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2016/7/2 01:18:34
シャリマー、それは女性用香水の至高の逸品。あらゆる年代の女性の魅力を底上げする香り。
女性の美しさ、高貴さ、甘美さをひきだす琥珀色のヴェール。男性の本能を無意識下で揺さぶり続け、心に刻みつける香り。恍惚の媚薬。
この世には、本当に出会った瞬間、衝撃でのけぞるような香りがある。自分にとって、シャリマーはその1つだった。本当にときどきしかないが、初対面で心を奪われる人がいるように、香りにも心をわしづかみにされる物がある。「何を大げさな」と感じる方は、まだ出会っていないだけかも知れない。かけがえのない人にも、心震わせる香りにも。
だが「彼」は出会った。その人生において、何者にも代えられない運命の女性と。
ムガール帝国の第5代皇帝シャー・ジャハーン。彼と彼の愛妃、ムムターズ・マハルの物語。シャーはハーレムにいた他の女性には目もくれず、ただひたすらにタージ(ムムターズの愛称)だけを愛し、その間に13人の子をもうけたという。14人目を身ごもったタージが亡くなったとき、シャーの悲しみは天空を裂き、全ての権力と財を注いで、総大理石造りの彼女の霊廟、タージ・マハルを何十年もかけて建設させた。この愛の逸話はつとに有名だ。
もしもこの逸話に感銘を受けたジャック・ゲランが、「タージ・マハル」という名の香水を作っていたなら、それはおそらく、彼の叔父であるエメ・ゲランが作ったジッキーのように、愛する者との別離や深い喪失の色を呈した、もの哀しげなフレグランスになったことだろう。だが、彼はちがった。
ジャック・ゲランは、一途にタージを求め続けたシャーの偏愛とも言うべき姿を、2人が愛を睦み合った庭園の名である「シャリマー(愛の殿堂)」というイメージに凝集した。それは、愛する者を失った悲しみ以上に、深く強く心に刻まれていたであろう2人の歓喜の日々。そんな美しく官能的な日々を彷彿させるあたたかい香りだ。センシュアルではあれど、エロティックにはあらず。
そんなシャリマーのトップは、強烈なハーブと樹脂の辛みとベルガモットが、噴水のように空気中に霧散して開く。まるで、チェリーコークに花々やハーブを入れて煮詰めたような雰囲気だ。そして、確かにジッキーのオープニングを思わせる。シャリマーは、ジッキーのノートにさらに香料を加え、重層的にリファインしていく中で作られたようなので、なるほどと思う。心をわしづかみにする強烈なベルガモットの拡散と、その下から同じ熱量で鼻を刺激してくる薬草や樟脳っぽいスパイシーなオープニング。好き嫌いはあるにしても、ひとかぎで他の香水と全く違う繊細な複雑さ、高級さが感じ取れると思う。けれど、高慢ではない。絶え間なく鼻と脳を刺激し続け、あっという間にとりこにされる。まるで、シャーとタージの衝撃的な出会いのように。
そしてすぐにミドル。炭酸のように拡散していたベルガモットが落ち着いてくると、シャリマーのミドルは、驚くべきことに温度が上昇する。ここがジッキーとの大きな違いだ。もっと甘くかぐわしく昇りつめていく。暗くパウダリーなアイリスと樹脂の甘み、パチュリの苦みが入り混じり、重奏を奏でる。低い太鼓が鳴り、シタールの調べが聞こえる中、松明のオレンジ色の灯りに照らされて、2人の体温がどんどん上昇してゆくイメージ。それは、燃えさかる愛の調べ。誰にも邪魔されない2人の時間。
やがて気がつくと、穏やかなヴァニラとトンカビーンの香りに変わっていることに驚きを覚える。そんなクリーミーな甘さが感じられたらラスト。パルファムなので拡散力は弱めだが、点でつけたときのかぐわしさ、自分の体温や気温、湿度に応じて、さながらオーロラのようにさまざまに変化する香りの揺らぎは、トワレやオード・パルファムの比ではない。そのわずかな変化を楽しむだけで深い安息を得ることができる。それは、オポポナクスの甘い樹脂香と、白っぽくパウダリーに落ち着いたアイリスと、柔らかなヴァニラ。至福のラスト。恋人たちの体温であたたかみを増したシルクを思わせる香り。このラストに包まれて眠りにいざなわれたなら、どんなにか安らぎ、よい夢が見られるだろう、そう思えるようなドライダウン。シャリマーを特別な夜の寝香水にしている方が多いという話も頷ける。それは、2人の穏やかな寝息。白亜のパレスの蒼い夜。
シャリマー、それはゆるぎない愛と官能の泉。こんこんと湧き出る琥珀色の陶酔。一途な愛を現世にとどめつつ、時空を超え、天上での再会を誓って焚きしめられた聖なるバルサムの香り。思い出の庭園の上に広がるインディゴ・ブルーの夜空。星々のまたたきに吸いこまれ、消えていく白い燻煙のドレープ。とろけるような天使のヴァニリック・ゲルリナーデ。
その香り、別格。
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2021/1/30 13:36:53
参りました。素直に。これはすばらしい香り。誰もが是非一度は肌にのせてみてほしい香水。超お薦め。
ゲランのシャリマー・フィルトル・ドゥ・パルファン。この見事なバランス感覚に脱帽。ゲラン5代目調香師ティエリー・ワッサーと彼の調香チームの真の実力を見た。もうワサ夫とか言わない。(←最初から言わないように)
世界初のオリエンタル香水として今なお燦然と輝くゲランのシャリマー。フィルトルはその亜種で、星の数ほども出されてきたフランカーの1本。2020年12月発売の数量限定品。50mlで税込13800円。初めてだ。1本使い切らないうちにもう1本キープかなと思った香水は。
シャリマーは、香りも含めてコーラと共通点が多い。オリジナルのコーラは百年以上前に発明され、今なお世界中で愛飲されている。シャリマーも同様だ。そしてどちらもシトラス、スパイス、ヴァニラなど、多くの共通香料が使われていて香り的にも近い。さらに、チェリーやレモンやシナモンなど、構成フレーバーの一部をあえて過剰投与した限定品を次々に出している点もだ。シャリマーはいわば、薬草と樹脂と花の香りを添えたコーラのような香水だ。
ただし、シャリマーは香水の名作だけあって、亜種作品に対する愛香家の気持ちと鼻は、コーラの味以上に手厳しい。「また亜種か」という冷笑と一瞥が必ずあり、新作の度に「これはシャリマーじゃない」「オリジナルよりピンとこない」など、猛烈な批判に晒される。そして「ワサ夫、何でもオレンジフラワーとホワイトムスク入れてごまかすなよ?」などと言われる始末。(←それは貴方の意見では?)
ともあれシャリマーフィルトル、この作品はどこか超えた。少なくとも自分はそう感じた。では一体、どんな香りなのか?
フィルトルをスプレーする。その瞬間、わきあがる金色の雲。爽やかなレモンの香りに包まれる。同時にほんのりハーバルな清涼感も寄り添っている。フローラル調のラベンダーの香りだ。レモン&ラベンダーは香料的にとても相性がいい。まばゆい春の陽射し。レモン色の雲。吹き抜ける青い風。それらが世界に色彩を与えてゆく季節、春を思わせる明るいイントロ。
5分後、レモンの高い酸味の下からベルガモットのシトラスが広がってくる。ベルガモットは豊かな酸味と苦みを加えつつレモンの黄色い香りを引き継いでいる。さらに、ラベンダーとカルダモンのスッキリ感、甘辛いクローブのほのかにスパイシーな風をはらみながら、春の庭園の様相を呈してくる。光。春の光。植物のシャープな葉の香り、風に揺れる野の花の香り、そして傷ついた樹木が出すツンと甘い樹脂の香り。そんな広大な野に出でて、少女が一人、若菜を摘んでいるようなイメージ。
このトップ〜ミドルは、シャリマーシリーズでいうとパルファム(P)の雰囲気に近い。ベルガモットを過剰投与したPに対して、フィルトルはコーラで言うなら、グラスコーラにレモンを丸ごと一個しぼって入れた超生絞りレモンコークな香りだ。フィルトルは、かなりPのイントロのシトラスの爽やかさにこだわって創っている。そしてこのシトラスが想像以上に長く続いてとても驚く。ミドルは、レモン&ベルガモットが5、ラベンダー1、スパイス1、フローラル1、トルーバルサム1、パチュリ1、的な構成で展開する。この比率が凄まじくいい。PとEDPは、次第にアニマリックとアンバー&ウッディが強く出てきて温度を下げ、艶っぽい夜の密会的雰囲気になるけれど、実際そこが濃厚で苦手という方も多かった。フィルトルは、P前半の爽やかさとスッキリ感をずっと保ち続けている印象。光に満ちた庭園の香り。これはデイタイムシャリマーだ。
やがて30分ほどすると、香りはさらに変化する。このままシングルノートで終焉かと思いきや、まさかのヴァニラアイス大量投入。さらにアイリスの甘いベビーパウダー香添え。レモン色の爽やかさを落とすことなく、白いヴァニラのわた雲な香りが広がってくる。そこにほんのり香るシナモン様トルーバルサムが超絶アクセント。これは悶絶級のクリーミー&パウダリー。そのまま、まろやかクリーミーな香りでドライダウン。付けてから5〜6時間。香り立ちは柔らかく使いやすい。これはPのシトラスとヴァニラを強調して重さを除いた、いいとこ取りの香水だ。
灰色の空の切れ間。突然現れた太陽の光が、雲のエッジを金色に染めてゆく。庭園の緑が鮮やかに色を取り戻す。あたりは瞬く間に光が満ち満ちてゆく。鳥が歌い、花々が揺れ、流れる水音が聞こえる。レモンとハーブと甘いバルサムの香りがしている。少女の白い服がホリゾントの光にまばゆく浮かび上がる。そして移ろうヴァニラホワイトの夢。
それは、太陽も恋する香水。光の庭園の媚薬、シャリマーフィルトル。
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[ルースパウダー]
容量・税込価格:15g・15,950円発売日:2023/8/11
2023/11/21 16:52:46
今季、話題のパウダーはSUQQUのザ ルースパウダーをすでに購入したのですが(口コミ投稿済み)、どうしてもこちらも気になってしまい、購入しました。私のようにどちらも気になっている方はいらっしゃると信じて、ざっくり比べてみようと思います。
☆粉質☆
SUQQUと同じく、こちらもとても良かったです。
粒子が細かく、まるで粉雪みたいにフワフワです。肌にのせるとフィルターをかけたようなマット寄りのふんわり仕上りに。ほんのりピンク色がついてはいますが、肌にのせると白と透明の間という感じで、SUQQUよりカバー力が少しあり、気品あるオーラが纏えます。
毛穴に関しては、手持ちのパウダーの中では一番隠せると思います。完全には消えませんが、気になる毛穴をどうにかしたくて、ベースメイクを色々探していたので、やっと満足のいくコスメに出会えました。
持ちに関しても崩れにくく、毛穴落ちしません。
そして、肌にのせた瞬間ひんやりと水分を感じて心地よく、乾燥を感じないところが素晴らしいです。日本独自開発のシルキーカプセルテクノロジーを搭載し厳選されたアプソリュならではの美容液が約30%配合されているとのこと。
☆香り☆
柑橘系フローラル、ローズ、ハーブが混じり合った香りとのことで、個人的にあまり好みではないので、香りが消えるまで少し気になります。逆に好みの香りなら、最高に心癒されると思います。
☆パフ☆
小さいので、鼻まわりなど小回りはききます。
こちらに関してはSUQQUの方が良質で使いやすいです。
あと、パウダーの出てくるところも、メッシュ状になっているSUQQUの方が使いやすいです。
☆容器☆
ラグジュアリーな見た目でテンション上がります。ガラスなので使い切ったときどうしようかなと思っていたら、店舗で回収していただけるそうです。ただ、このご時世レフィルがあるともっと嬉しかったです。
☆コスパ☆
LANCOME 15g 15,400円 (1gあたり 約1027円)
SUQQU 20g 11,000円 (1gあたり 550円)
★まとめ★
LANCOME→毛穴など大人の肌悩みをカバーしつつ、上質で隙のないセミマットな美肌感。
SUQQU→上品なやんわり艶肌仕上がり。肌の透明感と血色感が自然に足されて、若々しい美肌感。
2つともタイプが違うので、それぞれファンデーションなどによって、使い分けられそうです。
本来の好みはSUQQUなんですが、色んな肌悩みをかかえる45歳、冬。乾燥も加速してきて、こちらのパウダーについ手が伸びます。大事な日は、こちらのパウダーをのせて整えてから、頬の部分にSUQQUを足すという贅沢使いもしています。どちらもとても気に入っているので、大切に使いたいと思います。
長文お読みくださり、ありがとうございます。どなたかのご参考になりましたら幸いです。
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2022/5/28 08:53:57
400本めの香水レビュー。ここまでちょうど9年間、書き続けてきた。週一度1本ペースだから、レビュー数じたいは多くはない。それでもその1本を書くために、香料分析、背景リサーチ、比較検討、推敲編集やらで、1本につき平均6時間はかかってるから、9年で400×6=2400時間は香水の勉強をしてきたことになる。←そのわりにわかってないけどな
珍しい機会なので、その400本の中から心に残っている香水をほんの少しまとめてみる。
◎最もリスペクトしたクラシック香水3本
・シャリマー(ゲラン) ・ルールブルーEDP(ゲラン) ・N°9(シャネル)
◎最も心に突き刺さった香水2本
・ラペルトワ(ラルチザンパフューム) ・フェミニテ・ドゥ・ボワ(セルジュ・ルタンス)
◎最も偏愛して日常使用してきた香水
・エンジェルEDP&EDT(ミュグレー) ・コローニュロワイヤル(ディオール)
◎出す作品どれも恐ろしくできがいいと思う香水ブランド
・ピュアディスタンス ・フラッサイ
◎400書いた中で心に焼きついているレビュー3つ
・ラペルトワ(ラルチザン・パフュ―ム) ・エンジェル(ミュグレー) ・ロストチェリー(トム・フォード)
世界中で年間何万本も新作が生まれる香水業界。その中にあって、これまで出会えた香水はまさに「ご縁」。そんな中、紹介する400番目の香水は、初めからちょっと「ごめんなさい」しておきたい作品。なぜなら日本未発売かつ限定品という超入手難しい系。たぶん自分も、この先もう1本ストックを入手することはできない。そういう意味では本来紹介するつもりはなかった香水。ただあまりにも香水としてできがよく、個人的にもラペルトワに匹敵するほど美しく、自分の性癖にぐっさり刺さった香りなので、このまま誰にも知られず消えていくのは悲しいと思ったから、そっとここに置いていく。
それは、フランシス・クルジャンが2015年にパリの百貨店プランタンの150周年記念のためだけに製作したル・ボー・パルファム。この香水は自分の中で特別すばらしい作品、極上品。星をつけるなら☆7満点のところ、☆70はつけたい香水。ただそれはもちろん自分にとっての超どストライクであって、貴方にとって好きな香り、またはベストマッチとは限らない。香水に「万人に好かれる香り」なんて存在しないからだ。
ルボーの香料イメージはシンプルだ。クレジットによると以下のとおり。
インドのチュベローズ&ジャスミン、チュニジアのオレンジブロッサム、マダガスカルのイランイラン。いわゆる濃厚なホワイトフローラルブーケ系統の香り。
ただ使用している花の香料はどれも高品質ですばらしく、同時にそれらを際立たせるための「つなぎ香料」が超絶いい。しかもナイスバランス。はっきり申し上げる。さすが天下のプランタン。これを作らせるために、クルジャンにどんだけ対価を支払ったのだろうというくらい、スペシャリティ香料をふんだんに使用しているように思う。つまり「売っても赤字」なくらいゴージャス&センシュアルな出来。だから周年記念の限定香水なのだろう。
ルボーを肌にのせる。その瞬間、あまりに甘くかぐわしい花の蜜の香に脳がよろめく。体がふらつく。矢吹ジョー渾身のクロスカウンター一発もらった気分。腰からくだけ落ちる。花園に倒れこむようにマットに沈む。お花畑で好きな女の子を追いかけるスローな白日夢を見る→人間終了。な開幕。それほど左脳崩壊で言葉にならない美しいフローラル爆弾なトップ。
それでも、カウント9でギリギリ立ち上がって香りを分析するなら
ルボーは偏愛するラルチザンのラペルトワにインスパイアされて創ったのでは?と思うくらい雰囲気が酷似している。クリーミーガーデニア&山椒という「花の優しさ&スパイスの棘」の取り合わせで、内面の感情を激しく揺さぶるラペルトワ。その山椒部分をごく微量のキャラメルノート&シナモンが代替するような形で、白い花束に甘いグルマンを補完している。これがたまらない。クルジャン、あなたさてはラペルトワのベースをヒントに、同ラルチザンのアムールノクターンを組み込みましたね?と言いたくなるくらい。わからない方はわからなくていい。これはほぼ自分にあてた周年記念レビューだ。
サイレージは5時間程度。ジャスミンの残香強めでルボーは消えてゆく。ルボーは「プランタンおめでとう!」で作られたけれど、その甘くてノーブルで、どこかノスタルジックなクリーミーな花束は、プランタンとクルジャンがあなたに贈る感謝の花束の香りだ。
いつもありがとう
あなたのおかげで 今があります
あなたの一日が 美しい香りに包まれますように
おめでとう あなたへ
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2019/12/8 12:29:34
ピュアディスタンスのホワイトを知らなければよかった。この香水に出会わなければ、今も目の色を変えて世界中の香水を集めまくり、あれこれ試してはあーだこーだとくだらない能書きを垂れることに夢中になっていただろう。でもこの香水と出会って変わった。もうそんなにあれこれ探さなくていいかもしれない。そう思うようになった。だからちょっとだけこの香水に対する思いは複雑だ。この香水はあまりに美しくて少し哀しい。
ホワイトの第一印象は驚くべきものではなかった。初めて手首の内側にのせたとき、「柔らかくて、とてもなめらかで、どこかでかいだことがある香りだな。」と思った。静かに始まって、一日中ほんのり甘いパウダリーフローラルな香りが鼻を喜ばせ、自分の周りだけが特別な白いヴェールに包まれたように感じた。賦香率38%はすごすぎる。付けた手首をハンドウォッシュで洗ってもいい香りが残っているほど。この香りをウェディングドレスに例える方が多いのも頷ける。永遠の白。永遠に続く幸せ。欧米では、結婚される女性にプレゼントする方も多いと聞く。わかる。この香水はあまりに美しくてやさしい。
ホワイトの香りに包まれていると、どこか近くで聞こえないくらいの美しい音色が優しく鳴り響いている。そんな感じがする。まるで一流の交響楽団の音出しのようだ。弦楽器が静かにフェードインして、個々の楽器の高さでチューニングをはじめる。やがて木管や金管が唇の湿り具合と空間の響き具合をみるようにゆっくりと楽器に空気を送りこむ。あの静謐で、まろやかで、上質な音空間にふわりとそよぐノーブルな香りだ。あるいは幼い頃に添い寝してくれたあたたかな母の匂い。この香水はあまりに美しくてほんのり切ない。
きっとこれを創った人はとても優しい人だ。ホワイトの香りをかぐたびにそう思うようになった。そのシームレスでどこまでもスムースな香料のシンフォニーに耳を傾けていると、いつしか調香師の魂にシンクロしていく。これを創った方は、とても繊細で傷つきやすく、それでもその分、弱い相手の気持ちをおもんばかれる人だろう、そう思う。調香はアントワーヌ・リー。少しワイルドな見た目の男性調香師だ。2004年にアルマーニコードを発表したことで一躍注目され、以後多くの作品を手がけている人気調香師。彼が一年をかけてじっくりと取り組んだ作品、それがこのホワイトだ。
だが、真に熱狂的な方は別にいる。彼のような人気調香師をして一年かけてじっくり納得いくまで作品を創らせ続けたピュアディスタンス社長、ヤン・エワウト・フォス氏だ。このホワイトは彼の情熱の賜物だと思う。アントワーヌ氏は、フォス氏の強烈な圧しと情熱に全身全霊で応えたのだろう、そう思う。本当にすごいのは彼だ。
フォス氏はこの世界にただすばらしい物を生み出したいと願うパッションの塊のような人だと思う。たとえ自分で調香はできなくとも、持ち前の感性で本物を明確にかぎ分けられる天性の芸術家なのだろう。そして最高の作品を創るためならつぎこむ資金にも糸目をつけないような。だからすごい香水ができるのは必然なのだ。彼がお金儲けのために香水を創っていないことは、その美しい化粧ケースに触れた瞬間からはっきり分かる。彼は仕事に一切の妥協を許さない方だろう。ピュアディスタンスはたとえサンプルセット一つをとっても、天蓋付きのふかふかのベッドに横たわった美しい宝石のように大切に大切に提供している。ボトルの箱の方には社長自らのサインを入れて。彼はそうやって作品に魂を注いでいる。だから、この香水はあまりに情熱的すぎてぐっとくる。
最高の調香師に最高の香料を与えて、何度も納得いくまで作品を創ってもらう。香水好きな方にとってこれ以上の喜びはないだろう。そして生まれた美しい香りを世界中の人に届ける。そこにあるのは拝金主義とは全く逆の志だ。それは愛を与える行為そのものだから。
興味を持たれたらホワイトについてぜひ調べてみてほしい。この香水に関しては、香料がどうだとかトップがどうだとか言うつもりはない。ただ、ただ、試してみてほしいだけだ。自分の肌から立ちのぼる世界最高クラスの香りを。そして感じてほしい。そのとき見える世界の美しさを。そばにいて微笑んでくれるかけがえのない人の大切さを。
一人でいてはいけない。一人心を閉ざしてうつむいていてはいけない。嫉妬や憎しみで心を黒くしてはいけない。あなたがこの美しい世界にいられる時間はとても短い。愛する家族、友人、恋人と手をたずさえ、心を抱きしめ、その笑顔とともに、あなたにはいつも笑顔でいてほしい。
ピュアディスタンスのホワイトはそう語りかける。この香水はあまりに美しくて、あなたが愛しい。
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