doggyhonzawaさんのViktor and Rolf / SPICEBOMBへのクチコミ |
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- doggyhonzawaさん 認証済
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- 54歳
- 乾燥肌
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2020/1/25 13:51:04
人を非難するのは赤子の手をひねるより簡単だ。おちょくってバカにして、揚げ足をとってあざ笑うことは誰にでもできることだ。それを「いじる」などという言葉で擬態する醜悪な人間性を心から軽蔑する。そんな輩は心の中の爆弾で吹き飛ばしてやるといい。リングを引き抜いた手榴弾を放り投げて。木っ端みじんに跡形もなく。
ここに黒い手榴弾の形をした武骨な香水がある。名をスパイスボムという。日本ではあまりなじみはないが、オランダ発のファッションブランド、ヴィクター&ロルフ社が2012年にリリースしたメンズ香水だ。調香は現在シャネル4代目調香師として活躍しているオリヴィエ・ポルジュ。彼がまだNYのIFF社に勤めていた頃の作品。そしてこの作品は、同社のフラワーボム(2005)に続いて、世界中で大ヒットを記録した。
スパイスボムのボトルにはキャップがない。スプレーボタンのネック部分に黒いプラスティックリングがはめられている。このリングがあるので、たとえこのままバッグに入れたとしても勝手にボタンが押される心配がないという仕様だ。
このネックチャームを引き抜く動作が、まさに手榴弾からリングを外す動作そのもの。この仕様は地味にアーミーマニアの魂をくすぐる。ちなみに手榴弾は、その形状から俗にパイナップルと呼ばれるが、スパイスボムのボトルはまさにギミックも形もパイナップルそのものだ。時々本当に、吹き飛ばしたくなる輩に投げたくなる困った代物だ。
そんなワイルドな手榴弾ボトルをギュッと片手で握りしめ、リングを抜いてボタンを押し込む。その瞬間、爆煙のように広範囲に広がる香りのシャワー。その香りの硝煙に鼻を近づけると、予想外に洗練された繊細な香りが広がる。
はじめに感じられるのはシトラスの爆発だ。冷たいシトラス。オレンジとベルガモットのジューシーな開幕。すぐさま、冷たい樹脂系の辛みが一緒に立ち上ってくる。これはエレミのようだ。そしてピンクペッパーの少し酸味あるスパイシー。これらがストレートに拡散してくる。ストレートで小気味よい爆発だ。
5分後、シトラスの煙が消失するとともに現れるのは、焼けつくようなスパイスの静かな辛み、タバコとジンジャーのような熱を感じる風合いだ。トップは冷たいシトラスの爆風、それに続いてスモーキーな熱を感じる香り、つまり「冷」と「熱」のコントラスト。これはオリヴィエ・ポルジュのお家芸とも言うべき対比のアコード。
オリヴィエ・ポルジュは、どちらかというとメンズ香水で名を挙げた調香師だ。彼の最大のヒット作と言えば、まだ若い頃にエディ・スリマンの卓越したセンスの下で生み出したディオール・オム(2005)が挙げられるだろう。それは、冷たいアイリスのパウダリーと、ココアの温かみあるコクという相反するニュアンスを同時に織りこんだ画期的なメンズ香水だった。以来、オリヴィエの作品は、アルマーニコード・フォーメン(2006)、D&Gジ・ワン・フォーメン(2008)、DIESELオンリーザブレイブ(2009)と、男性用香水の分野で多くの名作を生んできた。そのノウハウがスパイスボム(2012)に生かされ、静かに爆発したのだろう。
スパイスボムのミドルは、シナモンのスパイシーを中心に、タバコやレザーのスモーキーな風合い、そしてエレミの辛みを巧みにブレンドしながら、冷たく熱く、混沌と展開してゆく。爆弾というネームほど強烈ではない。どちらかというとMCDが最近リリースした「スパイスブレンド」という名の方が似合う穏やかな香りだ。主張も柔らかく、大体4〜6時間ほど静かに香り続ける。トワレなので、上半身にうっすら付けるか、下半身にたっぷりつけるかで香り立ちはかなり異なる。フルーツや調味スパイスの香りをブレンドしているので、意外にも食事を邪魔しない香りだ。ただし、付け過ぎには注意。
いつの間にか人付き合いにネットが大きく関わるようになった。今まで自分の耳には届かなかった心ない言葉も、見なくて済んでいた衝撃的な画像も、見ようと思えば簡単にエゴサーチできる時代だ。己はともかく、自分の大切な人を傷つけるような言葉や画像が飛び交う今、人ははたしてどうやって大切なものを守るのだろう?守りきれるのだろう。
そのとき、心の中で静かに投げる爆弾があったっていい。実際に投げてはいけない言葉、本気で着火してはいけない炎が、現実世界にはあるからだ。
スパイスボムは、その見た目とは裏腹にマイルドスパイシーでセクシーな香りだ。ただ知っておいた方がいい。その武骨な手榴弾ボトルを握りしめた手が、本気で起爆リングを引き抜くことがあるかもしれないことを。
人はいつもパイナップルのリングを指にかけ、ギリギリのところで日々を戦っているから。
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