
- doggyhonzawaさん
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2026/3/7 07:28:26
「大変!キリアンが桜の香水を出すわ」
彼女が息を荒げて言う。彼女はキリアンの香水が大のお気に入りだ。ふだんでも大きな瞳を、くりくり回して興奮しながら続ける。
「しかも京都よ!新作は京都の桜がモチーフよ。やば!ヤバすぎよ…」
そう言ったかと思うと、ぼくの目の前にスマホ画面をぐいと差し出す。ちょと!危ないから。そんなのおかまいなしに「この何とかが目に入らぬか―!」みたいにあおってくる。目をしばたかせながらその名を読む。
「…Her Majesty。それって『女王陛下』って意味?」
「ノンノン!これだけなら『陛下』よ。もちろん"Her"がつくから女性に対する敬称だけど、ハーマジェスティは『最上級の敬称』でしかないわ。つまりこの後に"The Queen"などがついて初めて『女王陛下』になるのよ。だからこれだけじゃ誰のことを言ってるのか謎!この後に続く一番大事な人物名や役職名が省略されてるのよ」
「…はー、そうなんですね?」
「そうなのよ!ちょっと誰のこと指してると思う?あーダメ!気になって眠れない私!」
「…はあ」
そしてそれ以来、2人のネバーエンディング推理な日々が始まった。
彼女の予想はとどまることを知らなかった。"Her Majesty 〇〇"の〇〇に入る名前は一体誰なの?「桜」のことかな?でもどんなに感動したとしても桜に最上級敬語はつけないと思う。だって英語圏なら「自然崇拝」はGodやGoddessが一般的よ。だからやっぱり人よ。もし"Her Majesty the Queen"ならなぜ書かないの?"Her Majesty the Empress "で皇后陛下のこと?まさかね。彼がそんなセンシティヴな話題にふれるはずがない。といった具合に。
ぼくもまたその謎にぐいぐいと惹かれていった。確かに不思議だ。一体なぜキリアンは、その最も重要な名詞を空位にしたのだろう?
そしてぼくらは、2か月間毎日、あれこれとタイトルの謎について論じ合い、2026年2月、ついにハーマジェスティを手に入れた。そして互いの手首や体に何度かプッシュし、待ちに待った香りをゆっくりと味わった。それは「桜香水」の予想をくつがえす意外な香気に満ちていた。
「あ。桃の香り。でもほんのりだわ。もっと強い香りがする。アルデヒドかしら?水色の香りが強く拡散してくる。」
「桃か。確かにあるね。でもぼくの肌では一瞬、塩ナッツみたいな香りがしたな。アンブレットシードのベースかな。その後に清らかな水が流れてくるような。」
「それよ。わー、これアクアが強いんだわ。トップからガンガンきてる。うー私、アクア強いと頭痛になるかも。」
「んーでも、昔の瓜系みたいな感じはしないよ。とても清々しいアクアがずっと流れてる。あ、ミドルで水の奥から桜っぽい香りが。」
「そう!桃とローズ。ローズをすごく感じる。」
開幕から30分でぼくらは多くの情報を得た。桃、瑞々しく流れるアクア。そしてたおやかなローズ。それは古都の優雅な抽象。美しい桜風景のアコード。
香りを嗅ぎながら思った。京都を訪れたキリアンは、そこで何を見たのだろう。静かな哲学の道。澄んだ水が流れる水路の脇に、爛漫と咲いた桜の花。そこに春の柔らかな風が吹く。はらはらと花弁が舞い踊り、雪のように白く水面に落ちる様を思った。やがて花弁は水面に集まり、うす桃色の「花筏」となって水の上を流れてゆく。
彼女は手首を近づけたり遠ざけたりして嗅いでいた。「うん。これくらいの距離感かな。今回のはつける場所、距離感が大事かも」そう言って笑った。長い髪が揺れた。ハーマジェスティの水と桜の香りがした。その瞬間、胸が高鳴った。
「少し歩かない?」「いいわね!そういう気分よ。」
冬の乾燥した街を歩いた。それでもぼくらは、しっとりとしたキリアンの水のヴェールに包まれていた。彼女は何度も手首を鼻に近づけて「ラストでシプレの骨格、わかる!パチュリの感じ」とうれしそうだった。ぼくはその手を優しくつないだ。
キリアン。あなたもこうして哲学の道を歩いたろうか?愛する方と2人で。あなたが空位にした「名前」は誰だったのか。ぼくらはこの極東の小さな島の片隅で、それでも世界中の誰よりも長い時間、それを推察しあって楽しかったよ。
そう。きっとあなたは、この香水を手にする全ての女性に、特別な敬称を捧げたのだろう。「あなたの人生の玉座に君臨するのは、あなた自身だ」と。散ってなお美しい、日本の桜のたたずまいに強い感銘を受けて。
そしてぼくは心の中で「Her Majesty 〇〇」の空位に、そっと彼女の名前を置いた。
さあ参りましょう、私の陛下。春爛漫の京都、その心の旅へ。
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- aquamarine7725さん
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- doggyhonzawaさん
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・オードパルファム]
税込価格:- (生産終了)発売日:-
2022/12/10 13:41:09
あなたをたった5秒で強く颯爽とした女性に変える。それは簡単なことだ。シャネルN°19のパルファムを1滴指にとり、耳たぶの裏につける。それだけでいい。
「また何言ってるんだ、大げさな」そう思うなら試してみるといい。香りが好きかどうかは別。N°19パルファムは、強き女性の代名詞として君臨し続けるココ・シャネルが「世界一売れたN°5を超える香りを!」と「自分のためだけに」作らせた最強のシグネイチャー香水だ。
ただしEDPやEDTでは効果は薄い。N°19の破壊力を実感するためにはパルファム一択だ。15mlで31350円。高い?そうだろうか。「なんでこんな香料でこんなに高いの?」と首を傾げるようなそのへんのニッチ香水に比べたら、100倍良心的な価格だと思う。まず歴史とブランド信用力と品質が別格だ。さらに、スプレーでなく指で1滴ずつつけるフラコンなので、本当に減らない。そして超至近距離でだけ高濃度香料がなめらかにずっと香る。実は香害に一番なりにくいのがこのパルファム濃度だ。これぞ本物の香水。香水に詳しくない方なら、なおさら「本物の凄み」というやつをまず体験すべきだろう。
ココ・シャネルはこのN°19を創るために、調香師アンリ・ロベールに何度も試作品を用意させ、香りを纏ってパリの街を歩いたという。そして人々が香りについてどんなふうに声を掛けてくるか確かめた。全く声を掛けられなかったときは、怒号と共に調香師を責めたという話もある。当時ココは86才。ある日、長年住んでいたリッツホテルから出てきた際、若いアメリカ人男性2人に引き留められ「その香水の名前をぜひ教えてください!」と迫られたことが決定打となってこの香りは生まれたという。
ではそんなN°19パルファム、いったいどんな香りなのか?世界的に「グリーンフレグランスの最高峰」と言われる香りの展開を追ってみる。
N°19パルファムを肌にのせる。するとまずはじめに立ち上るのは、ギリリと青臭いグリーンノート、そして粉っぽいアイリスの白い香りだ。そこにまろやかなネロリの甘さが加わり、キレのいいスッキリとした緑と白の香りが広がるトップ。
3分後、ジャスミンのふくよかさとグリーン香が相まって、スズラン様のフローラルが広がってくる。同時に下の方から冷たく青いヒヤシンスの香りも感じられる。ガルバナムのシャープなキレのある香りを軸としながら、ソリッドで青緑なフローラルが感じられてくるミドルになる。
このミドルは知的でスタイリッシュ。キリっとして本当にかっこいい。全くフェミニンじゃない。若々しく、怜悧で、背筋がスッと立っているイメージ。全てに妥協を許さず、自分のめざすベクトルを見定め、どこまでも一直線で闊歩してゆくような、潔さと強さを感じさせる草原と大地の香りだ。
リラックスというなら、それは大自然の中に放り出されたような心地よさがこの香りにはある。けれどそこには同時に、厳しい自然界の現実に対峙する強さもまた要求される。そんな苛酷さを感じさせる香りでもある。ミドルは、大草原に吹く風がオークモスのビター、ベチバーの土の匂いを運びながら3〜4時間続いていく。
ラストはとてつもなく優しい。土深く眠り続け、長年かけて香りを熟成させたアイリスパリダのパウダリーが優しく心と体を包みこむ。ほのかに甘いムスクとともに、小麦粉のようにきめ細かな白い香りを呈してドライダウン。ここまで5〜6時間。たった1滴で。
N°19はココ・シャネルの誕生日である8月19日から命名されたナンバーフレグランスだ。人は一人で生まれ、空と大地の狭間で必死に生きて、その短い生を全うする。「香水をつけない女に未来はない」と言い切ったココが、人生の最後に自分のためだけに徹底的にブラッシュアップして作り上げた香り、N°19。そこに込められたのは、世界中の女性が男性の下に屈することなく、自分自身を強く美しく保ち続け、欲しいものを欲しいと言い、自分の力で未来を貪欲につかみとれ、というメッセージのように思える。
一面の大地。草原が風に揺れている。湿ったベチバーの土っぽい香りがしている。濡れた苔類のビターな匂いが森から運ばれてくる。自然はどこまでも広く、容赦なく、そして気高い香りに満ちている。服が風をはらむ。草原と森の匂いが髪を洗う。
青いガルバナム。苦みばしったオークモス、乾草のベチバー、白いアイリスパリダ。それらが織りなす、今にも発火しそうな残虐なグリーンノート。クールで、スタイリッシュで、挑戦的。常に現代で戦い続けるハンサムウーマンの香り、実装完了。
最終戦闘に備えよ。
大地を疾走するパルファム「ナンバーナインティーン」発動。
5秒だ。5秒で未来にカタをつけろ。
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- doggyhonzawaさん
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・オードパルファム]
容量・税込価格:50ml・37,400円発売日:-
2020/7/18 12:37:32
青い闇、白い月。秘密めいた南国の夜。男と女は今夜一つになる。
血の色の夕日が海に沈む。リゾートホテルのガーデンバー。宵のぬるびた風。汗ばんだ2人の肌。男と女が傾けるカクテルグラス。遠く聞こえる民族音楽の音色。次第に濃くなってゆく闇。それらは濃密な夜の到来を告げる予兆。ここは楽園なのか?それとも冥府の入口?
ムーンライト・イン・ヘヴン。この香水は、キリアンが自身のタイのハネムーンをモチーフに作った「天国の月明かり」という名の香り。
ムーンライトインヘヴンをスプレーする。すぐに感じられるのは、甘いラム酒のような香りだ。スッと抜ける洋酒の清涼感あるトップ。そこにひとさじの甘いフルーティーがある。だがすぐに、塩ナッツな感じのこんもりとしたコクが出てきて驚く。突然の違和感。これはカクテルに添えられたナッツディッシュか?と思う不穏な開幕。同時に、その下から出てこようともがいている香りの膨張を感じる。さながら抑えきれない欲望のように。ここまで1分。
その違和感ある塩ナッツ系の香りはすぐに消える。そして、もともと高音部にじんわりしびれるようなシトラスがあったことに気付く。それは酸味と苦味の効いたグレープフルーツの香りだ。グレープフルーツのキリッとした苦味と透明感ある洋酒の雰囲気になる。さながら、ドライなカクテル、ソルティドッグの風味のようなイントロ。グラスの口につけられた塩が、果実の甘さを引き立て、小皿からつまんだピスタチオのコクのあるナッツ味が口中に広がる。そんな雰囲気のオープニング。
やがて5分もすると、それらは海風に洗われて消失する。南国の夕暮れが赤々と空を染め、次第に暗い血の色に変わる頃、2人は2杯めのカクテルをオーダーする。それは、南国の果実マンゴーとココナッツを効かせた度数のキツい1杯だ。
ソルティなシトラスの消失と入れ替わりに、熟れたマンゴーのみずみずしいフルーティーな味わいが広がり始めると、香りはミドルになる。そこにはココナッツミルクのクリーミーな味わいがステアーされている。落陽のオレンジを思わせるマンゴーのジューシーな香りが、洋酒っぽい香りとミルキーな風味を添えてしっとり広がってくる。このミドルの酔いしれ感は特筆すべき点だ。夜のとばりが下りはじめ、2人の間にも甘く心とろけるような雰囲気が漂ってくる。
わずかにグリーンな感じのある洋酒っぽい甘さは、ダバナのエッセンスのよう。ダバナはフルーティーな甘さをもったハーブの一種。このダバナとマンゴーを軸に、ココナッツミルクのベールがかかったクリーミーフルーティーが、楽園で一夜を迎える高揚感をしっとりと演出している。
このマンゴー+ラム+クリーミーがずっと続いてやがてフェードアウト。ミドルのフルーティーな香りがずっと続くので、エキゾティックなミルキーフルーツ香が好きな人はぜひ試してみてほしい。ただトップに一瞬訪れる塩ナッツ系のファッティーな香りは自分ではやや苦手。それでも、その一瞬の違和感があるからその後のマンゴーフルーティーが劇的によく感じられるのかも知れない。そこが気になる人はいるだろう。
調香はキリアンではおなじみカリス・ベッカー。フルーツノートが好きなキリアンの願いを聞いて、タイで味わったであろう南国系デザートやカクテルのような香りをクリエイトしたのではないかと思う。タイには美味しいお酒や南国系カクテルがたくさんあるという。それはある種の方々にとっては天国だろうか。それとも?
やがて夜がくる。海鳴りは一層響き、ガーデン小径のたいまつにオレンジ色の火がともる。黒いシルエットになった熱帯雨林の向こうで、ギャーギャーと騒ぐ鳥の声がする。ネイティヴが奏でる民族音楽が、大地のリズムのようにけたたましく鳴り響く。そして空に満月が姿を現す。
たいまつの小径をそぞろ歩き、部屋に戻る。ラナイからガーデンを見下ろす。灯りが揺れる庭園の向こう、青い闇に大きな白い月が浮かんでいる。月の光がパームツリーの表面をねらねらと輝かせ、暗い海の波打ち際をぼうっと銀色に浮かび上がらせている。
ムーンライトインヘヴン
暗い室内。衣擦れの音。テーブルに置かれたフルーツカゴから漂う熟れた果物の匂い。酔いは宵とともに深まり、恍惚を呼び覚ます。男と女の体温が干渉しあう。ラナイから銀色の光が斜めに差しこんでいる。月光に照らされた女の柔らかな輪郭 闇にうごめく男の硬い筋骨 シーツが擦れる音。青い闇。白い月。甘美な調べが低く流れている。濃密な夜の空気の中、月の光が2人の秘密を暴いてゆく。蒼い満月(みつげつ)の夜。ここはどこ?
満月の蜜月。ムーンライトハネムーン in Heaven(or Hell)。そこが天国か地獄かはあなた次第。
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