2012/10/16 12:13:56
欠点のない人間がいないように、欠点のない香水もありません。
ただ、どんなに欠点があったとしても心から愛する人がいるように、私は、どんなに癖があろうともシャマードを心から愛しています。
「人は生涯に一つの香水しかつけてはならない」という法律ができたとしたら(笑)、私はこの香水を選びます。
第一印象は最悪でした。
古臭くて金属的なきついお白粉。
連想させる人物像は、魔法使いのお婆さん。あるいは金満家の鼻持ちならないフランスマダム。
浮かんだ言葉は、「これぞ香水臭さ、香害とはこのこと」
ところが、この強烈なトップノートは、ある時点からさっと幕が上がるように消えてなくなり、やがて、素晴らしいとしか言えない香りがあらわれます。
女性を、清らかな春の妖精にしてくれる香りです。
私なんかの描写より、ジャン・ポール・ゲランがインスピレーションを受けたサガンの小説「シャマード」を引用したほうがいいでしょう。
「彼女は眼をあけた。風が突然、決意したように、寝室にはいってきたのだった。風はカーテンを帆に変え、大きな花瓶の花を床の方へかしげさせ、いま彼女の眠りに襲いかかっていた。それは、春の、最初の風であった。林や、森や、土のにおいがした。パリの郊外や、ガソリンで充満した街路を気ままに吹き抜けて、風は、かろやかに、誇らしげに、暁のなかを彼女の寝室にやってきた。彼女が目をさます前に、生きる喜びを彼女に知らせるためだった。」
冒頭をそのまま引用しました。ゲランは、この数行を本当に見事に香りで表していると思います。
強烈なトップノートは、きっと、ガソリンや香水臭さが混じった一昔前のパリの匂いなんでしょうね。
でも、それが吹き抜けたあとは、花や緑やせせらぎの素晴らしい香りがします。
都会の埃っぽさや花粉症なんかに悩まされない、純粋な大地が迎える、春の暁の香りです。
清々しく、軽やかで、誇らしげで、生きる喜びにあふれた・・・。
とにかくめったにない素晴らしい香水ですが、癖もそれなりにあるので、付き合い方には気を使います。湿気が多く香りの立ちやすい日本では、普通につけていると、ふとした拍子にトップノートのお婆さん臭が顔を出してしまうかもしれません。
そこで、私は、おなかあたりに一吹きしたあと、お風呂に入ります。かけ湯をしてトップノートをさっと蒸発させると、たちまち生きる喜びにあふれた瑞々しい春の香りが浴室に立ちこめます。この切り替わりは、本当に魔法のようです。この春の香りに包まれてお風呂に入るのが、あまりにも気持ちよいので、私は毎晩、こうしてお風呂に入っています。
そして、大切な日は、出かける前にこの香水とともに熱いシャワーを浴びます。邦題の「熱い恋」とのちょっとしたつながりを感じつつ・・。
ネットで少しは安く入手できるとはいえ(約8千円)、私のように毎晩入浴とともに使うには高くつくので、人にはお奨めできませんが、当分はやめられない贅沢です。
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