンジャーのピリッとしたスパイシーをミックスさせた香り。
ベースはスパイシー・ウッディ。ベイリーフを中心にしたホットスパイシーやナツメグが、ラムやシナモンの甘さを引き立たせる。ベースはセダーウッド、ベチバーの淡いウッディの香り。
ラムをキャンパス地にすることで、辛いスパイス、フレッシュなスパイス、そしてシナモンなどの色とりどりなスパイスミックスを、鮮やかに引き立たせたような非常にユニークな香りだと感じる。
素材を見てみると、マルティニーク産ラムアブソリュート、マダガスカル産ブラックペッパー、マダガスカル産クローブエセンス、ドミニカ共和国セントトーマス島産ベイリーフ、ナツメグ、中国産シナモン、ロシア産コリアンダー、ジンジャーエッセンスとあり、産地を特定した相当こだわった原料が使われている。
そして、紙で嗅ぐと、それらひとつひとつのスパイスの個性を楽しむことができるのに、肌に乗せてしまうとラムの甘さが増してしまうため、ざっくしとした辛甘い香りになってしまう。
さらに、思った以上にベースが淡いため、香りが肌に乗っかっていかないような気がする。
ひとつひとつのスパイスが繊細なため、肌につけるよりも紙やルームフレグランスとして使用した方が、このフレグランスの良さが楽しめるのでは。
もっといってしまうと、スパイスブレンドという名のフレグランスが、肌に乗せるとラムの存在感に負けてしまうのはどうかと思う。フレグランスであれば、もっとスパイシーな香りを主張すべきだったのでは感じてしまう。
そもそも、調香したフランソワ・デュマシーは、父の薬局の棚に置かれていたボトルに感じた幼少期のエキゾチックな記憶の風景を、香りに転写したフレグランスと述べている。
温かみ、ツンとした空気の刺激、エキゾチックな色合いなど風景から生み出された香りのため、肌よりも空間で楽しんだ方が調香師の意図がより再現されるのではないだろうか。
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:30ml・3,960円発売日:-
2020/9/12 18:58:03
「デート前夜のつめの色」「空いっぱい羽根を広げた火の鳥の夕焼け色」「虫かごを持って走った夏休みの野菜畑色」。なんて詩的なネーミングだろう。これらは日本の通販ブランド、フェリシモが出している高級色鉛筆「500色の色えんぴつ TOKYO SEEDS」の1本1本に付けられた名前だ。
そのポエみさ全開のネーミングは、カタログで色と見比べているだけでとても楽しい。で、朝から久々にトムフォードのロストチェリーをつけようと思っていた矢先だったので、さくらんぼ系の色で何か面白い名前はないかなと見ていて、一瞬、固まった。
「完熟食べ頃さくらんぼのあつあつタルト色」
う…、食べたい…。
思うが早いか、ロストチェリーを速攻で脇に寄せ、代わりに引っ張りだしてきたのは、ディメーターのチェリークリーム。30mlで3000円ほど。50mlで4万円近くするトムさんのロストチェリーを土俵外に寄り切る勢いでチョイス。
ディメーターは「フレグランス・ライブラリー」の看板どおり、100種類以上ものライトコロンを展開するニューヨーク発の香水ブランド。以前はバラエティショップ等でも置かれていたが、いったん日本撤退した後、昨年よりディメータージャパンから販売が復活して話題になっている。現在は同サイトからオンラインで購入が可能だ。
ディメーターの香りは、基本的にあまり変化しないシングルノート系で、香水のような複雑な香りが苦手な方も楽しみやすいように作られている。ありふれた日常がほんのちょっとの香りで幸せになるように。だからこそ自由な重ね付けも可能だ。
また、香りの種類も個性的で面白い物が多い。「スノー(雪)」など自然な香りをテーマにしたものには始まり、「カップケーキ」のようなお菓子系も。さらに「ニューベイビー(赤ちゃんの香り)」などもあって、次から次へと香りを確かめたくなる。それぞれの香りにテーマカラーもあるので、まるで100色の色えんぴつを香水にしたような雰囲気だ。
そのラインナップの中で、チェリークリームはくだんのロストチェリーブームに牽引されて最近再び脚光を浴びている作品だ。リリースはチェリークリームの方が先。では一体どんな香りなのか?
チェリークリームをつける。つけた瞬間に立ちのぼるのは、チェリーリキュールそのもの!といった感の洋酒の香りだ。昔からあるリキュール漬けチェリーが中に入ったチョコレート。あれを噛んだときに口の中にあふれる冷たいリキュールの風味とビタースイートなダークチェリーの風味、それがチェリークリームのトップだ。このやや薬っぽい強烈なチェリー感は、もちろんアメリカンチェリー。赤黒くてつるつるしていてしっとりした甘さをもったあの味。
2分後にはトップのリキュール感はスッと消え失せて、一気にライトなチェリー風味になる。酸味が感じられるようになり、甘さがひきたってくる。フェリシモの500色の色えんぴつで言えば、以前のバージョンにあった「ブラックチェリーパイ」色といったところ。とはいえ、パイやタルトを思わせるバタークッキー感があるわけではない。すっきりダークなチェリーノートがストレートに楽しめるミドルだ。
そして30分ほどすると、チェリーの香りが少しずつうすれて、その下から白いヴァニラ香がほんのり漂ってくるようになる。ディメーターはライトコロンなので、つけて30分ほどで香りがかなり減衰してくる作品が多いけれど、チェリークリームは割と香りが変化しながら持続する部類だと思う。ツンとしたチェリー香がマイルドになって、ややドライで紙っぽい感じのヴァニラ香が漂ってくるとラスト。チェリーの甘さ&ほんのりウッディヴァニラが3〜4時間ほど香ってドライダウン。
全体として見ると、チェリークリームという名前ではあるものの、実際はチェリー香が80%、ドライなヴァニラ&ウッディが20%くらいな印象。ミドルのキュンと鼻腔の奥にくる甘苦さは、サクラ系香水によく使われるクマリンやビターアーモンドかと思う。杏仁豆腐の香りも含めて、チェリー香が好きな方におすすめだ。重ねづけなら、ルタンスのジュードポーやフエギアのバタークッキー系やミルク系の香りの上にのせると、よりグルマンになって楽しい。
サックリ香ばしいバター風味のタルト。そこにクリームチーズとヨーグルトとハチミツを混ぜたサワークリームを入れて、プリプリのアメリカンチェリーをたくさん並べる。自分はベイクドしない冷たいチェリータルトの方が好きだなと思っているうちに、口中に唾液があふれそうになる。
チェリークリーム。この香りを500色の色えんぴつに加えるならどんな名になるだろう?
そんなよしなしごとを考えるのも楽しい食欲の季節が、また来る。
星採点甘めです 続きをみる