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doggyhonzawaさん
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カルティエ / デクラレーション オードトワレ

カルティエ

デクラレーション オードトワレ

[香水・フレグランス(メンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2022/8/13 09:02:15

告白する。私はあの人が好きだ。好きで好きでどうしようもない。

仕事中、いつもデスクトップのモニターの向こうに彼の横顔をちらちら眺めている。私の仕事がはかどらないのはそのせいだ。だからオフィスで、彼が私の視界にいることは地獄以外の何ものでもない。よく「好きな人をいつも眺められるのは至福」なんて子がいるけど、鼻で笑ってしまう。どこが!むしろ「あの人は自分になんか絶対振り向いてくれない」という現実を日々思い知らされるようで最悪だ。上司である彼の指示にいつも冷たく「はい」としか言わないのも、そのせいだ。「これ頼むよ。」と優しく声をかけられるたびに「もっと好きになるからやめてよ!」と思って表情が硬くなる。マスクの中で唇がとがる。目は般若のようにきつくなる。だから目も合わせられない。そしてどんどん嫌われる。知ってる。でも

じゃあ どうしたらいいのよ

告白する。私は毎日あの人のことばかり考えている。

先日、あの人は新しい時計を買った。あざといA美が「わあ、部長、その時計すてきですね!」と腰をくねらせながら持ち上げてたのを見た時はぶちキレたけど、確かにすごい時計だった。銀の丸型。リューズに青い石。あれカルティエだ。即ググった。カルティエのパシャ。2020年最新型。最低でも72万円。さすが世界の宝石商、カルティエの時計だ。自分じゃとても買えない。きっとボーナス待ってたね。相変わらず時計マニア。ただ、その時計を見て以来、私の中で不意に新しい時間が動き出した。

…あの時計に似合う物をプレゼントしたら 喜ぶかな…

そのとき、頭の中でパッ!とひらめくものがあった。

そうだ。あの人にカルティエの香水をプレゼントしよう。デクララシオン・オードトワレ。あれならバッチリ似合うと思う。デクラレーションと呼ぶ人もいるけど、実際は仏語表記なのでデクララシオン。香水はちょっと詳しい。あの人が何か香りをつけてたことはない。私があの腕時計に合わせて香水をプレゼントする…。そんな夢のようなアイディアに心が燃えたった。

告白する。それから5分以内にネットでボトルを注文したのは言うまでもない。

デクララシオンは、今や調香師のドンファンと呼ばれるジャン=クロード・エレナが1998年に作ったカルティエの男性用香水だ。エレナはこの作品で名を挙げ、後にエルメス専属調香師の道を開いたとされる。香りはエレガントで知的なスパイシーアロマティック。価格は50mlボトルで税込9570円。カルティエのジュエリーや腕時計は夢のまた夢だけど、香水に関してはクラシカルな価格のままで良心的だ。とはいえ、デクララシオンの香りじたいはなかなか秀逸。洗練されていて、さりげなくセクシーな香水。

トップは透明感あるスパイスムーブで始まる。温かみのあるクミン&コリアンダーと涼感のあるカルダモンの相反する要素が、オレンジの苦味の上で主張し合う。熱い情熱を内側に秘め、それでいて冷静な判断力でスマートに仕事をし続けるあの人の横顔に重なる。ぴったり。ほんのりカレー粉を思わせるスパイスミックスだけれど、後年エレナがエルメスでリリースしたモンスーンの庭のように透明感あるスパイスチャイな風合いが絶妙なトップ。

5分ほどしてスパイスがやわらいでくると、ジャスミンのふんわりした柔らかさが出てきてジェンダーレスなミドルになる。ペッパーのピリ感、シナモンのツンとした風合いをアイリスのパウダリーとジャスミンの香りがくるんで、鋭いのに丸く、硬いのに柔らかいという新たなコントラストを展開してくる。それは男性性と女性性どちらも融合させたバランスだ。カルティエの腕時計で言うなら、メンズ用のカッチリスクエアなタンクと、女性用の丸みを帯びた角型パンテールのどちらでもない、誰もが使える丸型のパシャのようなミドル。

ラストは、冷たい鉛筆の香りがするシダーと、乾いた草や温かい土の匂いがするベチバーのウッドコントラストでドライダウン。エレナはこのデクララシオンで、温と冷、硬と柔、鋭と丸などの相反する要素にこだわって香りの中和点を見出そうとして作ったことがわかる。そして、私ははたと気付く。

これ、むしろ私に似てる こんなに好きなのに 憎らしすぎて嫌い

数時間、静かに泣いた。とめどなくこぼれた涙は、冷たくて、あたたかかった。あの人に贈ろうと買ったデクララシオンの箱をあけた。ボトルを眺めていたら、ふっと気付いて笑みがこぼれた。腕時計のリューズ型プッシュボタンの下、斜めにカットされたガラスがきれいなハートの形をしていた。やっぱプレゼントしなくてよかった そう思った。そのとき、私の心の時計が静かに時をとめた。


告白する。私はあの人のことが ほんとにほんとに 好きだった。

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リキッドイマジネ / ファンタズマ

リキッドイマジネ

ファンタズマ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2022/8/6 00:16:19

リキッドイマジネのファンタズマは、深くてスモーキーなブラックティーの香りを軸にすえた香水だ。調香師は新進気鋭フレア・パリのアメリ・ブルジョア&アン・ソフィー・ベヘゲル。100mlボトルで税込27500円。

◎どんなときにおすすめ?使いたくなる?
・苦味の効いたブラックティーとドライインセンスの香りでスッキリしたいとき。
・気分的に堕ちたり迷走したりしていて、心穏やかに瞑想したいとき。
・黒い服を着るのが好きな方に。なんとなく人と群れるのが嫌いな方に。

◎この香水のよさを3つあげるとしたら?
・碧くて深い薬品瓶色をしたブルーのボトルがそそること。
・誰の心にもあるダークサイドに寄り添ってくれそうな、黒くて深い香りがすること。
・ファンタズマ(幻、幽霊)という名前。香りにも、どこか厭世的でお香を焚いたような幽玄な風情があること。

▲逆に自分的に「うーん」と思う点
・ブランドの商品紹介文が哲学的で難解なこと。「唇の宝石」とか「視覚幻覚や魂のファンタジー」とか「想像力と現実の感覚が反目し合う液体」とか、ルタンスの香水紹介ぐらい訳わかりません。誰か解説して。

○この香水の背景(ブランド、シリーズ)
リキッド・イマジネは、もともと哲学的かつ神学的な背景を作品に落とし込むことで他と一線を画してきた香水ブランドだ。同ブランドの作品群は、ある1つのテーマを3つの香水で表現する「トリロジー」という括りを大事に作られている。このファンタズマは「ラ・トリロジー・デ・ジュメー」という古代インドやギリシャで提唱されていた「四体液説」にインスパイアされて作られたシリーズ、いわば「体液3部作」のうちの1つ。「四体液説」とは、「血液・粘液・黄胆汁・黒胆汁」を人間の基礎体液とし、それらがバランスよく調和することで心身の健康を増進するという考え。同シリーズ3作品は、ラクリマ→目の水(涙)、メランコリア→心の水(黒胆汁)、そしてファンタズマ→唇の水(唾液)をシンボライズしており、まんま「四体液説」ではないが、それら3つの体液を浄化し、調和に導くといったような意図を受け取ることができる。体液そのものの香りといったイメージではなく。

○香りの展開
つけた瞬間、まず香るのは「キン!」としたフレッシュな酸味と独特の黄色い苦味、ユズ系の香料だ。そして同時に出てくるのがスッとミントっぽい清涼感と独特のエグミのある透明な香り、これはジンの香り付けにも使われるジュニパーだと思う。この2つが爽やかな風となって通り抜けるトップ。

5分後、かなり黒くてスモーキーな香りが下からグングン張り出してくるとミドル。これはブラックティー系の香りだ。ブラックティーといっても、紅茶っぽいかぐわしい紅い香りではない。かなり燻した黒ウーロン茶やラプサンスーチョンティー系の煙たくて苦味の強いお茶。これが全開でやってくる。

上の方で金色のユズが金属的な酸味、そこにジュニパーの透明な清涼感、その下で真っ黒に焦げた茶の香りが流れるというインパクトあるトップ〜ミドル。特にユズの金色とブラックティーの黒の二重唱が面白い。まるで金色の天使と黒い悪魔が戦っているようで、明るさの影に底知れぬ闇を内包しているかのよう。爽やかな笑顔の裏に、いつもどす黒い心の闇を抱えている。そんな現代人のマスクの裏側まで表現したかのような表裏一体を感じるミドル。

そして次第に黒茶のいぶした深いティー系の苦味は強くなり、さらにジンジャーの辛みが出てきて、全体は黒く浸食され温かみも増してくる。ラストはサンダルウッドというよりも乾いたインセンス香が強くなってきて、ティーはさらにキンとした鋭さを増してドライダウン。持続時間は4〜6時間ほど。

この香りにどこか懐かしさを覚えるのは、夏の夕暮れどき、不意に蚊取り線香の残り香が鼻をかすめたような煙感があること。あるいは電子蚊取り機の薬品マットのような匂いもほのかにする点だ。全体的に見ると変化の仕方はリニアで、トップのユズ&ジュニパーがうすらいでくると、あとはひたすら黒くて苦いティーの香りとドライなインセンス香が持続する香水だ。

こんなふうに、ファンタズマという香水は、金色に香る水と黒く香る水が拮抗し合って1つの香りになっている。それは人の心と似ている。

人の魂には善と悪が常に共存している。だからどんな人でも、その口は2つの種類の言葉を吐くものだ。それは人を幸福にする言葉と、自身に災いを呼ぶ言葉。あなたの唇は、金の水、黒の水、どちらの色に潤っているのだろう。

ファンタズマは、2つの色の水がめを秤にぶら下げて、いつもあなたの口元で静かに微笑んでいる。

さあ、思うまま欲望のままに伝えなさい、と。

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ルイ・ヴィトン / シティーオブスターズ

ルイ・ヴィトン

シティーオブスターズ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)香水・フレグランス(メンズ)香水・フレグランス(その他)]

税込価格:-発売日:-

5購入品

2022/7/30 01:52:02

人は、何かを得るときに、同じくらい大きな何かを失う。たとえ「夢」をつかんだ時であっても。

夢を実現していく過程で、人は代償として何かを失うこともある。それを教えてくれたのは、2016年にアカデミー賞史上最多ノミネート、6部門受賞に輝いたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」だった。

ルイ・ヴィトンのパルファン・デ・コローニュ、6番目の作品となるシティー・オブ・スターズは、この映画の中でアカデミー賞歌曲賞を受賞した同名の曲からインスパイアされて作られた香水だ。

”シティ・オブ・スターズ その輝きは俺のため? スターの街よ 見えないものばかりさ…”

映画の冒頭、自分のジャズ・クラブ経営を夢見るピアニスト、セブが夕暮れの桟橋で一人この歌を口ずさむシーンが描かれている。暮れなずむピンクの空、紫の海。この2色グラデーションこそ、香水シティーオブスターズのボトルカラーの配色だ。夢追い人があふれるキラ星の大都会LA。いつか夢を叶えると日々頑張ってはいるけれど、時折自分は本当にこれでいいのか?と堕ちてしまうことも。映画はそんな主人公のやるせない心情をメランコリックなメロディーにのせて静かに語り始める。

LVのシティーオブスターズにも、そんな大都会の夜が香りで表現されているという。

シティオブスターズをスプレーすると、まず最初に感じられるのは、シトラスミックスの香りだ。その中でも甘くさっぱりしたオレンジの香りが強めに出て、そこに何とも言えずまろやかでエキゾティックな白い花の香りが重なってくる。これはタヒチアンティアレの香りだ。紫色のビル群のシルエットの向こう、ブラッドオレンジの夕日が沈む頃、マジックアワーに包まれるLA。この刹那、風が止まり、心にも夕凪が訪れる。一日の終わり。トワイライトに照らされて心が静かに吐息を漏らす。そのニュートラルな心に染み渡って行くような可憐なティアレの香り。まるでこのままどこか遠くへ逃げてしまいたくなるような、郷愁を誘うクリーミーな花弁の香りに、気持ちが一気に持って行かれるトップ。

このトップは個人的に大変弱い。ただでさえタヒチアンティアレやガーデニア系偏愛傾向があるので、自分はこのトップでいつも腰がくだけてしまう。街なかで誰かがつけていたら、香りの引き波につられてフラフラついていってしまいそう(←絶対やめろよ)

とまあ個人の嗜好はさておき、このブラッドオレンジ&ティアレのトップハーモニーは本当に可憐でフルーティー。で、このままいってくれと願うところだが、香りは少しだけ変わってくる。すぐさまココナッツが強めに感じられてくるのだ。いわゆるタヒチやハワイ土産のモノイオイルそのものの香りになってくる。もっと言うと、真夏のビーチにあふれかえっているココナッツ風味日焼けローションの香りになってくる。

ここだ。この香水が気に入るかどうかは。

つけて5分。さっきまでティアレの香りでよろめいていた自分はスッと真顔になって「これじゃコパ○ーンの日焼けローションと変わらないのでは?というか、ジャック・キャバリエが以前レプリカで作ったイランイラン&ココナッツな香りのビーチウォークをちょいと変えただけでは?」などと思ってしまう始末。果たしてこれが天下のLVが高価格で出してくる香りなのか?とついクリティカルに見てしまう点はある。

このミドルではオレンジも消え、ティアレのクリーミーな花の香りも隠れて、ひたすら塩味のポップコーンぽい香ばしさを伴ったココナッツノートが強く主張してくる。自分はココナッツ系の香りは割と好きな方だが、うーん、もう少しティアレのロマンティックモードが継続してほしかったなあという印象。ラストはココナッツに軽くウッディが入って3〜4時間ほどでドライダウン。

シティーオブスターズ。星々のまたたく街。スターがあふれかえる街。誰もがスターを夢見てこの街に暮らし、たった1つの物を欲しがっている。それは何?夢?

映画「ラ・ラ・ランド」のラスト、互いに夢を叶えた2人が偶然出会うシーン。「もう一つあったはずの道」が夢のように繰り広げられる。それは、夜に見た幸せな白日夢。最後に見つめ合ったとき、2人は夢の代わりに失った物の大きさを初めて互いの瞳の奥に見いだしたのだろう。ティアレの花言葉は「幸せすぎてこわい」だ。あのとき、2人でいる幸せを選んでいたら、2人とも夢を諦めていたかもしれない。

だが、2人は別々に互いの夢をつかんだ。そのとき失ったものは何だったのだろう?

それは いつも隣で「大丈夫!」と 夢を応援してくれた 

あの人の笑顔。
愛だ。


今夜もLAに夜が訪れる。また、新しいスターたちが光り出すだろう。地上にまたたく灯りの星々の下で。

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グッチ / グッチ ブルーム アクア ディ フィオーリ オードトワレ

グッチ

グッチ ブルーム アクア ディ フィオーリ オードトワレ

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:- (生産終了)発売日:-

4購入品

2022/7/23 11:53:42

グッチの香水、ブルームのアクア・ディ・フィオーリは、ロマンティックなホワイトフローラルブーケの香りがするオリジナルに、グリーンな爽やかさをプラスした人気のオードトワレだ。2018年発売。調香師はアルベルト・モリヤス。価格は50mlボトルで税込10780円。

◎どんなとき、どんな方におすすめの香りか?
・スッキリして穏やか、邪魔にならないマイルドグリーンな香りに包まれたいとき
・親しい友との語らいや集まりに。フローラルでも石けん系でもない、つつましく落ち着く香りを選びたいときに。
・自己主張が得意ではないけれど、自分のよさや自然な感じをさりげなくアピールしたい方に。

◎この香水のよさは?
・何と言っても可愛らしく美しいペールピンクのボトル。ブルームのオリジナルEDPが出たとき、この陶器を思わせるボトルは、クラシックな色遣いとデザインで女性に大好評となった。それでも「可愛すぎて自分の年齢には合わないかも」と敬遠した女性も少なからずいたよう。そこを突いてきたのが、ラベルにも描かれたシックなトワルドジュイ風のイラスト。18世紀フランスのロココ調を思わせるこの2色で描かれたボタニカル柄は、さながら黒枠の中に映ったハーバリウムのようにも見え、クリエイティブ・デザイナーとしてグッチを蘇らせた鬼才、アレッサンドロ・ミケーレのセンスのよさに完璧に脱帽。彼は前任者と違い、ファッションブランドにとって香水こそが最も重要な「顔」であり「アイコン」となりうることをきちんと知っていた。
・甘く穏やかなグリーン香が続いて、気持ちをリラックスさせてくれること。特に昨今の女性は、どこにでもあるフルーティーフローラルにあき始めている傾向があり、最近ではこうした穏やかなグリーン系やティー系が好まれてきている。特徴はスッキリした苦味が心地よく感じられること。

▲逆に、自分的に「うーん」な点
・オリジナルのブルームの「濃厚かつクリーミーなホワイトフローラルブーケ」をベースにしつつグリーン感を押し出した作品ではあるが、もはや別物な印象があること。これほど違うならわざわざ「ブルーム」という冠はいらないのでは?と思う。
・落ち着く香り系ではあるものの、調香師アルベルト・モリヤスの昨今の特徴である「無難にまとめとこう」な感じが出たのか、周囲に与える印象が弱い感じはある。好きずきかなとは思う。

○展開
はじめに広がるのは、ほんのり甘い不思議なグリーンノート。葉の香りよりフルーティーで、わずかにスパイシー、どこかに小さな花の香りも感じられるような。グリーンというと、ガルバナムで表現された苦味やプチグレンのやや青臭いイメージがあるけれど、このグリーンはマイルドで優しい。さながら、初夏の野に広がるシロツメクサの甘い香りを思わせるような雰囲気のトップ。

5分後、グリーンは少しやわらぎ、その下から白い花の香りが現れてくる。これはジャスミンの華やかさと、やや酸味あるハニーサックル(スイカズラ)系の香りのミックスだ。このちょっとジャスミンよりかん高い蜜の香りと酸味が、このブルームシリーズで初めて用いられたというラングーンクリーパーという花の香料だろうか。同時に低音部では、じんわりとした色香が漂うクリーミーチュベローズもかすかに鳴り響いている。

このミドルは、スッキリマイルドなグリーン香がメイン、白い花が後ろでコーラスといった感じで鳴り響き、終盤になるとベース音の涼しげな木の香りも感じられてくる。鉛筆の香りっぽいシダーかなと思うウッディだが、クレジットではサンダルウッド系のようだ。このウッディが感じられてくるとドライダウン。持続時間は3〜4時間。

アクアディフィオーリというのは、イタリア語で「花の水」の意。この言葉で思い浮かぶのは、朝方、植物の花弁や葉にたまった露のしずく。その美しい水玉に光が差し始める頃、植物は葉で光合成をはじめ、葉の裏から過剰な水分を蒸散してゆく。ことに夏は、この蒸散がある種の匂いを伴い、野原で不意に青臭い「草いきれ」を感じることがある。

春から夏にかけては、庭園にさまざまな植物が生い茂り、色とりどりの花が次々に咲いてゆく命あふれる季節だ。まさにブルーミング。グッチのブルームシリーズは、女性が花のように多様な美しさをもち、そして今やジェンダーを越えてしたたかに生きていく強さを持ち合わせていることを表現しているという。四季折々の花々が咲き乱れる緑の楽園。アクアディフィオーリはそんな緑の庭園を散策したときに、花の香にまじって不意に感じる柔らかな草いきれの匂いがする。

まばゆい日射しの白。そこに咲く花々の鮮やかな緑。アクアディフィオーリは、その2色で描かれた香りのトワルドジュイだ。

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ELLA K / ベゼドフローレンス

ELLA K

ベゼドフローレンス

[香水・フレグランス(レディース・ウィメンズ)]

税込価格:-発売日:-

4購入品

2022/7/16 07:36:11

その大聖堂は、600年の時を紡ぎ、多くの建築家と美術工芸家の手によって完成した。

イタリアの至宝、街全体が巨大な屋根のない美術館ともいうべきフィレンツェ。その中心にある巨大なドーム屋根、世界最大の石積みクーポラをもつ大聖堂。それがサンタマリア・デル・フィオーレだ。

エラ・ケイの香水、ベゼドフローレンスの香りを嗅いでいると、この「花のマリア大聖堂」の荘厳な威容、そして美しきテラコッタオレンジのフィレンツェの街並が目の前に浮かぶ。

べゼ・ド・フローレンス。それは「フィレンツェのキス」の意。調香師として香料会社ジボダンに勤務しつつ、自身のブランド、エラ・ケイを興したソニア・コンスタンがこの香水に描いた旅の風景は、大聖堂をいだくフィレンツェの街並、そして昔からトスカーナ地方に自生し、数多くの香水の原料となってきたアイリス(ニオイアヤメ)が咲き乱れる姿だ。2018年に彼女が来日した際にも、この香水の色イメージはうす紫のアイリスと語っている。

歴史と文化が色濃く残る街フィレンツェ、そしてフィレンツェを代表する花アイリス。この2つにインスパイアされたベゼドフローレンスとは、どんな香りだろうか?

べゼドフローレンスを肌にのせる。その瞬間、まず立ち上ってくるのは、ドライなインセンスのベース香だ。と言っても日本の線香のような感じではない。まさに教会のエントランスをくぐり、うす暗く天上の高い身廊を歩き始めたときにどこからともなく香ってくるミステリアスな乳香の煙だ。すぐさまその上から少しくぐもった酸味のある樹脂香が広がってくる。これはミルラの香りだ。どちらも神の子イエスが誕生した際に東方の3賢者から贈られた品。まさにカトリック教会の大聖堂を思わせる香り。この2つが二重唱しながら広がってくるトップ。ドライかつバルサミックなオープニング。

2分もすると、ミルラのこんもりした酸味はややうすらぎ、乳香のスパイシーなエッジが立ってくる。さらに、乾いたお香の下からほんのりパウダリーな香りが立ち上ってくる。少し粉っぽくて、わずかに菫のメランコリックな気配を感じさせるアイリスの香りだ。割合でいうと、インセンス:アイリス=7:3くらい。そしてこのバランスを保ったまま、ミドルとなって香りが落ち着いてゆく。

持続時間は3〜5時間ほど。ラストはヘリオトロープの黄色い花粉系パウダリー感やヴァニラ感を醸し出しながらドライダウン。全体にオードパルファムにしては香り立ちが柔らかく、インセンス香もきつくはない。ただ、ミドルでフローラルがほぼ感じられないので、昨今のフルーティー香に慣れた日本の若い女性にはやや敬遠されるタイプの香りかもしれない。

ソニア自身のインタビューやブランドの紹介文を見ると、この香水には、夫婦でフィレンツェを訪れたソニアが、ご主人の粋な計らいで一面紫のアイリス畑を見せてもらったときの感動や、その際2人が感じた「永遠の愛」に対する思いが描かれているようだ。フィレンツェのキス。まさにそういう特別プライヴェートな時間から生まれた香りだったのだろう。

そのせいだろうか。

2021年秋、残念ながらこのベゼドフローレンスは廃番となってしまった。2人の特別な香りだからなのか、香料調達の関係なのか、はたまたセールス的な影響かはわからない。ただ、永遠の愛を謳った作品がなくなってしまったことはとても淋しい。ネットではまだいくらか買えるかもしれない。70mlボトル税込28600円。

永遠とは、一瞬一瞬の長い長い積み重ねだ。大聖堂は、人生の全てをかけて建築、細工、装飾を作り続けた人々が、何百年にもわたって悩みと焦りと不屈の闘志をリレーし続けて生まれた魂の集合建築体だ。ケン・フォレットの群像歴史小説「大聖堂」は、そうした事実をこれでもかとたたみかけてくる、人生でも10本の指に入るほど読み応えがあるすばらしい小説だった。

サンタマリア・デル・フィオーレ大聖堂は、何百年も未完成だった正面ファサードのデザインと建築が終了して完成したとき、600年という時間がたっていた。その完成の歓喜の一瞬のために、どれだけ多くの職人が命を削ってきたことだろう。どれだけ多くの大司祭が祈りを捧げたことだろう。

人は「一瞬」という時間の中に、永遠を感じることもあるのだ。

何百年にもわたって美の創造を重ね、進化し続けて完成した大聖堂。その壮大な時間を感じさせるインセンスの匂い。そして、郊外に広がる紫一面のアイリスの花畑から採れた根茎を何年も寝かせることで生まれる、魔法のように美しいパウダリー香。

今 この2つの香りが重なり合い、1つになる。

ベゼドフローレンス。そのキスは600年の時を越える。

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プロフィール
  • 年齢・・・58歳
  • 肌質・・・乾燥肌
  • 髪質・・・柔らかい
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  • 星座・・・山羊座
  • 血液型・・・O型
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  • 音楽鑑賞
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自己紹介

いつもご覧いただき、ありがとうございます。香水について細々とレビューしています。 最近はTwitterでも時折つぶやいています。香水好きな方がた… 続きをみる

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