2020/1/26 00:01:38
初めてエルメスのツイリー ドゥ エルメス(2017年)の香りを嗅いだ時の衝撃は忘れられない。
実際のチュベローズやオレンジフラワーのアブソリュートにあるようなエグみ、生っぽさをあえて隠すことなく、むしろジンジャーを加えることで、ナチュラルな灰汁をそのまま表現したような香り!
通常のフレグランスでのチュベローズの表現は、よりフローラルの妖艶さを引き立たせ、スパイシーやフルーティでミステリアスに着飾ったような、とても女性らしい香りに灰汁抜き処理される。それに対してまさに逆転の発想!
トップはスパイシーシトラス。まるでおろしたて生ジンジャーのような辛みと、フレッシュなのオレンジの香り。かなりスパイシーキャラの際立ったオープニング。だが、実際に肌に合わせるとオレンジの甘さが立つため、嗜好がやや上がる。
ミドルはフローラルースパイシー。トップが落ち着いてくると、一気にフローラル感が増していく。とはいえ、ジンジャーの土っぽいこもった香りしっかり残っているため、アブソリュートのチュベローズに近いイメージ。そこからさらにオレンジフラワーの芋のような臭みも加わり、いわゆる妖艶なチュベローズとは異なり、むしろナチュラルな素材感が強く、その忠実さが逆に大胆で新鮮に映る。
実際に肌に乗せてみると、オレンジの残香と合わさることでオレンジフラワーが立ち、次にチュベローズにパッと切り替わていくような、ホワイトフローラル2段構造の香りに。ジンジャーの土っぽさがナチュラルさを与えているように感じる。
ベースはウッディ。ジャスミンやヘリオトロープが香ることで、ようやくフレグランスらしいチュベローズの雰囲気になる。奥からは落ち着いたサンダルウッドに、ほんのりバニラの甘さを添えるものの、ジンジャーの土っぽさは最後まで残っていく。
エルメス専属調香師のクリスティーヌ・ナジェルの作品。
彼女は「女性たちがその若さの最中でいきいきと生を謳歌する、そんなイメージを思い浮かべながら、私は《ツイリー ドゥ エルメス》をつくりました。自由で、大胆で、型にはまらない彼女たち。あえて世の流れに逆らうことを楽しみ、自分のリズムを大切にしながらまったく新しいテンポを創り出すのです。」と語っている。
ツイリー ドゥ エルメスは、まさしく「自由」「大胆」「型にはまらない」「世の流れに逆らう」を地で行ったような野心作で、今までになかったチュベローズの香りだと感じる。
前専属調香師のジャン=クロード・エレナが織りなす、淡く水彩画のような香りに対して、まるで抽象画のような印象を受ける。嗅覚を鷲掴みしてくるような、一度嗅いだら忘れられないキャラクター。キャラが立つ分、好き嫌いははっきり分かれてしまうが、こういう香りを創り出せる人こそ天性の調香師だと思う。
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2019/12/23 00:30:28
ハワイに行くと、ささやかな楽しみがある。
ワイキキ周辺のホテルの入口で、これから結婚式へ向かう新郎新婦が記念撮影をしているシーンによく遭遇する。
純白のウエディングドレスに、太陽の光が乱反射して、美しい金色に輝く。
鮮やかな青空、海、砂浜、そして青々とした芝生を背景に、白金の輝きが映える。
まるでその周辺が幸せのオーラに包まれているようだ。
遠目で眺めているこちらも、その美しさに憧れ、そして幸せな気持ちになる。
ピュアディスタンスのホワイト(2015年)の香りは、まさにそんな幸せなシーンを切り取ったような香りだと感じている。
それもそのはず
「ピュアディスタンス ホワイトは、つけた瞬間溢れる幸福感に包まれる、そんな非常に美しくポジティブな香りを作りたい、という私たちの思いから生まれました。名調香師、アントワーヌ・リーに、過酷な現実から瞬時に逃避できる手だてをー白と黄金に輝く夢を作ってくれるよう、私たちは依頼しました。」
ホワイトはつけた瞬間、あなたを溢れる幸福感で包みこむ香り。
トップはフローラルーフルーティ。スプレーすると清々しいベルガモットと、華やかなローズの香り。ベルガモットにペアやグリーンアップルを添えた、みずみずしい明るさをまとったフレッシュなローズが、嗅覚を心地よく刺激する。
ミドルはフローラル-ムスキー。表層はフレッシュなローズ、内側からはムスクと調和した白イメージのローズの香り。まったく奇をてらっていない、このトップからミドルにかけての美しい香りの流れは、触れた人を幸せな気持ちにさせてくれる。例えばここからムスクにまとめていったとしても、フレッシュなホワイトローズのフレグランスとしてのストーリーが成り立つのではと思う。
しかし、ホワイトの香りはここからが本番だ。ローズの濃厚な甘さが増すものの、柔らかいムスクやオリスルートがローズの派手さを柔らかく包み込んでいく。溢れるような輝きをウエディングドレスで上品に着飾ったようないイメージ。そこからローズのフルーティな酸味が増すが、トンカビーンの甘さがクリーミーなトーンを与えていく。
ベースはウッディーバルサミック。
やがてムスクやオリスルートと調和したホワイトローズに、ベチバーやサンダルウッドが奥行きを与える。うっすらとパチョリも香ることで、華やかなローズの一面も垣間見れる。
最後はローズのフルーティな残香に、ムスク、サンダルウッド、さらにクマリンとパチョリの少しビターな甘さが仄かに香る。
持続時間は、ミドルのローズを主体としたキラキラ輝いた香りまでが2時間くらい、ベースのムスクとウッディを主体とした生成りのような淡い香りは丸一日持続する。
賦香率か38%と圧倒的に高いため、最後の最後まで香りが崩れることなく、ホワイトの世界観を楽しむことができる。
ホワイトの主演は何といっても、フランス産ローズドメイだ。トップの刺すような華やかな表情を嗜好の良いフレッシュなトーンで整え、ベースの酸味をクリーミーなトーンで仕上げられている。そしてメインとなるミドルは、ムスクと調和させることで輝くようなホワイトイメージの香りが創られている。
特にフレッシュなローズを、柔らかな白いローズが包み込んで行く過程は絶品で、とても幸せな気持ちになる。
そしてクラシカルな香りが加わることで落ち着いたゴールドな印象に移り変わっていく。
ゲランのローズ ナクレ デュ デゼールの、黒いサテンをバックにローズの華やかさを引き立たせた香りと対照的だ。
また、白いイメージの香りといえば、私は真っ先にシャネルのジャージーをあげる。ジャージーの白いシャツのような清潔感のあるキリッとした白さと比較すると、このホワイトは包み込むようなゴールド色の輝きがある。
香調はいたってシンプルで、ローズドメイを筆頭に、ベルガモット、オリスルート、サンダルウッド、トンカビーンなど、ひとつひとつの素材をはっきりと感じることができる。そのひとつひとつの素材に身を委ね、その余韻に浸っていくような美しい香りだ。
嗜好も良く、高級感もあり、季節や性別も問わない、完璧なフレグランスだと感じる。
もうすぐクリスマス。聖なる日に、もっとも美しいこのホワイトの香りで着飾ってみてはどうだろか。
ほんの一瞬、まるでこれから結婚式を迎える時のような幸福感に包まれることができるから。
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2019/12/7 23:55:30
自称フレグランスジプシーにとって、自分自身に合った最高のローズの香りと巡り会うことは、この旅の大きな目的の一つだ。
そしてローズバルバルに出逢ったことで、長かったローズ探しの旅を終わりにすることに決めた、、、。
野蛮なローズと題されたこのフレグランスは、2005年にあのフランシス・クルジャンによって創り出された香りだ。
トップはローズ-アルデハイド。まずダマスクローズアブソリュートのフレッシュなローズの香りがツーンと鼻に刺す。すぐにアルデハイドのごちゃごちゃした酸味が加わり、ローズの刺すような鋭さを、強引にクラシカルなフレグランスとしてまとめたような佇まい。
ミドルはローズ-スパイシー。軽いところは酸味のあるローズを漂わせながら、奥からはピリッとスパイスを効かせたローズが香る。ピラミッドにはフェヌグリークとある。言われてみると確かにカレーのスパイスのような香りだ。そこから徐々にナエマを思わせるハニーローズの甘さが増してくるものの、アンバーグリスとオリナバムを合わせたような酸味、そしてアニマリックな深みを効かせた、埃っぽいローズの香り。
シプレ-ウッディ。ピーチのような甘さが加わったハニーローズと、奥からは湿ったウッディノート。トップから顔を出していた、酸味やアニマリックな香りが、ここまで進むと、ディオールのオーソバージュのような、非常に男性的なシプレだとはっきり分かる。
クラシカルなローズからスパイシーなローズまでが1時間くらい、そこから一気に甘さを増したローズまでが3時間くらい、ローズとシプレが少しずつ逆転していく。持続時間は6時間くらい。
単純にローズ単体で評価するのであれば、同じゲランのローズの中でも、このローズバルバルは3番手の香りだと思う。ナエマのパルファム(廃盤)が1番、中東三部作レ デーゼル ドリオンのローズ ナクレ デュ デゼール(日本廃盤)が2番。
ゲランのもっとも素晴らしいローズと称されたナエマは、上品な女性の艶っぽいさを感じる香りなので、ムエットで香りを嗅ぐだけで、うっとりとした満ち足りた気分になる。
ローズナクレは、サフラン、ウード、パチョリが脇役に徹することで、まるで女優のような華やかなローズの香りに酔いしれることができる。
一方ローズバルバルは、刺すような鋭いローズを古くさいアルデハイドでぼやかし、甘いローズを男性的なシプレで濁らせたような香り。
ローズナクレのような中東色の強いローズと、ナエマのようなとろけるローズの甘さを漂わせながら、まさに「男性を魅了するとともに、男性にもまとっていただける香り」に仕上げられたシプレローズの傑作だと感じる。
いにしえより、ローズは女性のための香りだった。
ローズの耀かしさがはっきりと映る香りを使うことへの気恥ずかしさがあった。
しかし、これからは躊躇することなく、ローズの香りを楽しめる。
自分自身に合った最高のローズの香り、ローズバルバルを片手に。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:10ml・2,200円 / 50ml・8,360円 / 100ml・14,960円発売日:2019/5/13
2019/12/6 08:12:10
クヴォン デ ミニムは、何百種類もの植物を育てボタニカルケアを発展させてきたミニム修道院(クヴォン デ ミニム)に感銘を受けて、植物の果実からとれるオイルや種子からとれるオイルなど植物由来の成分を使用している。ミツバチ由来の生産物以外は、動物由来の原材料は使われず、全ての製品に100%ヴィーガン認証(動物性原料を使用しないこと)を取得し、本物のナチュラリティにこだわるフレグランス、ボディケア、スキンケアなどをラインナップしているとのこと。
リマーカブルパルファムは旅への誘いをテーマに、植物学者ルイ・フュイエが旅で寄港した、 世界各地の香りを再現したオードゥパルファムのシリーズで、このティナレー(2019年)は、18世紀の植物学者ルイ・フュイエが寄港したバイア諸島のティナーレを彷彿させる香りとのこと。
だが実際にかいでみると、ナチュラリティとは異なる、グルマン−ウッディの香り。
トップはシトラス。スプレーするとみずみずしいマンダリンのやや綿のような甘さ。だがそれも一瞬で、すぐに奥からオレンジを砂糖で焦がしたような甘さが一気に押し寄せてくる。
ミドルはバルサミック−ウッディ。オレンジジュースのような甘さよりも、バニラの甘さが前に出てくる。そこにペチグレンを思わせるライトウッディと、ベチバーの重厚なウッディを合わせて、仄かにジャスミンのフローラルを漂わせた香り。
ベースはグルマン-アンバー。シトラスの綿のような甘さと、カラメルを焦がした甘さに、パウダリーなバニラ、ベチバー、そこにアンバーが強く香る。肌に乗せると甘い部分と、カラメルアンバーの力強さが増して、かなりグルマン全開の香りが延々と続く。持続時間は8時間程度。
トップのみみずみずしいマンダリンが香るが、全体的にはグルマン−ウッディ−アンバーのシングルノートに近い骨格だと感じる。
マルトールとアンバーの存在感が強く、ナチュラリティなマンダリンやウッディの香りが霞んで見える。さらにキーとなるバニラ自体の香りも、バニラビーンズというよりも粉っぽくバニリン的で、ケミカル感を助長させているように映る。
とはいえ、キャラクターはしっかり立った香りで、価格(10ml 2,000円)を考えると、この系の香りが好きなのであればおすすめできるフレグランスだ。
同じカラメルアンバーの香りだと、フランシス クルジャンのバカラルージュ 540を思い浮かべる。ティナーレはバカラルージュをもっとシンプルに、もっともっとライトにしたような入門的な香りで、使いやすいのではと感じる。バカラルージュは、あの濃厚な甘さに一度浸ってしまうと、もう後戻り出来ないような中毒性があるから。
個人にはマルトールが強い香りは得意ではない。バニラアンバーの深い甘さのみに溺れたい時、ゲランのドゥーヴルヴァニーユに手が伸びてしまう。
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2019/11/17 01:06:57
キリアン・ヘネシーが創り出す香りの世界観。その大きな特徴は、トップのキャラクター付けの上手さだと感じている。
一嗅ぎすると、一瞬で嗅覚が掴まれる、、、そんな香りが多い。特にフルーティに一ひねりあって、一度嗅ぐと忘れられない余韻を残す。
そして、2012年に発表されたフォービドゥン ゲームズ(禁じられた遊び)と題されたこのフレグランスも、やはりトップのフルーティにキリアンの世界観が凝縮されている。調香師はカリス・ベッカー。
そのトップ。スプレーするとキーの高い方から、爽やかなグリーンアップル、甘酸っぱいプラム、みずみずしいピーチの甘さの三重奏。そこにシナモンがほどよい癖を与えたフルーティ-スパイシーの香り。甘ったるさ、安っぽさがなく、複雑なのにみずみずしく、もっといえば冷たさすら感じさせる、非常に素晴らしい透き通るようなフルーティノートだ。
ミドルはフルーティ-フローラル。トップの香り立ちが崩れることなく、薄まっていく印象に。そして、奥から艶っぽいローズ、透明感のあるゼラニウムが奥行きを与える。そこから、ジャスミンとバニラを合わせた、女性らしい甘さのあるフローラルが存在感を増していくものの、主旋律はみずみずしいピーチとグリーンアップルの芯のような酸味だ。
ベースはハニー-アンバー。フルーティフローラルの酸味と透明感が調和し、ピオニー的な少し可愛らしい雰囲気を感じる。さらにとろけるようなハニーや、そしてパウダリーなバニラムスクの強い甘さ。オポポナックスの樹脂的な酸味も強く感じる。最後は酸味と甘さを、ムスクやウッディアンバーが力強くも、まろやかに包み込んだような香りに。
持続時間はフルーティが強く感じられるのは2時間くらい、グルマンを主体とした香りが5時間くらい。
フルーティがみずみずしく香り、そして甘さの強い香りなため、春に似合うだと思う。
だたし、個人的には甘い香りが欲しくなる冬、甘さだけではなく、カラフルなみずみずしさに浸りたいときに手を伸ばしてしまう。
全体的な骨格をみると、ピーチとゼラニウムを合わせた透明感のある甘さと、アップルの芯やプラムやローズの少し酸味の強い青っぽい甘さと、ジャスミンとバニラやハニーの女性らしい甘さと、ベース部分のウッディアンバーで構成されている。とても甘いフルーティスイートな香りだ。ところが実際に肌に合わせてみても、確かに甘さはあるものの、みずみずしさや酸味も効いているため、甘いに沈んで行かない。
フォービドゥン ゲームズの香りの説明をみると、
「フルーツとスパイス、そしてフラワーとアンバー、そこに禁じられた果実と称されるネクターを加えたコンポジション。陰りを帯びた、この香りは五感を魅了し、刺激し、虜にします」とある。
おそらくこの桃にゼラニウムを合わせることで、非常にみずみずしく透明感溢れる、禁断の桃に仕立てたように感じる。
このフォービドゥン ゲームズはエデンの園からインスパイアされた「イン ザ ガーデン オブ グッド アンド イーブル(善悪の庭)」コレクションの一品にあたる。
エデンの園で善悪の樹の実を食べたイブ(フォービドゥン ゲームズ)は、ついに禁断の扉を開けて新しい世界へその一歩を踏み出す(バットガール ゴーンバット)。そして悪魔との遊びに浸っていくのだ(プレイング ウィズ ザ デビル)。
香り、ストーリー、デザイン。その全てがキリアンらしい世界観で演出されたコレクションだと感じる。
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