2023/4/19 22:12:04
自身の庭にローズガーデンを作ったトムフォード氏。
彼が最初に行ったことは庭に1万匹のミミズを解き放つ。
というしっかり農家的発想のミスター・ラグジュアリー。
最初は苦手だったんです。
…3年くらい前かな。
ボトルが1番可愛いじゃないですが。
マットなピンクだし、ローズだし。
初めて肌で試した時は四川山椒が強すぎると感じました。
そしてなぜか3年ほど経ってから急に「良い香りだ」と感じるようになりました。
脳が慣れてくると香りの捉え方が変わってくる時があるんですよね。
初めて試して苦手だった3年後に購入。
ローズの香水ってたくさんある中、
ローズプリックは他社さんのローズ系の香水とは違った雰囲気がある。
ふんわりなんてしていないし
キュートなんて言葉は無縁なローズの香り。
なのですが、最初に感じた四川山椒の無駄なスパイシーさは鼻と脳が慣れてくるとあまりわからなくなってきまして。
どちらかというと「甘い」とすら感じるようになったんです。
香りってすごくパーソナルな感覚なので、体調や気候も大きく影響すると思うのですが。
トムフォードの香水って調香師と詳しい香りのノートを公開しないのですが
こちらのローズプリック、謎が多くて。
調香師はジボダン社のギヨーム・フラヴィニー
「ローズの三重奏」
がローズプリックのキャッチフレーズですが
どこかのタイミングでローズがひとつ抜かれているっぽいんです。
定かではないのですが。
もしかしたら私が最初苦手だった時と最近のローズは香りが微妙に違うかも…?
本来、ローズプリックに入っていると思われるローズは
・メイローズ(センティフォリアローズ)
マリーアントワネットが愛したと言われているアニマリックで甘い香りのローズ。
・ダマスクローズ(ブルガリアンローズ)
濃厚でフルーティ。香水に使われることが多い。
・ターキッシュローズ
蜂蜜のようなねっとりとした甘さが特徴。
このうちのどれかが、ひとつ抜かれているかもしれないそうなんです。
(お世話になっている販売員さんとお話ししてて)
このローズ3種に四川山椒、ウコン、サフラン、パチュリ、トンカビーン、トルーバルサム
がローズプリックのノートのはず。
なんですが、多分どこかのタイミングで調香が変わったんだと思うのですが
キャラメルが足されてバラが2つになっている。
かもしれない。
ノートなんて頭で考えてても仕方ないじゃない。
理屈っぽくて苦手だわっ!
要は良い香りかどうかでしょっ。
って方の意見が正しいと思います。
理屈っぽくなるつもは無いのですが、香りってノートで判断しないと試す気にならなかったり、気になるノートで試したくなったり。
トンカビーンは苦手。頭が痛くなる。
って方も少なくないんですよね。
トンカビーンが何かはわからないけどトンカビーンが入ってる香水はもれなく頭痛くなる。って方、結構多いみたいです。
私、個人的にはローズプリックが「あ。良い。他のバラ系の香水より好きだわ」と思えた理由は
他社さんのローズ香水にありがちな「青さ」が無かったこと。
切り立ての生花を表現したような茎の青さとローズ特有の青さ。
が無く、甘めの仕上がりになっていると感じるようになったから。
ここが私が何回も「途中で最香調(最調香??)されたかたも」って繰り返してしまうのがキャラメルが足されたんだと思うんですよね…
かすかなや香ばしい焦がしたザラメのような香りがするんです。
青いフレッシュなバラより甘くて香ばしいバラの香りのほうが私は好きみたいです。
季節にもよりますが、いかにも「ローズ」って感じの香りはクドく感じてしまって。
ローズプリックは焦がした深みのある甘さを感じたので飽きにくい。
トムフォードの香水だとローズ系はカフェローズ(廃盤)とノワールデノワール。
と、ローズプリック、ローズプリックからの派生のダマルフィとシーヌ。
ダマルフィとシーヌはローズプリック派生なので一旦、置いておくとして。
カフェローズ、ノワールと比較するとかなりウェアラブルだと思います。
(外出時につけるかというと私はつけませんが)
夜、ひとりで楽しむには1番使いやすいローズの香りだと思います。トムフォードの中では。
甘い表情もありますが、スッキリとしていて程よくスパイシー。
秋冬、春の夜。
少し焦がした甘さを感じるローズの香り。
ローズが主役だけど青いのは苦手。って方には良いのではないかと思います。
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2019/2/15 23:29:30
モハーヴェ・ゴースト。それはアメリカ南西部に広がるモハーヴェ砂漠に咲く小さな花、通称「ゴーストフラワー」の姿からイメージして創られた香り。
東京ドーム48500個分以上という途方もない広さを誇るモハーヴェ砂漠は、死の谷デスバレーを含む乾燥した地域。かつてアメリカの東西を結んだルート66がこの広大な荒れ地を横断し、合衆国繁栄の礎を築いてマザーロードと呼ばれた。だが国道沿いに栄えた町も今はほとんどがゴーストタウンと化してその残骸を乾いた風にさらし、風化の一途をたどっているという。
年間降水量150mm。熱風吹きすさぶ苛酷なモハーヴェ砂漠に、それでもわずかな植生がかいま見られるという。春先に小さな半透明のうす黄色の花をつけるゴーストフラワーはその1つだ。
ゴーストフラワー、その正式名称は「モハヴェア・コンファーティフローラ」。このオオバコ科の植物は、花弁が半透明であることからゴーストと呼ばれている。花自体が蜜をもたないため、黙って咲いていても蜂が寄ってこない花、つまりそのままでは受粉が難しい花だ。ただでさえ苛酷な環境に咲くことに加え、蜂を集める蜜をもたないことは、種の保存の危機を意味する。ところがゴーストフラワーは2種類の擬態を用いてこの難題をクリアすることに成功しているという。
一つ目は、ゴーストフラワーの花が、蜜をもつ別の花にそっくりな形になっていることだ。これにより蜂がその花だと思って花芯にもぐりこみ、受粉を媒介するという。
二つ目は、下の花弁にメスの蜂がとまっているような赤い模様があることだ。この模様と上向きに湾曲した黄色い2本のおしべの形状が、オス蜂を引き寄せるメス蜂の姿に見えるのだという。そこに寄ってきたオス蜂によっても受粉が促進されるようだ。
バイレードの創業者ベン・ゴーラムは、砂漠という極限の状況でこのようにたくましく生きる小さな花の仕組みを知り、それを香水で表現しようとしたようだ。残念ながらいくら調べてもこのゴーストフラワーの花の香りについての記述を見付けることはできなかった。とすればやはりこの作品は、ベンが創作したイマジネーションフラワーの香りということになるだろう。ではその香りとは?
モハーヴェゴーストをスプレーする。すぐに感じられるのは、ほんのり甘くフルーティーな梨のような香りだ。その下からナッツのような香ばしいテイストが出ていて、洋ナシのコンポートにナッツを添えたデザートのように思える。とても美味しそうなトップ。構成をみるとこのトップは、柿や梨に近い味がするといわれるサポディラの果実の香料のようだ。サポディラはチューインガムの基材となる樹脂を出す木としても有名で、インドでは重要なフルーツとして親しまれているとのこと。この香りをフィーチャーしたのも、インド人の母をもつベンにとって身近なフルーツ香だったからではと推察する。
やがて数分すると香りは穏やかにミドルにスライドする。バイレードの作品はどちらかというとあまり変化しないものが多いが、このモハーヴェゴーストはフルーティーなトップからややクリーミーなフローラルに変化してゆく。ナッツの香ばしく温かい感じを残したまま、軽いウッディをともなったマグノリア系の白いフローラルが感じられてくる。梨のようなフルーティーさは、わずかにシャネルのチャンスオータンドゥルのトップを思わせるところもある。どこか青い潮風のようなベース香がするのはアンブロキサンを配しているからか。乾いた砂漠の風というより、青々としたエアリー感を感じさせつつ、8時間から9時間近くも続く。
どこまでも青く広がる砂漠の空、でふと思い出した映画がある。「バグダッド・カフェ」&「カーズ」。どちらも舞台はルート66やモハーヴェ砂漠で、高速道路の開通とともにさびれた国道沿いの町の様子を描いていた。けれど、そこに必死で生きる者のパワーがやがてゴーストタウンに小さな奇跡を呼ぶ。誰にも知られずひっそりと咲く砂漠のゴーストフラワーの姿が自然に重なる。
広大な砂漠に咲く一輪の花、その生きのびるための知恵とたくましさ。そこにはバグダッド・カフェやカーズにも見られた「ここが本当のパラダイス」と訴える強いメッセージが感じられるようで感慨深い。
見渡す限りの砂と岩の大地。地平の彼方までまっすぐ続く道路のわきに小さな花が揺れている。乾いた風に巻き上げられ、抜けるような青空の下、モハーヴェゴーストの幻の声がかすかに聞こえたような気がした。
ワタシハ ココニ サイテイル ワタシハ ココデ イキテイル
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2017/3/5 23:05:23
もしも誰かに「薔薇の香りでおすすめはありますか?」と尋ねられたら、全力で「ゲランのナエマのパルファム」と即答したい。気に入ろうが、気に入らなかろうが、関係ない。それを基準にしてほしいという願いのようなものだ。けれどもう、その至高のローズを入手できる確率はかなり低い。惜しまれながらも2016年にこの世を去ったからだ。だから実際は、「ナエマのオードパルファム(EDP)」と答えるだろう。それは香水には及ばないにしても、これまで出会ったバラをモチーフにした香りの中で、最高の逸品だと思うからだ。
ナエマEDPは、ゲランの数ある名香の中でも、特に秀でて素晴らしい香りの一つだと思う。にも関わらず、知名度は圧倒的に低い。ジッキー、ルールブルー、ミツコ、シャリマー、ボルドニュイ(夜間飛行)。これら歴史的な名香のネームバリューに比べれば、本当に知る人ぞ知る香りだ。それでも、これらに比して全くひけをとらない、ゴージャスで洗練された美しい香り。個人的には、4代目調香師ジャン・ポールの最高傑作だと思っている。
映画「めざめ」(1968)でカトリーヌ・ドヌーヴに惚れこんだジャン・ポール・ゲランが、彼女のイメージをもとに架空の美しい姫の姿を作品に投影し、彼女に捧げた香り。それがナエマの出自だ。リリースは1979年。ただ、当時香水需要が高まっていたアメリカ向けに巨額の広告宣伝費を投じたにも関わらず、商業的には振るわなかったといういわくつきだ。
さらに、「千夜一夜物語」ふうの双子の姉妹のストーリーもよく語られるが、かの膨大な伝承の中にはそのような物語は見当たらないようだ。「千夜一夜物語」じたい、何がオリジナルかも不明なほど、各地でさまざま物語が作られ、付け足されていった経緯があるので、実際は口頭伝承のみで筆記されなかった逸話かも知れないし、ゲランによるオリジナルイメージストーリーなのかも知れない。
そんなナエマEDP の香りはというと。
オープニングは、名香シャネルN°5を彷彿させるアルデハイドのキラキラしたワックス香から始まる。ややクラシカルな出だしだ。そしてすぐにグリーンノートが広がる。シャープで青い薔薇の茎やとげ、細かいギザのついた葉を思わせるようなトップ。
3分もせずに下から、甘い蜜の存在を花弁の奥に感じさせるスッキリした薔薇の香りが広がってくる。ライトなピンクの薔薇を思わせるようなフルーティーな香りは、パッションフルーツの酸味、ピーチアルデヒドによる桃のふくよかさに彩られている。ところが。
驚くべきことに、次第に薔薇の香りが濃厚になってくる。ヒヤシンスのグリーンの消失と共に、一枚、また一枚と花弁が増えていくようなイメージ。それは、爆弾の弾頭を思わせる薔薇のつぼみが開くにつれ、こんなにも多層の花弁がどこに隠されていたのだろうと驚く瞬間にも似ている。コクのあるジャスミンの花弁、妖しく誘うイランイランの花弁、可憐なスズランの花弁。そして、わずかにバルサミックな香りの花弁。それらは遂に、フルボディの極上のワインとなって、複雑かつ多層的に香り出す。これぞダマセノンを用いた秘伝のローズ香料の成せる業。至福は6〜8時間程度。
ラストは、柔らかく穏やかに薔薇の余韻を残しつつ、ヴァニラのクリーミーさとピーチのほの甘さを絡ませながら消えていく。ときにサンダルウッドの温かみをも伴いながら。不思議なことに、香りを鼻から早く吸い込むと、グリーンでシャープなローズの主張が感じられるし、ゆっくり深く吸い込むと、イランイラン様のダーク&甘い口紅のような残り香が感じられる。ナエマは最後まで本当にたくさんの香料がせめぎあっている。
拡散力はあるものの、かなりプライヴェートな距離に近づいた時に感じられるタイプ。いわば、香りのA.T.フィールドのようなイメージ。多層な花弁の奥に隠された秘密は、誰もがおいそれとのぞき見ていいものではない。ナエマには薔薇のもつ密やかなたたずまいさえ表現されているように思う。
自分には高貴すぎるとか、早すぎるとか、窮屈な型にはめてしまうのはもったいない。好きな時に好きなだけ、好きなようにつけるのがナエマには似合うだろう。
一人の天才調香師が、それでも4年もの歳月をかけて500回以上の試行錯誤を経て創り出した香り、それがナエマだ。「千夜一夜物語」ふうになぞらえたのは、ジャン・ポール自身が、シェヘラザードの語り紡ぐ伽話に夢中になったスルタンのように、千の夜を越えてやっとこの香りに出会えたからに相違ない。
短い人生でこの香りに出会えてよかった。そう思う。ナエマを越える薔薇を探すなら、覚悟した方がいい。それは幾千幾百もの夜を越え、幻の薔薇のナマエを探す壮大な旅になるかも知れないのだから。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2017/11/18 15:30:33
「この香りは、男性を虜にする」と少し前から巷で囁かれているフレグランスがある。それはフエギア1833のラ・カウティーバ。スペイン語で「捕虜」の意。ネットでは女性の名前と勘違いしている記述が多いが、残念ながら固有名詞ではない。ただ、南米パタゴニアの歴史では、先住民に拉致された「囚われの女」という叙事詩名としても有名だ。囚われの女、その名はマリア。彼女はある日突然襲ってきた先住民たちによって、他の女とともに拉致されたという。
新大陸発見以降、かの地に入植したスペイン人は、植民地化政策のため、先住民への迫害を行った。そしてそれに対するインディオの報復行動は各地で頻発し、スペイン人の家族を拉致して捕虜にする事件も起きたという。アルゼンチン〜チリにわたる広大なコロラド川流域にも、北アメリカ大陸さながらの迫害と抵抗の歴史があったのだ。
そんなパタゴニアの歴史や文化、人物、そして大自然のもつエネルギーを哲学的に香りで表現しようと2016年に創業されたパフューマリーがフエギア1833だ。
ラ・カウティーバは、50種類以上あるパルファンの中でも、特に女性に人気があるという。現在日本では、六本木のホテルグランドハイアット東京の1Fにあるブティックのみの扱いだが、ラ・カウティーバはよく品切れになっているそうだ。では一体どんな香りなのだろうか?
フエギア1833のスクゥエアなガラスボトルからスプレーする。わりと噴霧量が多いので、半プッシュでもかなり広がる印象。以前は紙ラベルを張っており、品名が手書き風の文字で書かれていたが、最近の物はガラスボトルに直接品名が印刷されている。スタイリッシュになった反面、文字と品名が読み取りにくくなったことと、印刷文字が削れやすい点は、今後変更してほしいところ。
ラ・カウティーバを付けた瞬間の香り立ちは、とても穏やかでソフトだ。あ、植物由来のエーテルだなとすぐわかる透明感。通常ツンとくるアルコール臭がなく、すぐにレザーのようなソーピーなような植物ムスクの香りが漂い、その下からクリーミーで甘い香りが漂ってくる。最初からヴァニラ混じりの甘いフルーツ香だ。ブラックカラントの表記があるが、そんな感じはしない。わずかに甘くて少しだけ苦みのあるさっぱりしたフルーティーな香り。それが何ともスッキリした優しいヴァニラに包まれて広がる。とてもフェミニンでセンシュアル。そして、大きな変化もなく3〜4時間ほどこの香りが続いていく。
ときにこのメインの香りは、焼きたてのパンにハチミツを垂らしたような匂いにも感じられる。また、バターたっぷりの焼き菓子にホットミルクを添えたようにも。はたまた、よく煮詰めて塩味を少し利かせたカリッカリのバタースカッチの風味のようにも。共通点をあげるなら、美味しそうなグルマン系のノートに近い雰囲気だということ。
ラストは、うっすらとした透明感のある香りで消えていく。わずかに甘味とクリーミーさを伴ったパウダリーなムスク香。人に気付かれるほどではないけれど、きれいなラスト。付けてから消え入るまで大体3〜4時間。パルファンにしてはとても短めだ。
全体的に香り立ちがとてもソフトで、拡散性も低いので、多少プッシュ回数を増やしても大丈夫なフレグランスだと思う。全て植物由来の香料かどうかはわからないけれど、確かにツンとくるようなきつさはない。これなら香水が苦手な方にも受け入れられやすいだろう。温かくて甘味とクリーミーさ、わずかなフルーティーさがあるので、どちらかというと秋冬向きだが、これを買った夏でもさほど重たくは感じなかった。ヴァニラにしてもムスクにしてもどこか軽やかで、まるでミントをあしらったかのようなスッキリした感じさえある。そういう意味では、柔らかくてさっぱりしたヴァニラ&バタークッキーといった風合い。そんな系統がお好きな方は試してみる価値があると思う。
1892年に発表されたデラ・ヴァッレの絵画には、先住民の男にさらわれてゆく白い肌の女性の姿が描かれている。彼女の名はマリア。その囚われた妻を助けるため、夫ブライアンは救出に向かうが、あえなくやられ深い傷を負ってしまう。見張りの一瞬のスキをついて夫を救い、共に脱出したマリアだったが、道半ばにして夫は荒野で息をひきとる。哀しみにくれたマリアは慟哭の果て、自身もまた静かに倒れ、夫と共に夜空の星となった。それがパタゴニアに伝わる「囚われの女」の物語。
どこまでも逆境に立ち向かった女性、マリア。彼女の姿を思うと、優しくて甘い香り立ちのラ・カウティーバの香りに、女性が見せる真摯な姿や強さも感じられてくる。
そんな凛とした女性からこのバター&ヴァニラな香りが漂ったら。
それは男性の心が囚われてしまうのも無理はない。
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2020/6/20 10:01:59
フエギア1833のキロンボは、とてもヘヴィーな名前の香水だ。その名の表すもの。「逃亡奴隷社会」。
かつて植民地時代のブラジルで、何百万人もの黒人たちがアフリカから連れてこられ、サトウキビプランテーションで過酷な労働を強いられた。彼らの多くは20歳になるまでに亡くなったという。そこで彼らは脱走し、北東部のジャングルに逃げ込み、先住民ナティーボらと共に密林の奥でひっそりと生きる道を選んだ。その集落や社会を総称してキロンボという。
とても重たい名前だ。もし香水ボトルに日本語で「逃亡奴隷社会」と書いてあったら、少なくとも二の足を踏む人はいるだろう。「ねえ?いい香りね。それ何の香水?」「えとね、フエギアの『逃亡奴隷社会』だよ!」「そ、そうなんだー。なんかすごいね…(汗)。」という会話が交わされるとしたら、いかがなものか。←ま、それはそれで
ともあれキロンボ。初めてその名の由来を知ったときは若干気持ち的に落ちたが、店舗で実際に香りを嗅いだときはとても驚いた。なんというミルキーで優しい甘さの香り。それもそのはず。キロンボは、ブラジルの密林の奥、逃亡奴隷たちが生き延びるために作っていた液体ミルクキャラメルの香りだ。←大事
キロンボをプッシュする。その瞬間、腰がとろけそうになるような甘くてミルキーな香りがふんわりと広がる。よく女性がつけて「おいしそう!」とつぶやいているが、さもありなん。本当にミルクとバターとそしてスッキリした甘さが渾然一体となって広がってくる。バターにはほんのり塩味が効いていてそれすら鼻で感じ取れるのがすごい。本当に「これ、単に食品の香り付け香料では?」と感じるほどの超グルマン。
ミルクと塩バターと甘い砂糖の香り。以上。←終わるのか
展開は特にない。フエギアの香水にはよくある、付けた香りがずっと持続し続けるタイプの香り方をする。人工香料強めだろう。いつまでも同じ香りがずっと持続する感じだ。ただ本当に唾液が出そうなくらい甘くてミルキー。これは不二家さんが「ミルキー」という名でリリースした方がいいくらいの練乳っぽい香り。実際に不二家さんが出してるミルキーボディミストより「不二家ミルキー」な香り。←本家越え?
持続時間は8〜10時間ほど。長い。特に紙やファブリックにつけると、1日過ぎても柔らかく香りが残っているほど。このへんは本当にフエギアらしい濃厚さ。フエギアの香水は全体的に香料の数は少なめでシンプルな香りを濃度高めで展開する、といった感が強い。一般にグルマン系は気温や湿度が高いと重たくて敬遠しがちだけれど、なぜかこの香りは暑い季節でも苦にならない。それは、ほんのひとさじのフルーティーな酸味があって、実にスッキリとした甘いクリーミーさを呈しているからだろう。それがアマゾンフルーツの1つ、クプアスだ。
クプアスはカカオの仲間で、茶色い実の中に白い果肉を有する南米特産のフルーツだ。果肉はパッションフルーツやヨーグルト様の強い酸味をもつ。また、種子には多量の油脂を含み、クプアスバターとしてチョコレートの原料やコスメの素材にも使われる。このクプアスの果実の酸味、バターのコクが、このキロンボを単に甘いミルク香にせず、豊かな風味を添えているように思う。わずかなパッションフルーツ様の香りがくどい甘さになるのを抑えている印象。
ブラジルや南米では、昔からドゥルセ・デ・レチェという液体キャラメルが作られ、愛飲されている。高脂肪のミルクに砂糖をたっぷり入れて、じっくりアメ色になるまで煮詰める。その液体キャラメルには必ずカカオやチョコレート、アーモンド、ドライフルーツを入れるという。そこまで知ると、ああ、この香りにはラテンアメリカの歴史が語られているんだなと実感する。
暗いジャングルの奥に思いを馳せる。先住民との邂逅をはたした逃亡奴隷の黒人たちは、彼らの自給自足の生活様式を学びながら、同時に自分たちの身体に沁み込んでいるアフリカ文化をミックスして継承し続けた。彼らはヤギの乳に自分たちが作っていた砂糖を加えて煮詰め、そこにクプアスの果実やバターを加えて濃厚な液体キャラメルを作り、飢えをしのいできたのだろう。白人社会の攻撃に備えつつ、何百年も文明社会と隔絶して。
その戦いの旗こそキロンボなのだ。その名の重たさを知ったとき、ジュリアン・べデルがこの甘くミルキーな香りに寄せた思いの深さを慮る。そしてそれが悲劇の名称ではないことに気付く。人種差別と闘い続けた彼らの歴史。そして何よりも、生きるために日々の食料を得る戦いを続けた彼らの強さをこの名は表しているのだろう。
どんなことがあっても生きる強さ。今日の命をつなぎ、明日への希望をもたらす香り。キロンボ。
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