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doggyhonzawaさん
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Puredistance / PAPILIO

Puredistance

PAPILIO

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2023/9/29 07:22:40

その日、彼女は上司に怒鳴られた。大口の取引先で案件を一蹴され、帰社したときのことだ。

「はぁ?お前、あそこ取れなかったらうちの会社どうなるかわかってんの?なんで帰ってきてんだよ!」

「すみません。」表向き平身低頭しつつ、心の中で舌打ちする。
(そんな大事ならてめぇで取ってこいや。それにあたしは「お前」じゃねぇし。)

上司は「大体お前はさ」とねちねち小言を続けた。彼女は周囲の冷笑をうなじのあたりに感じて、次第に体がこわばるのを感じた。バンッ!上司が机を叩いた。

瞬間、心が硬い殻に覆われた。そのとき彼女はサナギになった。

会社を出たのは真夜中。気付いたら駅を出てネカフェの前に立っていた。今夜は部屋に帰れない。ここに籠って、明日朝イチで件の取引先に再特攻をかけるしかない。てゆーか、そうしろと言われた。

完全鍵付き個室が1室だけ空いてて神に感謝した。クタったパンプスを脱いでスーツを壁にかけたら、一畳ほどの空間が自分専用シェルターになった。手早くドリンクを調達し、食べたい物をオーダーした。返す刀でPCメールを起動。予想どおり先輩から雑事の催促メールが来ていた。メンタルやられてんの知ってるくせに遠慮ない。てか、むしろ涼しい敬語で上乗せしてくる。それが社畜の常道だ。即返しないと後が怖いのでピザかじりながらレスした。それを終えた時、今日初めて力が抜けた。腰がずり落ち、首とまぶたが船をこぎ始めた。ヤバい。寝落ち寸前。でもまだ終わりたくない。何もいいことがないまま、今日を終えたくない。そうだ。

バッグから1本の香水を取り出した。銀の試験管型ボトルに金のチャームが揺れる。ネットで最新香水を探して見つけたピュアディスタンスのパピリオ。「蝶」という名の香水。きっかけは「パピリオのうた」という詩だ。「自分を抱きしめて」とか「飛べ」とかメンヘラ女的にスルー言葉が並んでたけど、とあるフレーズが厨二心にぶっ刺さった。

「世界を牢獄のように感じるとき 生き地獄のようなとき その傷だらけの羽を広げ 機能不全のカルーセルから飛び去れ」

ああほんと、社畜は牢獄、生き地獄だよ。こんなんで飛べるわけないじゃん。無理だよ無理。でも…

「機能不全のカルーセル」って、なんかいい!カルーセルってぐるぐる回る終わらない円環だよね。あれだ。ハムスターが走り続ける回転車。あれ絶対ゴールできないのに、ずっと輪っかの中を走り続けてさ。バカだよな。…って、今のあたし同じじゃん…。

そう思ったら急に苦しくなった。そして気付いたらポチっていた。


真夜中の狭い個室。PCモニターが深海探査艇ののぞき窓のようにぼうっと青く浮かび上がっている。その絶対的孤独の中で手首にパピリオをプッシュした。瞬間、まばゆい金色の粒子がはじけて、室内の空気が柔らかくなった。すかさず手首に鼻を押しつけた。

はぁ… たまんねぇ。 思わずオヤジみたいな声が漏れた。何かキメてぶっ飛んでるヤツみたいに、口が半開きになった。

ふわりと宙に舞い上がるベルガモットの酸味。そこにヘリオトロープがシンクロしてパウダリーをまき散らす。そのアップダウンは確かに蝶の羽ばたき。明滅する色とりどりの香料が、蝶が拡散する鱗粉に思えるトップ。

「これマジやべぇ…」言いながら、空中にシュッ、シュッとパピリオをスプレーし、芳醇な香りのシャワーを頭からたっぷり浴びた。パピリオのフルーティーなミストが、髪と顔とブラウスに降り注ぐ。それは心を覆った固いサナギの殻を溶かした。やがてパピリオは、ほの甘いマグノリアを奏ではじめ、軽やかなレザー香を纏って、さらなる進化をうながしてゆく。いつしか眠りの世界に誘われ、夢を見た。

人がごった返す遊園地。彼女は6才で、背中にピンクの蝶の羽がついたドレスを着て空を飛んでいた。だが次の瞬間、地に落ちた。視界から全ての人が消えた。慌てて周囲を見回した彼女は今のアラサーに戻っていた。ただ背中のピンクの羽だけは小さいままで、何度羽ばたいてももう飛べなかった。怖くて走り続けた。でも必ず元の場所に戻ってしまう。グルグルの堂々巡り…。そこで目覚めた。

個室の中にはパピリオの柔らかなラストが流れていた。優しくて懐かしいパウダリームスクの香りがした。眼前のモニターに寝ぐせ頭の女が映っている。それを見たら少し笑えて、ぽろぽろ涙がこぼれた。

今日、上司に怒鳴られた。でももういい。どんなにやられても「今日も死なない!」って行くしかない。何度も固いサナギになって、いつかはパピリオになってやる。この機能不全の社畜カルーセルを抜けて、ドヤ顔で世界を飛び回るために。

だから今は眠ろう。ここは社畜のコクーン。夢見る繭。見るは儚い胡蝶の夢。

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シャネル / シャネル N°19 パルファム

シャネル

シャネル N°19 パルファム

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

容量・税込価格:15ml・31,350円発売日:-

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7購入品

2022/12/10 13:41:09

あなたをたった5秒で強く颯爽とした女性に変える。それは簡単なことだ。シャネルN°19のパルファムを1滴指にとり、耳たぶの裏につける。それだけでいい。

「また何言ってるんだ、大げさな」そう思うなら試してみるといい。香りが好きかどうかは別。N°19パルファムは、強き女性の代名詞として君臨し続けるココ・シャネルが「世界一売れたN°5を超える香りを!」と「自分のためだけに」作らせた最強のシグネイチャー香水だ。

ただしEDPやEDTでは効果は薄い。N°19の破壊力を実感するためにはパルファム一択だ。15mlで31350円。高い?そうだろうか。「なんでこんな香料でこんなに高いの?」と首を傾げるようなそのへんのニッチ香水に比べたら、100倍良心的な価格だと思う。まず歴史とブランド信用力と品質が別格だ。さらに、スプレーでなく指で1滴ずつつけるフラコンなので、本当に減らない。そして超至近距離でだけ高濃度香料がなめらかにずっと香る。実は香害に一番なりにくいのがこのパルファム濃度だ。これぞ本物の香水。香水に詳しくない方なら、なおさら「本物の凄み」というやつをまず体験すべきだろう。

ココ・シャネルはこのN°19を創るために、調香師アンリ・ロベールに何度も試作品を用意させ、香りを纏ってパリの街を歩いたという。そして人々が香りについてどんなふうに声を掛けてくるか確かめた。全く声を掛けられなかったときは、怒号と共に調香師を責めたという話もある。当時ココは86才。ある日、長年住んでいたリッツホテルから出てきた際、若いアメリカ人男性2人に引き留められ「その香水の名前をぜひ教えてください!」と迫られたことが決定打となってこの香りは生まれたという。

ではそんなN°19パルファム、いったいどんな香りなのか?世界的に「グリーンフレグランスの最高峰」と言われる香りの展開を追ってみる。

N°19パルファムを肌にのせる。するとまずはじめに立ち上るのは、ギリリと青臭いグリーンノート、そして粉っぽいアイリスの白い香りだ。そこにまろやかなネロリの甘さが加わり、キレのいいスッキリとした緑と白の香りが広がるトップ。

3分後、ジャスミンのふくよかさとグリーン香が相まって、スズラン様のフローラルが広がってくる。同時に下の方から冷たく青いヒヤシンスの香りも感じられる。ガルバナムのシャープなキレのある香りを軸としながら、ソリッドで青緑なフローラルが感じられてくるミドルになる。

このミドルは知的でスタイリッシュ。キリっとして本当にかっこいい。全くフェミニンじゃない。若々しく、怜悧で、背筋がスッと立っているイメージ。全てに妥協を許さず、自分のめざすベクトルを見定め、どこまでも一直線で闊歩してゆくような、潔さと強さを感じさせる草原と大地の香りだ。

リラックスというなら、それは大自然の中に放り出されたような心地よさがこの香りにはある。けれどそこには同時に、厳しい自然界の現実に対峙する強さもまた要求される。そんな苛酷さを感じさせる香りでもある。ミドルは、大草原に吹く風がオークモスのビター、ベチバーの土の匂いを運びながら3〜4時間続いていく。

ラストはとてつもなく優しい。土深く眠り続け、長年かけて香りを熟成させたアイリスパリダのパウダリーが優しく心と体を包みこむ。ほのかに甘いムスクとともに、小麦粉のようにきめ細かな白い香りを呈してドライダウン。ここまで5〜6時間。たった1滴で。

N°19はココ・シャネルの誕生日である8月19日から命名されたナンバーフレグランスだ。人は一人で生まれ、空と大地の狭間で必死に生きて、その短い生を全うする。「香水をつけない女に未来はない」と言い切ったココが、人生の最後に自分のためだけに徹底的にブラッシュアップして作り上げた香り、N°19。そこに込められたのは、世界中の女性が男性の下に屈することなく、自分自身を強く美しく保ち続け、欲しいものを欲しいと言い、自分の力で未来を貪欲につかみとれ、というメッセージのように思える。

一面の大地。草原が風に揺れている。湿ったベチバーの土っぽい香りがしている。濡れた苔類のビターな匂いが森から運ばれてくる。自然はどこまでも広く、容赦なく、そして気高い香りに満ちている。服が風をはらむ。草原と森の匂いが髪を洗う。

青いガルバナム。苦みばしったオークモス、乾草のベチバー、白いアイリスパリダ。それらが織りなす、今にも発火しそうな残虐なグリーンノート。クールで、スタイリッシュで、挑戦的。常に現代で戦い続けるハンサムウーマンの香り、実装完了。

最終戦闘に備えよ。
大地を疾走するパルファム「ナンバーナインティーン」発動。

5秒だ。5秒で未来にカタをつけろ。

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アールフレグランス / 一期 無常

アールフレグランス

一期 無常

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:2021/11/3

5購入品

2022/12/3 12:21:16

「一期無常(イチゴムジョウ)」は「いちごの香り」がする珍しい香水だ。世にストロベリーフレーバーはあまたあれど、実は「香水」で「いちご風味」というのはほとんどない。そのニッチをうまくついたのが、日本の香水ブランド「アールフレグランス」を興した調香師、村井千尋さん。

村井さんと言えば、個人的にフレーバリストとしての才能が豊かな調香師、というイメージがある。「フレーバリスト」とは、食品をよりおいしくするための香りを作る職人。あらゆる香料に通じ、それらの綿密な組み合わせによってクライアントが望む「美味しそうな本物っぽい香り」を再現するプロだ。ご存じの方も多いだろうが、村井さんが手がけた「ティーブレイク」は、本物の甘いレモンティーのような香りがするし、他の香水の花の香りも再現力が高い。

その村井さんが「いちごの香り」を手がけたということで、この「一期無常」は、2021年の発売以来、話題を振りまいている。ではいったいどんな香りなのか?

一期無常をスプレーする。肌に乗せてまず感じられるのは、甘酸っぱいイチゴの風味、そしてスパイシーな土の香りがするパチュリだ。「おお、本当にイチゴの香りがする」と思わず納得してしまう再現力。ちなみにイチゴの香料やエッセンスは、生の果実から抽出していない。主成分となるカラメル様の甘いフラネオールに、リンゴやパイナップルの香料成分等を100種類ほど混合して再現されている。一期無常のトップは、ハニーの甘さも伴って限りなくスイートなイチゴ香。そしてほんのりクリーミー。

だが一期無常はその名のごとく、少しずつ香りが変化してゆく。

10分ほどするとイチゴの香りが落ち着き、その下からスッキリしたローズが感じられてくる。フルーティーなピンクバラの香りだ。同時に下の方からは土っぽいパチュリに上質な革の香りが混じってくる。とてもなめらかなレザー香だ。これらが混然一体となってフルーティーパチュリ、いわゆるフルーチュリな雰囲気になってくる。イチゴだけでなく、他の香料も主張してくるミドル。

ただ興味深いのは、トップのイチゴ風味がミドル以降もしっかり続いていることだ。

つけて2時間ほどたってもイチゴの香りはメインで感じられる。それをハニー、パチュリ、スエード革の香りが支えているイメージ。トップのイチゴは甘酸っぱいベリー系の香りだが、次第に少し大人びたダークロマンティックな影が差してくる展開。

ラストはかなり黒い香りになってドライダウン。墨の匂いがするパチュリ、そのスパイシーさを和らげるような上質レザーのヴェール。最初が「赤いイチゴ」で始まりラストは「黒いレザー&パチュリ」で終焉。色も対比している。持続時間は自分の肌で約6〜7時間。ときにパチュリのアーシーな香り、ときにレザーのアニマリックな風合いが余韻を見せつつ、消えてゆく。ラストは、甘くて暗い大人の香りでフェードアウト。

確かにこの一期無常は全体的に、あまあま少女ロマンティックな「いちごみるく」の香りではない。サンリオの「いちご新聞」の雰囲気じゃない。むしろスタンダールの「赤と黒」だ。

ブランド紹介文には、赤いイチゴの香りが表す「生」と黒いレザーパチュリ香が表す「死」の対比が記されていて、かなりシニカルだ。また、ボトルに描かれた幾何学模様は「時間」を刻む砂時計を象徴しているという。そこには人としての業(カルマ)も描かれているようだ。「一期」それは死ではなく「人生」。「無常」それは常に変化し続けること。いうなれば「一期無常」に掛けられたダブルミーニングは、

「フレッシュなイチゴの香りは常ならず、それは刻々と変わり続ける」と
「人生とは、常ならぬもの。苦楽あり、幸不幸あり。そして人は日々老い続ける」の2つか。

そこまで考えて2つの「赤と黒」を思い出した。

1つは赤。いちごを表す漢字「苺」。なぜ「くさかんむりに母」なのか。その由来には「乳首のような実のなる草」という解釈がある。もともと「母」という漢字じたい「乳房」を象形しているので、いちごは古来、母の乳首をイメージさせた物であったとみることができる。

もう1つは黒。太宰治の小説「人間失格」のラストのセリフ。読む者の背中からそっと冷たい手を入れて、魂をわしづかみにするようなこの暗黒小説の最後は、こんな言葉でしめくくられている。「自分には幸も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます。」

母の乳房は世界への最初の信頼。人生の始まりは赤ちゃん。土の香りは時過ぎて還る場所。人生の終わりは黒。そう考えると一期無常の意味は深いな。

母より生まれその乳を吸いし者、死に向かってただ生きゆくのみ。か。

まさに

祇園精舎の鐘楼に 一期無常の香りあり

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Puredistance / M V2Q

Puredistance

M V2Q

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

6購入品

2022/11/26 20:06:56

あなたにとってヒーローやヒロインは誰だろう?もしもいないなら大至急探すといい。自分の中に英雄をもつ者は強い。たとえどんな逆境にあっても、その存在が進むべき道を照らしてくれるからだ。オランダの香水ブランド、ピュアディスタンス(以後PD)の社長、ヤン・エワウト・フォス氏にとってのヒーローは、英国秘密情報部MI6のエージェント、007だったようだ。

「ボトルに入ったジェームズ・ボンド」。PD3作目の香水「M」は、そんな通り名で人気を博した。しかし近年、欧州の香料規制によって一部の香料が使えなくなり、惜しくも廃番になったようだ。そこで「M」の穴を埋めるべくフォス氏が提案したのは「Mの流れを継承しつつ、より優雅でパワフルなバージョン2(V2)の製作」だ。その困難な特別任務についた調香師は、PD香水を何度も手掛けたアントワーヌ・リー。彼の存在は、まさに007のために数々の秘密機器を作るエージェント「Q」その人だろう。かくしてMのV2は、Qの名前も織り込んで2022年に誕生した。その名も「M V2Q」。17.5mlボトルで28,100円。日本正規代理店「PDジャパンEサイト」より購入可能だ。

M V2Qはダニエル・クレイグ版007を彷彿させる、スタイリッシュでハードボイルドなウッディレザー系フレグランスだ。

M V2Qを肌にスプレーする。まず感じられるのはビターなスパイス。ひりつくシナモン。ラベンダーのシャープなアロマティック。これらが同時に香る切れ味の鋭いトップ。この疾走感あるトップは、例えるならダニエル・クレイブ版007の映画の冒頭。群衆の中、ターゲットを追跡するボンド。その奇想天外なパルクールアクション。壮絶なカーチェイスの末、毎回見事に大破するシルバーグレイのアストンマーチン。徹底的に標的を追い詰めるシベリアオオカミのような瞳の007のイメージ。

5分もするとM V2Qはミドルになる。火を噴くワルサー。流れる黒い煙。その硝煙の匂いが立ち込める。ラベンダーのクールな紫の風が、スモーキーなパインウッドの焦げた匂いをはらむ。テロ組織の重要人物を毎回平気で殺めてしまうダニエル版ボンド。MI6の女性上司「M」が「できる限り殺さないでほしいんだけど」と一刺しするも「努力はします」と返し、全く意に介さない007。仕方ない。

00(ダブルオー)は殺しのライセンスだ。

そしてM V2Qはこのミドルからどんどん危険で魅惑的な香りになっていく。まるでひと仕事を終えたボンドが次のターゲットを見つけたかのように。それは、きまって陰のある美しい女性だ。

紫と黒の煙が沈静するにつれ、ほのかなワインアコードと上質なスエード革の香りが感じられてくる。ワインというよりブドウの香りに近い。このブドウ&レザーのフルーティーなミドルは、暗くメランコリックで狂おしい。それは出会ったばかりのミステリアスな女性とグラスを傾けながら、互いの手の内を探り、相手のプライヴェートゾーンへの距離、いわばピュアディスタンスを縮めていく「瀟洒な時間」の香りだ。賦香率28%という驚異の高濃度パルファム・エクストレは、超至近距離でのみ香る一撃必殺のガジェット。ワイルド&センシュアルなこのミドルの香りに気付いたときには、すでに女の心と唇はボンドに奪われている。

ただ、この美しいフルーティーレザーの背後には、いまだスモーキーなウッディの暗雲が立ちこめている。孤独、不安、怒り、そして抑制を表すようなネガティヴな黒い煙。全ては任務のために自身の過去とともに封印してきたもの、あるいは傷。それらが黒いインセンス香となって背中に張りついている。M V2Qのミドルはそんな黒い硝煙と血の匂いを常にちらつかせながら、10 時間ほど続いていく。

ラストはオリエンタルなムードを醸し出してドライダウン。スモーキーなサンダルウッドのベースに、ほの甘いジャスミン、ヴァニラのクリーミー、レザーのドライな香りをにじませ、灰色の霧の中へ消えてゆく。それは去り去るアストンマーチンD5の排気煙。ダブルオーのためにQがあつらえた秘密装備満載のボンドカーの後ろ姿のように。

それでもM V2Qは「ジェームス・ボンドの香り」ではない。この香水は、自分にとっての強いヒーロー&ヒロインを思い出させる香りだ。時代のストレスにさらされ、孤独と不安にさいなまれながらも、自分のなすべき任務を絶対に遂行すべく、傷つき、もがきながら孤軍奮闘する者を力強く支える香りだ。

あなたにとってのヒーローやヒロインは誰だろう?もしいないなら、あなた自身が自分のヒーロー、ヒロインになれ。そんなMの極秘指令が届くはずだ。

”常に心に銃を持て。狙った獲物は必ず仕留めろ。 コードネーム「M V2Q」へ。”

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Puredistance / GOLD

Puredistance

GOLD

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

7購入品

2022/11/19 13:04:13

ある初冬の晴れた日、京都駅からバスに乗った。おめあては金閣寺。人生初。ついにあの黄金のモニュメントが見られる。そう思ってはやる心をおさえながら。

バスを降りて参道をのぼった。太陽が金色に輝いていた。受付を経て参拝門をくぐり、竹垣の小道を歩む。ドキドキしていた。あの足利義満が見せつけた権力の象徴。三島由紀夫の超絶言語で書かれた小説「金閣寺」の数々のシーンを思い出す。ついに松の木々の間から鏡湖池が顔をのぞかせた。もうすぐだ。もうすぐ金閣に会える。そしてついに…。

ピュアディスタンスのゴールド。この類まれな金色の香りを嗅ぐたびに、あの日のことを思い出す。もう10年ほど前だ。紅葉を終えた平日の京都は、どこかのんびりとして、冬の太陽に町全体が輝いていた。金の日差しが目にまばゆかった。

「香料は何を使ってもいい。最高の金色の香りを創ってほしい」。ピュアディスタンス(以下PD)のゴールドは、社長フォス氏の採算度外視、本物の作品重視の願いを調香師アントワーヌ・リーに託すことで2019年に誕生した。2年もの試行錯誤があったというが、その分できた香りは凄まじい。驚異の賦香率36%をほこるパルファム・エクストレ。軽く10時間は豊かに香る。17.5mlボトルで28,100円。日本ではPDジャパンよりオンライン購入可能。

このPDゴールドは「香水で作った金閣寺」だ。自分はそう思う。ではなぜ金閣寺なのか?

結論から言うと、PDゴールドの香りの3階建てピラミッド構造が、金閣寺の階層構造とシンクロしているからだ。

金閣寺こと鹿苑寺は3階建て。しかもそのつくりが階層ごとに異なっている。これを図に表すと次のとおり。

3F 仏殿造(義満の住まい)→日本の最高位「国王(上皇)」△
2F 書院造(武士の住まい)→武士の最高位「征夷大将軍」達成〇
1F 寝殿造(貴族の住まい)→貴族の最高位「太政大臣」達成〇

この特異なつくりは、絶大な権力アピールと同時に「貴族よりも武士が上」、さらに義満が自身を「国王」と名乗ることで天皇家よりも上であろうとしたという意図がうかがえる。

この階層をPDゴールドの香りにあてはめてみると面白い。

ゴールドをスプレーする。その瞬間、高濃度天然香料のふくよかな香りが一気に花開く。まるで狩野永徳が金色の雲で埋め尽くすかのように描いた「洛中洛外図屏風」。その中心には義満が建てた「花の御所」が描かれている、

ゴールドのトップは、この屏風絵のように金色の雲がうずまいている。まず感じられるのはベルガモットの豊かな酸味とコク、そこに寄り添うピンクペッパーの酸味。同時に多くの香料がもくもくと吹き上がってくる。シナモンやクローブのスパイシー。爽快なグリーンのラブダナム。これらが強く感じられる。まさにメタリックスパイシーなトップ全開。それは金閣寺の3階、全て金色に輝く唐様仏殿の香り。朝な夕なに日の光を浴びて、あらゆる方向に金色の乱反射を見せる最上階の威容。

3分ほどして、光の金粉のごとき酸味が和らぐと、花の香が感じられてくる。スパイシーを伴ったインドールジャスミンだ。花香は金閣の2階、書院造の床の間に飾られる生け花の趣と重なる。質素でありながら実用的な武士の館。その違い棚には当時、四季折々の花が生けられたという。酸味とスパイスとジャスミンの濃厚な香り、これらが黄金バランスで絶妙に香るミドル。この美しいミドルが3時間ほど続く。

やがて酸味もスパイスも雲散霧消し、ゴールドはめくるめく豊かなラストを迎える。この余韻が超絶いい。ほんのり甘くスパイシーな木の樹脂の香りが、柔らかな風の中にゆらぐ。この風は唯一金箔が張られていない金閣寺の一階部分。半蔀(はじとみ)を上げたオープンエアーの階。それは衣にお香をたきしめていた公家の屋敷の香り。ここには池を見つめる義満像と釈迦如来像が鎮座する。ミルラ、ベンゾイン、アンバー、ヴァニラが甘く香るウッディの饗宴。さらにほんのりアニマリックなカストリウムも混じり、義満の衣の匂いと上皇への欲望を思わせる。まさに地の香り。このオリエンタルなラストが7時間ほど続いて昇天。甘く切なく、鏡湖池に吹く風のようにたゆたう。

本当にPDゴールドは「香りの金閣寺」だ。そう思う。ついあの日のことがよみがえる。


松の林を抜けた。足早になる。鏡のような池が眼前に広がった。そしてついに金閣が…!

……なかった。その瞬間、体中が固まった。両目がただの穴になった。あんぐり開いた口がただの空洞だった。そこには「改装工事中」という看板と、全体をブルーシートに覆われた「何か」があった。

それは完璧な「ブルー閣」だった。そして限りなく絶望に近いブルーだった。

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プロフィール
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自己紹介

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