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スピリットオブアユーラ オードパルファム(ナチュラルスプレー)
税込価格:- (生産終了)発売日:2001/12/1
2018/9/8 13:55:50
汚れちまったな。服も心の中も泥だらけだ。誰かの手垢まみれの自分。こんな自分いやだ。好きになれない。心も体も洗濯して漂白したい。浄化してしまいたい。
なぜだろう。季節の変わり目にはそんな思いにとらわれることがある。ふだんは透明に見える心の水が本当は泥水だったことに気付くような。ただ泥が心の底に沈んでいて透明に見えていただけで、季節が変わって水がターンオーバーし、沈殿していた心の泥を撹拌してしまったような。そして心の中は視界ゼロの泥水状態。
スピリットオブアユーラという香りに出会ったのはそんなときだった。憂鬱、怠惰、慢性的な心の疲れ。人の心は弱い。たやすく落ちる。そして得てして、落ちたら長い。そんな長さを少しだけ短くしてくれたのがこの香りだった。
アユーラはサンスクリット語で「命」を表すコスメブランド。かつては資生堂の子会社だった。西洋科学と東洋叡知の融合をコンセプトとして、独自の商品を開発・展開している。 中でも2001年に発表されたスピリットオブアユーラ・オードパルファムは、発売と共にじわじわと人気になり、ブランド認知の大きなきっかけとなった作品だ。
スピリットオブアユーラ、「アユーラの精神」。まさにブランドの方向性や考え方をこの商品で語るという大役を担った作品。それは香りでどのように表現されているのか?
スピリットオブアユーラは、まずボトルがとてもいい。大きさも色も形も夏の朝に咲くハスの花のつぼみそのものだ。ハスの花は泥水の中から茎を伸ばして水上に突き出て、やがて大きなピンク色の花を開かせる。それゆえに昔から「聖なるもの、清らかさの象徴」とされ、宗教において珍重されてきたアイコンだ。このつぼみの中にはどんな香りが隠れているのだろう?ふだん香水などに縁遠くても無意識に誘われる意匠だ。
ボトルキャップを軽くつまんで外し、スプレーする。その瞬間、ふんわりと心地よい風が吹く。どこか懐かしいような、あたたかさに包まれているような優しい香りだ。たとえるならお風呂上がりの匂いだ。ジャスミンの入浴剤の蒸気、シャンプーしたてのフローラルの残り香、クリーミーなボディーシャンプーの香り。そうしたものが自分の体から湯気とともに立ちのぼってきたような香りがする。
このトップをよく嗅ぐと、まず酸味のあるハーブの香りがしている。クレジットで見れば、ローズマリーやカモミールなどのハーブが引き立っている印象。そしてその背後からグリーンティーのスッキリした香りが広がってくる。トップからお茶の香りが強く出てくるので、ふーっと安心感を与えてくれる。マイルドハーブ&グリーンティーなトップ。
やがてわずかな清涼感を伴ってほんのり甘いフローラルが感じられてくる。みずみずしく、少しだけ酸味と苦みをもったひかえめなフローラルだ。クレジットによると匂いナデシコと沈丁花とある。匂いナデシコの香りを嗅いだことはないが、カーネーション系のクローブ香をもっているようで、実際、甘くてややツンとした感じの香りだ。ジャスミンとミュゲも背後に感じられ、ミドルは穏やかで柔らかい低音のフローラル香になる。
ところが。
このお風呂上がりの入浴剤みたいなリラグゼーション香は、あっという間に消えてしまう。体温高めの自分の場合は、30分程度であとかたもなく。ラストは淡くまろやかなムスクが残っているばかりだ。同時に樟脳のような暗いシャープな香りがずっと続いていたことが最後にわかる。これがアユーラの言うところの墨の香りだろう。アニス香に似たスッとした香りとして最初からベースに感じとれる。
全体的に見ると、これはとてもニッチな香りだ。香水とアロマテラピーの中間。嗜好品と薬の中間。高価と安価の中間。30分間の癒し&気分転換のための気付け薬的な使い方がメインとなるフレグランス。落ち込んだとき、心がもやもやしているとき、イライラしてスッキリしたいとき、ほっと一息つきたいとき。そんなときにこんな穏やかな香りが心を救ってくれる。「心につける香り」というキャッチから見ても、この作品は自分が香気を吸ってくつろぐための香りなのだろう。うつむいてしまった自分を再び立ち上がらせ、凛として背を正してまた前へ進むための。
「蓮(ハス)は泥より出でて泥に染まらず」という中国の古い言葉がある。いつしか積もったストレスの澱は、いわば心の泥だ。だがそんな泥からも育つ植物がある。ハスは泥水が濃ければ濃いほど大輪の花を咲かせるという。たとえ今が苦しくても、そんな時こそ必ず心の中で伸びている茎がある。それはやがて大きなつぼみとなる。
だから、あなたはいつか必ず咲く花だ。
スピリットオブアユーラは、そんなメッセージと共に心に寄り添ってくれる香りだ。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2019/6/22 13:29:37
「はじめこの世界には『原初の水』ヌン(Nun)しかなかった。やがてその水面に美しい太陽のような形のハスの花が咲き、そこからラーが誕生した。ラーはヌンより出でて他の神々を生み出し、自身は太陽神として世界を支配した。」
古代エジプトにはさまざまな神話がある。中でもひときわ興味を惹くのがこの太陽神ラーの誕生に関する話だ。そこには原初の水と呼ばれるヌンが世界の最初にあったこと、そしてハスの花が咲き、世界を統べる神が誕生したことが語られている。
その世界創造の「原初の水」をモチーフにした香水がある。ラボラトリオ・オルファティーボのヌン・オードパルファムだ。
ラボラトリオ・オルファティーボは、2010年にイタリアで誕生したニッチフレグランスメゾン。かのメディチ家の時代からイタリアには星の数ほどの香水メゾンが存在しているが、この「嗅覚の研究室」と銘打った新進気鋭のブランドは、マーケティング度外視で力のある調香師に自由に作品を創ってもらおうという主旨で香水をリリースしている。ではそんなラボラトリオから2016年にリリースされたヌンとはどんな香りだろうか?
ヌンをスプレーする。その瞬間、立ちのぼってくるのは透明感のある優しいホワイトフローラルだ。水のようにスッキリした香り、柔らかな甘さを伴ったペアー、そしてクチナシ様のクリーミーな白い花の香りが豊かに広がる。
何だろう。何度かいでもこのトップには心がとろけそうになる。←お前だけな
メゾンによる香りの構成を見ると、トップの香料はベルガモット、レモン、洋ナシ、ネロリなどのよう。ただ一緒にハスの花のみずみずしい香り、ロータスノートが出てくるので、実際はかなりウォータリーに感じられる。ウォータリーといえば、これまでのキュウリやスイカ、メロンを思わせるもわっとした野菜系の香りを思い浮かべる方もいると思うが、ヌンのウォータリーは全く違う。
これまで数多くウォータリーな香りを体験してきたけれど、ヌンほどみずみずしくスッキリ感じられる水系の香りはなかった。そう思う。
ポイントはわずかに使用していると思われる洋ナシ、ペアーのジューシー感だろう。それがロータスの少し冷たい感じと相まってリラグゼーションを引き出している。この取り合わせはありそうでなかったかも知れない。
やがて5分もするとトップでわずかに感じられたシトラスは消失し、クリーミーなホワイトフローラルがふんわり広がってきてとてもフェミニンな雰囲気になる。わずかにグリーンのエッジをもっている花の香りだ。チュベローズの感じやヒヤシンスの感じもあるちょっと涼しげなアコード。トップの香りが水だとすれば、ミドルは明らかに水面に咲いた白く輝くようなスイレンの趣。
一般にロータスといえば、水面から長い茎を伸ばしてピンク色の花を咲かせるハスを思い浮かべることが多いが、古代エジプトで神々の花とされたのは水面で咲くスイレンの方だったようだ。1億4千万年も前からこの地球上にあるといわれる最古の花、ロータス。まさに原初の水から生まれた世界最初の花といっても過言ではないだろう。ヌンのミドルは水とスイレン、両方のアコードを持っている。
やがて4〜5時間すると香りは全体にうすれてくる。香りがほぼ変化せず、ミドルの白い花の香りのままドライダウン。終始ココナッツのようなクリーミーなヴェールがかかっているようにも思うが、試しに別ブランドのココナッツウォーターと同時につけ比べたら、そんなことはなかった。ココナッツにある特有の塩バター風なテイストがなく、ヌンの方が温度感も低くよりみずみずしい。
全体的な香調は、ペアーの効いたフルーティーなウォータリーと、ミドルのエキゾティックなホワイトフラワーに支えられている。それがそのままドライダウンというイメージ。原初の水から日の出とともに白い花を咲かせ、やがて静かにその花弁を閉じていくロータス。まさに盛夏にふさわしい香りだと思う。同じロータス系ならエルメスのナイルの庭より水辺の雰囲気がある。
夏。水面に広がるまるい緑の葉は、人の心にいっときの涼を与えるとともに、命についてふと考えさせる。ロータスは古代エジプトにおいても、命の再生を司る神々の花だった。やがて仏教などでも神々しい花として珍重されていったロータス。原初の水ヌンとは、人にしてみれば母の胎内で自分を包んでいた羊水といっても過言ではない。その絶対的な安らぎとぬくもりの中で命は育まれ、脈々と紡がれてゆく。人もまた水の中から生まれ、水を体内に巡らせ、水と共に生きている生き物だ。その本質はハスやスイレンと何ら変わらない。
原初の水ヌン、それは世界のはじまりの水の香り、泥中にあってなお清らかに咲く命の花の香りだ。
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2020/2/7 19:05:20
ルバーブが好きです。ジャムやタルトにしたときの、リンゴのような爽やかな香り、きゅんとする甘酸っぱさ、シロップをよく吸ったジューシーさ…。大好きなルバーブの香りということで非常に期待していました。
ルバーブの香りだと、コムデギャルソンのシャーベットシリーズにある RHUBARB(スプレータイプ)のトップの香りがかなり再現度高いのですが、ご丁寧に生の状態の青臭さまで再現しているために青さを受け付けない日があって、もうちょっと使いやすいルバーブを探していたんです。
うきうきするほど期待に胸膨らませた状態で、初めてボトルから直に嗅いだ時はちょっとがっかりでした。使いやすいものを求めていたとはいえ「えー、こんなに無難なシャンプー・お風呂上り系の香りなの?」と。あんまりルバーブらしさもなく。
ところがいざ肌にスプレーして数秒すると、まるでプチプチプチッと弾けるようにジューシーさフルーティーさがあふれてあふれて。びっくり。グレープフルーツのような酸味を伴う爽やかさがやや一歩前で引っ張り、ベリーやザクロのような甘酸っぱい香りが後に続く感じ。真っ赤に売れた果実を思わせる香りで、ボトルの赤がもう本当にぴったり。ルバーブかと言われるとちょっと疑問に思うのですが、ルバーブのキャラクターはしっかり把握しているなと感じます。
この甘酸っぱさ弾ける感じ、小学校のとき教科書に載っていた名木田恵子の「赤い実はじけた」が思い出されてどうにも顔がニヤニヤしてしまいます。けがれのない子供時代の恋心みたいで、可愛い。使うたびきゅーんとします。
ゆっくりムスクが追いかけてきて、ふわっと果実の香りに覆いかぶさるようになり。大事にしたい思い出にそっとブランケットかけて慈しむような、そんなイメージ。きつさのない柔らかい優しいムスクです。
トップからラストまでどこで切り取っても好感度の高い、使いやすい香り。特に、人様のご迷惑になってはいけない暗黙の掟を常に順守することが求められる日本では重宝すると思います。モチは良い方ではないですが、わざわざコロンを名乗っているものにそれを求めるのもな、と。
朗報か悲報か判断つきませんが、ラックスのシャンプー「ルミニーク ハピネスブルーム 〜先端フレグランス技術採用の、幸せを感じる香り〜」がルバーブエカルラットの香り完コピしています。「よーし、エルメスのそこまでポピュラーじゃない香水コピーしたろ!」とかそんな悪意はないと思うのですが、トップからミドル手前くらいまでの香りとほぼ同じ。ルバーブエカルラットはシャワージェルが存在しますが、シャンプーも近い香りで揃えたい方試してみられては。ラベンダーの描かれているパッケージ「ではない」、ピンクのお花がパッケージの新しい方です。
調香を担当したクリスティーヌ・ナジェルはエルメスの他にも数々のブランドでヒット作多く持っていますが、彼女の作品で特に好きなのがジョーマローンのアールグレイ&キューカンバー。ナジェル作とは相性がいい気がしていたのでルバーブエカルラットは試香せずにブラインドバイでしたが当たりでした。
ところでナジェルさんは元々ノーベル賞を夢見る理系女子で(子供の頃は助産師になりたかったとか)、香料会社大手フィルメニッヒの研究所にも化学者として入社されたそう。それがある日、ふと窓に目をやったところ調香師がサンプルを女性に嗅がせているところを目撃。女性の顔が喜びに輝くのを見て「これこそが私の仕事だわ!」とひらめいたんですって。こういうのを天啓というのでしょうね。そしてこの調香師というのが大御所アルベルト・モリヤスだったと。小説みたい。
今やエルメス初の女性専属調香師となってその名を轟かせるナジェルさんですが、当時女性には険しい道だった模様。実際、フィルメニッヒの調香学校へ入れてもらえないかと願い出ても即却下されたそうです。その理由がまず「女性だから」。次に「グラース出身ではないから」。「アンフェアだと思いました」と回顧されていますが、そこで諦めず、分子レベルで香料の研究を続け、リスク覚悟で挑み続けてつかんだ今の輝かしい経歴。その強さに憧れます。「完璧な調香レシピは持ち合わせていませんが、私には経験があります」ときっぱり仰るのがかっこいい。またひとつ彼女の作品で好きなものに出会えて嬉しかったです。
エルメスは持ち運びできるスリムなノマドスプレーがあるのも嬉しいところ。ひとつ欲を言えば、ルバーブのノマドスプレーもキャップが黒だったらいいのにな〜と。フルサイズボトルの赤×黒はとても素敵だと思います。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:- (生産終了)発売日:2017/9/14
2018/3/23 20:50:38
ロジェ ガレ テ ファンタジー エクストレドコロン
紅茶とサンダルウッドが包み込む幻想
エクストレドコロンは2種類目の現品購入です。
こちらのテファンタジーは一番人気だそうですが、納得できる香りです。
調香師はフレグランス界の超大御所、調香神のアルベルト モリヤス氏です。
手がけた名香は数知れません。
プッシュすると、紅茶の香りがまず漂います。紅茶の香りを思い出してみてください。
まさにあの香りです。
購入後に喫茶店で紅茶を飲みましたが、正にこの紅茶の香りでした。少しの甘みもありますし爽やかさもあります。アルベルトモリヤスはベンゾインの香りがお気に入りのようですが、テファンタジーにも配合されており、それが上手く香りを出しているのだと思います。
紅茶の香りの中に、若干スモーキーな幻想へと誘うような香りも混ざっています。スモーキーと言ってもタバコの匂いではありません。茶葉を蒸した時のような香りです。
紅茶の香りがしばらく続いた後、サンダルウッドの香りが顔を出し始めます。
これがまた絶妙なバランスで、正に紅茶とサンダルウッドを混合したような香りなのです。
サンダルウッド一辺倒ではなく、紅茶の香りと上手くブレンドされており、商品名のテファンタジーの名の通り、幻想に包まれるような香りです。ですから、サンダルウッドでよくあるお寺の香りにはなりません。
ラストは、サンダルウッドの甘みのある残り香で終わります。若干パウダーと言うか石鹸のように優しい香りです。
持続ですが、朝9時前につけると昼を過ぎてもほのかに漂っています。オードトワレ以上の持続性はありそうです。オードパルファン並みかもしれません。
私は昼に一度付け直すだけで1日いい香りがしています。
エクストレドコロンは持続するシリーズではありますが、手持ちのカシスフレネジーと比べても長く持続する方です。
ロジェ・ガレ製品全般に言えることですが、決して香害になるような香りではありません。優しく爽やかな香りを纏いたい方にお勧めします。良い匂いがするねとよく言われます。
性別関係なく、違和感なく使っていただける香りです。男性も自分用にと買って行かれる方が多いようです。
この香りに似たような物を他で見たことがありません。他の香りですと、代替できるような香りがあるものですが、このテファンタジーは代替がないような香りです。すなわち、唯一無二の香りです。
たっぷりの100mlでも税抜8000円ですので、他メゾンフレグランスブランドと比べてもお求めやすいかと思います。
30mlをお試しで買ったのですが、100mlを買いに行きます笑
紅茶の香り、サンダルウッドの香りが好きな方にはドンピシャな香りです。言葉では言い表せない、複雑な香りですので是非店頭でお試しください。
3月23日追記:付け初めはベルガモットの柑橘系の爽やかさもあります。モリヤス氏はアールグレイというよりも、ベルガモット風味の新しい紅茶を目指して配合されたそうです。モリヤス氏はこのテ・ファンタジーで200年前のロジェガレを蘇らせようとしたそうです。フレグランス界の巨匠モリヤス氏の会心作がこの「テ・ファンタジー」なのです。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)・香水・フレグランス(その他)]
税込価格:-発売日:-
2019/11/9 14:21:00
アゴニストのソラリスの香りに包まれていると、夕暮れの海をずっと眺めていたい、そんな気分になる。夏じゃない。ほとんど人がいない季節はずれの海。晩秋の夕暮れなら、なおいい。澄み切った冷たい空気の中、残照が空を赤々と染め、遠くの半島が黒いシルエットに浮かび上がる。そんなトワイライトの中、ただ海を見ていたい。
アゴニストは、2008年にスウェーデンで起業した香水メゾンだ。スウェーデンの香水といえばバイレードが有名だが、北欧インテリアのようにシンプルで美しく機能的なスクウェアボトルは、どこかバイレードにも共通して、生活のどのシーンにもさりげなく調和するデザインになっていて好ましい。
美しいガラスボトルに収まったジュースは、天然由来の香料を多く使ったユニセックスな香水だ。北欧の気候風土や文化、歴史からインスパイアされた作品をリリースし続けている。日本ではノーズショップに紹介されて以来、またたく間にその名を広めつつある注目のブランドだ。
「ソラリス」と言えば、映画通の方ならピンとくるはず。映画監督タルコフスキーの名を一躍世界に知らしめた「惑星ソラリス(1972)」が有名だ。この作品は、同年のカンヌ映画祭審査員特別賞を受賞し、以後の映画界に多大な影響を与えた。アゴニストのソラリスは、この映画や原作「ソラリスの陽のもとに」からイメージを広げて作られた作品だという。北欧では夏至の頃、夜になっても太陽が沈まない百夜が訪れる。オレンジ色の太陽が水平線の上をずっと移ろい続ける白夜。ソラリスにはその情景が投影されているという。
ではいったいどんな香りなのか?
ソラリスをプッシュする。トップ。最初に爽やかなグレープフルーツの苦味とマンダリンのオレンジ香が「キン!」と香る。その下からバブルガム様の甘い香りが出てくる。これはブラックカラントのジューシーな甘さだろう。とても高音のシトラスミックス。かなり元気のいいオープニングなので金属的な風合いも感じるほど。逆に言うと、自分の気持ちがダウンしているときには、このはじけるような元気のよさは辛いかも的なイントロ。
3分もするとレモンとマンダリンのオレンジ香が消失し、グレープフルーツの苦味とブラックカラントの深いコクの下から、ピーチのフルーティーが感じられるようになってくる。全体のアコードを色にたとえるならまばゆい金色だ。夕暮れの海、黄金色の太陽の破片が波頭にはじけてキラキラと明滅しているような黄金の光の香り。これがミドルの中心になる。
1〜2時間ほどすると、シトラスミックスの減衰とともに、潮風を思わせるマリンノートが感じられるようになり、冷えた空気の中、ふんわりと潮の香りが漂うような雰囲気になってくる。太陽の光を受けて輝く水面とは裏腹に、あたりは次第にブルーの闇に包まれてくるイメージ。アクアやオゾンを思わせるノートがそれを表し、やがて黒い墨の香を思わせるスパイシーなパチュリと相まって静かに香るようになる。暗くなりつつある海を思わせるラスト。香りが消えるまで大体3〜5時間。
香りの展開を色で表すと、金色から青、最後は黒に変わるグラデーション。それは太陽の光を受けて、刻々と移り変わってゆく空と海の色だ。アゴニストとはもともと「作用薬・作動薬」といった意味合いをもつ医学・薬理学上の用語だ。つまり、香りに包まれることで生態機能を活性化させるというニュアンスを大事にしているということ。オレンジや金色を思わせるこのシトラスミックスは、夕暮れの光を連想させ、アンバーグリス様の潮の香りで海辺のイメージを喚起させる意図だろうか。アゴニストの創始者であるニクラスとクリスティーンの夫婦は、ストックホルム沖に何万もの小島が浮かぶ群島、アーキペラゴのアトリエで作品をクリエイトしているという。彼らの芸術は一日中海の風景とともにあるのだろう。
小説や映画に描かれた「ソラリス」は空想上の惑星の名前だ。惑星ソラリスに広がる広大な海は、知的活動を行う巨大な生命体として形而上的に描かれている。「思考する海」は、人間には全く想像すらできない未知の形成活動を行う。その意味を人間が理解することも、寄りそうこともできないほど超然と、あるがままに。古代、命は海より生まれたと私たちは頭では理解しているが、宇宙の果てで出会ったソラリスの海と人類が邂逅することは、永遠に不可能なのかもしれない。ソラリスの冷たいシトラスとスパイシーな潮の香りを感じていると、そんなよしなし事をつい考えてしまう。
アゴニストのソラリスに包まれていると、夕暮れの海をずっと眺めていたい、そんな気分になる。それは未来永劫、人類と交わることなく、ただそこにたゆたい続ける、全ての思考を生み出す魂の存在。ソラリスの海の香り。
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