66件中 21〜25件表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 52歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
イッセイ ミヤケ パルファム / ロードゥ イッセイ オードトワレ

イッセイ ミヤケ パルファム

ロードゥ イッセイ オードトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:10ml・3,190円 / 25ml・8,690円 / 50ml・12,540円 / 100ml・17,600円発売日:- (2022/2/1追加発売)

ショッピングサイトへ

5購入品

2018/10/27 14:47:51

「香水なんてシミを消すわけでもないし、肌にいいわけでもない。何の効果があるの?」コスメに機能を求める方は言う。そのとおりかもしれない。ざっくり言えば香水なんて香りをつけたアルコールだし。それでもあえて言う。香水はすごい。それはときに人の心や世界の流れまで大きく変えることがあるからだ。

ここに1本の有名な香水がある。細長い円錐形のすりガラスボトルに入った透明な液体。作品名はロードゥイッセイ(イッセイの水)。世界的デザイナーとして有名な三宅一生氏の最初の香水にして最大のヒット作だ。このオードトワレは、それまでの香水文化を大きく変えたといっても過言ではない。

ロードゥイッセイは、まず人の心を大きく変えた。「香水なんて派手だし、くさいし、嫌い」そう感じていた女性たちがこぞってこの香りを買うという現象を生んだ。もともとこの香水は、香水嫌いで有名だった三宅一生氏のブランド戦略として提案されたもので、当然ながら彼は最初は乗り気ではなかった。しかしどの服飾ブランドもイメージアップ戦略の一つとして香水を扱いだした流れにもまれ、遂にイッセイ・ミヤケの香水を出すことが決まったとき、彼は新人調香師に向かってこう言った。

「創るなら、ぼくを驚かせる香りであってほしい。それは例えば、自然の中で深呼吸しているような香り、水のような透明感のある香りだ。」と。

それを聞いた関係者は、みな首をすくめたという。「水の香り?そんなの作れるか。作ったとしても売れるわけがない。」だが新人調香師だけは違った。当時、カルバンクラインのエスケイプで大量に使用された新しい人工香料カロンを使えば、彼の厳しい要求に応えられるかもしれない。そう感じていた。

その調香師の名はジャック・キャバリエ。今でこそルイ・ヴィトンの香水部門の専属パフューマ―として世界的に有名な彼だが、当時はフィルメニッヒ社に入ったばかりの無名の新人だった。彼は試作に試作を重ね、1992年、今までにない新しい香りをこの世に誕生させた。それまで派手なフローラル中心だった濃厚な香水は日本のバブル崩壊と共に影を潜め、時代はこのあっさりとした優しい香りを全面的に迎えた。世界は緊縮財政に向かい、香水業界はこの香水のヒットをきっかけに、新たなトレンドである「水の香り」「オゾン系」「マリン系」「ユニセックス」へとシフトしていった。

そんな記念碑的な香りとなったロードゥイッセイ、どんな香りだろうか。

ロ―ドゥイッセイをスプレーすると、まず広がるのはユリの花のたおやかな香り。そこにシクラメンの低いしっとりした香りが混じってくる。トップからフローラルブーケ全開で、シトラスはない。水滴がしたたるような白い花の香りだけが漂う。そこにわずかにツンとした透明感ある匂いがする。うっすらと潮風のように吹き抜ける感じがあって、それでいて花の香りもするカロンという香料だ。

このカロンという香料物質こそ、このロードゥイッセイ最大の特徴。よくいう「メロンのような香り」と称される元祖「瓜系」の香り。カロンは1960年代にファイザー社で開発された人工香料で、もともとは洗濯洗剤の基材臭をマスキングする目的で研究されていたものだ。これが1980年代になって少しずつ香水に使用されるようになり、脚光を浴びた。ロードゥイッセイはこのカロンを多用したことで「みずみずしさ」や「しっとりした空気感」を表すことに成功している。そのため、オゾン様ノートの元祖とされる。

優しく穏やかな香り立ちに思えるが、実はかなり強い拡散力をもっているので、気を付けないと周りにとても迷惑をかける類だ。人工香料が多く使われているため、天然香料の多い香水に比べて香りがシンプルで透明感が感じられるというメリットがある反面、強い香りがずっと続くという特徴がある。付けた瞬間に鼻を近づけたりすると、頭痛をおこしかねないので付け方には注意が必要だ。ラストまであまり変化なくウォータリーな白い花のブーケが6〜8時間ほども続く。香水が苦手な方になぜかこの香りを好む人が多いのも特徴だ。今となってはこれに似た香りはたくさんあるが、26年前は本当に新鮮だった。まさにこの一滴がその後の世界を変えた。

大河も海も「一滴の水」の集まりでできている。三宅氏は常に「1枚の布」という素材勝負のデザインをし続けてきた。この香りから始まったオゾン系の「大河の一滴」は、今なお多くの香りを生み続けている。円錐型の美しいボトルは、エッフェル塔の上に満月が重なった姿と同時に、一滴の水がはじけた瞬間を表しているという。

ロードゥイッセイは、香水界の「大河の一滴」だ。たった一滴で混沌とした時代の空気を塗り変え、文化という水の流れを変えた美しい香りだ。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 49歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
セルジュ・ルタンス / アンボワバニール (Un bois vanille)

セルジュ・ルタンス

アンボワバニール (Un bois vanille)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・14,300円 / 100ml・22,000円発売日:-

5購入品

2015/5/23 23:33:56

ヴァニラの歴史は、征服の歴史そのものだ。

ヴァニラは、メキシコのトトナコ族によって栽培が始められ、それが、彼らを征服したアステカ族の手に渡り、やがてアステカを征服したスペイン人によって初めてヨーロッパに伝えられたとされる。

最初の征服者、アステカ族の王は、金と同等の価値をもつとされたカカオをすりつぶし、スパイス等を加えたどろりとした黒い飲み物、ショコラトルを大変好んだという。その苦みを緩和するために加えられたのが、トトナコ族から得たヴァニラの香りだった。当時、ショコラトルは、王や特別階級の者しか口にできない大変貴重なものだったという。

二番目の征服者は、スペイン人フェルナンド・コルテス。彼は、今から500年前、少数の部隊を引き連れ、アステカ帝国へ攻め入った。当時の王モンテスマ二世は、戦わずに彼らを迎え入れ、恭順の意を示した。このとき、コルテスに献上されたのがショコラトルだった。

やがてヴァニラは、アステカの数々の宝と共にスペインへ渡り、次第に広まった。だが、ヴァニラの木が各地で栽培されるようになっても、あの甘く柔らかい香りを得ることはかなわず、その後300年以上、メキシコがヴァニラの生産を独占し続けたという。それは一体なぜだったのか?

実は、ヴァニラの香りを発する実、ヴァニラビーンズが全く結実しなかったのである。その秘密はこうだ。1年にたった1日、数時間しか開花しないというヴァニラの花に受粉してくれる奇蹟のハチが、メキシコにしかいなかったという事実。このことに気付き、レユニオン島でヴァニラの人工受粉が成功するまで、実に300年を有したのだ。

長い前置き。だが、このアン・ボワ・ヴァニール(ヴァニラの木)にこめられた「アステカの繁栄と滅亡に寄せる思い」とは、こういうことを指すのだろう。

トップ。いきなり「ホットキャラメルソースがけヴァニラアイス(ナッツ入り)」の香りが主張。唾液が出そうになる。濃厚で焦げた甘さが思いきり押し出してくる。ヴァニラの香りに、リコリスの甘苦さがかぶさって暗い。クレーム・ブリュレの焦げたカラメルの香りにも似ている。いくぶんココナッツの青臭さも添えて。おもしろいのは、カカオを使わず、あえて外して、漢方薬リコリスの煮詰めた苦みで開口したこと。まんまショコラトルを狙っていない。エンジェルやロリータ・レンピカの影響かも。

すぐにミドル。リコリスが淡くなり、焦げたバター風味のふくよかさが増してくる。香ばしいアーモンド系の香りも。感じるのは、ヴァニラと焦がしバターの脂っぽさ。甘苦さが消えた分、ややドライで温かみが増してきた印象。たぶんサンダルウッドの香りもじわりと。ややウッディな印象が出てくる。

そしてラスト。このラストが好きだ。←最近、これ多いな。
高い方のサンダルウッド、中音のガヤック・ウッドに支えられ、焦げたヴァニラが余韻を残して温かく消えていくイメージ。ウッディ・ヴァニラだなあと実感するのはこのラストだ。淡いながら、ヴァニラとウッディのミックス。トップほど焦げた甘さといった印象はなく、穏やかで、凛としていて、けれど柔らかなイメージで減衰。

総じて、出だしのリコリスが全体に暗いオブラートをかけているけれど、中身は、バターとナッツ類をふんだんに使ったキャラメルヴァニラデザートだった、という印象。稀少なメキシカン・ブラック・ヴァニラの香りをメインにすえたかったというノートスケッチだろう。

ヴァニラの香りの素であるヴァニリンには、怒り、哀しみ、ストレスなどを軽減する抗うつ作用があるという。最近では、母乳にもヴァニリンが含まれていて、赤ん坊を香りの面からもリラックスさせていることが研究から明らかだ。イライラしてるなと思ったとき、悲しくて誰かに優しくされたいと思ったとき、そしてそんな弱音を誰にも吐けずにうつむいているときに、この香りが誰よりも優しく感じられる人はいるだろう。好きか嫌いかという振幅は大きいと思うけれど。

自分は、夏に向かう爽やかな時期にこの香りをよく使う。ヴァニラやチョコレートは秋冬のイメージが強いが、その頃はむしろ町中にそんな香りがあふれていて、かえってオーバードーズ気味だ。気温も湿度もあっさりめの時期こそ、こういうこってりした香りは合うだろう。

つけるなら、男女とも、下半身がいいと思う。特に女性のひざ裏や内ももからこの香りが立ちのぼれば、上半身に抜ける頃には、ほどよく淡い香りになって衣服の間を揮発していくことだろう。ヴァニラは、つけ方次第でとてつもなくセクシャルな感じになるときがある。そう、男が放っておけなくなるほどに。

アン・ボワ・ヴァニール。それは、今なお男たちの征服欲をかきたて続けるアステカの秘宝。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 49歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
セルジュ・ルタンス / フルールドランジェ(Fleurs d'oranger)

セルジュ・ルタンス

フルールドランジェ(Fleurs d'oranger)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・11,000円 / 100ml・22,000円発売日:-

5購入品

2015/11/8 00:53:45

南スペイン、アンダルシアの州都セビリア。そこは、闘牛とフラメンコの町。春には、町中に並んだオレンジの木に、白い花々が一斉に咲き乱れ、太陽がその芳醇でまろやかな蜜の香りをまき散らす。この香りが町のあちらこちらにあふれ出すと、セルビアの人々は色めきたつという。それは、一年で最も重要なイベントの一つ、復活祭を祝うためのセマナ・サンタ(聖週間)の到来を告げる風。

それがセビリア・オレンジの白い花々の香り。ルタンスのフルール・ド・ランジェ。2003年、クリストファー・シェルドレイク調香。スクウェア・ボトルに、オレンジの液体色が映えて美しい。

トップは、スッキリした苦みのある柑橘の香りが一瞬。そしてすぐ、甘くふくよかなオレンジフラワーとジャスミン系のフローラル・ミックスが広がる。通常のネロリの精油に比べて、苦みやスパイシーさが強いオープニング。クレジットにあるセビリア・オレンジは、実が苦く、マーマレード以外、生食はほとんどしないビター・オレンジだという。そのへんのキリッとしたドライな皮の雰囲気と、花の香りの共演とも感じられる。

5分後、白い花のブーケ香にスライドする。高音でオレンジフラワー、中音域でコクのあるジャスミン、さらに低音の方でチュベローズの和音。ややジャスミンが強めかという感じ。キンモクセイっぽいテイストでもある。そして、特筆すべきは、ホワイトフラワーブーケの奥に、ややアクの強いスパイス香が感じられる点だ。

軽くかいだだけでは分からないが、少し強めに香りをかぐと、そこには鼻腔の奥を刺激するスパイス類の存在を確かに感じる。クレジットにあるように、カレーの香りっぽいクミンやスッキリしたキャラウェイ、ややじんわりとしたナツメグっぽさが、時折明確に顔を出す。

さらに、ミドルあたりからは、日焼けした肌の匂いのようなスモーキーさと酸味がほんのり感じられる。シベットが少し使われているらしいことと、ジャスミン香を放つインドールの加減、さらにベースのムスクとの調合で、そうした体臭っぽいややダーティーな香りが時折するのは事実だ。それはアンニュイで、ちょっとドキリとさせられる部分。

やがて、ラストは、ジャスミンとチュベローズの中低音と、前述のややアニマリックな混合のうちに消えてゆく。ミドルからラストへの変化はあまり感じない。ここまで2時間〜4時間。白いフローラルミックスの香りは濃厚で、ラストのムスクっぽい淡い香りの上でも、最後まで香っている様子。

全体に、ねっとり甘く、ホワイトフラワーブーケの蜜の香りを呈するが、その背後にスパイスやアニマリックが思ったよりも強く出ていて、相反する光と影の両面が感じられる構成。それはまるで、南スペインの春の日差しの下、咲き乱れるオレンジの花々の枝や葉の隙間から、暗く黒い影の息遣いが感じられるかのよう。

ボディが強めで、濃厚。だから、日本では夏以外の季節の使用が比較的よいと思う。付けるときは、背後から絶えず主張してくるスパイシー&アニマリックな暗いベースの強さも考えて、ウェストから下がよいかと思う。上半身、あるいは、直接肌が露出する場所に付けると、周囲に「ムワッと感」「ファッティ感」をアピールしてしまう場合もあるかと。それほど付け方に配慮が必要な押し出しの強さ。

それでもこの香りの一番のよさは、ネロリ系のもつ「不安やストレスを取り除いて気持ちをゆったりとさせてくれる」雰囲気が強く味わえる点だと思う。女性ならバッグに香り付けしたハンカチや紙を入れておくのもいいかも知れない。特に、仕事中、ふっと気持ちを抜きたいときに嗅ぐと、リラグゼーションにもなると思う。ルタンスの中では、スパイスの香りやウッディ系の香りがまだ柔らかめな方なので、使いやすい部類だと思う。

スペインのセマナ・サンタ(聖週間)は、文字通り、キリストの復活祭を祝うための重要な7日間。この時期、街中には、キリストの受難や聖母マリアの悲しみを表現した豪華絢爛な彫像を乗せたパソと呼ばれる山車が出て、昼夜を問わず巡行するという。特に、セビリアのセマナ・サンタは、派手でにぎやかなことで有名だそうだ。

厳かな楽団の演奏の中、三角の頭巾とマントを身に付けた男たちが先導し、悠然と進むパソ。そこには、連れ去られていくキリストの憂いの横顔も見える。そんな巨大な山車の周りに人々はごった返す。7つの昼と夜の間、人々は熱狂に包まれる。

やがて最後の夜が訪れ、闇が太陽にとって代わる頃、酒の匂いと、復活祭を迎える人々の熱気やムンとした体臭がまじりあい、オレンジの花の香りを一層濃厚に、狂おしく彩る。

それは、セマナ・サンタ・フェスタの夜の匂い。闇に咲き乱れるその五つの花弁の花は、人々に福音をもたらす地上の白い星々。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 49歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
ラルチザン パフューム / オンドソンシュエル

ラルチザン パフューム

オンドソンシュエル

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2015/8/20 13:06:48

「本や香水って、生きていくのには必要ないけど、生きているって実感するためには必要でしょ」(山田詠美「放課後の音符」より)

男女の営みへの興味、そしてそれに伴うしがらみ。思春期の男の子の頭の中なんて、99%がそのことで占められている。おっと、卑怯な言い方だった。自分の思春期はそうだった。

そんな性的な事柄だけが、世界の唯一絶対の事実だと感じていた思春期まっただ中の頃、山田詠美さんの作品群に出会えたことは本当に幸運だった。むさぼるように読んだ永遠の夏のような日々を、今も昨日のことのように思い出す。冒頭の名セリフは、今も心に焼き付いている言葉の一つだ。

オンド・ソンシュエル(欲望・官能の波)の香りを初めて身に付けた時、これまでにない衝撃を受けた。絶対にどこかでかいだことのある香りなのに、どうにも特定できない。ほぼ1ケ月、毎日つけていた。けれどやはり思い出せない。分からない。ただ一つ感じたのは、これはとても危ういバランスの上に立った、何か危険な香りだということ。まるで、心に欲望の爆発を起こすための導火線や火薬のような。

トップ。シトラスとスパイスの爆発から開口する。シトラスといっても、グレープフルーツ様の苦みが強く出ているだけで、スパイスミックスの香りが9割といった印象。まずペッパー、ジンジャーの鼻孔の奥を刺激する辛みを感じる。この2つは精油になると、キッチン用スパイスの風味とはかなり異なる香りだ。そしてシナモンやクローブの痺れるような風味も出ている。いわゆるホットスパイスのミックス香全開だ。もし若干でもグレープフルーツ様のフルーティーな苦みがなければ、これは香水として感じられないギリギリの線。

やがて5分ほどでミドル。ホットスパイスの熱がすっとひいていく不思議。ただ、まだ温かみが残る全体の雰囲気に、すっとしたウッディ系の清涼感、森の針葉樹から感じるような香りが少ししてくる。これがジュニパーベリーとカルダモンの主張だろうか?ややクールだ。そしてホットスパイスとアイシーな香りの危うい拮抗となる。情熱と冷静のあいだ。外へ広がろうとする赤と、内へ鎮静しようとする青が混じった雰囲気。そう、紫色の香り。

そうか。だから、「エクスプロージョン・オブ・エモーション」第二弾の3つのオー・デ・パルファンは、ヴィヴィッドなパープルの化粧箱に包まれているのかも知れない、ふとそんなことを思う。

苦くスパイシーなミドルは、刻々とさまざまな香りの表情をうかがわせる。ときにゾンカのように漢方薬づけのセロリのような風味を呈したかと思えば、ときに森の中で針葉樹の葉を手でもぎとったような清涼感を得る。また、うっすらとクリーミーなフローラルを感じたかと思えば、酸味と香ばしさと伴ったウードの深みを感じるときもある。全ての香料が等しく主張しあい、自分の心や体のありようによって、さまざまな感情の波のように、ふわりふわりとそれぞれの香りが顔をのぞかせて揺らめくといった様子。とても不安定。

やがてラスト。けれどこれはもっと明瞭な色を失う。知らず知らず夏の暑さにやられた自分の肌の匂いや汗の匂いのようにも感じられ、消え入りが早い。何か自分の匂いと同化してしまったような錯覚を得るラストだ。ベースには、ムスク、ウード、アンバーがクレジットされているようだが、これらの配合のミックスが、少し合成ビニールっぽいようなフェードアウト。まるで、セロリ料理の後に残った塩コショウのようなラストだ。とても不思議な感じ。

全般的に、オンド・ソンシュエルの香りは、料理に使うミックススパイスの袋を開けたようなシャッキリする辛みと苦み、熱を感じさせる。甘味はない。中華料理に使用するミックススパイスに「五香粉」というのがあるが、そのシナモンを弱くした感じ、あるいは、龍角散や仁丹のもつ辛くて甘苦みをもった漢方系素材の味。そんな雰囲気が強いので、香水として使うには、かなりこれ系統の香りが好きな方でないと難しいかもしれない。

ここまで書いてはたと気づく。そうか、この香りはやはり、肉料理に使うスパイス以外の何物でもない。とすれば、人間という生身の肉にふりかけるスパイスだ。まるで、宮沢賢治が「注文の多い料理店」で、猟師たちの体中にクリームや、香水と偽って酢をすりこませたように、誰かにおいしくいただいてもらうための。

俺も香りに感化されたのだろう。肉欲と料理の狭間の危険なゾーンに話がいきそうになる。

オンド・ソンシュエルはそんな、人の根源的な欲望を揺らす波。食欲や性欲への情熱と、それを鎮静化させようとする冷静さの間で揺らめく感情の揺らぎ。赤と青の間でたゆたう心に、「ほら、あなたは生きている」とささやく、紫色のスパイシーな誘惑。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品
doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん 500人以上のメンバーにフォローされています 認証済
  • 52歳
  • 乾燥肌
  • クチコミ投稿426
ディオール / オー ソバージュ オードゥ トワレ

ディオールディオールからのお知らせがあります

オー ソバージュ オードゥ トワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:50ml・12,650円 / 100ml・17,490円発売日:-

ショッピングサイトへ

5購入品

2018/5/5 22:50:39

ディオールのオーソバージュは、真夏のギラつく太陽をそのままボトルにとじこめたようなオード・トワレだ。肌に吹き付けると、唾液が出そうなレモンシャワーとともに、熱を帯びたリーフグリーンの香りと、灼けた肌のアーシーな香りが同時に漂う。さながら、若き日のアラン・ドロンの出世作「太陽がいっぱい」そのもの。

オーソバージュは、1966年、名調香師エドモン・ルドニツカによってリリースされたディオール初のメンズフレグランス。それは最初にして最大のヒット作となり、今日まで名香としてゆるぎない地位を築いてきた。60年代の欧米でのブレイク以降、今なお老若男女問わず多くの方に愛用され、ベストセラーを続けている。では、オーソバージュとはいったいどんな香りなのか?

トップ。つけたては一瞬、ベースとなっているモス系の湿った苦み、ベチバーの土っぽさがふわっと鼻をくすぐり、メンズ香水独特の匂いをふりまく。いわゆるトニックっぽい香り、男っぽい香りと揶揄されるようなオープニングだ。その後すぐにはじけるようなレモンの香りが広がってくる。ベルガモットとのミックスのようだが、黄色いレモンの酸味がより強く感じられる。そして、そのサワーな感じがその後も続いていく。

3分後、ミドル。レモンのジューシーな香りに、バジルの透明感、ローズマリーのグリーンさ、ラベンダーの清涼感が混じって広がってくる。シトラス&アロマティック。鶏肉のハーブ&レモン焼きの匂いにも似て、温かみが感じられておいしそうな香りになる。このトワレに初めて使われたヘディオンという香料は、単体ではジャスミンっぽいフローラルのようだが、他の香料と合わせることで、きらめきやレモン様シトラスの香りを持続させる効果があるという。確かに、グリーンでサワー感のある香りがトップからずっと続き、大体3〜5時間、つけたところで穏やかに香り続ける。

ラストはかなり低音になり、メンズな雰囲気になる。モス系の湿った苦み、ベチバーの土っぽいウッディにしっかり変化し、シプレのベースが感じられるエンディング。このへんは日本人の女性は苦手だと感じる方も多いかもしれない。もともと体臭が強い欧米の方々のマスキング・フレグランスとして用いられてきたトワレなので、ベースは強いウッディだ。欧米では重厚感があって好まれるラストだが、体臭があまりしない日本人は強い香りを使ってきた歴史もないので、感じ方や好き嫌いは人それぞれだろう。モスやベチバーのラストはクラシカルな印象も強め。ぜひ付けてみてラストまでの変化をきちんと確かめてみてほしいと思う。付けてから6時間前後で自然にフェードアウトしてゆく。トワレにしてはかなり残香性がある方だ。

欧米ではいまだにベストセラーなオーソバージュだけれど、日本では特に女性の評価で賛否両論あるようだ。苦手な方いわく「トニック臭、オヤジ臭」。いやな言葉だなと思う。それでもあえて出したのは、昭和の頃にリリースされた日本のメンズコスメのほとんどの香りが、実はこのオーソバージュに影響を受けて作られていたからだ。男性のヘアトニック、ヘアリキッド、オーデコロン、シェーブローション。それらの多くがこのオーソバージュの香りの模倣、アレンジだったと言っても過言ではない。畢竟、それらを使う男たちの、どれも似たような香りが日本中にあふれた。そして「トニック臭」などという言葉が生まれ、本家のこの香りさえそう呼ばれてしまっているという。そんな皮肉な状況に苦笑せざるを得ない。

皮肉といえば、アラン・ドロンもそうだ。甘いマスクとクールな表情で日本では女性に大人気だった彼だが、本国フランスの女性は「嫌い」と答える方が今も多いそうだ。理由はいろいろあれど、こちらも「ところ変われば好みも変わる」という典型だろう。そんなアラン・ドロンが2009年からデビュー当時の姿で、フランス女性が好きなオーソバージュのイメージキャラを務めているのだから皮肉なものだ。

彼が若き日に主演した「太陽がいっぱい」は、本当に心に残るいい映画だった。原題の“Plein soleil”には、実は2つの意味があると言われている。plein de soleilsであれば「太陽がたくさんある」だが、en plein soleilだとすれば、「太陽がギラギラ照りつける下で」の意味になる。おそらく、双方の意を汲んだ詩的なタイトルを、ということで「太陽がいっぱい」にしたのだろう。

そんな「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンは、哀しいくらいに美しく、本物の愛に飢えた表情が印象的だった。だから、今でもこのトワレを時折つけるたび、彼の切ない瞳を思い出す。

オーソバージュ。それは、ギラつく夏の太陽の下、金と権力と愛をいっぱいに求め続けた孤独な青年の野望を秘めた水。

使用した商品
  • 現品
  • 購入品

66件中 21〜25件表示

ドギマギの夏さん
ドギマギの夏さん 10人以上のメンバーにフォローされています 認証済

ドギマギの夏 さんのMyブログへ

プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・混合肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・少ない
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • 食べ歩き
  • ファッション
  • 音楽鑑賞
  • お酒
  • 料理

もっとみる

自己紹介

【警告】 *プロフィール(自己紹介文)又は 挨拶を割愛してのフォロワー 登録は、ご遠慮ください。 *猥雑なニックネームの方も同様に ご遠慮く… 続きをみる

  • メンバーメールを送る