2013/9/14 11:08:30
ボトルの色・艶・形はまるで、東南アジアの女性の東洋的エレガンスと、その精神の具現化のような細身でしなやかな美しいボディラインのようです。思い出すのは、米資本でベトナムを描いた、「季節の中で」という映画です。映画のポスターの女性の佇まいは、まるでコラボレーションのようにこの香水の雰囲気と重なります。つまりはこのような感じが、欧米人のアジア女性に対するイメージなのでしょうね。思うに欧米人は往々にして、欧米社会で失われた類のフェミニンさをアジア女性に感じるところがあるのではないでしょうか(良しきに付け悪きに付け、という注釈付きではありますが)。
“杏仁豆腐”とよく評されますが、本当にそんな香りです。バニラが利いている間はその中に、葉や花というより、硬い樹皮や種のようなものを磨り潰して抽出したような何かを感じるような気がします。ハーバルなのです(そういう意味でロリータレンピカを思い出しました)。そういうものが“杏(の種)”を思わせるのかも知れません。バニラがミルク感に変遷した辺りでは、ムスキーさの中に、薄く柔らかな花びらを持っていると思わせる、たおやかなお花の香りを感じます。
また、僭越ながら、“雪見大福”という表現は素晴らしいと思いました。あの商品はアイスクリームではなくアイスミルク、いわば“氷バニラ”ですので、この香りのあっさりしたウォータリーなバニラと質感が重なります。バニラなのに水気と流動感があるところは、変遷するアジアの歴史のようですね。総じてこの香りは私には“水バニラ”のイメージです。トワレですし、そもそも軽いのです。エゴを抑えた、調和性の高いバニラ香水をお探しの方にお勧めです。
ゲランのランスタンに関する言及がありましたが、私も連想しました。ただ、両者ともバニラでありながら、もったり感はまるで違います。ケンゾーアムールには謙虚さと柔軟性がありますが、あちらにはそういったものはまるでありません(笑)。西洋ですねえ…その問答無用感が好きなのですが。ケンゾーアムールが雪見大福1パックだとしたら、ランスタンはハーゲンダッツ10個…といったところでしょうか。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:50ml・2,200円発売日:1792/10/8
2013/5/17 13:00:50
2011年の仏映画「メゾン ある娼館の記憶」は、ちょうど世紀の変わり目1900年前後の、娼館文化の斜陽期にあっての、とある高級娼館のこもごもを描いた作品です。その娼館では香水に関して決まりごとがありました。「自分の香りを選ぶこと、他と被らない香水を」。新人娼婦が先輩に示された棚に並んでいたのは、娼婦の数だけある数々の香水壜。ざっと見ると、19世紀からのベストセラーであるゲランのジッキーやオーインペリアル等々に…更に遡った18世紀から存在するこちらの香水が。特徴ある色合いの壜なので、ご存知の方は気付きやすいと思われます。
トップで私に感知出来るのは、レモン・ラベンダー・ローズマリー。高級感を感じる苦味と強さのある柑橘の割に、それらは何の惜しげも執着もなく去って全くしつこく滞留しない為、アトマイザー等で持ち歩いて、気分転換・リフレッシュの為にシュシュシュッ!とするには非常に適したお品だと思います。バシャバシャ使用したところで香害とも無縁そうです。少し置けば、せいぜいうっすらとしたムスキーなシトラスの名残が肌に残るくらいです。そういう訳で一般論でいえば、日本人好きしそうな香りですね(…そもそも、日本市場向けのものは本場のものより香りが薄いらしいのですが)。
香りから人物像を描くなら、初見でははっとするインパクトを与える割に、さばさばしてしつこくない爽やかな方。大人で、物事を理論的に捉えられ、切り替えが早く、時間を無駄にしない方、それでいて(そんな訳は絶対ないはずなのに)自然体に見える方、という印象です。流れゆく水のようなシトラスのイメージです。
2010年の仏映画「遥かな町へ」でもこの香水が出て来ます。主人公の少年がある日、香水店のウィンドウごしに見たのは、贈り物を買う父の姿。それがこちらの香水でした。それは母ではない女性の為のもので、父はその後しばらくして、謎の失踪を遂げるのです。些細な登場ではありますが、佇まいが映画の雰囲気にとても合っていて、なかなか印象的でした。こちらは、そんな風に、文化性と格調高さがあり、劇的なシーンにぴったりの、物語性のある香水なのですね。
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2013/4/4 17:10:40
グリーン系といっても細面でタイトなユニセックスタイプのものではなく、明るく丸みを帯びた爽やかさのある、ほがらかで若やいだ、社交性のある女性の香り、といったところでしょうか。ボトルもそのイメージを大いに助けています。でも実のところ、ころころと笑う一見天真爛漫な笑顔の裏には、それを自然に作れるようになるまでの経験値が隠されていて、本当はとても世擦れていて、傲岸不遜な面もあるのでは…、というのが、僭越ながら、私の思うこの香りの女性像です。
申し訳ありません、こちらをお好きな方の気分を害する意図は全くないのですが、まだまだ全く修行が足らず、そのくせ読まなくてもよい腹を読んでしまうところのある私は、上記のような女性を前にするとやはり居心地が悪いのです…(笑)。
ボトルの愛らしさと個性的で面白い香りの第一印象、またよく言及される価格の安さは食指が動くに充分だったのですが、50mlを購入して使用している内に、シングルノートといってもよいような香りの単調さや、先に述べたように、魅力的な明るい香りに隠れた、何か図々しさや厚かましさのようなものをひしひしと感じるようになり、早い段階で私と波長が合わないと悟ったのですが、何かが悔しかったので、執拗に4年かけて何とか使い切ったのです(笑)。
購入した時、歌手のCHARAさん愛用、という触れ込みでした。海外の方では、少々意外だったのですが、フランスの女優のベアトリス・ダルの愛用だということです(心なしか、若い頃のこのお二方はちょっと似ているような気もします)。最近のベアトリス・ダルは正視に耐えられないほど怖く(笑)、出演作での彼女の異様にノワールな雰囲気を拝見するに、どちらかといえば、カボティーヌというよりむしろカボシャール(黒い箱に入った波長が抑え目の香り)の方が似合うのでは…と何となく独り思ったりしている、私個人です。
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2013/3/29 20:39:58
イラン映画「別離」の劇中にこの香水を発見した時は驚きました。主人公の自宅の浴室横の棚の中にこちらのボトルが蓋なしの状態で置いてあったのです(…自分でもよく気付いたと思う位の密かな登場ですが…)。
この監督の前作ではイラン人女性がルイ・ヴィトンのバッグを持っていて驚いたのですが、今回もイラン人がニューヨークブランドを愛用…それが一日本人の私にはやはりシュールに思えたのです。国家レベルでは反米のスタンスを取るイランにおいても、民間レベルでは欧米文化の浸透が少なからず見られるということでしょうか(…そのことを描いた「ペルシャ猫を誰も知らない」という作品もあります)。
使用しているのはほぼ間違いなく主人公(30代後半の精悍でハンサムな銀行員)だと思われます。イランの中流階級の彼の自宅には機能的な電化家具が取り揃えられており、モダンで、西欧的ともいえる内装です。この香りはおそらく、生活に余裕があり教養もある都会人、かつコーカソイド的な彫りの深い端正なルックスの方に相応しい香りだと思うので、確かにこの香水は、知的で洗練された雰囲気の彼にはとても似合いそうです。
体感温度が一段低くなるような水のような清涼感・透明感と、男性用香水でよく感じる硬めのシトラスが混合されたトップは、都会を格好良くしなやかに歩く、だけれどちょっと傲然とした何かを感じさせる男性が眼前に現れたような、劇の始まりを思わせるような香り立ち。徐々に柑橘の硬さは薄れて、シトラスの酸味に甘みが加わり、ウッディ&ムスキーな、洗練された物腰や振舞いを思わせるような香りに変化していきます。
私の第一印象が「水と柑橘」だったのですが、調べてみると、基調は“アクアティック・ウッディ”だということで。水っぽい、といってもWateryの方ではなく確かにAquaticの方で、その透明さと流動感は、水のような風のような感じです(そしてその中に、何か先を見据える自負のようなものが含まれているような)。
ところで、先の映画の主人公を演じた俳優のペイマン・モアディはニューヨーク生まれ(のイラン育ち)だということで、このニューヨークブランドの香りを置いたのも何かの縁と申しますか、製作者のちょっとした洒落たウィットなのかも知れません。
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2013/1/23 17:53:47
ただの短絡的な南国の香りではなく、明るいようでいて多層的で含蓄があり、そこに息づく過去や未来もひっくるめた重みや意志を感じさせる、色彩豊かな香りだと思います。そうですね、何でしょうか…ソラリスの海のような?
エデンプロジェクトの話からイメージが膨らんだのか、この香りに触れると浮かぶ心象があります。それは、それ自体が一個の世界であるかのような巨大な熱帯雨林のドームで、その上空を高く高く旋回するのは多彩色の鳥。そして自分がその目線になって、俯瞰で全景を見下ろしているような…、そんな、何とも壮大で叙事的な光景です。
人間の感性というのは不思議なもので、私だけかも知れないのですが、妙なことに、この香りからもう一つ、L'Arc〜en〜Cielの“NEO UNIVERSE ”という曲を思い出します。この“BEYOND PARADISE”という壮大な響きと香りが私にもたらす前述の俯瞰で世界を飛び回り見下ろすイメージと、どこか似通う“NEO UNIVERSE”という響き、そのPVの、(無機的ではありますが)未来都市の風景が広がってゆくエピックな映像・世界観とが、私の中でリンクしたのだと思います。
この香水の名称と香りの見事な一致は、私のイメージ遊びの打ってつけの触媒となったようで、先のドームの続きで、私の中から更に、「サイレント・ランニング」という映画が引っ張り出されて来ました。地球から動植物が滅んだ後、その僅かなサンプルをドームに載せた宇宙船が、科学者と共に宇宙空間を漂う、という映画です(「天空の城ラピュタ」の元ネタの1つといわれていますが、おそらくその通りだと思います)。こちらは随分絶望的なお話ではありますが…。
あまりにも個人的な感覚なので、投稿に非常に悩むところではありましたが、とにかくこちらは、稀に見るくらい色々なイメージを私にもたらしてくれる非常に興味深い香水で、香りから次々に喚起されるものを引き出しては眺め、感嘆し、随分と独り遊びを楽しめました。
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