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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:100ml・22,220円発売日:-
2019/4/27 21:04:30
メシャン・ルー。いじわるオオカミ。とてもポエティックなネーミングの香水だ。
この香水はご存じグリム童話の「赤ずきん」の世界をイメージして創られたという。暗い森の中、おばあさんの家にお菓子を届けるおつかいに向かった赤ずきんはオオカミに出会って、というあれ。調香師ベルトラン・ドゥショフールは、赤ずきんのバスケットに入ったお菓子の香りからインスピレーションを広げた。そして森の香り。さらにはおばあさんを丸のみにして赤ずきんを待ち受けたオオカミはどう表現しようとしたのか?
メシャンルーをスプレーする。その瞬間、透明感あるエーテルの匂い、その背後からナッツ系のコクのある香り、そして鼻がムズムズするようなペッパーのドライな香りが追いかけてくる。まるでうす霧の中、ナッツクリームのお菓子をバスケットに入れた赤ずきんが、おばあさんの家の前に立った瞬間のよう。あれ?なんだかいつもと違うピリっとした辛い匂いがする。まさに物語のプロローグ。
3分後、香りは次第にペッパーやスパイスが主張を強くしてくる。ドライで熱があって、どこか挑むような香りに変わる。おばあさんのふりをして目を細めた狼が、眼光だけは鋭いまま赤ずきんを見つめている雰囲気。下の方ではコクのあるナッツ風パウダリー香が支えている。このビリビリペッパー感とやや甘みある香ばしい木の実の香りが拮抗しているミドル。そして、調香師ベルトラン・ドゥショフールが、ラルチザンで多用した独特の薬湯っぽいようなセロリのような苦味もベースに流れている。
ナッツのお菓子の匂いが赤ずきんなら、ワイルドなペッパーの香りはオオカミの象徴。ミドルではこのナッツとペッパーが3:7ぐらいの割合で主張してくる。つまり、狼の方がイニシアチブをとっているイメージだ。セロリっぽい香りはさながら深い森の針葉樹の葉。その深いグリーンの背景。
やがて30分ほどすると、ペッパーのムズムズ感は薄まり、ほんのり甘い穀物っぽい香りが感じられるようになる。クレジットを見ると、ヘーゼルナッツやマロンのようだ。ややスモーキーでホクホクしたサツマイモのような香りがしてくる。木の実系の香りがこんもりと漂い、ピリピリした狼はどこかへ追いやられたよう。穏やかなエンディングを迎える。
持続時間は思ったよりも短い。体温高めの自分の肌では2〜3時間。時折ペッパー&マロンの香りに不意にベルガモットの爽やかさが感じられたり、シダーっぽいウッディな香りがして森っぽさが感じられたり。
アニマル系香料は特に使っていないのに、スパイシーなペッパーとナッツやマロン、セロリ系グリーンのミックスで、どこか灰褐色の動物の毛皮の匂いを連想させる不思議なコンポジション。シャープな香りとまるい香りのコントラスト、あるいはスパイスとナッツの対比があって面白い。興味深いのはこの森の中には一片のフローラルも感じられないこと。シトラスでもフローラルでもオリエンタルでもない。系統的にはグルマンの範疇のようだが、とても冒険的なスパイシー・ウッディっぽい香り。100mlで2万円前後。ネットではかなり安価なショップも。
「赤ずきん」の物語は、もともとあった伝承をもとに1700年代にペロー童話で語られたとされている。こちらのあらすじはかなりおどろおどろ系で、おばあさんと赤ずきんがオオカミに食べられてそのまま物語が終わるなど、他にも子どもには聞かせにくい内容があるようだ。いじわるオオカミ、なんて可愛いものではない。「本当はこわい赤ずきんちゃん」そのもの。
その約100年後、1812年に完成したグリム童話では、おばあさんと赤ずきんを丸呑みにしたオオカミが昼寝をした際に、猟師が登場してその腹を割いて2人を助け、代わりに腹に石を詰めてこらしめるという救いの場面が挿入されている。「森に入ったら危険。おつかいで寄り道したらオオカミに食べられるからダメ!」そんな教訓もこのグリム童話の頃に後付けされたものらしい。
狼は狼でも、どこか間の抜けたグリム童話のいじわるオオカミの方が子ども心にはちょうどいい。オオカミさんは赤ずきんちゃんにいじわるをしたから罰があたってしまいました、そういうことにしておこう。
グリム童話では、おばあさんに変装したオオカミにどこか違和感を感じた赤ずきんが何度も問いかける場面がある。「その耳は?その目は?その大きなお口は何のためにあるの?」もしも赤ずきんが鼻についてたずねたら、その後のストーリーはまた別のものになったろうか。
「おばあちゃんのお鼻はどうしてそんなに長くて大きいの?」
「それはね、お前のいい匂いをもっとクンクン嗅ぐためさ。」
「へー、なんか犬みたい。」
「イッヌ!…あんたってなんか、いじわるだね。」
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2019/12/8 12:29:34
ピュアディスタンスのホワイトを知らなければよかった。この香水に出会わなければ、今も目の色を変えて世界中の香水を集めまくり、あれこれ試してはあーだこーだとくだらない能書きを垂れることに夢中になっていただろう。でもこの香水と出会って変わった。もうそんなにあれこれ探さなくていいかもしれない。そう思うようになった。だからちょっとだけこの香水に対する思いは複雑だ。この香水はあまりに美しくて少し哀しい。
ホワイトの第一印象は驚くべきものではなかった。初めて手首の内側にのせたとき、「柔らかくて、とてもなめらかで、どこかでかいだことがある香りだな。」と思った。静かに始まって、一日中ほんのり甘いパウダリーフローラルな香りが鼻を喜ばせ、自分の周りだけが特別な白いヴェールに包まれたように感じた。賦香率38%はすごすぎる。付けた手首をハンドウォッシュで洗ってもいい香りが残っているほど。この香りをウェディングドレスに例える方が多いのも頷ける。永遠の白。永遠に続く幸せ。欧米では、結婚される女性にプレゼントする方も多いと聞く。わかる。この香水はあまりに美しくてやさしい。
ホワイトの香りに包まれていると、どこか近くで聞こえないくらいの美しい音色が優しく鳴り響いている。そんな感じがする。まるで一流の交響楽団の音出しのようだ。弦楽器が静かにフェードインして、個々の楽器の高さでチューニングをはじめる。やがて木管や金管が唇の湿り具合と空間の響き具合をみるようにゆっくりと楽器に空気を送りこむ。あの静謐で、まろやかで、上質な音空間にふわりとそよぐノーブルな香りだ。あるいは幼い頃に添い寝してくれたあたたかな母の匂い。この香水はあまりに美しくてほんのり切ない。
きっとこれを創った人はとても優しい人だ。ホワイトの香りをかぐたびにそう思うようになった。そのシームレスでどこまでもスムースな香料のシンフォニーに耳を傾けていると、いつしか調香師の魂にシンクロしていく。これを創った方は、とても繊細で傷つきやすく、それでもその分、弱い相手の気持ちをおもんばかれる人だろう、そう思う。調香はアントワーヌ・リー。少しワイルドな見た目の男性調香師だ。2004年にアルマーニコードを発表したことで一躍注目され、以後多くの作品を手がけている人気調香師。彼が一年をかけてじっくりと取り組んだ作品、それがこのホワイトだ。
だが、真に熱狂的な方は別にいる。彼のような人気調香師をして一年かけてじっくり納得いくまで作品を創らせ続けたピュアディスタンス社長、ヤン・エワウト・フォス氏だ。このホワイトは彼の情熱の賜物だと思う。アントワーヌ氏は、フォス氏の強烈な圧しと情熱に全身全霊で応えたのだろう、そう思う。本当にすごいのは彼だ。
フォス氏はこの世界にただすばらしい物を生み出したいと願うパッションの塊のような人だと思う。たとえ自分で調香はできなくとも、持ち前の感性で本物を明確にかぎ分けられる天性の芸術家なのだろう。そして最高の作品を創るためならつぎこむ資金にも糸目をつけないような。だからすごい香水ができるのは必然なのだ。彼がお金儲けのために香水を創っていないことは、その美しい化粧ケースに触れた瞬間からはっきり分かる。彼は仕事に一切の妥協を許さない方だろう。ピュアディスタンスはたとえサンプルセット一つをとっても、天蓋付きのふかふかのベッドに横たわった美しい宝石のように大切に大切に提供している。ボトルの箱の方には社長自らのサインを入れて。彼はそうやって作品に魂を注いでいる。だから、この香水はあまりに情熱的すぎてぐっとくる。
最高の調香師に最高の香料を与えて、何度も納得いくまで作品を創ってもらう。香水好きな方にとってこれ以上の喜びはないだろう。そして生まれた美しい香りを世界中の人に届ける。そこにあるのは拝金主義とは全く逆の志だ。それは愛を与える行為そのものだから。
興味を持たれたらホワイトについてぜひ調べてみてほしい。この香水に関しては、香料がどうだとかトップがどうだとか言うつもりはない。ただ、ただ、試してみてほしいだけだ。自分の肌から立ちのぼる世界最高クラスの香りを。そして感じてほしい。そのとき見える世界の美しさを。そばにいて微笑んでくれるかけがえのない人の大切さを。
一人でいてはいけない。一人心を閉ざしてうつむいていてはいけない。嫉妬や憎しみで心を黒くしてはいけない。あなたがこの美しい世界にいられる時間はとても短い。愛する家族、友人、恋人と手をたずさえ、心を抱きしめ、その笑顔とともに、あなたにはいつも笑顔でいてほしい。
ピュアディスタンスのホワイトはそう語りかける。この香水はあまりに美しくて、あなたが愛しい。
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税込価格:-発売日:-
2021/10/9 11:55:41
ナンバー・トゥエルヴ。ピュアディスタンス12番目の使徒。この香水をつけると、体温でなめらかに溶け出し、ソフトでリッチな香りが肌とひとつになり、甘美なオーガズムをもたらす。この香水には、たとえ拒もうとしてもどこかあらがえない不思議な力がある。No.12。これはあなたの肌とSEXする香水だ。
No.12を肌にのせる。その瞬間広がるのは、シアーでスパイシーな風。カルダモンの透明な清涼感、コリアンダーの温かみある香り。それらが荒波のようにはじける。紺碧の海からスパイスミックスの波しぶきが押し寄せる。冷たく温かい背反したスプラッシュ。彼方には斜陽の黄色い光がぼうっとかすんでいる。それはベルガモットの酸味。ヘスペリディックの風が波をうねらせ、押し上げているトップ。
やがて香りの気配が真夜中の庭園のように思えてくる。深く青い闇が、秘密のささやきに満ちた森を黒く染めている。まばゆい月の光が、木々の葉や庭園の花々をぼうっと青く浮かび上がらせている。
青白い薔薇がかすかに揺れている。エレガントでクールな、孤高の薔薇の香りがしている。あたりにはセンシュアルなジャスミン、フルーティーなイランイラン、クールなゼラニウムの香りも漂っている。その月明かりの庭園を歩く。スパイスの風を胸に、青いフローラルミックスの花園の香りに心を酔わせながら。
時間がたつにつれ、森の気配が強くなる。黒い森の上方に、金色にライトアップされた聖堂のファサードが浮かび上がる。その金の威容と、暗闇の庭園に咲き乱れる花々の青が、美しいコントラストを醸し出す。歩を進めるたびに、あたりにはパチュリの湿った土のスパイシーと、モスのビターインクの香りが濃くなってゆく。次第にメランコリックな気配が強くなる。
自分の肌からスパイスとモッシーとホワイトフローラルと薔薇の香りがしている。そのミドルに酔いしれる。そしてそこには、秘めやかな快楽に堕ちてしまう懺悔のブルーの色が添えられている。
時計台が真夜中の12時を静かに告げる。12番目の使徒は白い香りに包まれる。自身の快楽への堕落も、心からの懺悔も包み込むように、ほんのり甘くふんわりとしたアイリスのパウダリーな香りに抱かれていることを知る。見上げると月が主のように自分を照らし出している。甘いヴァニラの光を投げかけ、いよいよ白くなって青い闇夜の中に浮かんでいる。時は止まり、スパイシーフローラルの残香が、白い月のパウダリーと青いムスクの空に静かに流れ、夜はふけてゆく。
つけてから8時間。夢のように香りはたゆたい、サファイヤブルーの背景に彩られた風景を次々に見せてくれる。きっとNo.12は最高の寝香水になるだろう。この香りはスパイシー&フローラルを基調としながら、ラストは白くパウダリーに終息してゆく。リッチではあるが派手でなく、センシュアルであるが扇情的ではない。肌にのせるたびに、毎回違った快楽がおとずれ、どの香料も突出せず、見事シームレスに溶け合っている。
シアーで、アンニュイで、ほんの少しセンチメンタルで。クールでフェミニンで、エレガントでシャープ。クラシカルなのにモダン、タイムレスかつシック。そして何よりビューティフル。そんな12の形容がふさわしい、とてもとらえどころの難しい香水。
ただ 美しいブルーだ。
オランダ初の香水ブランド、ピュアディスタンス。このたび、正式にピュアディスタンスジャパンが正規代理店として認証を受け、商品はe-storeの注文を受けて日本から発送される流れとなり、よりホスピタリティがグレードアップした。日本ではまだ実店舗に商品を置いているところはないが、ぜひ実現して、誰もが気軽にこの作品群を試せる時代になってほしいと心から思う。
なぜなら一度でもサンプルセットでも購入してみれば、理由はすぐ分かるはず。その対応の迅速さ、パッケージングや封入物の豪華さと丁寧さ、そして何よりフォス社長のセルフポートレートのドヤ顔(←それは毎回苦笑)。彼らは家族単位ほどの気心の知れたメンバーで、じっくり時間とお金をかけて本当にすばらしい香水を作り、世界中の一人一人のお客様に対して心を込めて商品を届けている。はっきり言って、そのへんの香水屋さんで買うときの何倍も大切に接客をしてもらってる感がある。そこだけはぜひ言っておきたい。
だから「すばらしいな」と心から思う。
この作品でこれまでのシリーズは一応の完結を見た。といった所だろうか。ただ12番目の使徒の役目は「裏切り者」ではない。それは、新たな伝説へ進むためのメッセージを託した「場面転換役」だと自分は思う。
No.12。Beauty in Blue。汝のなすべきことをなせ。この青き美しさに、御身を重ねたまへ。
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容量・税込価格:50ml・12,100円発売日:-
2022/1/14 23:46:54
なぜ冬になると、こんなにもチョコレートの香りが恋しくなるんだろう。
冬さびた公園で、白銀のゲレンデで、そして暖炉のオレンジの炎の前で。気が付くと、さまざまな場面でチョコレートを手にしては、つい口に放りこんでしまう。
板チョコは音がいい。包み紙をはずして、銀紙をシャラシャラめくり、ダークブラウンの美しい台形の山を手で割る。パキッ。
かけらを口にほおばる。噛むたびに音がする。パキッ。パキリ。ファキ。ファリ。そしてなめらかに舌の上で溶けてゆく。
また、高級な一粒チョコのアソートは選ぶ楽しみがある。特に好きなのはゴディバのグランプラス。あのヌバック調の宝石箱みたいなダークブラウンの箱に入ってるチョコ。上蓋を開けると、モールドされたひとくちチョコがずらりと並んでいて、どれから食べようかと楽しく悩む。下の引き出しにも正方形のチョコレートが3種類、キレイに収まっていてあれもおいしい。グランプラスは30個入りでも8000円ほどするから、そうおいそれと口にできないけれど、美しい化粧箱は香水のサンプル収納にも使えて何げに便利だ。
そんな冬の煩悩とも言うべき、チョコレートの香りを忠実に再現した香水がある。モンタルのチョコレートグリーディーだ。
モンタルはフランスの香水ブランドだが、創業者のピエール・モンタルは長年サウジアラビアで暮らしていた方なので、彼が創る香りはかなり中東系に傾いているように思う。どの香水もベースに激しく黒く焦げたウード香を持つ作品が多いものの、このチョコレートグリーディーだけは、本当に珍しくモンタルウードベースの香りがしない。そして特に日本の女性に大人気の香りとなっている。おそらくモンタルの60以上ある香水の中でも、日本では断トツの売れ行きだろう。
では、大人気のチョコレートグリーディー、それはどんな香りなのか?
チョコレートグリーディー、和訳すると「欲張りなチョコレート」。モンタルの香水はどれも光対策のためアルミ缶ボトルに入っている。しかも小さいため、実際に手に取ると軽くてやや安っぽく感じる方もいるかと思う。それでも、チャームが揺れるスプレーストッパーや巾着袋がついているので、携帯性は高いし、落として割れることもない。この意匠は好みが分かれるところだろう。
ネックのストッパーを外してプッシュする。すると一番最初に感じられるのは、実はチョコレートの香りではない。とても塩みのきいたナッツ系の香りだ。やや焦げた香りと共に現れるナッティーな雰囲気、ああ、これはよく高級トリュフチョコの中に入ってる茶色いヘーゼルナッツクリーム、あのプラリネの香りだ。そう感じるトップ。
このコクのあるナッツ香は、結構好き嫌いがあると思う。ほとんどの方は「チョコレートの香り」をイメージしてこの香水のトップを嗅ぐので「なんかチョコレートっぽくない」と思われる方も多いようだ。だが、香水をトップノートのひと嗅ぎだけで判断するのはちょっと待ってほしい。チョコレートグリーディーは、時間がたつにつれて少しずつ変化していく香水だ。その点、最初から最後までビターなカカオの香りが変わらない、フエギアのムスカラカカオのようなシングルノートとは少し異なる。
チョコレートグリーディーは、つけて30分くらいからチョコレート香になる。ヘーゼルナッツやアーモンドを焦がして砂糖と一緒にペースト状にしたフィリングの香りから、それを包むダークチョコレートの香りに変化してゆく。これはまさにゴディバのトリュフの風合いだ。そしてここからずっと、チョコレートの香りがまろやかに続いていく。なんとつけてから10時間以上も穏やかに、ふんわりと。やがて、ヴァニラ香も感じられてきて、ビターチョコレートからミルクチョコレートの香りに変わってゆく。
とはいえ、出力は強い方ではない。ビターカカオの風味、ミルキーなヴァニラの風合い、ほんのりとしたドライフルーツ様の甘さがとけあって、柔らかく香り続ける感じだ。つけて5〜10時間頃のラストノートが、本当にミルクチョコレートの香りに近い。それも、手首やデコルテなど、つけたところから不意にチョコレートの香りが鼻をかすめる感じ。そんな香り方をするから、逆にちょっとたまらない。
なんでこんなにミルクチョコレートの香りは 心をときめかせるんだろう?
香ばしい黒いカカオの香りは、人の心をゆったりリラックスさせるという。白いミルクの香りは、気持ちを安心させる効果がある。だから2つを合わせたチョコレートの香りは、この肌寒く人恋しい時期、甘い麻薬みたいに心をとろけさせるのだろう。
チョコレートグリーディー。それはナッツプラリネを包んだ甘いトリュフチョコの香り。黒と白、禁断のおいしいマリアージュ。
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税込価格:- (生産終了)発売日:-
2020/10/31 16:34:30
目を見張るまばゆい装飾に彩られたトプカプ宮殿。その一番奥に男子禁制の特別なエリアがある。そこはスルタン(王)に仕える女性達だけが千人以上暮らす禁断の地、ハレム。
全盛期、東ヨーロッパから西アジアにかけて広大な地域を支配し、地中海沿岸のキリスト教国家を心底脅かした強大な存在、オスマン帝国。トプカプ宮殿は、そのオスマン帝国のスルタンが住んだ広大な居城だ。スルタンをはじめ、常時八千人の家来や商業者が暮らしていたという。この宮殿の最も奥に作られたのがハレムだ。
ハレムと聞くと、どうしても「男性一人にたくさんの女性」といった官能的なイメージがつきまとうが、もともとは一夫多妻制のイスラム国家で「男性と女性は一定の距離を保つべき」という教えを厳しく守るために、男女の住み分けを推進すべく作られたとされている。実際、トプカプ宮殿のハレムは、奴隷として売られてきた各地の女性のみならず、王の母、正妻、側室、彼女らの世話をする女性達が大集団で暮らす女性社会が形成されていたという。彼女らはそこで教養や技能を身に付け、権力者に愛されるための素養を養った。そして一度ハレムに入った女性は、一生その扉の外に出られなかったという。
そんなトプカプ宮殿のハレムをモチーフにした香水がある。セルジュ・ルタンスのフュムリ・テュルクだ。直訳すると「トルコの紫煙」といったところか。
オスマン帝国はもともとオスマン・トルコとも呼ばれたように、トルコ系遊牧民族であったオスマン一世が興したムスリム国家だ。宮殿のハレムには常に、優雅な装飾が施された水タバコ器具から立ちのぼる紫煙がたゆたっていたことが絵画などで伝えられている。ルタンスは、閉ざされた扉の向こう、禁断のハレムに立ちこめる水タバコの紫煙をイメージしたようだ。それは一体どんな香りだろうか?
グラットシエルの縦長の漆黒ボトルからスプレーする。まず最初に感じられるのは、スッと鼻に抜けていく涼やかで透明な洋酒の香りだ。これはジンの香り付けに使われるジュニパーベリーだろう。すると、すぐあとからもうもうと煙の匂いが立ちこめてくる。スモーキーどころではない。完全に何かを燃やした煙の匂いだ。とても焦げくさい感じになる強烈なトップ。
2〜3分すると、その焦げくさい煙の奥からアンバーのくぐもった樹脂香、ドライなスパイス香が感じられてきてオリエンタル色全開となる。バーチタール系の焦げくささなので、馬革のようなレザー香も強い。この多層的な煙のすごいこと。ちょっとクラクラしそうなほど、あらゆる香料が饗宴している。スパイススーク(市場)の雑踏、革製品をなめした匂い、そして薔薇やリンゴのフレーバーをほどこした蜂蜜タバコの匂い。それらが一気に押し寄せてくるイメージ。それはまさに、ヨーロッパやエジプトや西アジアから連れてこられた奴隷女性たちの、あらゆる文化生活が入りまじった匂いのよう。
この複雑なアコードは、さながらピメントを燃やしたときに出る煙のように、ある種麻薬的な匂いで強烈に嗅覚と脳を刺激し続ける。これは、ただのタバコノートを模したものではないな、と思う。強烈ナルコティックなミドル。このミドルが2〜4時間続く。
ふと気付くと、くだんの煙たさは不意に消えている。そして柔らかいジャスミンの残り香が漂っていることに気付く。あっさり霧が晴れたような感じだ。そこにはずっと前からターキッシュローズのツンとした香りとジャスミンのふくよかな香りがあったことを知る。このフローラルなラストは、つけてから5〜6時間で静かに消失する。
してみると、フュムリテュルクの名のとおり、はじめは煙もくもく、そこに革の香りとドライなスパイス、樹の脂のようなこってりアンバー香が絡み合ってうごめいている。ミドルでは煙が薄くなるにつれ、ハニーの甘さ、薔薇やジャスミンの片鱗が次第に顔をのぞかせ、ラストは霧が晴れてそこにいくつもの花が咲いていたことを知る。そんな展開の香水。確かにハレムの扉の向こう側のイメージだ。
閉ざされたドアを開ける。とそこには、思い思いに水パイプをくわえ、退廃的な香りを漂わせる女性達が寝そべっている。スルタンの愛情を一身に受けるべく、身体に塗ったさまざまな花の香油の香りが妖しく広がっている。今夜、スルタンに気に入られて共にベッドに入れるのは誰?彼の子を身ごもれば、大部屋を出て個室と財宝を与えられる。煙の奥に、女性どうしの闘いと駆け引きが常に交錯する。
禁断の扉の奥へようこそ。強い王の帰還を待ちわびる女性たちの、私欲と陰謀うずまく弱肉強食の世界へ。そこには今日も、全ての輪郭と感覚を麻痺させる麻薬のような煙がたちこめている。甘く、狂おしく、どこまでも人の心を酔わせる紫のフュムリテュルクが。
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