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PARFUM SATORI / Hyouge/ヒョウゲ

PARFUM SATORI

Hyouge/ヒョウゲ

[香水・フレグランス(その他)]

容量・税込価格:50ml・13,200円発売日:2008年

6購入品

2021/12/25 14:13:37

「織部よ、人と違うことをせよ。」

師匠が点てた茶をいただいた後、手にした黒楽茶碗を拝見していたときだった。千利休はゆっくりとそう言った。二畳の数寄屋。わび数寄の精神を配した簡素な茶室の中には、これまで感じたことのない緊張感が漂っている。それでも師匠の利休は口元に静かな微笑を浮かべ、弟子の織部を見つめていた。一輪の花と茶の香りが静かに流れている。古田織部は心中こみ上げるものを飲み込むように、師に深々と頭を下げた。

1591年、天下人、豊臣秀吉の相談相手であり、影のフィクサーでもあった茶人、千利休は、茶に華やかさを求める秀吉と次第に対立するようになり、遂に堺への謹慎を命じられた。だが利休も弟子の織部も知っていた。秀吉は一度にらみつけた男に対して絶対に容赦しない男だ。近いうち切腹の沙汰があるだろうことを。織部は茶室で頭を下げたまま、どうにかして太閤に直談判せねば、と硬く唇を結んだ。最後の茶を頂いた質素な漆黒の楽椀を見つめながら…。

日本人調香師、大沢さとりさんが作られているパルファン・サトリの香水の中に、かつてこの古田織部の名を冠した香水があった。名はそのまま「織部」。安土桃山時代の茶人、千利休の弟子として可愛がられ、後継の茶人として秀吉、家康、秀忠に仕えた男、それが古田織部だ。その名をとった香水「織部」が「世界香水ガイド3」で香水の帝王ルカ・トゥリンに高評価を得たあたりから名前が「ひょうげ」に変わったことは記憶に新しい。

そして確かに、そのひょうげの香りがすばらしい。

ひょうげをスプレーする。開幕、うっかりユリの茎を手折ったときのような生っぽく青臭い香りが鼻をかすめる。同時に、その青さを包むかのように涼やかな白い花の香りがしている。シャープでみずみずしい茎や葉の香りと、ほんのり甘く冷たい花の香りが、ふわふわと拮抗し合いながら、見事なバランスで香り立つ。ルカ・トゥリンはこのフローラルを「ヒヤシンスとユリ」と表現したけれど、わからなくもない。とても低くて冷たくて、わずかに毒気すら感じる花の香りだ。それが緑の茎と葉の香りの上に咲いているようなトップ。

しばらくすると、冷たくふくよかな花の香りがより明確になってくる。ひょうげの感想を見ると、多くの方が「抹茶の香り」と言っているが、自分の肌の上では抹茶の香りにはならない。これは純然たる「花」の香りだ。花と葉と茎、それぞれが主張しながら調和した1つの花の香りになる。ただ、常に奥に「日本の煎茶」の香りがスッと流れている。

トップからミドルは、それほど変化する感じではない。香料イメージとしてジャスミンやヴァイオレットとあるので、おそらくヘディオンとβイオノンをミックスしてお茶の香りを再現しているのだろう。これはジャン=クロード・エレナが多用するグリーンティーノートの作り方だ。ただ、海外のグリーンティー香水と違って、ひょうげの緑茶ノートは、本当に日本のお茶らしく爽やかであっさりスッキリしていてとてもいい。花の香りに美しい透明な緑色の影を垂らしているようなイメージだ。まるで織部焼きに施された緑色の釉薬のように。

織部焼きは、古田織部が作った前衛的な陶器で、今なお人々に親しまれている。当時の茶碗の名品は「名物」と呼ばれたが、形もいびつで愛嬌のある彼の作品は「へうげ(ひょうげ)もの」と呼ばれた。

ひょうげを付けて1時間ほどすると、お茶の花を模したようなシトラス&ジャスミンっぽい花の香が次第に消失し、ベースにあったお茶の香りが穏やかに広がってくる。ラストはベースのお茶+パウダリーがゆっくりたゆたう。抹茶の香りと評されるのは、こうしたラストのあたりかも知れない。イオノンとアイリスのパウダリーが柔らかく感じられ、和服の装いや白粉の匂いにも感じられてくる優しいラストだ。パルファンサトリの香水は、どれも出力はそれほど強くないが、しっかり一点で香り続ける。持続時間は6〜8時間ほど。近くに寄ってプライベートゾーンに入れる者だけが、このお茶と花と和の装いの香りを聞くことができるだろう。

ひょうげには、西洋香水の「これでもか」とばかりに濃厚な花の香りを組み合わせるのではなく、最小限の厳選された香料を用いて注意深くバランスをとって組み合わせた繊細さが感じられる。まさに、ムダと虚飾を一切廃し、千利休が大切にした侘数寄(わびすき)の心を大切にして作った引き算の香水、彼の茶室そのものの香りだ。

千利休が大阪を去る日が来た。弟子達はみな秀吉の怒りに触れることをおそれ、淀の船着き場には織部と細川忠興の2人しかいなかった。船が出る。織部は見つめた。師の凛とした後ろ姿を。誰に対しても厳しく、そしてどこまでも優しかった師匠を

へうげものが いつまでも 見送っている

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ディオール / ディオール オム オードゥ トワレ

ディオールディオールからのお知らせがあります

ディオール オム オードゥ トワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

6購入品

2017/3/11 20:14:22

「ココアの香りのフレグランスがある。」人づてにそう聞いたのが、ディオールオム・オードトワレと出会うきっかけだった。

曇天と乾いた空気、冷たい雨や雪が心に灰色の影を落とす冬。そんな季節は、なぜかチョコレートやココアの香りが恋しくなる。心と体を困憊させるようなハードな仕事が続くとき、吐息を漏らす代わりに、ひとかけらのチョコレートをパキッとかじる。不意に口の中に広がるやさしい甘さと香ばしいカカオの風味。その瞬間の安らぎ。上質なココアがカップに注がれるとき、湯気と共に立ちのぼる温かな香り。ほっと一息つくひととき。

「ディオールオムは、ココアの香りがする。」結論から言うと、その噂の真偽は、当たらずとも遠からずといったところだ。ディオールオムは、ココアの香りというよりも、パウダリーな白いアイリスの香りが印象的なフレグランスだ。ただ、その下から甘くてビターな、ココア風と言えばそんな風味の香りがする。それは、カカオ香料の香りだ。そして、このアイリスとカカオの2つが、白と茶色の絶妙なコントラストを見せる美しいフレグランス、それがディオールオムだ。

このトワレは、2005年、オリヴィエ・ポルジュによって作られ、メタルシリンダーボトルで発売された。現在、シャネルの専属調香師である彼の才能をいち早く見い出していたエディ・スリマンのセンスには、今さらながら脱帽する。現在の黒シリンダーボトルは、フランソワ・ドゥマシーによってリファインされたもの。全体に、過剰投与されたアイリスの加減をやや調整した構成に変化したようだ。このレビューも現行品のもの。

そんなディオールオムのトップは、まず暗くて低いアイリスの香りから始まる。くすんだ漆黒の苦み、アイリス特有の内省的な暗さだ。そこにパチュリの墨のような香り、ヴェチバーの土っぽさが主張してくる。ややシダーにも似たウッディのような香りも。それでも、全体的にスッキリしていて心地よいオープニング。

3分後、わずかにシャープなラベンダーのアロマが感じられるようになる。本来のトップの香りはここかも知れない。最初のウッディからは香りが丸くなる。そして引き続き、アイリスの香りが続く。それがやがて、白く粉っぽく変化していくことを感じさせる予兆。

やがてわずかな甘さを伴って、暗かったアイリスが、白いパウダリーな香りに変わってくる。このミドルのアイリス香のコンポジションがとても心地いい。そして、そのドライでまろやかなパウダー香の下から、ほんのりビターな茶色の香りが広がってくることを感じる。それは、コクのあるカカオの香りとパチュリのコンボ。ときに、ビターショコラやココアパウダーの香りを彷彿させるような。

アイリスの熟成パウダー香とカカオ風味の割合は、7:3くらい。メンズの香りにありがちなラベンダーやウッディの重厚感、鼻につくスパイスのような感じがほとんどなく、ミドルは柔らかく上質な白粉系のフローラル香がメイン。ただ、人によりカカオ&パチュリの出方は異なるだろう。それこそ、チョコレート風味に出るか、ココアっぽくなるか、メンズっぽい苦みのあるウッディが出るか。それはやはり、自分の肌にのせて試してみるしかない。

このミドルが好きなら、ディオールオムは買いだ。なぜなら、ディオールオムは、この穏やかなパウダリーアイリスが、8時間以上も続くからだ。ラストとの境界は明瞭ではないものの、気が付くと、香り全体がさらに明るくなっていて、輝きを増した温かなムスキーで消失する。わずかにカカオやアンバーっぽい甘い香りをともないながら。

20代後半以上の男性や、シャープな身のこなし、穏やかながらも心に熱い思いを秘めた方などによく似合うと思う。同時に、女性っぽいフローラルに飽きた方、シャリマーの亜流みたいなオリエンタルに飽きた女性にも、このビターなアイリスの香りは好まれやすいようだ。同ディオールのボア・ダルジャンが好きな方にはかなりおすすめだ。

ディオールオムの前半は、暗い冬を思わせるアイリス&ココア。けれど、後半は、春のまばゆい日差しの中、コートを脱いで、軽やかな足取りで街を歩き始めるような明るいフローラルムスクに変わる。だんだんに明度と温度が増していくこの香りは、新しい季節を迎えて気分を上げていく、今のような時期にふさわしい香りかも知れない。

三寒四温。冬から春へ変わる頃、季節は行きつ戻りつしながら少しずつ進む。人の心もまた、同じように上がり下がりを繰り返して、少しずつ柔らかさとぬくもりを取り戻すのだろう。春の風に吹かれて洗われて。

美しいアイリスの白と、香ばしいカカオのブラウンカラーに彩られたミルクココアのコントラスト。ディオールオムに込められたのは、そんなひとときの安らぎと温かさ。

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ゲラン / ローズ バルバル

ゲランゲランからのお知らせがあります

ローズ バルバル

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:100ml・49,500円 / 200ml・70,290円発売日:2006/11/15 (2021/9/1追加発売)

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6購入品

2022/4/30 02:05:45

「カルメン!いつになったら振り向いてくれるんだい?」
「さあね、分からないわ。でも、今日でないことは確かね。」

世界中で愛されているオペラ「カルメン」の第一幕、大勢の男たちに言い寄られるジプシー娘、カルメン。彼女は鼻をツンとあげて次々と男たちを傷つける。棘だらけの野バラのように。

この歌劇「カルメン」をアートボードに据えた香水がある。ゲランの「最高素材による香水」シリーズ、ラールエラマティエールの最初の3作品として2005年に出たローズバルバルだ。ラールエラは2021年ボトル変更と共に、1つ1つの香水にアートイメージを添えて新生した。公式サイトでは『野生で反逆的な赤いローズ』と紹介されているローズバルバル、それはどんな香りなのか?

洋酒ライクな新型角ボトルからローズバルバルをスプレーする。つけた瞬間に広がるのは、爽やかに抜けていくハーブ様の透明な香り。これがフェヌグリークだろうか。ほんのりセロリ様の感はある。すぐさま追いかけてくるのはワクシーな薔薇の香り。薔薇の口紅によくある感じ。これはアルデハイドC-11の艶めいた香りだ。ピンク色のローズ・ド・メイを表しているのだろう。芳醇でボリューム感があり、ふんわりと漂う八重の薔薇の香り。けれど気を付けないとその棘で痛い目に合う。さながら官能的な見た目で男たちを魅了するカルメンの登場のような華やかなトップ。

5分後、わずかに蜜の香りが奥から感じられてきて、バラの香りがフルーティーに変わってくる。それはライチのようにみずみずしくピーチのようにふくよかな2つめの薔薇香だ。先ほどのワクシーローズよりも軽く、甘くかぐわしい。色に例えるならこちらの方がピンクだけれど、これが真っ赤なローズダマッセナの香り。公式サイトに「ダーマシーナローズ」と書かれているダマスクローズの香りだ。このフルーティーさは本当にすごい。もともとダマッセナが持っているフルーティーさに、ピーチ香がするアルデハイドC-11を合わせて増幅しているように思う。ミツコに使われた手法だ。

このミドルのフルーティーローズがこの香水の全て。これはバルバル(野蛮)ではない。男心をメロメロにする完熟果実ローズボムボムだ。

どんな男も、ひと目でカルメンに恋してしまう。それでもただ一人、群衆の中で彼女を見もしない男がいた。カルメンはその兵士に心を惹かれる。なぜ彼はあたしを見ないの?つかつかと歩み寄って、胸の谷間に入れていた花を男に向かって投げつける。それは弾丸のように男の心を撃ち抜いた。有名なアリア、カルメンの歌う「ハバネラ」が、兵士ホセを恋に引きずり落としてゆく。

”愛してくれない男を好きになる でも私に惚れられたらその時はご用心”

絡み合う視線。火傷しそうな心の熱量。カルメンの棘はホセの身体を貫き、真っ赤な血潮をたぎらせる。その噴き出す血を浴びた喜びのように彼女は歌い踊り、赤いドレスをひるがえす。

2人は激しく燃え上がり、そして互いに傷付け合い、やがて破局を迎える。

野蛮な薔薇。

つけて30分、ローズバルバルはこの上なく柔らかくセンシュアルなライチ&ピーチの薔薇になって続いていく。どこまでもカルメンを愛そうとするホセの心のように。ラストは、ほんのりパチュリのアーシーが効いたまっすぐなフルーティーローズの香りが引き波を作ってゆく。時間にして8〜9時間。どこまでも緩やかに優しく。

カルメンはすで新しい男、闘牛士に恋をしていた。すがるホセを冷たく突き放すカルメン。それでもホセは彼女の匂いから離れられない。復縁を迫り続ける。

彼女のローズ口紅の香りが忘れられない。ライチのような薔薇肌の匂いが狂おしく心をかき乱す。彼女が愛した2つの薔薇の匂いが憎しみを増大させる。その妖艶なのに清純な薔薇&薔薇への嫉妬にあらがえず、ホセは遂に短剣を握りしめる。彼女の匂い全てがあの闘牛士の元へ行くなら、いっそこの手で…。

闘技場の中でひときわ大きな歓声が上がる。カルメンの新しい情夫となる闘牛士が、赤いムレータで牛を誘いこみ、鋭い剣で牛の肩を突き刺したのだ。カルメンはホセの腕を逃れて闘技場の中へ入ろうとする。

そのとき

ホセの短剣がカルメンの赤いドレスに突き刺さった。地面にぽたぽたと薔薇の花びらが広がってゆく。

闘技場の中で、赤い布に包まれて牛が倒れる。
闘技場の外で、赤いドレスのカルメンが手折れる。

一人の男が歓声を上げる。男の一人が天を仰いで慟哭する。
2人は 出会った頃の女の歌を思い出している。あの日 真っ赤な薔薇は自分に微笑えんでいた。

”あたし好みの男はそうは居ない 週末だというのに 私を愛する人はいないかしら?”



いいところにいたわ

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LIBERTA perfume / SOLTERRA

LIBERTA perfume

SOLTERRA

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2021/6/26 00:12:08

夏休み。青い空。もくもく白い入道雲。少年は虫取り網と、クワガタを捕まえたカゴを勲章のように抱えて森から帰ってくる。ギラギラの太陽。ひまわり畑の横を通ったとき、キャッキャッと笑う少女の声がひまわりの迷路から聞こえた。あ、あの子だ!友達と遊んでる。

青空と緑の森、そしてひまわり畑。それは日本の夏の原風景。そんな夏の自然を感じさせる香水がリベルタ・パフュームのソルテッラ・オードパルファムだ。

オンライン診断でその人に合った香りを提案し、オーダーメイド香水の分野を切り開いてきたリベルタ・パフューム。満を持して発表したプレタポルテ香水第1弾は、春の香りサクラマグナ。そして第2弾となる夏の香りが、実際にはない「ひまわりの香り」をイメージしたというソルテッラだ。

ソルテッラをスプレーする。その瞬間、金色の至福に包まれる。一瞬で、天然香料がオーバードーズされた贅沢なトップと分かるふくよかな香り立ち。どこまでも爽やかなシトラスミックスの香りが広がり、心がリフレッシュする爽快な開幕。

はじめは、レモン様の黄色い酸味あるシトラスが一瞬の陽光のようにはじける。すぐさま、ジューシーで心地よい苦味のあるオレンジ果皮の香りが広がってくる。さらに、ほんのり効かせたグレープフルーツのかん高い苦味が、オレンジ果皮の苦味とシンクロして夏空の積乱雲のように上昇していく印象。この開幕3分ほどのシトラスミックスのバランスが超絶いい。

そして

この黄色とオレンジ色のシトラストップを上手く支えているのは、葉や草の匂いを思わせるシャープでグリーンなガルバナムだ。このガルバナムとシトラスの割合、これも絶妙。

付けて5分ほどすると、ソルテッラはピーチ様のフルーティーさとオレンジフラワーの甘くふくよかなフローラルに変わってくる。先ほどまでの強烈な黄色い香りは何だったのだろうと思うほど、優しいフローラルミドルに変わってゆく。わずかにゴムのファセットをもつネロリやオレンジフラワーの軽やかな甘さ、その軽さを引き締めるように低音で響いている香りは、オスマンサスのようだ。リベルタの山根氏のジャーナルには、シトラスとこのオスマンサスの取り合わせこそが、ソルテッラ調香の妙だと紹介されている。確かにアプリコット様の酸味と甘みをもったオスマンサスは、強くて主役級にもなる香料だが、ここでは高音部のネロリ&オレンジフラワーと対をなすベース音のように、低音で鳴り響く影の役割なのだろう。

考えてみれば

トップは黄色いグレープフルーツとオレンジ色のビガラード。これらは早く揮発しようとする高い香りだ。それをしっかり支えていたのがグリーンなガルバナム。

ミドルでは、柔らかく甘く軽いオレンジの花の香りに、確かな陰影をつけるべく低温部に重ためのオスマンサスを対比させる。

これはとても理にかなった方法で、トップ、ミドルごとにしっかり独立した調香がなされていることが実感できる。

やがて

つけて1時間ほどすると、香りはラストになる。オレンジの残香を伴ったややスパイシーなウッディ、ベチバーの香りが感じられるようになってくる。大地の匂いを思わせる落ち着いたラストという印象だ。色で言えば黒に近い茶色。たっぷりの栄養と水分をはらんだ、シャープで土っぽい香りのベチバーが、静かに横たわるひまわり畑の土を感じさせてドライダウン。ここまで付けて1時間〜2時間ほど。

まとめると

真夏の太陽を思わせる金色シトラスのトップ。力強く優しいひまわりの花の香をイメージさせるネロリ&オスマンサスのフローラル二重唱、そして豊穣な大地の匂いを感じさせる安息のウッディ、ベチバー。このへんの香料がキーとなって変化し、ソルテッラは真夏の太陽と大地の香りを豊かに表現している。

リベルタ・パフュームによると、天然香料80%という驚異の配合率のよう。そのためか、ソルテッラの香料揮発は早めで、体温高めの自分の肌では1時間くらいで消える傾向にある。ただ、こうしたトップのシトラスミックスに重点を置いた香水は、むしろ短時間で消えるから使いやすい、という方も多い。感じ方は人それぞれだろう。とてもリフレッシュ感の高い香水なので、思い立ったときにシュッと気軽につけて楽しむ使い方が似合う夏向きの香りだ。日に何度もタッチアップして。

「はい、タッチ!」突然始まったひまわり畑の鬼ごっこ。勝手に鬼になった少年は、次々に女の子をつかまえてあの子を探す。ザワザワとひまわりの葉が鳴っている。よーし、あっちだ。

「見っけ!」

驚いた少女の顔。得意げな少年の顔。
土の匂い。夏空の入道雲。セミの声。

その瞬間、2人一緒に笑った。


ソルテッラの夏  ひまわり畑でつかまえて

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ルイ・ヴィトン / アポジェ

ルイ・ヴィトン

アポジェ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2018/12/8 06:49:33

旅に出よう。自然の中へ。目指す地には何が待っているだろう?モノグラムのスーツケースに最低限の荷物と最高の香りを詰めて。胸いっぱいにワクワクを秘めて。

ルイ・ヴィトンが2016年、満を持して70年ぶりにリリースした「旅」を象徴する美しいフレグランスたち。アポジェはその最初の7本のうちの1つ。旅の始まりが薔薇の羅針盤であるローズデヴァンなら、アポジェはその旅の中で4番目の位置づけ。文字どおり旅の「最高潮(到達点)」を表したであろう香り。それはいったいどんな香りなのか?そこに秘められた調香師ジャック・キャバリエの思いは?アポジェの香りの秘密に勝手にせまる。

シンプルで美しい薬瓶ボトルからアポジェをスプレーする。その瞬間、柔らかくフルーティーな芳香が広がる。甘くて芳醇なお酒のようにクリーミーな香り、これは思いきり洋ナシ系の香りだ。ネット上では誰一人言ってないがそう思う。この洋ナシ系の香りには時々酸味も感じられ、みずみずしいリンゴの果実の香りにも思える瞬間がある。また、わずかながらバナナの香りに感じるような発酵したノートがある。さらにオレンジ系の酸味も感じられるので、洋ナシよりもマルメロの香りに近いかなと思う。

マルメロの近似種はカリンだ。鮮やかな黄色の実をつけ、その甘酸っぱく柔らかな芳香はとてもジューシーで印象的だ。以前、シャネルのチャンスオータンドゥルをレビューしたときに、トップからマルメロのフルーティーさが感じられると書いたけれど、アポジェの場合は洋ナシやマルメロ系そのもののフルーティーな香りが強く主張してくるイメージだ。

10分もすると、フルーティーさはそのままに、下からジャスミンやふんわり軽いローズの気配、マグノリア系のマイルドなファセットが感じられてきて、あ、やっぱりベースはフローラルなんだなとわかる。時折スッキリしたグリーンな感じも見え隠れし、ライトなミュゲだなあと実感することも。とてもしっとりとしてフェミニンな印象のミドルだ。香調全体がスライドするのではなく、さまざまな香料が見え隠れするように現れるのは、ジャック・キャバリエお得意のスパイラル調香の成せる業か。アポジェでメインに据えたのはミュゲ(スズラン)とのことだが、これまでのミュゲの香水に比べてもはるかにライトでフルーティーな印象だ。自分には洋ナシ系の香りがメインとしか思えない。

調香師の大沢さとりさんによると、洋ナシの香りはエチルアセテート、ヘキシルアセテートなどのエステルにムスクを少し入れたフルーティベースを元に、ミュゲ系香料を合わせて創ることができるという。だからアポジェは「ミュゲ香をベースにしつつ洋ナシ様のフルーティーさが強く感じられる香り」という認識もあながち間違っていないだろう。

香りはトップからラストまで大きく変化なく、洋ナシ〜ホワイトフローラルブーケのノートがずっと続いて静かに減衰してゆく。持続時間は自分の場合で4〜5時間ほど。ベース香にジャック・キャバリエお得意の軽いホワイトムスクが配合してあるようで、さすがオゾン系の始祖、どこか水や空気のように澄んだ透明感ある香りのまま柔らかく消えていく。ウッディをほとんど感じないので、他の香水と重ね付けも楽しめるだろう。実際、ヴィトンのフレグランスアドバイザーもそんな話をよくしている。フルーティーフローラル系統といってもいいほど、ライトで透明感ある香りだ。

ではなぜ香りの旅の「最高潮〜クライマックス〜」が、洋ナシやマルメロ系のフルーティーなスズラン香なのか?

一つはスズランがフランス人にとって、大切な人に贈る「幸運の花」であることが考えられる。フランスでは毎年5月1日、街中にミュゲの売り子が現れ、愛する人へ小さな花を贈り合う習慣が続いていることから、とても大切な花としてテーマにしたのでは?ということだ。

また洋ナシやマルメロ香は、どこかギリシャ神話に出てくるヘスペリデスの園の伝説を彷彿させる。ゼウスとヘーラーが結婚したときにガイアから贈られた「黄金の果実」。通常この「不老不死ももたらす」とされる果実はリンゴとする伝承が多いが、黄金色で芳香を放ち、形も似ていることからマルメロだと捉える説も強いようだ。元々フランスやイタリアでは昔からマルメロの生産が盛んで、コンポートやジャムなどの加工食も有名だ。フランスとイタリアをつなぐ香り、いつしかそんな旅のイメージが心によぎる。

旅の最高潮、それは目的地への到着。そこは花々と果樹に囲まれた小さな楽園だった。愛する人に幸運をもたらすというすずなりのミュゲが香り、黄金のマルメロが妙なる芳香を漂わせている。マルメロの花言葉は「魅惑」「幸福」だという。

そこはアポジェ。旅の到達点。幸福の香りに包まれた魂の安息の地。

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poodlefuukoさん
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プロフィール
  • 年齢・・・47歳
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自己紹介

よくお世話になっています。 化粧品を買う前に必ずこちらでクチコミをチェックするのが習慣になってしまいました。 続きをみる

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