2023/4/7 13:55:14
ウイエプールプル、なんだか聞き慣れない響きの言葉だ。特にプールプルの部分がそう思わせているのかもしれない。不思議な名前に感じるが、フランス語でウイエ=カーネーション、プールプル=赤紫色、なので「赤紫色のカーネーション」という直球ネーミング。元々は「ルイ」という名前で販売されていたが、2021年のコレクション再編の際に今の名前に変更されてラールエラマティエールに組み込まれた。
黒ずんだ紫色の香水をスプレーしてみると、トップにはフルーティーなイントロが流れる。これがペアーの香りなのだろうが、このペアーの香りはガスっぽく金属的なファセットがあって、あまり嗜好性はよくない。同シリーズでいうとアンジェリークノワールのトップにも感じる香りだ。
続いてメインのカーネーションの香りに移っていく。ところで、カーネーションって匂いしたっけ?花屋でよく見かけるような赤いカーネーションに際立った香りはないが、原種に近い薄ピンク色の芳香カーネーションには香りがある。クローヴやスターアニスのようなスパイシーなニュアンスとローズやスズランのようなフローラル、さらにバニラのような甘さもあるという。精油も採取できるらしいが採油率はよくないため基本的に再現香になるようだ。このウイエプールプルのカーネーションもおそらくそうだろう。クローヴのようなスパイシーさに青みの強いローズ、その脇をじわじわとベンゾインの甘さが固めていく。
ドライダウンになると、カーネーションの再現香はトーンダウンしてスエードのような滑らかなレザーとやや塩気のあるムスクが香りをまとめていく。持続はだいたい5、6時間程度で、香りの起伏が少ない現代的なフレグランスだ。ほぼカーネーションのシングルノートと言っていいだろう。旧名の頃と香りも変わっていないと思う。
トップ:クローブ、ペアー
ミドル:ベンゾイン、カーネーション
ベース:スモーク、バニラ、レザー、ウッディノート、ムスク
調香師は、デルフィーヌ・ジェルクとティエリー・ワッサー。
(fragranticaより)
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2023/3/17 18:38:00
ディオールのフレグランス部門のトップに就任したフランシス・クルジャンにより復刻を遂げたコロンブランシュ(販売名はコローニュブランシュ)。今まではオンライン限定のトリロジーコフレにのみ入っていたが、店頭でも最近単品売りされるようになった。価格・容量展開は他のメゾンクリスチャンディオールのシリーズと変わらない。
トップは杏仁豆腐を思わせるようなツンとビターなアーモンドの香り。スッキリとアロマティックなローズマリーのグリーンも香ることでとても抜け感のある心地いいスタートだ。
「白いコロン」というくらいだから、メインの香りももちろん白のイメージによく合うものが使われている。このコロンの主役はオレンジブロッサムだ。ローズマリーのアロマティックグリーンから繋がる形で徐々に花開き、ほんの少しアーシーな要素を感じさせながらその存在感を増していく。しかしその香りは満開にはならずに7分咲き程度でとまる。この控えめな感じは中々いい。豪奢なフローラルブーケももちろんステキだが、こういうのは日本の「侘び寂び」に通じるところがあるのでは、と思う。ここまでで2時間程度。
オレンジブロッサムをパウダリーなムスクとクマリンのほの甘さが包み込んでくればドライダウン。ここも白のイメージでまとめられていて収まりがいい。ドライダウンも2時間程度。
その名前に相応しく、全体的に白メインの淡い色彩で統一されていてとても好印象、リラックス感もあって日本人なら好きな香りだと感じる人も多いだろう。特に春先の暖かくなってくる頃が一番綺麗な香り立ちになるのではないかと思う。
トップ:スイートアーモンド、オレンジ、ベルガモット、ローズマリー
ミドル:オレンジブロッサム
ベース:バニラ、トンカビーン
調香師は、フランシス・クルジャン。
(fragranticaより)
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2023/2/24 10:38:35
日本人は桜が好きだ。春が近づけばドラッグストアやバラエティショップの店頭には桜の香りのシャンプーやボディソープが並ぶし、カフェを覗けば桜風味のドリンクのキャンペーン。古くからお花見という文化もあるし、日本人が桜にかける思いはひとしおだ。そんな桜にオマージュを捧げたフレグランスである「チェリーブロッサム」がゲランから今年も発売された。2023年バージョンのボトルデザインは1956年創業の刺繍メゾン、ヴェルモンが担当している。
今年も例年通り、125mLの本体に20mLのパーススプレーが付属している。香水自体の色は透明なピンクで、いかにも桜らしい。さっそくスプレーしてみると、ゲランらしいベルガモット、渋みのあるグリーンティが香る。ピンク色にだまされるとびっくりの緑色の香り。桜も緑茶も日本人には馴染み深いが、日本のメーカーのフレグランス製品でこのふたつを組み合わせたものは意外に少ない。
グリーンティの苦味は中々残るが、気付かない内に桜の香りにバトンタッチしている。ゲランのチェリーブロッサムのサクラアコードはたいしたもので、他ブランドだと「これはサクラじゃなくてローズ」「これはフルーティに寄り過ぎてチェリー」「これは桜餅」と感じるものがほとんどの中、かなりの桜の再現度だ。ひらひらと舞い散る桜の花びらをめいっぱい集めて顔を埋めたらきっとこんな香りがする。
サクラの香りに、パウダリーなホワイトムスクが加わってくるともうドライダウン。花の命は短いというけれど、ゲランのチェリーブロッサムの持ちも短い。トップからドライダウンまで3、4時間ほどで事足りる。
気温が低いとグリーンティの苦い香りが長く続きすぎてちっとも桜に感じないが、暖かくなってくると本領発揮。ふんわりと広がるサクラアコードが織りなす世界にしばし目を閉じてまどろみたくなる。日本だと4月?5月の頭くらいまでがちょうどよく楽しめるのではないだろうか。暑過ぎる季節はサクラの香りが爆速で散ってしまい情緒もへったくれもない。
2020年に復刻して以来4年連続発売されていて、すっかり春の風物詩になった感じもあるチェリーブロッサム。毎年毎年値上げされていて今年はついに税込十万近くになってしまった。もちろんそれなりの香りのクオリティではあるものの、やっぱりこれはゲラン好きのためのコレクターズアイテムだとしみじみ思った。
トップ:グリーンティ、ベルガモット
ミドル:チェリーブロッサム、ライラック、パウダリーノート、ジャスミン、チェリー、アーモンド
ベース:ホワイトムスク
(fragranticaより)
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2023/2/10 14:13:52
オンソンミティックドリオン改めオンソンミティック、個人的にはゲランの中東向けライン「アブソリュドリオン」の中で珠玉の出来ではないかと思っている。長らく日本では未発売であったが、今年の1月に一部店舗でカラービーボトルへの充填販売形式による取り扱いが開始した。
さっそく腕に付けてみる。サフランの温かみと酸味の強いローズ、それらふたつをクラシカルなアルデヒドでまとめている。とてもオリエンタルで非日常的な出だし。
ローズにピンクペッパーの爽やかさも加わりより華やかに、そして甘さも出てくる。奥から香るオリバナムの酸味やアンバーグリスの塩辛さがローズを支えることで、よりいっそうオリエンタルな雰囲気が強調されていく。
オリバナムとアンバーグリスがローズを徐々に呑み込んでくると終盤。湿ったアニマリックさとソルティなファセットにインセンスがスモーキーな印象を添える。オンソンミティックのアンバーグリスの香りには、一部天然が使われているらしい(そんなもの滅多にないぞ!)そこにやわらかなムスクとパチュリの苦味が加わりながらドライダウン。持続は9、10時間程度。中東向けなだけあってロングラスティング。
オンソンミティック=神秘的なインセンス、というだけあって香りのどの面を切り取っても非常に中東イメージで神秘的、どっぷりと香りの世界観に浸れるフレグランスだ。
冒頭でオンソンミティックドリオン改めオンソンミティックと述べたが、この香水は元々「デゼールドリオン」と言われたシリーズもの三部作の内のひとつ。原材料の都合上リフォーミュラを余儀なくされ(珍しく値下げされた)、海外レビュアーからはちらほら「薄まった」との声があるが、その香りの美しさは顕在。肌に付けるとより際立つ香りのため、購入前にはムエットだけでなくぜひ肌で試していただきたい。
トップ:アルデヒド、ローズ、サフラン
ミドル:ピンクペッパー、ベチバー、パチュリ
ベース:アンバーグリス、オリバナム、ウッディノート
調香師は、ティエリー・ワッサー。
(fragranticaより)
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2023/2/3 11:30:53
ラールエラマティエールに追加されたウード三部作のひとつ、ウードコール。日本においては2022年のサロンドパルファンで先行販売、一般販売は2023年1月2日。最近のゲランフレグランスはゲランのNo.2パフューマーであるデルフィーヌ・ジェルクの名前で世に出されていることが多いが、このウードコールは我らが五代目(といっても正式に五代目と認められたのは2018年頃らしい)ティエリー・ワッサーの名がクレジットされている。
香水自体の色は黒ずんだ紫色。コール(墨)というくらいだからそれを意識した着色なのだろう。トップから香る強烈なアルデヒドの脂肪臭。無香料石鹸からかすかに香る脂っぽい匂いを100倍に濃縮したよう。同時に木酢液のような植物由来の酸っぱさも感じる。もし私がゲランどころか香水自体に詳しくなくて、店頭でこの香りが付いたムエットを渡されたら、「高級ナ香水ダケアッテトテモコセイテキナ香リデスネ」と棒読みで伝えてムエットを返却しそそくさと退散、あそこはヤベーブランドだ近づいちゃいけねぇ、と記憶に刻み込まれることだろう。
脂っぽい酸っぱさの後にやってくるのは炭のようなスモーキーな香り。肌の上で七輪に火をかけたかのようにもくもくと煙たい香りが沸き立つ。うーん、ゲランの香水というより、新興ニッチがちょっと面白い名前を付けて出しそうな香りだな。もう少し様子を見てみよう。
相変わらず煙たいものの、少し甘さが出てきたようだ。これがプラリネなのだろう。プラリネといってもグルマンのような香りにはなっていない。苦味の強いスモークの奥底にほんの少しだけ感じる甘さ。ここまでくると肌に馴染んでレザーのような質感も出てくる。そしてモスアコードのアーシーな苦味も加わってドライダウン。持続は12時間以上、非常にロングラスティングだ。
しっかりキャラの立った個性的な香り立ちで、付ける人はかなり選ぶ。私はだいたいムエット通りのスモーキーウードでメンズ寄りに香るが、甘くフェミニンな香り方になる人もいる。ムエットだけで判断することは難しいだろう。
ウードコールは、色に喩えるならベンタブラックという光を非常に吸収する物質ということになっている。可視光の99.965%を吸収するため、これを塗られた物は元の質感が肉眼では全くわからなくなってしまうらしい。
全てを呑み込む黒に気圧されるか、そこに光を見出せるかは、あなた次第。
ノート:アガーウッド(ウード)、レザー、アルデヒド、モス、プラリネ
調香師は、ティエリー・ワッサー。
(fragranticaより)
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