- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2020/9/5 16:07:45
名香、ジャドール。2011年、フランスの香水年間売り上げ高で初めてシャネルのN°5を抜いて1位になった歴史的な香水。1999年の発売以来売れ続け、今やディオールパルファムの看板商品となっているジャドール、一体なぜそんなにジャドールは売れているのか?
ジャドールを調香したジボダン社の女性調香師カリス・ベッカーは、この作品の成功について次のように語っている。
「ジャドールはパーフェクトストーム。それは、香り、価格、ボトルデザイン、広告の全てが最高の一点に集結した作品。この香水は、香水に興味を持たなかった人にも『つけてみたい』と思わせ、手に取って『試させ』、そして『嫌われなかった』。」
改めてジャドールのボトルを見る。「金色を香りにしたい」というカリスの思いを形にしたかのようなマサイネックレスのゴールド。好き好きはあるだろうが、このボトルネックの金装飾は、アンフォラ型のなめらかな形状と相まってとても映える。さらにその上にのった透明な玉のキャップ。これが壺からあふれる美しい水滴のように見えて思わずさわりたくなる愛らしさだ。このデザインは世界的なデザイナー、エルヴェ・ヴァン・デール・ストラッテンの作品。
さらに広告では、ヴォーグ誌のモデルとして絶大な人気を博していたカルマン・キャスを初代ミューズに迎え、その後はシャーリーズ・セロンを起用するなど、莫大な広告費をかけてグローバルマーケティングを仕掛けている。
唯一無二の美しいボトル、そして世界最高のモデルを起用した広告。1985年にプワゾンで世界的ヒットを飛ばしつつも、絶対に崩せなかったシャネルN°5の牙城を崩すための本気が、このプロジェクトにはあった。では、ジャドールの本質である香りは一体どうなのか?
ちなみに、現行ジャドールは2010年にフランソワ・ドゥマシーが再調香した作品だ。巷には以前のジャドールより深みがなくなったとお嘆きのマニアも多いと聞く。だが、リファインには、アレルギー規制などそれなりの理由があるはず。ドゥマシーは偉大なる編曲家だ。彼なりにジャドールの大事な骨格をくみ取って調整したものと思う。それはどんな香りに仕上がったのか?
ジャドールをスプレーする。まず広がるのは、透明感のあるみずみずしいフルーティーな香りだ。洋ナシとピーチをミックスしたようなあふれんばかりのジューシーなイントロ。とてもウォータリーだが、いわゆる瓜系の塩っぽい感じではない。酸味がなく、洋ナシ果汁の自然な甘さとコクが感じられるとてもシアーなトップ。
1分もせずに、さまざまなフローラルが豊かに広がってくる。イランイラン、ジャスミン、チュベローズ、マグノリアあたりの濃厚な白いフローラルが強めに出る。その下からわずかにローズのシャープさが見え隠れするミドル。強いのはジャスミンだ。
公式によると、ジャドールに使われているのはサンバックジャスミンと、ディオールが契約農家に委託しているグラースジャスミンの2種類。サンバックジャスミンはふわりとした軽やかな香りが特徴だが、この濃厚なホワイトフローラルからグラースジャスミンを嗅ぎ分けることは難しい。よくグラースジャスミンは樟脳っぽい匂いのインドールが多量に含まれているというけれど、確かにそうしたスパイシーな樟脳っぽさは感じられる。
ただ、2つのジャスミンの他にも、イランイランの官能的な低音、ローズの清涼感、ネロリの温かみも感じられてとても複雑な香気ではある。それらフローラルが渾然一体となって、シアーなのにクリーミー、エレガントなのに妖艶、といった相反する要素を一点で調和させている。これはすごいと思う。世界にホワイトフローラルはたくさんあれど、ひと嗅ぎでジャドールとわかる香りだ。
そしてこのミドルが驚くほど持続する。1プッシュで10時間以上。以前、手首につけたジャドールの香りを消そうとして石鹸で洗ったが、その後もジャスミン&ムスキーな香りがずっと残っていた。とても残香性が強い作品だ。
ラストは、フローラルムスクとなってソーピーに傾いて消失してゆく。複雑なジャスミン香が消えて、平板なジャスミン香になっていくので、ベンジルアセテートな感じだ。そしてホワイトムスクの温かみある香りと共にドライダウン。
価格は30mlで9350円と良心的。これは大事だ。ジャドールは、モダンでグラマラスな女性らしさと同時に、シック&エレガンスをも備えた大人の女性の香り。ノーブルで慎ましく、ときに官能的に人の心を惹きつけてやまない。そんな不可能を可能にしたゴールデンバランスの香り。
「ジャドール!(大好き)」。それは、ムッシュ・ディオールの口癖だった言葉だという。
まさにディオールが打ち立てた金字塔、ジャドール。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2020/7/11 12:42:56
たとえあなたの前で下着を脱いでも、私の心は絶対に見せない。
ナルシソロドリゲス・フォーハー・オードトワレ。この香水はそう語りかけているようだ。パウダーピンクのボックスから取り出すのは、ボトルの中身が見えない漆黒のボトル。ガラスボトルの内側を黒く塗装するという意匠の意味は「女性の秘密」「女性の心の闇」だろうか。
ピンクの下着はあえて男の手に任せ、男の小さな征服欲を満たしてやる。だがその瞬間、本当に堕ちるのは男の方だ。女の見えない黒い手に絡めとられ、あとはどこまでもエナジードレインで魂を吸い取られ続ける。←さすが厨二だな
フォーハーEDT。2004年の発売以来、世界中で話題となり、今なお人気があるこの香水は、まずボトルからメッセージをムンムンと醸し出している。
そんな「中身を絶対に見せない香水」フォーハーEDT。「女性用のムスク香水は?」と問えば、必ずその名が挙がるほど有名になったこの作品は、若かりし頃のフランシス・クルジャンとクリスティーヌ・ナジェルが共同調香したという点でも注目される作品。ではいったいどんな香りなのか?
フォーハーをスプレーする。その瞬間、おだやかで透明感のある香りがふんわりと広がる。とても主張の柔らかい香りだ。ほんのり甘いフルーティー、こんもりとなまめかしいホワイトフローラルの2つがまず感じられる。そしてその奥に、スーッと空気を運んでいくようなオゾンぽいベース香もうかがえる。
ほんのり甘いフルーティーは、わずかに金属的なタッチを伴ったキンモクセイノート。ピーチやアプリコット様のこっくりした甘さが感じられる。なまめかしさを感じる白いフローラルは、どうやらオレンジフラワーの香りのようだ。ジャスミンよりも柔らかく高いが、キンモクセイとのバランスで、どこかセンシュアルでエキゾティックさも感じられる。そして、エアリーでスッと抜けていくようなベースノートはホワイトムスクのよう。あまり熱っぽさは感じないが、わずかにサンダルウッドなどのウッディな香気をはらんだムスク。
このキンモクセイ、オレンジフラワー、ウッディムスクの3つのノートは、トップから同時に香り、それぞれ3つの人格のように拮抗し合い、どれもがその存在をしたたかにアピールしている。つまり、香りが変化していくピラミッド型ではなく、シングルノートで香り続けるタイプの香水だ。ただ、肌の湿度や体温、他の要因でこの3つのうちどれかが強く出るような香り方をするので、シンクロノートといってもいいと思う。ちょうど20年ほど前に流行したタイプだ。
シンクロノートは、人によって香り立ちが異なり、上述の環境要因によっても香り立ちが変わる面白さがある反面、いろんな香料が同時に香るよう設計されているため、合成香料感がマックスな作品が多い。そこで、場合によってはそのとき強く出過ぎた香りに頭痛等を催しやすいときがある。ときどきケミカルっぽさが強く出ることがあるかもしれない。
自分の肌では、わりとキンモクセイがよく感じられ、そこにウッディ&パウダリーなホワイトムスクが香ることが多い。ときには、ガーデニアかな?と思わせるほど白く厚ぼったいフローラル香が強く出ることもある。キンモクセイが強く感じられるときは、ビニル的な香りがして少し酔いそうな感じになることも。
この3つの特徴的なノートは、人間の「理性」「感情」「本能」という3つの脳のはたらきをそれぞれ刺激しているように思えて興味深い。
ややプラスティックなファセットをもったキンモクセイは、冷静さを象徴する「理性」をぐらつかせているよう。なまめかしい白いオレンジフラワーの香りは、柔らかい「感情」を揺り動かす。そしてウッディな温かみあるムスクは、人肌への恋しさと官能をはらむ「本能」をそこはかとなく刺激する。3つの香料が、さながらドムのジェットストリームアタックのように同時攻撃してくる印象だ。これはさすがのガンダムもたまったものではない。←出たよ厨二の真骨頂
しどけなく見せてしたたか。可愛らしくて実は悪魔。確かにこんな魅力的な女性が近くにいたら男性もしんどいだろう。男性は女性の全てを「見たがる」生き物だ。そして見ることで「知った気になる」愚かさももつ。フォーハーEDTは、女性の身体からにじみ出る匂いを演出するスキンセントの系統だ。甘く、かぐわしく、みだらで、狂おしい。けれどさりげなくアピールしてくるから困った香りだ。
フォーハーEDTは、美しい女性の肌の香りだ。やわらかく、あたたかく、踏み込めない心の奥を感じさせるミステリアスな香りだ。
ちょっと抱いたくらいで全部知った気になるなよ。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2020/6/6 12:19:13
「金は必要ならいくらでも出す。ただし、作ってもらいたいのは本当に最高の香水だ。」そんな注文をされたら、あなたならどうするだろう?かつて石油王国オマーン王家の長老からそんな命を受けて、世界最高の香水作りに挑んだ一人の名調香師がいた。彼の名はギ・ロベール。
このオファーに対して、ギ・ロベールは世界中の高価な精油を集め、それらにオマーン名産のフランキンセンスをオーバードーズした超贅沢な香水を作ろうと考えた。そして生まれたのが、アムアージュゴールドウーマンとアムアージュゴールドマンの2つの香水。ゴールドウーマンのモスクを型どった重厚なボトルには特注の24金メッキが施され、当時「世界で最も高価な香水」と呼ばれ、話題となった。ときに1984年。ここに香水ブランド、アムアージュが誕生した。
ゴールドウーマンは、クラシカルなフランスの名香のイメージをベースにしつつ、オマーンの乳香を効かせるという手法で作られたフローラルアルデハイディックな香水。これに対し、ゴールドマンは男性用としながら、女性ユースで何も問題ない豪華な香水だ。この2つは性別で使用を分ける必要を感じない。ではどんな香りなのか?
ゴールドマンをスプレーする。最初に立ちのぼるのはパウダリックなヴェールに包まれたアルデハイドの香り。やや鼻の奥にツンとくる拡散系ワクシーなオープニング。このアルデハイド香は、シャネルカウンターに行ってN°5を手首にのせて一番最初にガツンと拡散してくる香りを拾ってみると分かりやすい。ややクラシカルなタイプ。
2分もせずに、アルデハイドの下からドライで爽やかな酸味が立ちのぼってくる。レモン様の高い酸味だが、果実ではない。わずかにスモーキーさを伴った樹脂系の香りだ。これがオマーン名産のシルバーフランキンセンスだろう。アルデハイドの拡散の後にスッと煙のように立ちのぼるかん高い酸味だ。さらにラブダナム系の清涼感のあるくぐもった甘さも感じられてオリエンタルな印象全開。
5分ほどすると香りが落ち着いてくる。さすがギ・ロベール。めまぐるしく変化して観客の心をガッチリつかむ舞台のプロローグのようなトップ。そのあとは、古典的な3段階変化の律にしたがって、深く広がりのある物語の本編に突入していく展開。
ミドルで最も印象的なのは、トップから続いている爽やかなバルサムミックスの清涼感に下から出てくるジャスミンのふくよかな香りだ。かなりインドールが効いているジャスミンで、わずかに冷たい樟脳のような風をはらんでいる。舞台にヒロイン登場といった雰囲気。スパイシーバルサム&ジャスミンが続くミドル。これは確かにメンズというより、ハンサムレディのための香りだ。そう思う。
さらに驚くべきは、このスパイシーバルサム&ジャスミンの脇からさらに多くの香料がふわりふわりとその姿をちらつかせることだ。舞台の重要なキーとなる脇役がたくさんいる。不意に感じるパチュリの土っぽさ、シダーの冷たいウッディなど。そして何よりも驚くのは、全体の香りを大きく包みこむパウダリックなヴェール、アイリス香がほの暗いヴァイオレット調に傾いて、とてもいい照明効果を与えていることだ。
主役のスパイシーバルサムがまろやかになっていくにつれ、インドールジャスミンのヒロインが登場。さらにシダーやパチュリ、モスといったウッディ系ベースがいい味を出して物語の脇をガッチリ固め、そしてパウダリーアイリスが常に変幻自在の照明で各香料の表情を際だたせている。どれもが突出することなく、それぞれの持ち味を出して一体となって重層的に香り続けるイメージ。刻々と変わり続けるミドルは物語そのもの。これは本当によくまとまったオペラの舞台のような香水だ。
ラストは穏やかなパチュリ&モスのスパイシー土っぽさ、軽やかなウッディミックスとジャスミン、ソーピーなムスクの残香でドライダウン。持続時間は6〜8時間程度。全ての香料がどれもいいところに収まり、それらの調和がすばらしい香り。
目指したのは世界一の香水。ゴールドマンには、ギ・ロベールがもつ当時の香料知識と調香技術の全てが惜しみなく注がれている。「生半可な物は許されない」というプレッシャーとの闘いが、この複雑で重厚で、けれど全体に1つにまとまった豪華絢爛な香りを生み出したのだろう。それは、何百人もの出演者と舞台を支える裏方たちが自分の持ち場で100%を出し切ったときに味わう一体感や高揚感のように、今なお、この香りを体験する者の心に光を与えている。
舞台のクライマックス。主役が最後の歌を歌いきる。演者たちがまばゆい光に包まれる。鳴りやまない喝采。そのとき、物語は完成する。
本当にすばらしい香水には、ドラマティックな金色の物語が紡がれている。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
-
[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2020/6/20 10:01:59
フエギア1833のキロンボは、とてもヘヴィーな名前の香水だ。その名の表すもの。「逃亡奴隷社会」。
かつて植民地時代のブラジルで、何百万人もの黒人たちがアフリカから連れてこられ、サトウキビプランテーションで過酷な労働を強いられた。彼らの多くは20歳になるまでに亡くなったという。そこで彼らは脱走し、北東部のジャングルに逃げ込み、先住民ナティーボらと共に密林の奥でひっそりと生きる道を選んだ。その集落や社会を総称してキロンボという。
とても重たい名前だ。もし香水ボトルに日本語で「逃亡奴隷社会」と書いてあったら、少なくとも二の足を踏む人はいるだろう。「ねえ?いい香りね。それ何の香水?」「えとね、フエギアの『逃亡奴隷社会』だよ!」「そ、そうなんだー。なんかすごいね…(汗)。」という会話が交わされるとしたら、いかがなものか。←ま、それはそれで
ともあれキロンボ。初めてその名の由来を知ったときは若干気持ち的に落ちたが、店舗で実際に香りを嗅いだときはとても驚いた。なんというミルキーで優しい甘さの香り。それもそのはず。キロンボは、ブラジルの密林の奥、逃亡奴隷たちが生き延びるために作っていた液体ミルクキャラメルの香りだ。←大事
キロンボをプッシュする。その瞬間、腰がとろけそうになるような甘くてミルキーな香りがふんわりと広がる。よく女性がつけて「おいしそう!」とつぶやいているが、さもありなん。本当にミルクとバターとそしてスッキリした甘さが渾然一体となって広がってくる。バターにはほんのり塩味が効いていてそれすら鼻で感じ取れるのがすごい。本当に「これ、単に食品の香り付け香料では?」と感じるほどの超グルマン。
ミルクと塩バターと甘い砂糖の香り。以上。←終わるのか
展開は特にない。フエギアの香水にはよくある、付けた香りがずっと持続し続けるタイプの香り方をする。人工香料強めだろう。いつまでも同じ香りがずっと持続する感じだ。ただ本当に唾液が出そうなくらい甘くてミルキー。これは不二家さんが「ミルキー」という名でリリースした方がいいくらいの練乳っぽい香り。実際に不二家さんが出してるミルキーボディミストより「不二家ミルキー」な香り。←本家越え?
持続時間は8〜10時間ほど。長い。特に紙やファブリックにつけると、1日過ぎても柔らかく香りが残っているほど。このへんは本当にフエギアらしい濃厚さ。フエギアの香水は全体的に香料の数は少なめでシンプルな香りを濃度高めで展開する、といった感が強い。一般にグルマン系は気温や湿度が高いと重たくて敬遠しがちだけれど、なぜかこの香りは暑い季節でも苦にならない。それは、ほんのひとさじのフルーティーな酸味があって、実にスッキリとした甘いクリーミーさを呈しているからだろう。それがアマゾンフルーツの1つ、クプアスだ。
クプアスはカカオの仲間で、茶色い実の中に白い果肉を有する南米特産のフルーツだ。果肉はパッションフルーツやヨーグルト様の強い酸味をもつ。また、種子には多量の油脂を含み、クプアスバターとしてチョコレートの原料やコスメの素材にも使われる。このクプアスの果実の酸味、バターのコクが、このキロンボを単に甘いミルク香にせず、豊かな風味を添えているように思う。わずかなパッションフルーツ様の香りがくどい甘さになるのを抑えている印象。
ブラジルや南米では、昔からドゥルセ・デ・レチェという液体キャラメルが作られ、愛飲されている。高脂肪のミルクに砂糖をたっぷり入れて、じっくりアメ色になるまで煮詰める。その液体キャラメルには必ずカカオやチョコレート、アーモンド、ドライフルーツを入れるという。そこまで知ると、ああ、この香りにはラテンアメリカの歴史が語られているんだなと実感する。
暗いジャングルの奥に思いを馳せる。先住民との邂逅をはたした逃亡奴隷の黒人たちは、彼らの自給自足の生活様式を学びながら、同時に自分たちの身体に沁み込んでいるアフリカ文化をミックスして継承し続けた。彼らはヤギの乳に自分たちが作っていた砂糖を加えて煮詰め、そこにクプアスの果実やバターを加えて濃厚な液体キャラメルを作り、飢えをしのいできたのだろう。白人社会の攻撃に備えつつ、何百年も文明社会と隔絶して。
その戦いの旗こそキロンボなのだ。その名の重たさを知ったとき、ジュリアン・べデルがこの甘くミルキーな香りに寄せた思いの深さを慮る。そしてそれが悲劇の名称ではないことに気付く。人種差別と闘い続けた彼らの歴史。そして何よりも、生きるために日々の食料を得る戦いを続けた彼らの強さをこの名は表しているのだろう。
どんなことがあっても生きる強さ。今日の命をつなぎ、明日への希望をもたらす香り。キロンボ。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品
- doggyhonzawaさん 認証済
-
- 54歳
- 乾燥肌
- クチコミ投稿426件
2020/5/23 13:29:35
パルファム・ニコライのローミクストは、「ミックスした水」という名の爽やかな香りだ。2010年リリース。価格は30mlボトルで6600円(税込)。それを高いと思うかどうかは人それぞれだが、調香したパトリシア・ニコライは、あの香水帝国ゲラン家の血を受け継ぎ、フランスの香水歴史博物館とも言うべきオスモテックの二代目代表でもある確固たる人物で、時代が時代ならゲラン専属調香師になっていたかもしれない実力をもつ方だ。
パトリシアが夫と2人でラボ兼店舗をパリ市内に創設したのは1989年。パルファム・ニコライの調香の特徴は、伝統的な香水のピラミッド型3段階変化を大切にした調香と、それを可能にするために高品質な香料を使用している点だ。
ローミクストは、パルファム・ニコライの作品の中で「オーフレッシュ」というカテゴリに属する香水だ。濃度でいうならオーデコロン程度。リフレッシュを目的として1〜2時間程度ふんわり香るタイプの香水で、このオーフレッシュの中では一番人気だという。では「ミックスされたフレッシュな水」、どんな香りだろうか?
ローミクストをスプレーする。その瞬間、最初に明るくはじけてくるのは黄色いレモンの香りだ。すぐさま、ツンとくるミントの葉のクールな香りが追いかけてくる。トップはレモンとミントのデュエット。爽快感がすばらしいイントロだ。だがそれだけでは終わらない。そこからどんどん香りが変化してくる。1分もせずに表出してくるのは、酸味と苦味が印象的なグレープフルーツの香りだ。レモンミントにグレープフルーツのジューシーな苦味が効いて、キリッとしたシトラススプラッシュになってくる。
このグレープフルーツの香りは天然ではなく再現香なはず。それでも、透明感があって、苦味がスッキリしていて、開放感のあるエアリー香りに仕上げられていて印象的だ。透明感とエアリーな感じは、ジンの香り付けに使われるジュニパー香料によるアシストだろう。
3分後、天然レモンとミントは早々と姿を消し、グレープフルーツの酸味と苦味がメインになって、明るい高揚感のある香りが強くなってくる。夏の日射しのように高いところでキンと鳴っている雰囲気。やがてその下からわずかにフローラルが顔をのぞかせてくる。シャープな清涼感をもったキリッとしたローズ香だ。グレープフルーツ同様、キレのあるエッジをもった香りで、スッと鼻を吹き抜けていく一陣の風のよう。このグレープフルーツ+ジュニパー+シャープなローズ香の割合は、6:3:1といった気配。ミントから続くジュニパーの冷涼感が、グレープフルーツの明るさにタイトに寄り添っている。
1時間ほどすると、ミドルのクールなグレープフルーツ香は薄れてきて、ほんのりスパイシーなベース香が感じられてくる。わずかに土っぽいパチュリと干し草のようなベチバーの香りで、軽くウッディなラストだ。世界香水ガイド3では、ルカ・トゥリンがこの香水に対して「アレルギー対策で禁止された香料であるオークモスの代替を他の香料のブレンドでうまく作っている」と激賞していたが、言うほどモス系の苦味などは出ていない。わりに最後までグレープフルーツの漂白したような香りを残しながら終息していく。そこまで1〜2時間。
全体で見ると、グレープフルーツのキンとした苦味とジュニパーの透明感を合わせた、シトラスシャワーなオーデコロン調の香りだと言える。トップこそレモンとミントがはじけるけれど、そのあとはずっとグレープフルーツの苦味とジュニパーのクール感が続く香り。気分は真夏の海辺だ。果実の香り、土ぼこりや海藻の匂いを巻き上げて吹いてくる海風。そんな熱風に乾いた喉をうるおすシトラスサワーの雰囲気が感じられる香り。
太陽の色を染めつけたような黄色い果実。その果皮を顔に近づけると、酸味と苦味がまじった香りがほのかに鼻をくすぐる。スライスしたグレープフルーツをしぼってよく冷えた炭酸水を注ぎ、ミントの葉を浮かべる。その苦味と炭酸の爽快感が、火照った心と体をどこまでもリフレッシュする。
真夏の上昇気流、キリッと喉を潤すグレープフルーツソーダ、そのほのかな香り。ローミクスト。
- 使用した商品
- 現品
- 購入品