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doggyhonzawaさん
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FUEGUIA1833 / La Cautiva

FUEGUIA1833

La Cautiva

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2017/11/18 15:30:33

「この香りは、男性を虜にする」と少し前から巷で囁かれているフレグランスがある。それはフエギア1833のラ・カウティーバ。スペイン語で「捕虜」の意。ネットでは女性の名前と勘違いしている記述が多いが、残念ながら固有名詞ではない。ただ、南米パタゴニアの歴史では、先住民に拉致された「囚われの女」という叙事詩名としても有名だ。囚われの女、その名はマリア。彼女はある日突然襲ってきた先住民たちによって、他の女とともに拉致されたという。

新大陸発見以降、かの地に入植したスペイン人は、植民地化政策のため、先住民への迫害を行った。そしてそれに対するインディオの報復行動は各地で頻発し、スペイン人の家族を拉致して捕虜にする事件も起きたという。アルゼンチン〜チリにわたる広大なコロラド川流域にも、北アメリカ大陸さながらの迫害と抵抗の歴史があったのだ。

そんなパタゴニアの歴史や文化、人物、そして大自然のもつエネルギーを哲学的に香りで表現しようと2016年に創業されたパフューマリーがフエギア1833だ。

ラ・カウティーバは、50種類以上あるパルファンの中でも、特に女性に人気があるという。現在日本では、六本木のホテルグランドハイアット東京の1Fにあるブティックのみの扱いだが、ラ・カウティーバはよく品切れになっているそうだ。では一体どんな香りなのだろうか?

フエギア1833のスクゥエアなガラスボトルからスプレーする。わりと噴霧量が多いので、半プッシュでもかなり広がる印象。以前は紙ラベルを張っており、品名が手書き風の文字で書かれていたが、最近の物はガラスボトルに直接品名が印刷されている。スタイリッシュになった反面、文字と品名が読み取りにくくなったことと、印刷文字が削れやすい点は、今後変更してほしいところ。

ラ・カウティーバを付けた瞬間の香り立ちは、とても穏やかでソフトだ。あ、植物由来のエーテルだなとすぐわかる透明感。通常ツンとくるアルコール臭がなく、すぐにレザーのようなソーピーなような植物ムスクの香りが漂い、その下からクリーミーで甘い香りが漂ってくる。最初からヴァニラ混じりの甘いフルーツ香だ。ブラックカラントの表記があるが、そんな感じはしない。わずかに甘くて少しだけ苦みのあるさっぱりしたフルーティーな香り。それが何ともスッキリした優しいヴァニラに包まれて広がる。とてもフェミニンでセンシュアル。そして、大きな変化もなく3〜4時間ほどこの香りが続いていく。

ときにこのメインの香りは、焼きたてのパンにハチミツを垂らしたような匂いにも感じられる。また、バターたっぷりの焼き菓子にホットミルクを添えたようにも。はたまた、よく煮詰めて塩味を少し利かせたカリッカリのバタースカッチの風味のようにも。共通点をあげるなら、美味しそうなグルマン系のノートに近い雰囲気だということ。

ラストは、うっすらとした透明感のある香りで消えていく。わずかに甘味とクリーミーさを伴ったパウダリーなムスク香。人に気付かれるほどではないけれど、きれいなラスト。付けてから消え入るまで大体3〜4時間。パルファンにしてはとても短めだ。

全体的に香り立ちがとてもソフトで、拡散性も低いので、多少プッシュ回数を増やしても大丈夫なフレグランスだと思う。全て植物由来の香料かどうかはわからないけれど、確かにツンとくるようなきつさはない。これなら香水が苦手な方にも受け入れられやすいだろう。温かくて甘味とクリーミーさ、わずかなフルーティーさがあるので、どちらかというと秋冬向きだが、これを買った夏でもさほど重たくは感じなかった。ヴァニラにしてもムスクにしてもどこか軽やかで、まるでミントをあしらったかのようなスッキリした感じさえある。そういう意味では、柔らかくてさっぱりしたヴァニラ&バタークッキーといった風合い。そんな系統がお好きな方は試してみる価値があると思う。

1892年に発表されたデラ・ヴァッレの絵画には、先住民の男にさらわれてゆく白い肌の女性の姿が描かれている。彼女の名はマリア。その囚われた妻を助けるため、夫ブライアンは救出に向かうが、あえなくやられ深い傷を負ってしまう。見張りの一瞬のスキをついて夫を救い、共に脱出したマリアだったが、道半ばにして夫は荒野で息をひきとる。哀しみにくれたマリアは慟哭の果て、自身もまた静かに倒れ、夫と共に夜空の星となった。それがパタゴニアに伝わる「囚われの女」の物語。

どこまでも逆境に立ち向かった女性、マリア。彼女の姿を思うと、優しくて甘い香り立ちのラ・カウティーバの香りに、女性が見せる真摯な姿や強さも感じられてくる。

そんな凛とした女性からこのバター&ヴァニラな香りが漂ったら。

それは男性の心が囚われてしまうのも無理はない。

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ディオール / ヒプノティックプワゾン

ディオールディオールからのお知らせがあります

ヒプノティックプワゾン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

6購入品

2017/2/4 15:48:38

ヒプノティックプワゾンは、とても危険な香りだ。この香りを嗅いだ人は、その魅力にとり憑かれて偏愛するか、あるいは全力で嫌悪感を露わにするかのどちらかだという。まさに、毒にも薬にもなりうる妙薬。心のどこかでワーニングベルが鳴り響く。Fight or Flight? 足を踏み入れるのか、逃げるのか?ヒプノティックプワゾンは、理性の奥に潜む本能に、常にそう問いかける。

ヒプノティックプワゾンは、80年代にディオールを復活させた香りの立役者とも言うべき、プワゾン(1985)のシリーズ3作目にあたるオードトワレだ。プワゾンの大ヒットを受け、ディオールは、その後シリーズを加えていった。2作目に当たるタンドゥル(1994・現在廃版)を経て、ヒプノティックは調香師にアニック・メナルドを起用し、1998年にデビューしている。

ヒプノティック・プワゾン=催眠毒。英語でもフランス語でもどちらも表記は同じだ。再び世界中にプワゾンの中毒者を増やそうという強い意図が感じられるネーミングだ。それは、杏仁豆腐の香りを思わせるビターアーモンドと、まろやかなココナッツやジャスミン、ベースのスパイシーなヴァニラが心に残る香りだ。

ヒプノティックをスプレーすると、まずはじめに漂うのは、プラム系のフルーティーでダークな甘味と酸味。ちょうど、チェリーコークやドクターペッパーの一口めに鼻に抜ける雰囲気にも似ている。そしてすぐにツンとくるビターアーモンドエッセンスの香り。杏仁霜の代わりに杏仁豆腐に数滴入れる香料で、クリーミーさと粉っぽさが特徴の杏仁霜に比べると、刺すような苦みと独特の暗いコクがある。このトップは、上述のドリンクを薬っぽいと感じる方はすでに「あ、無理」ととらえるだろう。ヒプノティックはトップから明確に人を選ぶ。

3分後、ここからは、付ける場所やその人の体温、気温、湿度、その日の気分によって、感じられる香りがかなり異なる。つまり、日本語で言うところのシンクロノート。

例えばある日、それは杏仁豆腐の香りにペッパーのようなスパイスがきいた香り。それが長時間続く。暗かった甘さが少しずつ温かくなって、やがてセンシュアルなヴァニラとなって収束。

例えばある日、それはやや甘いジャスミンやココナッツの香りも漂わせたスパイシーなフローラル。シナモンのようなじわりと痺れるような香りをきかせたまま、甘くないヴァニラの香りで消失する。

また別の日、それは苦々しいアーモンドと暗いウッディの香り。お香のような凛としたスモーキーさをまとったまま、わずかにヴァニラのクリーミーさを伴ってドライダウン。

自分でさえこうなのだ。毎日、同じ場所に付けていても、その日の天候や気温、自分の状態で、感じられる香りがかなり異なる。ただ、共通項をくくり出せば、ビターアーモンドのギリギリした苦み、鼻がムズムズするようなスパイスの香り、そして、主張は強くないものの、一貫してベースに流れている優しげなヴァニラ。この3つは、強弱は異なっても、毎回感じられる特徴だ。そして、とてもドライ。ただ、出てくる甘さは人によって出力が異なるようだ。自分の肌は体温高めなせいか、あまり甘さは感じられない。人によってかなり香り立ちが異なる香り、それがヒプノティックだ。

作り笑顔。社交辞令。上司や同僚、周囲の知人への必要以上の気遣い。なんかそんなもの全部取り払って、ドライに生きたい。勝手気まま、わがままに過ごしたい。ヒプノティックはそんなとき、自分の逆立った神経を落ち着かせてくれるような香り。プワゾンがどこか蠱惑的な媚薬の暗さをもっているとしたら、ヒプノティックは、いつの間にかとげとげしくなっていた感覚を麻痺させ、リラックスさせてくれるような温かみをもっているように思う。

催眠とは、心地よく人を眠らせることではない。人の意識レベルを顕在意識から潜在意識レベルに誘導し、治療者の暗示のままに動かすセラピーの一つであり、悪用すれば相手を意のままに操ってしまえる危険性をもはらんでいる。だからこそ、心理的な悩みを改善する目的で行われる催眠療法(ヒプノセラピー)は、十分に訓練を受けた者によって行われなければならない。そういう意味で、日本ではまだまだ医学的治療法として明確に確立できていない分野である。

赤い蝋燭の火が目の前に灯される。凝視するよう指示される。穏やかな声が語りかける。やがて数字がカウントダウンされる。フロイトはヒステリーの研究で催眠を行う過程で、無意識と名付けられる深淵な存在を知るにいたった。

ヒプノティック・プワゾンは、とろけるような甘苦い毒。無意識の領域に染みてゆく誘惑。その暗示にかかるのは、あなた?それとも…。

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Sylvaine Delacourte(シルヴェーヌ・ドゥラクルト) / Dovana

Sylvaine Delacourte(シルヴェーヌ・ドゥラクルト)

Dovana

[香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2022/1/21 22:18:45

「香水沼をのぞいてみたら『寝香水』という概念が当たり前のように飛び交っていて驚いた」

少し前、SNSでそんなつぶやきを目にした。あー、そう言えばそうかもなと思う。ちょっと香水関連をのぞくと

「今夜はドゥーブルヴァニーユを寝香水に」とか「寝る前にミルクムスクをつけてオフトゥンへ」みたいなつぶやきが確かにある。どれくらい浸透しているかは定かではないが、確かに香水好きな方には当たり前に通じる気がする。

「寝香水」と聞くといくつか思い浮かぶ作品がある。特におすすめは?と聞かれたら、まずはシルヴェーヌ・ドゥラクルトのドヴァナを挙げる。

「ドヴァナ」とは、バルト海沿岸の国々で「プレゼント」を意味する言葉、と公式サイトにあった。シルヴェーヌ女史は動画でこう紹介している。

「ドヴァナは、夜ベッドに入る前にスプレーする香水。そうすれば絹の繭のようなコクーンムスクが、あなたをパシュミナのように柔らかく包みます。」

思いきり「寝香水推薦」している!

かつて香水帝国ゲランのクリエイティブ・ディレクターを務め、数々の試みで屋台骨を支えてきたシルヴェーヌ・ドゥラクルト。ドヴァナは、独立後に自身のブランドからリリースした「ムスクコレクション」の中の1本。ではいったいどんな香りなのか?

コロンとしたなで型の可愛らしいボトルからスプレーする。するとまず最初に感じられるのは、思いきりパウダリーでほんのり甘いアンブレットシードの香り。ちょっとクールなフローラルの風合いもあって、とてもスッキリしたイントロ。真っ白なベビーパウダーにほんのり花の蜜をくぐらせたかのよう。むせかえるほどのパウダリー。そして甘い。力が抜ける甘さ。

つけて5分ほどすると、甘さと白いパウダリーは、これでもかとふくらんでくる。まるでふわふわの水鳥のダウンに包まれているかのよう。軽くて、ほんのりくすんだ紫色のヘリオトロープの花の香りと、スミレの暗さを感じさせるアイリスの粉感が、どこまでもコナコナ攻めてくる。そこにほんの少しクマリンやココナッツも入っている。紫の花のわずかな影と真っ白な粉の匂いがオーバードーズしてくるミドル。思いっきりタルカム。悶絶級パウダリー。

これはもうなんというか、大きな愛情で全てを包み込むようなママの香りといってもいいくらいの包容力。柔らかな女性の肌に超絶合う香りだと思う。こんな香りの女性がそばにいたら、一流企業の社長でさえ「ばぶばぶ〜♪」と赤ちゃんプレイして甘えていってしまうのでは?(←やめなさい)

そして同時に、布団や毛布、シーツや枕などからこの香りがしても、全く問題ないのではと感じる清潔感あふれるソーピーパウダリーでもある。心が優しく、とても穏やかになる系統の香りだ。聞くところによると、新型なんちゃらが始まってメンタルがかんちゃらしてしまったシルヴェーヌ女史が、マスク生活の中で一番つけていた香りがこのドヴァナだったという。

狂おしいほどのふんわりパウダリー、それが6〜8時間ほど続くと、ラストはカシミアムスクの甘くソーピーな感じで終息する。このへんはムスクコレクションの他の香りとも共通しているように思う。思えばシルヴェーヌがゲラン在籍時にリリースしたランスタンやランスタンマジーも濃厚パウダリーだったから、彼女は本当にこうした系統が好きなんだろう。自分の中ではシルヴェーヌ・ドゥラクルトは「最強パウダリー党党首」に君臨している。

人は心に不安が続くと、穏やかで優しいものを無意識に求めようとする。香りにも、そんなふうに自分を包み込んでくれるものを求めるのかもしれない。ドヴァナを購入した際についてきた小さなブックレットの方には「ドヴァナとは、リトアニア語で『贈り物』を意味する」と明確に書いていた。リトアニア?そうか。ネットの方ではいろいろ配慮して「バルト海沿岸の国々」とぼかしたんだなと気付く。

リトアニアはナチスドイツやソ連の侵攻を受け、そこから独立して立ち上がった共和政の国だ。そして、杉原千畝の偉業が残る地。ドイツ軍侵攻が迫る中、彼はユダヤ人を助けるため、自身の判断で寝る間も惜しんで日本経由のビザを発給し続けた。そして6000人ものユダヤ人の命を救ったという。

リトアニアの「贈り物」。そう聞けば、真っ先に思い浮かぶのは、杉原千畝の「命のビザ」だ。だが、誰もが彼みたいに多くの人を救えるわけではない。それでも、少なくとも自分の機嫌くらいは自分で救ってやりたいものだ。

ドヴァナはそんな人への贈り物だ。羽のように軽く、赤ちゃんの匂いのように甘く、そして女性本来の肌の匂いのようにどこまでもミルキー。

今宵シルクの繭のパウダリーに包まれて 
天使のように心安らかに いい夢が見られますように

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TOBALI / TWILIGHT ROMANCE

TOBALI

TWILIGHT ROMANCE

[香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2020/5/2 14:29:13

日本人が挙げる「世界三大美女」の一人、小野小町をイメージしたとされる香り。平安時代の六歌仙にして、その出自、容姿ともいまだ謎に包まれており、ミステリアスな美女として古今東西さまざまな逸話が語り伝えられている小野小町。

トバリはこのトワイライトロマンスを2019伊勢丹サロンドパルファムでデビューさせ、それ以後も伊勢丹新宿店限定にしている。50mlで13200円(税込)。まさに伊勢丹新宿シグネイチャーといった作品。ところがこの出来がすこぶるいい。

トバリはトワイライトロマンスを次のように紹介している。

「黄昏に染まる花々が織りなす“雅”の情景」
”雅やかな白檀、薄明かりの中に咲く金木犀と薄紅色の薔薇の美しさ。淡いロマンスのように心揺さぶるジャポニズムフローラルウッディの香り。”

結論から言うと確かにそんな香りだ。プラスティックっぽい固さがあるトップ。そこからクリーミー&フルーティーにラクトン系の甘い香りが広がる展開はキンモクセイ香水の特徴を表していてしっとり美しい。わずかにピンクローズの気配もする。ただそれだけではない。これは、とても切ない悲しみに満ちた孤独な香りだ。

トワイライトロマンスをプッシュする。瞬間、広がるのは甘い杏(あんず)の香り。そこにプラスティックやビニールを思わせるわずかなペトロノートが、キン!とはじくような冷たさで感じられる。甘くてフルーティーなトップに、影を落とすような金属的なスパイシー。この光と影のコントラストが明瞭なトップ。

3分ほどするとキンモクセイの主成分といっていいウンデカラクトンのフルーティーで甘い香りとクリーミーさが感じられるようになってくる。このミドルがすばらしい。先頃トバリの社長である橋本氏が某TV番組で最高のベルガモット香料を求めてイタリアに飛ぶ姿を拝見したが、このトワイライトロマンスに使われているキンモクセイも、もしかしたら中国南部、桂林にある世界的に有名なキンモクセイ天然香料生産の工場を訪れて交渉したのではないかと思ったほど。それほど印象的でまろやかなキンモクセイの香りだ。キリアンのグッドガールゴーンバッドのオスマンサスも軽やかなれど、天然っぽい複雑さと深みではこちらの方が上。

「赤黄色の金木犀の香りがしてたまらなくなって なぜか無駄に胸が騒いでしまう帰り道」
思わずフジファブリックの歌の一フレーズを口ずさんでしまう切ない夕暮れの香りだ。

この妙なるキンモクセイの香りがメインとなってミドルがずっと続くが、実際にはわずかにパウダリーなイオノンやアップルやピーチっぽいラクトン系も含まれているクリーミーフルーティーな香りだ。そして底の方にトバリ初期作品に多く使われていた酸味のあるウッディ、Hidden Japonism834もほんのわずか感じられる。(スモークフラワーとつけ比べ)

ただ、ラストは思いのほか早く訪れる。甘いキンモクセイフルーティーな香りが1〜2時間で消失し、その後はスッと力の抜けた淡いサンダルウッドと酸味ある乾いたウッディ香で終息。それは夕闇の中、部屋に灯りをともして焚きしめた香木の香り。平安時代、わずかな灯火の下、自分のために幾夜も通い続けてくれる思い人を待つ宵を思わせるラスト。今夜もあの人は来てくれるだろうか?そんな思いが儚い煙のように消えてゆく。全体で3〜4時間程度。

ウォーターリフレクション以降、トバリは新たなステージに入ったように思う。日本香堂とコラボした平安時代の香りを思わせるHidden Japonism834からいったん離れ、より日本らしさと天然香料がもつパワーを追求する方向に進んでいる気がする。トワイライトロマンスはその試金石だろうか。選びに選んだよい香料をメインに配置し、他の香料はそれを支える脇役に徹する。そんな強い思いがこの作品には感じられる。

夕暮れ空。山際を黒く染め、残照の赤が消えかかる頃。遠く近くたなびく霞。空の上方から、藍色の夜のとばりが下り始める。静かに忍び寄る孤独の気配。不意に胸が苦しくなる刹那。西の空にまたたく宵の明星。重ねてしまうあの人の面影。衣に焚きしめた赤黄色の花の香りだけが、夕闇の中、自分の存在を知らしめる印のように漂う。

かぎりなき思ひのままに夜も来む 夢路をさへに人はとがめじ  小野小町

”あなたへのかぎりない思いを抱える私に今日も一人の夜がおとずれ、私もまたこの思いのままにあなたの元へ参りとうございます。夢の旅路なら誰に咎められることもないでしょうから”

夢で逢うことさえ願う孤独と悲哀。人の夢の儚さ。思い人を待つ心にかかる夕月の色。

あの人に逢いたい。狂おしく思い焦がれる夕べにたなびく香り、トワイライトロマンス。

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PARFUM SATORI / Hyouge/ヒョウゲ

PARFUM SATORI

Hyouge/ヒョウゲ

[香水・フレグランス(その他)]

容量・税込価格:50ml・13,200円発売日:2008年

6購入品

2021/12/25 14:13:37

「織部よ、人と違うことをせよ。」

師匠が点てた茶をいただいた後、手にした黒楽茶碗を拝見していたときだった。千利休はゆっくりとそう言った。二畳の数寄屋。わび数寄の精神を配した簡素な茶室の中には、これまで感じたことのない緊張感が漂っている。それでも師匠の利休は口元に静かな微笑を浮かべ、弟子の織部を見つめていた。一輪の花と茶の香りが静かに流れている。古田織部は心中こみ上げるものを飲み込むように、師に深々と頭を下げた。

1591年、天下人、豊臣秀吉の相談相手であり、影のフィクサーでもあった茶人、千利休は、茶に華やかさを求める秀吉と次第に対立するようになり、遂に堺への謹慎を命じられた。だが利休も弟子の織部も知っていた。秀吉は一度にらみつけた男に対して絶対に容赦しない男だ。近いうち切腹の沙汰があるだろうことを。織部は茶室で頭を下げたまま、どうにかして太閤に直談判せねば、と硬く唇を結んだ。最後の茶を頂いた質素な漆黒の楽椀を見つめながら…。

日本人調香師、大沢さとりさんが作られているパルファン・サトリの香水の中に、かつてこの古田織部の名を冠した香水があった。名はそのまま「織部」。安土桃山時代の茶人、千利休の弟子として可愛がられ、後継の茶人として秀吉、家康、秀忠に仕えた男、それが古田織部だ。その名をとった香水「織部」が「世界香水ガイド3」で香水の帝王ルカ・トゥリンに高評価を得たあたりから名前が「ひょうげ」に変わったことは記憶に新しい。

そして確かに、そのひょうげの香りがすばらしい。

ひょうげをスプレーする。開幕、うっかりユリの茎を手折ったときのような生っぽく青臭い香りが鼻をかすめる。同時に、その青さを包むかのように涼やかな白い花の香りがしている。シャープでみずみずしい茎や葉の香りと、ほんのり甘く冷たい花の香りが、ふわふわと拮抗し合いながら、見事なバランスで香り立つ。ルカ・トゥリンはこのフローラルを「ヒヤシンスとユリ」と表現したけれど、わからなくもない。とても低くて冷たくて、わずかに毒気すら感じる花の香りだ。それが緑の茎と葉の香りの上に咲いているようなトップ。

しばらくすると、冷たくふくよかな花の香りがより明確になってくる。ひょうげの感想を見ると、多くの方が「抹茶の香り」と言っているが、自分の肌の上では抹茶の香りにはならない。これは純然たる「花」の香りだ。花と葉と茎、それぞれが主張しながら調和した1つの花の香りになる。ただ、常に奥に「日本の煎茶」の香りがスッと流れている。

トップからミドルは、それほど変化する感じではない。香料イメージとしてジャスミンやヴァイオレットとあるので、おそらくヘディオンとβイオノンをミックスしてお茶の香りを再現しているのだろう。これはジャン=クロード・エレナが多用するグリーンティーノートの作り方だ。ただ、海外のグリーンティー香水と違って、ひょうげの緑茶ノートは、本当に日本のお茶らしく爽やかであっさりスッキリしていてとてもいい。花の香りに美しい透明な緑色の影を垂らしているようなイメージだ。まるで織部焼きに施された緑色の釉薬のように。

織部焼きは、古田織部が作った前衛的な陶器で、今なお人々に親しまれている。当時の茶碗の名品は「名物」と呼ばれたが、形もいびつで愛嬌のある彼の作品は「へうげ(ひょうげ)もの」と呼ばれた。

ひょうげを付けて1時間ほどすると、お茶の花を模したようなシトラス&ジャスミンっぽい花の香が次第に消失し、ベースにあったお茶の香りが穏やかに広がってくる。ラストはベースのお茶+パウダリーがゆっくりたゆたう。抹茶の香りと評されるのは、こうしたラストのあたりかも知れない。イオノンとアイリスのパウダリーが柔らかく感じられ、和服の装いや白粉の匂いにも感じられてくる優しいラストだ。パルファンサトリの香水は、どれも出力はそれほど強くないが、しっかり一点で香り続ける。持続時間は6〜8時間ほど。近くに寄ってプライベートゾーンに入れる者だけが、このお茶と花と和の装いの香りを聞くことができるだろう。

ひょうげには、西洋香水の「これでもか」とばかりに濃厚な花の香りを組み合わせるのではなく、最小限の厳選された香料を用いて注意深くバランスをとって組み合わせた繊細さが感じられる。まさに、ムダと虚飾を一切廃し、千利休が大切にした侘数寄(わびすき)の心を大切にして作った引き算の香水、彼の茶室そのものの香りだ。

千利休が大阪を去る日が来た。弟子達はみな秀吉の怒りに触れることをおそれ、淀の船着き場には織部と細川忠興の2人しかいなかった。船が出る。織部は見つめた。師の凛とした後ろ姿を。誰に対しても厳しく、そしてどこまでも優しかった師匠を

へうげものが いつまでも 見送っている

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
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  • 血液型・・・O型
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  • 読書
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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