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doggyhonzawaさん
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フラッサイ / ブロンディーヌ

フラッサイ

ブロンディーヌ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2021/1/9 18:38:01

長い間、香水の旅をしてきた。そしてまた一つすばらしい香水と出会えた。フラッサイのブロンディーヌ。この香水を肌にのせたとき、一筋、迷いの森からの出口が見えたような気がした。

フラッサイは、2013年にアルゼンチンのブエノスアイレスでブランディングされたジュエリー会社だ。しかしながら創業者のナタリア・オウテダ女史は、長年ニューヨークのクエスト、ジボダンで香水マーケティングに携わり、エバリュエイターとして活躍してきた人物。いわば香水業界の裏の裏まで知り尽くしている方。そんな彼女が故郷ブエノスアイレスに戻った際、香水瓶ペンダントを創りたくて起業したそうだが、そこから自然に香水づくりも進んだようだ。

最初に創った3作品は、辛口批評でおなじみの「世界香水ガイド3」でどれも高評価を得ており、世界中の愛香家が注目する契機ともなった。中でもトップセールスを記録したこのブロンディーヌは、ブランドの代表的な作品として人気が高い。これはフランスの古いおとぎ話に登場するブロンディーヌ姫にインスパイアされた香り。リリースは2017年。調香はTFのヴェルベット・オーキッドなどで知られるヤン・ヴァスニエ。

幼い姫が王の後妻によって森に置き去りにされるおとぎ話、ブロンディーヌ。彼女は白猫や白鹿に助けられながらも、父に会いたい一心で悪い動物の甘言にのってしまう。その罪を償うべく幾多の試練に立ち向かう健気な姿が描かれる物語。ナタリア女史はこの物語からどんなインスピレーションを得たのだろう。実際にブロンディーヌの香りを嗅いでみる。

ブロンディーヌをスプレーすると、まず最初に広がるのは、エキゾティックな白く厚い花弁の香りだ。フランジパニやタヒチアンティアレのように、ふんわり華やかなホワイトフローラルが炸裂する。ガーデニア系が好きな方は悶絶必至のトップ。

1分後、このホワイトフローラルの影にサッパリした柑橘オレンジの香りが寄り添っていることに気付く。クレジットにはグリーンマンダリンとあるが、確かに酸味がキリッとした緑色のオレンジだ。このシトラスがフローラルの重たい分子を上げてきているのだろう。明るく、誰からも愛されてきたプリンセスのイメージにふさわしいイントロ。

5分後、南太平洋系のフローラルに感じた香りに少し影が出てくる。かなりソリッド&スパイシーなフローラルになる。これはもうガーデニア系ではなく、ツンとした花粉っぽさが感じられるユリ系の雰囲気だ。ミドルのメイン香料にタイガーリリーとあるので、そのやや強くてエッジの硬いフローラルに変わってくる。だがそれだけではない。香りは刹那的にどんどん変わってくる。香料をバランスよく、しかもかなり豊富に使っていることがわかる。そしてあえてそれらを見せない。全てフローラルの影にひっそりと漂わせている。なるほど。場面は、暗い森に置き去りにされた少女に変わったのだろうか。森の中でうごめく動物の匂いや樹や苔の匂いが、彼女の周囲に漂い始めるイメージ。この影は次第に濃くなってくる。

わずかなカストリウムのアニマリックが効いている。同時に、遠くから漂う甘い花蜜の香りも感じられる。あたりにはさまざまなユリの花が咲き、植物の葉のグリーン、アーシーな湿った土の香りもしている。森をさまようブロンディーヌ姫。不安と畏れと、それでもたくさんの花を摘みたい欲求に駆られる一人の少女。彼女は森で白い動物たちに助けられ、やがて7年の眠りを経て森で大人の女性になる。

このミドルはスパイシーなユリの香りがメインとなる。それは女性として強さと美しさを身に付けた姫の変身ぶりのよう。後半になるにつれ、柔らかなスエード調レザー香や甘いパウダリームスクが出てきて、香りは再び柔らかく甘く変化してゆく。幾多の困難と試練を経て、動物たちの協力を得て森の出口へ向かうブロンディーヌ。ラストは、彼女を見守り続けてくれた白猫と白鹿が蘇り、王との再会を果たし、勇気と忍耐の物語をハッピーエンドにしめくくる。香水ラストの甘い花蜜の香り、パウダリーな白いムスク香は、安心と平和を象徴するかのよう。持続時間は長く、つけてから8〜10時間ほど柔らかく続く。

悲しみに満ちた少女は、森での試練を経て、美しいプリンセンスになる。それはおとぎ話でも何でもなく、女性の人生そのものの道程かもしれない。フラッサイはどの香りも本当に素敵だ。だが、まだ日本では販売されていない。ぜひネットで検索して世界の窓を開き、その美しい香りを手にして心を震わせてほしい。

これは、いまだ暗い森をさまよう女性たちへのメッセージだ。光の出口は必ず訪れる。自分で自分にダメ出しの呪いをかけることなかれ。

自分全肯定。全ての女性に勇気と希望を与える香り。フラッサイ、ブロンディーヌ。

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セルジュ・ルタンス / Gris clair…(淡いグレー)

セルジュ・ルタンス

Gris clair…(淡いグレー)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:50ml・11,000円発売日:-

4購入品

2020/4/4 17:40:23

世界が闇に包まれている。人々は日々のニュースに怯え、不安は加速し、疑心暗鬼が世界をさらに暗くする。

もしそう感じることがあったら、おだやかでライトな香りを探してつけてみるといい。よい香りは人の心を助ける。心が強くなれば身体も強度が上がる。免疫力は心が上げていくものだ。

セルジュ・ルタンスのグリクレールは、そんなとき試してみてほしいラベンダーの香水だ。グリクレール、「淡い灰色」と名付けられた香り。

グリクレールは2007年にリリースされたオードパルファム。2018年に一度廃盤となったが、2019年にセルジュ・ルタンスのコレクション・ポリテスという新ラインが登場し、その中の6作品に加えられて復活している。モロッコの高い山に自生する淡いグレーのラベンダーをモチーフにしたウッディフローラルムスク系の香りだ。

ラベンダーといえば、アロマテラピーでも効果が高い香りの一つとして知られている。ラベンダー香水の場合は、スッキリした酸味をもつリナリルアセテートが多いか、カンファー様の清涼感があって低音で甘いリナロールが多いかで大体の香りが決まる。では、グリクレールはどんな感じだろうか。

グリクレールをプッシュする。以前の縦長ボトルに比べて、コレクションポリテスのボトルは透明なスクウェアタイプで清潔感が増したイメージ。波のような模様が配されていて光を受けたときの反射が美しい。

スプレーした瞬間に広がるのは、スッキリしたラベンダーの香り。一緒に甘いアンバーとクマリン系の苦味も出ている。酸味があってふんわりしたラベンダー香なので、リナリルアセテートが強い印象。リナリルアセテート系は人の心を晴れやかに元気にする。対してリナロールが強い場合は人の心をゆったり落ち着かせる作用が強くなる。グリクレールのラベンダーは、人の心を持ち上げてくれる爽やかな香りだ。

3分もすると、ラベンダー本来のシャープな清涼感が、より明確になってくる。ただ他の香料の主張も強く、それほどラベンダーが強いという感じではない。クマリンの粉っぽさ、トンカビーンの濃厚なコクが出てきて、いわゆる男性香水のフゼア系を思わせるミドル。ラベンダーとトンカビーンとアンバーがそれぞれ2:6:2の比率といった感じ。ラベンダー以上にトンカビーンの甘さとふくよかさが目立つ印象。

だからだろう。この香水に関しては、トップでラベンダーを感じたあとにメンズ香がして苦手という女性の声をよく聞く。構成的にミドルにフローラルがないので、こんもりとした温かみあるミドルがメンズの雰囲気に感じられやすいのかもしれない。

展開は、トップからミドルへの変化以外、香りがほぼ変わらずに減衰してゆくシングルノート系のパターン。ラストはトンカビーンとアンバーの甘さを伴いつつ、イソEスーパーのような心地よいウッディノートでしめくくられる。持続時間は4〜5時間くらい。

全体的に見ると、ベルガモットとオークモスを抜いたフゼアの骨格をもった香水と言っていいと思う。よくある香りと言えばよくある香り。それでも、現代的な嗜好に合わせてアクの強い香料をかなり引き算している点は興味深い。特にモス系のギリギリとした苦味を排除している点が特徴。ゼラニウムのような低音のフローラルも若干感じられるが、全体的にはスッキリしたラベンダーの清涼感と太陽のような温かみを感じる香りに仕上がっている。

この香りを創らせたセルジュ・ルタンス氏は、モロッコのマラケシュに住んでいるという。まばゆい太陽と大西洋、地中海に囲まれ、南に広大なアトラス山脈とサハラ砂漠を望むモロッコ。彼はそこで出会った文化や風景、スパイスを香水のクリエイションに数多く落としこんでいる。このグリクレールにも、アトラス山脈の岩場に力強く咲くラベンダーの姿が思い描かれている。

遠く光る太陽。吹きすさぶ風。不毛の地をさまよう花粉は、岩と岩の間に舞い降りた。苛酷な環境に負けず、灰色の花を咲かせるために。

ただそこに生きる。その強さ、たくましさ。

「世界が闇に包まれている」そう思ってうつむいてしまうことが、時としてある。「先行きが見えない。どうすればいいかわからない」と、視界がグレイで白黒決められずに頭を抱えてしまうことも。それでも。

世界は常に光に満ちあふれている。わたしたちが顔を上げてさえいれば。



アトラスのグリクレールは今日も空に向かって ただ生き続けている。

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オーケストラ・パルファム / ピアノ サンタル

オーケストラ・パルファム

ピアノ サンタル

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2020/10/24 12:41:37

少し早く目覚めた朝、カーテンの隙間から外の様子をうかがう。重たげな空、ゆっくり流れている鉛色の雲。夜半から降り続いた雨はどうやら上がったようだ。

コーヒーを淹れて窓の外を眺めながら口元に運ぶ。温かい湯気とともに立ち上る香ばしい香り。この気分に合うBGMは?と考える。選んだのはピアニスト中村由利子の「風の鏡」。曇り空の向こうに柔らかなピアノのメロディーが流れてゆく。

ピアノ。ピアノの音。弦をたたくハンマーの音。その残響を最も効果的に拾うためのあの大きな木の箱。コーヒーをすすりながら、次第に明るくなってゆく空を眺め、しばしピアノの音に身をゆだねる。中村由利子のピアノは風のように軽やかだ。美しい「ファンタジア」のメロディーがモノクロの風景に色彩を与えてゆく。この気分に合う香りがあれば、とふと思い、セレクトしたのはオーケストラ・パルファムのピアノ・サンタル。

オーケストラパルファムは、2017年にフランスで生まれた香水ブランドだ。音楽と香水の融合ともいうべき「共感覚へのいざない」を大切にした作品作りで話題になっている。オーケストラパルファムの作品は、一つの楽器をテーマにして、まずその音色やリズムを基に調香師が香りの譜面台を創る。さらにその香水イメージからテーマ楽器を用いた曲が創られ、1つの楽器を香水と音楽の両方で楽しむ、というコンセプトになっているようだ。

人気が高いピアノサンタルは、その名のとおりピアノからイメージされた香水だ。サンタルはサンダルウッドのことだから、作品名が「楽器+香水のキー素材」という取り合わせになっていることがわかる。

ピアノといえば素材に用いられているのは木。通常ピアノに用いられる木材は、スプルース(松)やカエデなどであり、その使用率は楽器全体の50%ほどだという。サンダルウッドを使っているわけではないが、その香りのよさと木のイメージから選んだということだろう。

そんなピアノサンタルを肌にのせてみる。

ピアノサンタルをプッシュすると、まずはじめに感じられるのは、ほんのりカラメルの効いたミルキーな甘さと柔らかなレザー、そして香ばしい木の香りだ。これら3つのノートが同時に感じられる。

トップからミルキーでとても驚く。まるで香ばしい木くずとレザーに練乳をかけたような香りだ。温かみがあってとてもクリーミー。高音部はクリーミーサンダルウッド、その白い木の香りを支えているのは、低音部に響く黒いレザーの香り。と言ってもバーチタールなどの煙たい焦げた感じではない。ヌバックレザーを思わせる柔らかでなめらかな革の匂いだ。どこかカラメルっぽく感じる香りは、レザーノートとミルクノートのハーモニーによって生まれたスモーキーなファセットかもしれない。クリーミーウッディ、ソフトレザー、そしてカラメルノート、これらの和音が1つの香りとなってなめらかに響き渡る。それがピアノサンタルの香りだ。

トップ、ミドルと変化する感じではなく、どちらかというとこの3つのノートが同時に香るアコードで、つける日の気温や湿度、自分の肌の状態や体温によって、3つのノートの出方が変わる感じの展開を見せる。あるときは高音部の甘くミルキーなヴェールが強く香り、あるときはしっとり深みのあるレザーが香る。その白と黒の香りの間にある、肌色のサンダルウッドが香ばしく香るときもある。そんなシンクロノートな香調。持続時間は7時間ほどで長め。パフューマ―はジャン・ジャック。価格は100mlボトルが2万円となっている。日本ではノーズショップ系列で取り扱っている。

白いミルキー、黒いレザー、その間で温かく香る茶色のサンダルウッド。それはまさに、白と黒の鍵盤でできた木の楽器、ピアノのイメージ。その香りは甘くまろやかで、包み込むような温かさと穏やかさがある。ときに野を吹くそよ風のように柔らかくレガートに、ときに森を揺らす雨や嵐のように激しくアッレグロで。ピアノサンタルは、そのときどきによって感じ方が変わる香水だ。晴れの日、曇りの日、雨の日。季節や時間によって流れるメロディーは変わるだろう。

窓の外に明るい光が差してきた。雲間にライトブルーの空がのぞいている。窓を開けて涼やかな朝の空気を部屋に入れる。その瞬間、ピアノサンタルのミルキーサンダルウッドな香りがふわりと揺らぐ。空が高くなった。心地よい風が新しい季節を上書きする。ピアノの曲が「陽だまりの公園で」に変わる。まだ朝露の残る道をたどって、ぶらり歩いてみたくなった。

雨上がりの休日の朝。ピアノサンタルのメロディーを連れて。美しいピアノの香りをなびかせて。

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セルジュ・ルタンス / Fumerie Turque(フュムリ テュルク)

セルジュ・ルタンス

Fumerie Turque(フュムリ テュルク)

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

5購入品

2020/10/31 16:34:30

目を見張るまばゆい装飾に彩られたトプカプ宮殿。その一番奥に男子禁制の特別なエリアがある。そこはスルタン(王)に仕える女性達だけが千人以上暮らす禁断の地、ハレム。

全盛期、東ヨーロッパから西アジアにかけて広大な地域を支配し、地中海沿岸のキリスト教国家を心底脅かした強大な存在、オスマン帝国。トプカプ宮殿は、そのオスマン帝国のスルタンが住んだ広大な居城だ。スルタンをはじめ、常時八千人の家来や商業者が暮らしていたという。この宮殿の最も奥に作られたのがハレムだ。

ハレムと聞くと、どうしても「男性一人にたくさんの女性」といった官能的なイメージがつきまとうが、もともとは一夫多妻制のイスラム国家で「男性と女性は一定の距離を保つべき」という教えを厳しく守るために、男女の住み分けを推進すべく作られたとされている。実際、トプカプ宮殿のハレムは、奴隷として売られてきた各地の女性のみならず、王の母、正妻、側室、彼女らの世話をする女性達が大集団で暮らす女性社会が形成されていたという。彼女らはそこで教養や技能を身に付け、権力者に愛されるための素養を養った。そして一度ハレムに入った女性は、一生その扉の外に出られなかったという。

そんなトプカプ宮殿のハレムをモチーフにした香水がある。セルジュ・ルタンスのフュムリ・テュルクだ。直訳すると「トルコの紫煙」といったところか。

オスマン帝国はもともとオスマン・トルコとも呼ばれたように、トルコ系遊牧民族であったオスマン一世が興したムスリム国家だ。宮殿のハレムには常に、優雅な装飾が施された水タバコ器具から立ちのぼる紫煙がたゆたっていたことが絵画などで伝えられている。ルタンスは、閉ざされた扉の向こう、禁断のハレムに立ちこめる水タバコの紫煙をイメージしたようだ。それは一体どんな香りだろうか?

グラットシエルの縦長の漆黒ボトルからスプレーする。まず最初に感じられるのは、スッと鼻に抜けていく涼やかで透明な洋酒の香りだ。これはジンの香り付けに使われるジュニパーベリーだろう。すると、すぐあとからもうもうと煙の匂いが立ちこめてくる。スモーキーどころではない。完全に何かを燃やした煙の匂いだ。とても焦げくさい感じになる強烈なトップ。

2〜3分すると、その焦げくさい煙の奥からアンバーのくぐもった樹脂香、ドライなスパイス香が感じられてきてオリエンタル色全開となる。バーチタール系の焦げくささなので、馬革のようなレザー香も強い。この多層的な煙のすごいこと。ちょっとクラクラしそうなほど、あらゆる香料が饗宴している。スパイススーク(市場)の雑踏、革製品をなめした匂い、そして薔薇やリンゴのフレーバーをほどこした蜂蜜タバコの匂い。それらが一気に押し寄せてくるイメージ。それはまさに、ヨーロッパやエジプトや西アジアから連れてこられた奴隷女性たちの、あらゆる文化生活が入りまじった匂いのよう。

この複雑なアコードは、さながらピメントを燃やしたときに出る煙のように、ある種麻薬的な匂いで強烈に嗅覚と脳を刺激し続ける。これは、ただのタバコノートを模したものではないな、と思う。強烈ナルコティックなミドル。このミドルが2〜4時間続く。

ふと気付くと、くだんの煙たさは不意に消えている。そして柔らかいジャスミンの残り香が漂っていることに気付く。あっさり霧が晴れたような感じだ。そこにはずっと前からターキッシュローズのツンとした香りとジャスミンのふくよかな香りがあったことを知る。このフローラルなラストは、つけてから5〜6時間で静かに消失する。

してみると、フュムリテュルクの名のとおり、はじめは煙もくもく、そこに革の香りとドライなスパイス、樹の脂のようなこってりアンバー香が絡み合ってうごめいている。ミドルでは煙が薄くなるにつれ、ハニーの甘さ、薔薇やジャスミンの片鱗が次第に顔をのぞかせ、ラストは霧が晴れてそこにいくつもの花が咲いていたことを知る。そんな展開の香水。確かにハレムの扉の向こう側のイメージだ。

閉ざされたドアを開ける。とそこには、思い思いに水パイプをくわえ、退廃的な香りを漂わせる女性達が寝そべっている。スルタンの愛情を一身に受けるべく、身体に塗ったさまざまな花の香油の香りが妖しく広がっている。今夜、スルタンに気に入られて共にベッドに入れるのは誰?彼の子を身ごもれば、大部屋を出て個室と財宝を与えられる。煙の奥に、女性どうしの闘いと駆け引きが常に交錯する。

禁断の扉の奥へようこそ。強い王の帰還を待ちわびる女性たちの、私欲と陰謀うずまく弱肉強食の世界へ。そこには今日も、全ての輪郭と感覚を麻痺させる麻薬のような煙がたちこめている。甘く、狂おしく、どこまでも人の心を酔わせる紫のフュムリテュルクが。

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ルイ・ヴィトン / クールバタン

ルイ・ヴィトン

クールバタン

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2020/11/28 13:34:43

世界って、たった一人の人と出会うだけでこんなにもキレイに見えるんだ。

西に傾いた太陽がキラキラと輝いている。予約してたホテルのシングルはキャンセルして、どこか今宵の宿を探そう。昨日までは自分一人だった。でもどうやら今夜は、そうならない。

旅先で出会った二人。どちらも一人旅だった。出会った瞬間びっくりした。見つめ合ったまま、目が離せなくなった。「え?」「え?」と言いながら。まるで小学校の頃好きだった子と何十年ぶりに会ったかのように。二人同時に。

キョトンとした。それから笑いが止まらなくなった。言葉なんてなくても、同じ思いだってことが、はっきり分かった。一瞬で惹かれ合い、お互い目だけを見つめてた。瞳に心が映っていた。

この人かもしれない。この人を探してたのかもしれない。

涙が出そうなほど笑った。信じらんない。なんで今まであたし、あんなに悩んだり泣いたりしてきたんだろう。大丈夫、ぼくもそうだったよ。ほんとそう。そんな言葉が一瞬のうちに目と表情でわかったから。笑ってるのに涙がぽろぽろこぼれて仕方なかった。この年でそんな人に出会えるなんて思いもしなかった。

世界は本当に美しく見えるようになる。たった一人の素敵な人との出会いで。

2019年にリリースされたルイ・ヴィトンのクール・バタンは、そんな出会いの「高鳴る感情」にフォーカスして創られた香水だ。「旅・レザー・女性」という3つのキーワードを大事に作られてきたヴィトンの香水も、この作品で10作目。これらをウィメンズコレクションと呼ぶなら、クールバタンはその最後を飾る集大成的作品という位置づけだ。では、いったいどんな香りなのか?

クールバタンをスプレーする。その瞬間、最初に感じられるのは、意外にも茶色いレザーの香りだ。どのサイトやレビューを見ても「トップは洋ナシ」と書いてあるが、ステレオタイプを真に受けてはいけない。香りはいつだって、自分の肌と自分の感覚で確かめるべきだ。

3分すると、レザーの上にふんわりとフルーティーさが出てくる。ほんのり甘くみずみずしい。クレジットによると洋ナシの香りのようだ。だが嗅いだ瞬間、洋ナシだと分かるほどではない。もしそう分かるなら、よほど鼻が利いて香料を知っているか、調香じたいがチグハグかのどちらかだろう。レザーっぽいノートとフルーティーノートはシームレスに混じり合っていて、自分には洋ナシとは判別しにくい。それだけ調香バランスがよい。本当に腕のいい調香師は、各香料が判別できないようなめらかにブレンドするものだ。

女は革の旅行カバンをそっと置いた。出会ったばかりの男性から、子どもの頃好きだったフルーツタルトのような、どこか懐かしく甘い匂いがしていた。

付けてから15分もすると、クールバタンは、マニッシュなウッディに変わってくる。暗い森、スパイシーな木の香りや土の香りを思わせるパチュリとモス系の香りが主張を増してくる。それはシプレの骨格ではあるけれど、トップにベルガモットがない分、じんわり暗く落ち着いたベース香に感じられてくる。

これまでの旅の思い出をゆっくりテーブルで語り合う男と女。女のフルーティーフローラルの香りに、男のスパイシーウッディが時折重なる。意気投合した二人は、再びカバンを持って共に歩き始める。知らず知らず2人の影が寄り添い、香りの引き波が重なり合う。

付けてから30分。クールバタンのミドルはとても深い安らぎに満ちた香りになる。しっとり柔らかなフルーティフローラルに、乾いたスパイシーパチュリとモスが調和して、甘くムスキーな香りに変わる。いつしか二人の距離は縮まり、手と手が自然に重なり合う。

やがてクールバタンは静かにドライダウンを迎える。出会ってから5〜6時間。きらめくフルーティーさとほの暗いパチュリが混じり合ったまま、光と闇の狭間に。一つの旅の終わりに。

長い旅の果てに見るもの。それは美しい夕暮れ。女は思う。不思議だ。隣で一緒に見つめている人がいる。きっとこれが旅の終わり。そして、新たな旅は始まるのだろうか?

2人で歩くことの楽しさ、けれど同時に味わうであろう煩わしさ。それを今から受け入れるには、歳を取りすぎたようにも思う。けれど。

女は沈む夕日に見る。二人で歩きたかったわけじゃない。けれど、二人で旅するのもいいかもしれない。そう思える相手に出会えたこと。それが旅のエピローグ。

冷静に構えているはずなのに、どこかはやる心。美しいペアーゴールドの夕日が沈むとき。そっと見上げると、優しく見つめ返す瞳がそこにあった。高鳴る鼓動。

新たな人生の始まりに。あなたと出会えた喜び。クールバタン。

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kinkin4号さん
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プロフィール
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自己紹介

ビューティオタク歴15年です。 定番なんていりません。 新しいアイテムをガツガツ使い倒していきます。 続きをみる

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