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Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン) / バイオレット & アンバー アブソリュ

Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)Jo Malone London(ジョー マローン ロンドン)からのお知らせがあります

バイオレット & アンバー アブソリュ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:100ml・40,150円発売日:2019/3/14

4購入品

2020/4/11 12:40:15

紫は心が本当に落ちているときに選ぶ色。そんな話を聞いたことがある。カラー心理学の詳細は知らない。ただ自身の経験から言っても、そんな感じあるかもしれないなと思う。

最近の世情を反映してか、ここのところ、気分をリフレッシュするためのライトなシトラス香か、紫色を思わせるバイオレットやアイリス香を選択することが多かった。

そんな紫色の香りの中で、よく手を伸ばしていたのが、ジョー・マローンのバイオレット&アンバーアブソリュだ。

この作品は、店舗限定の最高セレクション「アブソリュ・コレクション」第二弾の香りとして2019年にリリースされた。これまでもティーシリーズなど高価格帯のコレクションや限定作品は多かったが、今回のポイントは2つ。1つはトップノートの香料を用いていないこと。もう1つは英国を象徴する花とアラビアンナイトをイメージした中東の香料の共演だ。価格は100mlで35000円+税。調香師はマスターパフューマーのアン・フリッポ。

英国人に愛される花、スミレ。そして中東を代表する甘くかぐわしい香料アンバー。ブランドいわく「アラビアンナイトを表したスミレの香り」。このスミレと樹脂の共演はどんな香りを奏でるのか?

バイオレット&アンバーアブソリュのボトルは、メタリックなディープパープルの塗料でキャップと上半分を染めたようなデザインになっている。1作目のローズ&ホワイトムスクアブソリュのときはメタリックなローズピンクだった。おなじみのスクゥエアなステッカーもあえて外した大胆な意匠だ。逆に言えば、ステッカーがなくとも、キャップとボトルのシルエットだけでジョー・マローンと認識してもらえるであろうという自信の表れともとれる。

そんなメタリックな紫のボトルからスプレーする。その瞬間、まず感じられるのは、酔わせるような洋酒の香り。アンバーのバルサミックな香りが強く主張してくる。その中から次第にやや土の香りを思わせるバイオレットリーフ、わずかな粉っぽいフローラルが感じられてくる。のっけから中東感満載だ。

とはいえ、ルタンスのアンバーのようにムッとくるようなアニマリックな雰囲気はないし、比較的スッキリしたアンバーだ。薬草のようなハーバルな感じに、コーラ系で感じられるスパイスを混ぜたような雰囲気。通常アンバーは濃厚で重たい香料なので、これらを揮発誘導させるにはトップに軽くて揮発しやすいシトラス系、特にベルガモットをもってくるとよく合うのだけれど、ここでは確かにトップ香料は感じられない。ただ、わりと爽やかにアンバーが感じられるので、逆に不思議な感じもする。

やがて3分もすると、薬草&樹脂なアンバー香の下から、パチュリ独特の苦味と黒さ、その上でかすかに白くパウダリーに展開するスミレの香りが出てくる。スミレというよりアイリスを感じさせるイオノンだ。それらがいい感じに主張し合い、中東っぽさはうすれ、柔らかいフロリエンタル風に感じられてくる。

ジョー・マローンといえばコンバイニング。重ねづけ推奨ブランドだけに、香料の厚みとしてはうすい。そして展開も付けてからあまり変化しない。イオノン系でもかなり暗めのウッディよりの香料が使われているように思う。わずかに酸味のあるウードっぽい香料もずっとベース音のように下で響いているので、スミレというよりもパウダリックアンバーといった感じの印象だ。

持続時間は4〜5時間。つけて30分もすると薬草っぽさやパウダリーな感じはうすれてきて、ウード調のベースとスッキリ甘いアンバー香がずっと続いていくイメージ。スミレというほどスミレはなく、バルサミックな香りが強めの作品。これなら35000円で特別シリーズにしなくても黒ボトルのインテンス系に加えてもよかったんじゃないかと個人的には思う。

それでも、この香りをつけていて感じる不思議なリラグゼーションは特筆に値する。この香りに包まれるとき、気持ちがおだやかになり、安らぎを感じる。心に思い浮かぶ風景は、中東の琥珀色の夕暮れ。砂漠の黄土の上に夜のとばりが降り始める。満点の星々が深紫の夜空に音もなくまたたき始める。そんな静寂のクロージングタイムに、今日1日つつがなく終えられたことを感謝したくなるような、おだやかで聖なる香りがする。

夜が来る。今夜も、明日も、よい日であってほしい。暮れゆく空の合間、琥珀色と深紫のグラデーションの間に、人は心の安息を願う一夜の夢を見る。紫の千夜一夜の香りとともに。

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MONTALE(モンタル) / アロマティック・ライム

MONTALE(モンタル)

アロマティック・ライム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,100円発売日:-

4購入品

2020/2/22 14:35:12

参った。ゲームオブスローンズにハマってしまって大変だった。1話50分強の物語全10話で1シーズンが構成されているエログロファンタジー国盗りドラマ。ファイナルシーズン8まで一気に73時間ぶっ通しで見てしまった。こんな経験は初めてだ。もしゲームオブスローンズ(以下GOT)がコスメだったら、☆100個つけるだろう。

ただGOTは誰にでも勧められる作品ではない。R15指定であり、あまりの凄まじい展開は完全に見る人を選ぶ作品だ。そこに描かれるのは徹底的に作り込まれた中世ヨーロッパ風世界。残虐非道かつ、あらゆる種類の欲望がうずまくカオス絵そのものだ。そしてそれがリアル過ぎるだけに見る者を凍りつかせる。1話あたりの制作費に10億円をかけたと言われる比類なき海外ドラマ。だから一度見ると目が離せない。こんな作品はそうそうお目にかかれるものではない。

こんなことを熱っぽく語ると「何を今頃」と苦笑される方もいるだろう。「懐かしい」と思われる方も。それでも人生ですばらしい作品に出会うとき、いつ出会うかは問題じゃない。それは映像作品でも、本でも、香水であっても変わらない。

GOTの世界にどっぷり浸かっている最中、胸がしめつけられるような怒濤の展開が苦しくて、何か強い香りをつけたいと思うようになった。そこでこの作品を見ている間中、セレクトしていたのがモンタルの香水だ。中でもアロマティックライムは、この作品の世界観にとてもマッチしていた。

モンタルといえば、スプレーネックにチャームがついたアルミ缶ボトルが印象的な中東系ブランドだ。古よりアラブ王族が愛したウード(沈香・香木)を多用した香りを多く手がけている。正直、モンタルの香りを日本で上手に使いこなすのはなかなか難しいと思っている。特に香水が苦手な方からは「こげくさい!」と不評を買うことが多い。実際、アロマティックライムというとても爽やかなネーミングのこの作品も、香りは強烈だ。

アロマティックライムの黒いアルミ缶ボトルは、容量50mlボトルなのにとても小さく見えてしまう。それは、日頃から制汗剤などの大きいアルミ缶サイズに目が慣れてしまってるせいもあるだろう。アルミ缶香水は残念ながら安っぽく感じてしまう点は否めない。ただ、香りは一度嗅いでみる価値はある。

アロマティックライムを付ける。つけた瞬間「は?どこがライムじゃ?」と思わず突っ込んでしまうほどの焦げたウッディが鼻を直撃する。強い酸味、ガルバナムのグリーンな苦味、パチュリの強い土っぽさ、それらが渾然一体となって襲いかかってくる。それはまるでGOTの北部の森だ。物陰から一気に野人が襲ってきたかのよう。動物の革と人の体臭と焚き火の煙の焦げくささに、土と血の臭いが混じる。そんな香りが一気にたたみかけてくるトップ。

3分もすると、やや酸味が和らいで主張の強いウッディの骨格がより明確になってくる。ベチバー&パチュリの土っぽいスパイシー、そこにガルバナムとミルラの針葉樹系の清涼感のアコード。ここは冷たく暗い森だ。

トップから続く酸味はレモン様で、ライムというほど苦味は強くない。しばらく同じ酸味が続くので合成シトラスのよう。このシトラスの酸味と焦げた茶色のウッディ&土の香りがミドルとなって長く続いて減衰してゆく。4〜5時間ほど香り続け、最後には香ばしいサンダルウッドオイルの香りで終焉。

全体的にフローラルがないので、トップのシトラスの酸味以外は強いウッディ系香料の饗宴といった感じの香り。何しろパチュリとベチバーのウッディがこんがり焼けていて、そこに松ヤニのように樹脂系が香る感じなので、「ライム」という名前とはイメージの落差が大きいと思う。頭にターバンを巻いたアラブの大富豪から香ったら似つかわしいだろうけれど、日本人でこの香りを上手につけこなせたら上級者だろう。中東の雰囲気が強い香木を焚きしめたようなミドル〜ラストは、GOTで言えばナローシーの東、ベントスやミアなど奴隷商人の街を思わせる。

人が人の上に立って思い通りに世界を動かす。その黒い欲望には際限がない。GOTには征服した者たちの剣を溶かして作った「鉄の玉座」が権力の象徴として登場する。この玉座を巡る者たちの戦いがどこまでも禍々しく描かれている。

残虐で、奔放で、愚かで、虚栄心に満ちて、孤独で、何も知らないそれぞれの王たち。GOTに夢中になりながら、ずっとアロマティックライムの香りに包まれていた。

暗い森の焚き火の匂い、馬と狼と革の匂い、燃えさかる城と兵士の血の匂い。

モンタルのアロマティックライムはそんな匂いの狂想曲。それは玉座に座る者のための香りだ。

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フレデリック マル / アウトレイジャス

フレデリック マル

アウトレイジャス

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:10ml・5,720円 / 30ml・15,730円 / 100ml・28,600円発売日:- (2018年11月追加発売)

4購入品

2020/2/8 15:46:10

かつて、街をゆくとかなりの頻度で同じ柔軟剤の強烈な匂いに出くわすことがあった。ダウニーのエイプリルフレッシュの香り。ダウニーの大ヒットは、良い悪いは別として「柔軟剤は香りで選ぶ」という流れを作った感がある。あの個性的な香りを作った調香師は、アメリカのIFFという香料会社の調香師だったソフィア・グロスマンだ。

ソフィア・グロスマンといえば、男性ばかりのIFF調香師の中、その卓越した能力で名を挙げ、女性調香師の先駆けとなった人物。エスティー・ローダーのホワイトリネン(1978)でチャンスをつかみ、YSLのパリ(1983)、カルバンクラインのエタニティ(1988)と次々にヒットを飛ばし、ランコムのトレゾア(1990)でその名声を確実にした。こうした活躍によって元シャネルのジャック・ポルジュ、現ルイ・ヴィトンのジャック・キャバリエらと共に「世界三大調香師」と称された。

彼女の調香師としての活動は50年ほどにわたり、クリエイションは2009年頃に幕を閉じているようだ。そんな彼女の晩年のしめくくりとなった作品の1つが、フレデリック・マルからリリースされたアウトレイジャス(2007)だ。

アウトレイジャス。意味はいろいろあるが、フレデリック・マルは「常識はずれ」という和訳を用いている。いったいどんな香りなのだろうか?

アウトレイジャスをプッシュする。最初に広がるのはとてもジューシーなオレンジの皮の香りだ。やがてその下から、より苦みの効いたライムやグレープフルーツのシトラスミックスが感じられてくる。特にライムの苦みが強い。さもありなん。このアウトレイジャスは、ブラジルの伝統的カクテル、ライムを使ったカイピリーニャの香りからインスパイアされたものだ。

カイピリーニャは、サトウキビ原料の蒸留酒カシャッサをベースに、ぶつ切りにしたライムと砂糖を加えてつぶしたロングカクテルだ。サトウキビの蒸留酒といえばラムが有名だが、ブラジルでは別物らしい。度数の高いスピリッツにフレッシュなライムの酸味と苦味、そこに砂糖の甘さが効いて、暑い夏には病みつきになるカクテルだという。

ライムを香水に使うことはよくある。ただ使う際は、独特のグリーンな苦みが強くて他の香料とのバランス調整が難しいようだ。このアウトレイジャスのトップでは、アップルの自然な甘さを砂糖に見立てることで、苦みの強いライム感を上手くジューシーにまとめているイメージだ。

使いなれないうちは、このトップのシトラスミックスで、何だか黒い不穏な香りがするなあと感じていたけれど、何のことはない。ライム、グレープフルーツの苦みに混じって、ある種のアルデハイドがアルコールっぽい香りを演出していたせいだ。それが際立って感じられ、どこかダークな色彩に感じられる。それでもそれはすぐに消えて、快活ではじけんばかりのフルーティーミックスに変わる。

やがてライムの苦みは薄らいで、しっとりとした透明感ある香りに変わってくる。アクアっぽい香りだ。トップからほのかな甘さと苦みを受け継いだウォータリーな雰囲気は、まさにサトウキビから作られる蒸留酒の風合い。スッキリとして透明感あるアルコールのような香りに変わってくる。そこに柔らかいオレンジフラワーの香りが重なってくるミドル。ここからの香りがとても心地良い。

ただラストは思いのほか早い。ムスクでも主張の弱い方だろう。わずかにシダーの温かみをのぞかせながら、甘さと苦さとスピリッツのようなえぐみを連れて減衰していく。全体的にコロンのようにあっさりとした香り立ちなので、持続時間も短め。体温高めの自分の肌では2〜4時間ほど。パッと広がってスッと消えてゆく夏の夜の花火のようにスプラッシュする香りだ。

「とんでもない!常軌を逸してる!」とも訳されるアウトレイジャス。スラングでは”That’s great!!”的に用いる言葉でもあるので、若い人向けに逆説的なネーミングにしたという感じだろう。ソフィアの作品と言えば、フェミニンムンムン系の濃厚な作品が多かったせいか、どこか肩透かしをくったようにも思うシンプルな香り。ただその透明感あるミドル〜ラストの展開は美しく、オレンジフラワーのふんわりした香りに心が和む。

熱帯の夏の浜辺、濃厚なフルーツの匂い、火照った肌を過ぎる風、ライムの苦みが効いた冷たいカクテル。そんな風景を思い浮かべたソフィアの晩年は、こんなにもシンプルで穏やかだったのだろう。まるで何かの呪縛から解放されたかのように。心ときめかせる南国の風に吹かれて。

アウトレイジャス。それは「常軌を逸する」ほどの大ヒット柔軟剤を手がけたソフィア最後の置きみやげ。香水界の女王がそっとパレットを置いて傾けた、心に沁みるライムカクテルの味。

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Viktor and Rolf / SPICEBOMB

Viktor and Rolf

SPICEBOMB

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2020/1/25 13:51:04

人を非難するのは赤子の手をひねるより簡単だ。おちょくってバカにして、揚げ足をとってあざ笑うことは誰にでもできることだ。それを「いじる」などという言葉で擬態する醜悪な人間性を心から軽蔑する。そんな輩は心の中の爆弾で吹き飛ばしてやるといい。リングを引き抜いた手榴弾を放り投げて。木っ端みじんに跡形もなく。

ここに黒い手榴弾の形をした武骨な香水がある。名をスパイスボムという。日本ではあまりなじみはないが、オランダ発のファッションブランド、ヴィクター&ロルフ社が2012年にリリースしたメンズ香水だ。調香は現在シャネル4代目調香師として活躍しているオリヴィエ・ポルジュ。彼がまだNYのIFF社に勤めていた頃の作品。そしてこの作品は、同社のフラワーボム(2005)に続いて、世界中で大ヒットを記録した。

スパイスボムのボトルにはキャップがない。スプレーボタンのネック部分に黒いプラスティックリングがはめられている。このリングがあるので、たとえこのままバッグに入れたとしても勝手にボタンが押される心配がないという仕様だ。

このネックチャームを引き抜く動作が、まさに手榴弾からリングを外す動作そのもの。この仕様は地味にアーミーマニアの魂をくすぐる。ちなみに手榴弾は、その形状から俗にパイナップルと呼ばれるが、スパイスボムのボトルはまさにギミックも形もパイナップルそのものだ。時々本当に、吹き飛ばしたくなる輩に投げたくなる困った代物だ。

そんなワイルドな手榴弾ボトルをギュッと片手で握りしめ、リングを抜いてボタンを押し込む。その瞬間、爆煙のように広範囲に広がる香りのシャワー。その香りの硝煙に鼻を近づけると、予想外に洗練された繊細な香りが広がる。

はじめに感じられるのはシトラスの爆発だ。冷たいシトラス。オレンジとベルガモットのジューシーな開幕。すぐさま、冷たい樹脂系の辛みが一緒に立ち上ってくる。これはエレミのようだ。そしてピンクペッパーの少し酸味あるスパイシー。これらがストレートに拡散してくる。ストレートで小気味よい爆発だ。

5分後、シトラスの煙が消失するとともに現れるのは、焼けつくようなスパイスの静かな辛み、タバコとジンジャーのような熱を感じる風合いだ。トップは冷たいシトラスの爆風、それに続いてスモーキーな熱を感じる香り、つまり「冷」と「熱」のコントラスト。これはオリヴィエ・ポルジュのお家芸とも言うべき対比のアコード。

オリヴィエ・ポルジュは、どちらかというとメンズ香水で名を挙げた調香師だ。彼の最大のヒット作と言えば、まだ若い頃にエディ・スリマンの卓越したセンスの下で生み出したディオール・オム(2005)が挙げられるだろう。それは、冷たいアイリスのパウダリーと、ココアの温かみあるコクという相反するニュアンスを同時に織りこんだ画期的なメンズ香水だった。以来、オリヴィエの作品は、アルマーニコード・フォーメン(2006)、D&Gジ・ワン・フォーメン(2008)、DIESELオンリーザブレイブ(2009)と、男性用香水の分野で多くの名作を生んできた。そのノウハウがスパイスボム(2012)に生かされ、静かに爆発したのだろう。

スパイスボムのミドルは、シナモンのスパイシーを中心に、タバコやレザーのスモーキーな風合い、そしてエレミの辛みを巧みにブレンドしながら、冷たく熱く、混沌と展開してゆく。爆弾というネームほど強烈ではない。どちらかというとMCDが最近リリースした「スパイスブレンド」という名の方が似合う穏やかな香りだ。主張も柔らかく、大体4〜6時間ほど静かに香り続ける。トワレなので、上半身にうっすら付けるか、下半身にたっぷりつけるかで香り立ちはかなり異なる。フルーツや調味スパイスの香りをブレンドしているので、意外にも食事を邪魔しない香りだ。ただし、付け過ぎには注意。

いつの間にか人付き合いにネットが大きく関わるようになった。今まで自分の耳には届かなかった心ない言葉も、見なくて済んでいた衝撃的な画像も、見ようと思えば簡単にエゴサーチできる時代だ。己はともかく、自分の大切な人を傷つけるような言葉や画像が飛び交う今、人ははたしてどうやって大切なものを守るのだろう?守りきれるのだろう。

そのとき、心の中で静かに投げる爆弾があったっていい。実際に投げてはいけない言葉、本気で着火してはいけない炎が、現実世界にはあるからだ。

スパイスボムは、その見た目とは裏腹にマイルドスパイシーでセクシーな香りだ。ただ知っておいた方がいい。その武骨な手榴弾ボトルを握りしめた手が、本気で起爆リングを引き抜くことがあるかもしれないことを。

人はいつもパイナップルのリングを指にかけ、ギリギリのところで日々を戦っているから。

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ペンハリガン / ザ・ルースレス・カウンテス・ドロシア(ポートレート)

ペンハリガン

ザ・ルースレス・カウンテス・ドロシア(ポートレート)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2020/2/1 16:42:38

こぼれ落ちている。

ティーポットから紅茶がカップに注がれる様子を見て、ドロシア伯爵夫人はそんなふうに感じた。彼女はティーを注ぐメイドの様子を冷ややかに見つめている。メイドは緊張した面持ちで夫人の前にカップを差し出す。その瞬間、夫人がメイドの横顔を見て言った。

「貴女、昨夜ボーレガードとすれ違いざま、首筋にキスされていたメイドね?」

婦人の突然の言葉に、メイドはビクリとして動きが止まる。紅茶がカップの中で揺れる。あわてふためいて何か言おうとするメイドの声を手の平で遮ると、夫人は呼び鈴を鳴らして女中頭のハウスキーパーを呼んだ。

「この娘、おいとまが欲しいそうよ。代わりのメイドにスコーンを運ばせなさい。」

彼女はザ・ルースレス・カウンテス・ドロシア(冷酷な伯爵夫人ドロシア)。ペンハリガンのポートレートシリーズから2017年にリリースされたオーデパルファムの名だ。75mlで35200円。

ポートレートシリーズは、広大なカントリーハウスで繰り広げられるイギリス貴族の架空の物語をベースにしたハイエンドな香水の作品群。その中でドロシア伯爵夫人は、物語の中心人物であるジョージ卿の母という設定。一族の家長として君臨する聡明かつ気高い完璧な女性、ドロシア。彼女は身内のスキャンダルの全てを知りつくし、憂慮している。しかしその一方で、自分は若きフランス人男性ボーレガードを友人と称して屋敷に招き入れ、特別懇意にしているという噂も。

そんなドロシア伯爵夫人のキャラクターはフクロウ。ふだんはじっとして動かないが、いったん獲物を見付けると決して逃さないどう猛な猛禽類。ではこの強烈な個性を秘めた女性の香りとは、いったいどんなものなのか?

ドロシアのトップは、穏やかで透明感ある洋酒の香りで始まる。ほのかに甘くスッキリ広がるシェリー酒の香り。同時に出てくるのは、ティーを思わせるベルガモット、そして温かみあるシナモンとジンジャーの美味しそうな香り。さながら英国のアフタヌーンティーの時間を思わせる。アールグレイの爽やかな香気、香ばしい焼きたてのスコーンの香り、そこにスパイスがほんのり混じったような。

次第にジンジャーとシナモンの風味が強くなってきてミドル。ミドルになると、ベルガモットの酸味やコクが消失する代わりに、より一層スコーンやビスケットを思わせるクリーミーな雰囲気が出てくる。わずかにスモーキーな良質のヴァニラ香だ。ドロシア夫人はことのほかスコーンが好きだという。英国式のアフタヌーンティーの様式の中で、特にティーとスコーンの組み合わせはクリームティーと呼ばれ、スコーンにはジャムと濃厚なクロテッドクリームが添えられる。そのヴァニラクリームの感じだ。彼女は広大な邸宅の中を悠然と散歩しながら、何十人もの使用人たちの様子をつぶさに見て取り、誰が誰と何をしているか見逃さない。「スコーンはいかが?」と優しく相手の懐に入っては、全ての情報を把握するのだ。だからメイドたちは夫人の気配を感じると蜘蛛の子を散らすように姿を隠すという。

そんなほんのりスパイシーなスコーンのような香りに、わずかに甘く軽やかなウッディムスクが感じられてくるとラスト。カシミアムスクと呼ばれるカシュメランの引き波だ。持続時間は4〜5時間程度。穏やかでエレガントなティータイムの終焉を迎える。

展開で見ると、ドロシア伯爵夫人は清涼感あるシェリー酒の香気から始まって、ティー&ジンジャービスケットのような香りへ移り、ラストはヴァニラと甘いウッディムスクで幕を引くセミオリエンタルな香調の香水だ。フクロウのようにとても静かで落ち着いたイントロ。けれど、常にどこかロースティーな影がちらつく香りだと思う。冷酷というほどではないけれど、冴えた知的な女性を思わせるクールさが感じられる香りだ。

すでに日は落ちていた。遙かな丘の向こうに日の名残りが感じられた。ひとしきり邸宅を巡り、情報収集を終えたドロシア婦人は、ホールに戻って巨大なウォールミラーに自身の姿を映した。そして思った。

こぼれ落ちている。 顔も、身体も、全身から若さが。

かつて、あまたの諸侯に言い寄られるほどの美貌を宿していた自分が、加齢と共に落ちている。その残滓のような姿がそこにはあった。

でも だからこそ

こぼれ落ちてゆく若さと引き替えに、自分はその何倍も手にしてきたのだ。地位も名誉も財産も。そしてあの男も…。ドロシア夫人の目だけが、暗闇で全てを見通す猛禽のナイトアイズのように光っている。

そのとき、来客を知らせる執事の足音が近付いてくるのが聞こえた。夫人の口元が微笑む。

私のお気に入りのスコーンが、今夜も会いに来たのね。

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鳥の音さん
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プロフィール
  • 年齢・・・52歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・普通
  • 髪量・・・少ない
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  • 血液型・・・B型
趣味
  • お酒
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  • 映画鑑賞
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自己紹介

ご訪問いただき大変ありがとうございます♪ 様々な年齢の壁・敏感肌・ニキビ等と日々戦う40代でございます。 肌トラブルとは常に闘ってきました… 続きをみる

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