- doggyhonzawaさん 認証済
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- 55歳
- 乾燥肌
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2021/11/13 13:48:44
香水界の闇の帝王、セルジュ・ルタンス。彼の耽美かつゴシックな美学に彩られた香水作品群に、2019年、新たな作品が加わった。
ローダルモアーズ。ヨモギの水。
は?ヨモギ?そのへんに生えてるあのヨモギ?
思わず緑色のまんまるな「よもぎ餅」の色と味を思い浮かべる。甘くてほんのり草の味がするおいしいよもぎ餅。
ま、まさか!あの魔窟の錬金術師が「そのへんの草の香り」だなんて、そんな「50円くらいで買えそうな香水」を出すはずがない!嘘だ。嘘に決まってる!そう思ってにわかに信じられず、気がつくと試香もせずに買っていた。(←あなたのそのへんが…)
コレクションポリテス。これは、「悪魔の寝床」などという地獄の魔薬みたいな闇の香りばかり作り続けてきたルタンスが、何をどうとっ散らかしたのか、突然リリースした「キラキラ透明感あふれる光の香水」シリーズだ。ローダルモアーズは、その1本として登場した。とはいえヨモギ水。なぜだ?何を考えているルタンス?絶対何かウラがあるに違いない!
その秘密にせまる。
透明感あふれるボトルからヨモギ水をプッシュする。つけた瞬間立ちのぼるのは、苦味の強いハーブとミントが混在したリフレッシュな香り。ん。何かに似ている。あ、これ、薬草を練り込んだ緑色の歯磨きペーストみたいな感じだ。そう思うトップ。
2分もせずに、シャープなラベンダーの香りが鼻をよぎる。同じポリテスシリーズのグリクレールで使われたモロッコの灰色のラベンダー香に似ている。ほんのりコーラテイストもよぎる。カルダモン、アニスあたりがスッと清涼感と共に抜けていく。コーラっぽく感じたのはわずかなシナモン、クローブだろう。トップからハーブとスパイスが心地よく流れる。とはいえ、これまでのルタンスのノワール香水ほどの強さではない。淡く軽やかな出力。抽象的に言えば、スーツなどから香っても問題ないような透明感。
5分後、ミントが抜けてハーブの苦味が増してくる。グリーンというよりも、苦味がバシバシ効いたハーバルだ。そして同時に温かみあるクミンっぽい香りが増してくる。ん?これ、何だかカレー粉の香りに似てる。なるほどイモーテルか。
キク科の花から抽出されるイモーテル(ヘリクリサム)の精油は、別名「カレーの木」とも呼ばれるように、ホットスパイシーな香りが特徴だ。ミドルでは、このイモーテルのカレー粉っぽい香りがじわじわしみ出してきて、ギリギリ苦味の効いたハーブ香とデュエットを始め、モロッコのスーク、スパイスマーケットの風情を醸し出す。ビターなハーブ、ホットなスパイス、そこにほんのり甘みが加わった香りに落ち着く。
えー、でもヨモギってこんな香りがしたっけ??
気になったので、そのへんに出たついでにヨモギを見つけて指で葉をこすってかいでみた。んー、全然違うんだけどな。ヨモギってもっと落ち着くグリーンな香りがするんだが、一体どういうわけだ?
実はそれもそのはず。ルタンスがこの香水でモチーフにした植物は、ヨモギはヨモギでもモロッコ周辺の乾燥した大地に育つニガヨモギという種だ。実はこれ、日本のヨモギとは全く違う植物で、ギリギリとした苦味の強い香りは日本のヨモギの香りとは似ても似つかない。しかも幻覚作用をもつツヨンという毒性を含むという。
ほらきた!「毒」だよ。ルタンスがただの草の香りを創る訳ない!さすがタナトスの申し子、神への冒涜を恐れぬダークトライアド、ルタンス卿だ!(←厨二とまらんな)
ニガヨモギと言えば、まず思い浮かべるのが「緑の魔酒」と言われたアブサンだ。アルコール度数70°という強さに加えて、ニガヨモギやアニスで風味付けしたことで、美しい緑色と強い苦味が楽しめるリキュールだ。かつてゴッホや多くの芸術家が愛飲し、ツヨンの毒性によって幻覚を見たり感性を高めたりしたとされる禁断の酒アブサン。現在は原料が規制されているので前述の症状は出ないが、かつては合法ハーブ酒としてもてはやされたという。
なるほど。このグリーンな苦味とほんのりカレー粉を思わせるフローラルの香り、これらはモロッコに自生し、月の女神アルテミスに献上されたとされるアルテミシア、ニガヨモギの香りをイメージしたわけか。
ビターハーブ&ホットスパイスのミドルは、そのままうっすらと減衰する。時間は短い。2〜3時間ほど。モロッコではミントティーをはじめとしてハーブティーが本当によく飲まれていて、健胃などの薬効が高いこのニガヨモギも淹れて飲むことがあるという。
毒にも薬にもなるニガヨモギの水、それは緑の魔酒アブサンの香り。ローダルモアーズ。
さすがルタンス。闇だわ。これは50円じゃ買えない。
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