2022/2/15 19:11:30
アトラップレーブとは「夢を掴む」の意。
それは夢と現実を行き交う魅惑的な旅。ジャック・キャヴァリエはそんな香りを白昼夢から着想を得て、まるで尾を引いて降り注ぐ流星群のような残り香が印象的なフレグランスとして誕生させた。
夢を掴む香りとは、どんな香りなのだろうか。
トップはフレッシュ・フルーティ。
スプレーすると、クリアでフレッシュなジンジャーと、みずみずしいベルガモットの香り。ベルガモットの青さが引き立つような爽快なシトラス・スパイシーに、みずみずしいライチ、さらに奥からはキャンディーにも似た甘さが、香り全体をピンクイメージに染め上げていくようなオープニング。
ミドルはフローラル・フルーティ。
鼻先にフレッシュなライチを感じながら、同じくピンク色の可愛らしいピオニーが重なってくる。このライチとピオニーの組み合わせはとてもキュートだと思う。
奥から、少しずつカカオの香ばしいビター感と、さらにはローズの華やかな甘さが、そんなフレッシュピンクのフルーティフローラルをエレガントに演出していく。
ベースはウッディ・ムスキー。
上の方は明るいローズを残したまま、パチョリがカカオの甘さを濃厚にしていくことで、まるでチョコレートに包まれたローズの香りに。
そこからカカオの甘さに沈むことなく、カカオ・パチョリの香ばしさを漂わせながら、最後はムスクで白い柔らかさを与え、ドライダウンしていく。
明るくフレッシュなフルーティフローラルが2時間近く、そこからエレガントなフローラルに、カカオのビターな甘さを添えながら5〜6時間持続する。
フレッシュなフローラル・フルーティの香り。
シトラスやスパイシーを添えたライチが、とてもフレッシュでみずみずしく、真夏を除けば季節はあまり問わない香りだと思う。
それでも、このフレッシュなフルーティは、秋冬の凛とした空気と調和することで、ビターなカカオフローラルがより美しく立つのでと感じている。
最初かいだとき、よくあるフローラルグルマンの香りかと思った。でも実際にかぎこんでいくたびに、この香りの素晴らしさに惚れこんでいく。
アトラップブレーヴは2018年にレディースの9作目として発売された。そして、この作品からヴィトンが求める香りの姿が変わってきたと感じる。エマ・ストーンが起用されたのもこの作品からだ。
初期7作品のような強いキャラクターは抑えられ、誰からも愛される香りが肌に寄り添うように広がっていく。さらに心惹かれるエッセンスが、さりげなく散りばめられている。
まず、トップのフルーティがそれほど甘くなく、むしろフレッシュで、奥のカカオの甘さやビター感が引き立つような香り。そのカカオに可愛らしいピオニーが重なったかと思えば、華やかなローズやラグジュアリーなパチョリが立ったり、カカオも甘さや苦みを行き来しながら、この香りを個性的に彩っている。一つ一つのパーツが飛び出ることなく、多彩な色を放っているように。
それはアトラップブレーヴは夢を掴む香りだから。
そう、まだ夢の途上の香り。
夢に向かっている時、人はとてもポジティブな状態で、輝いている。フレッシュで明るく、みずみずしく鮮やか、そんなポジティブな気持ちがギュッと凝縮されたような香り。
そしてアトラップブレーヴを1本持っていれば、その使用シーンの多さにとても重宝するのではないだろうか。
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2021/6/1 22:52:39
ルイ・ヴィトンの最新作IMAGINATION(イマジナシオン、2021年)はメンズ・フレグランス コレクション7番目の香り。
2016年にウィメンズ コレクションが7作品同時発売されたのに対し、メンズは5年遅れでようやく7作が揃った。
過去6作品は、メンズの定番的な香りを現代的にアレンジしたような香りが多かったが、今回のイマジナシオンは性別や使用シーンを選ばない香りに仕上げられている。
海を感じさせるような、落ち着きのあるライトブルーのボトルをスプレーすると、
トップはシトラス・アンバー。
フレッシュなマンダリンやベルガモットと、アンバーグリスの弾ける波のような磯の香り。アフターヌーン スイムの波飛沫のような青さに対して、イマジナシオンはベルガモットの酸味やネロリの明るさなど、透明だけどカラフルなオープニング。
ミドルはスパイシー・アンバー。
シトラスのフレッシュ感は、ヴィトンらしい鋭いネロリで輝きを増しながら、一方で、ジンジャーの硬さが香り全体を引き締めつつも、アンバーで水っぽさを加えたような香り。そして奥からみずみずしいジャスミンやシナモンの甘さに囲まれた、上品なティノートの存在感が増していく。
ベースはウッディ・アンバー。
フレッシュなジンジャーやシナモンの甘さを残しながら、燻したようなブラックティの深みのある香り。爽やかなネロリの明るさ、アンバーグリスのみずみずしさが、このウッディに近いスモーキーなティノートに彩りを与え、フレーバーのようなナチュラルな紅茶の香りに。最後はアンバーグリスの柔らかさが、スモーキーなティを肌に吸い込ませていくようにドライダウンしていく。
おそらく、今までのヴィトンのフレグランスの中でもっとも淡い香りにも関わらず、実際に肌に乗せると、時間が経つにつれて、ティの甘さと渋みが肌になじんでいくように、6時間くらい持続する。強く主張しないため、時おりフワッと香ってくる柔らかなティーノートに心が安らぐ。
水彩画のような繊細な構成のため、体温や肌質によって香り方がかなり異なると感じている。何人かで実際に肌に乗せて香り方を比べたところ、紙と近い人、シトラスが強めに出る人、ティの深みが強めに出る人、私のように甘さが強めに出る人など、かなりの違いがあった。まずは自分の肌で試すことをおすすめしたい。
全体的な香りのイメージは、美しい液色と重なる。少し冷たさを感じる、静寂なブルー。熱で火照った肌を、冷たい海水で一気に冷やすと、肌は冷たくても身体の芯はまだ熱がこもっている、、、そんな肌そのものの香り。涼しげ、でも肌に寄り添ってくれるような温かみがあるため、春と秋は終日、夏の夕刻以降は特に似合うのでは。
イマジナシオンの主役は、なんといってもアンバーグリスとブラックティだ。
ジャック・キャヴァリエは、まったく新しいアンバーを表現するため、長い歳月を費やしたとのこと。トップでは波が弾けるようなダイナミックさ、ミドルでは滴るようなみずみずしさ、ベースでは肌に寄り添うような安心感というようにアンバーの様々な表情を楽しませてくれる。
そしてブラックティにもこだわり、スリランカ産を独自方法で抽出したとのこと。
私は紅茶を飲む習慣がないため、高い紅茶と安い紅茶の香りがどれくらい違うのか分からない。でも、今まで見てきたティノートと比較すると、このイマジナシオンはとてもナチュラルで、最後まで香りが崩れることなく、さらにアンバーと融合することで、肌にスッととけ込んでいくようだ。むしろ残香のティ感の方が良いのではと感じるくらいに。安い紅茶の香りにはもう戻れないと思う。
最近のヴィトンの香りを見ていると、ジャック・キャヴァリエの目指す香りの方向性が想像できる。
私のようなフレグランスジプシーが求める、唯一無二のキャラクター、オーバードーズによる濃くて複雑な香り、力強さ、華やかさというよりも、繊細な素材の呼吸、透明感、疲れさせない、着飾らないなどを重視しているように思われる。
IMAGINATION=想像力。ジャック・キャヴァリエが描いたこの水彩画は、アンバーグリスとティを骨格に、キャンパス全体に色を塗らずに、多くの余白を残している。さらに爽やかさ、みずみずしさ、甘さ、辛さ、華やかさ、冷たさ、暖かみ、硬さ、柔らかさ、深みなどの様々な色を点在させることで、次の描き手が手を加えられるように創られている。
このキャンパスに自分の好きな香りを重ね合わせてみる、、、。そんな想像力を発揮することで、無限に広がる可能性を楽しむ香り。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
税込価格:-発売日:-
2021/5/15 16:38:20
ルイ・ヴィトンの最新作オン ザ ビーチ(2021年)は非常に素晴らしいシトラスの香りで、個人的には最高のシトラス探しの旅の到達点だと感じている。
オン ザ ビーチはヴィトンでは初めて、日本産柚子が、それも主役として使用されている。
シトラスの香りは、ほとんどのフレグランスでトップの爽やかな印象付けとして使われるケースが多く、シトラスが主役の香りといえば、コロンのような儚い香りになってしまう。
なかにはアトリエコロンのようなシトラスコロンの香りを持続させたものもあるけれど、最初から最後まで、それも日本の柑橘の香りを楽しめるフレグランスなんて過去になかったのでは。
そして柚子を使うことで、新しいシトラスの扉を開けたような香りに仕上げられている。
オン ザ ビーチは快晴のビーチで過ごす1日の、色褪せることのないエモーションを表現した香りとのこと。コンセプトをそのまま表現したような美しいグラデーションのボトルをスプレーすると、、、
トップはシトラス。
スプレーした瞬間から、柚子らしい苦みやワタのような甘さがとても心地よい。少し遅れて透明感のあるネロリが柚子を押し出しているような香り立ち。
ミドルはアロマティック・グリーン。
鼻先は柚子のほろ苦い甘みをピンクペッパーでキャラクターを付けつつ、全体の骨格はローズマリーやタイムの硬質なマロマティックグリーンと、シトラスリッチなネロリのフローラル感が重ねることで、スプレーした瞬間の柚子をそのままスライドさせたような香りに。
サンソングと同様に、ヴィトンのネロリはシトロンの効いた黄色いイメージが強いため、柚子との相性が非常に良いのではと感じる。特に肌に乗せると、このネロリのフローラル感が増すため、さながら柚子フローラルに包まれたような香り立ちになる。
そして、奥から時折香ってくるひのきの爽やかなハーバルウッディ感がとても心地良い。
ベースはウッディ・スパイシー。
硬いアロマティックグリーン、ネロリやひのきの残香に、クローブのようなハーバルなスパイシーを添えることで、柚子らしい面影を残していく。そして、柚子の残香をウッディムスクで持続させたままドライダウン。
持続時間は、アロマティックな柚子フローラルが2時間程度、ひのきのような軽いウッディとムスクを合わせた柚子の香りは6時間以上持続する。
夏のビーチをイメージしているのに、お決まりのマリンやオゾンやココナッツではなくて、終始、柚子の爽快感、ほろ苦い甘さ、アロマティック感が漂っている、とても涼し気なシトラスの香り。
ケチをつけるとすれば、ヴィトンのネロリの香り方。フワッと香るネロリではなくシトロンが鋭いネロリで、もしこの香りが硬質なアロマティックグリーンから飛び出してしまうと、柚子らしさが抑えられてしまうため、紙ではなく肌で試すことをおすすめしたい。
ビーチの上、輝く太陽、波しぶき、そしてジリジリ焦がされる砂の余熱。
でもこのオン ザ ビーチの香りは涼しげで、風通しが良い。ここのビーチにはなぜか竹林があって、さらに風鈴の音色まで聴こえてくるような雰囲気がある。もしもこんなビーチがあったら、毎週通うよ!
ヴィトンのフレグランス部門は、このフレグランス途上国の日本において大成功しているとのこと。オン ザ ビーチの香りは、私たちが憧れる海外のリゾート地をイメージしたものではなく、まるで日本の魅力をギュッと詰め込んだような、日本のヴィトンファンに向けたジャック・キャヴァリエからのプレゼントのように感じてならない。
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[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)・香水・フレグランス(メンズ)]
容量・税込価格:10ml・6,600円 / 30ml・18,150円 / 50ml・23,100円 / 100ml・33,000円発売日:- (2018年11月追加発売)
2021/5/1 18:24:48
シトラスの香りが好きだ。
特にオレンジは、爽やかさで、みずみずしくて、ジュースのような甘さやフレッシュな酸味もあり、何より美味しそうで、そして気持ちが良い。
ニッチフレグランス界の大御所として個人的に敬愛するフレデリック・マルが提示した「ビガラード コンサントレ(2002年)」は、オレンジの軽やかさや透明感、フレッシュ感に加え、皮を剥いた時の鼻を刺す苦みまで再現した、究極のオレンジの香りに仕上げられている。
調香は前エルメスの専属調香師ジャン=クロード・エレナ。
フレデリック・マルでのジャン=クロード・エレナの作品は、非常にパンチを効かせた香りが多く、エルメスでの淡い印象の作風とは全く異なっている。
トップはシトラス・スパイシー。
スプレーすると濃厚なみずみずしいオレンジと、クミンやブラックペッパーなど過剰なスパイスで味付けしたような香り。かなりスパイシーを効かせた、ゴリッと苦いオレンジに、うっすらとペチグレンの乾いたグリーンも香ってくる。
ミドルはグリーン・スパイシー。
オレンジのみずみずしさは一気に淡くなり、入れ替わるように果皮の苦味が増していく。この苦みが非常に男っぽい。でも、わずかにローズオイルが香ることで、明るさとフレグランスらしいを複雑さを与えている。
ベースはグリーン・ウッディ。
ペチグレンの残香や、苦味の骨格となっていたセダーウッドに、干草のような燻したカルダモンの苦味と、オレンジのもったりとした甘さ。そして、このビター感が抜けるいくと、みかんの甘皮のような香りが最後まで続く。
持続時間は、フレッシュなビターオレンジが30分程度、強い苦みに引っ張られたオレンジが3時間程度、みかんの甘皮のような仄かに甘苦い香りは5時間以上持続する。
すごいのは終始オレンジらしい香りが消えないことで、分子蒸留することで実現したビターオレンジのエッセンスを加えたからかもしれない。
そして、オレンジという素材を、オレンジコロンやフゼアやウッディなどのいわゆるフレグランスらしい香りに持って行かずに、最初から最後までオレンジの皮の香りと完結しているため、オレンジ好きにたまらない逸品ではと感じる。
でも、それにしても苦い。特にクミンが相当効いていて、あと半歩で苦いわき汗臭?がオレンジのに勝ってしまうくらい攻め込んでいるため、毎回、使う時に一瞬躊躇してしまうほど。
オレンジオイルの過剰使用と、分子蒸留エッセンスに自信があったらこそ、ここまで苦みを追求できたような、非常にフレデリック・マルらしい香りだと思う。
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2021/4/15 22:48:32
私にとって、アバントゥス(2010年)は特別な香り。
当時、男性用のフレグランスは似たような香りが多く、香りのバリエーションは女性用と比較して1/10以下だと思っていた。
そんな時、埋もれていたアバントゥスのサンプルを何気なく使った時の衝撃は忘れられない。
フレグランスの旅の扉を開けた瞬間。
その扉を開けてから10年近く経ち、その間、ニッチフレグランスを中心に性別を問わない香りが増えることで、香りの選択肢が一気に広がった。
さらに様々な香りに触れることで、香りの好みも広がっていった。
それでもこのアバントゥスの香りは特別だと思う。
男性向けでフルーティメインの香りが稀で、さらに力強さや高級感、そして気品がある。
クリード250周年を記念して発表されたアバントゥスは、クリードでもっとも成功したフレグランスとされているが、それも納得の傑作。
頻繁に使えるような香りではないけれど、たまに使う度に、フレグランス探しの旅にスイッチが入る香り。
(以下、2016/11/17投稿)
強烈な個性、気品、若々しい力強さを醸し出す、トップレベルのメンズフレグランス。
トップからから一貫して、独特なキレのあるブラックな印象あり、オンタイム向けな香り。
TOPはFruity-Citrus。アップルやパイナップルのフルーティな甘さに、ベルガモットやブラックカレントがキレを与える。
MIDDLEはSpicy-Chypre。オークモス、パチョリ、ジャスミンを中心としたシプレノートに、ジュニパーベリー、バーチなどのメンズらしいの力強さが加わり、すっきりとしたキレと、男らしい色気を感じる。
BASEはWoody-Ambery。キーの高いオークモスとムスクのすっきりしつつも柔らかさのある香りから、徐々にアンバーグリス、シダーウッドのレザーのようなザラッとした香りに、バニラの甘さがほんのり香る。
レディースによくあるフルーティシプレを骨格に、オークモスを強めに主張させ、スパイシーやウッディなどメンズらしい力強さを加えることで、独特の色気を感じる。似たようなメンズフレグランスがなく、この個性的な香りがとても好き。手放せない。
フルーティの甘さと、シプレの切れと、ムスク、ウッディのバランスが秀逸で、真夏以外のデイタイム、夜問わず使うことができる。
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