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フラッサイ / ブロンディーヌ

フラッサイ

ブロンディーヌ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2021/1/9 18:38:01

長い間、香水の旅をしてきた。そしてまた一つすばらしい香水と出会えた。フラッサイのブロンディーヌ。この香水を肌にのせたとき、一筋、迷いの森からの出口が見えたような気がした。

フラッサイは、2013年にアルゼンチンのブエノスアイレスでブランディングされたジュエリー会社だ。しかしながら創業者のナタリア・オウテダ女史は、長年ニューヨークのクエスト、ジボダンで香水マーケティングに携わり、エバリュエイターとして活躍してきた人物。いわば香水業界の裏の裏まで知り尽くしている方。そんな彼女が故郷ブエノスアイレスに戻った際、香水瓶ペンダントを創りたくて起業したそうだが、そこから自然に香水づくりも進んだようだ。

最初に創った3作品は、辛口批評でおなじみの「世界香水ガイド3」でどれも高評価を得ており、世界中の愛香家が注目する契機ともなった。中でもトップセールスを記録したこのブロンディーヌは、ブランドの代表的な作品として人気が高い。これはフランスの古いおとぎ話に登場するブロンディーヌ姫にインスパイアされた香り。リリースは2017年。調香はTFのヴェルベット・オーキッドなどで知られるヤン・ヴァスニエ。

幼い姫が王の後妻によって森に置き去りにされるおとぎ話、ブロンディーヌ。彼女は白猫や白鹿に助けられながらも、父に会いたい一心で悪い動物の甘言にのってしまう。その罪を償うべく幾多の試練に立ち向かう健気な姿が描かれる物語。ナタリア女史はこの物語からどんなインスピレーションを得たのだろう。実際にブロンディーヌの香りを嗅いでみる。

ブロンディーヌをスプレーすると、まず最初に広がるのは、エキゾティックな白く厚い花弁の香りだ。フランジパニやタヒチアンティアレのように、ふんわり華やかなホワイトフローラルが炸裂する。ガーデニア系が好きな方は悶絶必至のトップ。

1分後、このホワイトフローラルの影にサッパリした柑橘オレンジの香りが寄り添っていることに気付く。クレジットにはグリーンマンダリンとあるが、確かに酸味がキリッとした緑色のオレンジだ。このシトラスがフローラルの重たい分子を上げてきているのだろう。明るく、誰からも愛されてきたプリンセスのイメージにふさわしいイントロ。

5分後、南太平洋系のフローラルに感じた香りに少し影が出てくる。かなりソリッド&スパイシーなフローラルになる。これはもうガーデニア系ではなく、ツンとした花粉っぽさが感じられるユリ系の雰囲気だ。ミドルのメイン香料にタイガーリリーとあるので、そのやや強くてエッジの硬いフローラルに変わってくる。だがそれだけではない。香りは刹那的にどんどん変わってくる。香料をバランスよく、しかもかなり豊富に使っていることがわかる。そしてあえてそれらを見せない。全てフローラルの影にひっそりと漂わせている。なるほど。場面は、暗い森に置き去りにされた少女に変わったのだろうか。森の中でうごめく動物の匂いや樹や苔の匂いが、彼女の周囲に漂い始めるイメージ。この影は次第に濃くなってくる。

わずかなカストリウムのアニマリックが効いている。同時に、遠くから漂う甘い花蜜の香りも感じられる。あたりにはさまざまなユリの花が咲き、植物の葉のグリーン、アーシーな湿った土の香りもしている。森をさまようブロンディーヌ姫。不安と畏れと、それでもたくさんの花を摘みたい欲求に駆られる一人の少女。彼女は森で白い動物たちに助けられ、やがて7年の眠りを経て森で大人の女性になる。

このミドルはスパイシーなユリの香りがメインとなる。それは女性として強さと美しさを身に付けた姫の変身ぶりのよう。後半になるにつれ、柔らかなスエード調レザー香や甘いパウダリームスクが出てきて、香りは再び柔らかく甘く変化してゆく。幾多の困難と試練を経て、動物たちの協力を得て森の出口へ向かうブロンディーヌ。ラストは、彼女を見守り続けてくれた白猫と白鹿が蘇り、王との再会を果たし、勇気と忍耐の物語をハッピーエンドにしめくくる。香水ラストの甘い花蜜の香り、パウダリーな白いムスク香は、安心と平和を象徴するかのよう。持続時間は長く、つけてから8〜10時間ほど柔らかく続く。

悲しみに満ちた少女は、森での試練を経て、美しいプリンセンスになる。それはおとぎ話でも何でもなく、女性の人生そのものの道程かもしれない。フラッサイはどの香りも本当に素敵だ。だが、まだ日本では販売されていない。ぜひネットで検索して世界の窓を開き、その美しい香りを手にして心を震わせてほしい。

これは、いまだ暗い森をさまよう女性たちへのメッセージだ。光の出口は必ず訪れる。自分で自分にダメ出しの呪いをかけることなかれ。

自分全肯定。全ての女性に勇気と希望を与える香り。フラッサイ、ブロンディーヌ。

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エトロ / ウダイプール オーデパルファム

エトロ

ウダイプール オーデパルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:100ml・25,300円発売日:2018/5/16

6購入品

2021/5/15 12:30:54

「インドなんか二度と行くか!ボケ!!」という最高に笑える本がある。著者のさくら剛さんはお笑い芸人を目指して上京するも、すぐに挫折してひきこもり生活に突入。好きな人ができても思いきりふられ、その度にインド、アフリカへやけっぱちの傷心旅行。ヤバいとこにばかり首を突っ込んでいく雑草根性が本当最高。エトロの香水を思うとき、ついこの本を思い出して笑ってしまう。エトロじたいはとても洗練されたブランドなのに。

エトロは、1968年にジンモ・エトロが創業したミラノのファッションブランドだ。旅行好きなジンモはインドへの旅で出会ったカシミアのペイズリー柄ショールに多大な影響を受け、その布地やペイズリー柄を欧州に紹介したことで一躍有名になった。香水部門においては、グラースの香料会社ロベルテと協働し、高品質な天然香料を軸にしたナチュラルでオリエンタル嗜好な作品を提供し続けている。彼は何度もインドに行ってる人だ。

そのエトロがブランド50周年を記念して、2018年に発売したのがウダイプール・オードパルファムだ。ウダイプールはインド北西部、ラジャスタン地方にある都市の名前。紺碧のピチャラー湖周辺には、古代からマハラジャの宮殿や城塞が築かれ、別名「湖の町」とも呼ばれ観光地としても人気だそうだ。

でも自分は行きたいとは思わないな。さくらさんの本のせいか、ついそう思ってしまう。

かつてシルクロード交易の要所であり、スパイスや布地、植物や動物など、東方の貴重な交易品をヨーロッパに届けていたウダイプール。それはエトロというブランドにとって、インドとイタリアをつなぐ重要な場所だったということだろう。

では、そんな思いがこめられた周年記念作品、ウダイプールとはどんな香りなのか?

シンプルで美しいボトルからウダイプールをスプレーする。その瞬間、華やかでクリーミー、フルーティーかつウォータリーな白い花の香りがふんわり辺りに広がる。濃密な南国花のミックスだ。一瞬で自分が好きなタイプだと分かる。トップからのけぞりそうなロマンティック。猫にマタタビ。野良犬ドギーにクリーミーフローラル。いきなり悶絶。1ラウンドKO必至。

香りじたいはほぼ変化なく推移するので、もう少し詳しく分析してみたい。ブランドが出している香料イメージは次のよう。

トップノート:ベルガモット、ピンクペッパー、マグノリア
ハートノート:サンバックジャスミン、ガーデニア、ロータスフラワー
トップノート:パチョリ、カシミアウッド、ムスク

自分の肌では、トップからマグノリアやガーデニアのふんわり甘いラクトン系クリーミーピーチ感、タンス防虫剤っぽいカンファーさを伴った超インドールジャスミンの優雅なフローラル感が交じり合い、フルーティー&クリーミー&エロティックなフローラルとなってふわふわと広がってくる感じ。そこにハスの花のみずみずしいウォータリー感も効いていて、水辺のゆったりしたガーデンを思わせる香りになる。これが6〜8時間続く展開。

エトロ香水と言えばかなりインド偏愛で、他の作品にもわざわざ「マイソール産」と書いたサンダルウッドを使用したり、ピンクペッパーやインセンス、ウッディを多用している感じがあったが、このウダイプールは、白く厚い花弁の花の香りをかなり濃厚にミックスした、超ド級ハネムーンロマンティック仕様になっているように思う。

これには参った。今までエトロの香水は「インドっぽさ多め、天然香料使いの地味系多め、シングルノート多め」と勝手に認識していたので、初めてつけたときには本当に驚いたのを覚えている。特に、チュベローズ系、ジャスミン系、ガーデニア系が好きな方には相当おすすめしたい天国の楽園フロリエンタルだ。

インド、ウダイプールのピチャラー湖の真ん中には、かつてマハラジャが住んでいた巨大な宮殿レイク・パレスがある。そこは現在、超リゾートホテルとして観光客の目と心を楽しませており、ときに天国の楽園と称されるという。このホテルの中庭には、リリーポッドと呼ばれる美しいハス池がある。仏教においても古代エジプトにおいても大切にされた永遠の命を司るというハスの花。ウダイプールという名の香水には、東西の水を交わらせ、文化の流れをつないだピチャラー湖とハスの香りも感じられて興味深い。

インドの花とイタリアの花。そして世界の水辺に咲くハスの花。ウダイプールはそれらエキゾティックな花々の蜜を集めた「香りのレイクパレス」だ。

湖に浮かぶ白亜のレイクパレスホテル。その中庭の池のほとりで、美しい花々の香りに囲まれて悠久の時を思い、ゆったりくつろぐ。なんかいいな。そういうの。



なんだ自分・・・。本当はちょっと行きたいかも。インド。

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メゾン フランシス クルジャン / グラン ソワール オードパルファム

メゾン フランシス クルジャン

グラン ソワール オードパルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

容量・税込価格:70ml・32,670円発売日:2016年10月

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6購入品

2018/11/24 14:10:48

晩秋は傷がしみる季節だ。心も体もカサカサと乾いて。そんな時期につけたい薬のようなオードパルファム、それがフランシス・クルジャンのグラン・ソワールだ。

天才調香師という冠で紹介されることが多いクルジャン。メゾン・フランシス・クルジャンは、2009年パリにブティックとメゾンを開設した今が旬の香水ブランド。香水に詳しくない方も、この若き才能ある職人の名は覚えておいて損はないと思う。

彼が自身のアトリエをもつことになって最初に世に出した作品は7つ。その中にプール・ル・マタン(朝のための香り)とプール・ル・ソワール(夜のための香り)というペアフレグランスがあった。この2作品は現在廃盤となっており、リファインされてプティマタン(小さな朝)とグランソワール(壮大な夜)の名でリリースされており、香料もかなり変更している。

グランソワールは、木の樹脂香が強くとてもスパイシーだったプールルソワールをマイルドにして、より多くの女性が使いやすい構成に変えたオリエンタル系のオードパルファムだ。パリの宵の時間を表現したというグランソワール。どんな香りかというと。

美しい琥珀色の液体。キャップはギラギラのゴールドメタルキャップ。テンションが上がる宝石のようなボトルからスプレーする。その瞬間「!」という記号と共に気分は一気にアラビア〜ンな世界へ。粘り気のある強い木の樹脂の香り、ハーバルな薬草の香り、そして乾いたスパイスの香りが一気に空気を濃密にする。思わず周囲を見渡し、サリーやターバンを身に付けている人を探してしまうほど。「ここどこ?中東?」「もしかしてディズニーシーのアラビアンコーストにテレポートした?」(←それだ)

クルジャンによるとシングルノートとのことだが、トップはベルガモット系の香料を用いてスッキリ感を出し、ねっとりした木の脂の香りを抑えていると思う。だから少しだけ変化していく。

オープニングから一貫して感じられるのはアンバー系のアニマリックな香り、ベンゾインの甘く酔わせるラムっぽい香り、ラブダナムの暗くてグリーンなバルサム香、さらにはそれらを包みこむクリーミーなヴァニラの香りだ。この4つがそれぞれ主張し合い、危ういバランスを保ってアピールし合う構成だ。そしてこれがグランソワールの香りの全てだ。

持続時間はとても長い。日中間違って肌に試しづけしてしまうと「わ!アラビア〜ン過ぎ!まずい。みんなキョロキョロしてるわ!きっとサリーかターバンを身に付けてる人を探してる!または黒ひげの大富豪!ダメよ、私は黒ひげじゃないわ!まさに黒ひげ危機一髪!」と心の内で叫ぶやいなや、付けた手首を服の袖口でひた隠して化粧室に行ってゴシゴシ洗う可能性大。ところが。

洗い落としたにも関わらずまだ残っている香りの強さに気付いてムンクの叫び。しかし。

「あら。なに、この甘くて狂おしい香り!」

そこで初めてグランソワールのスパイシーヴァニラのブレンドのよさに気付いて虜になってしまうのだった。合掌。(←大丈夫か)というか、それくらい落ちない。持続時間はゆうに10時間。粘度の高い樹脂系の精油を多く使用しているのでオイリーな香りが長く続く。

この香水に多く使われているベンゾインやシスタスは、自身の傷ついたところを保護したり、過酷な気候から身を守ったりするために粘性のある樹脂を出す木や植物だ。どちらも古来より傷の治療、咳や鼻炎、呼吸器系の治療にも使われてきた薬効高いレジン。晩秋は人の体も乾燥してくる。落ち葉のようにカサカサと。樹木は樹脂を出すことで自らを守り、傷を癒してきた。人にもそんな体や心に効く香りが必要だ。

注意点を挙げるとすれば値段とTPOだろう。フローラルがないので日本の女性は苦手な方が多いオリエンタル系かもしれない。中東の焚香&薫香系、ウードなどが好きな方にはいいだろう。似た香りで言えばルタンスのアンブルスルタン、アトリエコロンのアンバーニューなどがある。それらが好きな方は是非。ゲランのシャリマー偏愛の方も少しならいけるかも。いずれにせよ、淡くシンプルな香りが好きな方が多い日本人女性には賛否両論あろう香り。たくさんの系統の香りを使いこなせる中級〜上級者向けではあると思う。

かなりアクが強いので日中やオフィスワークにはあまり向かない。人混みも避けた方が無難。この香りをまとうなら、せめて夕暮れ空がグランソワールの琥珀色よりも暗く濃くなってからがいい。こういうタイプは寝香水にもおすすめだ。これは夜のための香り、まさにプールルソワールだから。

今日も街に夕暮れがせまる。夕日が空を琥珀色に染めてゆく。それはまるで人々を安息の夜にいざなう焚き火の炎のよう。

そして心に訪れるグランソワール。

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ディオール / ウード イスパハン

ディオールディオールからのお知らせがあります

ウード イスパハン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

6購入品

2018/12/22 18:29:45

「子どもたちが空に向かい両手を広げ、鳥や雲や夢までもつかもうとしている」

この時期になると不意に久保田早紀さんの「異邦人」のメロディが心に流れることがある。今から40年前に大ヒットした歌だ。というかそんなに時間がたったのかと思うと愕然とする。彼女の1stアルバム「夢がたり」はファドやクラシックの要素を散りばめた本物の名盤中の名盤だ。しかしあれから40年とは。(←くどいな)

最近ディオールのウードイスパハンをずっと使っていたせいかも知れない。ラオスのウード、ダマスクローズ、ラブダナムabsなど、東洋系香料を贅沢にフィーチャーしたこのオーデパルファムは、2012年にディオールのラグジュアリーライン、ラコレクシオンプリヴェからリリースされた。調香師フランソワ・ドゥマシーは、若きディオールが東洋のバザールを旅した折に出会って衝撃を受けた香りを基にこの香水を創作している。

ウードイスパハンの桜色の液体は、ダマスクローズのピンクを思わせとても美しい。さらに薔薇のマカロンとして有名な「イスパハン」の名を冠していることからも、ついグルマン調の甘さやクリーミーさまで想像してしまう。だが実際の香りはその期待を大きくくつがえす。

ウードイスパハンをスプレーする。付けた瞬間、柔らかく香ばしい木の香りがする。すぐさま酸味の強いくすぶったウードの香りに包まれ、洋酒っぽいアルデヒドのようなヴェールがかかり、その下から漢方薬系スパイス香が出て鼻腔の奥を刺激してくる。とても強いウッディなトップ。全然ローズじゃない。スイーツ系のスの字もない。完全に苦く酔わせるようなウッディ。

やがて3分もすると、墨っぽいパチュリを伴ったスモーキーなウードに落ち着いてくる。焦げた木と濡れた土臭い香り。そこにシャープでグリーンな苦みがのっている。この香りはラブダナムだろう。クレジットにはサフランも書かれているが判別はできない。全体的にウッディ&正露丸少々といった香りに酸味と苦みが効いているようなイメージ。これはありそうでなかなかないウッディ。同時にたぶん日本では苦手と感じる方が多いであろうトップ〜ミドル。

シトラスもフルーツもフローラルもない。まるで中東のモスクの回廊に迷いこんだような雰囲気。あるいは東南アジアの寺院。暗がりの中、白い煙をたなびかせている香木の匂い。そういったものを思わせる。とても強く暗く、それでいて心の柔らかいところが惹きつけられる香りだ。

肝心なのは終始ほのかにローズのシャープな香りが漂っているところ。サンダルウッドとパチュリとウードを焚き火に入れて白い燻煙を上げている脇に、野生のローズを花束にして置いたようなイメージ。イスパハンはダマスクローズの一種、薔薇の名前のニュアンスなのだろう。

やがて付けて1時間もすると、かなり乾いたインセンスのようなウッディに変わってくる。ラストにいくにしたがって、香ばしく温かい感じのサンダルウッド香&ローズ香にシフトする。薔薇は最後に顔をのぞかせてくる寸法だ。わずかにシナモンも効いたこのウッディローズがとても心地よく、安らぎに満ちたドライなブレンドを長く漂わせる。よくあるトンカビーンやアンバーの甘い薬っぽさがなく、スッキリした残香で消えてゆく。

秋冬はついオリエンタルやウッディに手が伸びてしまうことが多い。そこには温かみ、包容力、心落ち着く香りを求める心理が働いているのかも知れない。ウードイスパハンのエキゾティックな香りは、どこか中東の無国籍なバザールを思わせる。乾いたスパイスマーケット、見たこともない食材の匂い、そしくすぶった焚き火の炎。だから「異邦人」のメロディーを思い出したのだろう。

冬の乾いた冷たい空気、派手なのに冷たいイルミネーション。多くの外国人で溢れる通り。意味不明の言葉たち。ここ何年かで日本の大都市はどこもそんな光景に変わってしまった。まるで自分が異国のスーク(市場)に迷いこんだような錯覚を覚える日々。そんな日々を過ごす自分にウードイスパハンはそっとアイデンティティーを示してくれる。自分がだれなのか、どこにいるのか、何をしたいのか。ややマニッシュな強い香りながら、自分という木の幹に力を与えてくれる香り、そんな気がする。

「祈りの声、ひづめの音、歌うようなざわめき」

久保田早紀さんの「異邦人」の歌詞は、時を越えて今も、砂漠の街のバザールを眼前に映し出す。石畳の通り。鮮やかな原色の織物。乾いたスパイスと花の香り。むせかえる樹脂の煙。見知らぬ人々。

そこはかつて広大な領土を広げた国イスパハンのスーク。異邦人の乾いた心にウードの妙なる調べが鳴り響いている。

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ズーロジスト / ナイチンゲール

ズーロジスト

ナイチンゲール

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2020/3/7 13:55:43

「あなたは本当に遠くへ行ってしまう 私はずっと泣いています」

もしこんな気持ちを相手に伝えるとき、あなたならどうするだろう?今から約千年前、平安時代には自分の気持ちをたった31音の和歌に託して送っていたという。

「かはるらむ 衣の色を思ひやる 涙やうらの玉にまがはむ」枇杷皇太后宮(藤原妍子)

訳「出家されて墨染の衣に変わられる貴女の心を思い、私は涙がこぼれます。その雫はお送りする数珠の玉にまぎれて、お気付きにならないかもしれないけれど」

これは、かの有名な藤原道長の長女、天皇の后となった彰子が39歳で仏門に出家する際、妹の藤原妍子から贈られた歌。この歌は、数珠を収めた銀箱に梅の枝を添えた贈り物とともに届けられたという。

春。枝に咲く愛らしい梅の花。まばゆい日差し。うぐいすのさえずり。そして別れの歌。

ズーロジストのナイチンゲールは、そんな和の情景から生まれた美しい香水だ。ナイチンゲールは小夜啼鳥(サヨナキドリ)。西洋のウグイスとも呼ばれる。

この香水を創ったのは、フレグランスのポータルサイト「profice(プロフィーチェ)」を長年運営されている稲葉智夫氏。何千もの香水レビューをされている他、独学で調香を学び、世界中の香水や香料を求めてさまざまな活動をされているのでご存知の方も多いだろう。

稲葉氏によると、このナイチンゲールはズーロジストの依頼を受けてproficeの作品だった「花簪(はなかんざし)」をベースに作った香りだという。では、いったいどんな香りなのか?

ナイチンゲールをスプレーする。ひと吹きした瞬間、パッと華やぎに満ちた明るい色が広がる。わずかなモス系の苦みと共にレモンとベルガモットの爽やかな酸味が感じられる。往年の名香を思わせる美しいシトラススプラッシュ。まばゆい春の日差しを思わせる開幕。

1分もせずに香りが変化し始める。シャープなスパイシーさをまとった梅の香りがふんわりと広がってくる。この香り、クレジットによると「ジャパニーズプラムブロッサム」。梅の花を思わせる酸味あるフルーティーな香りだ。シトラスの黄色から美しい紅梅色に香りが変化してゆく。それは叙景的な変化だ。冬を越え、あたたかい春一番の風が、灰色の世界に鮮やかな色彩を与えてゆくように。

この開幕5分までのトップの愛らしさは、何度つけても狂おしいほど。シトラスやサフランからフルーティーな梅の花に酸味をつなぎつつ、スパイシーなパチュリの影をしっかり寄り添わせている対比の妙。そう。春は日差しだけがまばゆいのではない。その強さによって全ての影もまた黒く濃くなる季節だ。ナイチンゲールには明と暗の対比が相当こだわったバランスで組み込まれている。

そしていつしか香りは、湿った土の香り、乾いた木のインセンス香を呈してくる。香調はクラシカルなシプレにフローラルをかなり利かせている雰囲気。付けて30分ほどで自分の肌ではかなりドライなウッディ香に変わってくる。ミドル以降は、往年の名香ゲランのミツコを思わせるややクラシカルなシプレノートだ。樹脂系の香りでも、モス系の苦みよりやや甘みのある樹脂ノートが強く、ミツコより使いやすくマイルドなエッジになっている印象。

持続時間は6〜8時間ほど。ラストは時と場合によって変わるが、ドライなサンダルウッド香で終わるときと、樹脂のムンとした感じが効いたムスク系で終わるときがある。トップで気に入っても、その後に大きく変化する香りなので、ぜひ自分の肌に直接のせて試してみてほしい。春は香りも景色も人の心も、とても移ろいやすいものだ。

春。尼僧となった彰子に妹からの手紙と贈り物が届いた。彰子はそのとき、どう思っただろう?彼女は妹へ次の返歌を贈っている。

「まがふらむ 衣の玉にみだれつつ なほまださめぬ 心地こそすれ」

訳「宝珠と見まがうような、衣の上に落ちる涙の玉に心みだれながら、いまださめぬ迷いの夢の中にいるようです」

華やかな十二単を捨て、黒衣を召した尼僧の座卓には、妹がくれた梅の枝がずっと飾られていたはずだ。それは別れの品ではない。いつかまた梅の枝を手折り、妹の髪に差してあげよう。そんな希望の印。稲葉氏はそんな思いも込めて作品にこの和歌を添えたのだろう。なんと抒情的な、なんという和の雅な。

見上げた空に梅の花が満開に咲いている。ふと、鳥のさえずりが聞こえた気がして辺りを見渡した彰子の心に、いにしえの奈良の歌が思い浮かぶ。

「うぐいすの 鳴き散らすらむ 春の花 いつしか君と 手折りかざさむ」大友家持

訳「うぐいすが鳴いているようです 春の花、いつかあなたと手折って髪飾りにしましょう」


ナイチンゲールがどこかで啼いている。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
  • 髪量・・・普通
  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
趣味
  • 映画鑑賞
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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